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影との戦い/ゲド戦記 [児童書]


影との戦い―ゲド戦記〈1〉 (岩波少年文庫)

影との戦い―ゲド戦記〈1〉 (岩波少年文庫)

  • 作者: アーシュラ・K. ル=グウィン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/01/16
  • メディア: 単行本



 ファンタジー小説に出てくる魔法使い。「指輪物語」のガンダルフのイメージのせいか、おじいさんの格好をしている印象があるが、魔法使いの若いころはどんなだったろう? どんな経緯で魔法使いになったのだろう?

 「影との戦い」はアースシーと呼ばれる世界で、大賢人と呼ばれ、他の追随を許さなかった魔法使いゲドの若かりし頃の物語だ。ひとりの少年が、魔法使いになるまでの成長を描いている。

 魔法使いといっても、生まれながらに魔法を使えるわけではないらしい。ゲドも最初はただの少年だった。ところが、あるとき叔母が唱えた呪文の言葉を、意味も分からず真似て唱えたところ、なぜか羊が思い通りに動くのである。この呪文の効果に驚いたゲドは、魔法という世界に目覚めていく。

 もともと素質のよいゲドは魔法の技をみるみる吸収していく。魔法学校に入ると、どの生徒よりも優秀な魔法使いになっていく。

 この主人公が最初は何も知らない少年という設定がとてもいいと思う。何もないところから徐々にステップアップしていくので、読者としても不慣れな魔法の世界に少しずつ入り込むことができる。主人公と一緒に冒険していくワクワク感があるのだ。

 物語もけっこう起伏に富んている。大きな山になるのは、タイトルにもなっている影との戦いだ。ゲドは魔法学校の生徒と力比べをしている最中、相手の挑発に乗り、暴走して魔法を誤った形で使ってしまう。死の世界の扉を開いてしまい、邪悪な影が世界に解き放たれる。こうして、ゲドと影との間の追いつ追われつの戦いが始まる。

 とにかく読んでいて、リアリズムが凄い。現実には存在しない異世界を扱っているのに、本当にこんな世界があるんじゃないかと思えてくる。世界の中に入り込んでしまったかのような迫力。一度読み始めたら没入してしまうような本だった。
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民法はおもしろい [法律]


民法はおもしろい (講談社現代新書)

民法はおもしろい (講談社現代新書)

  • 作者: 池田 真朗
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/12/18
  • メディア: 新書



 日本の民法の起源をたどっていくと、1804年のフランス民法典、すなわちナポレオン法典に行きつくらしい。

 フランス革命までは、王様が様々な取引ルールを決めていたわけだが、ナポレオン法典以降は市民が王様の干渉を受けずに自分たちで自由に取引活動を行えるようになった。人々の自由な意思に基づいた契約を広く認めていこうとする「契約自由の原則」が生まれた。契約を結ぶのも自由、どのような内容の契約を結ぶのかも自由。市民を主体とする、自己決定、自己責任の世界の始まりだ。

 自由な意思ということが前提になっているから、自由な意思を阻害するような要因がある場合には、契約に拘束力を持たせるのは問題である。例えば、強迫や詐欺によって契約を強いられた場合には、自由な意思によって契約関係に入ったとは言えない。あるいは、未成年者や加齢で判断能力のない老人などは、自由な意思決定がそもそもできないかもしれない。このような場合には自己決定、自己責任とは言えないので、民法は自由な意思決定ができない場面を類型化して、契約の取消しを認めるなどの保護を与えている。

 契約自由の原則のもうひとつの問題点は、契約というのは必ずしも対等ではないということだ。個人と大企業との間には圧倒的に持っている知識・経験に差があるのが普通だろう。いくら通常の判断能力を持った大人であっても、圧倒的な情報量の差があっては公平な契約とはいいがたい。例えば、消費者が営業マンから、不利な重要事項について説明を受けずに勧誘された場合など、情報量の乏しい消費者を保護する必要がある。そこで、民法を補足する手段として、消費者契約法などの特別法が制定されて、個人の保護を図っている。

 かように、民法とか特別法とか、法律というのは試行錯誤の結果できているんだなということが分かる。「民法はおもしろい」という本を読むと、このあたりの民法の成り立ちとか意味について、丁寧に解きほぐすように書かれていてなかなか読みごたえがある。

 だいたい法律の本というのは退屈になりがちである。そもそもルールブックのようなものを面白く書くのは至難の業だろう。なのに、この「民法はおもしろい」という本は、どうやって法律を面白く伝えるかという困難に挑戦していてすごい。

 読んでみると、確かに面白く読める。これを読むと、法律というものが実は無味乾燥なものではなくて、法律の制定された背景にも実は人間のドラマがあったのかもしれないと思えてくる。民法をめぐって生じた様々な悲劇が紹介されていて、血の通った読み物になっていて、タイトル負けしない本だった。
タグ:池田真朗
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漂流記の魅力 [日本史]


漂流記の魅力 (新潮新書)

漂流記の魅力 (新潮新書)

  • 作者: 吉村 昭
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/04/10
  • メディア: 新書



 江戸時代に米などの荷物を運ぶのに、陸路で行くのは現代よりもずっと難しかった。

 何百頭もの馬が必要になるし、馬引きの人間も大勢ついていかなければならない。道も整備されておらず、険しい山や谷、川といった自然の難所を乗り越えていかなければならない。そのようなことは実現困難だった。

 そこで用いられたのが、船で荷を運ぶ方法である。例えば、新潟でとれた米を運ぶには、船に乗せ、陸地に沿って日本海を南下する。下関海峡をぬけて、瀬戸内海に入り、大阪や神戸に行く。その後、紀伊半島をまわって、遠州灘を経て、江戸湾に入る。こうした船による輸送が一般的だった。

 ところが、この航路も決して安全なものではなかった。瀬戸内海が穏やかな航路なのに対して、太平洋は危険海域だったのだ。いちばんの原因は黒潮と呼ばれる潮流である。いったんこの潮流に乗ると、ものすごい勢いで流されていく。潮流に流されまいと、岸沿いに進むのだが、岩礁が多いので巧みに避けていかなければならない。気象条件によっては海は荒れ狂い、海難事故が多発したという。

 「漂流記の魅力」という本には、こうした漂流者たちのエピソードがたくさん書かれている。大半の漂流船は食糧が尽きて、乗員は死んでしまうわけだが、中には異国の船に助けられる例もあったらしい。有名なのがジョン万次郎で、アメリカの捕鯨船に救助されて、当時としては珍しくアメリカを訪問している。

 ロシアを訪問した漂流船もある。若宮丸という船がそれで、仙台藩から米を乗せて江戸に向かう途中で海が荒れ、黒潮に流されてアリューシャン列島に漂着する。「漂流記の魅力」の大半はこの若宮丸の話で、ロシア人に助けられた彼らが、異国の地でさらなる困難に遭遇したことが書かれている。

 当時のロシアは日本と外交を開きたかったので、漂流者は貴重な存在だったらしい。日本語を教えてもらえるし、交渉のカードになるかもしれない。彼らは優遇され、中にはロシアに住み着いてしまう人もいたのだとか。当時のロシアの生活状況だとか、自然の厳しさだとか、知らないようなことがたくさん書かれていて読み応えがある。何より江戸時代の漂流者たちの記録がかなり詳細に残されていたということも知らなかったので、興味深かった。
タグ:吉村昭
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死体は嘘をつかない [医学]


死体は嘘をつかない (全米トップ検死医が語る死と真実)

死体は嘘をつかない (全米トップ検死医が語る死と真実)

  • 作者: ヴィンセント・ディ・マイオ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/01/31
  • メディア: 単行本



 アメリカのミステリードラマが好きで、「刑事コロンボ」「ペリーメイスン」にはじまり、「CSI」「ボーンズ」「トゥルーコーリング」など、テレビでやっているとつい見てしまう。

 こういうドラマに必ず出てくるのが、鑑識や検死医といった科学捜査の専門家。死体や犯行現場の状況から、素人には分からないような情報をあぶりだし、主人公の刑事に提供するという助っ人的な役割だ。

 ドラマでは最先端の科学が披露されることが多いので、さすがアメリカはちがうなあ、世界の先を行っているなあといつも感心させられていた。

 ところが、これが大きな勘違いだったらしい。アメリカの法医学の制度は、いまだに旧態依然としていて、未熟なところがあるそうなのだ。「死体は嘘をつかない」を読むと、そのあたりの状況が詳しく書かれている。

 アメリカには検死医制度と検死官制度という2種類の制度があるそうだ。検死医というのは、まさにドラマに出てくるような専門家なのだが、検死官というのは、選挙で選ばれた検死官が死体を扱うというもの。医師としての訓練を受けていない人がほとんどで、その多くは葬儀屋とか墓地の職員だったりする。法医学の知識を持っていない人が、変死事件を扱っているというのだ。

 アメリカでは検死官がいる地域のほうが検死医がいる地域よりも高いというから、アメリカの多くの地域で科学捜査のツールを有効活用できていないことになる。

 その結果何が起こるのかと言えば、殺人犯が罪を逃れてしまうということだったり、何の罪のない人が冤罪で捕まってしまうということだったりする。

 本書の中でも、冤罪の可能性のある事件がいくつも紹介されていて、アメリカの法医学制度の未熟さが様々な悲劇を生み出していることが見えてくる。検死医が科学的な手法を用いて、調査をやり直すことで、事件に新たな光が当たるといったドラマのような展開になることも。

 日本の法医学制度も不十分なところがあると指摘されているけれど、アメリカでも似たり寄ったりだったとは知らなかった。いい加減に捜査されてしまったのでは、死んだ人も浮かばれないし、間違えて捕まえられた人も人生台無しにされて可哀相だなあと思う。
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ジュリアス・シーザー [演劇]


ジュリアス・シーザー (光文社古典新訳文庫)

ジュリアス・シーザー (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/01/20
  • メディア: Kindle版



 紀元前1世紀の共和制末期ローマ、ポンペイウス、クラッススとともに三頭政治を行っていたジュリアス・シーザーは、ガリア(現在のフランス)遠征に赴くことになり、ガリア人(ケルト系)やゲルマン人といった外敵の平定に成功する。これによりシーザーの名声は一躍高まったが、ポンペイウスはシーザーの人気を警戒し、元老院と結託してシーザーを討伐しようとする。

 これを知ったシーザーは、ルビコン川を渡ってローマに進軍し、ポンペイウスらを追い詰めた。ポンペイウスは逃亡先のエジプトで死亡。クラッススも既に戦死していたので、シーザーに権力が集まることになる。

 ローマの独裁官に就任したシーザーは、元老院の権限縮小、ローマ市民権の拡大など、国家の改革を次々に実行していく。このままでは、全てシーザーの思うがまま。共和政は崩壊してしまう。元老院はそんな危機感を募らせていった……。

 シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」はこのような背景をもとに描かれた物語である。

 「ジュリアス・シーザー」というからシーザーが主人公なのかと思ったら、違った。むしろ、シーザーを暗殺しようとするグループを主人公にした陰謀劇だった。冒頭からシーザー暗殺計画の話し合いがあって、今でいうクライム・サスペンスのような趣がある。

 グループの中でもとくに際立った存在なのがブルータス。シーザーから息子のように目をかけられていた人物らしい。なのに、シーザー暗殺計画に加わることになってしまうところが謎である。

 シェイクスピアはブルータスはシーザーに対して個人的な恨みがあったわけではなく、ローマの民衆を独裁から守るため、公益のために暗殺に加わったのだとしている。大義のために友を裏切らなければならないブルータスの葛藤が、この物語の一番の見どころだ。

 暗殺には成功するが、ブルータスはその後、栄光を得られるわけでもない。むしろ、民衆のためにシーザーを暗殺したにもかかわらず、最後には民衆から反発を受けて死ぬことになってしまう。

 民衆の気まぐれと、運命の皮肉。ブルータスの悲劇性が印象的な作品だった。
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ゼロ時間へ [ミステリ(外国)]


ゼロ時間へ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

ゼロ時間へ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 作者: アガサ・クリスティー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/05/14
  • メディア: 文庫



 普通はミステリーというと、殺人事件が最初に起こって、そこからスタートして事件を捜査していく過程が描かれる。

 でも、クリスティーはこんなことを言っている。物語は事件が起こるはるか前から始まっているのではないかと。殺人というのはあくまでも結果であって、殺人に至るまでのドラマが重要なんじゃないかと。

 「ゼロ時間へ」はこのような考えに基づいて書かれた、実験的な作品だ。殺人が最初に起こるのではなく、最後の最後になってやっと起こる。それまでの間、中盤である事件も発生するのだけれど、200ページくらいまではひたすらメロドラマのようなものが続く。

 なかなか事件が起こらないので、つまらないのかなと思ったら、そんなことはなかった。男女の三角関係のドロドロが描かれていて、これが結構読ませるのである。ピリピリとした雰囲気で、何か起こるんじゃないかという予感がある。彼らはどうなってしまうんだろうと、つい続きが気になってしまう。

 すごいのは、単なるメロドラマだと思っていたものが、最後になってトリックの一部だったことが分かることである。普通に読むとこの人とこの人はこんな関係だよねと思ってしまうのだが、実は後になって全然違う関係性が見えてくる。クリスティーは読者にこんな筋書きだと思い込ませて、こっそりとあらぬ方向に誘導しているのだ。真相から目をそらすために。

 いろいろなミステリーを読んできたが、クリスティーほど誘導に長けた作家はいない。クリスティーの小説を読むと、いつもクリスティーの掌の上で転がされている気分になる。クリスティーのもくろみ通りに誘導されてしまうのが悔しいくらいだ。

 「ゼロ時間へ」はクリスティーの誘導の技術の醍醐味を味わえる作品で、二重三重にトリックが張り巡らされている。全然本筋と関係なさそうな警部の娘のエピソードとか、脇役の自殺志願者が助かるエピソードとかが、後から重要な役割を持っていたりするから侮れない。細かいところまできっちりと作り込まれていて、すごい作品だと思った。
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教養としてのローマ史の読み方 [世界史]


教養としての「ローマ史」の読み方

教養としての「ローマ史」の読み方

  • 作者: 本村 凌二
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2018/03/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 ローマ帝国は、紀元前8世紀から1200年間も続き、イタリアを中心に、地中海、イギリス、エジプト、中東まで領土を広げた。

 最盛期の5賢帝の時代は、パクス・ロマーナと呼ばれ、「世界史上でも人類がもっとも幸福で、繁栄した時代だった」などと称されることさえあった。

 そんな栄華を極めた巨大帝国が、どうして最後には崩壊するに至ったのだろう? 「教養としてのローマ史の読み方」という本を読むと、そのあたりの経緯が詳しく書かれている。

 終末期のローマ帝国は経済がかなり低迷していたらしい。ローマ帝国の経済は奴隷制度が基盤だった。奴隷がたくさん働くことで経済が回っていた。奴隷は戦争の捕虜という形で供給されることが多く、領土が拡張していた時期には奴隷を大勢確保できたが、拡張が止まると大きな戦争も少なくなり、奴隷供給が枯渇し、労働力が不足するようになった。

 軍費も嵩んでいた。ローマ帝国も広い領土を維持するためには、国境警備が欠かせない。異民族の侵入を防ぐために、属州に軍隊を駐屯させる必要があった。しかし、領土があまりにも広いせいで、その維持だけでもかなりの負担になる。おまけに属州が反乱を起こすこともあったりして、軍隊も疲弊していった。

 そこへもって、異民族の流入問題が起こる。中央アジアにいたフン族が寒冷化の影響で西に移動した。これに押し出される形で、ゲルマン人たちがローマ帝国内に大勢移動してきたのだ。ローマ帝国はこれをローマ軍に編入しようとしたが、待遇の違いだったり文化の違いだったりがあって、内紛になった。ただでさえ疲弊しているところへ、暴動が繰り返されて、ローマ帝国は衰退していく。

 ローマ帝国崩壊の経緯を読むと、領土というのもむやみに拡大すればいいというものでもなくて、拡大した領土の維持がかなりな負担になるんだなあということがよく分かる。

 人口減少や、経済の低迷、安全保障、移民の流入など、現代にも通じるような話でもある。昔から人類は同じような悩みを繰り返してきたのだ。ローマ史などというと、大昔の話で一見現代人とは関係が薄いようにも見えてしまうけれど、実はたくさん共通点があって、現代人が悩んでいたようなことを既に昔の人は経験し、いろいろな実験をしてきている。本書には、ローマ帝国が行ってきた様々な試行錯誤が紹介されていて、現代を生きる人々にとっても参考になる内容だった。
タグ:本村凌二
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宇宙に命はあるのか [地学]


宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八 (SB新書)

宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八 (SB新書)

  • 作者: 小野 雅裕
  • 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
  • 発売日: 2018/02/06
  • メディア: 新書



 「宇宙に命はあるのか」は宇宙探査の本。

 ロケットの開発、有人宇宙飛行、アポロ計画、火星探査、探査機ボイジャーなどといった宇宙探査の歴史の裏にあった、様々なドラマを紹介している。

 「地球から月へ」という小説を書いたジュール・ヴェルヌ、ロケットの父と呼ばれたロバート・ゴダード、ロケットの原理をまとめたヘルマン・オーベルト、世界初の弾道ミサイルを開発したフォン・ブラウン、アポロ計画を陰で支えたジョン・ハウボルト、マーガレット・ハミルトンなど、様々な人物が登場。人類の宇宙探査は、こうした人々の一人一人の夢と努力の結晶であることが分かる。入れ替わり立ち替わり、様々なドラマが描き出されていて、群像劇のような面白さがある。

 とくに興味深かったのは、フォン・ブラウンの話だ。フォン・ブラウンは天才科学者で、宇宙への夢を持ち続けた人だったが、ロケットの開発には莫大な資金が必要だった。彼は自らの夢を叶えるために、軍に協力することになる。悪名高いアドルフ・ヒトラーに。

 それは悪魔に魂を売るようなものだった。フォン・ブラウンの開発したV2ロケットには爆弾が積まれ、イギリスやベルギーめがけて発射され、大勢の命を奪うことになる。

 ヒトラーに協力していたとはいえ、彼の技術は他に類を見ないものだったから、戦争が終わったときにアメリカは彼の技術を欲しがった。彼はアメリカに渡り、その後はソ連との宇宙開発競争で活躍していくことになる。

 フォン・ブラウンの話を読むと、宇宙開発の技術は軍事技術と密接につながっている、ということがよく分かる。夢の技術の裏にも恐ろしい歴史があることが見えてくる。

 これまでの宇宙探査の歴史を振り返るだけでなく、これから行うであろう宇宙探査の構想についても触れられている。火星への有人飛行、木星の衛星エウロパに広がる海の調査、さらには太陽系から最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリへ……。

 この本を読むと、人類の宇宙探査の歴史はまだまだ始まったばかりだということがよく分かる。長らく人類は孤独だと思われてきたが、最近の観測結果から、ハビタブル・プラネットがたくさんあることが分かってきた。ひょっとしたら、広い宇宙には知的生命体がごまんといるのかもしれない。これから探査を続けていけば、どんどん新しい知識も入ってくるし、常識も覆されていくだろう。夢が広がっていくような感覚をもった。
タグ:小野雅裕
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西洋美術史 [美術]


世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」

世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」

  • 作者: 木村 泰司
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2017/10/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 美術館に行ったときに、きれいな絵だなあという感動はするものの、何を描いているのかよく分からないということはよくある。

 西洋美術で多く描かれる主題は、キリスト教の物語だったり、西洋の歴史だったりする。日本人にはもともと馴染みのない世界だ。だから、西洋の歴史や宗教を学んでおかないと、美術もなんだかよく分からないということになる。

 作品の主題だけでなく、絵の描き方も時代によって流行がある。写実的に描くとか、重々しく描くとか、色彩を重視するとか。こういう流行もその時代の世界情勢に影響されて出てくるものなので、その意味でも美術を楽しむには歴史を学ぶことが重要だろう。

 この点、「西洋美術史」という本は、美術と歴史の関係を学ぶのにちょうどいい本である。名画がどのような時代に描かれたのか、その背景をきちんと描いている。記述があまり重たすぎず、サクサク読めるところがいい。ざっくりと要点をつかむのにちょうどいい分量なのだ。

 この本を読んで新しい発見もたくさんあった。例えば、クールベ。西洋美術というと、ローマ帝国の時代から神話、宗教、歴史、肖像画が主題になることが多かった。17世紀には絵画のジャンルのヒエラルキーというものまで作られて、歴史画が最も価値が高いとされた。

 ところが、ナポレオン3世の第2帝政時代に、クールベという画家が現れる。クールベは、誰も見たことのない歴史や宗教を描くのではなく、身近な労働者階級のリアリズムを描いた。これは長い西洋美術の歴史の中でも革新的なことで、当時は一大スキャンダルにまでなったらしい。

 クールベ、なんだか地味な絵を描く人だなあと思っていたが、美術史の中でもとても重要なキーパーソンだったのだ。
 
 それぞれの画家がどんな人でどんな生活を送っていたのかということまで書いてあって、いろいろな人間ドラマがあることも分かって興味深かった。記述はあっさりしているけれど、この本を入り口により詳しい解説書などを手にすれば、知識が広がっていくのではないだろうか。
タグ:木村奏司
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ゲームの達人 [ミステリ(外国)]


ゲームの達人(上)

ゲームの達人(上)

  • 作者: シドニィ シェルダン
  • 出版社/メーカー: アカデミー出版
  • 発売日: 2010/09/10
  • メディア: 単行本



 「ゲームの達人」は、ある一族の4世代にわたる大河的な物語。

 1代目は、スコットランド出身のジェミー・マクレガー。金持ちになりたい一心で、南アフリカにやってきた純真な青年。19世紀当時の南アフリカは、ダイヤモンド発見のニュースに沸いて、一獲千金を夢見る者たちが続々と吸い寄せられていった時代だった。

 荒野をさまよい、何度も死にそうな目に遭いながらも、ようやくダイヤモンドを発見したジェミーだったが、地元を牛耳る悪徳商人ヴァンダミヤに騙され、ダイヤを根こそぎ奪い取られたうえ、半殺しの目にあってしまう。ここからジェミーの復讐劇の幕が上がることに……。

 2代目は、ジェミーの娘ケイト。駆け引きの才能を持って生まれた彼女は、とことん勝ち抜くことが生きがい。父親の残した財産と会社を最大限に活用して、世界有数の企業グループにまで成長させていく。

 ところが、ケイトにも弱みがあって、デビッドという青年の愛情がほしいのに、まるで振り向いてもらえない。ライバルの女性まで現れて、ピンチに陥ったケイトだったが、ここでも驚くべき駆け引きの才能が発揮されて……。

 3代目は、ケイトの息子トニー。ケイトの作り上げた巨大企業集団の御曹司でありながら、会社経営にまるで関心がなく、絵を描いて生きていくのが夢。

 自分のあとを継がせたいケイトとの間で確執が生まれ、事態は思わぬ方向に進む……。

 4代目は、トニーの双子の娘イヴとアレクサンドラ。絶世の美女として瓜二つに生まれたふたりだったが、性格は真逆だった。ひたすら姉を慕うアレクサンドラに対して、イヴは妹を嫌った。何でも独り占めしたいイヴにとって、アレクサンドラは邪魔者でしかない。

 一族の莫大な財産を手に入れるため、イヴはアレクサンドラを殺害する計画を立てることに……。

 「ゲームの達人」というタイトルの通り、登場人物たちはまるでゲームのように駆け引きを行い、他人を陥れてでも自分の欲望を貫こうとする。勝つための騙し合いも行われて、次々に起こるどんでん返しには仰天させられた。

 とにかく登場人物が本物みたいに生き生きと描かれているし、次々に驚愕の展開が待っているので、ハラハラドキドキで、読んでいて続きが気になって仕方がない。宣伝文句にある通り、ページを開いたが最後、読みふけってしまう。

 これまでいくつかシドニイ・シェルダンの本は読んできたが、これは最高傑作ではないか? 世界中のいろんなミステリー作品の中でも、トップランクに入るだろう。こんなに面白い本を今まで読んでなかったとは、我ながら不覚である。シドニイ・シェルダはもっと評価されてもいい作家なんじゃないかなあと思う。
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