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ハロウィーンがやってきた [児童書]


ハロウィーンがやってきた (ベスト版 文学のおくりもの)

ハロウィーンがやってきた (ベスト版 文学のおくりもの)

  • 作者: レイ ブラッドベリ
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 1997/10/01
  • メディア: 単行本



 日本でもハロウィンの季節になると、飾り付けをしたり、仮装したりする習慣が生まれているけれど、そもそもハロウィンって何の祭りなんだろう?

 レイ・ブラッドベリの「ハロウィーンがやってきた」を読むと、ハロウィンの伝統についてよく分かる。子供向けに書かれた本で、ハロウィンにまつわる冒険を繰り広げる話だ。

 少年たちの大好きなハロウィンの日、ピプキンという少年が失踪する。友人を探すうちに、少年たちはとある屋敷にたどりつき、そこで謎の幽霊に出くわす。幽霊はピプキンが死神に連れ去られたと告げる。少年たちはピプキンを救い出すために、時空を超えた旅へと向かう。

 少年たちの旅するのは、ハロウィンに関係する時代だ。オシリスを祭る古代エジプト、ドルイド僧のいる古代ケルト、ドルイドたちを滅亡させたローマ、先祖の霊を敬うメキシコ。

 旅を進めるうちに、少年たちは知ることになる。ハロウィンのルーツはどこにあるのか、なぜハロウィンには骸骨やらミイラや魔女が出てくるのかを。

 ハロウィンというのは死者の霊を迎える日ということらしい。日本のお盆みたいなものか。

 ハロウィンの習慣は、ドルイド教を信じていた古代ケルトの時代に始まった。古代ケルトでは10月31日が1年の終わりとされ、「死者の日」と呼ばれ、死者の霊が訪れると信じられていた。霊の中には悪霊も混じっていて、いたずらしたり、ピプキンのように連れ去られてしまうとも言われた。そのため、人々は自らお化けやミイラの格好をして、悪霊の目を欺いて連れ去られないようにする習慣が生まれた。

 ローマ帝国がイギリスに侵攻すると、ドルイド教は滅ぼされてしまった。ローマ帝国は自分たちの宗教を信じていたが、ハロウィンの習慣はキリスト教とも融合して、引き継がれていくことになる。

 ハロウィンの習慣は残ったものの、だんだんと宗教性は失われていったらしい。本書の舞台になっているアメリカのイリノイ州にもハロウィンは引き継がれたが、ただの子供の祭りになっていて、子供たちもハロウィンの意味や由来が何なのか知らないという場面が出てくる。

 日本にもハロウィンの習慣が持ち込まれて、なんだか節操がないなあと感じていたが、本場のアメリカやイギリスの子供たちでさえ、ハロウィンの意味を知らなかったり、死者を敬うことをしておらず、形式的な祭りになっているというのは知らなかった。日本の若者を責めるわけにもいくまいと、本書を読んで考えを改めることにした。
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007/逆襲のトリガー [ミステリ(外国)]


007 逆襲のトリガー

007 逆襲のトリガー

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/03/24
  • メディア: 単行本



 冒険活劇の基本は、「泥棒もの」なのではないだろうか。

 冒険活劇の主人公は、何かの宝物を追いかけるものだ。怪盗ルパンしかり、インディ・ジョーンズしかり。宝物は文字通りの金銀財宝のこともあれば、聖杯や魔法の剣、幽閉された少女といった場合もある。

 こうした宝物はたいてい厳重なセキュリティに守られている。宝物が簡単に手に入ってしまったのでは、冒険にはなりえない。宝物が鉄壁の要塞に守られているからこそ、話は面白くなる。要塞に侵入して、宝物を盗み出して、脱出する。これが冒険活劇の基本なのだ。

 トレジャー・ハンターは墓泥棒だし、ファンタジーに出てくる勇者はドラゴンから宝物を奪い取る。スターウォーズの主人公は帝国軍にもぐりこんでデス・スターの情報を盗む。どうやら面白い冒険ものは、自然と「泥棒もの」になってしまうようだ。

 スパイの出てくる話も、「泥棒もの」の一種と言えるだろう。スパイが敵国に侵入して機密を盗み出す話が多いからだ。

 「007/逆襲のトリガー」を読みながらそんなことを考えた。この話も立派な「泥棒もの」である。ジェームズ・ボンドが悪役の要塞に侵入する場面が、何度も繰り返される。

 ソ連が陰謀をもくろんんでいることを察知した英国諜報部が、ジェームズ・ボンドに危険を阻止するよう指令する。ボンドは陰謀と関わりのある、韓国人実業家シン・ジェソンの所有する城や施設に潜入捜査をすることに。

 もちろん、要塞への侵入はたやすいことではない。厳重な警備にがっちりと守られていて、捕まれば死が待ちかまえている。どうやって情報を手に入れるのかが見ものだし、危機一髪の場面が何度も出てきて、手に汗握る。まさにこれぞ007という感じ。面白かった。

 007の小説はいろいろな作家が書いているけれども、今回のこの「007/逆襲のトリガー」が一番面白かった。前回のジェフリー・ディーバーのものより、オリジナル版の007のイメージに近い。舞台が現代ではなく、オリジナルと同じく冷戦時代に持ってきたところもオールドファンには嬉しかった。作者のアンソニー・ホロヴィッツが、007の生みの親イアン・フレミングの残したプロットに触発されて書いたということも関係しているのだろう。

 イアン・フレミング財団も出来栄えに満足したようで、アンソニー・ホロヴィッツに2作目を依頼したとのこと。今度はどんなものを盗み出すのだろうと思うと、今から楽しみだ。
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憲法で読むアメリカ史 [法律]


憲法で読むアメリカ史(全) (ちくま学芸文庫)

憲法で読むアメリカ史(全) (ちくま学芸文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2013/11/06
  • メディア: Kindle版



 イギリスから独立した当時のアメリカは、今とは政治体制が違っていた。各州がゆるやかに連合していただけで、それぞれの州が主権国家と言えた。

 これらの州が強固な統一政府を築くようになったのは、ゆるやかな連合の形では問題があったからだ。例えば、独立を果たしたはいいが、各州が独立して政策を決めていたので、各州は自分たちに有利な関税をかけようとした。州間で摩擦が生じ、通商活動が阻害されるようになった。

 州よりも大きな権限を持った組織が存在しないため、各州が問題を起こしても正すこともできなかった。独立戦争の戦費を支払わない州があっても、税を強制的に徴収することはできなかった。裁判所の判断を無視する州があっても、何も言えなかった。

 イギリスから独立したら、かえって通商関係がこじれたり、州内で暴動さえ起こるようになった。これはどうにかして解決しなければということで、各州がまとまって統一国家を作り上げようという動きが生まれた。こうして、1787年のフィラデルフィアで、憲法制定会議が幕を開けることになる。

 今の政治体制に落ち着くまでには議論がかなり紛糾したらしい。もともと独立心の強い人たちなのだ。連邦政府などを作り上げたら、各州の権限は当然弱まり、規制によって自由を奪われてしまう。州権論者は強い危機感を覚え、反対する。

 日本のような単一政府の中央集権国家にしようという考えもあったようだが、結局は今のような、連邦政府は存在するものの、州の力も強く残した形に落ち着いた。

 合衆国が誕生したら、すべてがうまくいったかと言えばそんなことはない。州権論者が懸念していたように、今度は、連邦政府が人々の自由を奪うようなケースも出てきてしまう。問題は次々に生じた。チェロキー族の迫害、黒人への差別、禁酒法、日系人の強制収容、冷戦下の赤狩りなど……。

 アメリカが素晴らしいなと思えるところは、いろいろ問題は多いながらも、問題が生じるたびに憲法の議論が活発に行われるところ。裁判所も憲法違反かどうかの判断を積極的に行い、結果的に国の在り方がどんどん変化していくところだ。主体的にみんなで国を作っていくダイナミックさがある。

 大統領や議会が強大な権限を持っているとはいえ、国家が個人の人権を侵害して問題があるとなれば裁判所がちゃんと動いて、止めようとする動きが出てくる。三権分立が機能しているところは清々しい。

 ひるがえって、日本は憲法が議論になるといっても9条の解釈くらいだし、裁判所も違憲判断には及び腰。三権分立の意味があるのかとか、なんのための憲法や裁判所なのかと思ってしまう。もっと三権の間で緊迫した議論や対立があってしかるべきなんじゃないのか。なんだか生ぬるくてつまらない。

 本書はアメリカの歴史と憲法の関係をとても詳しく書いた本で、アメリカの歴史が憲法の議論とともに歩んできたことがよく分かる内容だ。国家というものはこういうふうにして創られていくのかということが見えてきて、とても興味深かった。
タグ:阿川尚之
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黒い迷宮 [犯罪]


黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実

黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実

  • 作者: リチャード ロイド パリー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/04/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 2000年7月、元英国航空の客室乗務員のルーシー・ブラックマンは、日本に渡来して六本木のホステスとして働いていた。ある日、彼女は同じく日本で働いていた親友に電話を残したのを最後に、消息を絶つ。

 日本で起きた謎の事件の全貌を描いたノンフィクション。

 ルーシー事件についてはうすぼんやりとしか覚えていなかったので、ほとんど知らないことばかりだった。何で日本に来ることになったんだろうとか、何でホステスをしていたのだろうとか、捜査はどんな経過をたどったのかとか、とても詳しく書かれている。

 一番の読みどころは、事件のことを追いかけていくうちに、背景にある日本社会の実像があぶり出されていくところ。読んでいくと、ルーシーが働いていたホステス業界の仕組み、六本木に住む人々の生態、日本の警察や裁判所の特異性などがだんだん見えてくるのだ。圧倒的な取材力で、日本の社会の裏側を描き出していく。日本に住んでいても知らないようなことまで、詳細に描かれているところが見事。

 書いているのがイギリス人ジャーナリストというのが特徴だろう。外国人の目から見た日本の姿はとても奇妙な世界に映るらしい。日本では常識的なことでも、外国人からしたら普通ではないことがたくさんあることが分かって興味深い。

 被害者の人生についても詳しく書かれていて、希望や不安が入り混じった気持ちで日本にやってきたことが分かる。こんな人だったのかと読んでいて身近に感じられただけに、おぞましい事件に巻き込まれていく経緯がとてもショックでやるせなかった。
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芸能人はなぜ干されるのか? [法律]


増補新版 芸能人はなぜ干されるのか

増補新版 芸能人はなぜ干されるのか

  • 作者: 星野 陽平
  • 出版社/メーカー: 鹿砦社
  • 発売日: 2016/09/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 SMAPや能年玲奈、清水富美加など、芸能人が事務所ともめて独立するという話は、ニュースなどでよく聞く。こうした芸能界トラブルの背景は、一体どうなっているんだろう?

 「芸能人はなぜ干されるのか?」を読むと、この辺りの事情が詳しく描かれていて、たいへん分かりやすい。鈴木あみ、セイン・カミユ、水野美紀、眞鍋かをり、沢尻エリカ等、所属事務所ともめた芸能人たちの顛末が具体的に描かれている。

 芸能人がもめている背景は何なのかなあと思っていたが、本書に掲載されていた契約書を見て、なんとなく事情が見えてきた。

 芸能人は芸能事務所に入るときに、専属契約を締結するのが一般的だ。この契約書を読むと、契約条件が芸能人にかなり不利な内容になっていることが分かる。例えば、一切の芸能活動には事務所の許可が必要だし、出演の権利や肖像権なども事務所に好都合になっている。

 とくに訴訟などでもめるのは、契約解除についてだろう。一般的な雇用契約であれば、労働者が退職しやすいルールになっているが、芸能事務所は多額の先行投資をしているのに、勝手に独立されたらたまったものではない。雇用契約とは異なる特殊な契約なのだから、途中解約は認めないと主張する。

 芸能事務所の言うように、途中解約が認められないとしたらどうなるだろう? 芸能人は最初に取り決めたわずかな報酬のみで、期間満了まで事務所にこき使われなければならないということになる。どんなにヒットを飛ばして、稼ぎ頭になったとしても、ほとんどの取り分は事務所に持っていかれてしまう。これでは納得できないのも当然だろう。

 実際には裁判では芸能人が勝訴して、契約解除が認められることが多いようだ。だが、そこから先が問題である。芸能人が独立して別の事務所に簡単に入れるかというと、そうではない。業界同士のつながりは強く、事務所を辞めた芸能人を雇うのはタブーになっているし、放送局や雑誌もそうした芸能人を排斥するのが慣例。徹底的につるし上げられた芸能人は、芸能界から追放されてしまう。

 結果的に、芸能人は事務所から独立することが怖くてできなくなる。ろくに睡眠もとれず朝から晩までこき使われ、私生活まで制限される。夢を追いかけたい気持ちにつけこんで、まるで奴隷のような扱いを受けているらしいのだ。

 こんなことは誰でも知っていることなのかもしれないが、芸能界に疎いので知らなかった。結構えげつないことがたくさん書かれていて、芸能界はこんなに酷いところかと読んでいてショックなほどである。

 最近ではよい流れも出てきている。日本でもハリウッドのように芸能人の労働組合を作ってはどうかという動きがあるし、不平等な契約が独占禁止法に違反するのではないかということで、公正取引委員会も動き始めている。また芸能事務所やテレビ業界に頼らない、インターネットを利用した活動の場というのも増えてきている。

 それにしても、電通といい、アニメ業界といい、外国人労働者といい、芸能事務所といい、日本の労働社会は知れば知るほど闇が広がっているのを感じる。日本って人権意識が低すぎるよなあ。一体どこか先進国なのやら。
タグ:星野陽平
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引き潮 [文学]





 ロバート・ルイス・スティーヴンスンといえば、まず「宝島」が頭に浮かぶ。帆船や海賊の出てくる海洋文学の金字塔だが、そんな彼が「引き潮」という本を書いていたことは知らなかった。これまた南太平洋を舞台にした海洋文学である。

 物語はタヒチの浜辺から始まる。島の外から流れ着いた3人の男が、仕事にあぶれ、どん底の生活を送っている。着ている服は薄っぺらなボロだし、食べるものにもろくにありつけず、始終腹を空かせている。

 彼らも生まれながらに最低な生活を送っていたわけではない。へリックはもともとオックスフォード大学出のエリートだった。しかし、学問を重んじるあまり、実際的な仕事に対して軽蔑の念しか感じられず、仕事に就いてからは失敗続き。どこに雇われても長続きせず、首になることしばしば。どこにも行き場がなく、最後にたどり着いたのが南太平洋への航路だった。

 デイヴィスは商船の元船長という立派な経歴の持ち主。しかし、酒癖が悪く、航海中にまで浴びるように酒を飲む始末。酔いつぶれている間に、船が座礁し、死者まで出してしまう。

 それからロンドンの下町生まれのヒュイッシュという謎の男。

 この3人がその日暮らしをしているところにチャンスが到来する。天然痘で乗組員を失った商船の船員として雇われることになったのだ。積み荷のシャンペンをシドニーまで運ぶという仕事だ。

 だが、3人には別の計画があった。船ごと奪い取ってペルーまで行き、積み荷を自ら売りさばこうという企み。もちろん犯罪行為だが、もはや他に道はない。こうして、3人の男たちの再起をかけた冒険の幕が上がる。

 あらすじだけ読むと、痛快な冒険談でも始まるのかと思ったが、読んでみたら意外とブラックな内容。同じスティーヴンスンでも「宝島」よりも「ジキル博士とハイド氏」に近い。

 一蓮托生のはずの3人の間に不穏な空気が流れ、お互いを信用できなくなる。船という密閉空間でどんどん険悪になっていく……。

 そうこうするうちに、登場人物たちの犯罪的な思惑が、どんどんエスカレートしていって歯止めが利かなくなる。人間もとことん追い詰められると、自らの欲望の赴くまま。倫理観や宗教心という大事ななにかがいつの間にかぷつんと途切れてしまう。人間の古来持っている残虐性が浮き彫りになる経過を描いていて、なんとも不気味だ。

 欲望と倫理観の間で葛藤する姿が印象的な作品で、「ジキル博士とハイド氏」と同じく人間の二重性がテーマになっていると思う。

 ユーモラスな娯楽小説かと思って読んだら、実際には毒のあるおぞましい作品で、なんとも味わい深い読書体験であった。
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第三の時効 [ミステリ(日本)]





 横山秀夫の「第三の時効」を読んだ。

 警察内部の世界観が詳細に書かれていて、圧倒的な情報量に驚かされる。事件が起きたときの警察の動きとか、同じ捜査一課の中で班同士が競争している様子だとか、とにかく臨場感がすごい。刑事たちがどんなことを考え、どんなことに悩むのかという心理面まで押さえている。

 よほど取材していないと、こんなに詳しく書けないだろう。まさに努力のたまもの。この世界観を読むだけでも価値のある本だと言える。

 世界観だけでなく、話自体もめっぽう面白い。本書は短編集だが、ひとつひとつのストーリーが、ミステリーとして実によくできている。

 こういうことだろうと思わせておいて、最後にひっくり返される。どの作品もひねりが効いているところがよかった。

 横山秀夫のものは、映画で話題になった「64」くらいしか読んだことなかったので、この本を読んでがつんとやられた感じがした。他の短編集もぜひ読んでみたい。
タグ:横山秀夫
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時間の砂 [ミステリ(外国)]


時間の砂〈上〉

時間の砂〈上〉

  • 作者: シドニイ シェルダン
  • 出版社/メーカー: アカデミー出版サービス
  • 発売日: 1989/10
  • メディア: 単行本



 シドニイ・シェルダンの「時間の砂」は、スペインのテロリストと4人の修道女の逃走劇。スペインのバスク紛争を題材にした作品だ。

 スペインには昔からバスク人と呼ばれる少数民族が住んでいて、独自の文化と言語を持っていた。しかし、フランコ独裁政権下で弾圧を受け、バスク語の使用も禁じられてしまう。

 バスク人の急先鋒は、スペインからの分離・独立を目指す活動を始めた。実力行使集団ETA(バスク祖国と自由)を組織すると、1960年頃から、爆弾テロや政府要人の暗殺などを引き起こすようになる。

 本書はこのような時代背景をもとに、ETAのテロリストとスペイン警察の戦いを描いている。テロリストとして登場するのは、カリスマ的な存在にあるハイメ・ミロ。彼は刑務所から脱獄し、逃走する。その道すがらで、4人の修道女が巻き込まれてしまい、テロリストとともに行動せざるを得なくなる。

 シドニイ・シェルダンのいつもながらのハラハラドキドキのストーリーテリングが見もの。長年修道院という狭い世界で暮らしてきた4人の修道女が、突然広い世界に放り込まれ、しかも次から次に思わぬ危機が迫ってくるという状況。どうやって壁を乗り越えていくのかを見るのが面白い。

 4人の修道女の視点が次々に切り替わる形で話が進行するのだが、上手いのは、それぞれの修道女があわや危機一髪という状況に陥ると、絶妙なタイミングで視点が切り替わるのである。この修道女どうなっちゃうんだろうというペンディングの状態のままで、次の修道女の話が始まり、今度はその修道女が危機一髪になると、また視点が切り替わる。基本この繰り返し。

 このサスペンス手法にまんまと嵌って、読んでいて続きはどうなるんだろうと、気になって仕方がない。シドニイ・シェルダンの真骨頂を見た気がした。

 スペインのバスク紛争とか、読んでいていろいろ社会勉強にもなるところもよかった。
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流星の絆 [ミステリ(日本)]


流星の絆 (講談社文庫)

流星の絆 (講談社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/04/15
  • メディア: 文庫



 「迷宮入りになった事件を解決する」といったタイプのミステリーが好きである。

 10年以上も前の事件をどうやって解決するのか? 不可能に挑戦する面白さがある。

 10年も経てば証拠も失われてしまうだろうし、周辺の人間の記憶も薄れてしまう。仮に犯人が見つかったとしても、裏付けをとることができない。ということは、犯人を罰することもできないということ。何とも言えないもどかしさがある。

 東野圭吾の「流星の絆」も、そんな迷宮入り事件を解決する作品だった。

 14年前に起きた洋食屋の店主夫妻が殺害された事件。両親を殺された三兄妹が、犯人を見つけ出して復讐を果たそうとする。

 この作品でも、かなり早い段階で犯人らしい人物が登場するのだが、いかんせん証拠がない。14年前に目撃した犯人の顔にそっくりという事実はあるのだが、それだけでは決め手にならないのだ。

 では、どうやって犯人を罰するのか? というところが、本書の見どころである。まあ、結構違法なことをやるわけなんだけれど、こういう汚い手があるのかとなかなか興味深い。

 ミステリーによっては、たいした裏付けもないのに、突然犯人が自白して解決してしまうものもあるから、そういうたぐいの話に比べると、読みごたえはあると思う。
タグ:東野圭吾
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殿さまの日 [歴史小説(日本)]


殿さまの日(新潮文庫)

殿さまの日(新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • メディア: Kindle版



 星新一というとSFショートショートが有名だが、「殿さまの日」という本には、江戸時代を舞台にした作品が収められている。どれもショートショートではなく、結構長さのある短編だ。

 題材は多岐にわたっている。殿さまの生活、敵討ち、生類憐れみの令、ねずみ小僧、藩医、忠臣蔵、書物奉行などなど。

 様々な階級の主人公が出てきて、さながら架空の人物伝といった趣。かなり詳しく当時の研究をしたようで、江戸時代の人々はこんな生活をしていたのかというのが垣間見えて、興味深かった。

 表題作の「殿さまの日」は、ある藩の殿さまの苦労を描いた話。江戸時代の殿さまも、平和な時代だったとはいえ、結構悩みが多かったようだ。悩みと言っても戦の悩みではなく、藩の経営の悩み。江戸城の修繕費の捻出を命じられたり、参勤交代にお金がかかったりと、出費がかさんだらしい。収入は年貢頼みだったが、年貢を上げてしまうと農民が逃げ出してしまったり、一揆が起きたりしてしまう。財政を健全化するのが大変だったのだ。

 他にも、「元禄お犬さわぎ」は悪法と言われる将軍綱吉の生類憐れみの令を逆手にとって、一儲けしようという男たちの企み。「藩医三代記」は西洋科学の普及していない時代の医者が、毒草やまじないの知識を活用して、のし上がっていく話。「紙の城」は偽造文書作りの才能に恵まれた男が、周囲を騙していく話。

 こうして読むと、商売っ気のある主人公がうまく立ち回って、ひと儲けする話が多い。江戸時代を舞台にしたビジネス小説とも言えるんじゃないだろうか。

 星新一らしいところもあって、話の展開がストレートには行かない。どの作品も最後に皮肉な結末が待っていて、思わずにやりとさせられる。こういうところはいつもの星新一だなと安心して読めた。
タグ:星新一
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