So-net無料ブログ作成
検索選択

人類が火星に移住する日 [地学]





 火星は荒れ果てた、アメリカのデスバレーそっくりの場所だという。生命反応は皆無だし、食料になるようなものは何もない。人間が吸うだけの酸素すらない。かろうじて、水は存在するが、地中に埋もれているか極地で凍りついているのみ。

 とうてい人間を寄せ付けない場所、それが火星。にもかかわらず、その火星に住んでしまおうという途方もない計画がある。火星テラフォーミング計画だ。

 テラフォーミングというのは、火星を地球化するという意味。地球環境そっくりの状態を火星に作り出してしまおうというもの。水を取り出せる状態にし、大気の状態も地球の組成と同じにする。植物を育てて、森を作り、虫や獣が住めるようにする。

 「そんなことできるの?」という当然の疑問が沸いてくるだろうけれど、理論的には可能なのだ。それが本書「人類が火星に移住する日」に書かれているテーマである。

 火星に移住するにはたくさんのハードルがある。上記の水・酸素・食料の問題のほかにも、そもそも火星まで行くのに時間がかかりすぎるし、有害な放射線が宇宙から降り注いでもいる。

 だけど、こうした問題点を科学的に解決する方法はある。太陽熱を利用して火星に眠る水や空気を活用する方法があるし、火星までの旅程を短縮するための新たなロケットエンジンの案もある。有害な放射線を遮断するアイデアも出てきている。

 最初から火星全部をテラフォーミングすることは難しいので、最初はドーム型の居住地を作って、ドーム内だけを地球環境そっくりにするというやり方もある。

 本書の中には、そんなテラフォーミングのためのアイデアが豊富に描かれている。今まで類書を何冊か読んだけれど、こんなに詳しく解説されているものはないだろう。イラストなども多く載せられているので、イメージもしやすい。

 今はまだ人の住む場所とは思えないような星だが、そのうちに人類は火星に住み着くようになるだろう。世代交代が繰り返され、火星で生まれる子供というのも出てくるにちがいない。その子供たちはやがて、地球からの独立を果たし、火星国家を作るのだ。

 火星の植民地化、火星国家の誕生、地球と火星との交流、火星独立戦争……。SFの世界のように思えることが、ひょっとしたらすぐ目の前に迫っているのかもしれない。本書を読んでいたら、本当にそう思えてきた。
nice!(10)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

世界はなぜ月をめざすのか [地学]


世界はなぜ月をめざすのか (ブルーバックス)

世界はなぜ月をめざすのか (ブルーバックス)




 アポロ計画終了から40年が経ち、月に対する人々の関心も薄らいでいったように見える。

 しかし、最近になって、再度月に関心が集まり始めているんだそうだ。各国は月にロケットを飛ばし、探査車を送り込んだり、人工衛星で観測したりしているのだとか。

 技術の進歩によって、月に行きやすくなったというのもあるし、月にいくつか資源があることが分かったからというのも理由の一つだ。

 アメリカなどは一足先に月の権利を手に入れようと奮闘しているし、他国も負けじとその後を追う。月を舞台に熾烈な競争が繰り広げられ始めているらしい。

 月と言えば、SF作家のロバート・A・ハインラインを思い出す。ハインラインは、月世界を舞台にした作品をいくつも残していた。月面にルナ・シティと呼ばれる月面都市が作られ、そこを舞台に様々な冒険が展開するといった物語だった。

 そんなわくわくするような世界が本当にやってくるのかもしれない。本書を読んで、現実がSFに追いつく瞬間を目撃しているようで驚かされた。

 もし現実に月面に基地を作るとなれば、どんなイメージになるだろう? 月には大気がないので、隕石が大気による減速なしにもろに降り注いでしまう。また、宇宙からやってくる人体に有害な放射線も大気が遮断してくれるわけでもない。

 地表に基地を作るには危険がたくさんあるので、地下の溶岩洞を改造してモグラのように住み着くことになるのではないか? そうすれば、分厚い地殻が隕石や放射線の危害から守ってくれる。人々は必要に応じて外に出て、天体観測や宇宙実験、資源の開発に取り組むことになるのだろう。

 月面への探査はほかの惑星探査への足がかりに過ぎないともいえる。月面基地の次は火星に行って、火星に基地が作られることになるだろう。その後は、木星や土星への探検だ。

 月に世界各国がこぞって進出しているというのは朗報だと思う。ルナ・シティが本当に見られる日が来るのかもしれないと思うと、なんとも夢のある話ではないか。
タグ:佐伯和人
nice!(10)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

気象学入門 [地学]





 さまざまな気象のしくみを解説したブルーバックスの本。

 雲はどのようにしてできるのか? ジェット気流って何? 台風はどうやって発達するの? 気温の変化はどのようにして起こるの?

 本書ではこうした日常の数々の疑問に答えてくれている。一読して、自然現象について「どういう仕組みでこういう現象が起こるのか?」というメカニズムの解説が本当にわかりやすい。現象が起こるまでのロジックが丁寧に詰められている感じ。

 「雲のしくみ」「雨と雪のしくみ」「気温のしくみ」「気温のしくみ」「台風のしくみ」などと章ごとにテーマが変わるところも読みやすかった。

 わかりやすいと言っても、子供向けの本というわけではなくて、グラフや数字、天気図などが駆使されていて、本格的に気象を勉強するのにも役に立つのではないかと思う。

 とにかく読んでいていろいろと頭の整理になって、すっきりと爽快感のある本である。これを読んでから、空を眺めたり天気予報を見たりするのがやたらと楽しくなってきた。
nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

地学のツボ [地学]





 よく地震ニュースなどで、海のプレートが陸のプレートに沈み込んで、何かの拍子にプレートがはじけた時に地震が起こるという話を聞く。

 では、そもそもプレートはどこからやってきて最後にはどうなってしまうのか?

 「地学のツボ」という本を読むと、このあたりのことがかみくだいて説明されていて面白かった。

 地面の下に沈み込んでいくプレートはそのまま沈み続け、残骸として溜まり、最後にぼてっとマントルの下を崩落してマントルと核の境で止まるらしい。地上にあって冷たいプレートの残骸なので、コールドプルームと呼ばれている。

 コールドプルームが下降する反作用として、今度は核の上に溜まっていた熱を帯びたホットプルームと呼ばれる物質が上昇する。ホットプルームの上昇に伴って、マントル物質が部分溶融を起こしてマグマが生産される。新たに地殻が形成されるようになり、プレートが生産されることになる。

 プルームテクトニクスと呼ばれる考えで、地球の内部ではこういうダイナミックな循環・対流が起こっているようなのだ。

 そもそもなんでこんな対流が起こっているのかといえば、地球の熱を冷ますためらしい。

 地球が誕生した後、微惑星や隕石が次々に地球に引き寄せられて衝突。そのときに生じた莫大な熱エネルギーにより地球は灼熱の世界となり、マグマでおおわれることになった。

 時間がたつにつれて地球は徐々に冷えていき、鉄やニッケルなどの重い金属は沈み込んで地球の核を形成する。岩石成分はマントルと地殻に分かれていく。

 徐々に冷えたとはいってもまだまだ内部が熱くなっているので、地球は自然と冷えようとする。ものをぐるぐると回すことによって熱を運ぶという対流によって冷やすのが効率的なので、地球内部でもマントルのゆっくりとした対流が起こっているのだ。

 熱い味噌汁などがお椀の中で対流を起こして冷めるということが日常的にもあるけれども、同じような現象が地球規模で起こっているのがマントルの対流らしい。その過程の中で、プレートができたり地震が起こったりする。

 地表に住んでいるとよく分からないけれど、地球の内部も固定しているものではなくて、今も活発に活動をしているのだなということがよく分かる内容。あちこちで起こっている地震や火山の仕組みと地球内部の動きがリンクするように書かれていて、なるほどなあと腑に落ちたところがいくつか。

 それにしても、この本の中で扱われている時間の単位が数億年単位だったりするので、圧倒的なスケール感にうならされる。人間の文明社会はとてもちっぽけなものなんだなあと、読んでいて畏怖の念に近いものを感じさせられた。
タグ:鎌田浩毅
nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ニュートリノって何? [地学]





 科学の発達した現代においても、宇宙というのはいまだに謎だらけである。

 宇宙はどのようにしてできたのか? 宇宙に果てはあるのか? 宇宙は最後にどうなってしまうのか? 宇宙はたくさんあるのか?

 次々にいろいろな疑問がわいてくるけれども、科学者たちはどうにか宇宙の謎を解き明かそうと頭をひねってきた。あまりにも遠すぎて直接見に行くことはできない深宇宙について、星空を観測することで宇宙の成り立ちを説明しようとしてきた。

 星の光を観測するやり方でかなりいろいろなことが分かってきているし、重力波というものを観測することで宇宙の仕組みを知ろうとする方法もある。

 ニュートリノというものを検出する方法もある。

 ニュートリノというのは、宇宙を構成する最小の単位。素粒子の一つである。あらゆるものを通り抜けてしまう性質があり、人間の身体も1秒間に数兆個ものニュートリノが通り抜けているんだそうだ。

 こんな小さな物質を検出する「カミオカンデ」と呼ばれる装置があって、太陽や超新星爆発や大気で発生するニュートリノをキャッチすることができる。

 ニュートリノは何でもすり抜けてしまうので、ニュートリノの現れ方を研究することで、太陽の内部の仕組みが分かったり、地球の内部の仕組みが分かったりする。恒星が終局を迎える超新星爆発と呼ばれる仕組みを知る手掛かりになる。宇宙誕生のビッグバンの謎の解明にも一役買ったりもする。

 ニュートリノは宇宙の謎を解明するための重要な手がかりのひとつなのだ。

 本書はこのニュートリノの発見の経緯から、ニュートリノの持つ不思議な性質、ニュートリノが宇宙解明にどのように役立っているのかを解説した本である。

 内容からして難しそうな本だとは思ったが、解説がとても平易なので門外漢にもわかりやすい記述になっている。ニュートリノ解明をめぐる様々なドラマも描き出されていて、なかなか読み応えがあった。
タグ:青野由利
nice!(13)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ミッション・トゥ・マーズ/火星移住大作戦 [地学]


ミッション・トゥ・マーズ 火星移住大作戦

ミッション・トゥ・マーズ 火星移住大作戦




 アポロ11号で月面着陸を果たした、宇宙飛行士バズ・オルドリンによる火星移住計画書。

 火星移住などというと、まるで「火星年代記」などのSFの世界のようだけれど、この本を読むと現実的にも可能であることが見えてくる。国際宇宙ステーションで、宇宙飛行士たちが長期にわたって宇宙空間で生活してきたノウハウがあるし、火星にはインフラ整備に必要な豊富な資源もある。永続的に火星に住み続けることも可能なんだそうだ。

 一読して、宇宙飛行士が書いているだけに、計画の内容が非常に実際的という印象をもった。技術的な側面だけでなく、政治的、外交的な側面も含めて書かれてあって、随分緻密に計画されているなあと感心させられる。月、小惑星、火星の衛星フォボスとダイモスなどを足掛かりにして、徐々に火星に向かっていくという段階的なプロセスが書かれていた。

 「オデッセイ」という映画では、マット・デイモンが火星でジャガイモを栽培していたけれど、彼が居住していたようなモジュールをさらにたくさん作ったり、巨大なドームで覆った町を建設したりすることで、火星に大勢の人間が住み着くことができるだろう。火星全体を温暖化させて、地球の大気状態に近づけるテラフォーミングも行われるかもしれない。

 最初は科学者が、やがて民間人もぞくぞくと火星に移住するようになるのだろう。火星に新たなフロンティアができて、資源を掘削して産業活動を行ったり、様々な研究活動を行ったりする。火星上でこれまでにない経済圏・文化圏が生まれ、地球と交流するようになる。そんな未来の姿が目に浮かぶようだ。

 人口が増え続け、資源が枯渇してゆく地球。持続可能な未来を作り上げるための方策として、火星を開拓するというアイデア。外に外に向かって解決策を求めるというのは、実に興味深い発想だ。

 筆者はよほど火星移住を実現したいのか、非常に熱のこもった言葉で書かれている。こんなに熱量のある文章というのも珍しい。政治家の演説を聞いているみたいだった。だが、読んでいるうちに筆者の熱意にほだされて、だんだん火星移住が実現できるんじゃないかと思えてくるから面白い。

 2035年には火星に有人のロケットを着陸させ、移住を開始させる計画だとか。どんな未来がやってくるのか楽しみになる本だった。
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

地球は火山がつくった [地学]





 火山のメカニズムを解説した本。

 最近火山のニュースをよく耳にしたり、地震があったりするので、地球科学について知りたくなって読んでみた。

 岩波ジュニア新書なので、中学生でもわかるように書かれており、格段に分かりやすい。イラストもふんだんに掲載されていて、視覚的に火山のしくみが理解できるようになっている。

 ジュニア新書といっても、子供だましの物足りないものではなくて、結構内容も充実している。火山の噴火する仕組み、プレート・テクトニクス理論、最新の学説プルーム・テクトニクス理論に至るまで、火山にまつわる話題全般が幅広くカバーされているのだ。

 大陸移動説とかプレート・テクトニクス理論は有名で、プレートがマントルの下の方に沈み込んでいく図をよく目にする。だけど、沈み込んでいったプレートはその後どうなっちゃうんだろう? そもそもどうしてプレートが生まれて、ベルトコンベヤーみたいに移動して沈んでいくんだろう? 地球の内部ではどんな力が働いているんだろう? などと常々疑問も感じていた。

 本書はこうした疑問に対する答えも用意されていて、火山の仕組みだけでなく、地球の内部全体のすがたが解説されている。うすぼんやりとしたイメージしかなかった地球内部の仕組みについて、明快に語ってくれている。そして、地球内部はダイナミックに変化し続けていることが見えてくる。

 本書を読むと、人間が住んでいる地殻というのは、本当に卵の殻みたいな薄っぺらいところなんだなあということが実感できる。その他の大部分の、卵でいう白身や黄身にあたる部分はマントルと核なのだ。

 人間は我が物顔で地球の支配者のようにふるまっているけれども、実は文明は薄氷の上に成り立っていたのだね。いくら文明が進歩しても、自然の脅威の前ではなすすべがなくて、1万年に1度起こるような大噴火が起きたら、ポンペイみたいに文明があっという間に崩壊してしまうことだってありうる。さすがに火山ばかりは防ぎようがなさそう。

 自然に対する畏敬の念を忘れてはいけない。火山の仕組みを知りたいというちょっとしたきっかけで読み始めたら、文明社会のことまで考えさせられてしまう、壮大な一冊だった。
タグ:鎌田浩毅
nice!(11)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

絶対帰還 [地学]


絶対帰還。

絶対帰還。




 2002年、3人の宇宙飛行士を乗せたスペースシャトルが、国際宇宙ステーションに向けて飛び立った。14週間にわたりステーションに滞在し、科学実験や補修作業を行う計画だった。無事、ステーションに到着し、宇宙空間での生活を楽しみ始める3人だったが、そんな彼らの前に予期せぬ出来事が起こる。スペースシャトル「コロンビア」が、大気圏突入時に空中分解するという大事故が起こってしまったのだ。事故の影響で、シャトル計画自体が頓挫。宇宙に残された3人は、地上に戻れなくなってしまう……。

 宇宙に取り残された3人の宇宙飛行士の救出劇を描いたノンフィクション。ステーション内を包み込む不安な心理、どうやって救出するのかという地上での議論の数々、そして緊迫の救出作戦。宇宙開発をめぐってこんな出来事があったのかと驚かされる、ドラマティックな内容だ。

 ドラマの主人公となるのは個性豊かな3人の宇宙飛行士。アメリカ人の指揮官ケネス・バウアーソックス、アメリカ人の科学実験主任ドナルド・ペティット、ロシア人フライトエンジニアのニコライ・ブダーリン。それぞれに異なる背景を持ち、宇宙へ向かう異なる動機を持った3人の人生がステーションで交差する。おのおのの宇宙へ旅立つまでの人生が詳細に描き出されていて、人間ドラマとして読んでも面白い。

 主軸となるのは3人の話なのだが、それ以外にも、これまでの宇宙開発をめぐる経緯、宇宙飛行士たちのいろいろなエピソード、アメリカとロシアの宇宙競争、国際宇宙ステーションでの日常生活なども書かれていて、宇宙開発をめぐる情報がふんだんに盛り込まれていて面白かった。

 宇宙はまだまだ謎の多い世界。宇宙旅行には様々な壁があるけれど、そんな壁を一歩一歩乗り越えていく宇宙飛行士たちの姿を見て、感動させられるし、そのフロンティア・スピリットにも勇気づけられる。

 国際宇宙ステーションの滞在と、その後の月面開発計画、そして火星への有人探査。そしてその先へ――。SF小説に出てくるような有人惑星探査や移住計画なども、やがては現実のものになるのかもしれない。本書を読んで、今後宇宙開発がどのような道のりをたどっていくのか、わくわくさせられた。

宇宙はなぜこのような宇宙なのか [地学]





 宇宙論の分野で論争を招いている「人間原理」という考えについて解説した本。

 筆者の青木薫は、理論物理学の専門家で、外国のポピュラーサイエンス本などの翻訳をしていることで知られている。その翻訳のうまさには定評があり、本来であれば、専門的で理解が難しい科学に関する文章であっても、噛み砕くように丁寧に日本語に翻訳していて、流れるようにすらすらと読ませてしまうのだ。青木薫が翻訳している本というだけで、つい買って読んでしまったりするくらい、普段から気になっている翻訳家。

 そんな青木薫が自ら宇宙に関する本を書いたというから、迷わず読んでしまった。テーマは、「人間原理」という宇宙論に関するものだ。

 もともとほとんどよく知らないテーマだったのだが、読み進むにつれて、実に奇妙奇天烈な考えであることがだんだん分かってきて、興味をひかれて思わず読みふけってしまった。

 「人間原理」というのは、宇宙の様々な条件が、ちょうど人間が存在するのに都合のよい値で設定されていることに着目した考えのことらしい。

 宇宙は生命の存在に不可欠な条件を満たしていて、それはまるで、人間が誕生することができるように、誰かが物理定数を微調整したかのようにも思えてくる。たとえば、重力がもっと強ければ宇宙はブラックホールだらけになってしまうし、逆に弱ければ現在の宇宙に見られる様々な構造は見られなくなってしまう。宇宙はなぜこのように、人間が存在できるような条件になっているのだろう? そんな人間中心的な視点から宇宙を読み解こうとする考えが「人間原理」なのだ。

 筆者はこの「人間原理」を読み解くにあたって、古代の天文学や占星術の誕生にまでさかのぼって、宇宙の成り立ちについて人類がどのように解き明かしていったかを詳細に語っている。そして、「人間原理」というものがどのような経緯で誕生し、科学界にどのような影響を与えたのかについて解説している。

 結局のところ、「人間原理」は、宇宙はひとつだけではなくたくさんあるのだという、多宇宙の考えを導き出すきっかけにもなっていて、後半では多宇宙についての論争も描き出されていた。

 このあたりの多宇宙の解説がとても壮大で読んでいてむやみに楽しい。自分たちの住んでいる宇宙の外には別の宇宙が広がっていて、泡みたいに宇宙がポコポコと次々に誕生している。そんな多宇宙モデルが現代の科学界のトレンドになっているらしい。想像を絶するようなスケールの世界が広がるようで、圧倒されてしまった。

 一見すると、哲学的というか空想的というか、不思議な考えなのであるが、科学的にも精緻な根拠があって提唱されてきた「人間原理」。さすが青木薫という感じで、非常に細やかでいて分かりやすい解説がなされている。宇宙はなぜこのような宇宙なのかを探っていくうちに、思わぬところにまで連れてゆかれる楽しさ。壮大な宇宙に思いを馳せることのできる、好奇心をくすぐられる一冊だった。
タグ:青木薫