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ウイルス・プラネット [生物]


ウイルス・プラネット (ポピュラーサイエンス)

ウイルス・プラネット (ポピュラーサイエンス)

  • 作者: カール・ジンマー
  • 出版社/メーカー: 飛鳥新社
  • 発売日: 2013/02/26
  • メディア: 単行本



 ウイルスというのも、不思議な存在である。

 遺伝子とタンパク質の殻だけでできた、シンプルな構造。自分自身は細胞を持たないので、エネルギーを産出することもせず、単独で複製することもできない。

 こんなものが生物なのかという気もするが、ウイルスは宿主に寄生すると、宿主細胞に自分のコピーを大量に作らせる。そして、宿主細胞ははち切れて死んでしまう。つまり、ウイルスは他の生物を乗っ取ることで生きる寄生生物なのだ。

 なんとも異質な存在であるし、かぜ、インフルエンザ、エイズ、エボラやSARSといった感染病を引き起こすから、ウイルスに対しては悪いイメージしかなかった。だが、「ウイルス・プラネット」という本を読むと、ウイルスが単なる脅威というだけでもないということに気づかされる。むしろ、人間と切っても切れない関係でもあるようなのだ。

 長い生命の歴史の中で、ウイルスたちは他の生物への寄生を繰り返していった。そのうちに他の生物の生殖器の細胞にも感染して、宿主の遺伝子の中にウイルスの遺伝情報が組み込まれるということも生じたそうだ。

 人間の遺伝子も例外ではない。実はヒトゲノムの中にも、ウイルス由来のDNA断片が8%も含まれているらしい。なんだが不気味な気もするが、子宮内で赤ちゃんを育てられるのも、このウイルスのDNAのおかげだというから悪いことばかりではない。

 人間の細胞の中に入り込む様々なウイルスのタイプが出てきて、なかなか読み応えのある本である。こんなちっぽけなウイルスが人間の生き死にを左右してしまうのだから、自然というのは侮れない。人間も結局自然のメカニズムの一部なんだなあという当たり前のことに気づかされた。
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ゲノム編集とは何か [生物]


ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃 (講談社現代新書)

ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃 (講談社現代新書)

  • 作者: 小林 雅一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/08/18
  • メディア: 新書



 もっと美しくなりたい。もっと頭がよくなりたい。もっと運動ができるようになりたい。もっと若くなりたい。病気になりたくない……。誰しもいろいろな願望があるだろう。

 そんな願望はかなわぬ夢にすぎない。人生甘くない。そんなふうに考えてはいないだろうか?

 でも、非現実的と思えるような願望であっても、ひょっとしたら近い将来に実現してしまうかもしれない。科学の力で夢がかなうかもしれない。そんなことが書かれているのが、本書「ゲノム編集とは何か」だ。

 タイトルにもある「ゲノム編集」とは、遺伝子の改変技術のことである。

 遺伝子の改変技術というと、これまでも遺伝子組み換え技術があった。遺伝子組み換え作物など、大きく騒がれたりもしていたが、実はあまり精度の高いものではなかったらしい。組み換えが成功するまでとても時間がかかるし、間違った場所に組み換えが起こってしまうことが多かった。

 だから、遺伝子組み換え技術はあまり成果が出なかったようなのだが、最近になって新たに「ゲノム編集」という技術が発見されるようになった。この技術は遺伝子を文字通りカット&ペーストすることのできる技術で、遺伝子組み換え技術のような精度の低いものではなく、ピンポイントで遺伝子を編集することのできる画期的な技術なのだ。

 この技術を使えば、害虫に強い作物などを作り出すことができるし、免疫細胞を編集することで病気を克服することもできる。若返りが可能かもしれないし、禿をなおすこともできるかもしれない。

 生殖細胞を編集すれば、これから生まれてくる子供の健康状態を改善することもできる。それどころか、子供の容姿や運動能力、知能を高めていくことだって可能になるだろう。子供の性質を、自分好みにデザインする時代がやってくるかもしれないという。

 難病治療など、技術が発展するといいねと思う反面、やはり恐ろしくもある。よく言われるフレーズだが、神の領域に踏み込んでいくような感覚。

 子どもをデザインする世界というのはどんなものだろう? 優秀な遺伝子をもった人間がそうでない人間を支配する。そんな遺伝子格差社会が生まれるのだろうか? 他の生物の能力をかけ合わせたようなミュータント的な人間が現れるのだろうか?

 そもそも子どもをデザインするというのはどこまで許されるのか? 遺伝子をいじくりまわした挙句に両親とは似ても似つかない子どもが生まれたら、親子関係はどうなってしまうのか?

 いろいろ想像を超えたような問題が起こってきそうである。なんだかすごい世界がやってくるなあと、夢があるのと同時に、漠然とした不安感を与えられる本でもあった。
タグ:小林雅一
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カラスの教科書 [生物]


カラスの教科書 (講談社文庫)

カラスの教科書 (講談社文庫)

  • 作者: 松原 始
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/03/15
  • メディア: 文庫



 道を歩いているとよく見かけるカラス。カラスがどんな生活を送っているかなんてあまり考えたことはなかったが、カラスの暮らしぶりも詳しく見ていくと結構興味深い。

「カラスの教科書」という本は、こうしたカラスの生態について詳しく解説した一冊である。

 都会に生物が住むというのはなかなか難しいそうだ。

 植物が育つには環境が大事なので、都会の特殊な環境下では育たない植物というのがある。また、そうした植物を餌にしている昆虫も都会では生きられない。昆虫を餌にしている動物も生きづらいということになるだろう。

 都会は生態系が乏しいので、住み着くことのできる生物には限りがあるのだ。

 カラスは都会で生活をすることのできる限られた生物のひとつである。なぜ彼らが生きることができるのかというと、雑食でありスカベンジャーであるからなんだそうだ。生きている餌だけではなくて、動物の死骸を食べて生きることができる。

 都会には死肉なんてないんじゃないかとも思えるが、実はカラスにとっては豊富な死肉が存在する。それは人間の出すゴミ袋である。ゴミ袋の中にはたくさんの食べ物が転がっている。

 カラスは動物の死骸をくちばしで突く要領でゴミ袋を突く。ゴミ袋を突いている行動は一見器用な行動に見えるが、カラスにとってはごく自然な行動だったのだ。

 カラスはそこら中にいるから、楽々生きているのかと言えばそうでもないらしい。生まれたひな鳥の中で巣立ちできるまで育つのはごく一部だし、巣立ちしてからも事故にあったり、食べ物にありつけなかったりで、死んでいく者がほとんど。子孫を残すことができるのはごくわずかの個体のみ。

 本書を読むと、カラスも都会で結構苦労しているんだなあということが分かることが書かれてあって、カラスが一気に身近なものに思えてくる。これからカラスを見たときには、結構頑張っているじゃないかと応援したくなってくるような本だった。
タグ:松原始
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地球外生命 [生物]


地球外生命――われわれは孤独か (岩波新書)

地球外生命――われわれは孤独か (岩波新書)

  • 作者: 長沼 毅
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/01/22
  • メディア: 新書



 宇宙人というのは一体どんな姿をしているのだろう?

 よくあるイメージは、誰が考えたのか、頭がつるつるで目が異様にでかい小人である。UFO特集などによく出てくる、エリア51で捕獲されたとかいうやつだ。

 タコのような触手を持った宇宙人というイメージもある。これはH・G・ウエルズの「宇宙戦争」に出てくる火星人襲来のイメージである。

 「スター・ウォーズ」という映画を見ていたら、ハリソン・フォードの相棒役として毛むくじゃらのが出てきた。あれも宇宙人なのであろう。

 「ソラリスの海」みたいに、人間の想像をはるかにこえた姿をしているというイメージを持つ人もいる。

 とはいえ、なんだかんだで映画や小説に出てくる知的生命体は、人間そっくりのものが大半である。皮膚が青かったり赤だったりという違いはあるし、耳や鼻が若干大きかったりするかもしれないが、基本的な形状は地球の人間と同じ。見ているほうも主人公が人間の形をしていてくれたほうが感情移入しやすいのである。

 では、小説や映画のイメージはともかく、現実に地球以外の星に知的生命体がいたとしたら、どんな姿をしているのだろう? おそらく人間の姿とはかけ離れているのではないか? 大気の組成も違うはずだし、重力の大きさも違うはずである。地球とは環境条件が全く異なるのだから、地球とは異なる環境に適応したサイズ、形状、機能が考えられるのだ。

 「地球外生命」という本を読んでいたら、この辺りの疑問点を真面目に考察していて面白かった。

 生物学者の長沼毅と天文学者の井田茂という人たちの共著で、地球外生命の可能性や形態について言及している。科学者なので、単なる当て推量ではなくて科学的に議論しているところが興味深い。

 宇宙の知的生命体を考察するための手がかりとなるのは、すでに知られている唯一の生命である地球の生命ということになる。地球にも極度の高温・低温、高圧、高塩分といった人間では耐えられないような環境で生きている生物がいる。こうした極限下に棲む生物を研究することで、地球とは異なる環境でも生命が発生することは可能か、生命が進化するための必要条件とは何かを探っていく。

 この本を読んでいると、宇宙どころか地球にもまだまだ知らないような多様な生命がいることに気づかされる。火山地帯で硫化水素を体内に取り込んでエネルギーを取り出す生物や、普通なら有害な油に浸かったままでも生きることのできる生物など、こんな生物がいるのかという生物がたくさん紹介されている。

 雑多な生命活動を見ていくことで、宇宙の地球とは異なる環境下においても生物が発生し進化する可能性があることが見えてくる。宇宙に見に行くことはできないけれども、はるかかなたの星にも生物がひしめきあっているんじゃないか。そんな宇宙観を与えてくれる本だ。
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うなぎ/一億年の謎を追う [生物]


うなぎ 一億年の謎を追う (科学ノンフィクション)

うなぎ 一億年の謎を追う (科学ノンフィクション)

  • 作者: 塚本 勝巳
  • 出版社/メーカー: 学研教育出版
  • 発売日: 2014/10/28
  • メディア: 単行本



 土用の丑の日などで人気者のうなぎ。

 昔は川や池でよくうなぎが獲れたものだけれども、こうしたものは成長した後のうなぎ。うなぎにも海水で生活する時期と淡水で生活する時期があって、実際にうなぎが産まれるのは海の中だそうだ。卵から産まれたうなぎははるばる長い距離を泳いで、海流に乗って、日本までやってくるのだ。

 じゃあ、うなぎは広い海のどこで産まれるのだろう? 長年、うなぎの産卵場所は謎とされてきたが、筆者ら研究者たちは、海洋調査を実施。何度も探求を繰り返した結果、ついにうなぎの産卵場所を突き止め、世界初の天然うなぎの卵を発見する。

 本書は、そんなうなぎ研究に身を投じた筆者の回想録。うなぎの不思議な生態を紹介するとともに、うなぎの卵発見までに至る道のりについて解説している。

 太平洋から長い長い距離を泳いでくるとか、成長するにしたがって身体の形が変わっていくとか、川登をするとか、嗅覚が非常に鋭いとか、本書を読むとうなぎの持っている不思議な生態を知ることができる。なんでわざわざ遠くまで回遊するのか、読んでいて本当に不思議な気がしてくる。

 だが、本書の最も面白いところは、うなぎの生態を紹介するだけでなく、どのように科学的発見がなされたのかという科学解説の部分。筆者らは様々な仮説を立てて、科学的にうなぎの産卵場所に迫っていく。様々な手がかりをもとに、徐々にうなぎの秘密が明かされていく感じは、ミステリーを読んでいるようなワクワク感がある。

 これまで単に美味な食材というくらいにしか考えていなかったが、本書のようなものを読むと、その独自の生態に驚く。まだまだ解明されていない謎も残っていて、身近な生き物ながらも不思議な存在だなあと興味深かった。
タグ:塚本勝巳
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進化とは何か [生物]


進化とは何か:ドーキンス博士の特別講義 (ハヤカワ・ポピュラー・サイエンス)

進化とは何か:ドーキンス博士の特別講義 (ハヤカワ・ポピュラー・サイエンス)

  • 作者: リチャード ドーキンス
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/12/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 「利己的な遺伝子」で有名なリチャード・ドーキンス博士による科学講義。生命の進化のしくみについて、分かりやすく解説してくれている。

 進化という言葉はよく使われていて、身近な概念ではあるけれども、実際にそのメカニズムについて説明しろと言われると案外難しい。原始生命が生まれて、魚が生まれて、両生類が陸に上がって、爬虫類や哺乳類が生まれて、人間が生まれて……と、おおざっぱな流れは分かるけれども、具体的にどのようにして動物たちには羽が生えたり、ひれがついたり、知能を持ったりしたのか、よく考えると分からなくなってしまう。

 進化は自然選択とも言われる。世代交代を繰り返すうちに、自然界に適応する能力を持つ者が生き残っていくのだと。

 たしかに、背の高い同士をかけあわせていってどんどん体が大きくなるとか、赤い色同士をかけあわせていくとどんどん赤くなっていくとか、単純な特徴であれば直感的に理解できる。だが、眼だとか、脳だとか、羽だとか、昆虫の擬態だとか、複雑な構造を持った特徴はどのように自然選択で生まれてきたのだろう? 偶然の積み重ねで生まれたにしてはあまりにも奇妙すぎるのでは? 世代交代だけで説明するのは不可能なようにも思えてしまうのだ。

 ドーキンス博士はこうした一見すると説明困難に思える進化の過程を、「不可能の山を登る」と表現して、懇切丁寧にそのメカニズムを解説している。

 たとえば、眼。眼の原型は非常に単純な、光を感知するだけの一枚の膜だった。世代交代を繰り返すうちに、やがて、膜にくぼみのある子孫が誕生し、影を感知して光の方向が分かるようになった。くぼみがどんどん大きくなっていくと、敵の居場所もはっきり分かるようになってきた。くぼみを薄い膜で保護するようなものも誕生した。その透明な膜はやがてレンズの役割を果たすようになり、光と影だけでなく、周りの風景がハッキリ見えるようになってくる。さらに世代を繰り返すごとに、眼の構造は精巧を極めていく。

 最初は単純なしくみだったものが、世代を追うごとに複雑になっていって、現在目にするような形があらわれる。一見不可能に見える山も、小さなところから始まって、一歩一歩のぼっていくうちに、とんでもないところまで到達してしまう。進化ってこんなメカニズムになっているのかということが見えてきて、はっと目が覚めるような気分になる講義である。

 目が見えるとか、ものがつかめるとか、走ることができるとか、誰でも持っているような能力、あるいは、虫が飛ぶとか、蛍が光るとか、ごくごく当たり前に目にする光景。そういったありふれた光景が、実は気の遠くなるような時間を経て進化したもので、驚くべき能力なんだということに気づかされる。

 今まで当たり前のものとして見過ごしてきたような自然の光景が、別世界の星のように見えてくる。まさに世界観の転換を迫ってくる本。本書を読んで、世界はどんな風になっているのだろうと、ふと自然に目を向けたくなってきた。
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DNA [生物]


DNA (上)―二重らせんの発見からヒトゲノム計画まで (ブルーバックス)

DNA (上)―二重らせんの発見からヒトゲノム計画まで (ブルーバックス)

  • 作者: ジェームス・D.ワトソン
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/03/17
  • メディア: 新書



 DNA二重らせん構造の発見をしたジェームズ・D・ワトソンが、遺伝学の誕生から世界に与える影響までを解説した本。

 遺伝子をめぐる研究にもさまざまな紆余曲折があった。メンデルのエンドウを使った研究にはじまり、徐々に明らかになりつつある遺伝子の重要性。二重らせん構造の発見やDNAがたんぱく質を作り出すメカニズムなどが解明されるなど、その驚異の世界が徐々に開けてくる。

 反面、その発見の過程において、遺伝学は遺伝的に優れた人間を残そうという「優生学」と結びつき、人種差別やナチスの思想をおしすすめてしまう。暗い歴史を残すなど、遺伝子をめぐってはいろいろなドラマが繰り広げられて来たことが分かって、意外なドラマティックさ、人間味あふれるエピソードに満ちていることに驚かされた。

 発見のエピソードだけでなく、DNAが世界にどのような影響を与えているのかも詳しく書かれている。DNAは遺伝病の検査や治療に役立つものであるし、人類の進化をたどる手がかりにもなる。法廷の証拠として扱われることもあれば、遺伝子組み換え作物を作り出すこともできる。人々の生活のあらゆる場面で関わりを持っていて、科学上の発見が社会の仕組みを変化させていく様子が見えてきて、非常に興味深い。

 本書を読むと、遺伝のメカニズムや有益性について理解が深まって、これからどんな便利な世界がやって来るのかと楽しみになるのだけれど、同時に、起きてくるであろうさまざまな問題についても考えさせられた。たとえば、遺伝子診断が一般になってくると、妊娠している母親が遺伝子検査をして子供が重大な遺伝病にかかっていたとわかったときに、子供を産むかどうか? といった難しい判断を迫られることがありうる。

 遺伝子組み換え作物の問題もある。害虫予防に、農薬の代わりに遺伝子組み換え技術を使って、昆虫に対する毒素を出すような作物を作るようになったという。筆者はわりと楽観的な立場で書いているけれども、遺伝子組み換え作物が勝手に野生化して広まってしまったら、生態系への影響とかないのかなあと思ってしまった。

 生命の本質にかかわるものだけに、倫理的な問題が次々に生じてきて、これまで思いもしなかったようなジレンマに悩まされるのだろう。テクノロジーの進歩は、人々を新しい葛藤に直面させてしまう。有益さが大きい分、社会への影響も大きく、人生にまで影響を与えてしまうものなんだということを考えさせられる。

 DNAをめぐるそれぞれのトピックについて詳しく解説されていて、とてもためになる本。これから世界がどのように変化していくのかについてあれこれ考えるきっかけになった。神の領域に踏み込んでいくようなところもあって、未知の世界に対する畏怖の念を感じさせられた。

「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか [生物]


「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか―パーソナルゲノム時代の脳科学 (NHK出版新書)

「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか―パーソナルゲノム時代の脳科学 (NHK出版新書)

  • 作者: 宮川 剛
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2011/02/08
  • メディア: 新書



 遺伝子工学の発達により、人間の持つ遺伝子情報が次々に解明されつつある。その結果、外見的特徴だけでなく、性格や知能といった心の性質にも遺伝子が影響していることがだんだんとわかってきた。本書は、こうした遺伝子が脳や心に果たす役割や、遺伝子工学の未来について、基礎の基礎から分かりやすく語った本である。

 もちろん、遺伝子で性格や知能がすべて決まってしまうわけではなく、育った環境にも影響されるのではあるが、たとえば、一般的知能や外向性、言語的推論能力などといったものは遺伝性が高いとされている。

 また、遺伝子パターンのちがいによって心の病気の発症可能性が高まるという研究もある。

 こうした遺伝子の研究がさらに進めば、遺伝子診断によって、自分がどんな病気にかかりやすいのかをあらかじめ知って病気の予防に努めることができたり、自分の性格を遺伝子から診断することができるようにもなるかもしれない。さらには、結婚相手との遺伝的レベルでの相性診断といったことに遺伝子が使われる可能性もあるという。

 まさにSFを地で行くような内容の話で、科学技術の進歩のスピードには驚かされる。映画や小説で描かれてきた未来がもうそこまでやってきているのかと思ってびっくりした。

 遺伝子技術の進歩によっていいなあと思うことはたくさんあって、たとえば、遺伝子治療によって、医療の精度がますます上がっていって病気の治療がしやすくなるだろうし、今まで助かる見込みがなかった難病患者を救うことができるようになるだろう。より便利な世の中がやってくるものといえる。

 だが、反面、遺伝子診断が濫用されることによって、遺伝子による差別が横行することがあるかもしれない。特定の遺伝子を持った人間が、病気にかかりやすいという理由で保険にかかりにくくなったり、会社に入れてもらえなくなったりするかもしれない。

 技術はどんどん進歩するけれども、その結果は簡単には予想がつかず、社会は後追いで試行錯誤していく必要がある。インターネット社会になって便利で快適な社会がやってきたのと同時に、様々な不測の問題が生じてきた。同じようなことが今度は遺伝子の世界で起こるのだろう。わくわくするのと同時に、どんな恐ろしいことがあるんだろうと考えさせられる本だった。
タグ:宮川剛

働かないアリに意義がある [生物]


働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

  • 作者: 長谷川 英祐
  • 出版社/メーカー: メディアファクトリー
  • 発売日: 2010/12/21
  • メディア: 新書



 生物学者が書いた、アリやハチといった社会性昆虫の生態に関する最新研究。

 働きアリなどと呼ばれ、せっせとエサを探して歩き回るアリたち。その働きもののイメージは、イソップ童話などでもおなじみだ。だが、最近の研究で、このアリの集団の中には、ほとんど働かないアリが一部混ざっていることが分かったという。

 筆者らはシワクシケアリという種類のアリを使って研究し、実験コロニーに150匹のアリを入れ、すべてのアリをマーキングして個体識別できるようにした。そして、1ヶ月間のすべての個体の動きを記録したところ、働きアリの2割はずっと働かないという結果が得られたのだそうだ。

 なぜこのような現象が起こるのだろう? 働かないアリがいるということはとても非効率なことのように思えるのに、このようなシステムで動いているのはどういう理由があるのか?

 筆者は、この働かないアリをめぐる謎について、様々な研究の成果をもとに、紐解いていく。一見すると効率が悪いように見えて、実は働かないアリがいることで、コロニー全体の生存が維持されているということが理解できて、自然のシステムの精緻さに驚かされる内容。

 アリやハチは、ロボットみたいに一匹一匹全く同じ動きをしているのかと思っていたら、本書を読むとそうではなくて、それぞれに個性があることが分かる。普段目にしている昆虫たちの生活に、こんな秘密が隠されていたのかということが見えてきて面白い。

 自然社会というのは、予測不可能な事態がたくさん起こる複雑な世界。エサだって、いつどこに現れるかわからないし、コロニーにいつどんな危機がやってくるのかも不明なのだ。単純な効率性だけでは、その予測不可能な事態に対応することは難しくて、かえって滅亡を早めてしまう。

 本書を読むと、アリ社会がこのような複雑系の自然社会で生存するために驚くようなシステムを作り上げていることが分かって、とても興味深い。ファーブル昆虫記を読んだときのような、不思議な感動のある本だった。
タグ:長谷川英祐