So-net無料ブログ作成
検索選択
伝記(外国) ブログトップ

ライト兄弟 [伝記(外国)]





 いろいろな本がある中で、もっとも面白いのは人物伝だと思う。

 伝記を読んでいると、こんな生き方をした人がいるのかと、本当に驚かされることが多い。現代社会の基礎は過去の偉人たちによって作られているわけで、現代のルーツを知ることもできる。とにかくこんなに楽しくて、読みがいのあるものはない。

 最近読んだ「ライト兄弟」の本も、まさにそんな面白本のひとつだった。

 ライト兄弟は言わずと知れた、有人動力飛行のパイオニアだ。伝記本もすでにたくさん書かれているが、本書は中でもライト兄弟の人物像が丁寧に描かれている。ライト兄弟はこういう性格の人たちだったのかとか、どうして飛行機に興味を持つに至ったのかとか、どんな努力を繰り返したのかとか、目の前にライト兄弟が浮かび上がってくるかのような迫力があった。

 鳥が空を舞うことができるのは、揚力が働いているからだ。翼の上面を空気がすばやく流れることで、翼の上面にかかる圧力が下面よりも小さくなり、翼が押し上げられる。飛行機も同じ原理で空に浮かぶから、翼にかかる揚力が重要となる。そして、翼の上面の空気の流れは、翼の形状によって変わってくる。

 ライト兄弟も翼の形状には苦心したようだ。自家製の風洞装置を作って、模型を飛ばす実験を繰り返して、最適な翼の形状を割り出そうとしている。実際の飛行機での飛行実験を繰り返して、実地でも検証している。

 揚力だけではない。どうやって離発着するのか、どうやって推力を得るのかといったことにも、試行錯誤を繰り返した。

 本当に何もないところから始めたというのはすごいことである。翼の形状から、飛行機用のエンジンやプロペラ、操縦装置に至るまで、何もかも初物尽くしだった。にもかかわらず、たった二人で現代の飛行機の原型を作り上げてしまったのだ。

 ライト兄弟の飛行にかける並々ならぬ情熱には本当に頭が下がる。途中で飽きたりしないし、何度も生じる失敗にもめげない。飛行実験というのは、一歩間違えれば死が待っているという危険なものであるのに、彼らは決してやめようとしなかった。飛ぶことができるという保証はなにもないというのに。

 伝記本を読んでいると、フラストレーションが生まれることが多い。こんなにすごい人生を歩んだ人がいるのに、自分はなんと安穏な暮らしをしているのかと。本書もそうした意味では刺激になる本だった。この本を読むと、妙に元気が湧いてくるのだ。カンフル剤のような本だと言えるかもしれない。
nice!(9)  コメント(0) 
共通テーマ:

美術品でたどるマリー・アントワネットの生涯 [伝記(外国)]





 タイトルの通り、美術作品をひも解きながら、マリー・アントワネットの生涯をたどった本。

 美術作品がたくさん掲載されているので、マリー・アントワネットがどんな人生を歩んでいったのか、どんな生活を送っていたのかがイメージしやすい。

 マリー・アントワネットというと、贅沢三昧のわがまま王妃というイメージがある。たしかに一般庶民とはかけはなれた豪華絢爛な生活を送っていたようだ。

 自分勝手なイメージがあるから、あまり人物としての魅力を感じなかったのだが、この本を読むと少しイメージが変わる。

 革命が起こった後、マリー・アントワネットはどうにか現状を打破できないかとかなり奮闘したらしい。外国にいる知人と暗号で通信して支援を求めたり、囚われの身からの脱走を果たそうとしたり、夫や子供たちを守ろうと必死の姿を見せる。生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされて、わがまま娘だった頃とはまるで別人のようになる。

 最後は処刑台に送られることになるのだが、死を目前にしても威厳のある態度を守り続けたのだとか。

 よく考えたら、こんなに運命に翻弄された人もなかなかいないだろう。もともとは姉が嫁ぐはずだったのに、急きょ姉の代わりに王妃となってしまった。王妃になったら、幸せが待っているかと思ったら、今度は革命騒ぎに巻き込まれてしまう。

 ヴェルサイユの華やかな生活から、一挙に暗黒世界へと転落することになる悲劇。こういう二重のイメージを持っているところには、たしかに惹きつけられた。
タグ:中野京子
nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

24人のビリー・ミリガン [伝記(外国)]





 二重人格という話はときどき聞くけれど、なんと24人格も持ってしまった人の実話。

 1977年のオハイオ州で、複数の女性をレイプしたとしてビリー・ミリガン容疑者は逮捕された。この容疑者には、とても奇妙な雰囲気があった。面会人が話をしに行くたびに、話し方や態度ががらりと変わってしまうのだ。弁護士たちが面会を進めるうちに、ビリーの中には複数の人格が存在していることが次第に明らかとなってくる。

 それぞれの人格は、性格や話し方だけでなく、年齢、性別、国籍、得意分野にいたるまでバラバラ。3才の少女クリスティーン、リーダー的存在のアーサー、エレクトロニクスの天才トミー、弁舌さわやかなアレン、暴力と銃専門のレイゲン、レズビアンのアダラナ、絶えず周囲にいたずらを仕掛けるリー、継父の殺害計画ばかり考えているエイプリルなど。

 スポットと呼ばれる意識の舞台に、各人格が交代で現れ、時間を割り当てられるという仕組み。

 困った事態になるたびに、それぞれの得意分野を持った人格が現れて窮地を切り抜けていくというのは面白い。拘束されているときは、脱走の名人トミーが現れて、手錠でも鍵でも外してしまう。相手を説得しなければならないときは、口先のうまいアレンが現れる。暴力に巻き込まれたときにはレイゲンが現れて、相手をねじ伏せてしまう。

 それぞれの人格のキャラクターが際立っていて、チームで活躍していくドラマを見ているような感じで痛快だった。

 とはいえ、人格の交代が思わぬ時に起こったりもするので、トラブルになることが多かったようだ。大事な仕事中に幼い少年の人格が現れて台無しにしたり、犯罪性向のある人格が現れて周囲とトラブルになったり。各人格がやりたいこともてんでバラバラなので、一貫性のある行動をとることもできない。そういう苦労話も語られている。

 奇妙なエピソードが満載で、どのページをとっても実に驚くようなことばかり。人格ってそもそもなんなのかなあとか、誰でも程度の差はあれ人格のゆらぎみたいなものがあるんだろうかとか、人間の脳のメカニズムについてもいろいろ考えさせられた。
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

アウトサイダー [伝記(外国)]


アウトサイダー 陰謀の中の人生

アウトサイダー 陰謀の中の人生




 「ジャッカルの日」「オデッサ・ファイル」などのサスペンス小説で有名なフレデリック・フォーサイスの自伝。

 彼の書く小説は面白いので夢中になって読んだものだが、実は彼の人生そのものがより波乱に満ちたものであることが、本書を読んでよく分かった。

 17歳の時にイギリス空軍に入隊し、その後、ジャーナリストとなったフォーサイス。ロイター通信の記者としてド・ゴール大統領暗殺未遂事件を取材したり、東西冷戦下の東ベルリンに赴いたり、BBCの記者としてナイジェリアの内戦を取材したりしている。

 とくに東ベルリンでの活動はスパイ小説を地でいくような話ばかりだ。

 秘密警察の監視の目をかいくぐっての、アメリカ空軍の墜落機の捜索。イギリスの情報部からの依頼で、機密の受け渡しをするエピソード。あやうく第三次世界大戦の引き金を引きそうになったなどという刺激的なエピソードまで出てくる。

 彼の小説が面白いのは、こういう生の経験に裏打ちされていたからだったのかと合点がいった。半ば自身の経験談だからあんなに臨場感があったのだ。

 本書は自伝ではあるものの、一個一個のエピソードで区切ってあるので、すっきりとして読みやすい。エッセイ集のような読み方をすることもできる。しかも、その一個一個のエピソードにきちんと起承転結があって、実に書きぶりが面白いのである。中にはジョークみたいな愉快な話もある。

 こんな風に書けたらいいのになあという文章のお手本のような本で、これから何度も読み返したくなりそう。一生ものの貴重な本が手に入ったんじゃないかと思っている。
nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

砂漠の女王 [伝記(外国)]


砂漠の女王―イラク建国の母ガートルード・ベルの生涯

砂漠の女王―イラク建国の母ガートルード・ベルの生涯




 イラクというと、英米による対イラク戦争のイメージが大きいのだけれど、そもそもどんな場所だったのだろう? 

 実際にはあの地域にはイラクという国がもともとあったわけではない。第一次世界大戦後に中東を安定化させるために、イギリスが影響力を行使してできあがったのがイラクという国のはじまりらしい。

 そして、イラク建国の背景には、一人の女性の姿があった。中東をくまなく旅してまわり、各部族の中に入り込んで、現地を知り尽くしたガートルード・ベルというイギリス人女性だ。ガートルードは第一次大戦中には情報部員として活動し、戦後はイラク建国の骨格を作り上げた。

 本書は、そうしたイラク建国に至るドラマと、ガートルード・ベルの生涯を描いた伝記本である。

 第一次大戦前、イラクを含む中東地域はメソポタミアと呼ばれ、オスマントルコが支配をしていた。しかし、トルコの力が弱まってくると、ドイツ、イギリス、フランスなどが介入して、この地域で支配権争いを繰り広げ始める。とくにイギリスにとっては、中東地域はインドへの中継地にあったし、ペルシアの油田はエネルギー補給地として重要な拠点でもあった。

 トルコがドイツに接近したことから、イギリスは中東でトルコと対立をしていたアラブの部族たちと手を結んで、反乱を起こさせる。「アラビアのロレンス」という映画にも出てくる有名な歴史だ。

 ロレンスはガートルード・ベルの友人だった。本書でも、ロレンスとガートルードが大戦中に活躍した話がたくさん登場する。ロレンスもガートルードももともと考古学などに興味を持っていて、中東を渡り歩いていたのであるが、戦争になって彼らの持っている情報が重宝されるようになっていったのだ。時代に翻弄されていく様子が描かれていて、すごい人生を歩んだ人たちだなあと驚かされる。

 そして、本書の一番の読みどころは、第一次大戦後、イラク建国にいたるまでの道筋だろう。スンニ派、シーア派、ユダヤ人、キリスト教徒、クルド人がシャリフ家の国王の下に統合される。これまで中東の歴史になかった前代未聞の試み。どんなふうに成し遂げられたのか、どんな問題が生じたのか? イラク建国に至るまでのドラマが描き出される。

 イラク建国当初から、周辺国家の思惑、各部族の対立などがあって、大揉めに揉めたらしい。もともと存在しないところに突然国境線を引っ張って、強引に単一国家を作り上げてしまったのだから、そう簡単にまとまるはずもないよなあと。

 国家というものを一から作り上げていったわけで、国というものを束ねていく難しさを知ることのできる、国作り本という意味でも興味深い本だった。

 イギリスにしてもアメリカにしても、自分たちがイラク建国に一役買っているのに、のちのちになって、イラクに戦争をしかけたりしている。なんだか妙なことになっているなあと、よく分からないでいる。
nice!(12)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ダ・ヴィンチの遺言 [伝記(外国)]


ダ・ヴィンチの遺言 (KAWADE夢新書)

ダ・ヴィンチの遺言 (KAWADE夢新書)




 レオナルド・ダ・ヴィンチというと「万能の天才」として知られているけれども、実際にはどんな人生を送った人だったのだろう?

 ダ・ヴィンチについて知りたくなって、手に取ってみたのがこの本「ダ・ヴィンチの遺言」である。巨匠の生涯についてコンパクトにまとまっている。

 何でも完ぺきにこなす天才というイメージがあるから、ダ・ヴィンチはとくに苦労もない人生を歩んでいたのかなあと思っていたが、本書を読むと実際にはそうでもなかったようだ。

 ダ・ヴィンチは画家として活躍したかったのだが、当時の画家というのは絵を描くだけで食べていけるような職業ではなかったらしい。芸術家は工房に所属していて、絵画・彫刻のほかに楽器を作ったり、家具を作ったり、衣類などを制作したり、なんでも扱わなければならなかった。

 群雄割拠の戦国時代でもあったから、武器や馬具といった軍事品も扱っていた。ダ・ヴィンチは戦地での惨劇を嘆く一方で、軍事技師として数々の考案をしている。

 天才なりの苦労もあったようだ。あまりにも完璧主義すぎたせいか、なかなか作品に満足できない。下絵のデッサンはたくさん残っているけれども、実際に完成できた作品がかなり少なかった。完成品が少ないのだから、当然世間に名を知られるのも遅かった。ダ・ヴィンチの名が広まったのは、音楽家としての活動や舞台監督としての活躍が始まりだったというから意外である。

 いざ名前が売れてからも、今度はミケランジェロやラファエロといったライバルたちが次々に現れて、パトロンたちの興味もそちらに移ってしまう。天才に対する世間の風当たりは思いのほか強かったのだ。

 下積み時代の話から、軍事技師として活躍して、ようやっと画家として大成するまでの道のりが描かれていて、ダ・ヴィンチのサクセス・ストーリーのような内容になっている。こんな天才でも苦労の連続だったのだねということがよく分かる本。ダ・ヴィンチの人間的な側面が見えてきて、面白い本だった。
タグ:池上英洋
nice!(14)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

クレオパトラ [伝記(外国)]


クレオパトラ

クレオパトラ




 クレオパトラの生涯を描いた伝記本。

 クレオパトラは、舞台、映画小説、漫画と様々な媒体で繰り返し描かれ続けているけれども、その実像は謎に包まれている。クレオパトラについて言及した史料がふんだんにあるわけでもなく、歴史家は限られた情報からイメージを組み立てていかざるを得ないからだ。

 残されている史料を見ても、クレオパトラに会ったこともない人物が書いていたり、むやみに脚色されていたりして、容易に信用がおけない。クレオパトラと敵対する人物が残した史料などは、当然のことながら、クレオパトラを悪女として描いていて、偏ったイメージを広めてしまう。

 つまるところ、虚飾の混じった伝説のようなイメージだけが残ってしまい、その実像はベールに隠れてしまっているのだ。

 本書はそんな謎の人物であるクレオパトラについて、様々な史料の中からできるだけ公正で信頼に足るものを重視して、その真相に迫った本である。

 クレオパトラというと、持ち前の美貌で男を惑わす恥知らずな妖婦といったイメージも伝わっているけれども、本書では、より威厳のある人物として描かれている。当時としては最高の教育を受けた才女で、知略に富んだ頭の回転の速い人物でもあったし、権謀術策にも長けていた。民衆の心をつかむのもうまく、様々な宗教的な演出をほどこす才能にも恵まれてもいたそうだ。

 当時の女王を取り巻く環境というのは、想像以上に厳しい世界だった。ローマ帝国がエジプトを属国化してしまう可能性があって、外からの圧力に対応する必要があった。ローマと同盟関係を結ぼうとしても、帝国では内紛が続いていて、誰を信用していいかまるで分らない。かたや、エジプトのプトレマイオス家内部でも、親族間で暗殺が横行していて、成人まで生き延びられればいいほう。弟すらも信用できなかった。

 クレオパトラはぐるりと敵に囲まれているようなものだったが、戦略家の才を発揮して、どうにか生き延びていく。むしろカエサルやアントニウスといったローマの権力者を手玉に取って、自らの地位を確固たるものにしてしまう。様々な危難が次々に訪れるわけだが、周囲をあっと言わせてピンチをチャンスに変えてしまうところなどは、読んでいて痛快だった。

 伝説になるだけあって、まさに波乱万丈の生涯である。ひとりの人生というだけでなくて、その生き方が世界を巻き込んでしまうところがすごい。本当に個人が歴史を動かしていた時代があったんだなあと圧倒されてしまう一冊だった。
nice!(13)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

リンカン/アメリカを変えた大統領 [伝記(外国)]


リンカン―アメリカを変えた大統領

リンカン―アメリカを変えた大統領




 アメリカの第16代大統領エイブラハム・リンカンの伝記。

 貧しい開拓地で生まれたリンカンは、辺境の地を渡り歩き、田舎で斧を振りまわす生活を送ってきたが、やがて弁護士になり、地方政治家になり、めきめきと頭角を現すようになる。何度か選挙には敗れながらも、人並みはずれた雄弁術と人柄が人々の心を打ち、とうとう大統領に就任する。

 まさにアメリカンドリームを地で行くような人生なんだけれど、大統領就任後からが本当の苦難の始まりだったらしい。リンカンは当時問題となっていた奴隷制度をどうするか、対処をすることが急務であった。

 当時のアメリカでは奴隷制度をめぐって国を二分するような激しい議論が沸いていた。南部の人々は奴隷を使用することは神から与えられた権利であると主張。黒人たちは足かせをはめられて船で連れてこられて、奴隷小屋に住まわせられた。物のように扱われて、綿花の栽培のためにむりやり働かされた。この奴隷制度を認めるかどうかで、北部と南部で対立が深まっていた。

 リンカンはもともと熱狂的な奴隷廃止論者だったわけでもない。いきなり全州で奴隷を廃止すると、アメリカが分裂してしまう危険があるので、すでに奴隷制を認めている南部に限って奴隷制度を維持して、これ以上奴隷制が広がらないようにするという妥協案を主張していた。

 だが、その妥協案も実を結ばなかった。南部の人々はどんな州にせよ奴隷制度を認めないのはおかしいと断固として主張を曲げず、リンカンが大統領に就任するや、アメリカから独立することを宣言。南部連合国という新しい国を作ってしまった。こうして南部と北部との戦いの火蓋が切って落とされ、就任早々戦争が始まってしまう。

 予想外に戦争が長引いて大勢の血が流される中で、苦悩するリンカン。南北の対立を永劫的に解消するためには、妥協するのではなく、むしろ思い切って全州にわたって奴隷解放を推し進めることが重要だと決断。奴隷解放に向けて、さらに苦しい戦いに挑む。

 リンカンの奴隷解放にいたるまでの苦難の道のりが描かれていて、読み応えがある内容。リンカンも最初は妥協することを考えていたが、だんだんと意識が変わっていったというのは知らなかった。リンカンの考えが変わっていく過程が描かれていて興味深い。

 当時としては奴隷がいることが当たり前という風潮だった。奴隷解放などと主張すれば、頭のおかしなやつだと思われて、槍玉に挙げられて孤立しただろう。そんな時代に、悪戦苦闘しながらも人々の意識を変え、アメリカ中を巻き込んで国の根本を変えてしまったのだから偉大である。

 現代社会もこういう昔の人々の苦難の歴史の上に成り立っているのだなあと考えさせられて、感慨深い本だった。
nice!(18)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

人生の奇跡/J・G・バラード自伝 [伝記(外国)]


人生の奇跡 J・G・バラード自伝 (キイ・ライブラリー)

人生の奇跡 J・G・バラード自伝 (キイ・ライブラリー)




 J・G・バラードというSF作家の自伝。読んでいてこんなにユニークな人生を送った人がいたのかと驚かされる、興味深い本である。

 バラードは1930年の上海生まれ。イギリス人だが、父親が上海の会社を経営していた関係で、上海に生まれ育つことになった。上海には外国人たちが暮らす共同租界と呼ばれる地区があって、バラードの一家はそこで豊かな生活を送っていた。パーティーや社交クラブ、映画三昧の、贅沢な日常を繰り返していたらしい。セレブ生活を絵にかいたような世界だ。

 だが、その周りには厳しい現実も広がっていた。飢餓に洪水に内戦、荒廃した中国世界が横たわっていたのである。

 当時は戦争に進みゆく時代でもあった。日本軍が侵攻してくると、バラードらイギリス人の生活も変化を余儀なくされてしまう。日本軍は上海を占領。中国軍と日本軍との衝突が続き、近隣でも激しい戦闘が繰り広げられた。

 やがて日本がアメリカに宣戦布告をすると、ますます状況は悪化。イギリス人たちの華々しい社交生活はとうとう終わりを遂げる。一家は日本軍に逮捕されて、捕虜として収容所に入れられてしまう。バラードはこの収容所、龍華収容所でたくましく生きていくことに……。

 何不自由ない生活から一転、厳しい収容所生活を送ることになってしまったバラード。時代の波に翻弄される人々の姿が描かれていて惹きつけられる。

 戦時下の中国はこんなだったのかとか、収容所の生活の様子だとか、日本兵はこういう行動をとっていたのかとか、当時の状況が非常に丁寧に描写されている。体験者にしかわからない生き生きとした内容といえるだろう。

 戦争の話だからもっとウェットな感じになりそうなものだが、バラードの文体はドライな筆致で描かれてあって、冷静な目でもって物事をとらえている感じが面白い。収容所生活も食糧不足で苦しかろうに、つらい反面、収容所内で楽しみを見いだそうとしている姿も見られたりして、そのたくましさには驚かされる。

 戦争がどのようにして終わったのか、収容者たちがどのように解放されたのか、戦争後のイギリスでの生活なども描かれている。

 バラードは戦争が終わってはじめて、イギリス世界を目にすることになるが、そこでの生活もまた異質なものであった。イギリスの階級社会の現実など、初めて目にするイギリスの慣習に、ショックを受けることに。イギリス人でありながら、イギリスを客観的に眺めてしまうバラード。自らのアイデンティティの置き場がなく、アウトサイダーとして生きざるを得ない、そんな人生観みたいなものも見えてきて興味深かった。
nice!(11)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

イエスの生涯 [伝記(外国)]


イエスの生涯 (新潮文庫)

イエスの生涯 (新潮文庫)




 遠藤周作が描くイエス・キリストの生涯。

 イエス・キリストが行った奇跡の部分ではなく、とくに人間的な生涯に焦点を当てて書かれた本。読みやすい伝記本で、これを読むとイエスが独自の信仰を持つようになった経緯や、生涯どのようなことをテーマにしてきたかがよく分かる。

 とくにイエスが現れた当時の社会背景が丁寧に解説されているので、イエスがなぜ人々を惹きつけ、殺されるに至ってしまったのかが社会とのかかわりの中でも分かるところが面白い。

 当時のパレスチナはローマ帝国の属国だった。ユダヤ社会はローマからの弾圧を受けていて、ローマに対する群集の憎しみがうずまいていた。人々は待ち望んでいた。ローマに反旗を振りかざし、ユダヤを解放してくれる救世主を。

 イエスが現れたのはこうしたローマとユダヤが対立する情勢の下でだったのだそうだ。やがて人々はイエスに自分たちの夢を仮託するようになる。群集の一部は自分たちがローマに反乱を起こしたら、イエスが指導者になってくれるかもしれないと期待した。イエスは徐々に民族主義者たちの夢の存在になっていく……。

 そんなイエス人気にローマは警戒する。反乱を恐れるローマとローマからの恩恵を受けているユダヤの支配階級は、イエスの動向を監視し、不穏な動きがあれば逮捕しようと画策する。だが、実際にはイエスはローマ反乱の指導者になるつもりなどなかった。彼はただ神の愛を人々に説きたかった。人々に慰めを与え、自らの信仰を伝えたかったのだ。

 イエスはそれまでの宗教の教えに疑問を感じていた。悔い改めよといって神の怒りを説くのが当時の宗教の教えだったが、神はただ人々に怒り罰するだけではなくて、哀しい人々に愛を注ぐために存在するのではないのか? 神の愛の証明というのがイエスのテーマになっていくが、人々は神の愛ということが理解できなかった。最後の晩餐のときに、イエスの真意が神の愛にあることが分かると、群衆の期待は失望へと変わってしまう。

 本書を読むと、イエスが群集からの支持を集めていたのは、貧者や病気の者に対する慰めだったり、奇跡だったりを行ったからというのもあるけれど、一部の民族主義者の誤解のようなものもあったんだなあというのが見えてくる。

 群集の誤解や失望、ローマやユダヤの政治的な思惑などが解説されていて、非常に読み応えのある本。神秘的な側面を描いた本なのかなと思ったらそうではなくて、人間的な部分に絞って描かれている。キリスト教にはなじみが薄かったので、いろいろと勉強になる本だった。
タグ:遠藤周作
nice!(10)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ナポレオンに背いた「黒い将軍」 [伝記(外国)]





 アレクサンドル・デュマは「三銃士」「モンテ・クリスト伯」などで知られる文豪だが、デュマの父親もまた偉人だったんだそうだ。

 その名もアレックス・デュマ。フランス革命前の時代に生まれ、数奇な人生を歩んだ風雲児。有色人種として生まれ、将軍にまで上り詰めた男。

 本書は、そのデュマ将軍の人生を描いた伝記もの。読んでみると、まるで冒険活劇を読むような怒涛の展開で、アレクサンドル・デュマの小説を地で行くような内容に驚いた。

 もともとデュマ将軍が生まれたのは、サン・ドマングというカリブ海に浮かぶフランスの植民地。黒人奴隷たちを使ってサトウキビ栽培をしていた場所。デュマ将軍は、この地で、フランス人侯爵の父親と黒人奴隷の母親との間に生まれる。

 有色人種として生まれたため、差別の風当たりは強く、苦悩する日々を送っていたわけだが、フランスに渡ってからデュマ将軍の運命は新たな方向へと向かう。当時のフランスは、革命に突入しようとしていた時代。身分や人種の違いを超えて、平等な社会を作りだそうという機運にあふれていた。出自に関係なく、能力さえあれば這い登っていくことのできる社会。

 そんなフランス社会にあって、デュマ将軍は、持ち前の隆々たる体格と、剣士としての腕前で、めきめきと頭角を現し始める。フランス軍に入り、一気に将軍にまで上り詰めてしまう。やがて、フランスの英雄ナポレオンとも共に戦うほどになり、エジプト遠征にも参加したというから、大出世といえるだろう。

 だが、デュマ将軍は、高潔で理想家肌な側面を有してもいた。しばしばナポレオンと衝突するようにもなる。ナポレオンの軍勢が占領地で略奪を繰り返したり、ナポレオン自身が横暴な態度をとったりすることに我慢がならなくなったのだ。仲間であるはずのナポレオンとたもとを分かつようにもなり、やがて、悲劇的な運命から、デュマ将軍は捕虜となって牢獄に囚われる身の上となってしまう。

 本書を読むと、「三銃士」「モンテ・クリスト」のルーツは実はこのデュマ将軍であることが見えてくる。勇猛果敢で、1日に3人と決闘をするダルタニアンだったり、牢獄に囚われて苦悩するエドモン・ダンテスだったり、デュマの小説の主人公は、父親のデュマ将軍の人生が投影されたものだったのだ。「三銃士」も「モンテ・クリスト伯」も、好きな本だったので、意外な原点が分かって面白かった。

 また、デュマ将軍の生涯を通じて、当時の歴史を学ぶことができるところもよかった。フランス革命はどのようにして起こったのか? 革命から恐怖政治にどのように変化していったのか? ナポレオンの活躍とはどのようなものだったのか? 当時の雰囲気が生き生きと目に浮かぶように描かれていて、非常に分かりやすく歴史の流れを知ることができる。

 伝記としても面白いし、歴史の勉強にもなるという、非常にためになる一冊。デュマの小説もまた読み返したくなってきた。 
nice!(14)  コメント(0)  トラックバック(1) 
共通テーマ:

アンネの日記 [伝記(外国)]


アンネの日記 (文春文庫)

アンネの日記 (文春文庫)




 ナチス占領下のオランダに隠れ住んだ少女、アンネ・フランクの日記。

 アンネ・フランクの一家は、もともとはドイツフランクフルトに在住していたユダヤ人の家族。ナチスが台頭するようになって、ユダヤに対する弾圧がはじまったため、オランダに亡命することになった。

 だが、やがて亡命先のオランダにもドイツ軍が進駐して占領下に置くようになると、この地でもユダヤ人に対する迫害が始まってしまう。ユダヤ人の自由を制約する法令が次々に出されるようになって、娯楽などは制限され、自由な外出も禁止される。ナチスの親衛隊SSから、呼び出し状が届いて連行されることもあったらしい。その行く先は強制収容所などだった。

 アンネの姉のところにこの呼び出し状が届いたため、一家は逃亡を決意。前からひそかに準備を進めていたアンネの父親の事務所を隠れ家にして、潜伏生活を始めることになる。

 アンネの日記は、このときのアンネの隠れ家での日々の様子を詳細につづったものだ。ナチスの目を逃れて暮らす一家の、苦難の生活が伝わってくる。

 誰かに聞きつけられないかと少しでも音を立てるのが怖い。窓から外を見ることもできない、閉塞的な生活。誰かが家の中に入ってきたときなどは、隠れ場所が見つからないかとぞっとする瞬間も……。

 食料などは地下組織の援助も受けながら、闇市場から調達していたらしい。しかし、支援してくれる人もドイツ人につかまったりして、食料供給が途絶えてしまうこともあったという。必要な物資も事欠き、食料さえ乏しい状況が続き、戦時下のユダヤの人々がこんな苦労をしてきたのかというのが見えてくる。

 ただ、この日記はこうした恐怖の感情だけが描かれているわけでもない。潜伏生活の中でも、アンネは何か楽しいことを見つけては日記に記録していて、遊んだり、本を読んだり、親と喧嘩したり、少年との恋愛だったりといった日常の風景も書かれている。戦時下で恐怖の日々の合間とはいえ、生き生きとした生活を送ってもいたんだなあということがわかる。

 英米両軍も上陸してきて、ドイツは劣勢に追い込まれていったのだから、戦争が終われば彼ら一家も解放されるはずだったろう。だが、現実は厳しいもので、終戦を目前にして、アンネの日記は途中でふっつりと途絶えてしまうのだった。

 普通の人間的な暮らしをしたいだけの、どこにでもいるような少女であるのに、ユダヤ人というだけで迫害されなければならない不条理さ。戦争というのは、戦争をはじめた大人たちだけでなくて、こういう無邪気な子供たちも巻き込まれてしまうんだという、当たり前だが、冷酷な事実を突きつけられる本だった。
nice!(10)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ナチが愛した二重スパイ [伝記(外国)]


ナチが愛した二重スパイ

ナチが愛した二重スパイ




 第二次大戦中に英独の二重スパイとして活動した、エドワード・チャップマンという人物を描いたノンフィクション。

 チャップマンの戦時中の活動に関しては、これまでイギリスのMI5の秘密公文書の中に封印されていて、日の目を見ることがなかった。だが、2001年に機密扱いが解かれて公文書が公開されると、その驚くべき活動の全容が明らかとなる。本書はその公文書に基づいて事実をまとめた一冊である。スパイ映画さながらのスリリングな情報戦が繰り広げられていて、こんなことがあったのかというようなことがたくさん書かれてびっくりさせられた。

 チャップマンはもともと、ロンドンを根城に、詐欺・恐喝・売春・金庫強奪などあらゆる犯罪に手を染めてきた犯罪者だったそうだ。彼は戦争が始まる前に、警察に捕まってジャージー島の刑務所に収監されていたが、戦争が始まってしばらくすると、島自体がドイツ軍に占領され、刑務所もドイツの管理下におかれてしまう。

 チャップマンの運命もドイツの手にゆだねられることになったわけだが、ドイツはチャップマンの犯罪の素養とドイツ語能力等を高く買い、ドイツのスパイとして使えるんじゃないかと考え始める。その目的は、チャップマンをイギリスに送り込んで、破壊工作を行ったり、イギリス現地の情報収集をさせること。

 チャップマンは多額の金銭的報酬と引き換えに、ドイツの要求をのみ、スパイとしてイギリスに潜入することに決まる。こうして、様々な訓練を経た上で、イギリスに戻ることになったチャップマン。飛行機に乗ってイギリスの上空でパラシュート降下する……。

 だが、実際にはチャップマンの潜入計画はイギリスには筒抜けだった。イギリスの暗号解読班が、ドイツで交信されていたチャップマンに関する無線の暗号文をすべて解読していたのだ。だから、チャップマンはイギリスに来ると、すぐにイギリス当局に捕まってしまう。

 チャップマンを捕まえたイギリスも、この機会を逃さなかった。さすがは陰謀に長けた国といえよう。チャップマンがドイツの諜報機関から絶大な信頼を得ていることを逆手にとって、二重スパイとして利用することを思いつくのだ。ドイツに偽情報を流したり、チャップマンをドイツに帰してドイツの様々な軍事情報を獲得しようという狙いである。

 こうして始まった二重スパイ作戦は、まさに007やミッション・インポッシブルを地で行くような話で面白い。

 ドイツを欺くための様々なしかけ。チャップマンが見聞きしたとされるイギリス国内の嘘の情報をでっちあげてドイツに流したり。チャップマンが破壊工作に成功したと思わせるために、イギリスの工場を爆破したようなカムフラージュ作戦を行ったり。実際には存在しない秘密兵器をイギリスが持っているというメッセージを流して混乱させたり。ここまでするかというくらい徹底した欺きの手口が続々出てきて、圧倒されてしまう。

 イギリスとドイツの諜報部門についても詳しく触れられていて、当時の諜報戦の実態が生き生きと描かれ、こういう雰囲気だったのかというのが見えてくる。

 戦争によって運命を翻弄された人々の記録。これ一冊の中に貴重なことがたくさん書かれているなあと感嘆した。
nice!(11)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ツタンカーメン 死後の奇妙な物語 [伝記(外国)]


ツタンカーメン 死後の奇妙な物語

ツタンカーメン 死後の奇妙な物語




 1922年、考古学者の八ワード・カーターは、エジプトの王家の谷でツタンカーメン王の墓を発見する。墓の内部はいくつかの部屋に分かれていて、彫像や家具、壺、黄金に輝く品々などがところせましと置かれていたという。奥にある埋葬室に進むと純金製の棺が据えられており、蓋を開けると見つかったのが、黄金のマスクをかぶったツタンカーメン王のミイラだった。

 ツタンカーメン王のミイラの発見のニュースは世界中を駆け巡り、センセーションを巻き起こす。ツタンカーメンブームまで起こり、観光客がエジプトに押し寄せるようにもなった。人々を魅了したのは、古代の歴史を巡るロマン、それに、ツタンカーメン王のミイラにまつわる数々の謎であったろう。

 ツタンカーメン王には、解明されていないミステリーがひそんでいた。そもそも、ツタンカーメン王は誰の子供なのか? 歴代の王たちとはどのような家系的なつながりをもっていたのか? また、いったいどのようにしてツタンカーメン王は死んだのか? ひょっとしたら権力闘争の陰謀によって殺されてしまったのだろうか?

 本書は、こうしたツタンカーメンをめぐる謎について解説した本である。墓の発見当時のエピソードから現代の科学分析にいたるまで、発見と探求のエピソードを網羅している。

 本書を読むと、これまで考古学者らは数々のそれらしい仮説を立ててきたことが分かる。ツタンカーメンは毒殺された、マラリアで死んだ、カバに殺された、戦いで命を落としたなどなど……。ツタンカーメンはキリストだったなどという珍説まで現れたそうだ。だが、どれも決め手はなく、長年にわたってツタンカーメンの謎は古代史のミステリーとして人々を惹きつけ続ける。

 時代が移り変わるにつれて、考古学の調査も技術的な革新が進むようになってきた。レントゲンによる画像解析にはじまり、CTスキャンによってミイラの内部を立体的に見ることができるようにもなった。また、DNA解析の技術も生まれ、DNAを分析することによって、家系をたどる試みもなされるようになった。

 こうした最新の科学調査によって、ツタンカーメンの謎が少しずつ明かされ始めようとしている。本書の眼目はまさに、このあたりのツタンカーメン研究の最新の知見にあるといえるだろう。DNA鑑定やCTスキャンの結果から、ツタンカーメンの家系と死因について新たな仮説が生じてきたのだ。

 興味深かったのは、現代の最新技術を使ってもなお謎が残るということだった。DNA鑑定といっても絶対的なものではない。古代のミイラのDNAを分析すること自体、相当難しいことのようなのだ。DNA自体がほとんど残っておらず、サンプルを得るのがそもそも難しい。また、作業員が素手でミイラを触っていたり、作業員の汗が付着したりして、サンプルが汚染されてしまい、誤った解析結果が生じることもありうるのだ。ミイラのDNA鑑定の可能性に懐疑的な科学者もいるという。

 ツタンカーメンを巡る考古学上の喧々諤々の議論が出てきて、なかなか読みごたえがある一冊。結局、謎は謎のまま。古代史のミステリーとして今後も研究が必要であることがよく分かる内容である。

 ツタンカーメン王以外の古代エジプトの歴史にも若干触れられていて、興味深いエピソードがちらほら。本書を読んで、ほかにもいろいろとエジプトの歴史について調べてみたくなった。
nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ナポレオン [伝記(外国)]


ナポレオン (ビジュアル選書)

ナポレオン (ビジュアル選書)




 ナポレオンの伝記を読みたくて、いろいろ調べてみたのだが、歴史上の英雄の割には意外とめぼしい本が少なくて残念……。そんな中で、入門書として格好の本として見つかったのがこの本だった。

 ナポレオンの生涯がコンパクトにまとまっている本なのだが、かといって物足りない感じでもなくて、無味乾燥な説明でなくて、人間味のあるエピソードがたくさん描かれている。

 ナポレオンの少年時代、雪合戦で非凡な戦略の才能を発揮する話とか、フランスの政治が混乱する中でクーデターを起こして皇帝になる話とか、エルバ島に流されたあと、島を脱出し危険を覚悟でパリに戻る道中、抵抗にあうどころかナポレオンを慕う人々からの歓迎を受けるエピソードとか、豊富なエピソードが盛り込まれていて非常に興味深かった。

 もう少し話を膨らませたら、すごいドラマになるんじゃないかという話が盛りだくさん。ナポレオンの生涯は本当に山あり谷ありという感じで、どん底に沈んだと思ったらまた返り咲いたり、波乱万丈の面白い人生を歩んだ人だというのがよく分かる。

 歴史上のナポレオンの存在の意味についても詳しく解説されている。

 ナポレオンは、田舎貴族の家の生まれで、これまでの旧態依然とした身分社会であればそんなに高い地位にはいけなかったはずである。だが、当時はフランス革命の真っ只中、生まれよりも本人の才能が重視される世の中に変わってきた。軍事的・政治的才覚を遺憾なく発揮して、めきめきと頭角を現し、皇帝の地位にまで上り詰める。だが、生まれながらの平等という革命の精神は、諸外国にとっては危険なものでもあり、フランスは全ヨーロッパを相手に戦いを繰り広げざるを得なくなる。

 ナポレオンがどんな世界を理想として考えて、どのように世界を変えようとしたのか、ナポレオンの生き様が見えてくる良書。関連する絵画などもたくさん載せられていて、イメージしやすいところもよかった。
タグ:安達正勝
nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

死刑執行人サンソン [伝記(外国)]





 フランスで代々死刑執行の職務を果たしてきたサンソン一族の4代目シャルル-アンリ・サンソン。彼もまた死刑執行人の仕事に就くが、その生涯は波乱に満ちたものであった。ときは、フランス革命の前夜。サンソンは、フランスの社会が大きく変動しはじめるのを目の当たりにする。しかし、彼は自らが革命の象徴ともいうべき存在となって、歴史に名を残すことになることとは思ってもみなかっただろう。死刑執行人として、フランス国王ルイ16世の首をはねることになるとは――。

 フランス革命の時代を生きた死刑執行人シャルル-アンリ・サンソンの生涯を追った人物伝。

 国王やマリー・アントワネットの首がはねられたということは知っていたが、こういう人物が関わっていたというのは初めて知ったし、当時の死刑執行人の生活が詳しく書かれていて、興味深い。

 サンソンが職務についたころのフランスの死刑執行というのは、刀で死刑囚の首を切るという斬首刑だった。執行人には熟練した技術が要求され、人体構造にも熟知している必要があった。ちょっとした気の迷いがあると、違う場所を傷つけてしまい、死刑囚を苦しめることになるので、強靭な精神力も要求された。

 裁判所の判決に従っての執行ではあるが、サンソン一族に対する世間の風当たりは強かったようだ。公然と差別されて、不吉な存在だとして避けられ、人づきあいもかなり制限されていたそう。収入は多かったものの、その評判は社会の底辺の人間として扱われていたらしい。

 サンソン自身も、死刑執行が仕事とはいえ、心理的な葛藤はかなりあったようだ。とくに、フランス国王ルイ16世のことをサンソンは敬愛していて、国民のことを考えてくれる善良な王だと考えていた。だから、革命によって自ら王様の死刑執行をしなければならなくなったサンソンは、精神的な苦しみを味わいぬくことになる。

 フランス革命の時代の波にもまれたサンソン。彼の人生を読み進むうちに、フランス革命の流れが見えてくる。革命前夜のマリー・アントワネットの首飾り事件、ギロチンの登場、フランス革命の勃発とルイ16世の死、王政廃止と国民公会の登場、そして恐怖政治への突入……。

 ところどころ物語風に語られていて、フランス革命の出来事が目に見えるように生き生きと描かれている。数奇な運命に満ちた、異様なエピソードが満載されていて、現実にこんなことがあったのかと驚いた。

 読んでいて、なにより、サンソン自身の人間的な魅力を感じさせられる。囚人に対する優しい眼差しや、ルイ16世に対する忠義の念には思わず敬服してしまうし、革命に対してもいろいろと複雑な感情を持っていたようだ。死刑執行人でありながら、死刑制度に対して懐疑的な思いを抱いてきたサンソン。歴史に翻弄された彼の人生は、悲哀と苦しみに満ちていて、壮絶な生き様だなあとうならされた。
タグ:安達正勝
nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

世界を変えた10人の女性 [伝記(外国)]


お茶の水女子大学特別講義 世界を変えた10人の女性

お茶の水女子大学特別講義 世界を変えた10人の女性




 池上彰が、世界に影響を与えた10人の女性に焦点を当てて、それぞれの人生と世界を変えるに至ったいきさつについて解説した本。

 取り上げられているのは、アウンサンスーチー(政治家)、アニータ・ロディック(女性実業家)、マザー・テレサ(修道女)、ベティ・フリーダン(女性解放運動家)、マーガレット・サッチャー(元英国首相)、フローレンス・ナイチンゲール(看護教育学者)、マリー・キュリー(物理学者・化学者)、緒方貞子(元国連難民高等弁務官)、ワンガリ・マータイ(環境保護活動家)、ベアテ・シロタ・ゴードン(元GHQ職員)の10人。

 それぞれの人物の出身、どのような活動を行ってきたのか、世界にどのような影響を与えたのかについて、池上彰らしい分かりやすい説明がなされている。

 とくに時代背景や地理的な側面についても丁寧に解説されていて、10人がどうしてめざましい活動を行うようになったのか? その理由がくっきりと浮かび上がってくるところは見事。各人物の話と離れて、背景事情だけ読んでいても面白いほどだった。

 ナイチンゲールやキュリー夫人などは伝記などでも有名だが、あまり知らないような人も交じっていて、どんな影響を与えた人なのか興味しんしんで読んでしまった。

 中でも面白かったのは、イギリス化粧品会社「ザ・ボディショップ」の経営者アニータ・ロディックの話。まさにビジネス界のサクセスストーリーという感じで爽快感があるし、利益を追求するだけでなく、社会貢献活動の面でも目覚ましい活躍を見せていることも分かって、世界にはすごい人がいるなあと驚いた。

 ベアテ・シロタ・ゴードンの話も、日本国憲法の成立の経緯が書かれていて、どのような思いで憲法が作られていったのかが伝わってくる興味深い内容だ。

 池上彰らしい分かりやすい本で、サクサクと読めるけれども、歴史や地理についての記述も豊富で学ぶところの多い本。世界の偉人についていろいろな角度から書かれていて、どんなに評価の高い人にも明暗両面があるんだよということも示されていて、偉人の意外な側面が見られたのもよかった。
タグ:池上彰

単独飛行 [伝記(外国)]


単独飛行 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

単独飛行 (ハヤカワ・ミステリ文庫)




 作家のロアルド・ダールは、戦時中、アフリカギリシャイギリス空軍のパイロットとして飛び回っていた――。ダールが戦地で送った数々の出来事を振り返った自伝。

 石油会社シェルの社員として、アフリカのタンザニアで勤務していたダール。赴任して間もなく、ドイツとイギリスが戦争を始めるという情報が流れてきて、やがて宣戦布告がなされる。

 当時のアフリカではイギリス人が少なかった。人員が不足していたことから、ダールは現地での陸軍将校に突然任命されてしまう。軍事訓練などまるで受けたことがないのに、精鋭部隊の指揮をゆだねられ、現地にいるドイツ人の流出を食い止めるよう命じられたのだ。

 やがて、ダールはイギリス空軍に入り、ギリシャや中東などで飛行士としてドイツ軍と戦うことになる。

 ここでもやはり、十分な訓練も積まないうちに、単独飛行をさせられ、いきなり実戦ということになったそうだ。わずか15機ほどの飛行機で、ドイツ軍の500機の戦闘機と500機の爆撃機を相手にしなければならなくなるなど、かなり無茶苦茶である。

 飛行中にも、6機のユンカース爆撃機に遭遇して撃墜されそうになったり、敵機の追跡をかわすために地面すれすれの超低空飛行を繰り広げたりと、まさに死と隣り合わせ。

 民間人の視点から戦争の始まりを描いていて、戦争というものがこんな風にして始まっていったのかということが見えてくる内容。当たり前だが、戦争が起こると普通の民間人であろうともいきなり戦地にやられて、敵国の人間を攻撃することが強いられたりする。とくに憎んでいるわけでもない相手でも、突然殺さなければならなくなる。そういう戦争の不条理のようなものが伝わってくる。

 空軍というものは、もっと十分に訓練を積んだうえで、実戦に向かうのかと思っていたら、そうではなくて、次々に新人を戦地に投入する様子が描かれている。ギリシャの戦争というのも知らなかったので、いろいろと驚くようなことが書かれていて、興味深かった。戦争に熱狂しているわけでもなくて、かなりクールな視線で戦争が見つめられていて、当時のイギリス人というのはこんなだったのだろうか。

 後年作家として名を馳せることになるダール。「チョコレート工場」とかミステリー小説とか、作家の部分からダールを知ったので、ダールが若いころにずいぶん危険な目にあい、奇跡のような生還を果たしたことが分かって、人生の不思議さを感じさせられる。いろいろな人生があるなあと、思わず感慨にふけってしまった。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:
伝記(外国) ブログトップ