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殿さまの日 [歴史小説(日本)]


殿さまの日(新潮文庫)

殿さまの日(新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • メディア: Kindle版



 星新一というとSFショートショートが有名だが、「殿さまの日」という本には、江戸時代を舞台にした作品が収められている。どれもショートショートではなく、結構長さのある短編だ。

 題材は多岐にわたっている。殿さまの生活、敵討ち、生類憐れみの令、ねずみ小僧、藩医、忠臣蔵、書物奉行などなど。

 様々な階級の主人公が出てきて、さながら架空の人物伝といった趣。かなり詳しく当時の研究をしたようで、江戸時代の人々はこんな生活をしていたのかというのが垣間見えて、興味深かった。

 表題作の「殿さまの日」は、ある藩の殿さまの苦労を描いた話。江戸時代の殿さまも、平和な時代だったとはいえ、結構悩みが多かったようだ。悩みと言っても戦の悩みではなく、藩の経営の悩み。江戸城の修繕費の捻出を命じられたり、参勤交代にお金がかかったりと、出費がかさんだらしい。収入は年貢頼みだったが、年貢を上げてしまうと農民が逃げ出してしまったり、一揆が起きたりしてしまう。財政を健全化するのが大変だったのだ。

 他にも、「元禄お犬さわぎ」は悪法と言われる将軍綱吉の生類憐れみの令を逆手にとって、一儲けしようという男たちの企み。「藩医三代記」は西洋科学の普及していない時代の医者が、毒草やまじないの知識を活用して、のし上がっていく話。「紙の城」は偽造文書作りの才能に恵まれた男が、周囲を騙していく話。

 こうして読むと、商売っ気のある主人公がうまく立ち回って、ひと儲けする話が多い。江戸時代を舞台にしたビジネス小説とも言えるんじゃないだろうか。

 星新一らしいところもあって、話の展開がストレートには行かない。どの作品も最後に皮肉な結末が待っていて、思わずにやりとさせられる。こういうところはいつもの星新一だなと安心して読めた。
タグ:星新一
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家康、江戸を建てる [歴史小説(日本)]


家康、江戸を建てる

家康、江戸を建てる

  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2016/02/08
  • メディア: Kindle版



 1590年、徳川家康は小田原征伐の報奨ということで、豊臣秀吉から関東八か国をもらいうけることになった。

 家康は江戸に城を築くことを決意するが、当時の江戸は築城には不向きな場所だった。

 北のほうから何本もの川が流れ込み、泥だらけの湿地帯となっている。遠浅の海が広がっていて、井戸を掘っても塩辛くて飲めたものではない。

 難儀な土地であるにもかかわらず、家康はこの地にこだわり、どうにか築城できないかと難問に挑む。

 川が流れ込んでくるなら、川の流れを変えてしまえばいい。飲み水がないなら、外から引っ張ってくればいい。そんな大胆な発想で、江戸の大改良工事をはじめることに……。

 江戸城と城下町が出来上がるまでの家康とその家臣らの悪戦苦闘ぶりを描いた歴史小説。江戸の町ができるまでにこんなにいろいろな苦労があったのかと驚かされる内容だ。

 連作短編集のような形になっていて、それぞれ「流れを変える」「金貨を延べる」「飲み水を引く」「石垣を積む」「天守を起こす」というタイトルがつけられている。各話ごとに異なるプロジェクトに挑戦する人々が描かれていて、人々の試行錯誤の様子が読んでいて楽しい。

 歴史小説は権力者や武人が主人公になることが多いけれど、本書は職人たちが主人公という珍しい小説といえる。難問奇問を知恵を使って乗り越えていく様子は、無類の爽快感だった。

 今の東京の姿がこんなふうに生まれていったのかというルーツが分かるという意味でも興味深い小説。いろいろと知らない話が多かったので、とても勉強になった。
タグ:門井慶喜
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平の将門 [歴史小説(日本)]


平の将門 (吉川英治歴史時代文庫)

平の将門 (吉川英治歴史時代文庫)

  • 作者: 吉川 英治
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1989/05/09
  • メディア: 文庫



 東京の大手町に平将門の首塚というものがある。

 伝承によると、平将門は朝廷に反旗を翻すが、藤原家の討伐軍に敗れ、京の三条河原でさらし首になってしまう。将門の首は「身体とつながって、もう一戦交えよう!」と夜な夜な叫んでは夜空に舞い上がり、京の町から生国の関東にも飛んで帰ってきたのだとか。首の落ちた場所として有名なのが、大手町の首塚なのだ。

 首塚には怨念やら祟りの逸話がいくつも残っていて、この土地に大蔵省の仮庁舎を建てようとしたら関係者が次々に病死したとか、進駐軍が土地整備をしようとしたら運転手が亡くなったとか、不可解な出来事も起きたらしい。

 そんな恐ろしい伝承がたくさんあるし、日本の三大怨霊などとも呼ばれているので、将門は随分怖い人だったんだなあというイメージがあった。

 しかし、本書を読むと、そのイメージは刷新される。吉川英治は、平将門を人を信じやすい純朴な人物で、強きを挫き弱きを助ける、愛すべき人物として描いているのだ。

 桓武天皇の系譜に連なる由緒ある生まれでありながら、叔父たちの策謀によって一族から目の敵にされ、父の土地や財産を奪われ、不遇の時を過ごす将門。やがて血族間のいざこざは生死をかけた血みどろの争いへと発展していく。

 将門は素朴に親の土地を受け継いで、家業を発展させたかっただけであったが、周囲の仕打ちがあまりにも非道で、将門を殺そうとしたりもするので、争いにならざるを得なかった。戦に勝利して勢いづくと、今度は将門を脅威とみなした勢力が将門を征伐しようとやっきになる。

 この本を読んでいると、将門はかわいそうな人だったんだなあと、将門をつい応援したくなってくる。復讐に燃える将門に感情移入してしまう。そんなふうにうまく書かれている。

 平安時代というのは随分物騒な時代だったというのも見えてくる。貴族的な優雅な世界なのかなと思っていたが、優雅なのは藤原家などの貴族階級だけで、一般庶民は貧窮にあえいでいたし、人身売買なども普通にあったらしい。華やかに見える京の都も、その裏側には群盗が跋扈する奇怪な世界が広がっていたんだとか。当時の時代の雰囲気はこんなだったのかというのが分かるところが面白い。

 世界観は現代とはかなり異なるのだけれど、今の時代にも通じるような人々の思いというのもあって、今も昔も変わらないものがあるのだということを教えてくれる本。過去の時代の人々の息遣いが生々しく描かれていて、うまく書かれているなあと感嘆してしまった。
タグ:吉川英治
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ラ・ミッション/軍事顧問ブリュネ [歴史小説(日本)]


ラ・ミッション ―軍事顧問ブリュネ―

ラ・ミッション ―軍事顧問ブリュネ―

  • 作者: 佐藤 賢一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/02/26
  • メディア: 単行本



 フランス人軍事顧問ジュール・ブリュネの視点から描いた戊辰戦争。鳥羽伏見の戦いから五稜郭の戦いまで、幕末の戦いをドラマティックに伝えている。

 ブリュネは江戸幕府の陸軍を近代化するために、フランスから派遣された軍人。砲兵科の教授で、日本で兵学校を設立する予定になっていた。ところが、派遣されてみると、徳川慶喜が大政奉還をしてしまっていて、旧幕府軍と明治新政府軍との間で戦闘まで勃発していることが分かる。いやおうなしに戦争に巻き込まれていくブリュネ。彼は徐々にその中で重要な役割を果たすことになる。

 幕末ものだが、フランス人の視点から描かれているので、一味ちがった幕末ものになっている。イギリス、フランス、アメリカ、オランダといった諸外国が、当時日本をどのように見ていたのか、外国から見た日本という視点で幕末が描き出されているところが新鮮だ。

 戊辰戦争にはイギリスが深く関わっていて、薩長にイギリスが肩入れして、日本がイギリスの傀儡になる可能性があったという話や、フランス、アメリカといった諸外国がイギリスの動きを封じる役目をしていたという話など、外国の動向が日本の歴史を大きく左右してきたことが分かる内容になっている。

 もちろん、主人公のブリュネの活躍を描いた本としても楽しめる。フランス人という外部の人間として日本に来たにもかかわらず、日本で友人もでき、教え子もでき、伴侶も得て、徐々に日本に愛着がわいていくブリュネ。イギリスとの戦いは立場として避けるべきであるはずなのに、旧幕府軍の友人たちの姿を見るにつけ、戦いへの意欲を燃やしていく……。

 フランス軍人としての立場と日本への友情との間の板ばさみとなって、苦しむことになるブリュネの葛藤と、戦争に参加するにいたるまでの心の動きが丁寧に描かれていた。

 視点を変えることで、見える世界が広がってゆく。フランス人の目から見た幕末の日本。外国との関係など知らなかったこともいろいろ書かれていて、興味深い一冊だった。
タグ:佐藤賢一
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赤ひげ診療譚 [歴史小説(日本)]


赤ひげ診療譚 (新潮文庫)

赤ひげ診療譚 (新潮文庫)

  • 作者: 山本 周五郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1964/10/13
  • メディア: 文庫



 長崎に遊学して蘭方医学を学んだ後、江戸に帰ってきた若き医師、保本登。彼は幕府の御目見医として出世の道に進む予定であったが、なぜか小石川養生所という場所で見習い医をすることになる。養生所の医長である「赤ひげ」は一風変わった人物。貧民ばかりを相手にし、言動もがさつ、見習いの扱いも厳しい。保本はそんな「赤ひげ」に最初は反発をするが、次第に惹かれるものを感じ始め……。

 赤ひげと若き医師との心の交流を描いた作品。

 主人公の若き医師保本は、出世ばかりを気にする俗物的な人間だった。保本にとっては、赤ひげのところで働くのが苦痛で仕方がない。患者の部屋も医員の部屋も狭くて牢屋のよう。畳すら置いてなくて、寒々としている。着るものも白の筒袖で牢屋の仕着みたいに見える。赤ひげはまるで養生所の独裁者。そんなふうに保本は考えて、ひとり酒を飲んでは憂さ晴らしをする日々を送っていた。

 だが、保本が赤ひげと接するうちに、赤ひげに対する印象がだんだんと変わり始めるのである。患者からの評判も悪い赤ひげだったが、実は患者たちに真摯に向き合っていることが見えはじめる。自分に厳しく、労を惜しまず、貧しい人間への情を貫く。赤ひげの豪胆な態度の裏に、医師としての理想の姿が見えてくるのだ。

 保本の赤ひげに対する印象が変わるにつれて、保本自身の態度も変わり始める。一見牢屋のように見える病棟にも、医学的な理由があることも分かり、彼は赤ひげのやり方を自分から進んで見習っていくようになる。そして、医師としての経験や見識を深めていく。

 教養小説というか、若い医師が徐々に変化して成長していく物語といえるだろう。保本の内面が変化して、今まで見えなかった世界が広がっていく。一人の医師がすくすくと伸びていく様子を描いていて、読んでいてすがすがしい気分になった。

 赤ひげと保本の交流というだけでなく、患者たちの物語でもある。連作短編集の形をとっていて、各短編ごとに奇妙な症状を見せる患者たちが登場する。その患者たちをふたりで診察するのだが、実は患者たちにはそれぞれ人には言えないような秘密を抱えていて、各話の終わりにその秘密が解き明かされるというしかけ。ミステリー仕立ての作品ともいえ、単純に物語としても面白かった。

 江戸の町の庶民の人々の人間ドラマを味わうことのできる名作。黒澤明が映画にもしているけれど、本書を読んで映画の方も久しぶりにまた観てみたくなった。
タグ:山本周五郎
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城のなかの人 [歴史小説(日本)]


城のなかの人 角川文庫 緑 303-8

城のなかの人 角川文庫 緑 303-8

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日: 1977/05/30
  • メディア: Kindle版



 豊臣秀吉の子、秀頼の生涯を描いた作品。

 星新一はSFショートショートで有名だが、こういう歴史ものの作品も残しているとは意外だった。実際に読んでみると、歴史上の人物が独自の視点で描き出されていて、歴史ものといっても星新一らしいひと味ちがう作品になっている。

 そもそも、秀吉のようなスーパースターではなく、あまりよく知られていない秀頼にスポットを当てているところ、その着眼点からして興味深いのだ。父秀吉の話ならよくドラマなどにもなっているけれど、「秀頼の生涯ってよく知らないなあ。どんな人生を歩んだのだろう?」と思わずひきつけられてしまう。

 「城のなかの人」とタイトルにもあるが、本当に秀頼は、城の中でぬくぬくと育っていった人らしい。大阪城で生まれた秀頼。幼いころから、豪華な建物の中で、調度品や芸術品に囲まれて育ち、侍女たちが世話をし、何不自由ない生活を送ってきた。まさに二代目のお坊ちゃん、御曹司といったところか。

 城の中の生活がすべてで、城の外がどんな世界なのかを知らない、世間を知らない若者。そんな秀頼が、秀吉亡き後、家督を継ぐことになるのだからたいへんだ。あれよあれよという間に、何もわからないまま偉い地位に担ぎ上げられてしまい、秀頼もあたふたしてしまう。政治や経済など何も知らないまま社会を動かしていかなければならない、その困惑ぶりが面白い。

 天下統一がいつまでも続けばそれでも問題なかっただろうけれど、波乱の世の中である。秀吉亡き後、権力を狙って徳川家康ら周辺の人間が、虎視眈々と秀頼の立場を危うくしようとするのだ。城の中でぬくぬくしていたはずの秀頼だったが、だんだんそうも言っていられなくなった。戦が始まるようになって、ようやっと城の外の世界の恐ろしさを目の当たりにすることになる―—。

 本当に城の中で育って生活して、最期を遂げていった人物だったのだなあと、こんな人生を送った人がいたのかと読んでいて、興味深かった。偉大な父親を持った子はこんな思いをすることになるのかと、二代目の目線で描かれた珍しい歴史小説。波乱万丈の生涯をたどった秀吉とはまた違った面白さがあって、なかなか読みごたえがあった。
タグ:星新一
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