So-net無料ブログ作成
検索選択
ミステリ(日本) ブログトップ

素敵な日本人 [ミステリ(日本)]


素敵な日本人 東野圭吾短編集

素敵な日本人 東野圭吾短編集




 東野圭吾のノンシリーズの短編集(9作品)。

 ミステリーからSF、人情ものとバラエティに富んでいる。出来不出来はあるものの、総じて面白かった。SFものよりもミステリー寄りの作品がよかったかな。

 どの作品も最後にひと捻りがあるところがいい。人情ものだと思って読んでいると、最後に推理ものだったことが分かるとか、予想を覆すのがうまい。

 ジャンルのミスリードというか、このジャンルの話だろうと思わせて実は……という展開。こういう騙しの手法があるのかと驚いた。

 よく考えたら、クリスティーも同じ手法をやっていた。ラブストーリーだと思っていたら実はミステリーだったというような。「ナイルに死す」とか「終わりなき世に生まれつく」とか、何の話かと思っていたらミステリーだったし。

 ひとつのストーリーが進んでいる背後で、実は全く別のストーリーも隠れて進行しているという、二重構造になっているところが面白いのだ。

 本書には倒叙スタイルも何作か含まれている。こういう作品は、推理の場面も何度か出てきて、さすがによくできている。こういう風に犯人を追い詰めていくのかという手本のような作品がいくつもあった。

 気に入った作品は「正月の決意」「十年目のバレンタインデー」「君の瞳に乾杯」「壊れた時計」。ネタばれになりそうだから中身に触れられないけれど、いろいろと意表を突かれたのである。

 長編だけでなく、短編でもここまで盛り上げてしまうのかと、東野圭吾はすごい作家だなとあらためて思った。
タグ:東野圭吾
nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

天使の耳 [ミステリ(日本)]


天使の耳 (講談社文庫)

天使の耳 (講談社文庫)




 警察がやっている事件の捜査は、歴史学者の仕事に似ている。

 歴史学者は数百年前にどんな出来事があったのかを、文献や遺物から再現する。対して、警察は数日前に起こった出来事を、取調べや物証から再現する。時間スケールは異なるが、いずれも過去に起こった出来事を、証拠から再現していくという点では共通している。

 推理小説を読んでいて面白いのも、この過去の再現である。主人公が手がかりを集めて、過去にどんな出来事が起こったのかをあれこれ推理する。闇の中に隠れていた過去が、徐々に浮かび上がっていくところがぞくぞくするのである。

 東野圭吾の「天使の耳」は、交通事故をテーマにしたミステリー短編集だ。交通事故をテーマにしたミステリーというのは、今まであまりお目にかかったことがない。世界的にも類を見ない本なのではないか。

 読む前はなんだか地味そうな話だなというイメージだったが、読んでみたらこれが実に面白い。推理小説の肝である過去の再現が、ここにも出てくるからだ。交通事故の捜査というのも、過去の再現なのである。当事者から話を聞いて、事故がどんなふうにして起こったのかを再現していく。

 交通事故の場合、当事者が事故で死んでしまったり、自分に都合のいいようなウソをついたりするものだ。だから、ブレーキ痕や自動車の破壊状況、はがれた塗料、目撃者の証言などから、推理を働かせていく。このあたりの捜査の進め方を見るのが非常に面白かった。

 ただ、本書に収められている作品は、どれも交通事故の捜査をして解決というような単純なストーリーでもない。どの作品も最後に一捻りしてあって、意外な結末を迎える話ばかり。

 こういうパターンの話かと思わせておいて、実は意外な企みが潜んでいる。しかも、そのずらし方が無理矢理なものではなくて、ずらした後もきちんと整合性があるものになっている。複雑なパズルがカチッとはまるような快感があって、すごいなと思った。

 一番気に入ったのは「分離帯」という作品。真相が分かっても正義が果たされないもどかしさ。社会の制度の隙間にはまり込んでしまった人々の悲哀。どこにでもありそうな事故の話なのに、ゾッとするような怖さを感じた。
タグ:東野圭吾
nice!(12)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

後鳥羽伝説殺人事件 [ミステリ(日本)]


後鳥羽伝説殺人事件 (角川文庫 (5976))

後鳥羽伝説殺人事件 (角川文庫 (5976))




 1221年の日本では、東国の鎌倉幕府と西国の朝廷との間で対立が起こっていた。

 幕府が全国に地頭を置くようになったため、皇室の直轄領の荘園にまで地頭がやってきて、勝手に税を取り立てたり土地を支配するようになった。このことで自分たちの支配権を侵害された朝廷は、当然、幕府に対して不満を覚える。

 当時、院政を敷いていた後鳥羽上皇もまた、幕府に不満を持つ一人だった。彼は諸国から武士を集めて、幕府を倒そうと挙兵する。

 いざ戦いが始まれば、武士たちも朝廷軍に味方するだろうと上皇は考えていたが、ここに大誤算が起こる。北条政子らの活躍によって幕府軍が団結して、朝廷軍を抑え込んでしまったのだ。結局、後鳥羽上皇は大敗北を喫し、隠岐の島に配流となる。承久の乱と呼ばれる出来事である。

 ところで、この後鳥羽上皇がどのようなルートをたどって隠岐へ送られたのかということについて、ある伝説が存在する。

 この歴史上の伝説をもとに描かれたのが、本書「後鳥羽伝説殺人事件」である。

 後鳥羽上皇が歩んだ道筋をたどって、広島を旅していた女性が、駅で何者かによって殺害される。彼女が持っていた後鳥羽上皇に関する本がなぜかなくなっていた。一体、誰が何の目的で犯行に及んだのか? 

 後鳥羽伝説という歴史の興味が絡んできて、歴史好きにはたまらない一冊といえるだろう。後鳥羽伝説なんて本書を読むまでまるで知らなかったので、ひとつ勉強になってよかった。旅情があって、登場人物たちと一緒に広島を旅している気分になるところなどもよい。

 もちろん、ミステリーとしてもよくできている。警察の地道な捜査によって、少しずつ視界が開けてくる感じは、松本清張の小説を彷彿とさせるものがあるし、最後の犯人の正体には誰でも唖然とさせられるはずだ。

 名探偵役はおなじみの浅見光彦。テレビドラマでやっているのをよく見ていたけれど、今回、原作を初めて読んでみて驚いた。浅見光彦がいっこうに出てこないのである。途中まではこつこつとした警察の捜査が続いて、もう出てこないんじゃないかと思い始めた時にようやく浅見が登場する。最初はこんな登場だったのか。

 警察の捜査の部分とか真に迫っている感じで、なかなか読みごたえがあった。他の伝説ものもぜひ読んでみなければ。
タグ:内田康夫
nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

マジックミラー [ミステリ(日本)]


新装版 マジックミラー (講談社文庫)

新装版 マジックミラー (講談社文庫)




 クリストファー・ノーラン監督の「プレステージ」という映画を観ていたら、主人公のマジシャンがひとつの箱から別の箱に瞬時に移動する、瞬間移動のマジックが出てきた。そっくりの替え玉を使うという安直なトリックであったが、ネタをばらされずに見たら結構驚くかもしれない。

 ひとりの人間が同時にふたつの場所に存在する。これほど不思議な現象はないし、だからこそ、マジシャンたちはこの不可思議に挑戦しようとするのだろう。

 同じように、ミステリー作家たちもマジシャンに負けじとこの不可思議に果敢に挑戦をしてきた。アリバイもののミステリーという形で。

 アリバイというのは、犯行時刻に容疑者が犯行現場以外の別の場所にいたという不在証明のことだ。犯人は犯行時刻に犯行現場にいたにもかかわらず、同時に犯行現場から離れたところにいたことを証明しなければならない。これはひとりの人間が同時にふたつの場所に存在するという、上記の不可思議を成立させるということである。

 作家たちは誰に教わるでもなく、あの手この手でアリバイをこしらえてきた。偽の銃声を使う方法、時刻表を用いる方法、遠隔操作で銃殺する方法、死んだ人間に変装する方法、監視からこっそり抜け出す方法など……。よくこんなこと考えるなあと半ば呆れてしまうくらいに。

 有栖川有栖の「マジックミラー」もまた、こうしたアリバイに挑戦した作品のひとつだ。まさにアリバイものの集大成と呼べるかもしれない。

 湖畔の邸宅で見つかった女性の死体。もっとも疑わしい容疑者は被害者の夫だったが、彼には鉄壁のアリバイがあった。刑事たちは容疑者のアリバイが崩せないか、悪戦苦闘する。

 前半は時刻表トリックを暴こうとする話で、松本清張の「点と線」のような趣がある。時刻表とにらめっこしながら、思わぬ抜け穴がないかつついていく。きわめてアクロバティックなアイデアが出てきて、正直、読んでいて頭がくらくらしてくるほどだ。

 後半、話は意外な展開を見せるのだが、こちらにも思わぬアリバイトリックが出てくる。もう本当に全編アリバイづくしという感じ。最後のほうには、アリバイ講義というものまで出てきて、アリバイものを分類していた。こちらのほうもかなり参考になる内容で面白い。

 ミステリー小説の醍醐味は、どんなトリックが仕掛けられているのかという奇術的な面白みにあるけれども、アリバイものなんかはとくにそうで、鮮やかなトリックが決まった時には拍手喝さいしたくなる。本作のトリックもとくに後半のものなどはうまく決まっていて、見事な手品を見せられたような快感があった。
タグ:有栖川有栖
nice!(15)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

鳥人計画 [ミステリ(日本)]


鳥人計画 (角川文庫)

鳥人計画 (角川文庫)




 東野圭吾が書いたスキージャンプ界を舞台にしたミステリー

 スキージャンプの選手が毒殺されるという謎解きものなのだが、殺人事件の謎以外にも平行していくつもの謎解きが進行しているところが面白い。これでもかというくらいにいろいろな仕掛けが施されていて、もうなにがなんやら。それでも複雑に絡み合った謎が最後にはきれいに解けるのだから、あまりのうまさに仰天させられた。

 単に謎が多いだけではなくて、ひとつひとつの謎の解決部分も非常に精巧だ。毒殺の方法もひねりがきいていて、トリック自体もかなり秀逸なものだったのだが、犯罪の動機に関連するスキー界の裏側に潜む謎解きも、社会派ミステリーのような重厚感で迫ってくる。ドーピングとか選手同士の軋轢とか、スキー界の闇の部分が徐々に暴かれていく感じがスリリングだった。

 一番驚いたのは、犯人が割と早い段階で明かされてしまうところだろう。謎の密告者の登場で、犯人は警察に捕まってしまう。普通はミステリーというと犯人捜しが筋書きになるものだが、本書は犯人ではなく謎の密告者の正体を探すという話にシフトしていく。このへんはパット・マガーという作家の「探偵を捜せ!」という本みたいだなあと思った。

 ……と思いきや、あとからさらなる予想外のどんでん返しが待っているのだから、まったく油断がならない。

 二転三転というのはこういうことを言うのかという、手本のような作品である。ミステリーをこんなに夢中になって読んだのも久しぶりだ。よく知らなかったスキーの世界も詳しく書かれていて、こんなふうになっているのかと興味深くもあった。
タグ:東野圭吾
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

幽霊塔 [ミステリ(日本)]


幽霊塔

幽霊塔




 江戸川乱歩が書いた大正時代を舞台にしたミステリー。

 長崎の片田舎に建てられた古い洋館。その館は「幽霊塔」と呼ばれるほど、不気味な雰囲気を醸し出していた。何年も前に老婆が殺害された事件が起こった、いわくつきの場所。さらに大きな謎として、その建物のどこかに幕末のころに隠された財宝が眠っているのだという。

 あるとき、この建物を青年が訪れるのだが、そのさびれた建物で青年は、この世のものとは思えないような美しい女性の姿を目撃することになる。

 宮崎駿がジブリ美術館で「幽霊塔」の特別展を開いたことがきっかけで、この本が新装版として出版された。アニメ映画の「カリオストロの城」に影響を与えたということで、宮崎駿自身にも思い入れのある本らしい。

 冒頭には、その宮崎駿の解説漫画も載せられている。幽霊塔の内部構造の解体や、主人公が幽霊塔を訪れる場面の絵コンテまで描かれていて、本一冊読んでここまでイメージを膨らませるとはさすがだなあと驚いた。短いページではあるけれども、なんかもうこの解説漫画だけでも、この本を買う価値はあったような気がする。

 もちろん、小説の内容自体も面白い。古い洋館に仕掛けられた時計細工のカラクリ、地下に広がる迷路、隠された財宝と、読者の心をわしづかみにするワクワクポイントを突いてくる感じ。インディ・ジョーンズとか宝島とか、宝探しものの話は楽しいけれど、日本に置き換えたらこんなふうになるのかというよい例だと思った。

 語り口がうまくて、謎の上に謎がさらに積み重なっていき、さらにいわくありげな人物が多数登場して、これはどういうことなんだろうと読むのが止まらなくなってしまう。とにかく謎だらけなので、どう収拾つけるつもりなのかと思ったら、最後に怒涛の展開で急速に風呂敷がたたまれていくのにはひっくり返った。地下迷路のところはもう少し話を引っ張ってもよかった気がするなあ……。

 乱歩のものは久しぶりに読んだが、あまりにも面白かったので、また別のも読んでみたくなった。
nice!(8)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

放課後 [ミステリ(日本)]


放課後 (講談社文庫)

放課後 (講談社文庫)




 「放課後」は人気作家、東野圭吾のデビュー作である。

 女子高を舞台に、教師が殺人事件の謎を解いていくという話。

 東野圭吾というと、社会派やサスペンス物、SFミステリーなど、ジャンルをまたいだ幅広い作品を書いている作家だけれど、本作は、古典的な本格推理ものであった。出てくる事件も、密室状態の更衣室で教師が殺害されていたというもので、昔ながらの密室殺人。学校内の様々な人物たちが容疑者となって怪しい動きを見せたりするところも、フーダニッドの典型的なパターンだろう。

 トリックも秀逸で、真ん中あたりで密室の謎が明かされていて、こんなに早くネタが割れてしまってこの先どうするんだろうと思ったら、実は密室の謎には意外な意味があることが分かってくる。二重三重にトリックが仕掛けれられていて、一筋縄ではいかない。デビュー作からこんな凝ったことをやっていたのかと驚かされた。

 東野圭吾はいろいろな作品を書いているけれど、しっかりした本格ミステリーの基盤が確立しているのね、ということが見えてくる内容。トリックもよく練られているし、犯人を追い詰めるロジックも非常に精密なのだ。

 その後の作品を予感させるような、本格ミステリーにとどまらない面白さもあった。本格ミステリーというジャンルは、パズル的で、人間がチェスのコマみたいに扱われて精彩に乏しいことが往々にしてあるけれど、本作はそうした不自然さがない。生徒や教師、刑事などの登場人物のひとりひとりのキャラクターに実在感があって、それぞれに心の中に闇を抱えているどっしりとした重みがある。だから、ミステリー小説なんだけれど、なにか実際に起こっている犯罪事件を追いかけているような不気味な臨場感が感じられた。

 デビュー作から完成度の高い作品を書いていたんだなあと感嘆。最後の最後まで驚きの展開で、面白い一冊だった。
タグ:東野圭吾
nice!(8)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

虚ろな十字架 [ミステリ(日本)]


虚ろな十字架

虚ろな十字架




 江東区木場の路上で殺害されたフリージャーナリストの女性――。それは中原道正の別れた妻小夜子だった。犯人はすぐに捕まった。金銭目的の犯行だったという。だが、中原の胸には何か釈然としない思いが去来する。単純に見える事件の背後に何か隠れた事実が潜んでいるのではないか? 中原は小夜子の足取りを追いかけながら、事件の真相に迫っていく。

 久しぶりに東野圭吾を読んでみたら、相変わらず水準が高かった。

 一見すると単純な事件なのに、主人公があれこれ探るうちに、徐々に今まで分からなかった事件の裏側が明らかになっていく。単純な事件に見せかけて実は……という展開のわくわく感。いろいろな登場人物の間に思わぬつながりも出てきたりして、ミステリーの醍醐味を存分に味わうことのできる内容。

 過去の出来事が現代につながってくるという、東野圭吾の作品にありがちな展開も出てくる。何年も前の出来事がめぐりめぐって、新たな悲劇をもたらす。封印したはずの過去、忘れようとしていた記憶がふとしたきっかけでよみがえってしまって、現代に生きる登場人物たちに牙をむく。徐々に過去の出来事の全容が明らかになっていくところはなかなか迫力があった。

 ミステリーとしてのエンターテイメントの面白さだけではなく、社会派として読んでも興味深い。死刑制度が事件にからんできて、死刑をめぐる議論が随所に出てくるのである。

 悪いやつがいたらやっつけて、懲らしめてしまってめでたしめでたし……。そんな子供ヒーロー漫画みたいな単純な勧善懲悪でうまくいくのならいいが、現実にはそうはいかない。殺人犯を死刑にしたところで、被害者が帰ってくるわけでもなく、悲しみが癒えることはない。でも、犯人に処罰を与えて、犯人が二度と犯行をくり返さないようにすることが、遺族にとっての最大の目的にもなりうる。死刑制度や刑罰についてひそむ、様々な矛盾が描き出されている。

 刑罰のシステムにはいろいろ理不尽な面があるのだなということが、読み進むうちに見えてくる内容。犯罪者が贖罪するということはどういうことなんだろう? 正義とは何なんだろう? という難しい疑問をつきつけられ、何か分かりやすい正解があるわけではないことに気づかされる。

 推理ものであると同時に、こうした犯罪と刑罰をめぐる様々な矛盾自体が物語に取り込まれていて、ミステリーとして楽しいだけの作品に終わらない、重いテーマを抱えた作品になっていて読み応えがあった。
タグ:東野圭吾
nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

青の炎 [ミステリ(日本)]


青の炎 (角川文庫)

青の炎 (角川文庫)




 高校生の櫛森秀一は、父親を自動車事故で亡くし、母親と妹とで暮らしていた。だが、その家庭内には、秀一にとって異物とも言える人間が入り込んでいた。母親の再婚相手の曾根隆司。曾根は、母親から金をせびっては酒やギャンブルに溺れている人物。ことあるごとに秀一や母親に暴力をふるい、妹にまで手をかけようとしていた。秀一は曾根の言動に耐えかね、家族を守るためにある計画を立てる。それは、曾根を自然死に見せかけて殺害する完全犯罪の目論見だった。

 貴志祐介のミステリー小説。犯人側の目線から描いた倒叙ミステリーという形式の作品。

 倒叙ミステリーというと、テレビドラマの「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」などでおなじみだし、小説でもパトリシア・ハイスミスの「太陽がいっぱい」やクロフツの「クロイドン発12時30分」など名作も多い。

 倒叙ミステリーの面白さは、主人公の犯人が緻密な犯罪計画を立てて実行するところにあって、警察の目をかいくぐろうとする主人公と、犯罪を暴こうとする刑事との駆け引き、知的な頭脳戦を楽しむジャンルといえる。

 本書「青の炎」は、まさにそうした倒叙ミステリーの面白さが踏襲されたような作品で、過去の名作群に決してひけを取らない質の高い内容になっている。主人公の少年は、高校生ながらも綿密な殺害計画を立てて、完全犯罪を成し遂げようとするのだ。その法医学や物理学の知識を応用したトリックは、詳しく調べ抜かれているし、作者の巧みなアイデアも混ぜ込まれていて、なかなか読み応えがある。

 うまく行ったかに見えた犯罪計画も、やがてほころびを見せ始めて、次々に生じる問題点に対処を迫られる主人公。読んでいて思わず犯人側に感情移入してしまって、ひやりとするサスペンスが感じられた。

 主人公が犯罪にいたるまでの心の動きも、非常に丁寧に描きこまれていて、少年が追い詰められて犯罪にいたってしまった経緯が伝わってくる。今までいろいろな倒叙ミステリーを読んできたけれども、本書のような動機は珍しいかもしれない。警察や弁護士などにさえ頼ることができない事情を抱えてしまった主人公。ミステリー史上まれに見る悲しい殺人者だった。

 法医学や物理学だけでなく、法的な問題や闇サイトの話など、全体的に情報量が豊富。ディテールまでかなり細かに考えられているので、リアリティが感じられる。本筋ももちろん面白いけれども、随所に出てくる薀蓄もなかなか興味深かった。
タグ:貴志祐介
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

13階段 [ミステリ(日本)]


13階段 (文春文庫)

13階段 (文春文庫)




 松山刑務所を出所したばかりの三上純一は、刑務官の知人からある仕事を頼まれる。それは、10年前に起こった強盗殺人事件について一緒に調査して、その事件で逮捕され死刑囚となっている男の冤罪を晴らしてほしいというものだった。死刑執行が迫る中、ふたりは数少ない手がかりをたどるが、しだいに予想外の事実へと導かれてゆく――。

 元受刑者と刑務官という異色のコンビを主人公にした冤罪もののミステリー

 記憶喪失になった死刑囚を救うという話で、最初は当然死刑囚に不利な証拠ばかりが集まっていて、絶体絶命の状況から始まる。これは救い出すのは難しいんじゃないかと思わせておいて、主人公たちが事件を調査し始めるうちに、いろいろと過去の捜査で見落とされていた点が出てきたり、死刑囚以外の容疑者が浮上してきたり。いくつかの線を追いかけるうちに、徐々に事件の真相が見えてくる。

 危機的状況から逆転することができるのかという、冤罪ものの醍醐味を存分に生かした作品。最後の最後まで意外な事実が次々に明らかになって、たたみかけるような展開に、どうなるんだろうとハラハラドキドキさせられた。

 死刑囚や受刑者の実態を描いた社会派な内容でもある。死刑囚がどんな生活を送っているのか、受刑者たちの心境、加害者家族に対する世間の風当たりの強さなど、受刑者をめぐる実情について描き出されている。ことに死刑執行がどのような手順でなされていくのか、そのプロセスが詳細に書かれているところが印象的だ。

 作者はもともと映画の脚本家というだけあって、設定も丁寧だし、話の盛り上げ方も非常にうまい。最後にはアクションも伴うクライマックスも用意されていて、本当に映画を観ているようなドラマティックな展開だった。

 作者自身が解説で、ストーリーは「どっちが勝ってるかが大事」という言い方をしているが、本書の中で主人公ふたりが事件捜査の中で何度も障害にあいながらも乗り越えていく様子は、まさに「勝ったり負けたり」の繰り返しといえるだろう。二転三転する展開に、最後まで目が離せない面白本だった。
タグ:高野和明

新参者 [ミステリ(日本)]


新参者 (講談社文庫)

新参者 (講談社文庫)




 小伝馬町のマンションで、翻訳家の女性が絞殺される。現場の状況からみて、顔見知りによる犯行が疑われた。日本橋署に赴任したばかりの刑事・加賀恭一郎は、手がかりを追って聞き込みをはじめるが、被害者をめぐる様々な人物たちが容疑者として浮上し始める。

 人気作家東野圭吾が描く、人形町近辺を舞台にした人情味あふれるミステリー

 ミステリーの常とう手段に、容疑者を大勢登場させて、それぞれの容疑者に何らかの秘密を持たせるというものがある。

 容疑者が少ないと、ネタが割れやすいけれども、いかにもいわくありげな秘密を抱えた容疑者が出てくれば、読んでいるほうもこれはなんだろうという風にそっちに興味が向いてしまう。本当は本筋とあまり関係なくても、秘密を解き明かす過程を見せられるうちに、いつの間にか、真犯人から注意が逸らされてしまう。作者が読者をミスリードするためのシンプルなしかけ。

 「新参者」を読んでいてとくに面白いと思ったところは、そうした出てくる容疑者たちの秘密の数々である。容疑者一人一人の秘密の話が大きくふくらんで、短編小説の形にまでまとめあげられている。しかも、秘密が暴かれるミステリーというだけでなく、人生のひきこもごもを感じさせる感動の人情話になっているのだ。

 加賀刑事が探偵役として、得られた手がかりから鋭い推理を繰り広げるのは、よくあるミステリーなのだけれど、明らかにされる真実が心温まるような内容で、人間味にあふれている。全体的に、現実の裏に人々の善意が隠れていたといったエピソードが多くて、さわやかな読後感を残す。

 推理小説というと、パズルみたいで登場人物が記号的に扱われて、作り物めいた感じがしてしまうことも多いけれども、この作品はミステリーとヒューマンドラマが見事に融和されていて、人間心理に迫る秀逸なミステリーになっている。人間同士の関係性だったり、登場人物がどうしてああいう行動をとったのかという動機だったりが丁寧に描かれていて、謎解きというだけにとどまらないドラマ性があるところが面白かった。

 もちろん、推理の部分も非常によくできているけれども、同時に感動ものでもあるという珍しいミステリー。江戸情緒あふれる小道具もたくさん出てきて、色々な楽しみができる作品だった。
タグ:東野圭吾

11枚のとらんぷ [ミステリ(日本)]





 マジックを題材にしたミステリー。筆者はプロのマジシャンというから、読まずにはいられない。

 話は、奇術クラブ「マジキクラブ」をめぐって展開する。クラブのメンバー水田志摩子が、アパートの一室で殺害されているのが見つかる。なぜか死体の周囲には、マジックの小道具が壊されて並べられていた。それは、同じ奇術クラブのメンバーが書いた「11枚のとらんぷ」という奇術小説に出てくる小道具ばかり。犯人は何のために被害者を殺害し、小道具を並べたのか? マジックの世界を舞台に、クラブのメンバーたちは殺人事件の謎を追いかける。

 マジックを題材にしているだけあって、奇術趣味にあふれていて楽しい作品。序盤でメンバーたちがマジックを披露するところから始まるのだが、まだアマチュア集団なので、数々のイタい失敗をするエピソードが出てくる。あまりのイタさに抱腹絶倒となってしまったが、そのユーモラスな奇術場面があとでミステリーの重要な意味を持っていることが分かるのだから、なかなか侮れない。

 思わぬところに伏線が仕掛けられていたり、何の気なしに読んでいたシーンにトリックが隠されていたり、作者の巧妙な罠には舌を巻く。うまくミスリードされて、最後には思わぬどんでん返しも待っている。まさにマジックのような作りのミステリーで、見事に騙されてしまった。

 構成も一風変わっていて面白い。最初に殺人事件が起こるまでの顛末が描かれ、最後に事件の解決が描かれるのは普通のミステリーだが、その中間に、突然「11枚のとらんぷ」という11篇のショートショート集がまるごとサンドイッチのように挿みこまれているのだ。

 カードマジックを題材にした奇術短編集で、これだけ独立して読むこともできるようにになっている。急に殺人事件とは異なるカードマジックのミステリーが出てくるので、最初は驚いたが、読んでいくと実に面白くて、本筋の殺人ミステリー以上にひきつけられてしまったくらい。

 殺人ミステリーとカードマジックのあわせ技。どこまで現実でどこまでトリックなのか分からなくなってしまうような、不思議な感覚のある本。まだまだこの作家のものは読んでいないものが多いので、こういう奇術的な面白いものがあるのなら、もっと読んで見たいなと思った。
タグ:泡坂妻夫

夢幻花 [ミステリ(日本)]


夢幻花(むげんばな)

夢幻花(むげんばな)




 西荻窪の自宅で、秋山周治という老人が何者かによって殺害された。被害者は周囲からも慕われ、恨みを持つような人間は見当たらず、犯人が何のために犯行に及んだのかは全くの謎だった。あるとき、被害者の孫娘である秋山梨乃は、事件現場から被害者が育てていた黄色い花がなくなっていることに気づく。事件と何か関係があるのだろうか? 梨乃は黄色い花と殺人事件の謎を解明するため、手がかりを追いかけ始める。

 人気作家東野圭吾のノンシリーズのミステリー小説

 冒頭からいきなり、矢継ぎ早に複数の謎が立ち現われて、ぐいぐい引き込まれてしまう。アマチュアバンドマンの突然の自殺、50年前に起こった痛ましい事件、老人が殺害される事件と消えた黄色い花の謎。それぞれの謎がどのようにからみあっていくのか全く分からないまま話が進み、謎めいた雰囲気がするところがとてもいい。

 中盤の展開も見もので、ひとつの手がかりが別の手がかりにつながるといったように、次々に場面を転々とする展開が動きがあってスピーディ。と同時に、犯行現場からロジカルに犯行当日の状況を推理する場面などもあって、推理もののいろいろな面白さが楽しめる内容になっている。

 最後には、複数の謎がひとつひとつ解けていき、お互いが関連しあっていたことが分かる。不明だった点が一本の線につながる爽快感。まさにミステリーの醍醐味が詰まった作品といえるだろう。

 一番よかったのは、事件のキーポイントになっている黄色いアサガオの謎。黄色いアサガオというのは、江戸時代には存在したが、今では存在しない幻の花。被害者はどのようにしてこの花を手に入れたのか? そして、この花が事件にどのように関わってくるのか? 花が事件を解くための重要な手がかりになっているところが面白いし、黄色いアサガオをめぐる薀蓄もいろいろと出てきて、こういうところを読んでいるだけでも楽しい。

 主人公たちと一緒に手がかりを追いかけていくうちに、思わぬところまで連れて行かれる楽しさ。真相も意外な深みのあるもので、最後まで目が離せない作品だった。
タグ:東野圭吾

チーム・バチスタの栄光 [ミステリ(日本)]





 成功率平均6割と言われ、高度な技術を要するバチスタ手術(左心室縮小形成術)。東城大学医学部附属病院の手術チームは、このバチスタ手術で驚異の成功率を誇り、「チーム・バチスタ」と褒め称えられていた。だが、その後、バチスタ手術中に患者が死亡する出来事が連続する。医療過誤なのかそれとも何らかの犯罪行為なのか? 病院側は頻発する術中死の謎を解明するため、独自の内部調査を進めていくが……。

 医師の海堂尊が描き出す、医学ミステリー。連続する手術室での不審な死をめぐり、医師の田口と厚生労働省の白鳥が謎に踏み込んでいく。

 手術室内にはチームのメンバーがいて、お互いの様子を監視しあう状態にあった。カメラでも録画されていたうえ、血液データもモニタリングされていた。衆人監視の状態での出来事といえ、いわば心理的な密室状態にあったのだ。

 犯罪であるとすると、どのような手段で監視の目をくぐり抜けて被害者を死に至らしめたのか? なぜ何らのつながりのない被害者たちを殺害する必要があったのか? 犯人はだれなのか? ハウダニット、ホワイダニット、フーダニットという3つの謎が立ちふさがって、不可解きわまりない様相を見せる。

 筆者の医師の経験を生かした病院内の描写は迫力があるし、病院内部の人間関係なども真に迫っている。医学知識を駆使した、盲点を突くような仕掛けも出てきて、最後まで読みどころの多い小説だ。

 とくにミステリーが進行する中で、日本の解剖率の話や心臓移植の話など、社会問題について触れられている部分などは興味深かった。日本の医療をめぐる問題点を、さりげなく認識させられる社会派な内容にもなっている。

 ミステリーの謎自体も面白いし、調査活動も丹念に書かれている。そのうえ、医療をめぐる情況にも触れることもできる。いろいろな切り口から読むことができる、興味深い作品だった。
タグ:海堂尊

焦茶色のパステル [ミステリ(日本)]


焦茶色のパステル 新装版 (講談社文庫)

焦茶色のパステル 新装版 (講談社文庫)




 東北の莫良牧場の放牧場で、牧場長の深町保夫と競馬評論家の大友隆一の2人が何者かによって銃殺された。大友の妻・香苗は、生前の夫の行動に興味をおぼえ、夫がパステルという名前の馬について何かを調べようとしていた事実を知る。夫の足跡をたどり始めるうちに、やがて事件の背後に競馬をめぐる策謀が存在することが明らかになってくる。

 推理作家・岡嶋二人のデビュー作品。競馬業界を背景に、謎の銃殺事件のからくりを解き明かすミステリー
  
 競馬ビジネスの裏側を覗き込むような内容で、競馬界のあれこれを知ることができるところが興味深い作品。馬が結構高額で取引されているとか、どんな馬が人気があるのかとか、競馬にまつわる薀蓄がたくさん出てきて、競馬について無知な自分には色々と勉強になる内容だった。

 もちろん、ミステリーとしてもよくできている。本格推理と言っていいような内容で、ロジカルな推理が展開される。手がかりが丁寧に提示されていてフェアプレイだし、論理的推理の見本のような場面もあった。とくに被害状況をめぐってのロジックのくだりは、説得力のある推理が展開されていて、なるほどなあと感心させられた。

 競馬の話というのも単なる背景ではなくて、ミステリーの重要な要素になっているところもよい。

 推理ものとしての面白さと業界ものの面白さの両方を兼ね備えた作品で、デビュー作とは思えないほど完成度が高い。岡嶋二人がまだコンビを組んでいた頃の作品で、この頃の本格推理とサスペンスの融合した感じが好きだったりする。
タグ:岡嶋二人
ミステリ(日本) ブログトップ