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残酷な王と悲しみの王妃 [世界史]


残酷な王と悲しみの王妃 (集英社文庫)

残酷な王と悲しみの王妃 (集英社文庫)




 最近興味を持っているのは、アン・ブーリン。歴史上の人物で、イギリス・テューダー朝の王ヘンリー8世の王妃だ。

 興味を持ったのは、壮絶な人生を歩んだ人ということもあるし、世界の歴史を変えてしまった人でもあるから。

 ヘンリー8世がアン・ブーリンと出会ったとき、すでにヘンリー8世にはキャサリンという王妃がいた。カトリック教会では離婚が認められていなかったので、本来であればアンは王妃になることはできず、愛人という立場に甘んじざるを得なかったはず。

 にもかかわらず、アンは王妃になることを切望し、ヘンリー8世はやむなく教皇にキャサリンとの婚姻の無効を訴えることになる。

 結果は不認可。教皇は婚姻の無効を認めなかった。ヘンリー8世は激怒し、カトリック教会との訣別を決意する。そして、キャサリン王妃との離婚を認める独自の教会を作り上げてしまう。これがイギリス国教会となる。

 ひとりの女性の熱望が、イギリスの宗教を改革してしまった瞬間である。

 しかも、アンが産んだ女児はのちにエリザベス1世として世界に君臨することになるのだから、アン・ブーリンの世界史に与えた影響は相当なものだろう。ひとりの人間が歴史の流れを変えてしまうということが本当にあるのだ。

 王妃になってアン・ブーリンが幸せになったかというと、そうでもない。なにしろ、ヘンリー8世は気まぐれな暴君。ヘンリー8世はアン・ブーリンが男児を生まなかったことに怒り、姦通の罪を着せてアンの首をはねてしまう。

 「残酷な王と悲しみの王妃」という本には、こうしたアン・ブーリンに関する逸話が豊富に書かれていた。

 プリンセスなどというと、華やかなイメージがある。おとぎ話では、王子様と結婚してめでたしめでたしとなるのが普通だ。だが、アン・ブーリンの例にも見られるように、現実の王妃の地位というのはそんなに生やさしいものではなかったようだ。

 政略結婚に利用されたり、暴君の犠牲になったり、ときには暗殺の対象にまでなってしまう。おとぎ話の華やかなイメージとは真逆の、ドロドロした世界が広がっているのだ。

 本書にはアン・ブーリンのほかにも、エリザベス1世と争うことになるメアリー・ステュアートや、ヘンリー8世をも遙かにしのぐ暴君イヴァン雷帝の7人の妻についても書かれている。王妃という立場が華やかであこがれの的である反面、いかに危ういものであったかが分かる、興味深い本だった。
タグ:中野京子
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ロシア革命史入門 [世界史]





 およそ革命家というのは、並々ならぬ理想を持った人たちなんだろう。暴虐極まる支配者を打倒したい。苦境にあえぐ人々を救いたい。そんな正義感に根ざした人たちなのではないか。

 ロシア革命のときのレーニンもそうだった。

 レーニンが登場したころ、ロシアではロマノフ王朝による帝国支配が続いていた。資産家が貧しい民衆を酷使するという格差社会である。

 当時、ロシアは第一次世界大戦に参戦していた。総力戦が行われ、物資・人員はこぞって戦争につぎこまれる。民衆は物資が不足してますます貧困にあえぐようになったうえ、戦争にまで駆り出されて疲弊していた。だんだん敵国の人間までもが同じような境遇に見えてくる。貧しい者同士が、資本家たちの戦いに巻き込まれて戦っているだけなんじゃないか。お互い犠牲者なんじゃないかと。

 こんな状況の中で、民衆の中から政府に対する不満が噴出はじめる。民衆の権利を保護すべきだ。くだらない戦争はすぐに止めるべきだ。そんな声が聞こえだす。

 レーニンは、そうした民衆の不満をくみ取った。戦争からさっさと撤退して、貧困を撲滅しよう。為政者に対する怒りという民衆のごく自然な感情を踏まえ、崇高な理想を掲げて行われた運動だった。

 レーニンの計画は、地上にユートピアを作ろうという正義が根本にあったのだと思う。

 最終的に、レーニンは革命を成功させる。戦争から撤退し、ロシア帝国は打倒され、世界初の社会主義国家ソヴィエトが誕生する。さあこれでいよいよ理想国家が生まれるのか。民衆は不幸から解放されるのか。

 結局のところ、そうはならなかったのは歴史が示すとおりだ。結局、新政権発足後も物資不足は解消されず、むしろ大飢饉になっていった。物資不足への対応として、レーニンは農民から物資を奪い取り、処刑や弾圧を行った。民衆たちの苦しみは止むことはなかった。

 レーニン亡き後のソ連も同じ。粛清に次ぐ粛清で、独裁国家の道を突き進んでいったのだ。

 なんでこんなことになってしまったのだろう? 当初の理想はどこに行ってしまったのか? ロシア革命の話を聞くと、ついこんな疑問が生じてくる。正義を掲げた人々が変貌し、これまで倒そうとしていた権力者そっくりになってしまう。正しいことをしていたはずなのに、いつの間にやらとんでもないところに行きついてしまう。理想主義が敗北してしまう悲劇がそこにはあると思う。

 広瀬隆の「ロシア革命史入門」は、まさにそうした歴史の皮肉な側面を描き出した本である。レーニンの行動を軸に、ロシア革命がどのような経緯をたどったのかを克明に記している。時代の流れは一筋縄ではいかないということが分かる興味深い本だった。
タグ:広瀬隆
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サピエンス全史 [世界史]


サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福




 猿にしても人間にしても、群れの大きさには限界があるという。

 猿の場合は100頭くらい、人間でも150人くらいが集団としての限界の大きさなのだ。それ以上の数になると、お互いのことを覚えることができず、親密に知り合ったり噂話をしたりということが難しくなる。

 では、人間たちはどのようにして都市を築いて、数万人という規模の人間を束ねることができたのだろう? 名前も知らない同士がどのようにまとまることができたのだろう?

 本書「サピエンス全史」に書かれているその答えは、「虚構」にある。赤の他人同士がまとまるためには、共通して守らなければならない掟が必要になる。人間たちは、文化、法律、金、国家といった「虚構」の掟を作り上げていった。

 たとえば、自然界にお金という概念があるわけではない。だが、みんながお金という「虚構」の存在を信じることで、経済活動が可能となった。共通の価値観をもつことで、集団として維持することができた。

 当然、このような掟は「虚構」なのであるから、絶対的なものではない。地域によってもまちまちだし、時代によってもかなり内容が変わっていくものだ。

 だが、「虚構」の掟に違反した者には集団から厳しい処罰が下されることになる。そうやって、強制的に「虚構」の世界を厳守させ、集団としての安全は守られていった。人類の文明は徐々に複雑なものとなり、集団の数も膨大なものとなっていく。

 本書を読むと、国家も経済も法律も文化といった現代社会を成り立たせている物事は、みんなが「虚構」の世界を信じることで成り立っているんだなあということに気づかされる。

 こういうふうに生きたほうがいいとか、こういう価値観が正しいということが自然界で決まっているわけではないということである。人はお互いにああすべきこうすべきと論争するけれども、実はそういう価値観というのも時代によって移り変わっていくものだし、誰かが作った「虚構」に従っているにすぎない。

 世界は結局のところ「虚構」でできているんだなどと言われると、なんだか身も蓋もないというか虚しくなるけれど、世間の価値観をなんでも絶対視する必要はないし、何が正しいというものでもないということが分かって、少しは気が楽になった。

 なお、本書で一番よかったのは、文明の発展と幸福の関係についても書かれてあったところ。文明が発達しても幸福度が増すわけではないというのは、確かにそうだなあと思った。
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海賊船ハンター [世界史]


海賊船ハンター ―カリブ海に沈む「伝説」を探せ―

海賊船ハンター ―カリブ海に沈む「伝説」を探せ―




 17世紀、ロンドンとジャマイカを行き来して、船荷を運ぶ仕事をしていたバニスターというイギリス人の船長がいた。彼はたいへん評判のいい船乗りだったが、ある日突然ゴールデンフリース(金の羊毛)号という帆船を乗っ取り、海賊行為に手を染め始めてしまう。

 彼はカリブ海のあちこちに出没しては、略奪を繰り返し、イギリス王室のお尋ね者になっていった。イギリス海軍はバニスターをとらえようと追跡し、居所を突き止めたものの、バニスターは大砲とマスケット銃を手にして反撃。イギリス海軍を叩きのめしてしまう。

 暗躍を続けるバニスターだったが、最後の時がとうとうやってきた。再度イギリス海軍と戦闘状態になり、ゴールデン・フリース号は炎上、バニスターも死を迎えることになった……。

 それから300年以上も経った現代。沈没船の引き上げを夢見るトレジャーハンターたちが、ゴールデン・フリース号がドミニカ共和国のサマナ湾に沈没しているという話を聞きつける。彼らは私財を投げ打って、わずかな手がかりに悪戦苦闘しながら海賊船の沈没場所を探し始める。

 海賊というと、イギリスも影ながら支援をしていた歴史があると聞いたことがある。当時はスペインと交戦状態にあったから、海賊によるスペイン船からの略奪品は、イギリスにとってもよい収入源となったのだ。

 だが、スペインと平和条約を結ぶようになると、海賊たちの残虐行為は目に余るようになってきた。反海賊行為の法律が制定され、海賊たちへの取り締まりも厳しくなる。バニスターが海賊行為を行っていたのもこの頃で、イギリス海軍の目の敵になっていったらしい。本書を読むと、このあたりのイギリスと海賊たちの歴史が詳細に描かれていて、けっこう歴史の勉強になる。

 トレジャーハンティングというと一獲千金のイメージがあるけれど、実際に沈没船を発見するのは容易なことではない。宝のありかを示した、Xマークのついた地図が残されているなんていうことはないのだ。

 運まかせで広い海洋を探し回るわけにはいかないから、トレジャーハンターたちは、歴史をひもといて、自分たちで沈没個所を探さなければならない。古い文書を読み漁り、沈没したときの記録を探し、ときには船員たちの気持ちになって航海ルートを推測しなければならない。

 本書でも、わずかな手がかりからどのように海賊の沈没場所を特定していくのか、というところがトレジャーハンターたちの最大の障壁であったし、一番の読みどころでもあった。まさに歴史ミステリーという感じのスリルがある。

 トレジャーハンターについても、なにか夢を追いかける荒くれものというイメージがあったが、本書を読んで教養のある人たちなんだなあと感心させられた。海賊のことならなんでも知っているという海賊オタクと言ってもいい。

 トレジャーハンターたちが実際にどうやって沈没船を探すのかとか、資金的なことはどうしているのかとか、手に入れた財宝の権利は誰が手にするのかとか、現実的なところも丁寧に描かれていて面白かった。
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第一次世界大戦 [世界史]


第一次世界大戦 (ちくま新書)

第一次世界大戦 (ちくま新書)




 第一次世界大戦というと、映画などによく出てくる塹壕戦が思い浮かぶ。

 フランス軍とドイツ軍が塹壕の中から、砲弾ででこぼこになった大地をはさんでにらみ合う。隙を見て塹壕から一斉に兵士たちが飛び出し、敵陣をめざして這うようにして進む。銃撃と砲撃がひっきりなしに飛び交い、大勢の兵士が倒れていく。そんなイメージ

 だけど、そもそも彼らはなんで戦っているのか? なんで大規模な戦いにまで発展したのか? なんだかよく分からないなあとつねづね疑問だった。

 サラエボを訪問中のオーストリアの皇太子がセルビア人に暗殺されたのが発端だったという説明はよく聞く。その後、オーストリアがセルビアに報復すると、ロシアがセルビア側について介入しはじめる。すると、今度はオーストリアと同盟国であるドイツが、オーストリア側について参戦する。ドイツはフランスと敵対していたからフランスとの戦いになる。これを見てドイツの侵攻を恐れたイギリスも参戦し、フランスの支援をする。

 こんなふうに雪だるま式に膨れあがっていったというような説明があるのだけれど、分かったようで分からない。オーストリアはセルビア人になんでそんなに恨まれていたのか? もともとオーストリアとセルビアのいざこざだった話が、なんで他国がこぞって介入してくるのか? ドイツはなんで急にフランスに侵攻したのか? 細かいつながりがどうにもつかみどころがない。

 そんなあやふやな知識しかなかったから、本書「第一次世界大戦」を読んでとても興味深かったのである。数々の疑問に対して、丁寧に答えてくれていたからだ。超俯瞰といった印象で、第一次世界大戦が起こった経緯や、どのように発展していったのかというメカニズムについて細かに分析してくれている。

 第一次大戦がなんだかよく分からなかった原因のひとつとして、帝国という概念がからんでいたことも挙げられるだろう。今では日本を含めて国民国家が当たり前だが、当時はそうではなかった。帝国というものが世界の中心に君臨していた。オーストリア帝国、ロシア帝国、オスマン帝国……。国民国家ではなく、様々な民族を内包した巨大な存在。

 当時はそういう帝国という巨大なもの同士がぶつかりあったり、内部の民族問題とかで紛糾していた時代だった。そして、第一次世界大戦というのは、そうした帝国が解体して、国民国家が完成するきっかけとなった戦争だったのである。

 第一次世界大戦は、日本人にとってはあまりなじみのない戦争である。しかし、本書を読んでいくと、この戦争はまさに現代社会のルーツを作り出していることが分かるし、このときの問題がいまだに尾を引いていて紛争の火種になっていることも分かる。

 現代まで連なる歴史の因果の流れが見えてくるような内容で、歴史の醍醐味を味合わせてくれる本だった。
タグ:木村靖二
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最古の文字なのか? [世界史]





 先史時代の人類が残した美術として、フランスの洞窟で発見されたラスコーの壁画が有名である。牛や馬といった動物たちが、大昔に書かれたとは思えない躍動感で描かれている。

 動物のほうは有名だが、実はこれらの動物と一緒に幾何学記号が描かれていることはほとんど知られていない。ラスコーに限らず、氷河期の壁画の数々には、動物たちの絵のほかに不思議な記号がたくさん描かれているというのだ。

 〇 × ω □ Y ― [手(パー)] ▽ * # ) ∴ ♡ 

 洞窟絵画の研究者でさえも注目しなかったこの不思議な記号に注目したのが、本書の著者ジェネビーブ・ペッツィンガー博士である。

 博士は氷河期時代の洞窟をくまなく調査し、壁に描かれている記号を記録した。そして、世界で初めて、洞窟記号のデータベース化を行った。

 博士によると、類似の記号をまとめると、記号は僅か32個に集約されるという。氷河期の3万年を通して、人類が使用した記号は僅か32個。しかも、遠く隔てられた洞窟に同じ記号が使われているという。これらは一体何を意味するのだろう?

 壁画に残された32個の記号は、推理小説の手がかりみたいなもの。記号をたどっていくことで、人類の進化の過程が見えてきたり、交易がどのように発達していったのかが見えてくる。壮大な歴史の謎を解き明かしていく、ミステリーを読んでいるようなスリルがある本だ。

 歴史の研究というのも、まだまだ研究しつくされているわけではない。技術の進歩や研究者の努力によって、日々新たな発見があって、新たな世界観を見せてくれる。そんな歴史研究の最前線を垣間見せてくれる興味深い本だった。
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レーニン対イギリス秘密情報部 [世界史]


レーニン対イギリス秘密情報部

レーニン対イギリス秘密情報部




 第一次世界大戦の長期化によってロシアの民衆は疲弊していた。1917年、帝政ロシアに対する民衆の怒りが爆発し、暴徒と化す。各地に暴動が広がり、上流階級の屋敷や宮殿は荒らされ、旧体制は崩壊する。ニコライ二世は退位し、帝政ロシアは終わりを告げた。ロシア革命と呼ばれる出来事である。

 当初は臨時政府が樹立されたが、これにも民衆は満足できず、とうとうレーニンが臨時政府を打倒し、ソビエト政権を樹立させる。世界初の社会主義国の誕生となった。

 この一連の動きを見てあせったのはイギリスである。レーニンは革命運動を世界的に広めようとしていた。当時イギリスが統治をしていたインドまでも……。

 脅威に感じたイギリスはロシアに軍隊を送り込んで鎮圧したかったが、当時は第一次大戦のさなか。イギリスはドイツとの戦争に注力していたので、軍隊をロシアにまで送る余力はない。そこで、イギリスが考えたのが、謀略を用いる方法だった。ロシアや中央アジアにスパイを送り込んで、ロシアの活動を内側から攻撃して弱体化させるという情報戦だ。

 本書はこのような、ロシア革命前後のロシアとイギリスとの間のスパイ戦争を描いたノンフィクションである。ロシア革命がどのような経緯で起こったのか、レーニンはどのようにして権力を握ったのか、イギリスはレーニンに対してどのように対抗していったのかが、迫力のある筆致で描かれている。
 
 レーニンはチェッカーと呼ばれる保安組織を立ち上げて、反革命分子や外国のスパイなどを厳しく監視するようになった。そんな中でロシアに潜入したり、情報をイギリスに伝えたりすることは、命の危険を伴うたいへん危険な行動といえる。本書には、そんな危険な任務に身を投じた数々のスパイの偉業が描かれていて、たいへん読みごたえがあった。

 出てくる諜報員たちも魅力的だ。のちに「アシェンデン」という作品で当時の状況を伝えた作家のサマセット・モーム。ジャーナリストで児童文学作家でもあるアーサー・ランサム。ジェームズ・ボンドのモデルにもなったとされるシドニー・ライリー。アジアで諜報活動を行ったフレデリック・ベイリー。普通は、危険があったら怖気づいたり逃げ出したりしてしまうものだが、彼らはあえて危険な世界に身を投じる勇気の持ち主たち。世の中にはこんなに豪胆な人間がいるものなのかと驚嘆させられる。

 チェッカーの監視の目から逃れるために、変装して身分証を偽造し、居所も絶えず変えて場所を転々とする。暗号化したり、見えないインクを使って情報を伝える。敵の戦力を弱めるべく、敵対勢力を支援して代理戦争を起こさせる。思想・宗教的な対立をあおるプロパガンダを行う。こんなことが本当にあるのかというスパイ映画さながらの恐ろしい世界が繰り広げられていた。

 ロシア革命の背後にこんな激しい情報戦があったというのはほとんど知らなかったので、とても興味深く読んだ。当時の革命の経緯も克明に描かれているので、歴史を知る意味でも面白い本だった。
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ローマ帝国 [世界史]


ローマ帝国 (岩波ジュニア新書)

ローマ帝国 (岩波ジュニア新書)




 ローマ帝国に関する本では、ギボンとか塩野七生とか、名著とされているものが存在するのであるが、なかなか分量も多くて、手に取りづらいのもたしかだろう。

 まずは手軽にローマ帝国のことをざっくりと知りたい。概要をつかみたい。そんな読者にうってつけなのがこの本。岩波ジュニア新書の「ローマ帝国」である。

 岩波ジュニアの本は入門書として読みやすいだけでなく、結構な情報量で読み物として充実しているものが多い。子供向けとターゲットを絞ってしまうのがもったいないくらい、名作が多いなと感じている。

 本書もローマ帝国の歴史について、その成立から繁栄、滅亡にいたるまで、大まかな流れをコンパクトに、かつ、興味深く教えてくれている。

 読んでいると、ローマ帝国の時代には、王政から共和制、元首政、帝政と政治体制が揺れ動いていて、人類の政治システムの試行錯誤の変遷をひとつの時代の中でやってしまっている印象をもった。人類の歴史を凝縮したようなところがあって、非常に興味深い時代といえる。

 帝政という皇帝が支配するシステムもかなりうまくいったようで、帝政の時代にはローマは繁栄を極めたという。ただ、このシステムにも問題があって、突出した皇帝がいてせっかくうまくいってもその後を誰が継ぐのかという悩みが起こってきてしまう。

 このあたりの皇位継承をめぐるごたごたが書かれていて、こういうのはいつの時代も変わらないのねという感じで面白いし、それぞれの皇帝たちのキャラクター性やエピソードもたくさん書かれていたのはよかった。

 本書を読むと、そもそもローマという地は地理的に非常に有利な場所であったことから勢力が広がっていったことがよく分かるし、ローマが没落していった経緯も軍事や経済的な観点から詳しく書かれている。時代の流れがストンと腑に落ちるように書かれていて、非常に読みやすい本であった。
タグ:青柳正規
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ナチスの財宝 [世界史]


ナチスの財宝 (講談社現代新書)

ナチスの財宝 (講談社現代新書)




 ナチスが各地で略奪した財宝の行方を追ったドキュメント。

 第二次大戦中、ナチスドイツは行く先々で美術品を略奪していたそうだ。アドルフ・ヒトラーはもともと画家志望だったし、国家元帥ゲーリングをはじめナチス幹部には美術マニアも多かった。だから、ドイツ軍は周辺各国を侵略するごとに血眼になって美術品を集めていったらしい。

 ナチスの集めた美術品は全部で60万点にものぼり、中にはフェルメールやファン・アイク、ミケランジェロといった有名作家たちの作品も含まれていた。略奪品を集めた美術館建設の計画もあったほど。

 だが、ドイツもだんだんと劣勢に追い込まれていき、激しい爆撃と攻撃にさらされ、とうとう連合国軍の占領下に置かれてしまう。では、戦争が終わったあと、集められた美術品の数々はどうなったのだろう? 実は多くの美術品がその行方をくらましたまま、いまだに見つかっていないのだとか。10万点もの美術品が未発見のまま。歴史上のミステリーになってしまっている。

 本書はそんなナチスの財宝を追い求める人々を描いた本である。エカチェリーナ宮殿から略奪された「琥珀の間」の追跡、ロンメル将軍が北アフリカ戦線で略奪した財宝の数々、トプリッツ湖に沈められた金塊の探索など。行方知れずになった財宝をめぐって、様々な人々が争奪戦を繰り広げる。

 宝探しなどというと映画小説では人気のテーマではあるが、本書には現実に宝探しに明けくれる人々がたくさん出てきて、こんなことがホントにあるんだなと驚かされる。国家規模のものからアマチュア的なものまで、様々なトレジャーハンターの探求が描かれていて、読んでいてわくわくするような内容だ。

 連合国軍による没収を免れるために、ナチスは終戦直前に各地に財宝を避難させたらしい。そのような目撃例が各地で聞かれたりして、謎が少しずつ明らかになっていくところなどはスリリング。冒険小説を読んでいるような気分になった。

 世界にはまだまだ解けていないミステリーがたくさんあることが分かる非常に興味深い本。これからもトレジャーハンターたちの進展ぶりが気になりそうだ。
タグ:篠田航一
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原爆を盗め! [世界史]


原爆を盗め!: 史上最も恐ろしい爆弾はこうしてつくられた

原爆を盗め!: 史上最も恐ろしい爆弾はこうしてつくられた




 第ニ次大戦中のアメリカドイツ・ソ連の原爆開発競争を描いたノンフィクション。

 1938年、ドイツのベルリンの化学者オットー・ハーンは、ウランの原子核に中性子をぶつける実験をしたところ、衝突の力で原子核が分裂するという奇妙な現象に遭遇する。原子が2つに割れるという発見だけでも当時としたは信じがたいことだったが、この現象はさらなる可能性を秘めていた。原子が分れる際にちょっとしたエネルギーを放出するので、もしウランの塊の中にある膨大な数の原子核を同時に分裂させることができれば、強力な爆弾が作れるのではないか?

 この発見のニュースは、またたく間に世界中の物理学者たちに広まる。アメリカでも、原子爆弾を作れる可能性について、様々な科学者たちが検討し始める。折しも、ヒトラーがポーランドに侵攻し、ヨーロッパは戦争の火ぶたが切って落とされていた。もし、ドイツが先に原爆を開発してしまったら、アメリカ国民の命も危ぶまれる事態となる……。

 こうしてアメリカでは、ドイツに負けじと原爆開発がスタートする。ニューメキシコ州のロスアラモスにアメリカ中の科学者たちが呼び寄せられる。その中には、ロバート・オッペンハイマー、エンリコ・フェルミ、リチャード・ファインマンといった名だたる科学者もいた。マンハッタン計画と呼ばれる極秘の開発プロジェクトである。

 他方で、スターリン率いるソ連もまたアメリカやドイツの動きに目を光らせていた。アメリカに潜伏するKGBはアメリカの科学者たちと接触して、どうにかして原爆開発の秘密情報をソ連に流すように働きかけようとする。こうして、アメリカ・ドイツ・ソ連の三つ巴の原爆開発競争が始まった。

 読んでいて、スパイ小説を地で行くような内容でスリリング。こんなことが実際にあったのかと驚くような内容だ。ソ連のスパイたちがアメリカで暗躍して、実際に科学者たちを手玉にとって原爆の情報を流させていた経緯が描かれたり、ノルウェーにあるドイツの工場を破壊する様子が描かれたり、ドイツの科学者ハイゼンベルクの暗殺計画が描かれたり。諜報の世界のキナ臭い出来事があからさまに描かれている。

 読み物としては面白いけれど、日本は原爆を落とされているし、自分には広島で原爆被害にあった親類もいて、原爆投下の日の話を聞かされてきたので、読んでいて無性に腹の立ってくる本でもあった。

 アメリカ目線で見たら、アメリカや世界の国々を守るために正義のために開発をして、日本がなかなか降伏しないので投下をしたということなんだろうけれど、正義のためということを言い続けているうちに、だんだん歯止めが効かなくなって、恐ろしい威力の兵器を作り上げて、平気で都市を丸ごと消滅させてしまった。正義というものは恐ろしいものなんだよなあとつくづく……。

 本当に原爆を落とす必要があったのだろうかとか、あらためて歴史について考えさせられる良書だと思った。
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世界史の極意 [世界史]


世界史の極意 (NHK出版新書 451)

世界史の極意 (NHK出版新書 451)




 「歴史は繰り返す」という言葉があるように、人類は進歩しつつも、同じような過ちや争いごとを繰り返してきた。歴史を振り返ると、別々の時代、別々の地域にいるはずの人間が、何度も似たような行動をとることが散見される。

 ひょっとしたら人間がとりうる行動にもパターンがあって、ある特定の条件下におかれた人間は、同じような行動をとってしまうものなのかもしれない。

 もしそのような歴史の反復に気づくことができれば、現代を生きるヒントになるのではないか? どんな状況下で人がどんな行動をとるのかを知ることができれば、これからの社会がどのように進んでいくのかを読み解くことができるのでは?

 本書は、こうした歴史の反復をテーマにした本である。世界史についての本だが、単純に通史を解説したものではない。歴史上の状況が実は現代にもあてはまっていて、現代人が実は歴史を繰り返しているだけなんじゃないか? 過去と現代との思わぬ符合について語っている。

 ウクライナ紛争や沖縄問題、スコットランド独立運動といった現代の事象が、19世紀のハプスブルグ帝国の状況と似かよっていることを指摘したり。現代社会は第一次大戦のときのような帝国主義の時代に入りつつあることを指摘したり。目新しいように見える出来事でも、実は意外な過去の出来事と似通っていることに気づかされる。

 過去と現代が思わぬ形でリンクしていることが見えてきて、バラバラにもっていた断片的な歴史の知識と現代の国際情勢の知識が意外な形でつながっていく快感。ニュースで目にする出来事の背景が見えてきて、こんな意味があったのかと本書を読んで初めて分かったことも多かった。

 歴史を勉強するのは、単に過去の人々の生活を知るためだけはない。歴史上の出来事が現代社会にどのように影響しているのかを知ることで現代社会を読み解くことができる。過去の人々の行動と結果を知ることで、未来に起こる出来事を推察することができる。本書は、そんな歴史の醍醐味を存分に味わわせてくれる興味深い一冊だった。
タグ:佐藤優
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学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史 [世界史]





 コロンブスのアメリカ大陸発見からイラク戦争まで。アメリカの一連の歴史の経緯を解説した本。

 歴史の解説書といっても、普通の歴史書とは少しおもむきが違う。教科書などには書かれることの少ない、アメリカの裏面史が描かれているのが本書の特徴なのだ。

 歴史というものは、征服者の視点から描かれることが多い。教科書などでもそうで、戦争に勝ったり天下をとったりした人物たちを中心にして、英雄伝のような形で語られることがよくある手法だろう。

 そのほうが征服者にとっては都合がいいからでもある。英雄にしてみれば、自分が頂点に上りつめた経緯を描いたサクセスストーリーとして、歴史を語りついでほしいというのはごく自然な考えだ。

 だが、実際には、英雄の陰で泣いていた人々もいたはずなのである。征服者がいるということは、無数の被征服者がいるのが道理。英雄と呼ばれる人々が世界を支配する過程で、大量の虐殺行為や数多くの人権蹂躙行為があったはずなのだ。

 本書は、こうした被征服者たちの視点からアメリカの歴史をひも解いた歴史書である。英雄たちの陰に隠れて、歴史に埋もれてしまった人々にスポットを当てて、いつもと違った角度から歴史を見ていく。そうすることで、征服者からの視点からは知ることのできなかった、新たな世界観が見えてくるというしかけ。

 新大陸発見の際にコロンブスが行った原住民への虐殺行為、西部開拓に伴いインディアンたちがこうむった悲劇、新たな市場を獲得しようとメキシコ・キューバフィリピンと次々に他国に戦争をしかける軍事介入の歴史、奴隷とされた人々の想像を絶する苦しみ、第一次大戦や第二次大戦のころのアメリカの背景事情、富裕層たちが行ってきた貧困層への仕打ち……。

 奴隷制にしても虐殺行為にしても、教科書に全く描かれないとは言わないけれど、ふつうはさらっと紹介するだけなので、そういうところをかなり掘り下げて書いているところが興味深い。やはり視点を変えるだけで、だいぶ違った風景が見えてくる印象。こんなことがあったのかと今まで知らなかったこともたくさん書かれていて、大いに勉強になる本だった。

 富裕層と貧困層の格差、他国への軍事介入好き、差別の歴史などなど、現代のアメリカでも問題になっているけれども、実は昔から同じようなことを繰り返してきたことが見えてくる。アメリカという国は昔からこんなだったのねというのが分かって、現代社会ともリンクするところも面白かった。
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アトランティス・ミステリー [世界史]


アトランティス・ミステリー (PHP新書)

アトランティス・ミステリー (PHP新書)




 むかしむかし、1万2000年前もむかし、大西洋にアトランティスと呼ばれる大陸があったそうな……。

 環状に水路をめぐらし、中央に王宮を据えたその大陸。豊かな自然と資源に恵まれ、人々は高度な文明を築き上げ、何不自由ない暮らしをしていたのだとか。だが、やがて栄華を極めた人々は、贅沢にかまけて堕落し、自制心を失うようになっていった。そんな人々の傲慢さが神の怒りを買ったのだろうか、大地震と大洪水がアトランティスを襲い、一夜にして大陸すべては海中へとのみこまれてしまう……。

 本書はこうした古くから伝わるアトランティスの伝説についてまとめた本。そもそもアトランティスの伝説はどこから伝播してきたのか、アトランティスは実在するのか、アトランティス大陸の場所はどこにあるのか、アトランティス伝説の意味など、アトランティスをめぐる疑問が全般的に書かれていて、これ一冊でアトランティスについて大まかに理解することができる内容だ。

 そもそもアトランティス伝説が生まれたのは、古代ギリシャの哲学者プラトンが著作の中で、その昔、アトランティスという島が存在したと言及したのがきっかけ。プラトンの言葉以外確たる証拠があるわけでもなく、その実在はようとして知れない。その謎は世界中の人々を魅了し、アトランティスは地中海にあるんじゃないか、アメリカのことを指しているんじゃないか、南極にあるんじゃないかなど、様々な説も現れた。

 アトランティスの痕跡を見つけることができないので、プラトンの創作なんじゃないかという説まで登場する。プラトンは自分の師であるソクラテスが処刑されたこともあって、当時の民主政治に絶望していた。非常に優れた哲学者による哲人政治を理想と考えていた。アトランティスというのは、当時のプラトンの政治に対する考えを物語に仮託して描いたもので、プラトンの思い描く理想国家のアンチテーゼなのではないか、そんな風にも考えられるのだ。

 結局のところ、伝説なのか実在するのか、真偽は不明なのだが、アトランティスの伝説は戒めの物語として、語り継がれてきたといえそうだ。

 アトランティスの伝説に限らないけれども、文明の崩壊や人類の終末を描いた物語というのは、人々に対して警告をしている。人類は自分たちの築き上げてきた文明がずっと進歩し続けて、これからもその繁栄が続くだろうと考えて栄華を極めようとする。だが、文明が未来永劫続くとは限らず、戦争のためか、天変地異か、疫病の蔓延か、自然破壊かは分からないが、ふとしたきっかけで文明がもろくも崩れ去ってしまうことがありうるのだという警告。終末の物語は、人間の傲りに対して戒め、文明が脆いものだということを教えてくれる。

 思えば、人類も遠いところまできたものである。火や道具を使うところから始まって、農業を始め、鉄を使い、船を操って世界中を股にかけ、産業革命を起こし、宇宙にまで進出し、情報社会になり、コンピュータ社会まで築き上げた。とうとうここまで来たか人類、やったな。だけど、そんな高度な文明を築いている現代人にすら、アトランティスの伝説が遠い過去から語りかけてくるように思えてならない。あまり傲り高ぶると、神の怒りを買って滅びてしまうぞと……。

 遠い昔の大陸の話だけれども、現代のことを語っているようなそんな普遍性があるから、今なお人々を魅了しているのだろう。アトランティス大陸について掘り下げて書かれていて、興味の尽きない本だった。
タグ:庄子大亮
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十字軍という聖戦 [世界史]





 11世紀、トルコによって支配されていた聖地エルサレムを解放するため、教皇ウルバヌス2世の呼びかけによって始まったとされる十字軍遠征。本書は、十字軍についての実像に迫った一冊。

 十字軍に参加した人々の真意、十字軍遠征の経緯、十字軍遠征の歴史的な意義など、十字軍について深く掘り下げて解説している。とっつきにくそうなテーマながらも、意外とわかりやすく解説されていて、第1回十字軍から十字軍の終焉まで、全体の流れが把握できる内容だ。

 十字軍というと、聖地奪還というイメージがあったけれども、本書を読むと、実は参加した人々の動機は様々であったことが見えてくる。経済的な動機だったり、政治的な理由で参加するような世俗的な人たちも大勢いたそうだ。純粋に宗教的な軍というわけでもなかったというところが分かって興味深い。

 キリスト教と軍事との関係について知ることができたところもよかった。

 キリスト教はもともと平和的な宗教のはずなのに、なんで戦争が正当化されるのか常々疑問だった。イエスの教えに、「だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい」という言葉がある通り、もともとキリスト教では同害報復を否定。絶対的な平和主義のはずだった。

 だが、コンスタンティヌス帝によってキリスト教が国教化され、国家と宗教との結びつきが強くなると、戦争に対して否定的な態度をとることが難しくなっていったという。外部の敵である異教徒からの脅威、キリスト教内部の異端の脅威にさらされるうちに、キリスト教世界の統一性を維持するためには、戦いもやむなしという方向に傾いていったのだ。

 もともと平和的であったはずのキリスト教のなかに、聖戦という概念が生まれ、やがて十字軍にこの概念がつながってゆく……。

 十字軍の歴史的経緯を知ることができるとともに、キリスト教と国家との関係、軍事との関係について詳細に解説されていて、なかなか読みごたえがある。現代においてもキリスト教国家の影響は大きいので、歴史的な意味合いのみならず、本書に書かれていることは現代にもつながってくる問題のような気がしている。
タグ:八塚春児
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物語フランス革命 [世界史]





 1789年、フランスでは革命への気運が高まっていた。

 土地を貴族・教会に握られ、関税によって自由な流通も阻害され、不満を持っていた富裕市民たち。生まれによる身分差別によって、貴族をうらんでいた中産市民たち。法外な年貢を巻き上げられ、貴族領主を憎む農民たち。王権の絶対的な力におびやかされていた貴族たち。それぞれの立場によって思いは違っていたが、国中で様々な不満が煮えたぎっていた。

 国王であるルイ16世自身も、改革的なところがあった。当時、フランスの国家財政はひっ迫していて、このままでは経済破たんすることは目に見えていた。財政改革が必要な状態で、たとえば、税金の支払いを免除されていた貴族から徴税する仕組みなどを作りたかった。

 フランスの国全体が、変化に向けて動き出し、三部会を開くなどして新たな政治体制の実現に向けて模索を開始。「国民、国王、国法!」をスローガンに、国民と国王が一丸となっての新たな国づくりが試みられた。立憲君主国へと生まれ変わることを目標に、平和裏のうちに改革が終わるはずであった……。

 だが、そんな計画にも、やがてひずみが生まれ始める。民衆同士が戦闘が繰り広げるなど、激しい様相を帯びるようになってしまう。その後、恐怖政治が始まったりもして、フランス革命は数多くの死者を生み出す悲劇の革命へと変貌を遂げる。また、革命騒動は国内にもとどまらなかった。フランスは革命を恐れる諸外国の敵とみなされて、全ヨーロッパを相手に回しての戦争状態へと突入することに――。

 本書は、こうしたフランス革命のいきさつを描きだした本。フランス革命がどのように始まって、どのように展開していったのか、その一連の流れがよく分かる内容。ときには、登場人物たちのセリフを交えながら書かれてあって、小説を読むような生き生きとした臨場感も感じられる。

 ルイ16世、マリー・アントワネット、ダントン、ロベスピエール、ナポレオンなど、主要な人物の評伝も丁寧に描き出されているし、革命を理想として戦闘行為に加わった女性テロワーニュ・ド・メリクール、フランス革命の指導者マラーを暗殺した女性シャルロット・コルデ、ルイ16世の死刑執行を務めた執行人サンソン、マリー・アントワネットの愛人とされるアクセル・フェルセンなど、あまり知られていないような人物も数多く登場して、興味深いエピソードが満載。こういう人々のうねりが歴史を作っていったんだなあということが見えてきて面白い。

 そもそも、革命が平和的に終わらず、方向性が変わることとなったきっかけとなったのは、ルイ16世の心変わりなんだそうだ。

 国王の思いは、揺れ動いていた……。革命が進行するにつれて権限が縮小されていくことへのいら立ち。王家としての伝統への誇り。革命をこれ以上進めることは許されないと感じ始めた王様は、外国への逃亡を図ろうとする。しかし、脱出計画が発覚して、逃亡に失敗すると、民衆は国王の裏切りに失望。ルイ16世を敵とみなし、「王政を廃止せよ!」との声が上がり始める。

 革命騒ぎがどんどんエスカレートしていく様子がまざまざと描かれていて壮絶。こんな風に進展していったのかということが目に見えるよう。

 フランス革命が始まる発端のところから、ナポレオンの戴冠まで描かれている。読んでいると、その後の世界史の流れを変えてしまった壮大な革命であることが伝わってくる。国民主権や法の前の平等といった、今では当たり前となっているような概念も、この時代に作られたのだ。後世の国々に圧倒的な影響を与え、日本の憲法にもフランス革命の精神は脈々と受けつがれている。

 世界の流れを変えた革命の動きが分かるとともに、人々がどんな思いを持っていたのか、いろいろな人間ドラマまで知ることのできる興味深い一冊だった。
タグ:安達正勝
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はじめて読む人のローマ史1200年 [世界史]


はじめて読む人のローマ史1200年(祥伝社新書)

はじめて読む人のローマ史1200年(祥伝社新書)




 建国神話から帝国滅亡まで、古代ローマの歴史について解説した一冊。

 ローマが王政から共和制にうつった理由、ローマ軍の強さの秘密、キリスト教が弾圧されたわけ、ローマ帝国滅亡の原因などなど、気になる疑問に答えてくれる。

 古代ローマなどというと、「ベン・ハー」「グラディエーター」「スパルタカス」など、映画からのイメージが強かったのだけれど、本書を読んで新たな発見がたくさんあった。実は、実際の戦場で戦車が使われることはほとんどなかったという話や、自由民なのに剣闘士の試合に出場した人も大勢いたという話など、知らなかった話も多くて、ああそうだったのかと驚かされる。

 「グラディエーター」という映画を観ていたら、皇帝が剣闘士と闘技場で対決する場面が出てきて、あれこそフィクションじゃないかと思っていたが、本書を読んで実話だと知ってびっくり。実際にコンモドゥス皇帝は剣闘士として戦っていたのだそうだ……。

 古代ローマ帝国の政治形態の話からはじまって、経済情勢、軍隊の規律、奴隷制度の実態、キリスト教との関係、権力をめぐる闘争など、古代ローマ全般についてこれ一冊で大まかに分かってしまう内容。

 カエサルやネロ帝、スキピオなど有名人も多数登場して、それぞれどんなキャラクターだったのかが語られる。人物の人となりがわかるようなエピソードもちりばめられていて、この人はこんな人だったのかとか、この人とこの人は仲が悪かったのかとか、人間味があって面白い。

 これからローマ関連の本を読んだり、映画を観たりしたときには、この本は重宝しそうだ。本書を読んで、古代ローマの全体像が見えてきて、もやもやしていたものがすっきり分かったのがよかった。
タグ:本村凌二
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英仏百年戦争 [世界史]


英仏百年戦争 (集英社新書)

英仏百年戦争 (集英社新書)




 中世の末、1337年から1453年まで、イギリスフランスとの間で100年間以上も続いたとされる英仏百年戦争。黒太子エドワードやジャンヌ・ダルクといった英雄が登場したことでも有名な出来事。

 だが、歴史をひも解いていくと、その実態は、呼び名とは大きく異なるもので、英仏間の戦争でも100年の戦争でもなかったのだそうだ。本書は、そんな英仏百年戦争と呼ばれる戦争の実態に鋭く切り込んだ歴史解説書である。

 イギリスというと、世界に名だたる国であるし、いっときは世界中で植民地支配を行い、大英帝国として覇権を握ったことさえあった。だから、今の感覚からすると、昔から栄えていたんじゃないかというようなイメージを持ってしまうけれども、実際には中世の時代のイギリスというのは、まだまだ力の弱い存在だったそうだ。

 イングランドに強力な王朝が登場するのは、ノルマンディ公ウィリアムのころからだが、この王はもともとフランスのノルマンディを治めていたフランス人の豪族だった。フランスに居を構えていて、イングランドは一領土に過ぎなかった。その後に登場したプランタジネット朝のヘンリー2世も、フランスを拠点とするフランス人で、やはりイングランドよりもフランスを中心に活躍をしていた。中世のころのイギリスというのは、フランス人が治めるフランスの属国のような存在だったのである。

 だから、英仏百年戦争といっても、その本質はフランス人同士の争いだった。もともとはフランスの豪族が自分の領土を息子たちに分ける際に、その分割方法で大いにもめて、戦争にまで発展。つまりは、大規模な親子げんか、兄弟げんかのようなところからはじまった。その後、世代が移り変わっても、やはり争いの当事者になっているのは、フランスをルーツに持つ者同士で、争いの原因もフランス人同士の領土や権力をめぐる争いだった。イギリス人とフランス人の戦争というイメージとは異なっていたのだ。

 本書を読むと、こうした歴史のさまざまな誤解が解けて面白い。中世のイギリス・フランスの時代背景も丁寧に描かれていて、歴史上の出来事にはこんな意味があったのかということが見えてくる内容。

 とくに興味深いのは、読んでいくと中世の人々の世界観が現在とは異なっていたことが分かること。中世の人々にとっては、国家という意識が希薄だったらしい。封建制の時代、人々の意識の単位は領地であり、王国とはいっても無数の領地の集まりという感覚に過ぎなかった。

 英仏百年戦争の意義は、こうした無数の領地という感覚から、ひとつの国家という感覚の萌芽を生じさせたことにあると筆者は言う。戦争で疲弊するうちに、国家単位での税収と常備軍による統制が必要になってきたのだ。そうして、だんだんと国家という意識が現れはじめる。もちろん、国家観がさらに確立するには、後年の絶対王政やフランス革命の時代を経る必要があるのだろうけれど……。

 国家というものも、人々が作り出したフィクションなのかもしれない。人々の帰属意識も領地から国家へと移ったり、さらには国家が集まった地域連合や帝国になったりと移り変わっていく。時代の要請に従って、流動的に意識が変化していく。本書を読むと、そうした歴史のダイナミズムが感じ取れる。

 現代社会に生きていると、現代の制度や価値観が当たり前のものだとついつい思い込んでしまうけれど、本当はそうじゃなくて、人々の作り上げたシステムはフィクションであって、揺れ動いていくものなんだよ。そんなふうに歴史の本は教えてくれる。本書を読んで、今まで持っていた世界観が揺さぶられて、大いに勉強になった。
タグ:佐藤賢一
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ルネサンス 歴史と芸術の物語 [世界史]


ルネサンス 歴史と芸術の物語 (光文社新書)

ルネサンス 歴史と芸術の物語 (光文社新書)




 ルネサンスなどというと、美術の運動が盛り上がった時代という、文化面でのイメージが強い。だが、詳しく社会背景をひも解いていくと、当時は波乱万丈の激動の時代だったことが見えてくる。大規模の権力構図の変化が起こった時代であり、美術や文芸作品の変化もこうした社会の変化が原動力になっていたのだ。

 本書は、ルネサンスという時代がどんな時代だったのか、どういうきっかけでルネサンスが起こったのか、どういうふうに終焉を迎えたのか、当時の世界情勢の動きについて解説した一冊だ。

 筆者によると、ルネサンス前とルネサンス以降の絵画にはあるちがいが見られるという。

 ルネサンス前の絵画は、どこか記号的で、人体構造が不自然で、人物の顔も無表情だ。これに対して、ルネサンス以降の絵画は、人体構造が自然だったり、感情表現が豊かだったり、遠近法を用いた写実的な描写が見られる。

 なぜこのような違いが生まれるようになったのだろう? 筆者は当時の社会背景に着目する。

 ルネサンス前の時代というのは、教会と君主が権力を持った時代だった。画家のパトロンも教会であることが多いので、絵画を描くにも、聖書の教えを厳格にふまえることが求められた。だが、旧約聖書に出てくる十戒では、「偶像崇拝」が禁じられていたため、その教えをなるべく忠実に守ろうと思えば、像を写実的に描いたり、神々しく描くことは難しい。そこで、画家たちは、物体そのものを描くのではなくて、聖なるイメージを記号的に描くことで、偶像崇拝禁止を回避しようとしたのだ。

 だが、時代は移り変わる。十字軍遠征などをきっかけにして、イタリアの商人のところに富が集中するようになる。商人ギルドと呼ばれる集団が権力を持ち始め、教会と君主になりかわって、画家の第3のパトロンとなっていく。すると、必然的に画家に求められる絵画の質も変容し、自由な風潮の絵画がもてはやされるようになり、写実的で情感豊かな表現が生まれるようになった。

 本書は、このようにルネサンス前後の美術作品を比較しながら、ルネサンスの時代背景について、丁寧にたどっていく。十字軍遠征にはじまり、金融業の発達、メディチ家の興隆、大航海時代の幕開けによるルネサンス時代の終焉など、当時の時代背景をわかりやすく解説している。ルネサンスの前後の時代がどのような時代だったのか、歴史の流れがひとつながりに見えてくる内容だ。

 本書を読むと、時代によって絵画の作風ががらりとちがってくること、絵画の流行の移り変わりの裏には社会情勢の変化が見え隠れしていることがわかって、非常に興味深い。美術作品を見るときにも、それが描かれた時代がどんな時代だったのかを考えることで、より深く作品を理解することができるようになるだろう。

 美術についての造詣が深まるし、ルネサンスの歴史を知ることもできるので、非常にお得な一冊。本書を読んで、ルネサンスに限らず、いろいろな時代について知りたくなってきた。
タグ:池上英洋
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世界史をつくった海賊 [世界史]


世界史をつくった海賊 (ちくま新書)

世界史をつくった海賊 (ちくま新書)




 映画や小説などで、ならず者として描かれることの多い海賊たち。だが、16世紀のイギリスでは、海賊行為は女王エリザベス1世からも支援されるほど国家と密に関わっており、イギリスの財政基盤を支える重要な暴力装置であった――。本書は、16世紀の海賊たちに焦点を当て、その意外な秘密に迫った一冊。

 16世紀当時のイギリスは、海洋貿易によって覇権を握るスペインやポルトガルの勢力にはかなわず、まだまだ弱小な二流国家であった。おまけに、プロテスタント国であるイギリスは、カトリック諸国に包囲され、いつ何時、侵攻を受けるかもしれない危険な状態にもあった。

 当時のイギリス女王エリザベス1世は、このような国難を乗り切るためには、早急に国力の増強が必要と考え、極秘の計画を推し進めはじめる。それは、海賊行為を支援して、スペインなどの船から金銀などを略奪させ、国の資金源にしてしまうという奇策だった。もちろん、おおっぴらにやったのでは戦争状態になってしまい、強大な軍事力を誇るスペインには到底かなわない。あくまでも秘密裏に行い、女王が関わっているとは悟られないようにカモフラージュするのだ。

 こうして編成された海賊の一団たちは、カリブ海や大西洋に浮かぶスペイン船やポルトガル船などを次々に襲撃しては、略奪品をイギリスに持ち帰り、イギリス経済の礎として重要な役割を果たすようになる。やがて、この海賊マネーによって、イギリスの国力は徐々に増大しはじめ、スペインをも打ち破り、世界の覇権を握る存在へと変貌していく。

 本書を読んで、海賊というものが、イギリス経済にどれほど重要な役割をはたしてきたかが書かれていて驚いた。フック船長とかシルバー船長とか、映画や小説のすり込みですっかり悪玉のイメージがあったのだが、見事にそのイメージがひっくり返ってしまう。単純な犯罪集団とは言い切れないところがあることが分かった。

 海賊マネーがイギリス経済に潤いをもたらしただけでなく、有名なイギリス東インド会社も、ロンドンの金融街「ザ・シティ」も、ロイズ保険会社も、海賊とその末裔たちが築き上げたものだという。イギリスのその後の世界貿易を推し進めたのも、海賊たちのおかげ。イギリスはこうして蓄えた資金力によって産業革命を起こし、世界中に影響を与えていったのだから、まさに海賊たちが歴史を動かしたといえる。このあたりの歴史のダイナミズムには大いに感動させられた。

 源流をたどっていくと、思わぬ原点に遭遇して、今まで見えなかった新しい世界観が広がっていく楽しさ。保険会社も、諜報活動も、香辛料・砂糖・コーヒーの貿易も、奴隷貿易も、実は海賊と重要な関係があった。これまでばらばらに持っていた知識が、海賊というキーワードを介してつながっていくような感覚があって、とても面白い一冊だった。
タグ:竹田いさみ

沈没船が教える世界史 [世界史]


沈没船が教える世界史 (メディアファクトリー新書)

沈没船が教える世界史 (メディアファクトリー新書)




 世界の海には数多くの沈没船が残されているという。ローマ時代の船、ヴァイキングの船、大航海時代の船、海賊船、中国の沈没船……。

 まだ誰にも発見されたことのない、眠ったままの船もたくさん存在していると考えられ、沈没船は水中のミステリーとして今なお人々を魅了し続けている。

 本書はそんな沈没船をテーマに、水中考古学の魅力と、沈没船にまつわる歴史をひも解いた一冊。

 遺物から文字通りの金銀財宝が見つかることがあるので、お宝目当てに沈没船を探すトレジャーハンターやサルベージ会社もいる。だが、沈没船の持つ一番の魅力は、歴史を垣間見させてくれるところにあるだろう。歴史を研究するのに、文献から推察していくという方法もあるけれども、文献自体に誤りがないとも限らない。人間の記録したものなので、本当のところはどうだったんだろうという疑問が残ってしまう。

 もし沈没船が発見されれば、それは歴史の一部分を根拠づける有力な物証となりうる。歴史のある時点で海に難破なり座礁なりした船は、ある時代の人々の生活をそっくり包み込んだまま、水中で保存される。それは、いわば過去の出来事を現代にまで残してくれるタイムカプセルのようなもの。

 船に残された遺物から当時の人々がどんな生活をしていたのかがわかったり、沈没している位置によって当時の船の航海ルートが分かる。軍艦であれば、残された武器からどんな戦闘手段を持っていたのかが分かるし、武器の備蓄によって当時の国家勢力まで明らかになる。沈没船を通して過去の出来事を目の当たりにすることで、歴史の流れの中でどのようなことが起こったのかを高い精度で推察することができてしまうのだ。

 筆者も、本書の中で、沈没船から様々な歴史的状況を再現して、沈没船の魅力を最大限に教えてくれる。大航海時代のオランダ、スペインイギリスの勢力図が見えてきたり、新大陸の財宝を運ぶスペイン船とカリブの海賊との攻防が出てきたり、元寇の日本とモンゴル帝国の戦いの様子が再現されたりと、歴史が浮かび上がってくる面白さ。歴史の流れがつながりあって見えてきて、とても興味深かった。

 大航海時代の人々は、胡椒を求めて、アフリカをまわって温暖なアジアにまでやってきたのだそう。胡椒なんて普段ありふれたもののように何気なく使っているけれど、当時の航海士たちは命からがら、危険を冒して運んできたのだ。こういう本を読むと歴史上の人々の苦労まで身近に感じられてきて、胡椒一つつまむにも心して食べなけばという気になってくる。現代にいたるまでに人類はどんな道のりを歩んできたのか、歴史の面白さを感じさせる一冊だった。

文明崩壊 [世界史]


文明崩壊 上: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)

文明崩壊 上: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)




 マヤ文明、イースター島、北米アナサジ文明、南東ポリネシアのピトケアン島など、かつて繁栄を誇った文明の数々は、なぜ崩壊してしまったのだろう? 歴史上存在した文明の崩壊の経緯をたどるとともに、文明存続のためにはどのような道筋があるのかについて考察した本。

 筆者は、歴史学、考古学、生物学、統計学などの知見を用いて、世界中の文明を比較研究し、その崩壊の過程を緻密に分析した。その結果、文明を崩壊させる要因として、以下のようなものが浮かび上がってきたという。

 それは、森林伐採、土壌問題、水資源管理問題、鳥獣の乱獲、魚介類の乱獲、外来種による在来種への圧迫、人口増大、一人当たり環境侵害量の増加の8つの要因。これまで文明が崩壊してきた例を見ていくと、これらの要素が驚くほど似通ったパターンで影響していることが分かってくる。

 たとえば、マヤ文明でもイースター島文明でも、人口が増加したことにより栄華を極めた人々は、その人口を支えるために森林資源を伐採してきた。森林破壊により土壌が侵食されると、農作物の生産性は低下し、人々はまともに食べることもできなくなってしまう。その結果起きたのは、飢餓や人肉食、戦争などの忌まわしい出来事。こうした例は、文明が崩壊した社会で何度も出てくる共通パターンだ。

 本書を読んで、これまで文明が崩壊した例を俯瞰すると、森林破壊などの環境要因によるところが大きいということが分かって興味深い。よくSFなどで、世界の終りの話が出てきて、疫病の蔓延だったり、隕石の衝突だったり、核爆発などといった劇的な要因で世界の破滅が描かれるけれども、ひょっとしたら実際に世界の終りがあるとしたら、それは、単に環境破壊ということでじわじわと起こるのかもしれない。

 こうした文明崩壊の脅威というのは、過去の文明に限った話ではなく、現在進行形で、現代人にも大いに関係する問題だ。たとえば、本書にはオーストラリアの資源が搾取される例が出てくる。オーストラリアはもともと土地が痩せていることに加えて、外から持ち込まれたウサギたちが繁殖して牧草を食べつくしてしまったり、人々が森林を伐採したりして、自然に回復困難な被害を与えてきた。オーストラリアのような現代の先進国であっても、文明崩壊の危険性からは免れられないのだ。

 人類の文明というのは、脆い存在である自然を基盤にして成り立っていて、非常に危ういバランスを保ちながら維持されている。いくら科学が発達した現代社会だとはいっても、いったん失われた自然を元に戻すことは極めて困難。一歩間違えれば、過去の多くの文明と同じく崩壊の道をたどってしまう。

 文明に対する見方を一変させてしまうようなことが書かれてあって、非常に興味深い本。人類は放っておくと、栄華を極めようとするものだけれども、それは自然資源を搾取するということでもある。考えなしに文明を発達させようとすると、発達しすぎて自滅してしまう。そういう怖いことが起こるんだということが分かっていい教訓になった。

アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書 [世界史]


アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書

アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書

  • 作者: 村田 薫
  • 出版社/メーカー: ジャパンブック
  • 発売日: 2005/01
  • メディア: 単行本



 アメリカ小学生が学んでいるアメリカ史の教科書。アメリカのバージニア大学の教授が編纂した6冊の小学生用の教科書から歴史部分を抜粋して1冊にまとめたものである。

 アメリカの小学生はどんなことを教わっているのだろうという興味本位で読んでみたのだが、意外なほど読みやすい本で驚いた。教科書などというと、およそ堅くて退屈なイメージがあるけれども、この教科書は読みものとしてとても面白くて、教科書とは思えないほど。

 何がよいかというと、全編を通じて物語性が感じられるところ。無味乾燥な事実の列挙ではなくて、ひとつひとつの出来事がストーリーとして、昔話を話して聞かせるように語られているところが非常に良い。歴史上の出来事について、主役を配し、彼らがどのような時代背景の中で、どのような動機で行動したのか、ドラマティックに解説されている。小説を読むような感覚で、アメリカの歴史を学ぶことができるのだ。

 ネイティブ・アメリカンがアメリカにやってきてからの話から始まって、コロンブスのアメリカ大陸発見、植民地化、独立戦争、南北戦争、西部開拓、ふたつの世界大戦、冷戦、60年代までが描かれている。独立戦争や南北戦争などは、割と多くのページが費やされていて、様々な出来事が具体的に書かれていて、場面が目に浮かぶような感覚さえしてくる。

 アメリカから見た歴史認識という点から見ても興味深い。第二次大戦のところでは、日本との戦いについてページが割かれていて、真珠湾攻撃が真珠湾にいた人々の目線から描き出されていたり、太平洋での戦いや原子爆弾投下がこれもアメリカ側からの目線で書かれている。単なる事実の列挙ではなくて、人々の思いのようなものまで書かれているので、アメリカ側から見るとどのような戦争だったのかが、心理的な部分まで知ることができる。

 思いもかけず面白い本で、つらつらと読んでいるうちに、あっという間に通読してしまった。いろいろと知らなかったこともあって、これまで本や映画で知っていた知識の断片がつながるような感じがして、なかなか勉強になる。アメリカの小学生はこんな面白いものを読んでいるのかと思って驚いた。
タグ:村田薫

フランス革命―歴史における劇薬 [世界史]


フランス革命―歴史における劇薬 (岩波ジュニア新書)

フランス革命―歴史における劇薬 (岩波ジュニア新書)




 古い体制を打破して、人間の尊厳を回復しようという理想を掲げて行われたフランス革命。だが、それは他方で、多くの人々が処刑されるなど恐怖政治の側面も有するものでもあった。理想と悲劇の二面性を持っていたのはなぜなのか? 歴史における劇薬ということをキーワードに、フランス革命の本当の姿を解き明かしていく歴史解説書。

 フランス革命がどのような経緯で起こったのか? どのような効果をもたらしたのか? 劇薬の痛みはどのようなものだったのか? これら3つの疑問を軸に、フランス革命の全体像がだんだんと明らかになっていく構成。

 フランス革命は、貴族、ブルジョワ、民衆の3つの社会層の担った3つの革命の複合体であるということが書かれていて、非常に興味深い。革命と言っても一枚岩ではなく、立場によって、求めている方向性がちがっていたそうだ。国王に奪われていた権力を取り戻そうとして、王権に反抗する一部の貴族。旧体制を破壊して商品の流通生産の自由を推進し、資本主義を発展させようとするブルジョワ。重い税金と領主の年貢という旧体制のシステムを打破すると同時に、資本主義の発展を押しとどめようとする民衆。

 3つの立場がお互いに引き寄せあったり、衝突して離反したりしながら、ジグザグと進路を変えながら革命が進められていき、やがて、毒薬の作用として独裁と恐怖政治がもたらされてしまう。フランス革命のその複雑な構造を解きほぐすように解説していて、頭の整理になるような内容だ。

 フランス革命と17世紀のイギリス革命、19世紀の明治維新との比較も面白い。イギリスは大衆を脇役として平等よりも自由を重んじ、日本は劇薬なしで武士を主体として「上から」の改革をした。革命と言っても国のおかれている状況によって、その目的や担い手が異なってくることが書かれていて、いっしょくたには扱えないのだ。

 フランス革命という真面目なテーマを扱っているが、読みすすむうちに、謎が解き明かされていくような面白さがあって、なかなかスリリングな内容。人権を獲得するのに、人々が激しい衝突をくり返してきたことが分かる、現在の制度の起源を知ることのできる興味深い一冊だった。
タグ:遅塚忠躬
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