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スエズ運河を消せ [手品]


スエズ運河を消せ―トリックで戦った男たち

スエズ運河を消せ―トリックで戦った男たち

  • 作者: デヴィッド・フィッシャー
  • 出版社/メーカー: 柏書房
  • 発売日: 2011/10
  • メディア: 単行本



 第二次大戦中、エジプトに侵攻をしようとしていたドイツ軍に対して、マジックを使って戦いを挑んだ男がいた。その人物の名は、ジャスパー・マスケリン、イギリスのマジシャンだった。イギリス軍に入隊した彼は、人を騙すあらゆる手口を使って、ドイツ軍の目を欺こうとする。

 本書は、そんなマスケリンが、戦地でしかけた様々なイリュージョンを描いたノンフィクションである。

 第二次大戦当時、イギリス軍はエジプトに駐屯していたが、ドイツ軍はイギリスをエジプトから撤退させようとやっきになっていた。イギリス軍の背後にはペルシャの油田が控えていて、イギリスがエジプトから撤退すれば、イギリスは石油の重要な供給源を絶たれることになる。ナチスは、北アフリカ戦線に砂漠戦に備えた精鋭部隊を送り込む。そして、その指揮を担ったのが、戦車戦の専門家エルヴィン・ロンメル将軍だった。

 ロンメル将軍は、卓越した戦略でイギリス軍を苦しめ、快進撃を続ける。じわじわと追いつめられてゆくイギリス軍は、ドイツ軍に対抗するためマスケリンの力を借りることに――。

 本書を読んでいると、マスケリンのドイツ軍の目を欺く壮大な仕掛けが次々に出てきてびっくりする。ニセの潜水艦を作り上げる、アレクサンドリアの港を移動させる、戦車部隊をそっくりそのまま作り上げる、スエズ運河を消してしまうなどなど……。マジックの技法を応用してドイツ軍を撹乱し、おとりに向かって攻撃をさせたり、イギリス側の攻撃計画を隠匿したり。あの手この手でドイツ軍を騙そうとするイリュージョンが出てきて興味深い。

 出てくるトリックはステージマジックの技法を応用したもの。舞台が戦場になろうと、人の錯覚を利用するという点では同じなんだなあということが分かる。ハリボテを戦車に見せかけたり、人形を本物の人間に見せたり、視覚の錯覚を利用する。見せたいものを見せて、誤誘導する。マジックの技法が驚くほど壮大な舞台で使われるところが面白い。

 マスケリンの奇抜な作戦はドイツ軍を苦しめ、ロンメル将軍の進撃を食い止め、イギリス軍を優勢に導くことになったのだそう。どこから伝説でどこまで真実かは分からないが、次々に目を見張るエピソードが出てきて、非常に読み応えのある一冊だった。
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脳はすすんでだまされたがる [手品]


脳はすすんでだまされたがる  マジックが解き明かす錯覚の不思議

脳はすすんでだまされたがる マジックが解き明かす錯覚の不思議

  • 作者: スティーヴン・L・マクニック
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/03/28
  • メディア: 単行本



 マジックが好きで、テレビなどでマジックショーをやっているとつい見てしまう。マジシャンがカードの数字を当てたり、美女を切断したり、ウサギを消したり、ボールを浮かせたり、さまざまな不思議現象が起こるのを見るのは楽しい。その面白さは、現実にありえないようなことが目の前で起こる不思議さ。幻想を目の当たりにする驚きにあるといえるだろう。

 だが、実はマジックがもっと面白くなるのは、種明かしをされた時だったりする。

 種を明かされるとがっかりするという言い方がされることがあるけれども、自分の場合は逆に種が分かるとより一層マジックを楽しめてしまう。どんなふうにマジシャンがトリックで人を錯覚させているのか、そのメカニズムを知ることで、マジシャンが人をだますためにさまざまな創意工夫を凝らしていることが見えてくる。よくこんなこと考えるよなあという、逆転の発想がたくさん出てきて楽しい。秀逸なトリックに遭遇したした時などは、面白いミステリーを読んだ時のような感動さえある。

 そんなだから、マジックの種がのっているネタ本のたぐいも、ときどき読んでしまう。マジシャンを目指しているわけではないので、実演が目的ではなく、あくまでも面白い発想を見つけるのが目的。人を錯覚させる手法の数々は、まさにアイデアの宝庫のよう。

 とくに、いくつか読んだマジック本の中でも抜きんでて読みごたえがあったのが、本書「脳はすすんでだまされたがる」だった。筆者はプロのマジシャンではなく脳科学者。もともとマジックに縁もゆかりもない科学者が、マジックの世界に足を踏み入れ、マジックのからくりを脳の観点から解き明かそうとする内容。

 マジシャンが行っているマジックのメカニズムが、脳の機能と関連して系統的に理解できるようになっている。ひとくちにマジックといっても、視覚を錯覚させるもの、認知を錯覚させるもの、自由意思を錯覚させるもの、記憶を錯覚させるものなど、さまざまな種類があることが分かる。

 人間の脳は決して完全無欠なものではなくて、いろいろな限界が存在しているそうだ。ひとつのことに集中するとほかのものが見えなくなってしまうとか、一度に記憶できる数に限界があるとか、残像が視覚をさえぎってしまうとか。注意をそらす要素がたくさんある。マジシャンはそんな脳のスキをついて、見せたいものを見せ、見せたくないものは隠してしまう。マジシャンが驚くほど巧妙に脳の仕組みを使って、幻想を見せていることが理解できて、かなり勉強になった。

 脳科学だけでなく、単純にマジックの種明かし本としても楽しめる。具体的なマジックのネタがたくさん紹介されていて、マジックの解説部分だけでも十分に読みごたえがあるのだ。トランプやスプーン曲げ、読心術、未来予知など、面白いトリックがわんさか出てくる。

 マジックを脳の観点から分析した科学書としての楽しみ方、マジックのトリックを解説したネタ本としての楽しみ方、一冊でいろいろな楽しみ方ができるし、これからマジックを見るときに新たな視点を与えてくれる、読み応えのある本だった。

人はなぜ簡単に騙されるのか [手品]


人はなぜ簡単に騙されるのか (新潮新書)

人はなぜ簡単に騙されるのか (新潮新書)

  • 作者: ゆうき とも
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/12/14
  • メディア: 新書



 プロのマジシャンによる「だましの手口」についての解説本。マジックの裏側について紹介するとともに、マジック、超能力、詐欺、推理小説を問わず、なぜ人は騙されるのかというメカニズムを探っている。

 筆者は、トランプやコインなどを使ったクローズアップ・マジックの専門家。いわば人の心理をあやつり、人を騙すことを職業としている。これまで目の前にいる観客に何度もイリュージョンを見せてきた筆者によると、どんなに注意深そうな人でも、演出によっては、案外コロっと騙されてしまうものだそうだ。自分が見たもの以外は信じないなどと頑固にいう人が、かえって騙されやすかったりする。

 人を騙すための原理というのはいくつかのパターンがあって、古い手であっても、人は意外とあっさりと騙されてしまう。それは、マジックに限らず、詐欺などの犯罪の手法にも共通して言えることで、本書には、その騙しのパターンが何個か出てきて、人がどのようなトリックで騙されるのかが見えてくる。マジックの舞台裏を見せてくれるような、貴重な内容だ。

 本書の中にはいくつかマジックも仕掛けられていて、騙されるということがどういうことかを読者が自ら体感できるようにもなっている。そのトリックはとても単純なのに、巧妙にできていて、自分などは筆者の目論見どおりに見事に引っかかってしまった。実際に自分で騙されてみることで、その騙しのメカニズムを自ら考えるきっかけにもなって、思わぬ演出がうれしい。

 人間の脳というのは、たいへんに優れたもので、何かの情報が与えられたときに、情報が不足していても、脳内補完してくれる機能がついている。情報の足りない部分は、脳が勝手に推測してくれて、足りないパーツの部分を補って、全体のイメージを形作ってくれる。

 こういう機能がついていることで、人間は生活を送ることができるわけだが、ときにこの脳が間違いを犯すことがある。実際とは異なるイメージ補完の仕方をしてしまい、現実とは異なる誤ったイメージを生み出してしまうことが。マジシャンや詐欺師のやっていることというのは、こうした脳の特性をうまく操ることだろう。脳に誤ったイメージを植えつけて、実際に起こっていないようなことを、さも起こったことのように見せかけてしまう。脳を誤った方向に誤誘導してしまうのだ。

 本書を読んで、マジックの解説を聞いて、また、実際にマジックを受けてみて分かったのは、人は一度先入観を与えられると、固定観念としてコチコチにイメージが固まってしまうこと。いったん誤った方向に注意がそらされると、なかなか本質が見えなくなってしまう。騙されるというのはこういうことなのかということが、自分の体験として実感できたのがとてもよかった。

 マジックの裏側とはどのようなものかという話から始まって、脳の特性という話にまで話が発展して、マジックが脳科学と大いに関連していることが分かって、思わぬ発見がある本。自分はまだ人を騙したことはないし、これから騙すつもりもないけれど、本書を読んでいろいろと騙しの手口があることが分かって興味深かった。
タグ:ゆうきとも