So-net無料ブログ作成
検索選択
児童書 ブログトップ

遠い日の呼び声 [児童書]


遠い日の呼び声: ウェストール短編集 (WESTALL COLLECTION)

遠い日の呼び声: ウェストール短編集 (WESTALL COLLECTION)




 イギリスの作家ロバート・ウェストールの短編集。

 どの作品も小説表現が豊か。情景が目に浮かぶような描き方がされていて、イメージ力が見事。登場人物の心の動きも細やかに書かれ、読んでいていろいろな人物と一体化してしまうような感覚になった。

 たとえば、「アドルフ」という作品は、少年が老人画家と出会う話。どうもその老人がアドルフ・ヒトラーそっくりに見えてきて、ひょっとしたら……ということで不穏な展開になる。でも、本当に恐ろしいのはその老人ではなく、狂気にかられる群衆だったというところがアイロニカル。誰が正義で誰が悪とか、そんなに簡単に区別できるものではないんだということを教えてくれる良作。

 戦争と言えば、「空襲の夜に」という作品はまさに第二次世界大戦の時代の話。イギリス人の少年が海岸沿いの家で留守番をしていると、落下傘で降りてきたドイツ兵が登場する。ふたりの息詰まる対峙。戦時中では、敵味方が殺しあうのが当然のルールになってしまうけれど、別の選択肢を選んだ人たちもいたはずだ。そういう人たちは苦しんだのだろうか? 同胞への義務と個人的な価値観との間の葛藤で。

 「ヘンリー・マールバラ」は、過去に取りつかれた女性の話。現実世界にすっかり嫌気がさした主人公は、過去に慰めを見出す。古い家具を集め、墓を訪ね、旧家を購入する。歴史を追い求める主人公の気持ちは分からないではない。歴史は人を没入させる力があると思う。

 一番気に入ったのは、「じいちゃんの猫、スパルタン」。祖父の財産を相続することになった主人公は、祖父の財産をそりの合わない父母から守ろうと悪戦苦闘する。やがて、過去の秘密が明らかになって……という話。他の作品などを見ても、親子の葛藤を描いた作品が多い。児童書とは思えないほど深みがあった。
nice!(10)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

王子と乞食 [児童書]


王子と乞食 (岩波文庫 赤 311-2)

王子と乞食 (岩波文庫 赤 311-2)




 マーク・トウェーンの古典的名著。

 そっくりの容貌をしたエドワード王子と乞食のトム。ふとした出来事で出会ったふたりは、今までと違う世界を見たいというお互いの願望をかなえるために、こっそり入れかわって生活することに。だが、入れかわっていることに周囲の誰も気づかないため、思わぬ騒動が巻き起こる。

 立場を交換することによって、てんやわんやの騒ぎが起こるという話は物語にはよく出てくるけれども、この小説はその原点ともいえるような話だった。

 国王が乞食と思われて散々な目にあい、あちこちでこづき回される。王子になったトムは自分は正直に打ち明けても狂人扱いされて取り合ってくれない。入れかわりによって周囲に勘違いが広がっていくという、コメディ風味のお約束の展開。まさにこういうのが読みたかったというものをきっちりと見せてくれる。

 乞食トムが騒ぎを収めるために王子の言動をまねたり、意外にも王子として活躍してしまったり。いろいろな活躍ぶりを見せるところが楽しい。

 立場交換ものの物語は、交換することによって、主人公の世界のとらえ方がこれまでとは変わってしまうところがもっとも興味深いところかもしれない。今までとは異なる視点から世界を眺めることで、知らなかった世界を目にすることになる。世界に対する見え方が一変してしまう。

 本作でも、王子は宮殿の外に出て乞食の立場から世界を見ることで、当時のイギリスの社会の実情を知る。社会の底辺に生きる人々と接することで、世の中の悲劇を知る。人々の苦難を知った王子は、やがて慈悲深い王となって、残酷な世界を慈愛の世界へと変えていく。そういう王子の成長物語になっているところが見事だった。

 この主人公の王子はエドワード6世という実在の人物だそうだ。ヘンリー8世の子供である。短命だったそうだが、実際の人生はどんなだったのだろう?

 翻訳しているのは、「花子とアン」の村岡花子。流麗な翻訳で、一気に読んでしまった。
nice!(12)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

穴/HOLES [児童書]


穴  HOLES (講談社文庫)

穴 HOLES (講談社文庫)




 ルイス・サッカーの「穴/HOLES」は、全米図書賞受賞の児童書。

 少年たちがひたすら穴を掘り続けていくという話なのだが、やけに面白い。

 話の舞台は、テキサス州のグリーンレイクというところにある矯正キャンプ。罪を犯した少年たちが、更生のために働かされる場所。周囲はぐるりと乾ききった荒れ地に囲まれていて、逃げ出すこともできない。

 このキャンプにスタンリーという少年が、靴を盗んだという理由で送り込まれるところから話は始まる。彼はキャンプの職員からシャベルを渡され、こちんこちんの地面を掘るように指導される。毎日毎日、炎天下の中で地面を掘るつらい日々……。人格形成のためという話だったが、だんだんスタンリーは疑問を感じるようになる。所長はなにか別の目的があって穴を掘らせているんじゃないだろうか?

 地面の中には一体何が埋まっているんだろうという謎にひっぱられて、ぐいぐい読まされてしまう。ところどころ100年前の過去のエピソードが差し挟まれて、これは何だろうと思って読んでいくのだが、だんだんと過去の逸話がキャンプで起こる現在の出来事と関連していることが分かってくる。最後の方に行くにつれて、過去の秘密が明かされていくのだ。

 無関係に見えたバラバラな事実が関連し合っていることが分かってきて、パズルのピースがうまくはまり込んでいく感じ。巧みに構成された作品といえるだろう。

 何気なく読み始めたら、絶妙の語り口に引き込まれて、面白くてあっという間に読み終えてしまった。
 
 現実とファンタジーがないまぜになったような雰囲気で、英米の児童書を読んでいるとときどき見かける作風。ロアルド・ダールとかを彷彿とさせられる。アメリカのポップな感じと、ファンタジックな雰囲気がまぜこぜになっていて、この雰囲気はなかなか良いなと思った。
nice!(10)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

大草原の小さな家 [児童書]


大草原の小さな家 ―インガルス一家の物語〈2〉 (福音館文庫 物語)

大草原の小さな家 ―インガルス一家の物語〈2〉 (福音館文庫 物語)




 1870年代から80年代にかけてのアメリカを舞台にした、インガルス一家の物語。

 筆者のローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的小説で、父親のチャールズ、母親のキャロライン、姉のメアリー、妹のキャリーとともに、厳しい開拓生活を送った日々が生き生きと描き出されている。

 もともとウィスコンシン州の森の中に住んでいたインガルス一家だったが、周りに人が増えて、獲物がとれなくなったことから、別の土地へ移住する決意をする。ミネソタ州から、アイオワ州、ミズーリ州、カンザス州を横切って、目指すはミシシッピ河の西側にあるインディアン・テリトリーと呼ばれる場所。その場所はまだ開拓民が少なく、野生の獲物が多く、植物もよく茂っているという。

 なにしろ交通機関が今ほど発達していない時代である。移動手段は幌馬車で、道中も危険や困難がいっぱい。氷の湖を渡ったり、橋のない川を横切ることになったり、切り立った崖を歩いたり、見渡す限り何もないカンザスの大地をひたすら移動したり。

 インディアン・テリトリーに到着してからも、苦難の連続である。まず家を自分で建てないといけないし、水を確保するのに井戸を掘らないといけない。食料となる野生のシカや鳥、ウサギなどを狩る必要もある。野菜も自分たちで栽培する必要がある。厳しい自然との闘いの日々が描かれていて、開拓民の暮らしはこんなだったのかというのが見えてきて面白かった。何でも自分で作ってしまう、たくましさが感じられる。

 シリーズの中でも特に、本書はインディアンとのかかわりが描かれているところも特徴だろう。

 当時のアメリカでは、インディアンたちはインディアン・テリトリーという土地に住んでいた。もともとは別の場所に住んでいたのだが、アメリカ政府はインディアンたちから土地を取り上げて、1830年に「インディアン強制移住法」を制定して、インディアンに移住を命じて、インディアン・テリトリーに住むよう強制していたのだ。

 それでも開拓民たちは土地が足りなくて、インディアン・テリトリーにまで進出するようになったのだとか。本書で描かれているのは、西へ西へと進出し、インディアンの土地にまで進出した開拓民の物語なのである。

 インディアンの土地に勝手に白人が入っていくのだから、軋轢も生じる。この辺のところが、赤裸々に描かれていて、ところどころローラがインディアンに対して悪感情を持つところなど差別的な部分も出てくる。当時のアメリカの人々の一般的な考えはこんなだったのだろうかというのが分かる、歴史の資料にもなっていて興味深かった。

 結局、一家は最後にこの土地も追われることになり、新たな旅に出ることになる。筆者は本当に波乱の人生を送ったんだなあと最後まで感嘆させられてしまった。

 最近西部劇にはまっていて、西部開拓時代に興味が出てきて、時代背景が分かるような本を探していたのだが、意外と見つからなくて行きついたのがこの本。読んでみたら、開拓民の日常が目の前に浮かび上がってくるようで、歴史解説書読むより生き生きとしていていいかもしれない。想像以上に過酷だが面白い生活を送っていたことが分かって、ためになる本だった。
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ジョン万次郎/海を渡ったサムライ魂 [児童書]


ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂

ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂




 幕末の日本からアメリカに渡った日本人、ジョン万次郎。その波乱万丈の生涯を描いた小説が、この本「ジョン万次郎/海を渡ったサムライ魂」である。

 こんなことが本当にあったのかと驚くような出来事が書かれていて非常に興味深いのだが、アメリカに残された記録や資料、万次郎の手紙などから再現した実際にあった出来事らしい。実に面白い人生を歩んだ人がいたんだなと、歴史のロマンをひしひしと感じさせる内容だ。

 物語が始まるのは1841年の四国沖。漁師たちと一緒に船に乗り込んでいた14歳の万次郎は、突然やってきた激しい嵐と荒波に襲われ、南東の太平洋の只中へと流されてしまう。広い海を漂流することになった万次郎たちは、高まる不安の中で未知の海の中を進んでいくが、やがて北太平洋の岩だらけの無人島「鳥島」にたどりつくことに……。

 万次郎たちが到着したときには、島にはアホウドリがたくさんいたので、肉を食べることができたが、次第にその数もぐんぐん減ってしまう。空腹とのどの渇きに苦しめられる一行。もう一巻の終わりかと思った時に現れたのが、アメリカの捕鯨船だった。

 それから、万次郎は捕鯨船に乗せられて、アメリカまで旅をすることになる。そして、今まで見たこともないような未知の世界へ足を踏み入れることになるのだ――。

 少年が数奇な運命によって、異国へと渡る、わくわくするような冒険物語。何しろ、鎖国を行っていた日本である。目にするものがすべて信じられないようなものばかり。アメリカのことなど何一つ知らなかった万次郎にとって、毎日が新しい発見だったろう。読んでいて、未知の世界に乗り込んでいくような雰囲気がたまらなく楽しい。

 アメリカは自由の国。どんな人間にも夢や希望をかなえる機会が与えられる国。そんなアメリカのよい部分に感化された万次郎は、文化衝突や差別と戦いながらも、異文化のあらゆる事物を吸収していき、やがてアメリカでも立派に通用する人間へと成長していく。そして、日本とアメリカの懸け橋となるような、歴史的な重要な役割を果たすようにさえなる。一人の少年がどのようにして歴史に名を残す人間になっていったのか、その経緯を描いた成長物語といえよう。

 ジョン万次郎。名前は聞いたことがあったが、こんなに面白い人生を歩んでいたとはこの本を読むまで知らなかった。万次郎は旅の途中のオアフ島で日本に帰るか、それとも未知なるアメリカに渡るか選択を迫られるけれど、好奇心のほうが勝っていたようだ。そのままアメリカへ行く道を選び、危険を顧みずに未知なる世界へと突き進む。こういう一世一代の決断をしてしまうところが、常人にはまねできないところなのかもしれないなあと感嘆させられた。
nice!(8)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

宇宙への秘密の鍵 [児童書]


宇宙への秘密の鍵

宇宙への秘密の鍵




 イギリスの理論物理学者スティーヴン・ホーキング父子が書いたジュブナイル小説

 少年が彗星に乗って、太陽系のあちこちを探検するという宇宙アドベンチャー。平凡な少年が、万能コンピュータの助けを得て、宇宙に飛び出して大冒険をするという夢のあるストーリーだ。

 ストーリーはいたってシンプルなものだが、読んでいて、主人公の冒険を通して、宇宙の様々なしくみを知ることができるところがよい。小説部分だけでなく、随所に科学解説コラムが挟みこまれていて、惑星とは何か、宇宙の成り立ちはどのようなものか、宇宙を形作る物質は何かなど、宇宙の様々な仕組みを知ることができるのだ。

 星や宇宙の写真がたくさん掲載されていて、宇宙がどんなところなのかが具体的に見えてきて、宇宙を身近に感じることができる内容。「土星はどんな惑星なの?」とか「ブラックホールに入ったらどんな風になっちゃうの?」とか、素朴な疑問にも答えてくれる。

 科学と環境保護との衝突というテーマも描かれていた。科学者に突きつけられた問いかけ。「地球での暮らしをもっとよくする方法を見つける努力をすべきなのか? それとも人類が暮らしていける別の新惑星を見つけるべきなのか?」 ホーキング博士なりのメッセージもこめられていて、子供向けながらも考えさせられるところもある。

 やさしくさらっと読める内容であるが、読み進むうちに宇宙の基礎の基礎がいつの間にか頭に入ってくる。主人公と一緒に宇宙を探検するような気分になれる夢のある一冊だった。
nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ストームブレイカ―  [児童書]





 イギリスの14歳の少年アレックス・ライダーのもとに、悲しい知らせが届く。叔父が自動車で帰宅中にタンクローリーと衝突し、亡くなったというのだ。アレックスは生まれてすぐに両親を飛行機事故で亡くしていたため、叔父はアレックスの親代わりとなってくれた人。唯一の家族といえる人だった。

 悲しみのなかで湧き上がる疑問。身近にいたわりには、自分は叔父のことをよく知らない。アレックスは叔父のことを調べていくうちに、衝撃の事実に行き当たる。叔父は本当は事故で死んだのではなく、暗殺されたのではないか? しかも、叔父は銀行家ではなく、イギリスの諜報機関MI6の秘密工作員だった!? やがて、アレックスのもとに謎の男たちが接触してきて……。

 イギリスのミステリー作家アンソニー・ホロヴィッツによるシリーズもの。少年スパイアレックスの活躍を描いた冒険活劇である。

 内容は007シリーズのジュヴナイル版といったところか。主人公のアレックス少年が諜報部員の叔父のあとを引きついで、自らMI6の秘密工作員として活躍する。ジェームズ・ボンド顔負けのアクションをこなし、秘密のスパイ道具を駆使して、悪玉の陰謀を暴いていくのだ。

 ジュヴナイルものといっても、ミステリーとしての組み立てはきっちり作られていて、興味深い謎解きがあるし、手に汗握るアクションシーンも満載だった。

 今回、アレックスはコンピュータ業界の大物へロッド・セイルに隠された秘密を探る。何やらおそろしい陰謀をたくらんでいる様子だが、それがなんなのか正体がつかめない。アレックスは、コンピュータ好きの少年になりすまして、セイル・エンタープライズに潜入することに。

 叔父の残した手がかりを追って、徐々に真相に近づいていくあたりはうまい。ミステリーのツボを心得ていて、まさに良質なスリラーを読んでいるゾクゾクした感じがして楽しかった。

 自動車解体工場で死にそうになったり、謎の暗殺者に狙われたり、高所でヒヤヒヤするアクロバットを演じたりと、随所に見せ場があって飽きさせないところもよい。

 読んでみて結構面白かったので、シリーズの残りも必ず読んでみたくなった。お気に入りのシリーズが増えた感じ。アレックスがこれからどんな活躍を見せるのか楽しみになってきた。
nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

怪盗紳士 [児童書]


怪盗紳士    怪盗ルパン 文庫版第1巻

怪盗紳士 怪盗ルパン 文庫版第1巻




 有名なアルセーヌ・ルパンが初登場した作品集『怪盗紳士』。ルパンの活躍を描いた短編がいくつか収められている。

 ルパンの登場場面はどんなだろうと思って読んでみたのだが、1作目から秀逸なミステリーになっていて驚かされた。
 
 物語の舞台は、大西洋に浮かぶ豪華客船プロバンス号。フランスからアメリカのニューヨークに向けて優雅に航行中の船内で奇妙な噂が流れ始める。この船の中に怪盗紳士として有名なアルセーヌ・ルパンが乗り込んでいるというのだ。大陸から船に送られた無電情報によると、ルパンの特徴は、一等客室にいる一人旅の男で、右腕に傷跡があり、頭文字は「R」だという。船内の客たちの間に動揺が走る。あいつがルパンかこいつがルパンかと、お互いに監視の目を強めていく。やがて、ロゼーヌという一人の青年が疑われるようになり……。

 誰がルパンなのか分からずに話が進行し、乗客の中にまぎれこんだルパンを探す謎めいたストーリーになっている。乗客の誰も彼もが疑いの対象になって、お互いに疑心暗鬼に陥っていくところがぞくぞくする。

 トリッキーな作品でもあって、読者の目をくらませるあるミスディレクションが仕掛けられていて、ミステリーとしての完成度も非常に高い。初登場作品から非常に洗練されていて、なんとしゃれた作品なんだろうと驚嘆させられた。

 もちろん、その後に続く作品群も申し分のない出来ばえだった。一作目で逮捕されて刑務所の中にいるはずのルパンが、所内にいながらにして鮮やかな盗みを成功させる話、ルパンが刑務所から難なく脱獄してしまう話、ルパンの少年時代のエピソードなどなど、興味深い短編が並んでいる。

 改めて読んでみると、ルパンの短編は推理ものとして非常によくできていることに気づかされる。もっと子供っぽいものをイメージしていたが、ルパンの仕掛けるトリックは本格的なもので、本格推理作家にも引けをとらない内容。たとえば、「ぼくの少年時代」という話は城館から王妃のネックレスが盗まれる話なのだが、犯行現場は密室状態で、誰も入り込むことはできないはずだったという不可能犯罪ものの傑作だ。

 ルパンは冒険小説のイメージが強かったのだが、ルパンの仕掛ける心理的・物理的なトリックは、奇術師のような腕前。あざやかな騙しの手口に、あらためて感心させられた。

 しばらくルパンは読んでこなかったが、この1作目があまりにも面白かったので、また別の作品も読むことになりそう。短編ものは全部読んでみたいなあと思った。
nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

クルミわりとネズミの王さま [児童書]





 クリスマスの夜、少女マリーは自宅の居間で奇妙な光景を目にする。戸棚に入っていた人形たちが、いっせいに動き出したのだ。おもちゃの兵隊たちが隊列を組んで、どこからともなく現れたネズミの大群と戦いを繰り広げはじめる。部屋中を砲弾や銃弾が飛び交い、大混乱に。一体何が起こっているのだろう? マリーはくるみ割り人形をめぐる不思議な世界へと迷い込んでしまう。

 チャイコフスキーの作曲した「くるみ割り人形」の原作になった、E.T.A.ホフマンの幻想物語。

 少女が空想の世界に入り込んでしまうところは、「不思議の国のアリス」みたいな話なのだが、本作が一風変わっているのは、読んでいて何が現実で何が幻想なのかだんだん分からなくなってしまうところ。現実と幻想の間を行ったり来たりしているうちに、現実と幻覚の境界が分からなくなっていく。

 これは現実に戻ってきた場面だよなあと読んでいると、ところどころ前後の文脈と合わないようなところが出てきて違和感を感じたりして、「ちょっと変じゃないか?」と思えてくる。一見すると、メルヘンタッチの作品なのだが、よくよく考えるとどことなく不気味に思えてきて、一筋縄ではいかないのだ。

 不思議な世界に迷い込んだような気分にさせられる作品。ラストはハッピーエンドに見えるけれど、どう解釈したらよいのかよく分からず、なんか怖い……。ホフマンはこういう幻想と現実の入り混じった作品ばかり書いているようなので、他の作品も読んでみたくなった。

 魔法がかけられてクルミ割り人形になってしまった青年、7つの頭をもつネズミ、お菓子の城など、夢の世界が広がっていく世界観がすがすがしい。
タグ:ホフマン
nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

肩胛骨は翼のなごり [児童書]


肩胛骨は翼のなごり (創元推理文庫)

肩胛骨は翼のなごり (創元推理文庫)




 新しい土地に引っ越してきた少年マイケルは、古いガレージの奥に奇妙な存在を見つける。真っ白な顔にズタ袋のような黒いスーツを着た男。体じゅうほこりやアオバエにまみれている……。病弱な雰囲気の彼を、マイケルは手助けし始める。そして、ふたりが交流をもつうちに、不思議な体験をすることになる。

 少年の不思議な体験を描いたファンタジー小説

 「ET」でもなんでも、こういう異質な存在との交流を描いた作品にはひきつけられる。

 この種の作品では、たいてい友人同士となる二人は、それぞれにどこか欠けている部分を持っていて、お互いに手助けしあうことになっている。お互いに協力し合ううちに、友情がはぐくまれていって、主人公は友人との交流を通じて、新たな世界観を得ながら大きく成長していく。

 本作品にもそうしたモチーフが現れていて、主人公のマイケルはガレージの男を助けるために、食料を運んだり、病気を治そうとしたりする。ガレージの男もまた、マイケルのある願いをかなえる重要な役割を果たす。最初はお互いに敬遠していたふたりであったが、協力していくうちに、次第にお互いになくてはならない存在になっていくのだ。

 非常に簡潔な文体なのに、イメージが豊かに伝わってきて見事。派手な展開があるわけではないけれど、読んでいて、不思議な体験をしたなあと思わせてくれる本だった。

 肩胛骨は翼のなごり。文中にも幾度か出てくる言葉だけれども、いいタイトルだなあと思った。
nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

少年弁護士セオの事件簿 [児童書]


少年弁護士セオの事件簿 (1) なぞの目撃者

少年弁護士セオの事件簿 (1) なぞの目撃者

  • 作者: ジョン グリシャム
  • 出版社/メーカー: 岩崎書店
  • 発売日: 2011/09/16
  • メディア: ハードカバー



 ストラテンバーグの町に住む13歳の少年セオ。父親は不動産専門の弁護士、母親は離婚弁護士という弁護士一家に生まれた少年。セオ自身も法律に詳しく、将来は法曹界で活躍することを夢見ていて、ときには友人たちの法律相談にのってしまうほど。メジャーリーグ観戦やコンサートの鑑賞よりも、裁判の傍聴が好きという一風変わった子供だ。

 そんなセオの住む町の裁判所で、殺人事件の公判が始まろうとしていた。それは、ピーター・ダフィーという男が妻を殺害したとして起訴された事件。宝石類が盗まれていたので、一見外部の強盗による犯行にも見えたが、犯行現場となった住宅は、富裕層が住む警備の厳重なゲーテッド・コミュニティの中にあり、外部の人間が入り込んだとは考えにくい。また、被告人ピーターは、借金に苦しんでいて、妻にかけられた100万ドルの保険金は大きな魅力でもあった。

 殺人事件の裁判に町中が騒然となる中、少年セオは、図らずもこの殺人事件の謎に巻き込まれてしまうことに……。

 少年弁護士の活躍を描く法廷ミステリー。

 作者は、リーガルスリラーの代表的作家ジョン・グリシャム。「ペリカン文書」「法律事務所」「依頼人」など、出す本出す本が売れに売れているベストセラー作家だ。そんなグリシャムがはじめて児童書に挑戦したのがこの少年弁護士シリーズなのだ。

 少年ものとはいえ、さすがはグリシャム。アメリカの法曹界について詳しく描かれている。セオの活躍を追いかけるうちに、読者はいつの間にかアメリカの法制度を勉強できるようになっている。アメリカの裁判所の中の様子、裁判の手続きの進行、弁護士たちの仕事ぶりなど、こういう風になっているのかというのが見えてくる内容。実際に、アメリカの子供たちはこの本を教材として使用しているそうだ。

 もちろん、ストーリーも映画を見ているようなテンポの良さで、ぐいぐいと引き込まれてしまう。ミステリーとしてはわりかし単純ではあったが、次々現れる問題を法律知識を使ってどう解決していくのか? セオの奮闘ぶりが存分に楽しめる。

 検事と弁護士が熾烈なバトルを繰り広げる法廷ものとしての面白さ、殺人事件の謎を解き明かすミステリーとしての面白さ、セオが友人たちの悩みを解決していく人情話としての面白さなど、グリシャム作品の面白さの要素が凝縮されたようなところがある。シリーズは続々出版されているようで、本書を読んで面白かったので、セオの次回の活躍もぜひ見てみたいと思った。
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(1) 
共通テーマ:

マチルダは小さな大天才 [児童書]


マチルダは小さな大天才 (ロアルド・ダールコレクション 16)

マチルダは小さな大天才 (ロアルド・ダールコレクション 16)




 マチルダはわずか5歳足らずの少女だが、天才的な頭脳を持っていた。難しい数学の問題をあっさり計算してしまうし、どんな本でも読みこなし、文学作品でもたやすく理解してしまう。だが、大人たちはマチルダをのけ者扱い。両親は彼女のことを「チビのバカ」などとののしるし、学校の校長は厳しく当たり、マチルダのことを忌み嫌っていた。マチルダはそんな大人たちの仕打ちに耐えかねて、ある計画を練り始める。それは、大人たちをぎゃふんと言わせるために、さまざまないたずらを仕掛ける復讐計画だった。

 ロアルド・ダールが書いた児童文学作品。

 ダールのストーリー・テリングの才がふんだんに発揮された傑作。子供が主人公の話だが、ブラックなユーモアに満ちていて、大人が読んでも面白い。

 とにかく天才的な頭脳を持った少女というマチルダのキャラクターが生き生きと描かれていて、天才的なエピソードを読むのも楽しいし、大人たちに仕掛ける数々のトリックが痛快。

 マチルダは5歳とは思えないような天才的な頭脳を使って大人たちに勝負を挑む。ほかの子供たちをも巻き込んで、大人たちと子供たちとの火花を散らせる頭脳戦になっている。

 大人たちは子供たちに拷問さながらのこれでもかというひどい仕打ちをするし、子供たちも結構えげつないいたずらをしかけるので、児童書とは思えないほどのブラックな展開を見せるのだが、空想的にユーモラスに描かれているので、なぜか笑えてしまう。不思議な味わいのある作風だ。

 いたずらばかりではなくて、親切な教師ミス・ハニーとの交流などのハートフルな場面も出てきて、ほのぼのとしたところもある。最後は収まるべきところに収まるような、爽やかな読後感だった。

 ひとつひとつのエピソードが、小話のようによくできていて見事。また何度も読み返してみたくなりそうな楽しい作品だった。
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第九軍団のワシ [児童書]


第九軍団のワシ (岩波少年文庫 579)

第九軍団のワシ (岩波少年文庫 579)




 古代ローマの時代のイギリスを舞台にした冒険物語。

 当時、ローマ帝国はイギリスにまでその権勢を及ぼしていた。作者のサトクリフは、紀元117年ころにローマ軍の第九軍団が行方不明になった事件と、それから1800年後に翼のないローマ軍のワシが発見された事件をもとに、想像力をふくらませて、雄大な物語を紡ぎだしている。

 ローマ軍の百人隊長マーカスはブリテンに配属され、帝国の辺境の平定にあたっていた。だが、あるときブリトン人の氏族たちがローマ軍に攻撃を開始し、マーカスは戦いのさなか深手を負ってしまう。

 軍人としての将来を絶たれてしまったマーカスは、伯父の家で鬱屈した日々を送るうちに、新たな旅の計画を立てるようになる。それは、消えた第九軍団と、失われたワシの像の行方を探すというもの。マーカスは、友人の剣闘士エスカとともに、北の地へと旅立つ――。

 ある種のミステリーになっていて、主人公たちは、消えた軍団とワシの行方を探るため、手がかりをたどっていく。主人公がワシを求めてブリテン人の聖所に侵入するくだりなどは、いかにも冒険活劇といった雰囲気で、読んでいて思わず血が騒いでしまう。

 とくによかったのは、主人公の境遇が丁寧に描かれていたところ。主人公のマーカスは、ローマ軍の司令官として、軍人としての将来が約束されていたが、戦闘中に負傷してしまい、キャリアが断ち切れてしまう。絶望の淵に立たされて、悶々とした日々を送る主人公のやるせなさが伝わってきて、人物が身近に感じられる。そうした冒頭の閉塞感から一転、中盤からのワシを巡る旅は解放感に満ちていて、壮大な雰囲気が印象的だ。

 古代ローマが舞台の話なのに、当時の生活の様子が目に浮かぶように描かれていて、作者の想像力の豊かさには驚かされる。当時の世界観はこういうものだったのかというのが見えてきて、歴史を知る手がかりにもなる。ローマ人たちの悩みや夢が聞こえてくるようで、読んでいて時間を超えた世界に没入できて楽しかった。
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

思い出のマーニー [児童書]


思い出のマーニー〈上〉 (岩波少年文庫)

思い出のマーニー〈上〉 (岩波少年文庫)




 他人と関わることを嫌い、すぐに自分の殻に閉じこもってしまう少女アンナ。海辺の家で新しく暮らすことになったアンナは、そこでマーニーという少女と出会う。マーニーにはどことなく不思議な雰囲気が漂っていて、やがてアンナは知ることになる。マーニーには思いもかけない秘密があることを……。

 アンナとマーニーの友情の物語。

 どんな話かと思ったら、意外とミステリータッチの作品で面白かった。アンナが出会った少女マーニーにはどこか現実離れしたようなところがあって、それがどういう意味なのか最後まで秘密になっている。こういうことかな、ああいうことかなと、あれこれ予想しながら読むのだけれど、途中からさらに謎が深まるような展開になって、話の中に引き込まれてしまう。

 おわりに謎が解けて、最後の最後に意外な事実が判明したり、いろいろと気になってた部分が結び合わさったりと、思わずうならされる内容。よくできた推理小説を読んだような読後感だった。児童書だけれど、話の骨格がしっかりとしているので、ミステリーファンとしても楽しめる作品になっている。

 アンナの成長物語として読んでも興味深い。

 話の最初のうちは、アンナの内面が丁寧に描かれていて、周囲の人間とうまく関わることができないもどかしさが伝わってくる。友達の輪に入れなかったり、活動的なことに興味が持てなかったりするが、そんなことは自分は何も気にしていないんだと自分に言い聞かせたり、逆に落ち込んだり、アンナの複雑な心理がよく書かれている。

 そんな孤独な少女だったアンナが、転地でマーニーと友達になり、一緒に遊ぶようになる。マーニーと関わるうちに、アンナは元気を取り戻していく。アンナの内面もだんだんと生き生きとしたものに変わる。やがて、アンナと周囲との関係まで変化が現れるようにもなっていくのだ。

 あまり有名な作品ではなかったと思うけれど、読んでみて名作だと思った。何が現実で何が空想かわからなくなるような感覚、人との関わりを拒む心理など、現代の読者にも通じるような要素が含まれている。自分にもアンナに共感するようなところがあったので、読んでいて思わず感情移入してしまったくらいだ。

 ジブリが本作を映画化するようだが、どんな風に映像化するのか楽しみ。静かな作品ながらもイメージ豊かだし、不思議な内容でもあるので、たしかにジブリのアニメーションにはぴったりかもしれない。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

水深五尋 [児童書]


水深五尋

水深五尋




 第二次大戦中のイギリスの港町タインマスで、ドイツの潜水艦Uボートが突然現れ、貨物船を攻撃するという事件が起こる。一部始終を目撃していた16歳の少年チャス・マッギルは、翌日、浜辺で発信器のようなものを発見し、イギリスに潜んでいるドイツのスパイが、この発信器を使って潜水艦を誘導したのではないかとの疑念を抱く。チャスは友人たちと残されていた手がかりをたどりながら、スパイの存在を探し始めることに……。

 ロバート・ウェストールが描く、イギリスの小さな港町を舞台にしたスパイ探しの物語。

 戦争が背景にあるけれども、戦争の悲壮を全面的に描くというよりも、スパイを追跡するミステリーで、エンターテイメント性がかなりある作品。少年少女が色々と危険な目にあいながら謎を解いていくという、スリリングな冒険活劇。宮崎駿がイラストを描いているのだけれど、昔の宮崎アニメのような雰囲気もある。

 手がかりをたどっていって、だんだんとスパイの居所に近づいていくところなどは謎解きものとしてよくできている。少年たちが聞き込みをする人々もそれぞれに個性があって、きっちりと小説として見せてくれるところもよかった。

 主人公のチャスは、今回の冒険を通じて、いろいろな人々に出会い、多くの経験を積むことになる。様々な階層の人々と出会ったり、戦争が人々に与える影響を知ったりすることで、社会の矛盾を身を持って体験することになる。そうして、いろいろな側面から世界を見ることで、純情な少年から一人前の大人へと成長していく過程をたどるのだった。

 基本的にスパイ探しのミステリーだけれども、面白いだけでなく、ピリッと社会風刺も効いていて、なかなか考えさせるところもある内容。チャスと一緒に冒険をするうちに、読み終えたときには世界が多層的に見えてきて、少年の話ながらもなかなか深みのある作品だった。

ふたりのロッテ [児童書]


ふたりのロッテ (岩波少年文庫)

ふたりのロッテ (岩波少年文庫)




 夏休みにスイスのゼービュール村の宿泊施設にやってきた9歳の少女ルイーゼ・パルフィー。彼女はそこで、ミュンヘンからやってきたロッテ・ケルナーという少女と出会う。初対面のふたりだったが、不思議なことに、ルイーゼとロッテはうりふたつ。髪型以外はそっくりそのままの外見をしていた。やがて、ふたりは生まれてすぐに別れ別れになった双子であることが分かり……。

 エーリヒ・ケストナーの児童文学の代表的傑作。

 両親が離婚して、父親と母親が双子の一人ずつをそれぞれ引き取ることになったため、子供のころに生き別れになったルイーゼとロッテ。お互いの存在を知らないままに離れ離れに育ったふたりは、お互いの生活を打ち明け合う。そして、まだ見たことがない父母に会うため、こっそりと入れかわって帰宅する計画を立てる。

 双子の入れかわりによって生じる様々な騒動がユーモラスで面白い。双子といっても性格は正反対のふたり。生真面目でしっかり者のロッテといたずら好きで活発なルイーゼ。ふたりが入れかわったために、秘密を知らない周囲の人間はその変化に大わらわとなる。そして、ふたりの行動はやがて周囲の人々にも影響を与えて、変化をさせてしまうのだ。

 離婚した両親を仲直りさせようとする双子の活躍。話ができすぎなところもあるけれども、話が収まるべきところに収まるしっくりする感じは、心地よくもある。児童書ならではの夢のある物語で、読んでいてじんわりとさせられる作品だった。

 両親の離婚と引き離された双子という深刻な題材を扱っているにもかかわらず、コメディタッチで楽しい雰囲気の作品。どの場面を取り出してみても、非常に生き生きとしていて、良い話を読んだなあという気分にさせられる。また何度も読み返したくなりそうな名作だった。

ブラッカムの爆撃機 [児童書]


ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの




 1943年、英国空軍の無線士ゲアリーは、ウェリントン爆撃機に乗って敵地への出撃に向かう日々を送っていた。乗組員はゲアリーのほかに、天才的な操縦の技を見せる機長をはじめ、5人の個性豊かな面々。ドイツ軍の戦闘機の攻撃をかわしながらの死と隣りあわせの世界だった。その23回目の出撃のときのこと、彼ら乗組員はブラッカムの爆撃機と呼ばれている機体に乗ることになる。その機体は不吉な噂のあるいわくつきの機体……。言い知れぬ不安の中で、ドイツの上空を飛ぶ彼らが遭遇したものとは?

 第2次大戦中のヨーロッパを舞台にした戦争秘話。戦地に赴く飛行士たちの様子が克明に描かれていて、当時の人たちはこんな生活をしていたのかということが分かる興味深い作品。とくに爆撃機内の雰囲気は非常に臨場感があって、本当に主人公たちと一緒に機体に乗っているような感覚さえしてくる。

 空を飛ぶすがすがしさ。それと同時に、いつやってくるかわからない死に対する恐怖。乗組員たちの複雑な空気感や緊張感がひしひしと伝わってきて、戦争の現場がどのようなものかを垣間見る思いがした。

 戦争を描いているだけではなく、不思議な出来事を扱った幽霊物語でもある。主人公の乗ることになるブラッカム機は、飛行士たちを次々に異常な行動にかりたてる不気味な存在だ。機体に乗り込んだ乗員たちの前にもある恐ろしい出来事が起こる。戦争の悲惨さが怨念のように憑りついた飛行機の話で、ただ怖いというだけではなく、どこか悲しさもただよっていた。

 宮崎駿が解説とイラストを描いていて、飛行機マニアということのようで、描かれている飛行機のイラストの詳細さは尋常ではない。おかげで当時の雰囲気がヴィジュアル的にも伝わってきた。

 ウェストールは戦争ものと幽霊ものをよく書いている作家で、本作は彼の得意とするジャンルが融合されていて、その完成度は見事というほかない。戦時中の人間模様が生き生きと描かれた傑作である。

本へのとびら [児童書]





 アニメーション作家の宮崎駿が、岩波少年文庫の中から50冊の本を紹介。児童文学の魅力と、本の面白さなどについて語った本。

 「星の王子さま」、「三銃士」、「ファーブル昆虫記」、「西遊記」など、誰でも聞いたことがあるような有名な作品から、「まぼろしの白馬」、「思い出のマーニー」、「ハンス・ブリンガー」といった、これは何だろうと思わせるような本まで、色とりどりの本が紹介されている。読んだことのない本は単純にこんな本もあるのかという驚きがあるし、読んだことのある本であっても宮崎駿の独自の見方で語られていて、こういうところに注目するのかというのが分かって興味深い。

 児童文学というのは、「やり直しがきく話である」というのが筆者の考えで、これから長い人生を歩んでいく子供たちには絶望を語ってはいけない。うまくいかないことがあってもやり直すことができ、生まれてきたのは無駄ではなかったというエールを送るのが児童文学であるということが書かれている。

 宮崎駿のアニメーションにも通じる話で、子供たちが次々に困難に挑戦していく様子をはつらつと描いたジブリアニメは、まさに児童文学の精神が貫かれているのだと思う。実際に、本書には宮崎駿が大人向けの小説よりも、児童文学から影響を受けてきたということも書かれてあって、ジブリファンとして読んでも楽しめた。

 話が児童文学から、読書論、挿絵論、映像論、そして、震災後の日本の社会についてまで話が及び、どんどん話がふくらんでいくところが面白い。世界が経済だったり戦争だったりで破局的な雰囲気の中にあって、どういうふうに生きていけばよいのか、そんな人生観のようなものも語られている。今のような困難な時代にあっては、児童文学の持つ希望の力が必要なんじゃないかとも。

 語られている分量は短かったけれど、児童文学のみならず世界に対する見方についてまで考えさせられる深い内容の本である。紹介された本のなかにいくつか面白そうなものがあったので、ぜひとも読んでみたくなった。
タグ:宮崎駿
児童書 ブログトップ