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The Bazaar of Bad Dreams [洋書]


The Bazaar of Bad Dreams (English Edition)

The Bazaar of Bad Dreams (English Edition)

  • 出版社/メーカー: Hodder & Stoughton
  • 発売日: 2015/11/03
  • メディア: Kindle版



 スティーヴン・キングの最新短編集が出版された。「悪夢のバザール」というタイトルの通り、悪い夢を見ているかのようなひんやりとする不気味な雰囲気の20作品が収められている。

 キングの短編集は毎回楽しみにしているけれども、本書に収められている作品群はこれまでにもまして水準の高いものが多く、キングのストーリーテリングの才能が遺憾なく発揮されている。

 心臓を鷲づかみにするような恐怖短編もあれば、じんわりと心に染みるような人間模様が描かれていたりもする。それぞれ単独の作品であるけれど、底に流れているテーマはどことなく共通している。死に対する恐怖や悲しみ、過去の罪に対する罪悪感、身近な人間との別れ、才能を持つことの代償。これまでキングが描いてきたようなテーマが本書の中でも繰り返される。

 「Afterlife」は、死後の世界を描いた作品。証券会社に勤める男が死んだ後、同じ人生を赤ん坊の頃からやり直す。過去に犯してしまった罪を償うまで同じ人生が繰り返されるという、煉獄のような世界が描かれている。「もし人生をやり直すことができたら?」ということはときどき考えるけれど、キングが描くとこんな風になるのかというのが見れて面白い。

 「The Dune」は、砂の上にこれから死ぬ人間の名前が書かれているのが見えるという話。短い話だったが、ツイストが効いていて、最後の一文でゾッとさせる恐怖談。

 「Bad Little Kid」は、主人公の前に繰り返し現れる不思議な少年の話。主人公の人生の節目節目に現れるのだが、いつも同じ年齢で同じ格好をしている。主人公の周りの人間を死に追い込む死神みたいな存在。少年の超自然的な不気味な雰囲気も怖かったけれど、主人公の人生が大きく狂わされていく感じも怖かった。

 「Obits」は、駆け出しのライターがふざけ半分で書いた架空の死亡記事が実現してしまうという話。キング版「デス・ノート」といった内容の作品。主人公は調子に乗って、次々に死亡記事を書いて、記事の通りに人が死んでいく。やがて、自らの犯してしまった罪が災いして、主人公は窮地に陥ることになる。能力を間違って使うことへの代償が描かれている。

 「Summer Thunder」は、核戦争後の世界を描いた作品。登場人物は2人の人物と犬一匹のみ。荒廃した世界で細々と生きる主人公たちの日常がリアリスティックに描かれていて、迫力がある。身近な人間の死に直面することのつらさ、悲しみを描いた作品。
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Sleuth [洋書]


Sleuth (Playscript, 46)

Sleuth (Playscript, 46)

  • 作者: Anthony Shaffer
  • 出版社/メーカー: Marion Boyars
  • 発売日: 1985/04
  • メディア: ペーパーバック



 推理作家のアンドリュー・ワイクは、妻の愛人であるマイロという男を自宅に招きよせる。マイロは急に何の用かと疑問だったが、アンドリューはマイロに意外な話をする。自分にも愛人がいて、浪費家の妻には用はない。妻の宝石を盗み出して、保険金を受けとる計画の片棒を担いでもらいたいという。金がほしいマイロは、アンドリューの提案に乗ることにして、犯罪を実行に移そうとするが……。

 アンソニー・シェーファーという作家が書いたミステリー劇。「探偵スルース」というタイトルで2回も映画化されているので、ご存知の方もいるだろう。

 作者のアンソニー・シェーファーは、映画の脚本を書いている人で、「ナイル殺人事件」「ウィッカーマン」「フレンジ―」といった作品で知られている。名作「アマデウス」の脚本を書いたピーター・シェーファーという双子の弟もいて、兄弟合作で推理小説を書いたりもしている。

 本作はそんな筆者の書いたミステリーで、数々のたくらみに満ちた名作だ。

 何がすごいのかというと、主だった登場人物は2人だけなのであるが、お互いに罠をしかけて、熾烈な頭脳戦を繰り広げるところ。騙しの要素があるところ。

 起きている出来事は、すべて見た目通りとは限らない。これはこういう場面だなあという先入観を持ってみていると、実は裏に全然違うたくらみが隠されていて、状況がひっくり返されてしまう。まさにどんでん返しに次ぐどんでん返しという感じで、読んでいて何が真実で何がたくらみなのか、幻惑されるような感覚になってくるのだ。

 後年こういうパターンのミステリーはたくさん書かれているけれども、この作品がはしりだったのではないだろうか。多くの作家にも影響を与えた古典的名作と言えそうだ。

 いかにもイギリスのおしゃれなミステリーという雰囲気があって、現代ミステリーではあまり見かけなくなったウィットに富んだところがあって非常にいい。アンドリューとマイロの間の会話などは、知的スリルに満ちたチェスの試合を見るような迫力がある。

 2作目の映画の方は観たが、原作の持っているおしゃれな雰囲気が伝えきれていない感じがして、残念だった。1作目のほうが名作の誉れ高いので、ぜひ観てみたいものだ。
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The Columbo Collection [洋書]


The Columbo Collection

The Columbo Collection

  • 作者: William Link
  • 出版社/メーカー: Crippen & Landru Publishers
  • 発売日: 2010/05/10
  • メディア: ペーパーバック



 外国のテレビドラマ「刑事コロンボ」の小説版。

 「刑事コロンボ」のドラマ自体はすでに放送が終了しているし、主演のピーター・フォークも亡くなっているので、もうコロンボの新作は見られないのかと常々残念に思っていたのだが、なんと小説という形でコロンボがカムバックしてくれた! しかも、作者はコロンボの生みの親である脚本家のウィリアム・リンク。コロンボの世界観が小説の中に見事に再現されている。

 「刑事コロンボ」は、その名の通り刑事もののドラマ。犯人が最初から分かっている倒叙ものと呼ばれるスタイルをとっていて、犯人の目線で事件を描くことで、コロンボにじわじわと追いつめられていくスリルが味わえる。犯人が立てる犯行計画を、コロンボがささいな手がかりから見破っていくロジカルな面白さもあるドラマ。

 本書もドラマと同じく、コロンボの推理が冴えていて、細かな手がかりから犯人の偽装を見破ったり、犯行動機を明らかにしたり、犯人像を推測したり。まさに犯人とコロンボとの一騎打ちという感じで、非常にスリリング。読んでいて、本当にテレビドラマを見ているような感覚になった。

 12の短編が収められた短編集で、犯人の職業もバラエティに富んでいて楽しい。刑事弁護士、催眠術師、ボクサー、軍人など、様々なバックグラウンドを持った犯人たちが巧みな計画を練って、完全犯罪を目論む。

 いくつか面白かったものを以下挙げておく。

 「The Criminal Criminal Attorney」

 刑事弁護士のサンドフォード・バックマンは、レイプ疑惑で刑事裁判にかけられた依頼人の無罪を見事勝ち取る。だが、その記念すべき夜に、バックマンは依頼人をなぜか殺害してしまう。

 無罪にしたばかりの依頼人を殺害する弁護士。その動機が謎めいているところが面白い作品。例によって、コロンボが犯人の過去の秘密を暴いていく。

 「A Dish Best Served Cold」

 イラク戦争から帰還した兵士が、自宅で死亡しているのが発見される。被害者は拳銃で頭を撃ち抜かれていた。自殺との見方が有力な中で、コロンボが犯行現場に被害者以外の人間がいた形跡を発見し、殺人の線を追うことに。

 些細な手がかりから自殺説を否定したり、犯人を罠にかけて心理的に追い込んで行ったりと、コロンボがじわじわと犯人を追いこんでいくところが面白い作品。タイトルは、「復讐はよく冷ましてから食べるとよい料理」、つまり、「復讐はじっくり冷静にするのがよい」という意味だが、本書の犯人は慎重になりすぎて逆に墓穴を掘ってしまう。タイトルがアイロニカルでしゃれていると思った。

 「Trance」

 催眠術師の妻が絞殺されているのが発見される。なぜかコロンボの同僚が犯行現場にいて、催眠状態にかかったような呆然とした様子をしていた。コロンボは被害者の夫に目をつけ、催眠術で殺人を命じたのではないかとの疑惑を向けるが……。

 最後にちょっとしたひっかけがあって、ミスディレクションの面白さが味わえる作品。ミステリーとしてよくできていて、本書の中でも特に面白いと感じた。

 「Murder Allegro」

 日本風のホテルで、著名なバイオリニストの女性が絞殺されているのが見つかる。コロンボは犯行現場におもむくと、その犯行状況の不自然さに頭を悩ませ始める。被害者は空手の達人だったのに、犯人はどうやって犯行を成しえたのだろう?

 この作品は犯人が誰かわからない、本格ミステリーの形式になっている。コロンボが手がかりをたどっていく面白さだけでなく、犯人当ての興味もあって、ぐいぐい読ませる内容。日本文化が事件を解くカギになっているところもよかった。 

 「Photo Finish」

 夫の浮気に気づいた妻が、復讐のために夫を銃殺し、不倫相手の女性に殺人の濡れ衣を着せる。だが、隣人の男が犯人の偽装工作を目撃しており、犯人に恐喝しはじめる。

 コロンボのドラマのパターンのひとつに、最後にコロンボが決め手の証拠をつきつけるというのがある。犯人が犯行現場にいたことを示す物的証拠だとか、犯人がうっかり真犯人しか知らないことを言ってしまうとか、犯罪の重要な証拠が最後に明らかになる。この作品では、最後の決め手の部分が非常によくできていて、意外な盲点を突かれたようで面白かった。

Joyland [洋書]


Joyland (Hard Case Crime)

Joyland (Hard Case Crime)

  • 作者: Stephen King
  • 出版社/メーカー: Hard Case Crime
  • 発売日: 2013/06/04
  • メディア: ペーパーバック



 1973年の夏、大学生のデヴィン・ジョーンズはアルバイトの求人広告を見たことがきっかけで、ノースカロライナ州にある遊園地ジョイランドで働くことになる。初めは慣れなかった仕事も次第に上達、周りからも信頼されていくが、やがてデヴィンは、この場所で何年も前に起きた忌まわしい事件のことを知る。それは遊園地に来た若い娘が殺害された事件。過去の謎に惹かれたデヴィンは、その真相を解き明かそうとする。

 スティーヴン・キングの新作は、キングには珍しいミステリー小説。遊園地で起きた殺人事件の真相をめぐる謎解きもの。

 アトラクションの中で、リンダ・グレイという娘がのどをかき切られて殺される。第一容疑者は被害者と遊びに来ていた若い男。遊園地内で2人でいるところを写真にとられていたが、男は帽子とサングラス、ひげを生やしていて、その容貌は不明確だった。ただ、手に鳥の刺青をしていたというのが特徴的で、警察は男の行方を探すが、その居所は結局わからずじまいとなる。そして、これと同じような事件が連続することに……。

 迷宮入りとなった連続殺人事件を、主人公の青年がかぎつけ、調査をするうちに、だんだんとその真相が明らかになっていく。徐々に容疑者の範囲が絞られていくところなどはスリリングで、フーダニットとしてかなりよくできていた。

 ただのミステリーというだけでなく、ヒューマンドラマでもある。主人公の大学生デヴィンが大人になっていく成長物語にもなっている。

 ガールフレンドとつらい別れをして失意の中にあるデヴィン。遊園地でいろいろな人と知り合ったり、たくさんの経験をしたりするうちに、人間として一回りも二回りも大きく成長してゆく。少女を危機から救うエピソードだったり、浜辺で知り合った母子と交流するエピソードだったり、感動したり泣けたりする場面がたくさん出てくる。キングはどうしてこんなに人間の心の動きをうまく描けるのかというくらい、じーんとする話が満載で、キングらしい人間味のある内容だ。

 キングの真骨頂たるホラー風味も隠し味として効いている。全面的にホラーというわけではないが、被害者のリンダが幽霊になって現れたり、占い師のおばさんが出てきたり、心を読む少年が出てきたりと、わずかに幻想小説的なところもある。

 主人公の青年が大人になるまでのイニシエーションを描いた作品。殺人事件の調査や人々との交流といったひとつひとつのエピソードが、主人公を成長させるきっかけとなっている。最近のキング作品の中でもとくに楽しめる話で、翻訳が出たらまた絶対読みたいし、すでに映画化の企画も出ているようなので、そちらのほうも楽しみだ。

UR [洋書]


UR

UR

  • 作者: Stephen King
  • 出版社/メーカー: Simon & Schuster Audio
  • 発売日: 2010/02/16
  • メディア: CD



 ケンタッキー州のムーア大学で英文学を教えているウェズリー・スミスは、紙の本をこよなく愛する人間だったが、恋人から旧弊だと指摘されたのがきっかけで、アマゾンの電子書籍端末キンドルを注文することになる。だが、家に届いたキンドルは、なぜか普通の白い色ではなく、ピンク色をしていた。しかも、起動すると、そこには「UR」という謎の機能がついている。ウェズリーは、好奇心に駆られてUR機能を試してみることにするが……。

 スティーヴン・キングがアマゾンのキンドル向けに書き下ろした60ページほどの短編作品。書籍化されていないので、電子書籍かオーディオブックの形でしか読めない珍しい一冊。

 キンドルのために書かれているので、話の内容もキンドルが題材になっている。ピンク色の奇妙なキンドルが送られてきて、そこには次元を超えた機能がついているというトワイライトゾーン的ストーリー。

 主人公がURという機能を使って、ヘミングウェイの本を注文しようとすると、ヘミングウェイの亡くなった年が実際と違っていたり、書いていないはずの作品が出てきたり。その他大勢の作家のプロフィールも違ってしまっていたりする。新聞を読もうとしても、これも現実とちがっていて、ヒラリー・クリントンが大統領になっていたり、ケネディが暗殺されていなかったり。

 挙句の果てには、新聞に未来の記事が掲載されていて、恐怖の出来事が待っていたりも……。

 ピンク色のキンドルの持つ機能が徐々に明らかにされていって、その異常さがエスカレートしていく。読み進むうちに、だんだんと緊迫感が上がってきて、思わずのめりこんで読んでしまった。日常世界から異世界へと連れてゆかれるような不思議な感覚のある作品。

 キングのいつもながらの作風で、人物の描写もとても丁寧で、実際に生きているかのよう。読んでいて、映画を観ているような迫力があって、一気に読めてしまう小説だ。本好きの主人公が電子書籍論争みたいなものを展開させたりもして、世相を反映しているところなども興味深かった。