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荒木飛呂彦の漫画術 [漫画]


荒木飛呂彦の漫画術 (集英社新書)

荒木飛呂彦の漫画術 (集英社新書)




 漫画家の荒木飛呂彦が書いた創作論。

 漫画家としてこれまで培ってきた技術の裏側を公開している。

 筆者によると、漫画には基本となる4つの構造で成り立っているという。それは、「キャラクター」「ストーリー」「世界観」「テーマ」の4つ。本書では、この4大基本構造について、それぞれどのように構築していくのかを丁寧に解説している。

 この本を読んでまず驚くのは、筆者が非常に勉強熱心であるということ。漫画家として突出した才能があるだけではなくて、普段からアンテナを張り巡らせていろいろな情報を集めたり、実際に漫画を描くときにも、舞台となる場所に実際に足を運んで綿密な取材をしたり、他の漫画や小説映画のどこが面白いのかを徹底的に分析したり。とにかく、よいものを作り出そうというエネルギーが感じられて、なんと仕事に向かう姿勢が立派なんだろうと感嘆した。

 天賦の才能があるだけでなく、相当な努力家でもあるのねということがよく分かるし、膨大な取材に裏打ちされているから、迫力のある作品になっていることが見えてくる。たしかに、荒木漫画を読んでいると、やけに建物の描写などがリアルで、地理・歴史の背景なども細やかなのですごいなと思っていたが、その背後に膨大な努力の積み重ねがあったのだ。

 4大構造の解説の中では、特に面白かったのは、「キャラクター」論のところ。「キャラが立つ」という言い方をすることがあるけれど、どういうことかなと普段から気になっていたのだが、本書を読んで、ようやくキャラクターの何たるかが分かった気がする。

 筆者は、キャラクターを現実感のあるものにするために、各登場人物に「身上調査書」というものを作っているんだそうだ。それは、名前、年齢、性別といった基本的なことから、好きな音楽、飼っているペット、身体の傷の跡など、かなり細かいことにまでいたる、約60項目に及ぶ調査書である。このような細かなことまで設定することで、だんだんと登場人物が実在感のある生き生きとしたものになっていくのだそうだ。

 外国の小説家でも、こういうプロフィールのようなものを作成するという話を聞いたことがあるので、この部分というのは漫画家に限らず、小説や映画などでも共通の考えかもしれない。

 非常に興味深い創作論で、漫画家がこんな風なことを考えて描いているのかというのが分かって面白い本。最初の一コマの役割まで書かれていて、ここまで論理的に構築されているのかと驚かされる。これから荒木漫画を読むときや、漫画に限らず映画や小説に触れるときにも、本書に書かれていることは参考になりそう。新たな視点を与えてくれる新鮮な一冊だった。
タグ:荒木飛呂彦
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変人偏屈列伝 [漫画]


変人偏屈列伝 (集英社文庫―コミック版)

変人偏屈列伝 (集英社文庫―コミック版)




 世界には想像を超えた異様な人生を送った変人偏屈たちが存在する。本書は、そんな変人偏屈たちのエピソードをまとめた伝記集。

 原作は「ジョジョの奇妙な冒険」でおなじみの漫画家の荒木飛呂彦。独自の選考基準で世界中から常識を外れた人生を送った人々を選び出し、その人生を物語の形にまとめている。うち2作の作画を荒木飛呂彦が行い、残りはアシスタントの人が描いている。

 こんな変わった人生を送った人がいたのかと、純粋に伝記ものとして興味深い漫画。紹介されているのは、メジャーリーガーのタイ・カップ、興行師の原芳夫、腸チフスの料理人メアリー、ウィンチェスター夫人、コリヤー兄弟、ニコラ・テスラの全6話。知っていたのは、ニコラ・テスラぐらいだったので、彼らの壮絶な生き様を読んで、思わずのけぞってしまった。

 とくに面白かったのは、コリヤー兄弟の話。法律家と技師という仕事を持っていた兄弟なのに、なぜか突然屋敷の中に引きこもりはじめて、外部との接触を拒み、外の人間にまったく顔を合わせないようになってしまう。おまけに屋敷への侵入を警戒して、家中にトラップを仕掛けて、外部から入ってきた者は危険な罠にかかって命を脅かされる。一体なんでこんなに極端に引きこもり始めたのだろうという謎に魅せられてしまう。

 荒木飛呂彦が作画を担当しているウィンチェスター夫人の話も不思議である。ウィンチェスター夫人は、有名なウィンチェスター・ライフルを作った会社の跡取り息子と結婚して、夫の死後、その莫大な遺産を受け継いだ大富豪。彼女はその潤沢な資産を用いて、なぜか生涯をかけてひたすら自分の館を増築し続けたという……。

 実話なので、元になっている話が面白いというのもあるだが、何より荒木飛呂彦のストーリーの運び方が抜群にうまい。不気味な謎めいた雰囲気がかもし出されているし、迫力のある対決と息詰まるサスペンスには手に汗握る。実話が元になっていても、こんなに迫力が出るのかと、荒木飛呂彦のサスペンス演出のうまさに、あらためて驚嘆させられた。

 誰でも多かれ少なかれ変わったところはあって、普通の人ってなんだろうと思ったりもするけれど、本書に出てくるのは飛びぬけた変人偏屈たち。その壮絶な生き様にはひきつけられたし、世界を変えるような偉人というのは、こういうパワーを持ったつきぬけた変人偏屈なのかもしれないなあと、いろいろ考えさせられた。
タグ:荒木飛呂彦
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総員玉砕せよ! [漫画]


総員玉砕せよ! (講談社文庫)

総員玉砕せよ! (講談社文庫)




 昭和18年、ニューブリテン島のバイエンを占領した日本兵たち。米兵の上陸に備えて陣地を構築するが、熱病や自然の脅威に苦しめられる日々……。やがて、米兵が襲来すると、激しい攻防が繰り広げられ、日本兵たちは次々に殺されていく。戦力の圧倒的な違いに、敗戦は目に見えていたが、退却は許されなかった。兵隊たちは、バイエン死守のため、玉砕を命じられてしまう。

 漫画家の水木しげるが、自らの戦争体験に基づいて描き出した軍記漫画。初年兵の丸山という登場人物に自らの姿を重ねて、一人の兵隊から見た戦争の実態を描き出している。

 戦場での兵隊たちの生活がこんなものだったのかということが、迫力をもって伝わってくる内容。上官からの日常的な暴力や、劣悪な環境下での重労働。戦いだけでなくて、デング熱にかかったり、ワニに食われたり、魚をのどに詰まらせたり。兵隊たちが死んでいく様子が淡々と描かれている。

 いくら国のためとはいっても、兵隊たちも人間である。死に対する恐怖がないはずがない。何のために戦地に送られてきたのかもよく分からないまま、死んでいかなければならない不条理さ。後退ではなく、強引にも玉砕命令が下されて、死を宣告されてしまうことへの無念さ。当時の兵隊の正直な気持ちはこんなふうだったのかということが、ひしひしと伝わってくる。

 兵隊たちを神話化された人間のように扱うのではなくて、どこにでもいるような生身の人間として活写されているところが興味深かった。

 漫画なので、デフォルメされているし、ユーモラスに描かれているところはあるけれども、それでも戦争の悲惨さが生々しく伝わってきて、米兵との攻防などはまさに地獄絵図だった。

 淡々と描かれている中にも、筆者の戦争に対する怒りの念がにじみ出ている。この陣地をそうまでして守らなければならなかったのだろうか。最後に書かれたこの言葉が、ずっしりと心に響く。

 やはり、戦争の話は、戦争体験者の話を聞くのがもっとも迫真性がある。戦争の生の現実を伝えていて、後世の歴史研究の対象にもなりうるような貴重な作品だと思った。
タグ:水木しげる

魔少年ビーティー [漫画]


魔少年ビーティー (集英社文庫―コミック版)

魔少年ビーティー (集英社文庫―コミック版)




 新しく学校にやってきた転校生ビーティー。彼はあらゆる手品やトリックに精通する謎の少年。友人の公一とともに数々の難事件に遭遇したり、騒動に巻き込まれたり。何度も危険な目にあいながらも、得意のマジックでピンチを乗り切っていく。スリル満載のミステリー短編集。

 荒木飛呂彦の漫画にはよくマジックが出てくる。ロープマジックや、人間消失、鏡のトリック、ミスディレクションなどなど……。トリッキーな仕掛け満載なので、マジック好きにはたまらない魅力がある漫画家だ。頭脳戦のようなものが描かれることが多いのだけれども、その戦いはまさに相手をいかにうまく引っかけるのかという騙しあいの世界。マジック対決を見ているようなわくわく感がある。

 そんな荒木漫画の原点ともいえるのが、本作「魔少年ビーティー」である。謎の少年ビーティーが、犯罪計画を実行したり、悪人と対決したりする話。ここでもやはり頭脳戦が描かれていて、ビーティーが手品のトリックを使って敵の目を欺いていく。全編マジックのオンパレードという感じだし、細かな手品の解説までついていて、作者はよほど手品が好きなんだなあということが見えてくる。

 ミステリー作品としてもよくできていて、敵を倒す頭脳戦というだけでなく、作者が読者を騙してミスリードする、物語上の仕掛けもふんだんに登場する。予想を覆されるような意外性があって、なかなか油断できない。ピリッと毒が効いているけれども、おしゃれな雰囲気があるところなどは、よくできたミステリー小説を読んでいるような味わいがある。

 外国のミステリー作品からの引用ともいえる場面もいくつか出てきて、作者自身のミステリー偏愛が感じられて、ミステリーファンとしてうれしかった。主人公のビーティー自身、シャーロック・ホームズへのオマージュということらしい。

 悪魔のような頭脳の持ち主でありながら、強い正義感をも持ち合わせているという不思議な少年の物語。そのサスペンスフルな冒険の数々には、大いにわくわくさせられた。
タグ:荒木飛呂彦

夕凪の街 桜の国 [漫画]





 「夕凪の街」と「桜の国」という、原爆投下後の広島を描いた2作品を収めた漫画。皆実と七波という、それぞれ異なる時期に生きた2人の女性の視点を通して、広島の人々にとって原爆や被爆というものがどういうものなのかを描いている。

 最初の話「夕凪の街」は、原爆投下の10年後の広島が舞台。市内で働く平野皆実は戦時中も広島にいて、原爆投下後の惨状の中をどうにか生き延び、たくましく生きる女性。日常で楽しいことなどもたくさんあるのだが、何かうれしいことがあるときにふと影のようなものがよぎってしまう。

 それは、原爆投下直後に体験した悲惨な光景。焼けた街を歩いたときの恐ろしい記憶。人々を助けられず、自分だけ生き残ってしまったんじゃないかといううしろめたさがあって、幸せなことがあるたびに過去の記憶に引きずり戻される。

 戦争を生き延びたとしても、病気に苦しんだり、家族を失ったり、トラウマに傷つけられたりして、心から幸福感を感じることができないつらさ。広島の人々の苦しい思いが主人公の女性を通じて伝わってくる。たまたまその時代に生まれてしまったことで、青春を犠牲にされてしまい、思うように生きられないもどかしい感覚。戦争というものは戦時中だけでなく、戦後の人々の人生にまで暗い影を落としてしまうのだ。

 次の話「桜の国」も、時代はさらに後になるのだが、戦後の広島の話で、やはり原爆が後世にまで苦しみを与え続けることが描かれている。

 普段は明るく振舞っていたような人々が実は非常な苦しみを背負っていたり、突然亡くなったりしてしまう。人々の哀しみが伝わってくる、心揺さぶられる2作品だった。

 原爆と戦争の悲劇も、時間がたつにつれて、語る人がいなくなってしまい、記憶が薄れてしまうおそれもある。こういう形で、漫画でもドラマでも小説でも、物語の形にして語りついでいって、風化させないことは大事なんじゃないかと思った。
タグ:こうの史代

宇宙兄弟 [漫画]


宇宙兄弟(1) (モーニングKC)

宇宙兄弟(1) (モーニングKC)




 南波六太、31歳。弟を馬鹿にされて上司に頭突きしたため、会社をクビになり、就職活動中の身の上だった。ある日、彼は宇宙飛行士の弟から連絡を受け、昔の夢を思い出す。それは兄弟そろって宇宙に行くという子供のころに思い描いた夢――。六太は、JAXAの選抜試験に応募し、宇宙飛行士を目指すことに。

 宇宙を目指す兄弟を描いたヒューマンドラマ。夢をかなえるために過酷な試験に挑む六太の活躍を描く。

 宇宙飛行士になることができるのは、ほんの一握りの人間。宇宙という過酷な環境で精神の安定を保てる人間でなくてはならないし、ロケット機器の故障などに臨機応変に対応できる技術力も必要だ。また、宇宙での科学実験ができる理科系の知識も必須。NASAのクルーと一緒に働くので英語力もなければならない。なにより、他の飛行士と何日も狭い場所に閉じ込められるので、チームの和を乱さない人間であることが肝要だ。

 こうした宇宙飛行士に必要な資質を持っている人材を選び出すために、JAXAはさまざまな厳格な試験を用意している。この作品では、主人公六太の目線を通して、過酷な宇宙飛行士選抜試験の様子が見えてくる。

 かなり緻密に取材がされているらしく、本書に出てくるテストの内容は、実際のJAXAの試験に近い内容になっているそうだ。ロケットを模した閉鎖ボックスに入れられて、グループで数日間すごすくだりなどは、心理的に追い込まれていく感じがとてもサスペンスフル。受験生同士の心理の読み合いのようなところがあって、独特の緊張感があって面白かった。

 こんな試験が行われているのかという試験そのものに対する興味だけでなく、それぞれの登場人物の人間ドラマとしてもとてもすぐれている。兄弟そろって宇宙を目指す主人公だけでなく、他の受験生たちについても、それぞれドラマがあって、フラッシュバックで各人物の過去だったり、宇宙を目指す動機だったりが明らかにされる。群像劇のような趣があって、どの人物も丁寧に描き出されているところがとてもよかった。

 緊迫感があるかと思えば、じーんとくるところがあったり、コミカルなところがあったりと、いろいろな面白さの要素が詰まっていて、目が離せない作品。人類はなぜ宇宙を目指すのかという究極の問いかけにも真摯に答えようとするなど、宇宙開発のあり方についても考えさせられる良質な漫画だと思った。
タグ:小山宙哉

タンタンの冒険 [漫画]


ペーパーバック版 24冊セット (タンタンの冒険)

ペーパーバック版 24冊セット (タンタンの冒険)




 少年ルポライターのタンタンの活躍を描いた、ベルギーの人気コミック。

 主人公のタンタンは愛犬のスノーウィとともに、毎回毎回謎めいた事件に巻き込まれて、世界中を飛び回ることに。行く先々で危機一髪の目に遭いながらも、事件を解決していくという冒険活劇もの。

 ソビエトに行く話から始まって、コンゴ、アメリカ、エジプト、中国、チベット、ペルーと、めまぐるしく舞台が移り変わり、世界をまたにかけた冒険が繰り広げられる。そのスケールの大きさが本シリーズの魅力のひとつで、シリーズを追うごとに「次はどんなところに行くんだろう?」とわくわくさせられる。

 ミステリータッチのストーリーで、タンタンが毎回謎の事件に遭遇して、手がかりを追いかけていく。宝探しだったり、国家機密だったり、麻薬密売組織の陰謀だったりと、そのつど追いかける対象は異なっているけれども、いつも何かの謎を解決するというパターンになっていて、ミステリーファンとしては非常に楽しい作品だ。

 ミステリーの組み立て方が巧妙で、毎回最初の発端の謎が、割とささいなところから始まるところがミソ。冒頭でいかにも好奇心をそそられるような奇妙な出来事が起こるのだが、初めのうちはそんなに大きな事件だとは思わない。何が起こっているんだろうという謎があって、タンタンが少しずつ手がかりを追いかけていくうちに、だんだんとその全貌が見えてくる。そして些細な謎に見えたことが、実は国際的なスケールの陰謀に関連していたことが分かるのだ。

 このあたりは、シャーロック・ホームズ物語に似たところがあって、作者のエルジェはホームズが好きだったんじゃないかなあと思った。

 ストーリーの面白さのみならず、出てくるキャラクターも楽しい。酒好きの船長とか発明家の教授とか個性豊かな人物が続々登場して、様々な騒動を巻き起こすところがよくできている。ユーモアにあふれていて、エスプリの効いたシーンなどもいっぱい出てくるので、そういう場面だけ見ていても飽きない。

 世界を旅する楽しさだったり、謎解きのスリルだったり、キャラクターの楽しさだったりと、いろいろな楽しみができるシリーズ。ときどき読み返してしまうのだが、そのつどハラハラさせられて、何度読んでも楽しい作品だ。
タグ:エルジェ

ルードウィヒ・B [漫画]


ルードウィヒ・B (第2巻) (潮ビジュアル文庫)

ルードウィヒ・B (第2巻) (潮ビジュアル文庫)




 1770年、ドイツの田舎町ボンで、貧しい宮廷声楽士の息子として生まれたルードウィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。幼い頃からその天賦の才能を発揮し、6歳のときに開かれた演奏会で喝采を浴びるなど、世間の注目を集める。その後、彼はウィーンに移り、モーツァルトやハイドンに弟子入りしながら音楽を学び、一流の音楽家として成長していく。だが、一方で、過去の因縁から彼を宿敵としてつけねらうフランツ・クロイツシュタインという青年貴族が現れ、ベートーヴェンを陥れようとさまざまな画策をする。

 音楽家ベートーヴェンの生涯を、手塚治虫がドラマチックに漫画化した作品。手塚治虫がガンで亡くなる直前まで描かれた漫画で、病室のベッドの中でもこの作品を描き続けていたという。作者が亡くなったため、作品は未完成であり、ベートーヴェンがピアノソナタ「月光」を弾くところで終わっている。

 ベートーヴェンの音楽家としての成長物語で、その音楽にかける情熱が伝わってくる力強い作品。ときどき耳が聞こえなくなるという障害と戦いながらも、人々を魅了する音楽を作曲し続けるベートーヴェン。そのベートーヴェンの苦悩する姿が、病室で病と闘っていた手塚治虫自身と重なって見えてきて、作者自身の思いが想起させられてとても感動的だ。

 当時の時代背景も興味深く描かれている。ベートーヴェンが活躍していたころというのは、ちょうどフランスで国民が主権を勝ち取ろうとするフランス革命が勃発していた時代。フランス国王ルイ16世が、革命を鎮圧しようと、プロイセンやオーストリアなどの外国に助けを求め、外国の軍隊と革命軍とが衝突して戦争となった。

 作者は本作のもう一人の主人公として、貴族の青年フランツを登場させて、ハプスブルグ騎士団としてこの戦争に参加させている。そうすることで、フランス革命の激動の時代を映し出そうとしたのだろう。物語にさらなる広がりが生まれ、よりドラマチックな内容になっている。

 そして、このフランス革命の階級をめぐる軋轢は、本作のテーマのひとつにもなっている。ベートーヴェン自身や父親が貴族から差別を受ける場面が幾度となく登場したり、ベートーヴェンがフランス革命を支持する台詞が出てきたりして、身分制度の持つ不条理さが繰り返し現れてくるのだ。

 音楽家としての生きる歓びや苦悩を描くとともに、階級の軋轢や戦争の悲劇を描いた重層的な作品。ベートーヴェンの生涯だけでなく、当時の時代背景なども分かって非常に面白い。残念ながら未完に終わっていて、本来なら後にナポレオンなども登場するのだろう。ベートーヴェンとフランツのこの後の運命はどのようになっていくのか? 続きがとても気になる非常に面白い漫画だった。
タグ:手塚治虫

ジョジョの奇妙な冒険 [漫画]





 19世紀末イギリス、名門貴族のジョースター卿は、命の恩人の息子であるとして、ディオ・ブランドーを養子に迎える。だが、ディオはその境遇を利用してジョースター家の財産を奪い取るため、ジョースター卿の殺害計画を練り始める。ディオのもくろみを見抜いたジョースター卿の息子ジョナサンは、その計画を阻止しようとするが、ディオは古代メキシコに伝わる不思議な石仮面の力で不死身の力を手にしてしまう。

 ジョースター一族の世代を超えた戦いを描いた大河漫画。ジョナサンとディオとの死闘を描いた第1部から始まり、第2部、第3部と部を追うごとに世代が交代して新たな展開を見せる。だんだんと時代が変化していくもののジョースター家とディオの数奇な因縁は時代を超えて受け継がれてゆく。

 第1部のサスペンス風味や吸血鬼との対決も好きだけれども、第3部以降スタンドと呼ばれる能力が出てきてからがとくに面白いと思った。

 それぞれに特殊な能力をもった刺客が主人公たちに次々に襲いかかってくるという展開。特殊能力というのが個性的で、未来を予言する能力だったり、夢の中に現れる能力だったり、記憶を奪う能力だったり、体を縮めてしまう能力だったりと、いろいろな不思議な現象が襲ってくるところがホラー的で面白いのだ。

 各話の冒頭で謎めいた現象に巻き込まれるミステリアスな始まり方にはひきつけられるし、その謎の原因が相手の能力にあることが分かってからの対決もサスペンスフルで、単なる力技でない知恵比べともいえるトリッキーな戦い方が見もの。どう相手を騙すかというハッタリの戦いを見ているようでハラハラする。

 対決場面の面白さだけでなく、登場人物それぞれに厚みがあるところもいい。主人公たちがなんで危険を冒してまで旅に出るのか? その動機や背景が丁寧に描かれていて、登場人物たちの境遇に思わず感情移入してしまう。最初は謎めいた雰囲気の人物たちについて、後のほうに行くにつれてだんだんとその過去が明かされたりして、意外な人物像が分かったりするところも見事。

 ひとつの話の中にいろいろな面白さの要素が詰まっていて、多面的に楽しめる傑作。一番好きな話は、第3部に出てくる未来を予言してしまう漫画の話。突拍子もないような予言が、思わぬ形で実現してしまうというところがコワいなーと思った。
タグ:荒木飛呂彦

アドルフに告ぐ [漫画]


アドルフに告ぐ 1 (文春文庫 て 9-1)

アドルフに告ぐ 1 (文春文庫 て 9-1)




 1936年8月、オリンピック開催中のベルリンの町で、一人の日本人青年が殺害されているのが発見される。青年は刃物で刺された挙句、自宅アパートの窓から突き落とされていた。被害者の兄で新聞記者の峠草平は、弟が残した「R,W」という謎のメッセージを手がかりに、事件の真相を追いかけ始めるが、やがてその背後にはヒトラーにまつわる秘密文書のが明らかとなる……。

 第2次世界大戦の時代を舞台に、アドルフと呼ばれる3人の男たちの数奇な人生を描いた傑作漫画。

 冒頭から日本人青年の殺人事件が起こり、その謎を探るミステリータッチで幕が上がる。新聞記者が秘密の文書の存在を知り、命を狙われたりするところなどは、スリラー映画を見ているようでぐいぐい読ませるスピード感のある展開だ。

 その後、ドイツ人のアドルフ・カウフマンとユダヤ人のアドルフ・カミルという人物たちが登場しはじめると、徐々にこの作品のテーマが浮き彫りになってくる。最初は親友同士だったふたりだったが、時代の波に翻弄されて、次第にその運命が引き裂かれてゆく。ドイツ人とユダヤ人という立場で敵同士として憎みあい、お互いに殺しあう立場になってしまう、そうした人間の愚かさが描かれているのだ。

 第二次世界大戦の始まりから、ナチスの興亡、ドイツ降伏とパレスチナ問題など、3人のアドルフの人生を軸に、現代史の時代背景が克明に描かれている。当時の激動の時代によってもみくちゃにされた人々の苦難がまざまざと伝わってきて、非常に迫力のある作品。

 正義をふりかざすことによって、大量虐殺をくりかえす人間たち。正義とはなんだろうということを考えさせられる、作者からの強いメッセージが伝わってくる深みのある作品だった。
タグ:手塚治虫

ブラック・ジャック創作秘話 [漫画]





 漫画家・手塚治虫の代表作「ブラックジャック」。その創作の舞台裏を描いたノンフィクション漫画。

 当時の担当編集者やアシスタント、知人らの証言を通じて、「ブラック・ジャック」が描かれた頃の仕事場の様子や手塚治虫の人物像が明かされている。

 手塚治虫が同時に何作も連載を引き受けて多忙を極めたり、アニメーション制作で七転八倒したりしていた話は有名だし、手塚自身もエッセイなどに書いていたりする。だが、本書を読んで、周囲の関係者たちによる具体的なエピソードとして改めて聞くと、その壮絶さが想像以上のものであることが分かり、思わずのけぞってしまった。

 驚異的なスピードで漫画を描き上げた伝説的エピソードがあるかと思えば、好奇心旺盛で新しいものに何にでも飛びつく天真爛漫なところを見せたり、大量の資料や自分の描いた漫画を細部にわたって暗記しているという神がかった頭脳ぶりを示す証言も出てくる。なにより、「ブラック・ジャック」のストーリーを毎回3つ考えていて、その中から1つを選ぶ方式をとっていたという話は、手塚治虫の無限の創造性を感じさせるエピソードで、圧倒された。

 いろいろな点で突き抜けた才能を持った神様みたいなところがあると同時に、苦悩する人間的な側面も垣間見ることができ、手塚治虫の実像に深く迫った、かなり読み応えのある本だった。
タグ:吉本浩二

ドラえもん/恐怖編 [漫画]


ドラえもん (恐怖編) (小学館コロコロ文庫)

ドラえもん (恐怖編) (小学館コロコロ文庫)




 藤子・F・不二雄の言わずと知れた大人気漫画『ドラえもん』の中から、怖い話ばかりをピックアップして収めた作品集。

 生物を石に変えてしまう「ゴルゴンの首」。ものを倍に増やす薬でまんじゅうが際限なく増えて止まらなくなってしまう「バイバイン」。分身を作るために上半身と下半身を分断する「人間切断機」。書いたことが未来に実現してしまう「あらかじめ日記」。他人に何でも言うことを聞かせてしまう「悪魔のパスポート」など恐怖の21編。

 ドラえもんが置き忘れた秘密道具をのび太が勝手に使ったり、もらった道具の使い方に問題があったりして、大騒動が巻き起こってしまう。問題がエスカレートしすぎて、ついには地球規模の破滅にまで脅威が及んでしまうことも……。

 藤子不二雄の漫画は、ほのぼのとしたイメージもあるけれど、本書に収められた作品はブラックユーモアのセンスが光る作品ばかり。ここに描かれているテクノロジーの暴走は、科学技術を風刺するような内容でもあり、現代の社会問題にも通じるような内容だ。

 とくに面白いなあと思ったのは、「デビルカード」というお話。お金が勝手に出てくるカードなのだが、その代わりにのび太の背丈が少しずつ縮んでしまう。人は便利さを追求するあまり、その代償として何かを失ったり、犠牲にしたりしているのかもしれない。何か技術が進歩したり制度が変わったりして便利だなあと感じることはよくあるけれども、そんな時はこの作品のことをまず思い出してしまいそうだ。

 さらっと誰でも楽しめる形で描かれているけれども、鋭い文明批判になってもいる深みのある作品集。世の中の因果応報のようなものを感じさせるこわ~い一冊だった。

11人いる! [漫画]


11人いる! (小学館文庫)

11人いる! (小学館文庫)




 宇宙船白号の乗員として53日間船内にとどまること。宇宙大学の選抜試験の最終テストは、漂泊した船における協調性のテストだった。1名でも落伍者が出た場合には、10名全員が不合格となる過酷な試験。お互いに初対面のメンバーたちだったが、テスト開始後奇妙な事実に直面する。チームは10名のはずが、なぜか船内には11人いたのだ。疑心暗鬼に陥る中で、宇宙船に別のトラブルが発生する。

 萩尾望都によるSF漫画。宇宙船を舞台に、登場人物たちの青春群像を描く。

 タイトルにもなっているなぜか乗員が11人いるという謎だったり、船内に隠された過去の秘密だったりと、ミステリーの要素が取り入れられていて、推理小説のファンとして非常に楽しめる作品。宇宙船という孤立した舞台設定で謎のような出来事が起こるというのが、少し怖いような雰囲気をかもし出していて、最後までひきつけられてしまう。

 次から次に起こるトラブルにどう対処するのか? 登場人物がときに対立しながらも、お互いに知恵を出し合って問題を解決していくさまは、友情物語にもなっていて面白い。個性豊かな登場人物たちが出てきて様々な葛藤を生み出し、物語全体を生き生きとしたものにしている。SFではあるけれども、人物たちの内面にまで踏み込んだ繊細な内容で、文芸的な作品といえるだろう。

 SFでもあり、謎解きミステリーでもあり、友情物語でもあり、スリリングなサスペンスでもある。物語の様々な面白さの要素が詰まった、非常に濃密な作品。SFの持っているすがすがしい開放感のようなものが感じられて、ときどき読み返したくなる一冊だ。
タグ:萩尾望都