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風をつかまえた少年 [科学]





 2001年、アフリカのマラウィという国を飢饉が襲った。洪水と日照りの影響で、食料の収穫高が例年よりも激減する。

 トウモロコシ農家であった14歳のウィリアム少年の一家も例外ではない。お金もなく食料も手に入らず、苦しい毎日を強いられることになる。備蓄していた食料も尽き、食事の量をだんだんと減らさざるを得ず、1日1食しか食べられなくなっていく。もちろん、学費も払えず、学校などに通う余裕はない。

 国の支援はなかったのかというと、大統領は具体的な政策を行わず、現状維持に徹するばかり。国際的な支援も期待できなかった。

 大勢の人々が飢えに苦しみ、何人もの餓死者が生まれる。男たちは家族を捨て、どこへともなく去ってゆく。地獄のような状況が広がった。

 次の収穫の時期まで骨と皮のような状態でなんとか生き延びたウィリアム少年は、図書館で一冊の本に出会う。「物理学入門」という本で、この中には電気の生み出されるしくみと利用方法などが書かれていた。

 マラウィで電気を使っているのは人口のたった2パーセントにすぎなかった。もし電気を自分で作り出すことができれば、社会はもっと豊かになるかもしれない。揚水ポンプを井戸につなげることができれば、飲料水や灌漑用水に利用できる。年に2回の収穫が可能となり、飢餓の苦しみから逃れることができる。

 そんな切実な思いから、ウィリアム少年はエネルギー作りに挑むことになる。独自に風力発電機を作り、電気を生み出そうという計画だ。

 発電の仕組みは本に書かれていた。基本は自転車のダイナモと同じ。コイルの回転運動によって磁場に影響を与え、パルスを生み出す電磁誘導というやり方だ。風車の回転運動を生み出すことができれば、電気を得ることができる。

 ただ、問題はどうやって風車を作るのかということ。なにしろ貧しい国で、材料も道具もなにもそろっていないのだ。ウィリアム少年はどうやって風力発電機を作ろうかと悪戦苦闘する。

 とても難しそうな問題をどうやって解決していくのか? 次々に現れる壁を乗り越えていく様子が爽快。本で学んだ知識と、周りにあるものをなんでも使ってやろうというチャレンジ精神で、難行を成し遂げていくところが非常に面白い。

 また、ただ電気を生み出すだけで満足しない。今度は電圧を変えてみようとか、ブレーカーを作ってみようとか、ラジオ局を作ってみようとか、いろいろなことに挑戦していく意欲がすごいのである。

 本当に何もないところから、社会を変えていったわずか14歳の少年の成功談。学問の重要性、なんでも挑戦することの大切さを教えてくれる本だった。
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SFを実現する [科学]


SFを実現する 3Dプリンタの想像力 (講談社現代新書)

SFを実現する 3Dプリンタの想像力 (講談社現代新書)

  • 作者: 田中 浩也
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/05/16
  • メディア: 新書



 昨今話題になっている3Dプリンターの未来像を描いた一冊。

 3Dプリンターはニュースなどでもときどき話題になっているけれど、正直それほど期待しているわけでもなかった。樹脂やプラスチックなどの単一素材でものを作るには限界があるんじゃないかとか、強度の問題はどうなんだろうとか。フィギュアやアクセサリー、模型、試作品、人工骨、クッキーやチョコなどは作れるかもしれないけれど、用途は限られるんじゃないか? 「なんでも作れる魔法の箱」というわけではなさそうだなと半信半疑であった。

 だが、本書を読むと、現在の3Dプリンターというのはまだまだ初期段階で、本当の驚異というのはこれからやってくるだろうということが見えてくる。いろいろな素材を組み合わせることができるようなプリンターも開発されている。樹脂などの素材を積み重ねていくだけでなく、元の素材を切断・切削していくカッター、ものの構造を把握するスキャナー、物同士をつなげていく接着の技術など、複数の作業工程を統合した機械も生まれる可能性がある。

 これから技術が発展していくことによって、ネットからデータをダウンロードすると、家庭に置かれたプリンターが工業製品をプリントしてしまう。そんな夢の未来が来てもおかしくはないのだという。

 筆者によると、そもそもこうした「何がつくれるか?」ということ自体、3Dプリンターの可能性のひとつに過ぎないとも書いている。家も作れるとか、バイオリンも作れるとか、「何がつくれるの?」というところに焦点が当てられ過ぎていて、3Dプリンターの他の長所が見逃されてしまっているんじゃないか?

 他の長所というのは、ひとつには、ものの輸送そのものが不要となるということ。3Dプリンターというのは一種のテレポーテーション装置である。データだけ送ってしまえば、ものを直接輸送せずとも受け手のほうで作ってしまえる。輸送の手間をなくして輸送コストを抑える可能性があるし、そもそも輸送の難しい僻地にも製品や部品などを供給することができる。宇宙ステーションなど、輸送の難しい場所に部品を供給することができるというメリットは大きい。

 もうひとつは、ものづくりのあり方そのものを変えてしまうということ。20世紀のものづくりというのは、大量生産・大量消費であったが、3Dプリンターはその場で作るものなので、一点から作ることができる。データを修正して、素材、寸法、デザイン、色彩を変えることで、自分に合った製品をカスタマイズすることもできる。すでにできあがった完成品を受動的に消費するだけでなく、自分自身でものづくりに参加する、自分の使いたいものを作っていくという能動的なものづくりのあり方が可能となるのだ。

 3Dプリンターにはまだまだ未知の可能性がたくさんあるんだなということがよく分かる本である。筆者は実際に「ファブラボ」という3Dプリンターを使った活動を行っているので、本書を読むと、3Dプリンターの国際的な活用例も出てきて興味深い。すでに様々な探求がなされていて、こんな使い方もあるのかと驚かされた。
タグ:田中浩也
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フューチャー・オブ・マインド [科学]


フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する

フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する




 理論物理学者のミチオ・カクが描き出す、「心」をめぐる未来予想図。

 人類はこれまでテクノロジーを進歩させて様々な夢をかなえてきたが、これからやってくる未来にはどんな世界が待っているのだろう? 本書は、「脳と心」をテーマに、今後やってくるであろう未来世界を提示している。

 「もしもこんな道具があったら?」「もしもこんな人間になれたら?」今までは空想の中、SF小説の中でしか実現できなかったようなことが、本当に実現してしまうかもしれない。そんな夢のようなことが書かれている興味深い本である。

 他人の夢の中に入り込んでしまう装置、嫌な記憶を消してしまえる薬、テレパシーで操作するロボット、他人の記憶を植え付ける技術、思考を画像にしてみせる機械、頭のよくなる薬、ナノロボットによるアンチエイジング、人工知能の発達などなど……。

 こうした技術は一見すると荒唐無稽に見えるかもしれないが、単なる空想ではなく、現実に実現可能性が高まっているというから驚きだ。筆者は理論物理学者なので、本書に書かれていることはいたって科学的。物理法則に従った理論的に可能なもの、すでにプロトタイプが存在しているものという条件のもとに書かれている。そのため、空想的に見えるような話も、理論的な根拠があるというのだ。

 もしかしたら、近未来の人間は頭に帽子のようなものをかぶって生活するのかもしれない。その帽子で脳のシグナルを読み取って、テレパシーを使って機械を遠隔操作するようになる。脳の信号そのものがユーザーインターフェースとなる。

 そして、こうした脳のシグナルを読み取る機械を使って、全身麻痺の患者であっても人工の腕を動かすことができたり、人工の外骨格をまとって移動手段にしたりする。宇宙のかなたのアバターを操作することもできる。小さなナノロボットを体内に注入して遠隔操作で手術することもできる。あるいは、思考をデータ化して他人と通信することもできるし、考えているイメージを送ることだってできるだろう。

 まるで魔法のように見える出来事がこれからは当たり前の世界としてやってくるのかもしれない。技術の進歩というのは、まだまだこれからのようなのだ。

 具体的な理論に基づいていながら、想像を超えるような未来像が描き出されていて、読んでいて本当にわくわくさせられる一冊。未来にどんな世界が待っているのか、ほんの少し先の未来のことを知りたい読者におすすめの一冊だ。
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未来予測を嗤え! [科学]


未来予測を嗤え! (oneテーマ21)

未来予測を嗤え! (oneテーマ21)




 数学者の神永正博とプログラマーの小飼弾との「未来予測」をテーマにした対談本。

 未来予測という切り口から、ビッグデータ、人工知能、貧困問題、超国家企業、経済成長、教育問題など、幅広いトピックについて語っている。

 「経済はこうなる」とか「社会はこうなる」とか、「未来はこうなる」という言説をよく目にするけれども、そもそも未来予測というのはどの程度可能なんだろう? 

 本書によると、未来予測が可能な分野というものがあって、天体の動きなどの物理法則だったり、人口動態などの物理的な制約があるものだったりは、ある程度の予測はできるかもしれない。だが、お金などの人間が絡む社会現象などは予測不可能だろうという。

 統計データを使って理路整然と「社会はこうなる」と語ることもできるけれど、結局幻想にすぎないんじゃないか? データを恣意的に解釈して、自分の語りたいストーリーに合わせてしまっているだけなんじゃないか? 社会をもっともらしく予測しようという話は注意が必要になる。

 経済がどうなるかなんてわからないし、どんな商品がヒットするのかとか、どうすれば成功するのかといったことについても予測できない。成功法則があるわけではなくて、「こうすれば成功する」という話もあとづけの理屈に過ぎないということなんだろう。

 結局、未来のことが予測できないということになれば、手探りで試行錯誤を繰り返ししていくしかなさそう。あまり未来のことなど気にしすぎないで、その場その場を楽しんで生きるのがいいのかもしれない。将来に備えるといっても、どんな分野が発展するのか、後で何が役に立つかもわからないのだから、現在のトレンドと無関係な分野に興味を持って、とことん勉強してみるのがいいのかも。

 社会が複雑になるにつれて、ますます未来のことが分かりにくくなって、どうやって生きたらいいのか考えるのが難しくなった。一寸先は闇の社会ではあるが、本書はそんな不安な社会に生きるための羅針盤といえる。ちょっと先の社会について、これからの未来について、あれこれ考えさせられる、生きるヒントを与えてくれる本だった。
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理系の子 [科学]


理系の子 高校生科学オリンピックの青春 (文春文庫 S 15-1)

理系の子 高校生科学オリンピックの青春 (文春文庫 S 15-1)




 オハイオ州クリーヴランドで、インテル国際学生科学フェアというサイエンス・フェアが毎年開かれている。それは、50か国以上の国々から高校生たちが集い、400万ドルを超える賞金と奨学金をめぐって熾烈に競う大会だ。高校生だからといってあなどることはできない。中には大学院の研究をも上回るようなものもあるし、特許を取得して企業からの注目を集めるような実用的な研究もあるのだ。

 本書は、そんなサイエンス・フェアに出場した幾人かの学生たちについて紹介した一冊。核融合炉を製作したフィロ、ガラクタの山を組み合わせて太陽光発電ヒーターを作り上げたナヴァホ族のギャレット、ハンセン病にかかってその病気の本質について研究したBB、馬によるセラピー方法を考えたキャトリンなどなど……。

 個性豊かな様々な研究が出てきて、よくこんなこと考えるなあと感心させられるし、大人顔負けの知識の豊富さと研究テーマの深さ、研究内容の完成度の高さには、読んでいて驚かされてしまう。

 科学研究の中身だけでなく、それぞれの生い立ちから科学にかける熱い思いまで、その背景が丁寧に描き出されていて、人間ドラマとして楽しめるところもよかった。少年少女が夢に向かって取り組む姿は、まさに青春群像という感じで爽やかだ。

 ひとりひとり科学フェアに参加する動機は本当に様々。ナヴァホの少年ギャレットは貧しさや寒さ、ぜんそくに苦しむ家族を救いたいという、純真な動機から装置の開発に取り組んでいる。ハンセン病の少女の目的は自分のかかっている病気の悪いイメージを一新させようという世の中へのアピールだった。少女ケリードラは、化学工場の排出している化学物質について研究し、周囲の圧力がある中でも、どうにか自分の力で環境負荷を減らせないかと信念を貫き通そうとする。

 それぞれの熱い思いに、読んでいて思わず共感して応援したくなる。小さな高校生でも、周囲を巻き込んで、世界を変えてしまうことができる。そんなわくわくした気分にさせてくれるような本。

 科学フェアの世界を背景にした青春ドラマ。もっと子どもっぽいものかと思っていたら、意外と切実な学生たちがたくさん出てきて、感動の一冊だった。
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知の逆転 [科学]


知の逆転 (NHK出版新書 395)

知の逆転 (NHK出版新書 395)

  • 作者: ジャレド・ダイアモンド
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2012/12/06
  • メディア: 新書



 各界を代表する6人の知性に対して行われたインタビュー集。

 インタビューを受けたのは、DNA二重らせん構造を発見したジェームズ・ワトソン、歴史研究の第一人者ジャレド・ダイアモンド、人工知能(AI)の研究を行うマービン・ミンスキーなど。

 世界有数の頭脳の持ち主である彼らは、現在の社会、経済、科学、医学、文化、教育などについて、どのように考えているのか? そして、これからの世界についてどのようなビジョンを持っているのか? 多岐にわたる分野について、明晰な考えを知ることのできる興味深いインタビュー集になっている。

 第1章のジャレド・ダイアモンドは、精緻な科学的な技法を用いて歴史がどのように変動してきたのかを解明し、「銃・病原体・鉄」「文明崩壊」などの著書は世界的なベストセラーとなった。彼はインタビューの中で、文明が容易に崩壊しうること、漁場の開発や森林の伐採など、自然資源の枯渇の問題は深刻で、人類は「成長の限界」に達しつつあることを指摘する。

 歴史上これまで様々な文明が現れては崩壊していったのだけれど、単に歴史上の出来事として片づけるわけにはいかない。現代においても、文明崩壊の危険性は常にはらんでいるなあということを身に染みて感じさせるような内容だった。

 第2章のノーム・チョムスキーは言語学分野に革命をもたらした人物。彼は資本主義、市場原理の限界について語っている。市場原理というのは、人々が市場システムの中で利益を最大化させようとするものだけれども、それは閉じられたシステムのなかだけの計算に過ぎず、環境汚染だとか金融崩壊だとか、システム外のことは考慮に入れていない。外部性というものが存在していて、環境が悪化するコストなど、社会全体のコストにも注意を払うべきだという。

 ジャレド・ダイアモンドとも共通するような話が出てきて、市場原理主義の最先端を行くようなアメリカにこういう考えの人がいるというのが分かって面白かった。なんでもかんでも市場に任せていたらうまくいくというのは幻想で、民間にすべて任せようとして問題が噴出した例も多い。医療や環境など、規制が必要な分野もあるのではないかと思った。

 第3章のオリバー・サックスは脳科学者。映画「レナードの朝」の原作者で、他にも奇妙な症状を持った患者たちを描いた「妻を帽子とまちがえた男」などの著書がある。彼は、病気に向き合う際に、単に症状だけに着目するのではなく、それぞれ個人の持つ物語に着目することが大事だという。同じ病気でも、個人個人で反応だったり向き合い方が全く異なってくるものだからなのだ。

 オリバー・サックスの本は何冊か読んでいるが、たしかにどれも個人の物語になっているところが魅力。患者たちがどのように病気と対峙するのか、そのドラマが面白いのだが、ただ話として面白いからではなくて治療としても個人物語が重要なのだという指摘はなるほどと思った。

 第4章のマービン・ミンスキーは、コンピュータ科学者で人工知能の研究家。コンピュータはチェスには勝ててもドアも開けられないじゃないかとか、福島にロボットを送ることもできなかったじゃないかとか、ロボット開発の現状について不満を漏らしている。

 人間型のロボットにこだわる必要はないということや、膨大なデータベースを統計的に処理するようなものではなく、子供学習して成長していくようなコンピュータを開発したほうがいいんじゃないかということなど、人工知能やロボット開発者の中にもいろいろな考えがあることが分かって興味深い。

 第5章のトム・レイトンは、数学者にしてインターネットやサイバーセキュリティの専門家。インターネット社会の将来について語っていて、たとえば教育などはネット化が避けられない分野であろうということを指摘している。

 インターネット社会は店舗というものが必要なくなっていく社会。わざわざ外出してお店やモールなどに足を運ばなくても、いろいろなサービスを受けられてしまう社会。これからどんどんその流れが加速して、教育などほかの分野にまで及んでいくのだろう。便利だけれども、個人個人がどんどん隔絶された社会になっていくのかなと思うと、少しさびしい気もした。

 第6章のジェームズ・ワトソンは、分子生物学者で、DNA二重らせん構造の発見でノーベル賞を受賞した人物。二重らせん発見の経緯や、科学者のあり方について語る。

 科学研究を進歩させるのも個人の要素が重要で、大スケールサイエンスのようなものだけではいけないという、科学研究の裏側についての話が興味深かった。

「中卒」でもわかる科学入門 [科学]


「中卒」でもわかる科学入門

「中卒」でもわかる科学入門 "+-×÷"で科学のウソは見抜ける! (角川oneテーマ21)




 アルファブロガーでプログラマーでもある小飼弾が、科学リテラシーの重要性を説くとともに、社会のあるべき姿について独自の見解を述べた本。

 エネルギー問題や軍事技術などがいい例だが、科学というものは社会に多大な影響を与えていて、ときには一般人の生活を脅かすようなことさえある。そんな世界において、専門家の言うことをそのまま聞いていれば絶対安心というならいいけれど、科学者だって間違うことはあるし、必ずしも専門外のことまで知っているとは限らない。科学者も自らおかれている立ち位置によっては、自分に都合のいい主張をすることだってある。

 科学という素養は、科学者だけが身につけていればいいというものではなくて、科学とは畑違いの人間でも身につけておく必要があるんじゃないか? 民主主義の一員として科学の在り方を見守っていく必要があるのではないか? 本書は、こうした科学リテラシーを身につけることの必要性を述べ、じゃあどうしたらリテラシーを身につけることができるのか、そのコツを伝授している。

 本書を読んで、四則計算とか保存則とか、基本的な考え方を身につけているだけで、ある程度科学的説明の真偽を確かめることができるということが書かれていて、こういう考え方をするのかと面白かったが、後半に出てくる社会の在り方についての独自の見解はさらに興味深かった。エネルギー問題や宇宙開発、貧困問題にいたるまで、科学と関連する社会問題について、これまでの道筋や今後のあるべき未来像などが描かれ、広く科学と社会全体との関係についてまでも考えさせられた。

 科学は本来知的好奇心を満足させるための研究の側面に意義があるのかもしれない。だが、研究をするにも資金が必要なので、その研究が社会に役に立つことが要請される。しかし、そもそも科学研究というのは何かの役に立つとは限らないし、後になって初めて役に立つことが分かったりもする。

 科学研究と社会的な要請との間には衝突があって、そして、そういった衝突が、様々な社会問題や政治問題の原因にもなっているのではないかと感じた。実際に生じた様々な問題の実例も豊富に紹介されていて、社会勉強にもなる。こういう科学と社会の抱える矛盾した構図が見えてくるところが本書を読んでいて一番面白いところだった。

 科学の置かれている状況について幅広く書かれている、とてもためになる本。今後科学の話題が出てきたときに、本書に書かれていた枠組みや考え方が参考になりそうだ。
タグ:小飼弾

2100年の科学ライフ [科学]


2100年の科学ライフ

2100年の科学ライフ

  • 作者: ミチオ・カク
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2012/09/25
  • メディア: 単行本



 ニューヨーク市立大学の理論物理学者であるミチオ・カクが、テクノロジーが今後100年間でどのように進歩し、世界がどのように変化していくのかを描き出した本。

 近未来(現在~2030年)・世紀の半ば(2030年~2070年)・遠い未来(2070年~2100年)という3つの期間に分けて、コンピュータ・人工知能・医療・ナノテクノロジー・エネルギー・宇宙旅行の各分野の未来像を提示している。

 映像が配信されるコンタクトレンズ、無人運転する車両、磁気で浮上する自動車、壁紙スクリーン、万能翻訳機、血流に乗って手術や薬物投与をするナノロボット、室内の鏡や衣服につけられたチップによる日常的な健康状態の測定、医療や法律や旅行などの質問に答えてくれる人工知能、火星への探検とテラフォーミング(地球化)、遺伝子治療とデザイナーズチャイルド、保存されたDNAからの生きたマンモスの復元、老化を逆戻りさせる技術などなど、驚異的な未来像がこれでもかと次々に登場する。

 ここに書かれていることは単なる空想の産物ではなく、実現可能性のある未来といえるだろう。筆者は世界でも有数の科学者300人以上にインタビューを重ね、また、実際に研究所に行って、すでに存在する未来テクノロジーの試作品に数多く触れてきたのだそうだ。完全な予測は不可能にせよ、最新の研究動向を踏まえた上での未来像で、そのいくつかは実現してもおかしくはないのだ。

 面白いのは、このようなテクノロジーの進歩によって人々のふるまいがどのように変化をするのかについて書かれた部分。こういう未来を描いた本の中には、たとえば、ネットやバーチャル技術の進展によって、人々がお互いが会わなくなるんじゃないか、隔絶された孤独な未来が生まれるんじゃないかと想定する本もある。だが、実際には、人間はネット上で会うだけではなくて、実際に会うことを好むものだし、観光もバーチャルなものでは満足できずに、実際に現地に足を運びたいと思うものだ。

 テクノロジーが進歩しても人間自体が同じスピードで進化するわけではなくて、太古の人類のまま。こうした人間の本質みたいなものが踏まえられた本で、テクノロジーの変化に伴う社会の変化についても説得力のある内容と言える。

 未来を覗き込むような感覚のする興味深い本。こんな便利な世界が来たらいいなあという希望を与えてくれるような本でもある。もうその萌芽はすでに芽生え始めている。いつこんな世界がやってくるのか楽しみでならない。