So-net無料ブログ作成
SF(外国) ブログトップ
前の30件 | -

ダブル・スター [SF(外国)]


ダブル・スター (創元SF文庫)

ダブル・スター (創元SF文庫)

  • 作者: ロバート・A. ハインライン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1994/06/18
  • メディア: 文庫



 偽物が他人になりすまして活躍してしまう話が大好きである。

 シェイクスピアの芝居や「ゼンダ城の虜」「王子と乞食」、映画の「太陽がいっぱい」「デーヴ」など、こういう話は昔からたくさんある。

 騙される周囲の人間の騒動だったり、いつばれるかというハラハラドキドキが楽しい。お約束の展開だと分かっていても、つい笑ってしまう。

 ときには、偽物なのに思わぬ成功をしてしまったりして、意外な活躍をしてしまうところも見どころだろう。

 ロバート・A・ハインラインの「ダブル・スター」というSF小説は、まさにそんな偽物が他人になりすます話だった。

 売れない俳優のロレンゾは、バーで知り合った男からある仕事を持ちかけられる。俳優としての技量を見込まれての仕事だったが、舞台や映画の役ではない。ロレンゾにそっくりの政治家の替え玉になるという仕事だった。

 半ば強制される形でその仕事を引き受けることになったロレンゾは、地球の運命を背負って、一世一代の大芝居を見せることになる。

 ハインラインなのだが、SF要素は少な目。むしろ、政治劇の側面が強い作品だ。

 最初は嫌々ながら引き受けた仕事だったのに、政治家の人生に興味を持ち始め、主人公がだんだんと政治に目覚めていくという展開がいい。単に俳優としての仕事をこなすというだけでなく、徐々に人間としても成長して、大政治家のようになっていく。この辺りの主人公の変貌ぶりを見るのも楽しかった。
nice!(6)  コメント(0) 
共通テーマ:

変種第二号 [SF(外国)]


変種第二号 (ハヤカワ文庫 SF テ 1-24)

変種第二号 (ハヤカワ文庫 SF テ 1-24)

  • 作者: フィリップ・K・ディック
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/03/20
  • メディア: 文庫



 人工知能やらロボットの開発が目覚ましいけれど、これからは戦争もロボットが担うことになるのだろう。ドローンだけでなく、地上戦でもロボット兵器が人間の代わりに戦うようになる。

 もし、そんなロボット兵器が暴走を始めて、ひたすら人間を殺戮し始めたらと思うとぞっとする。ロボットには感情も何もない。単にプログラムされた指令に従うだけ。目の前に現れた人間を、機械的に殺していく。そんな悪夢のようなシナリオがやってくる可能性もあるのだ。

 敵味方や戦闘エリアを特定するプログラムが与えられるのかもしれない。だが、エラーが生じて敵味方関係なく民間人まで襲い始めたら? もっと技術が発展して、機械が自動的に複製を始めたら? そうなったら人間にはもはや制御不能。ロボットと人間のどちらかが生き残るまで、果てしない戦いを強いられることになる。

 フィリップ・K・ディックは「変種第二号」「ジョンの世界」「奉仕するもの」といった短編で、まさにこうしたロボットとの戦争をテーマに扱っている。

 ディックの小説は、ほとんどホラーといってもいいような怖さがある。ロボットが襲ってくるというだけでも怖いのに、進化を遂げて人間そっくりの外見のものまで誕生する。人間そっくりだから、知らない間に人間社会に入り込んで、内側から攻撃を仕掛けてくる。

 次第に人間同士の間で疑心暗鬼になる。誰が敵で誰が味方なのか分からなくなってしまう。お互いにロボットなんじゃないかという恐怖にかられて殺し合うようにもなる。人間社会が内側から崩壊していくという悪夢のような世界だ。

 ディックが予言していることの中で興味深かったのは、ロボットは次第にロボット同士で戦争を始めるのではないかということ。いつの間にか世界はロボット同士の戦いに覆われ、人間は蚊帳の外に置かれることに。こうなるともう何が何だか分からない。いったい何のために戦争を始めたのやら。

 短編集『変種第二号』にはこうしたロボットもののほか、タイムスリップもの(「たそがれの朝食」)、ミュータントもの(「ゴールデン・マン」)、ファンタジーもの(「安定社会」)、宇宙もの(「火星潜入」)などバラエティに富んだ作品が収められている。こういう作品も書いているのかと、ディックの幅広い世界観を味わうことができて面白かった。
nice!(9)  コメント(0) 
共通テーマ:

暗黒星雲のかなたに [SF(外国)]


暗黒星雲のかなたに (創元SF文庫)

暗黒星雲のかなたに (創元SF文庫)

  • 作者: アイザック・アシモフ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1964/11/21
  • メディア: 文庫



 SF界の巨匠アイザック・アシモフが書いたスペース・アドベンチャー。

 こんなSFが読んでみたいなあという夢の小説のひとつに、「宇宙で大冒険をする話」というのがある。宇宙での冒険といっても、月や火星などの地球から近距離の星ではない。地球から遠く遠く離れた宇宙の果てのような場所で巻き起こる冒険の話だ。

 それならスペース・オペラを読めばいいじゃないかという話だが、スペース・オペラというのはファンタジー寄りで、なんだか科学的な面白味が弱い。宇宙で大冒険するような話で、科学的な根拠がしっかりしたものが読んでみたいのだ。

 だから、アイザック・アシモフの「暗黒星雲のかなたに」を読んで驚いた。まさに自分の読んでみたかった夢の小説の条件にぴったりと当てはまっていたからだ。

 話の舞台は遠い未来の宇宙。地球から遠く離れた星雲諸国。テクノロジーが進歩して、自由に恒星間を飛び回ることができる世界。あまたの星々に文明社会が形成され、それぞれの惑星は繋がり合って、連合を作り上げている。

 最も大きな勢力は帝国と呼ばれ、諸国の上に君臨して圧政を敷いている。そんな世界であるうわさが飛び交っていた。この広い宇宙のどこかに、帝国を倒そうともくろむ反乱軍の潜む星があるという。そこにはたくさんの武器が用意されていて、いまにも帝国を倒そうと計画を練っているのだとか。

 帝国に父親を殺された主人公の青年バイロンは、陰謀に巻き込まれ、帝国からのお尋ね者となる。彼は反乱軍から追跡されながら、反乱軍の星を目指す危険な旅に出る。広い宇宙を舞台に陰謀劇が繰り広げられる、壮大な冒険だ。

 帝国だの反乱軍だの「スター・ウォーズ」そっくりの設定で驚かされるが、アシモフが書いているので科学的な背景がしっかりしている。説明せずにはおれないのか、地球の文明がどういうふうに発展して、どんな風に宇宙に進出して帝国が築き上げられるに至ったのか、その経緯まで嬉々として語っている。

 科学的と言っても、真面目一辺倒の退屈な作品になっていないところもいい。さすがアシモフで、娯楽性も満点。アシモフはアガサ・クリスティーを愛読していたせいか、どんでん返しにつぐどんでん返しという感じのひねった話になっている。意外な結末が待ってもいるので、ミステリー好きも満足するような内容だろう。

 自分の読んでみたかったイメージに近かったので、本当に満足できる作品で、楽しめた。解説を読んでいたら、「宇宙の小石」「宇宙気流」という三部作になっているのだとか。まだ読んでいないので、これまた非常に楽しみになった。
nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ルナ・ゲートの彼方 [SF(外国)]


ルナ・ゲートの彼方 (創元推理文庫)

ルナ・ゲートの彼方 (創元推理文庫)

  • 作者: ロバート・A.ハインライン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1989/03/01
  • メディア: 文庫



 ロバート・A・ハインラインの「ルナ・ゲートの彼方」は、地球から遠く離れた星を舞台にしたジュブナイルSF。

 古典的な物語の背景を宇宙に置き換えることで、スケールの大きな新鮮なものに早変わりする。SF作家はよくこういう手法を使っているけれど、「ルナ・ゲートの彼方」はまさに「十五少年漂流記」や「ロビンソン・クルーソー」といったサバイバルものを宇宙に置き換えた作品といえるだろう。

 高校生のロッド・ウォーカーは、授業の最終テストとして実地のサバイバルに参加することになった。それは未知の惑星に送り込まれて、一定期間生き延びるというテスト。どんな惑星に送り込まれるのか、どんなどう猛な動物がいるのかも一切知らされない。生命をかけた危険なテストだ。

 ゲートという装置で他の数十名の生徒らとともに未知の惑星に送り込まれたロッドは、ナイフ一丁でなんとか危険を回避しながらサバイバル生活を送る。しかし、期限を過ぎてもいっこうにテストが終わる気配がない。地球側でゲート回収ができない事態に陥っていたからだ。ロッドたち生徒らは、いつまでたっても救助が現れないまま、サバイバル生活を続けることに……。

 文明社会から離れて、しかも未知の生き物が待っている中でどうやって生き延びるのかが見どころ。ハインラインが書いているので、未知の惑星の話なのにとても説得力がある。未知の惑星にはどんな危険が待っているのか、どんな風に対処すべきなのか、サバイバルガイドのような本になっている。

 面白かったのは、サバイバル術と言うだけでなく、国家論にもなっているところ。生存する確率を高めるためには、仲間を増やしてコロニーを形成することが重要。ということで、ロッドたちは自分たちの国家を作り上げようとする。単に安全な住居を建てるというだけではなく、立法や行政といった社会制度を一から組み立てはじめるのだ。どんな国家が理想なのかというところまで考えさせられる、深みのある本といえる。

 最後の最後には予想を裏切るような展開が待っていて、ちょっとこれはどうなんだろうと思わなくもない。こういう意地悪な展開も含めて、ハインラインなりの教育的なメッセージがあるのだろうかとか、いろいろと興味の尽きない本だった。
nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ロボットの時代 [SF(外国)]


ロボットの時代 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)

ロボットの時代 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)

  • 作者: アイザック・アシモフ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/08/06
  • メディア: 文庫



 SFとは何かということについて、様々な言い方がされてきた。SFとは「センス・オブ・ワンダーである」「Ifの発想である」「根源に対する疑問である」など。

 いろいろな言い方ができるけれども、SFを分解してみると、「科学テクノロジーの進歩」×「ドラマ」×「テーマ性」でできているのではないか。

 空想科学というくらいだから、科学の進歩を描くのがSFの役割だろう。しかし、科学の進歩一辺倒で、ドラマ性がなければ単なる科学論文になってしまう。科学の進歩によってどのようなドラマが巻き起こるのかが描かれる必要がある。

 逆に不思議な出来事だけ起こって、科学の進歩が描かれていなければ、科学的根拠のないファンタジーになってしまう。またたとえ科学が描かれていても、それが現実の科学に終始していて空想の飛躍のないものは、リアルフィクションであって、SFとは言えないだろう。

 さらに言えば、科学の進歩によるストーリーを描いていても、それがなんのテーマ性も持たなければ、エンタメとしては面白いかもしれないけれど、気の抜けたものになってしまう。

 ということで、「科学テクノロジーの進歩」×「ドラマ」×「テーマ性」という3要素の掛け合わせが重要だと思うのだ。

 こういう定義をしたうえで、アイザック・アシモフの「ロボットの時代」を読んでみたのだが、まさにこの3要素がぴったりとそろった作品だった。

 「ロボットの時代」というタイトルだから、「科学テクノロジーの進歩=ロボット」なわけだが、ひとくちにロボットといってもいろいろバリエーションがある。人が行くことのできないような過酷な環境(例えば、木星など)で働く産業用ロボット、料理をする家庭用ロボット、体内に爆弾を埋め込まれて敵国に送られる兵器ロボット、大学でテスト採点や校正の事務作業を行う頭脳型ロボットなど。ロボット工学が発展すると、様々な分野に応用が可能なことがわかる。

 また、こうした多様なタイプのロボットが現れるということは、多様な「ドラマ」が生まれるということでもある。本書でも「ロボットが故障してトラブル発生」という定番のドラマもあれば、戦争ものもある。一見するとロボットと結びつきそうにない恋愛ドラマのようなものもあるし、スパイものの話もある。ロボットが人間社会に入り込むことで、思いもよらなかったドラマが生まれるということを描いている。

 現代でも立派に通用するような「テーマ性」も隠れている。人間よりもうまく仕事をこなしてしまうロボットが大量に投入されることで、人間たちは仕事を奪われてしまう。どんな仕事もロボットに置き換えられてしまったら、人間の存在意義はどうなるのだろうという問題が、すでに50年以上も前に書かれているのだ。ロボットが軍需産業に用いられた場合の危険さだったり、家庭用ロボットが人間心理に与える影響などという問題まで提起されている。

 前にも読んだことのある本だったが、改めて3要素を取り出して読んでみたら、すごい本だなとあらためて気づかされた。テクノロジーの進歩が細部に至るまで描かれているし、どんな問題が起こりうるのかという鋭い洞察に満ちている。「われはロボット」のほうが有名かもしれないが、続編のほうもかなり読みごたえがある一冊だった。
nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

時をとめた少女 [SF(外国)]


時をとめた少女 (ハヤカワ文庫SF)

時をとめた少女 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ロバート・F・ヤング
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/02/23
  • メディア: 文庫



 SFと恋愛モノは相性がよい。

 ボーイミーツガールと言うけれど、出会った男女が簡単に結ばれてしまったのでは盛り上がりに欠ける。どんな物語でも山場がなければいけない。ふたりがいろいろな障害を乗り越えていくから、面白くなりもするし、感動もする。

 ロミオとジュリエットのように家族同士が仇敵という話はよくあるし、身分違いの恋が描かれることもある。男女の片割れが難病になるという話もあれば、不倫の果ての道ならぬ世界が描かれることもある。障害が大きいほど、どうなるんだろうとハラハラさせられる。

 SF作家たちも恋愛の要素を取り入れるときに、やはり様々な障害を考案してきた。それも、絶対に乗り越えられない、とびきり大きな障害を。

 たとえば、時間の障壁。異なる時代にいる男女が恋愛関係になる。隔てられた時間という不可能な壁を乗り越えるというような話は多い。ジャック・フィニイとか、そんな話ばかり書いている作家もいる。

 こういうSF恋愛モノを読むと、自分の中の現実主義者が「おいおい、いくらなんでもこんなことあり得ないだろう」とツッコミを入れつつも、他方でロマンティストがむくむくと現れて、不可能な障害を乗り越えようとするひたむきな姿に感動してしまう。「あり得ないけど、なんていい話なんだろう」と思わず涙する。

 そうした意味で、SF小説は普通の恋愛小説以上に、壮大な感動ラブストーリーになることが結構ある。

 ロバート・F・ヤングの「時をとめた少女」は、まさにそんなSFラブストーリーがたくさん収められた短編集だ。

 夫が思想犯として人工冬眠の刑に処せられ、時間的に隔てられてしまう新婚夫婦を描いた「わが愛はひとつ」、異星からやってきた少女が地球の青年と出会う「時をとめた少女」、千夜一夜物語のシェヘラザード姫とタイムトラベラーとの愛を描いた「真鍮の都」など。

 どの作品も絶対に願いが叶うことのないような、不可能な壁が描かれていて、たいへん切ない雰囲気なのであるが、最後の最後に思わぬどんでん返しがあって成就したりするのである。

 「たんぽぽ娘」のときもそうだったけれど、ロバート・F・ヤングは心底ロマンティストだったんだなあと思う。最後に泣かせる話を書かせると本当にうまい。
nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

夜の翼 [SF(外国)]


夜の翼 (ハヤカワ文庫 SF 250)

夜の翼 (ハヤカワ文庫 SF 250)

  • 作者: ロバート・シルヴァーバーグ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1977/07
  • メディア: 文庫



 遠い未来には、どのような世界が待っているのだろう? これまでSF作家たちはさまざまな未来のイメージを描いてきた。

 人工知能が農業、工業、サービス、インフラなどあらゆるシステムを管理し、ロボットが人間の肉体労働の代わりとなって、人間はただ遊んで暮らしているだけの世界。医学が発達してもはや病気という概念がなくなり、あらゆる肉体のパーツは交換可能となり、老いてもすぐに若返りが可能となる世界。恒星間旅行が可能となり、他の銀河へと進出し、星々の間で惑星連合を作り上げている世界……。

 こんな世界になったらいいなあという、まるでユートピアのような世界観である。

 だが、SF作家たちの本当のすごさは、このような理想のイメージだけでは満足しなかったところにあるのではないか。ユートピアのような未来の行きつく先に、さらにどんな未来が待っているのかというところまで掘り下げて描いているところが面白いのである。

 技術はどんどん発達するけれども、人間自身の本質は何も変わらない。テクノロジーの進歩のスピードに、人間の進化のスピードが追いつくわけではない。せっかく夢のような世界を手に入れても、満足しきれないし、いがみ合いを続けるばかり。そんな皮肉な世界が描かれることが多い。

 ロバート・シルヴァーバーグの「夜の翼」は、まさにそんな作品だった。

 人類文明が頂点に達し、その後、何周期かのサイクルを経た挙句に、なぜか荒廃した中世の暗黒時代のような世界が広がっている。人々は「記憶者」「監視者」「翔人」「巡礼者」などといったギルドに別れて生活している。他の星からの外敵が今にも来るのではないかと、びくびくと怯えながらひっそりと暮らす日々……。

 かつて人類の誇った高度な文明は、過去のテクノロジーとして忘れ去られたものもあるし、温存されたものもある。中世のような古めかしい世界観と、高度なテクノロジーの名残が共存する不思議な世界観だ。

 最初は謎のような世界が、だんだん読んでいくうちに、なんでこのような世界になったのかという歴史が分かってくるというしかけ。

 テクノロジーがどんどん進歩して、人類は前に進んでいるようにみえるけれども、文明というのは脆いもの。ふとしたきっかけで、いつ何時滅んでしまうかもしれないのだということを思い起こさせる痛烈な本だった。

 派手な展開があるわけではないが、この不思議な世界観と壮大さが気に入った。主人公とともに、見たこともない世界を放浪しているような気分になる小説だ。
nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

航路 [SF(外国)]


航路(上) (ハヤカワ文庫SF)

航路(上) (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: コニー・ウィリス
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/08/27
  • メディア: 文庫



 人は死んだらどうなるのだろう?

 白い光をくぐり抜けて、天国に行くのだろうか? 全く新しい別の人生が始まるのだろうか? 幽霊になって地上をさまようのだろうか? それとも、ただ電気が消えるみたいに、無が待っているだけなのだろうか?

 コニー・ウィリスのSF小説「航路」は、そんな死の謎に迫ったSFミステリーだ。

 主人公ジョアンナは、認知心理学者。臨死体験者たちにインタビューをして、死の一歩手前で人が何を目にするのかを研究するのが仕事。

 臨死体験者の中には、「トンネル」や「光」を見たりすることがある。奇妙な音を聞くこともある。こうした臨死体験者らの目撃は何を意味するのだろう? 脳の作り出す幻影なのだろうか? それとも、実際にトンネルの先にはなにかが待っているのだろうか?

 こうした謎にとりつかれたジョアンナは、いつしか臨死体験を人為的に作り出す研究に志願。自ら臨死体験をして、死の世界を覗き見ようとする。そして、ジョアンナは、あまりにも意外な場所にたどり着くことになる――。
 
 冒頭の3分の1くらいは少し冗長に感じたのだが、ジョアンナが臨死体験を始めてからの展開がとても面白くて、最後まで読んでしまった。まさかこんな展開になるとはという驚きの連続。

 謎解きものとしてよくできているので、ミステリー好きにはたまらない本といえるだろう。実は冒頭の個所にいろいろな伏線が張ってあって、あとでその伏線が生きてくる。登場人物のちょっとした一言が重要な意味を持つ。いろいろな謎がパズルみたいにはまっていくのは爽快感があった。

 主人公のジョアンナと一緒になって、目の前に奇妙な世界が広がっているのを体感する面白さ。次に何が起こるのか、想像もつかないような冒険。そういえば、SFの面白さってこういうところにあったんだなあと、自分の好きな世界を思い出させてくれた感じ。

 センス・オブ・ワンダーに満ちた傑作。死という重いテーマを扱っていながら、最後には不思議な感動のある作品だった。
nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

星々の蝶 [SF(外国)]


星々の蝶

星々の蝶

  • 作者: ベルナール ヴェルベール
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2008/07/25
  • メディア: 単行本



 「星々の蝶」は、ベルナール・ヴェルベールというフランスのSF作家が描いた小説である。

 SF小説のテーマのひとつに世代宇宙船ものというのがある。

 もし将来、地球が人口過密になったり、核戦争や環境破壊によって住みづらい環境になったらどうなるだろう? 人類は新しい住処を求めて惑星探査に乗り出すことになるのではないか?

 宇宙には地球と環境が似たハビタルプラネットがいくつも存在するという。もしそんな惑星に行くことができれば、植民地にして開発することができる。

 問題はそのような惑星が何光年も離れた遠いところにあるということ。そんな遠い場所に行くことは不可能に近い。ワープなどは空想的すぎるし、冷凍睡眠装置は人体の細胞を破壊してしまう。

 ただ、系外惑星に到達するための方策がないこともない。それは巨大な宇宙船を作ってしまうということ。大きな宇宙船の内部に地球環境をそっくりそのまま再現してしまう。その中で自給自足しながら新たな惑星めざして宇宙飛行するというやり方。目標までに何千年もかかる、世代交代を繰り返しながらの気長な旅だ。世代宇宙船と呼ばれる方法である。

 本作はまさにこの世代宇宙船をテーマにした作品なのである。

 世代宇宙船ものの作品というのは本作以外にもたくさん書かれているが、たいていは宇宙飛行の途中から描かれることが多い。既に地球を離れて何世代か時代が過ぎてからのドラマが描かれることが普通だ。

 本作が面白いのは、普通なら省略されるような世代宇宙船を作るところからきちんと描いていることである。巨大な宇宙船をどうやって建造するのか? 人工重力をどのように作るのか? 内部の環境をどのように再現するのか? 結構丁寧に描いている。土を敷き詰め、川や湖を作り、植物を植え、虫や動物を放つ。ミニサイズの地球を作る過程が楽しい。

 環境だけ作ればいいというものでもない。10万人以上の人間が生活することになるので、秩序も必要である。社会秩序を作るために法律を制定しルールを守らせる。政治的な意思決定機関を新たに作り出す。労働を分担させる。こうした社会環境の整備に関しても、細かく考えられているのである。

 もちろん、世代宇宙船建造のドラマだけでなく、その後の展開も面白い。世代交代の様子もしっかり描いていて、時代を経るごとに宇宙船内部は変貌していく。内部対立や戦争、病気の蔓延などの事態が起こる。当初の理想は失われ、宇宙船が何を目的にしていたのかも忘れさられてしまう。

 まるで架空の歴史物語を読んでいる感覚があって、人類社会をを風刺しているみたいで興味深かった。

 最後の最後にこういうオチになるのねという結末が待っていて、賛否両論あるようだが、全体的には楽しんで読める本だ。

 この作家のものは結構面白い作品が多いけれども、ある時点からふっつりと翻訳されなくなって久しい。まだまだ未訳の作品もあるので、翻訳出ないかなあと待ち望んでいる。やはりフランスの作家だから翻訳が難しいのだろうか? 現代SF作家の中で一番好きだったりするのに、非常に残念だ。
nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

海竜めざめる [SF(外国)]


海竜めざめる (ボクラノSF)

海竜めざめる (ボクラノSF)

  • 作者: ジョン ウィンダム
  • 出版社/メーカー: 福音館書店
  • 発売日: 2009/02/25
  • メディア: 単行本



 「海竜めざめる」は、ジョン・ウィンダムという英国のSF作家が書いた破滅テーマの作品だ。

 深海から忍び寄る存在というから、「ゴジラ」みたいな話なのかと思って期待して読んだのだが、だいぶイメージが違った。

 たしかにモンスターが人間を襲う阿鼻叫喚シーンもあるのだが、そういう派手な場面はそれほど出てこない。最初のほうは割とゆるゆると話が進んでいって、話が半分過ぎたあたりからようやくモンスターが姿を現すのである。

 モンスターがなかなか出てこなかったら面白くないんじゃないかとも思えるが、実際にはそうでもない。正体が分からないぶん、かえって想像力を刺激される。宇宙から謎の赤い光が次々に落ちてくるとか、島の人間が謎の死を遂げるとか、奇妙な出来事が続発する様子が描き出されていて、ぞくぞくするような不気味さがある。場面に映っていないところで何が起こっているのだろうと、怖さが倍増する感じだ。

 いきなりどーんと怪物が現れるよりも、チラリチラリと見え隠れするほうがずっと不気味で怖い。そういう恐怖のツボみたいなものがおさえられているところは、なかなかすごいなと思った。

 それに、本書を読んでいて一番怖かったのは、怪物そのものではないというところも面白い。むしろ、人間同士の連携がどんどん崩れていって、文明が崩壊していく様子が恐ろしかった。

 各地でいろいろな被害が出ると、物資や食料が不足するようになって、人々は物資を奪い合うようになる。次第にお互いに不信感を抱くようになって、よそ者を排除する風潮が生まれる。国家は崩壊して、小さなグループの塊のようなものに別れ、グループ間でいざこざが起こったりする。

 歴史を逆行するかのように人間がどんどん野蛮になっていって、人間の本質というのはこういうものなのかとか、人類の文明というのはこんなにもろいものなのかということに気づかされる。単に怪物が暴れまわって怖いなあというような単純な作品ではなくて、きっちりと文明社会に対する風刺にもなっているのである。

 最初は面白おかしく読んでいたが、読み進めるうちに、これは単なる絵空事ではない、今の世界でも起こっていることなんだということに気づかされる。そういう力強さを持った作品で、のんびりとした作風とは裏腹にずしりと心に響くものがあった。

 ちなみに本書は、星新一が翻訳をしているという珍しい本でもある。そのため、文体がドライで簡潔。とても読みやすい作品になっている。
nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

人形つかい [SF(外国)]


人形つかい (ハヤカワ文庫SF)

人形つかい (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ロバート・A. ハインライン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 文庫



 空飛ぶ円盤などというものは、本当に存在するのだろうか? 宇宙人が地球に来ているなどということがありうるだろうか?

 「そんなことあるわけないよ、まやかしにすぎないよ。」と大多数の人が言うに違いない。たしかに現実はそんなものかもしれない。たいていの科学者だって否定するだろう。

 でも、もしも本当に空飛ぶ円盤が存在していたとしたら? 宇宙人が人間を観察しに来ているのだとしたら? そんなもしもの世界を空想するのは楽しくもある。

 こうしたもしもの世界を見せてくれるのが、SF作家と呼ばれる人たち。彼らは想像力を駆使して、大真面目に空飛ぶ円盤の可能性を語り尽くしてくれる。たとえ荒唐無稽だ、ナンセンスだなどと非難されようとも。

 たしかに空飛ぶ円盤なんて嘘八百かもしれない。だけど世の中、現実ばかり語っていてもつまらない。現実ではないかもしれないけれど、わずかな可能性にしてもあり得たかもしれない世界を語ることは、世界を豊かにするんじゃないかと思う。

 ロバート・A・ハインラインの「人形つかい」はまさに空飛ぶ円盤の話である。土星の衛星タイタンからやってきたナメクジみたいな生物が地球を侵略しようとする。侵略と言っても都市をビームで破壊しまくるやり方ではなくて、もっとひっそりとした攻撃方法を使う。ナメクジ生物たちは人間に寄生して、精神を乗っ取り、一人ずつ奴隷のようにして操ってしまうのだ。

 徐々に寄生される人間の数が増えていき、その対象は政府の高官やマスメディアの人間にまで及んでいく。しだいにアメリカ中がナメクジたちに侵略されてしまう。

 「もしも空飛ぶ円盤が存在したら?」という発想を膨らませて、宇宙人たちはどこから来たのだろう? どうやって侵略を進めていくのだろう? 対する人間はどうやって宇宙人に対抗をすべきだろう? 宇宙人の侵略を食い止める方法はあるのだろうか? などとさらに空想が展開していく。

 ハインラインはもしもの世界を大真面目に考察している。本来はありえないような世界が非常にリアルに描かれているところが一番の読みどころなのだ。

 空飛ぶ円盤が現れたことがきっかけで、アメリカ中が右往左往して、戒厳令が敷かれ、軍事行動がとられる。騒動が広がっていく様子を緻密に描いていて、軍事ものに強いハインラインならではな作品といえる。

 ちなみに、土星の衛星タイタンというのは、生物が存在する可能性のある星として昔から有名だったとか。水の代わりにメタンがあるとか化学組成はちがうのかもしれないけれど、大気があったり川があったりするらしいのだ。だから、ハインラインの描いている世界もあながち嘘ではないかもよ? そんな風に考えながら読むと背筋が寒くなってくるスリル満点の本だ。
nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

あなたの人生の物語 [SF(外国)]


あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: テッド・チャン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2003/09/30
  • メディア: 文庫



 テッド・チャンという作家の書いたSF短編集。

 この本は前から名前は知っていたのだけれど、難解そうなイメージがあってずっと敬遠してしまっていた。映画化されると聞いて、どんなものか気になって読んでみたのだが、意外にも読みやすくて驚いた。

 まず最初の「バビロンの塔」が非常に面白い。

 バベルの塔の伝説をモチーフにした話で、どんどん天に向かって塔を積み上げていく話。バベルの塔の話と違って、神様が怒って塔を破壊したりしない。ひたすら塔が伸びていって、とうとう天蓋にまで達してしまう。その先に待っていたものは……。

 世界観がとんでもない話なのに、非常にリアリティのある書き方がされているので、話の中にのめり込んでしまう。結末はなんとなく予想がついたのだが、壮大な雰囲気があってよかった。

 「理解」という短編も秀逸。

 ちょっと「アルジャーノンに花束を」に似ている。医学の力で知能が向上するという話。ただし、そこから先の展開はかなり異なっている。「アルジャーノン」の主人公がいろいろ苦悩したり、知能が元に戻ったりしてしまうのに対して、本作の主人公レオンはひたすら知能が向上し続ける。どんな難解な概念もたやすく理解してしまう彼は世界をわがもの顔で渡り歩くのだ。

 「顔の美醜について」という作品もユニークだった。

 顔の美醜を判別できなくなる「カリー」という措置を人々が受けるようになった世界の話。顔の美醜が関係ない世界ではどんなことが起こりうるか? もしもの世界が描かれている。

 外見で人を判断してはいけない。そんなふうに言われることがあるけれど、実際にはどうだろう。誰でも大なり小なり外見で人を判断してしまっているのではないか? そんなひやりとする現実に直面させられる作品である。

 そして、本書の中で一番よかったのは、表題作「あなたの人生の物語」であった。

 この作品はエイリアンとのファーストコンタクトもの。言語学者のルイーズは突然人類の前に現れたエイリアンの言語体系をつかもうとして悪戦苦闘する。エイリアンの言語を理解するにつれて、ルイーズはエイリアンの思考方法にまで影響されるようになる。そして、人生に対する見方までもが一変してしまうことになる。

 ルイーズの言語研究と平行して、ルイーズの子供のエピソードが挿入されているのだが、最初はなんでこんなエピソードが挿入されるのかわからなかった。だけれども、実はこの構成そのものに意味があったことが最後になってわかるのである。

 しかけとしても面白いし、こういう人生の見方があるのかということを教えてくれる作品でもある。
nice!(19)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ヴァルカンの鉄槌 [SF(外国)]


ヴァルカンの鉄鎚 (創元SF文庫)

ヴァルカンの鉄鎚 (創元SF文庫)

  • 作者: P・K・ディック
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/05/29
  • メディア: 文庫



 歴史を振り返ると、人類というのは戦争ばかり繰り返してきた。今でも各地で紛争は絶えない。

 権力をめぐる争い、宗教をめぐる争い、土地をめぐる争い、資源をめぐる争い……。人間には自己防衛本能があるし、利害や嗜好が一致しないこともあるのだから、敵意や差別が生まれ、紛争が発生するのは不可避なのかもしれない。

 戦争が起こらないようにするために、いっそのこと人間が政治を行わないようにしたらどうだろう。技術の粋を集めたコンピュータに政治的な判断をゆだねてしまうのだ。機械は本能を持たないのだから、人間のような利害感情に左右されることがない。膨大なデータから客観的に公平な判断を下してくれるのではないか。

 フィリップ・K・ディックの小説「ヴァルカンの鉄槌」は、まさにそうした機械に政治をゆだねた人類の行く末を描いた作品だ。 

 核戦争後の荒廃したがれきの中で、再び戦争が起きたら世界は滅亡してしまうことに人類は気づく。彼らは平和な世界を築き上げるべく、世界連邦を立ち上げる。超国家的権力にすべてをゆだね、全世界を国際的な支配機構に管理させるようにするのだ。もちろん、最高権力者が人間になったのでは、また問題が繰り返されてしまう。そこで人間たちは万能コンピュータ「ヴァルカン」にすべての権力を与えることにした。

 コンピュータには本能がないというけれど、それは本当なのか? もしコンピュータに対して反抗を企てる人間が現れたら、コンピュータはその人間をどのように対処するのだろう? 他の大多数の人間の利益に反するということで、処罰することになるのだろうか?

 もしコンピュータが1種類だけではなくて、新型のコンピュータが現れたらどうなるのだろう? コンピュータ同士で考え方が違ったら、お互いに衝突するのではないか? 万能コンピュータ同士で戦争が起きたりはしないのだろうか?

 コンピュータのもつ潜在的な危険性に警鐘を鳴らしていて、非常に読み応えがある本。コンピュータ社会ではこういう問題が起こりうるのかということを、スリリングに描き出している。

 さすがディックという感じで、二転三転するストーリーに圧倒された。コンピュータに反乱を起こす謎の教団が現れるのだが、最後まで読むと意外な仕掛けが待ち受けている。テーマ性も優れているし、これまで未訳だったというのが意外なくらい面白かった。
nice!(16)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

フラッシュフォワード [SF(外国)]


フラッシュフォワード (ハヤカワ文庫 SF ソ 1-12) (ハヤカワ文庫SF)

フラッシュフォワード (ハヤカワ文庫 SF ソ 1-12) (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ロバート・J・ソウヤー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/01/07
  • メディア: 文庫



 全世界の人間が20年後の未来を幻視してしまうというSF小説。
 
 未来の出来事というのはすでに決定しているものなんだろうか? 

 もし運命というものが存在するのだとしたら、人は未来を選択することはできないことになる。神様が書いたシナリオに粛々と従って生きざるを得ない。さだめに向かって突き進んでいくことになる。

 対して、運命なんてものは存在しない、未来は自分の意思で選びとることができるという考えもある。未来の出来事は、人がどのような選択をするかによって分岐していく。未来は変更可能なのだと。

 予言の物語というのは、古来から人々にこうした問いを投げかけてきた。未来を変えることはできるのか? 運命から逃れることはできるのかと。

 ギリシャ悲劇のオイディプス王は父親を殺すことを予言されてしまう。マクベスは3人の魔女から王になることを告げられる。「クリスマスキャロル」に出てくるスクルージは、幽霊から自分の未来の姿を見せられてしまう。フィリップ・K・ディックのSF小説「マイノリティ・リポート」では3人のプリコグが、主人公が赤の他人を殺す夢を見る。

 こうした物語では主人公たちは予言された運命を変えようとしたり、しかと受け止めて見届けようとしたりする。

 本書「フラッシュフォワード」はこうした予言の物語の集大成のような作品といえるだろう。

 素粒子の研究をしているCERNという研究施設で、粒子衝突実験という大規模な実験が行われた。ヒッグス粒子を発見するための実験だったが、粒子が衝突した瞬間、思いもよらない事態が起こる。全世界の人間が気絶して、20年後の未来のヴィジョンを見ることになったのだ。

 主人公の物理学者テオはヴィジョンを見ることがなかった。集められた情報によると、彼は20年経つ前に何者かによって殺されてしまうらしい。テオは自分の運命から逃れるために、手がかりを集め始める。

 未来を選ぶことができるのかという点について真面目に描いている作品。自由意志なんてものはあるのか? 未来は不変なものか? ということについて科学的に論じている。
 
 こんな考えがあるのかというところが分かって興味深かったし、なによりストーリーが面白くて、ミステリータッチになっていて、スリリングな展開を見せることろなどもよかった。
nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

はだかの太陽 [SF(外国)]


はだかの太陽〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF ア 1-42) (ハヤカワ文庫SF)

はだかの太陽〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF ア 1-42) (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: アイザック・アシモフ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/05/08
  • メディア: 文庫



 ロボット三原則で有名なアイザック・アシモフが書いた「はだかの太陽」は、ソラリアという惑星を舞台にしたSFミステリー。この作品でも、やはりロボット工学がテーマになっている。

 ソラリアは地球から数百光年も離れたところにある惑星だ。地球よりもはるかに科学技術が発達して、ロボットたちがせっせと働いている星。人々はロボットたちの世話を受けながら、何不自由ない暮らしを送っている。そんなユートピアのような世界で、なぜか殺人事件が起こってしまう。その事件の謎を主人公の刑事が解いていくという話だ。

 これからロボットや人工知能が発達したら、どんな世界になるだろう? ロボット化社会とはどんな社会なんだろう? そんなことをときどき考えることがあるけれど、本書はその一つの回答を描いた作品といえる。

 アシモフは、ロボット化された社会を古代スパルタの社会になぞらえている。

 あらゆる文明というのはピラミッドの構造をとることが一般的だ。ピラミッドの頂点にはごく少数の支配階級がいて、底辺には大勢の被支配階級がひしめいている。ピラミッドの上に向かうほどに、財産が増え、余暇が増え、楽しみが増えていく。スパルタの社会でも、ごく少数の上級市民と、多数の下層市民、大多数の奴隷がいて、上級市民は奴隷を支配して自分たちは文化的・芸術的な生活を送っていた。

 ロボット社会もこれに似ている。奴隷の代わりに大勢のロボットがいて、人間たちのために働いてくれる。ロボットたちが農産物を作り、工業製品を作り、あらゆる家事やサービスを行ってくれるので、人間たちは働く必要がない。人間たちはただ余暇を楽しむばかり。おまけに、ロボットは奴隷と違って反乱を起こす恐れもないので、この社会は安定している。

 よくロボットに仕事を奪われるなどという話があるけれど、最終的にはロボットが何でもしてくれて、人間はただ遊んでいればいいというのは、むしろある種の理想郷なんじゃないだろうか? スパルタの特権階級のような暮らしなんじゃないか? 本書を読むと、ついそんなふうに考えさせられてしまう。

 とはいえ、どんなに理想郷のように見える世界でも、人間同士のいざこざはなくなるわけではない。だから、本書でも殺人事件の話になっているわけで、こんな理想郷でなぜ殺人事件が起こるのかというところも読みどころになっている。

 また、ロボットが本当に反乱を起こさないかというのも神のみぞ知るところだ。人間の知能を凌駕して人間に刃向うということがあるかもしれないし、反乱とは言わないまでも故障を起こしてさまざまな問題を引き起こすかもしれない。

 推理物としても一級品の面白さだけれど、本書はミステリーというにとどまらず、来たるべきロボット社会の行く末についてあれこれ考えさせれる含蓄のある本。50年も前に書かれたとは思えないほど新鮮な内容で、その先見の明には驚かされた。
nice!(13)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

風の十二方位 [SF(外国)]


風の十二方位 (ハヤカワ文庫 SF ル 1-2) (ハヤカワ文庫 SF 399)

風の十二方位 (ハヤカワ文庫 SF ル 1-2) (ハヤカワ文庫 SF 399)

  • 作者: アーシュラ・K・ル・グィン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1980/07/31
  • メディア: 文庫



 「ゲド戦記」で有名なファンタジー作家アーシュラ・K・ル・グィンの短編集。

 本格SFものから剣と魔法のファンタジーまで、様々な種類の作品が収められている。一作ごとに異なる世界観が広がっていて、よくこんなにいろいろな世界が描き分けられるなあと驚かされる作品集だ。

 ル・グィンの手にかかると、魔法の世界が目の前に広がってくるように感じられてくるところがすごい。ページを繰るごとに不思議な世界に分け入っていくような気分になった。

 とくに気に入ったのは以下の作品。

 「四月は巴里」 15世紀の錬金術師ジャン・ルノワールは黒魔術で悪魔を呼び出そうとするが、出てきたのは、20世紀の文学研究者だった。黒魔術の誤用によって生まれる顛末を描いたユーモラスな作品。ル・グィンがこういうコメディタッチの作品を書いているのは意外だった。

 「解放の呪文」 牢獄にとらわれた魔法使いが脱出を試みる。「ゲド戦記」につらなる世界観を描いている。

 「もの」 世界の終わりに直面する人々。絶望が世界を支配する中で、職人のリフがとった行動とは? ル・グィンが「心の神話」と名づけた作品群のひとつ。ファンタジーの中に深い思索が込められていて、短いのに読み応えがある。

 「帝国よりも大きくゆるやかに」 宇宙飛行士たちがたどり着いたのは緑色に輝く惑星。植物が生い茂るばかりで生物の影は一切見当たらない。隊員たちは惑星の上を探索するが、誰もいないはずの惑星なのに隊員の一人が何者かに襲われてしまう。硬派なSF小説で、非常に面白い。壮大な謎が隠されているような不気味な雰囲気がよかった。

 「視野」 これもSF小説で、火星から帰還した宇宙飛行士たちを謎の症状が襲う。火星の都市でいったい何があったのだろう? 未知との遭遇によって何が起こるのかという、ファーストコンタクトものともいえそうだ。

 「オメラスから歩み去る人々」 オメラスの市民は幸福そのもの。祭りやらパレードやら宴やら、毎日快楽を享受するばかり。害悪となるものは一切排除され、喜びだけが市内を包み込む。だが、こうした人々の幸福は、一人の少年の犠牲によって成り立っていた。その少年がありとあらゆる不幸を一手に引き受けてくれているおかげで、他の人間たちが幸福に暮らせるのだ。

 わずか10ページ近い短さなのに、一度読んだら忘れられなくなる。哲学的な思索に富んでいて、考えさせられる作品。有名な話ということで、この作品を読みたくて本書を手に取ったのだが、評判どおりの面白さだった。
nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

塵よりよみがえり [SF(外国)]


塵よりよみがえり (河出文庫)

塵よりよみがえり (河出文庫)

  • 作者: レイ・ブラッドベリ
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2005/10/05
  • メディア: 文庫



 魔力をもつ一族を描いた、ブラッドベリの連作短編集。

 とある屋敷に奇妙な一族が住んでいた。4000年も前に生まれたミイラのおばあちゃん、翼が生えていて空を自由に飛べるおじさん、心を遊離させてあらゆる生きもののなかに入り込む少女、透明人間のいとこ。そして、魔力を持たない普通の人間の少年ティモシー。

 万聖節前夜、この屋敷にむかって世界中からたくさんの一族たちが飛んでくる。一族総出で不思議な集会を開くために……。

 『10月はたそがれの国』という短編集に収められた「集会」という短編に、このお化け一族の集会の話が出てくるけれど、ブラッドベリはこの一族が気に入っていたようだ。シリーズとしてこつこつと長年にわたって書き続けて、とうとう一冊の本にまでまとまってしまった。それが本書『塵よりよみがえり』である。

 屋敷に一族たちが集まってくるそもそものくだりから、ティモシー少年が一族に拾われたいきさつ、奇妙な集会の様子、人間に虐げられる苦しみ、そして、とうとう人間に追われてばらばらになっていく一族の離散にいたるまで。一族の長年にわたる繁栄と没落の日々が描かれている。読んでいて、不思議な世界観にするするとひきこまれてしまうような内容だった。

 連作短編集ではあるが、ひとつひとつの話は独立しているので、どこから読んでも楽しめる本になっている。

 人間の少女の心に乗り移った魔女セシーと青年との不思議なラブストーリー(「さまよう魔女」)、自由に空を飛ぶ能力を失ってしまった翼をもつ男の悲哀(「アイナ―おじさん」)、産まれてから日を追うごとにだんだんと若返っていく奇妙な女性の一生(「生きるなら急げ」)などがとくに気に入った作品だ。

 永遠の命を持っていても、人間のように人生を謳歌できないもどかしさ。ただ存在するというだけで人間たちから邪魔者扱いされるつらさ。お化けの話なのに、なぜか人生の悲哀を感じさせられてしまう。幻想的な話の中に、しっかりと人生のドラマがとりこまれている感じがして、よいものを読んだなあとしみじみ感じさせられる短編集だった。
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ゲームウォーズ [SF(外国)]


ゲームウォーズ(上) (SB文庫)

ゲームウォーズ(上) (SB文庫)

  • 作者: アーネスト・クライン
  • 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
  • 発売日: 2014/05/19
  • メディア: 文庫



 「ゲームウォーズ」は全米で話題のSF小説。仮想空間を舞台にした宝探しアドベンチャーだ。

 物語の舞台は近未来のアメリカ。主人公の少年ウェイド・ワッツは、両親を亡くし、今は叔母と一緒にオクラホマシティ郊外のトレーラーハウスに住んでいる。内気で不器用な少年で、周囲に溶け込むことができず、実人生は嫌なことばかり。

 でも、彼には仮想空間という逃げ場所があった。「オアシス」というバーチャルリアリティ世界が普及していて、その中では生き生きと生きることができたのだ。誰もが架空のアバターに扮して、仮想空間で生活をすることのできるバーチャル世界。ウェイドは「オアシス」を使って、ゲーム、映画、音楽、SF小説などをのびのびと楽しんでいた。

 ある日、その「オアシス」に大ニュースが広がる。「オアシス」開発者の大富豪ジェームズ・ハリデーが死去したという。ハリデーは、自分の莫大な遺産のすべてを、ゲームの勝者に譲るという奇妙な遺言をのこしていた。それは「オアシス」内に隠されたイースターエッグを見つけるという宝探しゲームだった――。

 バーチャル世界を舞台にした「インディ・ジョーンズ」という感じでスリリングな内容。ヒントをたどって謎を解いたり、バトルに挑戦してアイテムを手に入れたり。読んでいて、昔のロールプレイングゲームをしているような気分になった。引きこもりオタク少年が、世界を変えてしまうというのも痛快である。

 大富豪ハリデーが80年代のポップカルチャーの中で育ったため、「オアシス」もその影響を受けているというのもいい。映画・音楽・ゲーム・小説など、ノスタルジックな世界が広がっている。80年代カルチャーに毒されている自分にとってもなんとも懐かしい世界で、読んでいて自分のために書かれたんじゃないかと錯覚してしまったほど。

 争奪戦を繰り広げるユーザーたちだったが、しだいに協力関係を築くようになる。ライバルだった人物たちが奇妙な友情関係を育み始めるなど、スリリングな冒険物語の中にさわやかな青春が描かれているところが面白かった。
nice!(12)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

寄港地のない船 [SF(外国)]


寄港地のない船 (竹書房文庫)

寄港地のない船 (竹書房文庫)

  • 作者: ブライアン・オールディス
  • 出版社/メーカー: 竹書房
  • 発売日: 2015/07/02
  • メディア: 文庫



 ブライアン・オールディスという作家が書いたSF小説。遠い未来の話。 

 地球の寿命も永遠ではない。人口爆発とか環境異変だとか、地球に住みづらい要因が発生したら、人類は宇宙を目指すことになるかもしれない。居住可能な惑星を探すために……。

 問題は、恒星間旅行には途方もない時間がかかってしまうということだろう。月みたいにすぐに別の星まで行けるものではない。光の速度でも何年もかかるくらいに離れているのだ。

 SF作家たちは恒星間旅行を実現するための様々な方法を考案した。冷凍睡眠装置を使って、人体を凍結させるというもの。高速に近い宇宙船を作ってしまうというもの。遺伝子データだけを乗せて、到着後に再生させるもの。ワームホールの中を通り抜けていくと、いつの間にか別の宇宙に到着するというもの。

 世代宇宙船というのもある。内部に地球環境を模したような巨大な宇宙船を作って、大勢の人間を詰め込んで、宇宙船内で自給自足生活を送る。到着地にたどり着くまでに、世代交代をくり返すという方法だ。

 ブライアン・オールディスの「寄港地のない船」は、まさにこの世代宇宙船をテーマにした作品である。

 人類は住みづらくなった地球を後に、宇宙へと向かう。居住可能な新天地を探すために。だが、彼らの前に思わぬ事態が起こる。世代交代を繰り広げる間に、船内の人間たちにも変化が生じ始める。当初の崇高な目的はいつの間にか忘れ去られ、文明は退化する。奇妙な植物がはびこるようになり、人間たちは原始的な部族社会を営むようになってしまう。

 そんな部族社会で生まれた主人公は、あるきっかけで部落の外の世界へと出てしまう。そして、彼の住んでいた場所が巨大な「船」の一部にすぎないことを知る。この世界はどうなっているのだろう? 自分は一体何者なのだろう? 彼は世界の真実を知るために、危険な他の部族や無限にはびこる植物を乗り越えて、冒険の旅を続ける。

 主人公と一緒に冒険するうちに、だんだんと部落の外の世界が明らかになっていって、船の途方もない大きさが分かってくる。世界観が後から分かってくるところが面白い。最後の最後には、予想もしなかったような真相が待っていて、前に疑問だった箇所が解明されて、一種の謎ときものにもなっている。

 何世代のもわたる途方もない宇宙旅行の話で、その壮大さには圧倒された。世代交代をくり返すうちに、宇宙船内部で原始的な部族が対立するようになるとか、よくこんなこと考えるなあと。未来の空想の世界が自由に広がっていて、読み応えがある作品で面白かった。
nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

地球の長い午後 [SF(外国)]


地球の長い午後 (ハヤカワ文庫 SF 224)

地球の長い午後 (ハヤカワ文庫 SF 224)

  • 作者: ブライアン W.オールディス
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1977/01/28
  • メディア: 文庫



 未来の世界というとどんなイメージがわくだろう? 

 メタリックな高層建築とハイウェイに覆われた鋼鉄都市? あらゆる政治・経済・行政システムが人工知能によって運営される超管理社会? 宇宙空間まであまねく進出して、宇宙連合を作り上げる世界? それとも核戦争か何かで文明が崩壊して、野蛮な戦いを繰り返しているだろうか?

 ブライアン・オールディスの描く「地球の長い午後」に出てくる未来イメージは、そのどれでもなかった。彼が描いたのは、全世界が植物によって支配された地球の姿。

 その世界では、植物たちはあらゆる場所に根を張り、太陽と栄養を得ようと熾烈な戦いを繰り広げている。植物たちは、あらゆる形態に進化し、動いたり飛び跳ねたりして、エサを食べるようなものまで現れ始めた。少し油断すると、獲物をとらえようと待ち構える植物たちの餌食になってしまう、弱肉強食の世界。

 そんな世界にあって、人類は絶滅寸前にまで追いやられている。かつてはわがもの顔に地球を支配していると思っていたのに、植物たちの繁栄にはなすすべがない。もはや文明などというものはなくなり、一日一日を生き延びて生存するだけで精いっぱいの毎日なのだ。

 SF小説はイメージが大事で、どんな世界観を見せてくれるのかというところが醍醐味だけれど、本書に出てくる世界観は想像をはるかに超えた奇妙なもので、読んでいて圧倒されてしまった。地球と月との間がたくさんの糸でつながっていて、巨大な植物の乗り物に乗って、糸をたどって宇宙旅行する場面など、よくこんなこと考えるなあと驚いた。

 この奇妙な世界の中をサバイバルしていく主人公たちの様子が描かれるのだけれど、読んで行くうちに単なる日々のサバイバルだけでなく、やがて彼らの行動が人類全体の命運にまでかかわってくることも分かってくる。人類は最終的にどこに行くのかという壮大なテーマまで関わってきて、文明観として読んでも面白かった。
nice!(10)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

タイムライン [SF(外国)]


タイムライン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

タイムライン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

  • 作者: マイクル クライトン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2003/12/10
  • メディア: 文庫



 マイクル・クライトンが描くタイムトラベルSF。歴史調査を行う学生たちが、14世紀フランスへと旅立つ。

 ローマ帝国が崩壊した後の中世ヨーロッパは、暗黒時代とも呼ばれ、長らく無法状態が続いていたそうだ。だが、封建制度が整えられ始めると、徐々に新たな秩序が生まれ始める。強力な地方領主たちが地域を支配し、農業や交易などが盛んになっていく。文化も大いに発展していった。

 だが、この時代は戦乱の世の中でもあった。王位継承権を巡って、イングランドとフランスとで何度も戦いが繰り広げられたのだ。百年戦争のはじまりである。

 本書は、まさにこの百年戦争の時代を描いた小説。それも現代の若者たちがタイムスリップして、中世ヨーロッパを旅するという冒険談だ。

 中世フランスの古城を研究している調査チームが、あるとき遺跡の中から、不思議な羊皮紙を発見する。そこには、現代の英語で「HELP ME」と書かれていた。14世紀の遺跡からこのような文字が出てくるなどというのは、ありえないことだった。

 いったい何が起きているのか? 学生たちが謎を調査するうちに、発掘調査のスポンサーであるハイテク企業ITCが機密の実験を行っていることがわかる。それは、量子コンピュータを使って、時空を超えて別の時代に人間を送り込むという世紀の実験だった。

 学生たちもまたこの実験に加わることになる。時代は14世紀のフランス。目的は、同じく実験に参加したまま行方不明になった教授を探すこと……。

 中世フランスの時代が、臨場感を持って描かれていて読んでいて楽しい。こんな時代だったのかと想像を広げられる楽しさ。騎乗槍仕合とか、騎士の剣戟とか、城内の風景とか、微細に描写されていて、その場にいったかのような迫力。歴史小説の醍醐味を味わうことができる。

 クライトンが書いているので、アクション映画を観るようなテンポの良さ。次から次に主人公たちが危険な目にあって、みんな生き延びられるんだろうかとハラハラドキドキの連続。時代のギャップや残忍な騎士たちとの闘いに悪戦苦闘する様子が見もの。戦争にまで巻き込まれてしまって、最後の最後まで手に汗握る展開だ。

 中世の時代についての薀蓄もたくさん書かれていて、歴史の勉強にもなる。タイムトラベル小説として、歴史小説として、情報小説としてなど、様々な楽しみ方のできる一冊だった。
nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? [SF(外国)]


アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

  • 作者: フィリップ・K・ディック
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1977/03/01
  • メディア: 文庫



 「ブレードランナー」という映画にもなったSF小説の名作。

 近未来の世界で、火星から逃亡した8人のアンドロイドたちと、それを追跡する懸賞金稼ぎの主人公リック・デッカードが対決する。スリルとサスペンスに満ちた追跡劇だ。

 主人公のリックは逃亡したアンドロイドたちを一体ずつ追いかけていって、殺害していく。アンドロイドは人間そっくりに作られているので、ぱっと見には人間と区別がつかない。だから、アンドロイドは人間になりすましてリックをうまく騙そうとする。リックとアンドロイドの虚々実々のかけひきが見もの。誰が本物で誰がニセモノなのか? 疑心暗鬼になる感じが面白い。

 だが、この本の一番の読みどころはそうしたアクション場面ではなくて、底流に流れている深遠なテーマにあるのかもしれない。

 それは、「人間とはなにか?」「人間らしさとは何か?」という疑問である。

 主人公のリックは最初、躊躇なくアンドロイドを殺害する冷酷無比な人間として描かれる。リックにとってアンドロイドは単なる無生物の、賞金稼ぎの標的にしかすぎなかった。しかし、レイチェルという女性アンドロイドに出会ってから、彼の心境に変化が生じてくる。憎むべき敵であったはずのアンドロイドに対して、徐々に感情移入するようになってしまうのだ……。

 作者のディックはリックの物語を通して、人間のあり方を問いかけてくる。人間とアンドロイドを区別するものは何か? 技術が進歩して人間そっくりのアンドロイドができたとして、人間とどうやって区別することができるだろう? 外見も知能も人間と区別がつかなかったら、アンドロイドも人間も同じなんじゃないかと。

 ディックが考える人間らしさを示す一つの解答は、感情移入する能力というものだ。人間はどんなものにも感情移入する。同じ人間だけでなく、他の動物たち、あるいは虫にさえも。こうした共感能力こそが人間とアンドロイドを区別する指標なのだという。人間には、他者と自分を同化させてしまう、奇妙な能力があるようなのだ。

 主人公のリックも、動物たちだけでなく、とうとう無生物のアンドロイドにさえ共感してしまう。それはディックの示す人間らしさの現われといえるものだった。だが、アンドロイドに感情移入するということは、リックにとっては賞金稼ぎとしての使命の終結を意味していた。標的に感情移入することは自らの死につながるのだ。

 ここで、さらにテーマが掘り下げられる。人間は感情移入する能力を持っているけれども、同時に他の動物を殺さなければならないこともある。そうしなければ生きていけないのだから。一方で動物たちに感情移入してかわいがるのに、他方で冷酷にその動物を殺して食う。人間の抱え込む矛盾である。

 リックは自らの矛盾にとらわれて、心理的な苦しみを味わう。アンドロイドに感情移入する一方で、アンドロイドを殺害しなければならない葛藤。本書に出てくるマーサーという老人がリックに助言する。人間はまちがったことをするめぐりあわせになる。おのれの本質にもとる行為をさせられるのが人生の本質だと。そうして、リックはおのれの矛盾に苦しみながらも自らに課せられた使命を全うしようとする――。

 人間らしさとは何か? 人間の本質とは何か? スリルあふれるアクションストーリーの中に、こうした哲学的なテーマが隠れていて、とても読み応えのある作品。ディックの小説は、未来を舞台にしていたり、アンドロイドのようなガジェットがたくさん出てくるけれども、現代にもつながる普遍的なテーマを描いているから魅力的なんだと思う。本書も、現実離れした世界観が広がっているにもかかわらず、人間の本質をあぶりだそうとしているところがとてもよかった。
nice!(10)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

たんぽぽ娘 [SF(外国)]


たんぽぽ娘 (河出文庫)

たんぽぽ娘 (河出文庫)

  • 作者: ロバート・F. ヤング
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2015/01/07
  • メディア: 文庫



 ロバート・F・ヤングという作家の短編集。

 詩情あふれる作風で、ファンタジーと日常がないまぜになったような雰囲気。レイ・ブラッドベリとかジャック・フィニイを読んだときのような、爽やかな読後感がある作品群だ。

 半分くらいの作品は難解すぎたり、あまり好みのものではなかったりしたが、面白いものは抜群によくて、本書を読んでいてオールタイムベスト級の短編も見つかった。

 とくに気に入ったのは、「河を下る旅」という作品。

 筏で河を下る男が、岸辺で女性と出会い、共に河下りをする。河といっても、現実の河ではなく死の世界の河。事情があって死ぬことになった2人が、生と死のはざまの世界で出会うことに。そして、再び生きる希望を見出していく――。

 こういう人間ドラマとファンタジーが絶妙に組み合わさった作品には惹きつけられてしまう。しっとりした雰囲気がいいし、物語の展開もドラマティックで、これから何度も読み返すことになりそう。

 表題作の「たんぽぽ娘」も、名作といわれているだけあって、見事な出来ばえ。

 マークが丘の上で出会ったのは、たんぽぽの色の髪をした若い女性ジュリー。どこか不思議な雰囲気があったが、それもそのはず彼女は未来から時間を越えてやってきたのだ。

 時空を超えたラブストーリー。最後のオチにはちょっとびっくりしてしまった。こういう展開をするのかと、絶妙な話のまとめ方に舌を巻いた。

 この2作がベストだが、他に「荒寥の地より」と「主従問題」という作品もなかなかよかった。

 自分は本格SFよりもこういう日常系のSFのほうが好きなので、この短編集は読んでいてだいぶツボにはまった。この作家のものはあまり読んでいないので、他にどんなのがあるか楽しみにもなった。
nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(1) 
共通テーマ:

運命のボタン [SF(外国)]


運命のボタン (ハヤカワ文庫NV)

運命のボタン (ハヤカワ文庫NV)

  • 作者: リチャード・マシスン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/03/26
  • メディア: 文庫



 幻想と怪奇の作家、リチャード・マシスンの短編集。

 ありふれた日常を送っていたはずの主人公たちが、ぽっかり空いた異次元への裂け目を通って、不思議な世界にさまよい込んでしまう。そんな奇妙な物語ばかりを集めた作品群だ。

 表題作「運命のボタン」は、ある夫婦の元に届けられた押しボタンつき装置の話。そのボタンを押すだけで、大金がもらえるという。ただし、その引き換えに世界のどこかで見知らぬ人間が死ぬことに……。

 「死の部屋のなかで」 アメリカの砂漠地帯をドライブしていた夫婦が、途中でおんぼろレストランに立ち寄る。夫がトイレを借りるが、そのまま帰ってこない。あせった妻は夫を探すがどこにも見当たらない。それどころか、店にいた人間は、誰も夫のことを見ていないという……。

 「小犬」 自宅の中にいつの間にか入り込んでいた白い子犬。サラはぎょっとして犬を追い出すが、なぜか家の中に戻ってくる犬。追い出しても追い出してもいつの間にか家の中に入り込んできて……。

 「二万フィートの悪夢」 旅客機で旅行中のビジネスマン、ウィルスン。彼は飛行機が苦手で眠ることができず、ふと窓の外を見ると、翼の上に人影が……!?

 この短編集に出てくる作品に共通するテーマは、「恐怖とは何か」ということだった。

 主人公やその家族が死の危険にさらされる作品が多いし、文字通り怪物が襲ってくるような話もあって、物語として怖い。じわじわとくる恐怖とサスペンスも味わえる作品群である。

 だが、モンスターが怖い、幽霊が怖いという単純な話でもない。マシスンはそうした表層的な怖さだけではなく、もっと根源的な恐怖を描いていた。

 この作品集に出てくる主人公たちは、超自然的な体験をする中で、大切にしている家族との信頼を崩壊させてしまったり、誇大妄想のように思われて社会から孤立してしまったり、人間として越えてはならない線をまたいでしまったりする。極限状態に追い込まれてしまった人々が、狂気に走ったあげくに、大切な何かを失ってしまう。そういう社会心理的な怖さのある作品でもあるなあと思った。

 怪異が襲ってきてゾッとするという怖さも面白いけれど、あくまでも超自然的な部分は触媒にすぎなくて、主人公たちは超自然的体験をきっかけに少しずつどこか社会規範からズレた行動をとるようになって、そのズレがとんでもない方向に進んでいく。主人公たちの世界ががらがらと崩れ去って、狂ったような行動に走ってしまう。その転落していく感じがとても怖いのだ。

 SF短編・ショートショートとして、物語としても皮肉が利いていて面白い作品ばかりだが、それ以上に恐怖とは何かという問いかけがあって、深掘りして楽しむこともできる短編集。こんな事態に巻き込まれたら、自分も主人公たちのように狂気に走ってしまうのではないか? しょせん文明社会や社会規範なんて薄皮一枚のもろいものなんじゃないか? そんなふうに思わされる怖さがあった。 
nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

宇宙に旅立つ時 [SF(外国)]


宇宙(そら)に旅立つ時 (創元SF文庫)

宇宙(そら)に旅立つ時 (創元SF文庫)

  • 作者: ロバート・A. ハインライン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1985/11
  • メディア: 文庫



 夜空に見える星はたいていは太陽と同じく恒星である。無数にあるそうした星々の周りを、たくさんの惑星が回っている。中には地球と似たような環境の惑星もあるだろう。もし人類が宇宙を飛び出して、そのような惑星に行けたとしたら、その星に移住することもできるかもしれない……。

 ロバート・A・ハインラインが書いた「宇宙に旅立つ時」は、まさにそんな宇宙にかける人類の夢を描いた作品である。

 人口問題に悩まされる未来の世界。人類は居住可能な惑星を見つけるために、太陽系外宇宙の探査計画をたてる。亜光速宇宙船を飛ばして、星々の環境を調査しようというのだ。主人公の双子の少年トムとパットはこの計画に志願することになる。彼らはテレパスで、お互いにテレパシーでやりとりすることができる。遠距離にある宇宙船と地球の通信係として、彼らの能力がどうしても必要なのだ。

 だが、双子のうち宇宙に行くことができるのはひとりだけ。もうひとりは地球のとどまる必要がある。トムはパットと離ればなれになりながらも、宇宙を目指す。地球から11光年離れた星、くじら座タウに向かって――。

 宇宙にはどんな世界が広がっているのだろう? 宇宙旅行にはどんな困難が伴うのだろう? そんな空想の世界を、ハインラインならではの鮮やかなビジョンで見せてくれる作品。船員の組織から惑星探検の方法、宇宙船内の反乱まで具体的に筋道立てて書かれていて、遠い未来には本当にこんな世界が来るんじゃないかと思わされてしまう。

 主人公のトムは双子ながらもいつもパットに負けてばかり。コンプレックスを持ってきたが、宇宙を飛び出して困難に立ち向かううちに成長を遂げていく。トムとパットとの間の心理的な葛藤、トムの人間的成長というところも読みどころだろう。

 とくにウラシマ効果がうまく使われているのはSFならでは。相対性理論では、高速で移動するほどに時間の流れが遅くなる。宇宙船は光速に近い速さで移動しているので、宇宙船にいるトムと地球に残っているパットとの間に時間のずれが生じてくる。トムが宇宙船でほんのわずかな時間を過ごすうちに、地球では何十年も経っていたなどということになる。

 トムがまだ20代前なのに、パットは結婚し、子供もでき、孫ができと、どんどんトムとパットの人生がずれていくところが興味深い。同じ生活を送っていたはずの双子の人生が、二股に分かれてゆく。パットに依存していたところもあったトムが、時間がたつにつれ、パットと異なる人生を歩むにつれ、やがて自立してひとりの大人になっていくのだ。

 宇宙での夢と冒険を描いたわくわくさせられる作品であると同時に、少年が困難に立ち向かう青春ものでもある。いかにもハインラインらしい語り口で、読み終えたあとさわやかな気分になる一冊だった。 
nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

トリポッド [SF(外国)]


トリポッド〈2〉脱出 (ハヤカワ文庫SF)

トリポッド〈2〉脱出 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ジョン クリストファー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/01/15
  • メディア: 文庫



 未来の地球を舞台にしたSF小説。少年の主人公が困難な旅に出る冒険もの。 

 舞台はトリポッドという巨大な三脚を持った奇妙な存在が、世界を支配してから100年後の世界。人々はトリポッドの支配下にあって、おとなしく平和裏に暮らしていた……。

 ウィル・パーカーはイギリスのウィンチェスターに住む少年。もうすぐ14歳になると、戴帽式が控えている。トリポッドから帽子をつけられる、子どもたちが楽しみにしている通過儀礼だ。

 ウィルはそれまで何の疑問も抱かなかった。自分たちの世界が平和であることに。これからもトリポッドに対して畏怖の念を感じながら、支配され続けることに……。だが、町にやってきた放浪者から聞いた話がウィルの世界観を変えてしまう。

 戴帽式で与えられる帽子というのは、実はトリポッドが人々を支配するための機械で、帽子をつけると脳に直接トリポッドからの指令が下って、人々は従順になり、トリポッドに逆らえなくなるという。トリポッドは100年前に宇宙からやってきた侵略者で、大勢の人々を殺戮し、奴隷化し、人々を家畜のようにしてしまったのだ。

 海の向こうの白い山脈のどこかに、帽子をかぶせられず、トリポッドの支配を受けない自由な意思を持った人々が逃げのびているという。ウィルは放浪者から与えられた地図とコンパスを手掛かりに、町を出て旅立つことになる。白い山脈を目指して、自由な世界を求めて—―。

 主人公が危険をかいくぐりながら旅を続けていくという、わくわくするような物語。途中途中で仲間ができて、一緒に旅していくなど、冒険もののツボをおさえた展開。

 行く先々で危険な目にあいながらも、困難をかいくぐっていくところがスリリング。かつての文明都市が廃墟のようになって、その中を探検していくくだりなど、文明のはかなさを感じさせる場面もあって印象的だった。
 
 主人公のウィルは旅を通して成長を遂げていく。これまで周りの大人と変わらず、支配されることに疑問を抱かなかったウィル。トリポッドの支配下にあっても、人々はそれなりに幸福に暮らしているので、迷いも生じるけれども、やがてウィルは信念を貫いて、自由な生き方を選択することになる。家畜としてではなく、人間としての誇りを失わない生き方を。

 SF冒険ものとしてもよくできているし、主人公の成長物としてもよくできた質の高い内容で、面白かった。読んでいて、主人公と壮大な冒険をしているような感覚になってくる。

 映画化の企画などもあったようなのだが、どうなったのだろう? 壮大な冒険もので、映像化してもかなり見栄えがするような気がする。大きなスクリーンでトリポッドが暴れるところを見てみたいなあと思った。
nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

73光年の妖怪 [SF(外国)]


73光年の妖怪 (創元SF文庫)

73光年の妖怪 (創元SF文庫)

  • 作者: フレドリック ブラウン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1993/05
  • メディア: 文庫



 アメリカ、ウィスコンシン州バートルスビルの町に、一匹の知的生命体が到来する。その知性体は、地球から73光年も離れた惑星から追放されてやってきた。亀のような恰好をしていて、地球の引力には弱く、動き回ることはできないが、奇妙な能力を備えていて、眠り込んだ動物に乗り移って自由に操ることができるのだった。知性体は、身近にいる動物たちに次々に乗り移って、おそろしい計画を達成しようとする……。

 SF小説でよく見かける「侵略テーマ」の作品。ネズミや犬や鳥や猫、人間にまで寄生してしまう知的生命体と物理学者との死闘が描かれている。

 読んでみて、まさに戦いの面白さを存分に見せてくれる作品だった。

 知的生命体の目的は、どこかにいるはずの電子科学者に寄生して、その科学技術の知識を利用して、宇宙旅行のためのマシンを作って故郷に帰還すること。そして、地球という星があることを故郷に知らせること。しまいには、故郷から大群が押し寄せ、地球は知的生命体たちに侵略されることだろう。

 知的生命体と物理学者が頭脳戦を繰り広げる様子が描かれていて、非常にサスペンスフル。次々に動物たちを乗り換えていって、どんどん人間に近づいていく知性体の様子と、周りでおかしな現象が起こっていることに気づいて、知性体の存在に気づき始める物理学者の様子が交互に描き出される。次はどんな手を繰り出すのか? 緊迫したチェスか将棋の戦いを見ているような勝負している感じが面白い。

 知性体を徐々に追い詰めていく物理学者。だが、やがて、物理学者は知性体に逆に追い詰められていっていることに気づき……。追いつ追われつの戦いで、激しい攻防戦が見もの。地球の運命をかけた一騎打ちが繰り広げられる。

 何でもありの戦いではなくて、きっちりしたルールがあるところもよかった。知的生命体とはいえ万能ではなく、本体は動き回ることができない、動物が眠っているときでないと乗り移れない、遠くにいる動物には乗り移れない、乗り移った動物が死なないと本体に戻れないなど、弱点や制約もあるのである。こういうルールを踏まえたうえで、物理学者がどうやって知性体の弱点を突いたり、裏をかいたりするのか? その創意工夫を見るのが楽しかった。

 ストーリーが抜群に面白いのみならず、語り口も鮮やかで、するすると読めてしまう内容。舞台となっているアメリカの田舎町ののどかな雰囲気もなかなか味があってよかった。
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

火星の人 [SF(外国)]


火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: アンディ・ウィアー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/08/22
  • メディア: 文庫



 火星への有人探査の3回目のミッションのさなか、火星で砂嵐が発生。クルーたちは火星から地球へと帰還することとなった。しかし、火星離脱途中、砂嵐の影響で地上に設置されたパラボラアンテナが引きちぎれ、吹き飛ばされてクルーの一人であるマーク・スワニーに直撃してしまう。アンテナがスーツを貫いて、姿を消したのを見たクルーたちはマークが死亡したものと判断。そのまま地球へと向かうが、実はマークは生きていて……。

 火星にたったひとりで取り残されてしまった宇宙飛行士を描いたサバイバルSF。

 マークに残されているのは、ハブと呼ばれる施設と、移動のためのローバー、スペーススーツ、酸素供給装置、水再生器、太陽光パネル、それに1年分の食料。次のミッションでクルーがやってくるのは4年後の予定。4年もの間どうやって生き残ることができるのか? マークは数少ない所持品を利用して、どうにか生き延びようとする。

 火星を舞台にした「ロビンソン・クルーソー」といった感じの話である。

 マークが次々起こるトラブルに対して、創意工夫で乗り切っていくところが面白い。手持ちの材料だけを使って、意外なアイデアを次々出していく。植物学の知識を利用して、ジャガイモを育てようとしたり、化学知識を応用して水を作り出そうとしたり、地球との通信を試みるための冒険をしたり。知恵をしぼって思わぬ解決を見せていくところが痛快なのだ。

 科学知識を最大限に応用してのいたってリアルなサバイバル生活が描かれていて、なんとも頭のいい人がいるもんだと驚嘆させられる内容。J・P・ホーガンとかコチコチのハードSFが好きな人にも楽しめるのではなかろうか。

 主人公のマークが非常にユーモラスなキャラクターで、極限状況にあるのになぜか飄々とした感じがあるところもよかった。語り口が軽かったり、妙なギャグを披露したりして、本来ならかなり悲惨な話のはずが、おもわず吹き出してしまうような場面が多々出てくる。

 結構分厚い本だったが、次々に持ち上がる難問とそれを乗り越えていくマークの奮闘ぶりが面白く、一気に読んでしまった。リドリー・スコット監督による映画化も予定されているらしいけれど、火星のビジュアルは観てみたいし、ストーリー展開もテンポがよいので、たしかに映画にも向いている話だなあと思った。
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

高い城の男 [SF(外国)]


高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

  • 作者: フィリップ・K・ディック
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1984/07/31
  • メディア: 文庫



 「もしクレオパトラの鼻がもう少し低かったら、世界の歴史は変わっていただろう」とは、パスカルの有名なことばである。「歴史にもしもはない」というけれど、もしもの世界をつい妄想したくなってしまうのが、人間のさがなのかもしれない。 

 フィリップ・K・ディックの小説「高い城の男」は、まさにそんな歴史のイフを描いた作品といえる。もし第二次世界大戦で日本とドイツが勝っていたら、どんな世界になっていただろう? そんな仮想の歴史をたどった世界を舞台に重厚なドラマが展開されるのだ。

 ドイツと日本に支配されるアメリカという空想世界の描写が実にリアル。終戦後の政治体制の変化、ドイツがその後も急進的な形で世界を圧倒していく様子、日本とドイツの危うい関係、ドイツ支配層の内紛、アメリカ人の卑屈な生き様など、詳細に書かれていて圧巻である。読んでいて、本当にこんな世界があり得たかもしれないと感じさせられてしまった。

 ストーリー自体ももちろん面白い。群像劇になっていて、何人かの登場人物が交互に現れて話を進めていく。取引相手がスパイではないかと疑い始める田上、アメリカを放浪する女ジュリアナ、美術工芸品商売での成功をもくろむチルダン、神秘的なアクセサリーの制作を始めるフリンク、情報部と通じてある任務を命じられた男バイネス。ばらばらに展開していたそれぞれの人生が、徐々にお互いに交錯するようになっていき、世界を揺るがすような大きな陰謀に巻き込まれていく……。

 いつものディックのように、本作もまた現実と虚構がテーマになっている。本物の美術品とニセモノの美術品、本当の身分と偽りの身分、そして真実の歴史と虚構の歴史……。ドイツと日本が勝った世界の中でベストセラーになった一冊の本「イナゴ身重く横たわる」。そこにはドイツと日本が負けて、アメリカが勝ったという歴史が描かれていた。虚構の中の真実。

 虚構と真実と間を行ったり来たりするような、めまいがしてくる感覚の内容。真実と虚構は紙一重。現実が崩壊していくような雰囲気はまさにディックの十八番のテーマといえるだろう。

 本書を読んでとくに興味深かったのは、日本とドイツが勝っていたとしても、その後今度は日本とドイツが新たな紛争に突入していったんじゃないかというところ。戦争に勝っても負けても、どの道、別種の試練が与えられていたんじゃないか? 因果の流れというものの皮肉が描かれていて、大いに考えさせられる作品だった。
nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

永遠のアダム [SF(外国)]


永遠のアダム

永遠のアダム

  • 作者: ジュール・ヴェルヌ
  • 出版社/メーカー: 文遊社
  • 発売日: 2013/06/03
  • メディア: 単行本



 今回紹介する本は、ジュール・ヴェルヌが書いた中編小説「永遠のアダム」という作品だ。

 ジュール・ヴェルヌというと、「海底二万里」「地底探検」「月世界へ行く」とかが有名。未知の世界に対する憧れ、科学に対する熱情といった、夢と冒険にあふれる世界を描いた作家だ。だが、実はヴェルヌは、楽観主義一辺倒ではなかった。ペシミスティックな側面も持ち合わせていて、「海底二万里」のネモ船長などは、ヴェルヌのもつ皮肉な見方を象徴しているキャラクターといえるだろう。

 本作「永遠のアダム」もまた、ヴェルヌのペシミスティックさが強く現れた珍しい作品なのである。近未来の世界を舞台にしたこの作品では、終末を迎える世界の悲劇が描かれている。

 メキシコのロザリオという町に住むフランス人の主人公は、海岸沿いの自宅で友人たちと歓談していたところ、大きな地震に見舞われる。身体が地面に吸い込まれるような感覚がおそい、邸宅はぐらつき、どうにか外に出たとたんに家は崩れ落ちてしまう。どうやら地殻変動が起きて地面が海に沈没してしまったらしい……。しかも、いまだに沈没は続いているようで、波がすぐそばまで迫っていた。主人公たちは急いで車に乗り込むと、高みを目指して発進するが、ゆるゆるとした勢いで波が後ろから追いかけてくる……。

 「日本沈没」という小説があるけれど、本作では日本どころか世界中が沈没してしまうという壮大で恐ろしい作品。メキシコ沈没のあと、主人公たちは船に助けられて世界中を旅することになるのだが、アメリカにもアジアにもヨーロッパにもどこにも陸地が見つからないという恐怖。まさに悪夢のような航海が描かれている。人類の行く末はどうなってしまうんだろうと思わず読みながらハラハラさせられる小説だ。

 枠物語になっていて、数万年先の人類が現代人の残した手記を発見して未来人がこれを読み解いていくという形式。現代人の文明というものが、すでに消え去った過去の文明として描かれる。どんなに発達した文明も一夜にして滅んでしまうことがあるのかもしれないという、人類文明の脆さのようなものがテーマになっている。

 アトランティス大陸の伝説があるように、人類はひょっとしたら何度も文明崩壊をくり返してきたんじゃないか。これからも文明が崩壊して滅び去ってしまうことをくり返していくんじゃないか。文明の崩壊のような劇的な事件が永遠に連なっていくというイメージが悲しくも壮大である。現代文明も何かのきっかけで滅んでしまうことがあるのかもと思わず考えさせられてしまう。

 世界の終末の恐怖というヴェルヌらしからぬ題材で、最晩年にこんな作品を残していたのかと読んでみて驚いた。ペシミスティックな作品ではありながら、世界中を航海したり、新天地を開拓したりする場面もあったりして、いかにもヴェルヌ的なほっとさせられるところもある。短いながらもいろいろな楽しみ方のできる傑作だった。
nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:
前の30件 | - SF(外国) ブログトップ