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パリは燃えているか? [世界史]


パリは燃えているか?〔新版〕(上) (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

パリは燃えているか?〔新版〕(上) (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 作者: ラリー・コリンズ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/02/09
  • メディア: 文庫



 第二次大戦時、連合軍がノルマンディーに上陸してドイツに向けて進軍すると、パリを占領していたドイツ軍は後退を迫られることになった。アドルフ・ヒトラーはこの状況にいきり立っていた。パリを占領することが、この戦争で最も重要な意味を持っていたからだ。

 むざむざ連合軍にパリを明け渡すくらいなら、破壊してしまえと、ヒトラーは軍隊に命じる。パリのあらゆる場所に爆薬が仕かけられ、焦土化する作戦が立てられた。そして、とうとうレジスタンスの活動が本格的に開始され、パリの市街地で激しい戦闘が繰り広げられることになる。

 1944年のパリの攻防を描いたノンフィクション。

 パリのエッフェル塔や、凱旋門、ルーヴル美術館、ノートルダム寺院なども、このときに破壊されるはずだったそうだ。にもかかわらず、今でも無傷で残ったのは奇跡的な偶然が積み重なったから。本書はこのときの経緯が克明に描かれている。

 連合軍が最初はパリを迂回しようとしていたというのは知らなかった。パリはドイツ軍の防衛が強固なので、激しい戦闘が予想され、燃料や弾薬を節約したかった連合軍はこれを避けたかったのだという。最終的にはパリに入らざるを得なくなるのだが、連合軍が引っ張り込まれる経緯は紆余曲折があってなかなか読み応えがある。

 本書にはヒトラーやドゴール、アイゼンハワー、ヘミングウェイといった有名人も出てくるが、無数の無名の人々のエピソードがふんだんに盛り込まれているのが特徴。個人の行動がのちのち歴史の流れに影響を与えたりしていて、歴史を動かしているのは、人々の個々の行為の積み重ねなんだなあということが見えてくるところが面白い。

 無数のエピソードが語られていて圧倒される本。これどうやって取材したんだろうと本当に驚いた。
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血族 [ミステリ(外国)]


血族〈上〉

血族〈上〉

  • 作者: シドニィ シェルダン
  • 出版社/メーカー: アカデミー出版
  • 発売日: 1993/02
  • メディア: 新書



 シドニイ・シェルダンの「血族」を読んだ。

 巨大製薬企業の社長が、登山中にクレバスに転落して死亡するという事故が起こる。娘のエリザベスは父親の意志を継ぐべく、自ら社長の座につくが、やがて社内に不穏な動きがあることを知る。会社の信用を意図的に失墜させるような出来事が相次いでいたのだ。社内にスパイがいるのだろうか? 

 疑念が的中したかのように、不可解な事件が続発。彼女は何度も命も危険にさらされる。怪しいのは会社の重役たちだ。エリザベスが死んで利益があるのは彼らなのだから。一体誰が裏切り者なのか? 命を懸けた犯人探しが始まる。

 ……とまあ、いかにもシドニイ・シェルダンらしいスリリングなミステリーなのだが、正直なところミステリーとしてはそれほど面白くなかった。結末に意外性がなくて、なんだか尻すぼみで終わってしまった感じ。シチュエーションとしては面白かったのだけれど……。

 むしろ、この本の面白さは、本筋よりも脇役たちの個々のドラマの方にある。本書には会社の重役たちが何人も登場する。エリザベスの命を狙っているかもしれない容疑者たちだ。普通の小説なら、脇役として小さく扱われるような人たちなのだが、シドニイ・シェルダンはさすがに一味違う作家である。一人一人の重役たちの来歴エピソードが事細かに描かれ、まるで人物伝のように語られる。

 シドニイ・シェルダンは本当にこういう人間くさいエピソードを書かせるとうまい。ドロドロの人間模様を描いていて、各人物たちは己の欲望に忠実なあまりに破滅への道を突き進み、人生の崖っぷちに立たされている。彼らが救われるにはただ一つ、エリザベスを殺すしかない。そんな状況にまで追い込まれてしまう。

 とにかく話がどんどん脱線する作家で、重役ならまだ話に関係するからいいものの、途中で全然本筋と関係ない製薬会社の創業者の話まで出てくる。そして、なぜかこの創業者の会社設立に至るまでの苦労話が、本書の中で一番読みごたえがあったのだから不思議だ。面白い中編小説を一つ読んだかのような満足感だった。
 
 ということで、全体的な構成はいびつで、すっきりせず、ミステリーとしてもたいして面白くなかったけれど、個々のエピソードが異常に面白かった。シドニイ・シェルダンも妙な本を書くよなあと思った。
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あした天気にしておくれ [ミステリ(日本)]


あした天気にしておくれ (講談社文庫)

あした天気にしておくれ (講談社文庫)

  • 作者: 岡嶋 二人
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1986/08/08
  • メディア: 文庫



 誘拐もののミステリーといえば、岡嶋二人。

 「あした天気にしておくれ」は競馬の世界を舞台にした誘拐ものだ。

 サラブレッドのセシアは将来有望な血統馬。仔馬にも関わらず3億円もの価値がつけられていた。ところが、輸送中に自動車事故が起こり、セシアは骨折。もはや競馬に出場することもままならない状態になってしまう。

 事故の責任は馬主の一人である鞍峰にあった。彼は自らの責任を免れるために一計を講じる。セシアの誘拐事件を偽装して、責任を外に逸らしてしまおうという計画だ。ところが、何者かから謎の脅迫文が届き、計画は予想外の展開に……。

 最初は犯罪者側の目線で、犯罪計画を遂行していく話だったのが、途中から謎の人物からの介入があって計画が横取りされてしまう。謎の人物は誰なのかという謎解きミステリーへと変貌するのである。

 他人を騙そうとしていたはずが、いつの間にか誰かに騙されていたことに気づく。視点が一気にひっくり返ってしまう面白さのある作品。

 誘拐ものというと、身代金の引き渡しが見所のひとつ。厳重な警備の中をどうやってかいくぐって、安全に身代金を手に入れるのか。犯人の頭脳が最も試される場面である。

 本書の中にも、あっと驚くような身代金の入手方法が用意されていて、こんなやり方があったのかと恐れ入った。競馬界ならではのトリックで、前代未聞だろう。

 ミステリーとしても良質であるし、競馬界の裏事情まで知ることのできるという読み応え満点な本だった。
タグ:岡嶋二人
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震える石 [ミステリ(外国)]


震える石 (論創海外ミステリ)

震える石 (論創海外ミステリ)

  • 作者: ピエール ボアロー
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2016/12
  • メディア: 単行本



 「震える石」はフランスのクラシック・ミステリー。最近、初の邦訳が出版された。

 筆者はピエール・ボアロー。ヒッチコックの「めまい」の原作を書いた人だ。

 「めまい」もトリッキーな話だったが、この「震える石」も負けず劣らずトリッキーだった。なにしろ、謎の犯人が衆人監視の中で煙のように消え失せてしまうのだから。

 物語の舞台となるのは、フランスのブルターニュにある城館(シャトー)。この城館の領主の息子と結婚することになったピアニストの女性が、城館に向かう列車の中で謎の人物によって命を狙われる。偶然現場に居合わせた探偵のアンドレ・ブリュネルは、女性が襲われているところを救い出すが、単なる物盗りには思えない。案の定、城館に着いてから第二の事件が起こる。

 とにかく謎の出し方が大盤振る舞いな話だ。謎の犯人が消失してしまう場面が出てきて、これどうやったんだろうと思っているところに、さらに2回目の人間消失が起こる。そのうえ城館の領主と息子が夜な夜な奇怪な行動をとったりもして、謎が解ける前にどんどん謎を積み重ねていくというすごい話だ。

 こんなに風呂敷を広げて、最後にきちんと畳めるのだろうかと思えるくらいなのだが、これが最後になってスッキリと謎が解けるのである。しかも、竜頭蛇尾な感じではなく、結構納得のいく解答。どうして犯罪に至ったのかというあらましがしっかりと考えられている。

 城館やら怪人が出てくるせいか、本格ミステリーというよりも、怪盗ルパンのような冒険もののイメージに近い作品だった。結構スリルがあって、飽きさせない展開。

 解説を読むと、主人公のアンドレ・ブリュネルは、シリーズものとして活躍しているらしい。入手困難なものが多いようだが、別の作品も読んでみたくなった。
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アメリカ銃の謎 [ミステリ(外国)]


アメリカ銃の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

アメリカ銃の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: エラリー・クイーン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/07/12
  • メディア: 文庫



 お盆休みの旅行中に、道中で読んだ本。時間を忘れて夢中になって読みふけってしまった。

 推理小説で見所なのは、大勢いる登場人物の中からどうやって人数を絞り込んでいって、犯人を特定するのかという点だ。

 推理ものを読んでいると、この辺が適当なことも結構ある。やはり殺人の容疑でしょっ引くからには、その人物が犯人であるという確固たる論理と裏づけがほしいものだ。

 よくできた推理小説を読むと、このあたりが非常に緻密に組み立てられていて、パズルのピースがかちっとはまっていくような心地よさがある。ホームズやコロンボ、クイーン、怪盗ニックあたりがその代表格だろう。

 とくにエラリー・クイーンはロジックにかけてはもっとも精密な作家で、変人的なまでに論理的である。「アメリカ銃の謎」もロジックの見所満載の作品だった。カウボーイのショーのためにコロシアムに集まった大群衆の目の前で、カウボーイの1人が銃殺される。容疑者はなんと2万人。この中から、犯人を1人に絞り込んでいくという話だ。

 これは大勢すぎてさすがに無理だろうと思える状況なのに、クイーンの手にかかると不可能も可能となる。2万人の中から奇術師のような鮮やかさで、犯人を割り出してしまうのだ。読んでいて、これぞ推理ものの真骨頂だと思った。

 今回は銃による殺人なので、弾道から絞り込むというのは予想がつくけれども、クイーンはまったく予想もつかないところにも着目していた。たとえば、被害者のベルトとか。一見すると事件と全然関係なさそうな些細な点が重要になるのだ。

 何か普段と違うなあとか、矛盾していておかしいなあというようなところが手がかりになるらしい。そういう違和感から出発して、違和感を解消するような説明を論理的に組み立てていく。すると、思いもよらない事件の全貌が明らかになっていく。

 「アメリカ銃の謎」は、ロジカルで理屈っぽい話が好きな人にはおすすめの本だ。大勢の中から絞り込んでいくというミステリーの醍醐味を味わうことができる。

 ちなみに、エラリー・クイーンは作風がどんどん変わっていった作家で、後期クイーン問題と神がかった犯罪とかいろいろ挑戦しているのだけれど、なんだかんだで初期の国名シリーズが一番好きである。ロジックの面白さが後期に行くとだんだん薄まってしまって、たいして推理しないので読んでいてがっかりすることも多い。国名シリーズの頃の異常なロジカルさが面白いと思う。
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ライト兄弟 [伝記(外国)]


ライト兄弟: イノベーション・マインドの力

ライト兄弟: イノベーション・マインドの力

  • 作者: デヴィッド マカルー
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2017/05/18
  • メディア: 単行本



 いろいろな本がある中で、もっとも面白いのは人物伝だと思う。

 伝記を読んでいると、こんな生き方をした人がいるのかと、本当に驚かされることが多い。現代社会の基礎は過去の偉人たちによって作られているわけで、現代のルーツを知ることもできる。とにかくこんなに楽しくて、読みがいのあるものはない。

 最近読んだ「ライト兄弟」の本も、まさにそんな面白本のひとつだった。

 ライト兄弟は言わずと知れた、有人動力飛行のパイオニアだ。伝記本もすでにたくさん書かれているが、本書は中でもライト兄弟の人物像が丁寧に描かれている。ライト兄弟はこういう性格の人たちだったのかとか、どうして飛行機に興味を持つに至ったのかとか、どんな努力を繰り返したのかとか、目の前にライト兄弟が浮かび上がってくるかのような迫力があった。

 鳥が空を舞うことができるのは、揚力が働いているからだ。翼の上面を空気がすばやく流れることで、翼の上面にかかる圧力が下面よりも小さくなり、翼が押し上げられる。飛行機も同じ原理で空に浮かぶから、翼にかかる揚力が重要となる。そして、翼の上面の空気の流れは、翼の形状によって変わってくる。

 ライト兄弟も翼の形状には苦心したようだ。自家製の風洞装置を作って、模型を飛ばす実験を繰り返して、最適な翼の形状を割り出そうとしている。実際の飛行機での飛行実験を繰り返して、実地でも検証している。

 揚力だけではない。どうやって離発着するのか、どうやって推力を得るのかといったことにも、試行錯誤を繰り返した。

 本当に何もないところから始めたというのはすごいことである。翼の形状から、飛行機用のエンジンやプロペラ、操縦装置に至るまで、何もかも初物尽くしだった。にもかかわらず、たった二人で現代の飛行機の原型を作り上げてしまったのだ。

 ライト兄弟の飛行にかける並々ならぬ情熱には本当に頭が下がる。途中で飽きたりしないし、何度も生じる失敗にもめげない。飛行実験というのは、一歩間違えれば死が待っているという危険なものであるのに、彼らは決してやめようとしなかった。飛ぶことができるという保証はなにもないというのに。

 伝記本を読んでいると、フラストレーションが生まれることが多い。こんなにすごい人生を歩んだ人がいるのに、自分はなんと安穏な暮らしをしているのかと。本書もそうした意味では刺激になる本だった。この本を読むと、妙に元気が湧いてくるのだ。カンフル剤のような本だと言えるかもしれない。
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痛快!ローマ学 [世界史]


痛快!ローマ学

痛快!ローマ学

  • 作者: 塩野 七生
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2002/12
  • メディア: 単行本



 「ローマは一日にして成らず」という言葉の通り、ローマ帝国が繁栄を極めるまでには紆余曲折があったらしい。

 ローマ帝国も最初は小さな国に過ぎず、周りにも敵がたくさんいて、絶えず戦争が起こっていた。真っ先につぶされてしまってもおかしくない弱小国家だったのに、ヨーロッパ全域を支配してしまうような帝国にまで発展してしまった。これはどうしたわけなんだろう?

 「痛快!ローマ学」を読むと、そのあたりのいきさつが丁寧に描かれていて、とても勉強になる。キーポイントになるのは、「ローマ市民権」だ。

 普通の民族であれば、戦争で他の民族を侵略した場合に、征服された民族を殺してしまうとか奴隷にしてしまうとか殲滅してしまうことが多いだろう。ところが、ローマ帝国はやり方が違っていた。彼らは戦争に勝っても相手を殺してしまうのではなく、むしろ市民権を与えるということをしていた。投票権まで与えてしまうし、元老院の議席まで与えてしまった。大盤振る舞いともいえるし、一見すると損なんじゃないかと思えるやり方をしていたのだ。

 ところが、実はこれが理にかなっていた。市民権を与えることで、ローマ帝国は人口を増やして国を大きくしていくことができたし、市民権を与えられた側もローマ帝国に対して忠誠を誓うようになり結束力も生まれた。

 敵を増やすのではなく、「敗者をも同化する」というのがローマ帝国のモットー。帝国というとなんだか強権的なイメージがあったが、実は征服された側も利益を得て、Win-Winだったのかもしれない。

 とはいえ、もちろんローマ帝国も順風満帆に拡大していったわけではない。内部対立が生じたり、経済問題があったり、外部からの侵略があったりと、トラブル続きだった。いつつぶれてもおかしくないような危機の連続だったが、ローマ帝国のすごいところは、何度かあった失敗から学んで絶えず変化をして乗り切ったこと。

 最初は王政だったローマ帝国。ところが、悪政を行う王がいたり、市民との利害関係が高まったりして、内部の不満がくすぶって民主制に移行してしまう。元老院による支配が行われるようになるが、今度は貴族と平民との間の格差問題が生じてきて、平民の不満が噴出。元老院は平民にも開放され、平民中心の組織としてのローマという体制に移行する。だが、ローマ帝国がさらに巨大化すると、元老院による政治というものが非効率になっていき、スピードが求められるようになった。民主制から帝政への移行である。

 ローマ帝国の歴史を眺めてみると、完璧な政治システムなんて言うものはないんだということが分かってくる。そのときどきの状況にあった政治システムを次々に採用していって、絶えず変化していった。失敗に学んだり、環境を変化させることを厭わない柔軟さ。現代人にもローマ帝国に学ぶべき点は、大いにありそうだ。
 
タグ:塩野七生
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