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停電の夜に [文学]


停電の夜に (新潮文庫)

停電の夜に (新潮文庫)




 インド系の作家ジュンパ・ラヒリの短編集。

 夫婦のすれ違いのような話が多かった。かつては愛し合った夫婦が、今では冷え切った関係にある。一緒に住んでいるのに、他人同士のような距離感を感じてしまう。そんな人間関係の断絶と孤独が描かれる。

 読んでいて決して楽しいテーマではない。前向きな気分になれるわけでもないし、むしろ苦しくなってくる。にもかかわらず、物語としては非常に面白い。一度読み始めると止まらなくなる。そういう不思議な本だ。

 たとえば表題作は、停電の夜にお互いの秘密を打ち明けあう若夫婦の話。夫婦として一緒に住んでいたのに、今まで知らずに来た数々のことを知ることになる。最後に思わぬことを知ってしまい……という話。

 「病気の通訳」という作品も同じような話だったが、人間関係なんて儚いものだということを突き付けられるような、ひんやりとした雰囲気がある。

 「セクシー」という作品は、若い女性が年配の男性と不倫をするというあらすじだけ書くととてもつまらなそうな話だが、なぜかこれがとても面白かった。ある少年が発した「セクシー」という言葉がキーワードになっていて、主人公に重要な気づきを与える。気づきは価値観の変化となり、主人公の生き方を変える、というよくできた成長物語になっている。

 最後に置かれた「三度目で最後の大陸」もまた夫婦の話だが、陰鬱な作品が多い中でこの作品だけは最後に爽やかな余韻を残す。インドからやってくる妻をアメリカで待つ夫。兄夫婦が決めた結婚相手で、最初は気乗りしない結婚だったが、徐々に何かが変わっていく。

 全体的に、何か劇的な出来事が起こるわけではない。日常で起こるような些細な出来事の積み重ねがあるにすぎない。にもかかわらず、主人公たちの心の中は色とりどりに変化をする。そういう日常の中にひそむ様々なドラマを描いていて、とても読みごたえのある本だった。
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