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さまよう刃 [ミステリ(日本)]


さまよう刃 (角川文庫)

さまよう刃 (角川文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/05/24
  • メディア: 文庫



 東野圭吾の「さまよう刃」は、復讐もののミステリー小説である。

 女子高校生が少年グループによって強姦され、あげくに死んでしまう。犯行時の状況を撮影したビデオをみた父親は、怒りに駆られ、犯人を見つけ出して殺害する決意を固める。

 犯罪の被害に遭ったら、まず警察に相談して犯人を捕まえてもらうというのが、ごく常識的な考えだろう。だが、この本の主人公はそうは考えなかった。警察任せにせず、自分で犯人を捕まえて、処刑してしまおうとする。

 こういう話は昔から人気がある。ニコラス・ブレイクの「野獣死すべし」も息子を殺された男が犯人への復讐を計画する話だった。

 かたき討ちの話が人気があるのは、誰にでも共感できる部分があるからだろう。やられたらやり返す。「目には目を」というやつである。

 警察や司法制度に対するもどかしさのようなものもある。犯人がたとえ警察に捕まったとしても、厳罰に処せられるとは限らない。刑務所に何年かいただけで外に出てくる。とくに少年の場合、少年法で大人よりも軽い処罰で済んでしまう。こんなことでは死んだ被害者が浮かばれない。それなら警察に任せずに自分で復讐したほうがましだという考え。

 復讐ものの小説を読んでいると、こういうもやもやした感情が解消されて、なんだかすっきりするように感じられるのではないか。

 現実にはこういうかたき討ちは認められていない。かたき討ちを認めてしまっては、復讐が復讐を呼んでという収拾のつかないことになりかねない。社会の秩序を保つために、犯罪への対応を国家にゆだね、国家が個人の代わりに処罰を行うということになっている。

 本書の主人公も復讐を誓ったはいいが、警察から追われる立場になり、逃げ回りながら犯人を探さざるを得なくなる。そういう意味で、本書は復讐劇というだけでなく、個人と社会との対立を描いた作品ともいえる。個人の感情としては復讐が正義だと感じられるのだが、社会がそれを許さないのだ。

 読んでいて、刑罰とはどうあるべきかとか、少年法の是非とか、いろいろと社会について考えさせる内容になっている。犯罪の被害者になるというのはこういう気分なのかというのを、感じさせられるようにリアルに書かれてもいて、社会性のある重厚な作品だった。

 テーマ性に優れているし、ストーリーも面白かったのだが、ミステリー部分に関しては少々物足りない。潜伏している人物が携帯電話を使っているのだから、基地局のエリアを調べればおおよその居場所が分かるのになあとか、銀行の出金場所は調べないのかとか、なんだかいろいろ疑問が残るのである。主人公が犯人の場所を知ったのも、関係者による密告だったりするし、ちょっと安直すぎる気がして残念だった。
タグ:東野圭吾
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サム・ホーソーンの事件簿 [ミステリ(外国)]


サム・ホーソーンの事件簿〈1〉 (創元推理文庫)

サム・ホーソーンの事件簿〈1〉 (創元推理文庫)

  • 作者: エドワード・D. ホック
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2000/05
  • メディア: 文庫



 本屋に行くと、文芸コーナーに大量の推理小説が並んでいる。古今東西の名作がずらり。本好きには見慣れた光景であろう。

 推理小説が山ほど並んでいる光景を見て、ふと疑問が浮かぶ。これだけ長い年月をかけて、たくさんの推理小説が書かれているのだから、トリックは使い尽くされているはずである。なぜいまだにネタ切れにならないのか? 

 トリックというものが有限のものだとしたら、だんだん書くことがなくなって先細りにならなければおかしい。にもかかわらず、書かれている数はいっこうに減る様子がない。むしろ盛り上がっているようにも見える。これこそがミステリーといえる。

 実はすでにトリックは使い尽くされたと考えてはどうだろう。実際にミステリーのトリックにはそんなにたくさん原理があるわけではない。例えば密室ものを見ても、不可能犯罪の大家ジョン・ディクスン・カーの密室講義に出てくるトリックでほとんどのパターンがカバーされている。アリバイものにしても、クリスティーがあらゆるパターンを出してしまった。

 つまるところ、ミステリー作家たちは、同じ原理を使って手を変え品を変えて書いているだけなのではないか。それが悪いということを言っているのではない。むしろそこにこそミステリーの面白さの秘密があるように思えるのだ。

 ミステリーで大事なのはトリックだと長らく思い込んでいたが、そうではなくて、ミステリーというのは「トリック ✕ シチュエーション」なのだと思う。トリックの原理自体は有限だけれども、そこにいろいろなシチュエーションをかけ合わせることで無限の可能性が広がる。大事なのは、原理ではなくて見せ方のほう。

 こんなことを考えたのも、ホックの「サム・ホーソーンの事件簿」を読んだからに他ならない。密室とか人間消失とか、不可能犯罪ばかりを集めた短編小説集なのだが、読んでみるとトリックに前例のある作品ばかりなのである。にもかかわらず全く古びた感じがなく、非常に新鮮で度肝を抜かれてしまう。

 その理由は、どれもこれもシチュエーションに工夫がされているから。パラシュートで飛行機から飛び降りた男が落下途中で首を絞められていたとか、何年も昔に埋められたタイムカプセルの中から死後間もない遺体が出てくるとか、サーカスのピエロが衆人環視の下で消失してしまうとか、とびきりの謎が用意されている。

 トリックだけ取り出せばよくあるネタなのだが、シチュエーションと組み合わさることで、新鮮さが生まれる。こんなシチュエーションよく考えるなあと驚くばかりだ。

 ミステリーもマジックと同じで演出が大事なんだと思う。使い古された手でも、見せ方によっては現代性のある作品になる。ホックはそのことを教えてくれる作家だ。
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新しい文章力の教室 [実用]


新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング (できるビジネス)

新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング (できるビジネス)

  • 作者: 唐木 元
  • 出版社/メーカー: インプレス
  • 発売日: 2015/08/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 文章の良し悪しはどのように決まるのだろう?

 文章を書く機会は多いのだが、いまだにどうやって書けばいいのかよく分からない。勘だけが頼りである。なんとなく、こんな風に書いたら読みやすいんじゃないかという手探り状態。

 問題なのは、自分の中に確固たる指針がないことだ。書くときのルールが決まっていないから、いちいち迷ってしまうのではないか。

 もっと自分の頭の中にルールを作っていきたいなと思って、読み始めたのがこの本「新しい文章力の教室」である。コミックナタリーの編集長が書いた文章の指南本。コミックナタリーでは、記者たちがこの本と同じ内容の研修を実際に受けてきたというから、かなり実践的といえるだろう。

 トピックごとに添削例が書かれていて、どういう風に書き直すと読みやすくなるのかが、一目瞭然で分かりやすい。

 「修飾語は長い順に」「体言止めは最小限に」「一般性のない言葉の使い方」「指示語は最小限に」「こと・ものは減らすべき」など、たくさんのルールが書かれている。こんなルールもあったのかと、知らないことも多かった。体言止めや、伝聞調(「~という」)、つなぎ文(「~が」「~で」)など、ついつい使いすぎてしまっていたので、自分の悪い癖にも気づかされた。

 早速いろいろなところで実践しはじめたところ、かなり使い勝手がいい。この本を読むと、文章の書き方が頭の中でルール化されるので、どうしたらいいのかという迷いがなくなる。こうすればいいんだよと、後ろから教えてくれるような感じ。

 こういう実用書は一生モノの道具になったりするから侮れない。もっとこういう本をたくさん読んで、自分を鍛えるべきなのかもしれない。
タグ:唐木元
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日本発「ロボットAI農業」の凄い未来 [科学]


日本発「ロボットAI農業」の凄い未来 2020年に激変する国土・GDP・生活 (講談社+α新書)

日本発「ロボットAI農業」の凄い未来 2020年に激変する国土・GDP・生活 (講談社+α新書)

  • 作者: 窪田 新之助
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/02/21
  • メディア: 新書



 「日本発「ロボットAI農業」の凄い未来」という本を読んだ。

 これからの農業は、人間の代わりにロボットが農作業を行うという内容だ。雑草は除草用ルンバが刈り取る。ドローンが上空を飛び交い、農薬散布する。ロボットが自動的に田畑を耕し、各種センサーで水質・土壌・温度管理を行い、品質を測定する。もちろん、収穫も全自動。

 既に実証実験も始まっているという。何千年もの間、人間がせっせと汗水流して働いてきた農作業が、とうとうロボットの手に渡る時代が来たのだ。これを凄いと言わずに何と言おう。

 全自動というのは、最近のトレンドである。なんでもかんでも自動化される未来がやってきそうだ。空想だけの話ではない。センサー技術、ディープラーニング、ロボット工学など、各種技術進歩のおかげで、夢の世界が実現可能になってきたのだ。

 最近驚いたのは、ロボットによる料理。膨大なメニューを覚え込んだロボットが、好きな料理を作ってくれる。何が凄いって、ロボットが腕だけであったこと。ロボットというとつい人間型を想像してしまうが、たしかに料理をするだけであれば、腕だけで足りる。この発想はなかった。

 腕型のロボットが発達したら、いろいろ応用が利きそうだ。美容室とかマッサージとかロボットがやってくれるようになるかもしれない。病気の手術なんかもロボットアームが行う日が来るのではないか。なんだか怖い気もするが。

 こういう話をすると、ロボットによって仕事が奪われるなんていう嘆きの声がよく聞こえてくる。自分はあまのじゃくなのか、むしろどんどんそんな時代が来ればいいと思う。黙っていればロボットがなんでも人間の代わりに仕事をしてくれる。人間はただ遊んでいればいい。まさにユートピアのような世界ではないか。

 ただ、そんな時代の経済活動がどんな風になるのかは、たしかに気になるところだ。人間が働かず、ロボットがせっせとモノやサービスを作り出す。問題はその配分方法。供給過剰なモノであれば、各人の好きな時に配分すればいい。でも、供給の不足する貴重品は誰が獲得するのだろう? 誰も働かない世界において?

 いささか混乱させられる問題だが、案ずることはない。きっとそんな人間の悩みすらAIが答えてくれるようになるだろう。あらゆる仕事がロボットに置き換えられる時代にあっては、頭脳労働もロボットが代わりにやってくれるようになるのだから。
タグ:窪田新之助
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停電の夜に [文学]


停電の夜に (新潮文庫)

停電の夜に (新潮文庫)

  • 作者: ジュンパ ラヒリ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/02/28
  • メディア: 文庫



 インド系の作家ジュンパ・ラヒリの短編集。

 夫婦のすれ違いのような話が多かった。かつては愛し合った夫婦が、今では冷え切った関係にある。一緒に住んでいるのに、他人同士のような距離感を感じてしまう。そんな人間関係の断絶と孤独が描かれる。

 読んでいて決して楽しいテーマではない。前向きな気分になれるわけでもないし、むしろ苦しくなってくる。にもかかわらず、物語としては非常に面白い。一度読み始めると止まらなくなる。そういう不思議な本だ。

 たとえば表題作は、停電の夜にお互いの秘密を打ち明けあう若夫婦の話。夫婦として一緒に住んでいたのに、今まで知らずに来た数々のことを知ることになる。最後に思わぬことを知ってしまい……という話。

 「病気の通訳」という作品も同じような話だったが、人間関係なんて儚いものだということを突き付けられるような、ひんやりとした雰囲気がある。

 「セクシー」という作品は、若い女性が年配の男性と不倫をするというあらすじだけ書くととてもつまらなそうな話だが、なぜかこれがとても面白かった。ある少年が発した「セクシー」という言葉がキーワードになっていて、主人公に重要な気づきを与える。気づきは価値観の変化となり、主人公の生き方を変える、というよくできた成長物語になっている。

 最後に置かれた「三度目で最後の大陸」もまた夫婦の話だが、陰鬱な作品が多い中でこの作品だけは最後に爽やかな余韻を残す。インドからやってくる妻をアメリカで待つ夫。兄夫婦が決めた結婚相手で、最初は気乗りしない結婚だったが、徐々に何かが変わっていく。

 全体的に、何か劇的な出来事が起こるわけではない。日常で起こるような些細な出来事の積み重ねがあるにすぎない。にもかかわらず、主人公たちの心の中は色とりどりに変化をする。そういう日常の中にひそむ様々なドラマを描いていて、とても読みごたえのある本だった。
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素敵な日本人 [ミステリ(日本)]


素敵な日本人 東野圭吾短編集

素敵な日本人 東野圭吾短編集

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/03/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 東野圭吾のノンシリーズの短編集(9作品)。

 ミステリーからSF、人情ものとバラエティに富んでいる。出来不出来はあるものの、総じて面白かった。SFものよりもミステリー寄りの作品がよかったかな。

 どの作品も最後にひと捻りがあるところがいい。人情ものだと思って読んでいると、最後に推理ものだったことが分かるとか、予想を覆すのがうまい。

 ジャンルのミスリードというか、このジャンルの話だろうと思わせて実は……という展開。こういう騙しの手法があるのかと驚いた。

 よく考えたら、クリスティーも同じ手法をやっていた。ラブストーリーだと思っていたら実はミステリーだったというような。「ナイルに死す」とか「終わりなき世に生まれつく」とか、何の話かと思っていたらミステリーだったし。

 ひとつのストーリーが進んでいる背後で、実は全く別のストーリーも隠れて進行しているという、二重構造になっているところが面白いのだ。

 本書には倒叙スタイルも何作か含まれている。こういう作品は、推理の場面も何度か出てきて、さすがによくできている。こういう風に犯人を追い詰めていくのかという手本のような作品がいくつもあった。

 気に入った作品は「正月の決意」「十年目のバレンタインデー」「君の瞳に乾杯」「壊れた時計」。ネタばれになりそうだから中身に触れられないけれど、いろいろと意表を突かれたのである。

 長編だけでなく、短編でもここまで盛り上げてしまうのかと、東野圭吾はすごい作家だなとあらためて思った。
タグ:東野圭吾
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人類が火星に移住する日 [地学]


人類が火星に移住する日 --夢が現実に!有人宇宙飛行とテラフォーミング-- (知りたい!サイエンス イラストレーテッド)

人類が火星に移住する日 --夢が現実に!有人宇宙飛行とテラフォーミング-- (知りたい!サイエンス イラストレーテッド)

  • 作者: 矢沢サイエンスオフィス
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2015/05/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 火星は荒れ果てた、アメリカのデスバレーそっくりの場所だという。生命反応は皆無だし、食料になるようなものは何もない。人間が吸うだけの酸素すらない。かろうじて、水は存在するが、地中に埋もれているか極地で凍りついているのみ。

 とうてい人間を寄せ付けない場所、それが火星。にもかかわらず、その火星に住んでしまおうという途方もない計画がある。火星テラフォーミング計画だ。

 テラフォーミングというのは、火星を地球化するという意味。地球環境そっくりの状態を火星に作り出してしまおうというもの。水を取り出せる状態にし、大気の状態も地球の組成と同じにする。植物を育てて、森を作り、虫や獣が住めるようにする。

 「そんなことできるの?」という当然の疑問が沸いてくるだろうけれど、理論的には可能なのだ。それが本書「人類が火星に移住する日」に書かれているテーマである。

 火星に移住するにはたくさんのハードルがある。上記の水・酸素・食料の問題のほかにも、そもそも火星まで行くのに時間がかかりすぎるし、有害な放射線が宇宙から降り注いでもいる。

 だけど、こうした問題点を科学的に解決する方法はある。太陽熱を利用して火星に眠る水や空気を活用する方法があるし、火星までの旅程を短縮するための新たなロケットエンジンの案もある。有害な放射線を遮断するアイデアも出てきている。

 最初から火星全部をテラフォーミングすることは難しいので、最初はドーム型の居住地を作って、ドーム内だけを地球環境そっくりにするというやり方もある。

 本書の中には、そんなテラフォーミングのためのアイデアが豊富に描かれている。今まで類書を何冊か読んだけれど、こんなに詳しく解説されているものはないだろう。イラストなども多く載せられているので、イメージもしやすい。

 今はまだ人の住む場所とは思えないような星だが、そのうちに人類は火星に住み着くようになるだろう。世代交代が繰り返され、火星で生まれる子供というのも出てくるにちがいない。その子供たちはやがて、地球からの独立を果たし、火星国家を作るのだ。

 火星の植民地化、火星国家の誕生、地球と火星との交流、火星独立戦争……。SFの世界のように思えることが、ひょっとしたらすぐ目の前に迫っているのかもしれない。本書を読んでいたら、本当にそう思えてきた。
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点子ちゃんとアントン [児童書]


点子ちゃんとアントン (岩波少年文庫)

点子ちゃんとアントン (岩波少年文庫)

  • 作者: エーリヒ ケストナー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/09/18
  • メディア: 単行本



 子供が活躍する話というのは痛快である。何もできないと思われていた子供が、大人たちをぎゃふんと言わせる。子供の純真な目から見ると、大人たちの行動がおかしなものに見えてくる。

 「点子ちゃんとアントン」はまさにそんな話だった。大金持ちの娘である点子ちゃんと貧しいけれど勇敢な少年アントンの活躍を描いた作品。

 登場人物たちのキャラクターが魅力的なところがよい。とくに主人公の点子ちゃんというのがユニークな存在である。

 冒頭シーンで、部屋の壁に向かってマッチを売るという衝撃的な登場の仕方をする。空想好きの少女で、何にでも扮して芝居してしまう。運転手のふりをしたり、床屋のふりをしたりして、いちいち行動が面白い。

 かたや、アントンは母親が病気なので、家事をひとりで切り回し、夜になったら街道にたって靴紐を売って稼ぐ。貧しいけれど、善良で真面目な少年だ。

 このふたりがある事件に巻き込まれて解決するという物語。実は冒頭のマッチ売りの芝居が伏線になっていたり、登場人物たちの行動が思わぬところでつながったりと、コメディとしてとてもよくできたお話になっている。最後の最後には、あらゆる物事が収まるべきところに収まるというところもよい。

 子供たちの活躍によって、大人たちは気づかされる。自分たちのとってきた行動が、身勝手で愚かであったことを。本当に大事なことを忘れていたことを。

 いろいろな騒動があって面白おかしいのと同時に、じーんと感動させられたりもする。多様な面白さの詰まった良作だった。
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会計士は見た! [会計]


会計士は見た!

会計士は見た!

  • 作者: 前川 修満
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/11/20
  • メディア: 単行本



 世間をにぎわす事件が起こると、ニュースや新聞は事実を伝えるだけではなくて、独自に見解を述べたりする。コメンテーターや解説者という人たちが出てきて、あれこれ論じる。

 一見もっともらしいことを言うし、感心させられることもあるのだが、なんだか結構適当だなと感じられることも多い。そこらの世間話とたいして変わらないじゃないかと。

 なんといっても根拠があいまいなのが原因。よく聞いていると、たいした根拠もなく語っていることがある。外部の人間で実情も分からないはずだし、当局でもなければ証拠を入手できないのだから仕方がないのだろう。少ないデータで憶測でしか語ることができないのだ。

 じゃあ当事者本人が記者会見を開いたりした場合には、そのまま鵜呑みにできるかというと、そう簡単でもない。人は自分の都合の良いことしか言わないものだから。

 こんなふうに、ニュースというものはえてして外部からはつかみにくいものだけれど、例外もある。会社に関する事件だ。

 てるみくらぶや東芝など、業績悪化や倒産が話題になることは多い。こうした会社に関する問題は、個人間のいざこざに比べても外部の人間にも実情を把握しやすいのではないか。それは、会計情報が公開されているからだ。

 どんなに隠そうとしても粉飾しようとしても、会計帳簿の中には痕跡が残ってしまう。倒産に至ることになった経緯が、数字として如実に現れてくる。

 こうしたことは、「会計士は見た!」という本を読むとよく分かる。世間をにぎわせた日本企業の不祥事を決算書から読み解いた本だ。大塚家具の社長交代劇、スカイマーク倒産、ソニーの業績低迷、東芝の粉飾問題などを取り上げている。

 これを読むと、ニュースからは見えてこないような、会社の生々しい実情が見えてくるのである。例えば、大塚家具の父娘がそれぞれどんな経営体質だったのか、どうして喧嘩になったのか、当事者はどんな人物像だったのかをデータから読み解いてしまう。こんなことまで分かってしまうのかという驚きの連続だった。

 こういうはっきりとした根拠のある話ならもっと聞いてみたいものだ。やはりデータに語らせるということは大事である。言っていることに説得力があって、聞きがいがあるし、こんな風に読み解くのかといろいろ勉強になった。
タグ:前川修満
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どこまでやったらクビになるか [法律]


どこまでやったらクビになるか―サラリーマンのための労働法入門 (新潮新書)

どこまでやったらクビになるか―サラリーマンのための労働法入門 (新潮新書)

  • 作者: 大内 伸哉
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/08
  • メディア: 新書



 電通の社員が過労自殺するという報道が前にあった。長時間労働やパワハラが常態化していたんだという。

 ニュースを聞いていて本当に残念だなあと思った問題だったし、久しぶりに怒りを感じたほどだ。電通みたいな大手企業でもこのようなことが起こったのだから、他にも起きてもおかしくないというところも恐ろしい。
 
 会社と労働者の関係は、労働者が労働して会社が賃金を支払うという労働契約上の関係だ。給料をもらっている以上は、労働者も一生懸命サービスしなければならない。せっせと働く必要があるのはたしかだろう。

 とはいえ、労働者は会社の奴隷ではない。何でもかんでも我慢しなければならないわけではない。

 労働者が我慢しなければならないラインというものがあるだろう。具体的には、こうしたラインは労働法や裁判例の積み重ねによって判断されてきた。どのくらいの残業が許されるのかとか、解雇するための基準とか、どういう言動がパワハラに当たるのかとか、労災の要件とかだ。

 「どこまでやったらクビになるか」という本を読むとそのあたりの基準がよくわかる。労働法の議論をまとめた本で、実際に会社と労働者が裁判で争って積みあがった事例がたくさん載っている。軽い読み物という感じであっさり読める割には、結構内容は充実している。
 
 たとえば、労働者が副業をした場合、どういう副業だったら会社は解雇することができるのだろうということが書かれてある。裁判所がこういう要素に着目しているのかという肝の部分が丁寧に解説されている。

 電通のやっていたことなどは違法なわけで、どこにラインがあるのか知っておくことは、労働者にとっても会社にとっても大事なことだろうと思う。何も知らなければ、違法なことが当たり前みたいになってしまうのだから。
タグ:大内伸哉
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池上彰のやさしい経済学 [経済]


池上彰のやさしい経済学 (1) しくみがわかる (日経ビジネス人文庫)

池上彰のやさしい経済学 (1) しくみがわかる (日経ビジネス人文庫)

  • 作者: 池上 彰
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2013/11/02
  • メディア: 文庫



 経済の基本がよく分かっていないなと思って、池上彰の解説書を読んでみた。経済の基本のキから教えてくれる初心者向けの本だ。

 この本によると、経済学というものは、有限な資源をどのようにして最適配分するかという学問のことらしい。お金のことだけでなく、モノや時間など有限なものをどのように有効活用していくのかということを考えるのが経済なのだ。

 有効活用のやり方は、需要と供給による調整ということになる。需要と供給のぶつかりあったところで有効資源の価値が決まる。

 昔はこれが放っておいたらうまくいくと思われていた。「神の見えざる手」というやつである。市場で自由競争に任せておけば、需要と供給のバランスが勝手に調整されて、経済はうまく回っていくものだと思われていた。

 だけど、この考えは正しくなかった。自由競争にはいろいろな弊害があることも分かってきた。例えば、競争が進むと強い会社だけが勝ち残って、弱小会社は潰れてしまう。1社だけの独占状態になってしまうということがある。そうなると、業界は生き残った1社の思いのまま。消費者は価格やサービスの面で、不利益を被ることになる。

 あるいは、何でもかんでも会社の自由にしてしまうと、会社はお金さえ儲かれば何をやってもいいということになる。汚染物質を川にたれ流そうが、大気にまき散らそうが、何のお咎めも受けない。会社の外の環境を汚染することも自由ということになってしまう。

 このように何でも自由に競争させると、市場の失敗と呼ばれる様々な問題点が出てきてしまうのだ。

 では逆に、自由な競争を止めて、国家が最適配分を考えたらどうだろう? 何でもかんでも国家が決めてしまう計画経済だ。

 これも社会主義の国々が試してみたけれど、競争がなくなって新しい製品が生まれにくくなって、経済は滞ってしまった。ソ連の崩壊など、社会主義がうまくいかないのは歴史を見ても明らかだろう。

 結局、何でもかんでも自由競争にするのも問題あるし、何でも国が介入するのも問題がある。ということで、適度に競争に任せて、適度に規制するという、中間の道を模索するというのが正しいやり方なんだろう。

 とはいえ、適度なやり方が簡単に分かれば苦労はない。世界中の経済学者が頭をひねっても次々に問題が起こるのだから、よほどの難問なのだろう。

 グローバル化の話も同じだろう。経済のニュースなどを見ていると、つい最近まではグローバル化の問題ということが盛んに言われてきた。あまりにも自由競争に任せすぎると、グローバル企業は低賃金・低コストの中国に工場を作るので、国内工場が閉鎖して失業者が増えてしまう。外国人労働者も流入するので、技術のない者はやはり失業し、格差社会になると。

 でも、最近になって各国で保護主義的な政策転換がなされるようになったら、今度は逆に保護主義は問題だとか言う人が出てきた。

 結局、何をやっても問題点があるようなのである。自由にするのか規制するのかということで、毎度毎度の綱の引っ張り合い。人々は昔からこんなことばかり続けてきたのではあるまいか。経済の話を聞いていると、最終的に結論が出ないのでなんだかモヤモヤする。実際にやってみないと分からない世界なんだろう。
タグ:池上彰
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