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遠い日の呼び声 [児童書]


遠い日の呼び声: ウェストール短編集 (WESTALL COLLECTION)

遠い日の呼び声: ウェストール短編集 (WESTALL COLLECTION)




 イギリスの作家ロバート・ウェストールの短編集。

 どの作品も小説表現が豊か。情景が目に浮かぶような描き方がされていて、イメージ力が見事。登場人物の心の動きも細やかに書かれ、読んでいていろいろな人物と一体化してしまうような感覚になった。

 たとえば、「アドルフ」という作品は、少年が老人画家と出会う話。どうもその老人がアドルフ・ヒトラーそっくりに見えてきて、ひょっとしたら……ということで不穏な展開になる。でも、本当に恐ろしいのはその老人ではなく、狂気にかられる群衆だったというところがアイロニカル。誰が正義で誰が悪とか、そんなに簡単に区別できるものではないんだということを教えてくれる良作。

 戦争と言えば、「空襲の夜に」という作品はまさに第二次世界大戦の時代の話。イギリス人の少年が海岸沿いの家で留守番をしていると、落下傘で降りてきたドイツ兵が登場する。ふたりの息詰まる対峙。戦時中では、敵味方が殺しあうのが当然のルールになってしまうけれど、別の選択肢を選んだ人たちもいたはずだ。そういう人たちは苦しんだのだろうか? 同胞への義務と個人的な価値観との間の葛藤で。

 「ヘンリー・マールバラ」は、過去に取りつかれた女性の話。現実世界にすっかり嫌気がさした主人公は、過去に慰めを見出す。古い家具を集め、墓を訪ね、旧家を購入する。歴史を追い求める主人公の気持ちは分からないではない。歴史は人を没入させる力があると思う。

 一番気に入ったのは、「じいちゃんの猫、スパルタン」。祖父の財産を相続することになった主人公は、祖父の財産をそりの合わない父母から守ろうと悪戦苦闘する。やがて、過去の秘密が明らかになって……という話。他の作品などを見ても、親子の葛藤を描いた作品が多い。児童書とは思えないほど深みがあった。
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