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航路 [SF(外国)]


航路(上) (ハヤカワ文庫SF)

航路(上) (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: コニー・ウィリス
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/08/27
  • メディア: 文庫



 人は死んだらどうなるのだろう?

 白い光をくぐり抜けて、天国に行くのだろうか? 全く新しい別の人生が始まるのだろうか? 幽霊になって地上をさまようのだろうか? それとも、ただ電気が消えるみたいに、無が待っているだけなのだろうか?

 コニー・ウィリスのSF小説「航路」は、そんな死の謎に迫ったSFミステリーだ。

 主人公ジョアンナは、認知心理学者。臨死体験者たちにインタビューをして、死の一歩手前で人が何を目にするのかを研究するのが仕事。

 臨死体験者の中には、「トンネル」や「光」を見たりすることがある。奇妙な音を聞くこともある。こうした臨死体験者らの目撃は何を意味するのだろう? 脳の作り出す幻影なのだろうか? それとも、実際にトンネルの先にはなにかが待っているのだろうか?

 こうした謎にとりつかれたジョアンナは、いつしか臨死体験を人為的に作り出す研究に志願。自ら臨死体験をして、死の世界を覗き見ようとする。そして、ジョアンナは、あまりにも意外な場所にたどり着くことになる――。
 
 冒頭の3分の1くらいは少し冗長に感じたのだが、ジョアンナが臨死体験を始めてからの展開がとても面白くて、最後まで読んでしまった。まさかこんな展開になるとはという驚きの連続。

 謎解きものとしてよくできているので、ミステリー好きにはたまらない本といえるだろう。実は冒頭の個所にいろいろな伏線が張ってあって、あとでその伏線が生きてくる。登場人物のちょっとした一言が重要な意味を持つ。いろいろな謎がパズルみたいにはまっていくのは爽快感があった。

 主人公のジョアンナと一緒になって、目の前に奇妙な世界が広がっているのを体感する面白さ。次に何が起こるのか、想像もつかないような冒険。そういえば、SFの面白さってこういうところにあったんだなあと、自分の好きな世界を思い出させてくれた感じ。

 センス・オブ・ワンダーに満ちた傑作。死という重いテーマを扱っていながら、最後には不思議な感動のある作品だった。
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アウトサイダー [伝記(外国)]


アウトサイダー 陰謀の中の人生

アウトサイダー 陰謀の中の人生

  • 作者: フレデリック・フォーサイス
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/12/28
  • メディア: 単行本



 「ジャッカルの日」「オデッサ・ファイル」などのサスペンス小説で有名なフレデリック・フォーサイスの自伝。

 彼の書く小説は面白いので夢中になって読んだものだが、実は彼の人生そのものがより波乱に満ちたものであることが、本書を読んでよく分かった。

 17歳の時にイギリス空軍に入隊し、その後、ジャーナリストとなったフォーサイス。ロイター通信の記者としてド・ゴール大統領暗殺未遂事件を取材したり、東西冷戦下の東ベルリンに赴いたり、BBCの記者としてナイジェリアの内戦を取材したりしている。

 とくに東ベルリンでの活動はスパイ小説を地でいくような話ばかりだ。

 秘密警察の監視の目をかいくぐっての、アメリカ空軍の墜落機の捜索。イギリスの情報部からの依頼で、機密の受け渡しをするエピソード。あやうく第三次世界大戦の引き金を引きそうになったなどという刺激的なエピソードまで出てくる。

 彼の小説が面白いのは、こういう生の経験に裏打ちされていたからだったのかと合点がいった。半ば自身の経験談だからあんなに臨場感があったのだ。

 本書は自伝ではあるものの、一個一個のエピソードで区切ってあるので、すっきりとして読みやすい。エッセイ集のような読み方をすることもできる。しかも、その一個一個のエピソードにきちんと起承転結があって、実に書きぶりが面白いのである。中にはジョークみたいな愉快な話もある。

 こんな風に書けたらいいのになあという文章のお手本のような本で、これから何度も読み返したくなりそう。一生ものの貴重な本が手に入ったんじゃないかと思っている。
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ルポ難民追跡 [国際]


ルポ 難民追跡――バルカンルートを行く (岩波新書)

ルポ 難民追跡――バルカンルートを行く (岩波新書)

  • 作者: 坂口 裕彦
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2016/10/21
  • メディア: 新書



 アフガン人のアリ一家は、治安の安定しない母国アフガニスタンを逃れてイランに移住した。

 だが、イランでのアフガン人の待遇は理想的なものとはいえなかった。教育や医療サービスを受けることはできるが、就くことのできる職業は重労働などに限られていた。車や土地を所有することもできないし、居住区から無許可で出ることもできない。

 アフガンに帰ることを何度も考えたというアリ一家であったが、政府軍とタリバン、ISが三つどもえで戦っていて危険である。

 アフガンに帰ることもままならず、イランでの生活も苦しいアリ一家は、一路ドイツを目指すことを決意する。ドイツであれば、難民たちを暖かく迎え入れてくれるだろうという希望を抱いて。

 難民たちがドイツを目指すルートはバルカンルートと呼ばれている。トルコからギリシャに渡り、バルカン半島を北上するルートだ。ギリシャからはマケドニア、セルビア、クロアチア、オーストリアを経由してドイツに向かうことになる。

 本書はアリ一家が実際にバルカンルートを歩んで、ドイツに至るまでの道のりを同行取材した本である。難民の話はニュースなどでもよく話題になっているけれど、具体的にどうやって難民たちが生活をしているのかという詳細までは知らなかった。本書を読むと、難民たちの生身の旅程が伝わってきて、こんな風にして移動するのかというのが理解できる。

 母国に帰ることのできない難民を受け入れるのが人道上のあるべき姿だし、人口が増えることで経済が活性化する面もあるはずだ。多文化が入ってくることにも寛容であるべきだというのが、理想的な立場だろう。EUもそのような理想像を具現化したものだったはずである。

 だが、実際には欧州各地での難民に対する風当たりはかなり強いようだ。よそ者には入ってきてほしくないというのが本音なのだろう。ハンガリーなどは現実に難民流入を防ぐために、国境沿いに「越境防止フェンス」を建ててしまった。オーストリアでも「越境防止フェンス」の建設計画の話が出ているという。また、ドイツでさえも、難民審査の厳格化の動きがある。

 トランプ大統領もメキシコとの間に壁を作るという発言があったし、イギリスはEUを離脱するし、なんだか世界中が鎖国状態になってきたなあという感じ。

 じゃあ、日本はどうかというと、難民の受け入れ数は世界的に見てももともと極端に低い国なので、他国を非難できる立場にもないのであるが……。

 第二次大戦後、とくにヨーロッパは理想主義を掲げてきたのに、ズブズブと理想世界が崩壊しつつある。本書を読むと、そんな世界が激動しつつある兆候を見て取ることができて、非常に興味深かった。
タグ:坂口裕彦
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最古の文字なのか? [世界史]


最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く (文春e-book)

最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く (文春e-book)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/11/10
  • メディア: Kindle版



 先史時代の人類が残した美術として、フランスの洞窟で発見されたラスコーの壁画が有名である。牛や馬といった動物たちが、大昔に書かれたとは思えない躍動感で描かれている。

 動物のほうは有名だが、実はこれらの動物と一緒に幾何学記号が描かれていることはほとんど知られていない。ラスコーに限らず、氷河期の壁画の数々には、動物たちの絵のほかに不思議な記号がたくさん描かれているというのだ。

 〇 × ω □ Y ― [手(パー)] ▽ * # ) ∴ ♡ 

 洞窟絵画の研究者でさえも注目しなかったこの不思議な記号に注目したのが、本書の著者ジェネビーブ・ペッツィンガー博士である。

 博士は氷河期時代の洞窟をくまなく調査し、壁に描かれている記号を記録した。そして、世界で初めて、洞窟記号のデータベース化を行った。

 博士によると、類似の記号をまとめると、記号は僅か32個に集約されるという。氷河期の3万年を通して、人類が使用した記号は僅か32個。しかも、遠く隔てられた洞窟に同じ記号が使われているという。これらは一体何を意味するのだろう?

 壁画に残された32個の記号は、推理小説の手がかりみたいなもの。記号をたどっていくことで、人類の進化の過程が見えてきたり、交易がどのように発達していったのかが見えてくる。壮大な歴史の謎を解き明かしていく、ミステリーを読んでいるようなスリルがある本だ。

 歴史の研究というのも、まだまだ研究しつくされているわけではない。技術の進歩や研究者の努力によって、日々新たな発見があって、新たな世界観を見せてくれる。そんな歴史研究の最前線を垣間見せてくれる興味深い本だった。
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「人工光合成」とは何か [化学]





 化石燃料に代わる新燃料としてもっとも注目を集めているのは水素。

 水素を他の物質の合成することで、プラスチック製品を作ったり、ガソリンなどの化学製品を作ることができる。窒素と組み合わせて化学肥料の生産が可能となる。燃料電池にもなる。

 何より、水素を燃焼させても発生するのは水だけ。二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーだ。

 ところが、この水素というやつ、簡単に入手できるものではない。石油みたいにどこかにまとまって埋蔵されているわけではないのだ。水の電気分解などをすれば取り出すことはできるが、エネルギー源の水素を得るのに別のエネルギーを使うという本末転倒なことになってしまう。

 だから、水素を取り出すことができるのであれば、人類を救う夢の技術となるわけだが、その可能性が見え始めてきたらしい。「人工光合成」という技術によって。

 光合成は、植物が水と二酸化炭素を材料に、光のエネルギーによって酸素と炭水化物を作り出すものであるが、この仕組みを人工的に再現したものが「人工光合成」だという。

 材料は異なるが、人工光合成では水を原料にして、光のエネルギーを利用して水素と酸素を作り出すというしかけ。全くの夢物語ではなくて、実用化に向けて研究が進んでいるらしい。

 この話は本書を読むまで知らなかったので、単純に驚いた。人間のテクノロジーの進歩には本当に恐れ入るしかない。こういう本を読むと、現代社会で問題になっているようなことも、いずれテクノロジーが何でも解決してくれるんじゃないかとさえ思えてしまう。

 この本を読んで、人工光合成の話もよかったけれど、そもそも植物の光合成がこんな仕組みになっているのかというのも書かれていて、その部分が一番面白かった。光を使って酸素を作り出すってどういうことなんだろうと思っていたが、詳しく見ていくと相当複雑な仕組みになっている。こんな仕組みになっているのかと植物のすごさにまで感嘆させられる本だ。
タグ:井上晴夫
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白い僧院の殺人 [ミステリ(外国)]


白い僧院の殺人 (創元推理文庫 119-3)

白い僧院の殺人 (創元推理文庫 119-3)

  • 作者: カーター・ディクスン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1977/10/20
  • メディア: 文庫



 離れ家に女性の死体が横たわっている。

 頭を鈍器で殴られていて、他殺であるのは明らか。ところが、離れ家は降り積もった雪に囲まれていた。雪の上には発見者の足跡しか残されていない……。

 典型的な「雪の密室」というやつである。犯人は雪の上に足跡を残さずにどうやって現場に近づき、逃げることができたのか? 不可能犯罪の巨匠が「雪の密室」に取り組んだ注目すべき作品だ。

 「雪の密室」ものはたくさんのミステリー作家が書いている。やはり謎解きに挑戦したくなるのだろう。

 ただ、いくつかの作品を読んだが、正直なところあまり面白いと思ったことがない。不可能性には興味をそそられるけれども、なんだかアクロバティックで、結末でがっかりすることが多いのである。

 だから、この作品もあまり期待していなかったのだが、意外に面白かった。というか、かなりの傑作である。

 話を読み進めていくと、「雪の密室」の不可能状況を説明するための仮説が3つ出てくる。最初の1つは、まずまずの解決法。2つ目の解決法は、もうこれで解決でよいのではないかと思えるようなスマートな内容。3つ目になって、思いがけない逆転の発想が出てきて驚かされる。

 仮説そのものも無理のない説明でよかったのであるが、なによりも、与えられた状況から「こんな推理もあんな推理もできます」というような、ロジックの楽しさがあるところがよかったのである。単にトリックが面白いというのとはちがって、手がかりと推理と解決方法が緊密に結びついている感じ。現場に散らばったマッチ、割れたグラス、残された灰といった些細な手がかりから様々な論理を構築していくところが面白かった。

 この作品はジョン・ディクスン・カーの作品の中でも最高傑作といえるのではないだろうか? 手がかりと推理、トリックの斬新さ、人物の心理面の描写などが絶妙に組み合わされていると感じた。

 あらゆる本格ミステリーの中でも10指に入る作品といえるだろう。未読だったので、思いもよらず圧倒された。かなり完成度の高い作品だと思う。
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密入国ブローカー [犯罪]


密入国ブローカー悪党人生

密入国ブローカー悪党人生

  • 作者: 相川 俊英
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 1997/06
  • メディア: 単行本



 外国人は日本政府によって許可された在留資格と在留期間の下でのみ、日本に滞在することができる。

 だから、普通はビザをとって日本に滞在し、在留期間が来たら帰国することになる。
 
 ところが、中には在留資格もなく日本に住みたい、期間が過ぎても日本に滞在し続けたいという外国人もいる。生まれた国が貧しかったり、政治的な問題があったりして、日本で働きたいという外国人が大勢いるのだ。

 在留許可が出なかったり、短期の滞在しか認められなかったり、正規のルートでは日本に住めない以上は、裏のルートを使うしかない。そこで登場するのが外国人の密入国を手助けする、密入国ブローカーだ。

 本書は実際にこの密入国ブローカーと接触をして取材した本である。密入国の実態について解説している。かねてから外国人が具体的にどうやって密入国しているのか気になっていたので、読んでいてとても参考になった。

 日本は島国だから、密入国と聞いて真っ先に思いつくのは、船で密航するルートだろう。漁船などに見せかけて、沿岸警備の目をかいくぐる方法だ。実際にも、中国などから密航船が出ていて、ときどき摘発されたりするらしい。

 パスポートを悪用する手もある。偽造パスポートを用意したり、他人に成りすましたり。古くからおこなわれている手だ。

 このくらいは本書を読まなくても想像がつくが、入国管理法の穴をついた巧妙な手段もあるらしい。飛行機で堂々と日本に降り立ち、入国審査の前をすり抜ける方法が……。

 あの手この手で日本に潜入する記録が書かれていて、よくもまあいろいろと考えるものである。結構簡単に密入国できてしまうものなのねといささか驚いた。

 密入国の話だけでなく、日本に滞在している外国人たちがどのような暮らしをしているのか、その実態についても詳しく取材がされている。身近なところに知らない世界が広がっていたんだなあと読んでいて興味深かった。
タグ:相川俊英
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オシリスの眼 [ミステリ(外国)]


オシリスの眼 (ちくま文庫)

オシリスの眼 (ちくま文庫)

  • 作者: R.オースティン フリーマン
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/11/09
  • メディア: 文庫



 推理小説の面白さにもいろいろあるけれど、やはり推理小説というからには推理が見所なのは言うまでもない。

 ところが、推理小説と呼ばれているものでも、必ずしも華麗な推理を見せてくれる作品ばかりではない。結構適当に犯人が明かされたりする作品もちらほらあったりするのだ。そんな作品を読むと、単なる当て推量じゃないのかと言いたくなってくる。

 よい推理にはどのような要素が必要だろう?

 ①推理の材料の信頼性
  推理をするにも、確固たる手がかりに基づいていることが必要である。
  人間は嘘をつくけれども、物は嘘をつかない。物証に基づくことが大事だろう。
  人物の証言でも、複数名の証言が一致している場合は、より強固な手がかりとなる。

 ②観察力
  ごく些細な手がかりが重要な事実を示していることがある。
  細かい手がかりを見逃さない観察力が重要となる。

 ③仮説構築力
  ひとつの結論に飛びつくのではなく、手がかりから考え得るあらゆる仮説を立てる。
  探偵の想像力が試される場面。

 ④絞り込み
  得られた仮説の中で、あらゆる手がかりを矛盾なく説明できるものはどれか?
  どの仮説が最も可能性が高そうなのか?
  仮説に優先順位をつけていく作業。
  
 オースチン・フリーマンの「オシリスの眼」という本は、まさにこの4つの点を踏まえて書かれていて、ロジックの面では群を抜いている。

 エジプト学者が失踪した事件を法医学者のソーンダイク博士が解明するという話なのだが、推理の過程が実に緻密。博士はなぜ被害者が失踪したのかあらゆる仮説を立てているし、得られた手がかりと証拠が一人の人物にのみ向けられていることを示していて、仮説の絞り込み方も説得的。発見された骨から推論するくだりなど、物事を推理していくというのはこういうことなんだと教えられた感じ。

 久しぶりに読んだロジカルな作品で、推理小説のお手本のような内容だった。もちろん、ロジックだけでなく、仰天トリックも用意されていて読み所満載。まだこんな作品があったのかと驚いた。
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あなたの体は9割が細菌 [医学]


あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた

あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた

  • 作者: アランナ コリン
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2016/08/10
  • メディア: 単行本



 肥満、糖尿病、鬱病、自閉症、アレルギーといった現代病は、遺伝とか生活習慣が関係しているのかなあとなんとなく思っていた。

 しかし、本書「あなたの体は9割が細菌」を読むと、実は他の原因もあるんじゃないかということが見えてくる。その原因というのは、体内の細菌の生態系が変化したこと――。

 人間というのは、孤立して生きているわけではない。普段は気づかないかもしれないが、人間の体のうち、人間の細胞は10%にすぎない。人間の細胞1個につき9個の微生物の細胞が乗っかっている。たとえば、人間の腸内には100兆個もの微生物が住んでいる。

 細菌といっても病気を引き起こすのではなくて、むしろ、人間の免疫を強めてくれたり、食物からエネルギーを取り出すときに補佐してくれる。人間の心強い味方なのだ。

 人間と共生関係にある細菌だが、近年その種類の組成に変化が見られるという。人々の生活習慣が劇的に変わり、抗生物質や抗菌剤を使うようになったり、食生活も変わってきた。こうした人々の変化は、体内にいる細菌の生態系に変化をもたらすことになる。

 そして、こうした生態系の変化によって、人間の免疫システムに変化が生じたり、肥満を生み出しやすい細菌の割合が増えたりするようになった。その結果、アレルギーや肥満、自閉症といった現代病が増加するようになったのではないか?

 本書を読むと、このようなこれまで考えなかったような観点の話がたくさん出てきて驚いた。そんなにたくさんの細菌が体の中に住んでいるとは思わなかったし、肥満などの原因として細菌が考えられるという説は初めて聞いたので、この考えを知ることができただけでも読んだ価値はあるだろう。

 今まで考えたこともなかったけれど、人間の体というのは、たくさんの細菌市民が住んでいる都市のようなものだったのだ。細菌市民たちが体のために毎日せっせと働いてくれていたのである。人間は細菌市民たちが飢え死にしないように、適切な食べ物を補給してあげる必要があるだろう。とくに、細菌市民にとって最も大事な食物と言われている食物繊維を。

 野菜をしっかり食べて腸内細菌を活性化させる。大事なことが自覚できていなかったんだなあと反省。今年は、本書で得た知識にしたがって、充実した野菜生活を続けて、現代病を克服していきたいと思った。
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蘇我氏/古代豪族の興亡 [日本史]


蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書)

蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書)

  • 作者: 倉本 一宏
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/12/18
  • メディア: 新書



 中大兄皇子と中臣鎌足が蘇我氏を滅ぼし、大化の改新によって、豪族中心の国家から天皇を中心とした中央集権国家を作り上げた--。

 などと蘇我氏が悪者のようなイメージが作られてしまっているが、本当は違うんじゃないの? というのが本書「蘇我氏/古代豪族の興亡」で書かれているテーマだ。蘇我氏は滅んだわけではないし、悪者とも言い切れないところがあるのではないか。文献をひもときながら、蘇我氏のイメージを覆すようなことが書かれている。

 蘇我氏が悪玉のように思われているのは、「日本書紀」によるところが大きい。

 大化の改新や壬申の乱で滅んでいった悪者。蘇我氏が滅んだことで、天皇中心の政治が始まり、律令国家が誕生した。「日本書紀」にはそんなストーリーが描かれている。

 だが、そもそも歴史書というものは、必ずしも歴史を正確に記録するものとは限らない。時の権力者が編纂するような場合、自らの権力の正当性を明らかにするために、歴史を利用する場合もあるのだ。

 「日本書紀」についても、ほかの文献と照らし合わせると、整合性のとれない部分が出てくる。あえて蘇我氏を悪者に仕立て上げてしまったかのようなふしがあるそうだ。

 「日本書紀」を編纂した藤原不比等は、天皇家とも深く関わりのある人物で、自分の娘を文武天皇に嫁がせている。だから、朝廷を神格化することに反発をした蘇我氏を悪者として描き、天皇中心の政治を正当化したかった。そうすることで、自らの立場を盤石化することができる。藤原不比等にはそんな意図があったのかもしれない。

 歴史書に描かれるストーリーというのは、意図的にねじ曲げられることがある。歴史書を作った人間はどのような立場にあるのかを考える必要がある。歴史というものの一筋縄ではいかないところを読み解いていく感じが面白い本であった。
タグ:倉本一宏
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平家物語を読む [文学]


平家物語を読む―古典文学の世界 (岩波ジュニア新書)

平家物語を読む―古典文学の世界 (岩波ジュニア新書)

  • 作者: 永積 安明
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1980/05/20
  • メディア: 新書



 あけましておめでとうございます。いつもブログにご訪問いただきまして、ありがとうございます。

 今年もマイペースで更新していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。本年は歴史もの・児童書・SFを中心に読んでいく予定です。

 さて、本年最初の1冊は「平家物語を読む」。年末に読み終えたばかりの本です。

 最近鎌倉時代に興味を持っていて、源氏と平氏の戦いをまさに描いているということで読んでみたダイジェスト本です。「平家物語」って、難しいイメージがあったのですが、この本は岩波ジュニア新書から出ているため、子供にでも分かるように分かりやすく「平家物語」を解説してくれています。初心者にも非常に取っつきやすい本といえるでしょう。

 「平家物語」の中には、総勢千人を超える人物が登場するそうです。本書はその中から選りすぐりの10人を選び出して、彼らがどのような人生を歩んだのかを解説しています。「平忠盛」「祇王・仏」「俊寛」「文覚」「平清盛」「木曾義仲」「源義経」「平忠盛」「平知盛」の10人です。

 「諸行無常」ということがテーマになっていて、まさに「奢れる者は久しからず」、盛者が落ちていく様が描かれた滅びの物語ということが分かります。

 栄華を誇った平家が没落していくところだけではありません。平家を滅ぼすことになる人間もまた盛者であり続けることができないのです。戦で活躍して喝采を浴びた「木曾義仲」や「源義経」でさえも、またやがては没落していく運命にありました。

 「平家物語」というタイトルですが、平家に限らず源氏から一般庶民に至るまで、人生の浮き沈みの激しさを描いています。そして、その一人一人の生き様が実にドラマティックなものであり、こういうひとりひとりの人生が交差するところがとても面白い。群像劇として優れていることが伝わってきました。

 今回紹介されているのはわずか10名。これ以外にもたくさんの人物が登場すると言うことで、平家物語をもっと知りたくなってきました。激動の時代を生き生きと描いた、面白い話だと思います。
タグ:永積安明
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