So-net無料ブログ作成

人形つかい [SF(外国)]


人形つかい (ハヤカワ文庫SF)

人形つかい (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ロバート・A. ハインライン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 文庫



 空飛ぶ円盤などというものは、本当に存在するのだろうか? 宇宙人が地球に来ているなどということがありうるだろうか?

 「そんなことあるわけないよ、まやかしにすぎないよ。」と大多数の人が言うに違いない。たしかに現実はそんなものかもしれない。たいていの科学者だって否定するだろう。

 でも、もしも本当に空飛ぶ円盤が存在していたとしたら? 宇宙人が人間を観察しに来ているのだとしたら? そんなもしもの世界を空想するのは楽しくもある。

 こうしたもしもの世界を見せてくれるのが、SF作家と呼ばれる人たち。彼らは想像力を駆使して、大真面目に空飛ぶ円盤の可能性を語り尽くしてくれる。たとえ荒唐無稽だ、ナンセンスだなどと非難されようとも。

 たしかに空飛ぶ円盤なんて嘘八百かもしれない。だけど世の中、現実ばかり語っていてもつまらない。現実ではないかもしれないけれど、わずかな可能性にしてもあり得たかもしれない世界を語ることは、世界を豊かにするんじゃないかと思う。

 ロバート・A・ハインラインの「人形つかい」はまさに空飛ぶ円盤の話である。土星の衛星タイタンからやってきたナメクジみたいな生物が地球を侵略しようとする。侵略と言っても都市をビームで破壊しまくるやり方ではなくて、もっとひっそりとした攻撃方法を使う。ナメクジ生物たちは人間に寄生して、精神を乗っ取り、一人ずつ奴隷のようにして操ってしまうのだ。

 徐々に寄生される人間の数が増えていき、その対象は政府の高官やマスメディアの人間にまで及んでいく。しだいにアメリカ中がナメクジたちに侵略されてしまう。

 「もしも空飛ぶ円盤が存在したら?」という発想を膨らませて、宇宙人たちはどこから来たのだろう? どうやって侵略を進めていくのだろう? 対する人間はどうやって宇宙人に対抗をすべきだろう? 宇宙人の侵略を食い止める方法はあるのだろうか? などとさらに空想が展開していく。

 ハインラインはもしもの世界を大真面目に考察している。本来はありえないような世界が非常にリアルに描かれているところが一番の読みどころなのだ。

 空飛ぶ円盤が現れたことがきっかけで、アメリカ中が右往左往して、戒厳令が敷かれ、軍事行動がとられる。騒動が広がっていく様子を緻密に描いていて、軍事ものに強いハインラインならではな作品といえる。

 ちなみに、土星の衛星タイタンというのは、生物が存在する可能性のある星として昔から有名だったとか。水の代わりにメタンがあるとか化学組成はちがうのかもしれないけれど、大気があったり川があったりするらしいのだ。だから、ハインラインの描いている世界もあながち嘘ではないかもよ? そんな風に考えながら読むと背筋が寒くなってくるスリル満点の本だ。
nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

二代将軍・徳川秀忠 [伝記(日本)]


二代将軍・徳川秀忠―忍耐する“凡人”の成功哲学 (幻冬舎新書)

二代将軍・徳川秀忠―忍耐する“凡人”の成功哲学 (幻冬舎新書)

  • 作者: 河合 敦
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2011/04
  • メディア: 単行本



 考えてみると、江戸時代ってすごいなと思う。

 徳川家康が征夷大将軍に任命されて、江戸城が新政府軍に明け渡されるまで、250年以上も続いたのだ。ひとつの家系がずっと権力を握りつづけたというのも珍しいし、乱世から一転して平和な時代が長く続いたというのも驚かされる。

 天下を取った徳川家康の力があってこそというのは言うまでもないが、むしろ、そのあとを引き継いでいった者たちの努力も並々ならぬものだったのではないだろうか。

 会社でもなんでも創業者が飛びぬけた才能を持っていると、そのあとを継いでいくのは難しいと思うのである。普通に考えたら、二代目三代目になるにつれて、どんどん勢いがなくなっていくんじゃないか。新しいものを作る才能も大事だけれど、いったん作ったシステムを維持していくのも別の才能が必要だろう。

 家康から天下を引き継いだ二代目は、3男の秀忠だった。家康の跡を継ぐのは、相当なプレッシャーだったに違いない。なにしろもともとは戦国の世であったのだから、ちょっとしたバランスの崩れで、また乱世に逆戻りということも十分にあり得る状況なのだ。

 秀忠の人生も山あり谷ありである。家康からはとくに期待をされていて、関ヶ原の合戦でも精鋭部隊を率いていたらしい。しかし、あろうことか、遅刻して合戦に間に合わなくなってしまうという大失態を演じる。精鋭たちが一向に現れず、やむなく秀忠抜きで戦う羽目になった家康は、当然のことながら大激怒したのだとか。

 それからの秀忠の人生はひたすら家康に忠実に従い、家康のやり方を徹底的にまね、従順な生活を続ける。関ヶ原の失敗もあって、周囲からは凡庸な人物と見られていたようだ。

 ところが、家康が亡くなると、秀忠は一転して別人のように活躍する。大名たちを厳しく統制する行動に出て、問題を起こした大名家をつぶすようなことを繰り返している。秀忠の行動に震え上がった大名たちは、秀忠に一目置くようになっていく。

 下手を打てば、徳川家をつぶしかねない中で、うまく大名を統制して次の世代に引き継いでいった秀忠。二代目に与えられた難行を見事に果たしたといえるのではないだろうか。

 本書は秀忠の人生を豊臣秀吉の天下の時代のころから描いている。家康もすごいけれど、この秀忠もただ者ではなかったのだなあということが分かる本だった。こうなってみると、徳川家のその後の運命も深堀してみたくなってきた。
タグ:河合敦
nice!(13)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

明日があるなら [ミステリ(外国)]


明日(あす)があるなら

明日(あす)があるなら

  • 作者: シドニィ シェルダン
  • 出版社/メーカー: アカデミー出版サービス
  • 発売日: 1988/07
  • メディア: 単行本



 映画でも小説でも、主人公が絶体絶命のピンチに陥るほど面白い。どうやって窮地を脱するのだろうというところが、サスペンスものの一番の読みどころといえる。

 シドニイ・シェルダンの「明日があるなら」は、まさにそんなハラハラドキドキの展開を味わうことのできる作品だった。こんな絶望的なシチュエーションがあるかというくらい、主人公がひどい目にあうのである。

 主人公のトレイシー・ホイットニーは、若くて美貌に恵まれた銀行員。大富豪の御曹司と婚約もしていて、順風満帆の人生を歩む女性だ。

 幸せの絶頂にあった彼女のもとに、ある日、悲痛な知らせが舞い込む。トレイシーの母親が自殺をしたというのである。マフィアの関係者に母親が経営していた会社を乗っ取られ、苦悩の末の自殺だった。

 怒りに燃えたトレイシーは母親をだました男のところに謝罪を求めに行くが、逆に男に襲われた挙句、都合のいいように利用されてしまう。ありもしない濡れ衣を着せられ、警察に逮捕される。弁護士も判事もマフィアに買収されていて、トレイシーは15年もの刑を言い渡されて、非情にも刑務所へと送られることに。

 そして、その刑務所は生き地獄のような場所だった……。

 話の第1部は女囚の収容されている監獄が舞台。囚人たちの日常が結構詳しく書かれている。映画とかにもときどき出てくるけれど、アメリカの刑務所はこんな怖いところなのかと思った。どこまで本当なのかわからないが、本書の中では囚人の中にもボスのような存在がいて、ボスのいうことを聞かないと、ひどい目に遭ったりするということが書かれている。

 主人公のトレイシーはここでもさらに徹底的にイジメぬかれる。看守からは嫌がらせをされ続け、囚人からも襲われる。身ごもっていた赤ちゃんまで死んでしまう。

 全てを失い、絶望の淵に落ち込み、あらゆる希望を失ったかに見えたトレイシーだったが、ひとつだけ生きる目的が見つかる。それは、自分をこんな目に合わせた人間たちに復讐をすること。どうやって敵に目にもの見せてやるか、復讐計画を練り上げ始める。

 現代版「巌窟王」といった雰囲気の作品。やはりこういう復讐ものは何度読んでも面白い。もはや定番という気もするが、脱獄だの復讐だのといった話には普遍的な引きつける力があると思う。シドニイ・シェルダンの味つけのしかたもうまい。よくこんなおぞましいシチュエーションを考えるなという場面が出てきて、怖いもの見たさで続きが気になってしまう。

 とにかく読んでいて元気がもらえる本である。逆境に耐え抜くヒロインの姿がいい。こんなにひどい状況でも前を向いて頑張っている主人公に思わず共感させられる。

 前半は読んでいて息がつまるような話だったが、逆転に次ぐ逆転で、スキッとさわやかな読後感。主人公と一緒に「シャバの空気はうまいねー」というような気分に浸ることのできる、清涼剤のような一冊だった。
nice!(13)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

砂漠の女王 [伝記(外国)]


砂漠の女王―イラク建国の母ガートルード・ベルの生涯

砂漠の女王―イラク建国の母ガートルード・ベルの生涯

  • 作者: ジャネット ウォラック
  • 出版社/メーカー: ソニーマガジンズ
  • 発売日: 2006/03
  • メディア: 単行本



 イラクというと、英米による対イラク戦争のイメージが大きいのだけれど、そもそもどんな場所だったのだろう? 

 実際にはあの地域にはイラクという国がもともとあったわけではない。第一次世界大戦後に中東を安定化させるために、イギリスが影響力を行使してできあがったのがイラクという国のはじまりらしい。

 そして、イラク建国の背景には、一人の女性の姿があった。中東をくまなく旅してまわり、各部族の中に入り込んで、現地を知り尽くしたガートルード・ベルというイギリス人女性だ。ガートルードは第一次大戦中には情報部員として活動し、戦後はイラク建国の骨格を作り上げた。

 本書は、そうしたイラク建国に至るドラマと、ガートルード・ベルの生涯を描いた伝記本である。

 第一次大戦前、イラクを含む中東地域はメソポタミアと呼ばれ、オスマントルコが支配をしていた。しかし、トルコの力が弱まってくると、ドイツ、イギリス、フランスなどが介入して、この地域で支配権争いを繰り広げ始める。とくにイギリスにとっては、中東地域はインドへの中継地にあったし、ペルシアの油田はエネルギー補給地として重要な拠点でもあった。

 トルコがドイツに接近したことから、イギリスは中東でトルコと対立をしていたアラブの部族たちと手を結んで、反乱を起こさせる。「アラビアのロレンス」という映画にも出てくる有名な歴史だ。

 ロレンスはガートルード・ベルの友人だった。本書でも、ロレンスとガートルードが大戦中に活躍した話がたくさん登場する。ロレンスもガートルードももともと考古学などに興味を持っていて、中東を渡り歩いていたのであるが、戦争になって彼らの持っている情報が重宝されるようになっていったのだ。時代に翻弄されていく様子が描かれていて、すごい人生を歩んだ人たちだなあと驚かされる。

 そして、本書の一番の読みどころは、第一次大戦後、イラク建国にいたるまでの道筋だろう。スンニ派、シーア派、ユダヤ人、キリスト教徒、クルド人がシャリフ家の国王の下に統合される。これまで中東の歴史になかった前代未聞の試み。どんなふうに成し遂げられたのか、どんな問題が生じたのか? イラク建国に至るまでのドラマが描き出される。

 イラク建国当初から、周辺国家の思惑、各部族の対立などがあって、大揉めに揉めたらしい。もともと存在しないところに突然国境線を引っ張って、強引に単一国家を作り上げてしまったのだから、そう簡単にまとまるはずもないよなあと。

 国家というものを一から作り上げていったわけで、国というものを束ねていく難しさを知ることのできる、国作り本という意味でも興味深い本だった。

 イギリスにしてもアメリカにしても、自分たちがイラク建国に一役買っているのに、のちのちになって、イラクに戦争をしかけたりしている。なんだか妙なことになっているなあと、よく分からないでいる。
nice!(12)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

運命の25セント [ミステリ(外国)]


運命の25セント

運命の25セント

  • 作者: シドニィ・シェルダン
  • 出版社/メーカー: アカデミー出版
  • 発売日: 2016/06/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 久方ぶりにシドニイ・シェルダンの本が出版された。

 1枚の25セント硬貨をめぐって、さまざまなドラマが巻き起こるという連作短編集だ。

 イングリッシュアドベンチャー「コインの冒険」という英語教材として書き下ろされたものらしい。

 たった1枚の硬貨が人の運命を変えてしまうなどということがあるものだろうか? 1枚の硬貨が人を大金持ちにしたり、犯罪者にしたり、そんな奇妙なことが? 本書はコイン1枚で人生が一変してしまうさまを描いた実験味あふれる作品である。

 25セント硬貨は次から次に人の手を渡っていく。コインを手にするのは、スターを夢見る女優の卵、娘夫婦から邪魔者扱いされる老婦人、共同経営者を殺害する計画を立てた男、愛人と新生活を送ろうと自殺を偽装する刑事、会社の金を持ち逃げしようとする会計士、小説家になりたいと息巻く青年などなど……。

 彼らはそれぞれ思い思いの人生を歩んでいるのだが、コイン1枚で人生が思いもよらない方向に突き進んでいく。コインが富をもたらしたり、犯罪の発覚に一役買ったり、命の瀬戸際を救ったりと、ここぞというときにコインが活躍するところが読んでいて楽しい。

 しかも、シドニイ・シェルダンなので、読ませ方はやはりうまかった。これが例の「超訳」というやつか。軽いノリだなあと思いながらも、翻訳ものでこんなにサクサク読める本というのも珍しくて、なんだかんだで最後まで読んでしまった。

 こういう人間模様を書いたような話は好きなので、次にはどんな話が来るのだろうと楽しみながら読んだ。意外なオチのあるものも多くて、刑事が行方不明を演出する話などは毒のある結末に思わずにやりとさせられた。

 コイン1枚が人生を狂わせる。人生なにがあるか分かったものではない。運命の不思議さを感じさせてくれる本だった。
nice!(14)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

美術の物語 [美術]


美術の物語

美術の物語

  • 作者: エルンスト・H. ゴンブリッチ
  • 出版社/メーカー: ファイドン
  • 発売日: 2011/11
  • メディア: 単行本



 美術館に行ったときに、作品のどんなところを観たらよいのだろう? 現実そっくりに描けているからいい絵といえるのだろうか? それとも、すぐれた美術作品にはなにか基準のようなものがあるのだろうか? 

 美術についてもう少し詳しく知りたくなってきたので、何かいい美術の入門書のようなものはないかと思ってアマゾンで調べてみたら、ちょうど良さそうな本が見つかった。E.H.ゴンブリッチという人の書いた「美術の物語」という本である。

 この本の興味深いところは、人類が原始生活を行っていた頃の美術作品から現代アートに至るまで、順を追って、年代おきに美術史の変遷をたどっているところである。読んでみると想像以上に優れた本で、これまで読んだどの美術解説書よりもわかりやすい。難解にみえるモダンアートでさえ、かみ砕くように説明してくれていて、画家がこういうことがしたかったのかということがすんなり頭に入ってくるように書かれている。

 本書を読むと、美術というものは時代によって、ずいぶん意味合いが異なっているんだなあということが見えてくる。

 たとえば、原始美術の世界では、美術作品はそもそも美しさを求めるものではなかったそうだ。そこにはもっと呪術的な意味があって、不思議な力によって豊作や狩りの成功が実現できると信じられていた。美術の作品はそのための呪術的な道具であった。

 古代エジプトの時代にも美術にはやはり呪術的な意味が込められていた。王が死んだ後も、霊魂がお供をつれてあの世に行けるようにということで、生きた召使いの身代わりとなるレリーフが描かれるようになった。

 古代ギリシャ・ローマの時代になると、美術家は優美さや繊細さということに着目するようになった。自然を注意深く観察することでリアルな人物表現が生まれることとなった。

 中世のヨーロッパではキリスト教の影響が強くなってきた。宗教において図像・偶像を用いることが許されるのかという問題が生じ、美術世界全体が方向転換することになった。リアルな表現ではなく、聖なる物語のエッセンスだけを伝える手法がとられていく。

 ルネサンスの時代になると、自然を生き生きと描く、ギリシャ・ローマ時代の美術手法が復活するとともに、さらに発展する。

 さらに先の印象派の時代には、ものを見るということがどういうことかがさらに研究された。人がものを見るときは全体を細部に至るまで正確に見ているわけではない。一部に焦点が当たっていたり、ぼやけた部分があったりするものだ。人がものを見ているときの一瞬の印象をとらえようとしたのが印象派の一派だった。

 かように美術というものは時代時代の考えかたの影響を受けるものなのである。だから、美術作品を見るときには、作品が作られた時代にどのような考え方がなされていたのかを知ることが大事になってくる。時代背景を知ることで、美術作品の見所が増えていく。

 本書を読んでみて、美術の歴史を俯瞰してみると、大きくわけて「見えているものをありのままに描こうとすること」と「見えているものではなく、頭の中にあるイメージを描こうとすること」というふたつのテーマが繰り返し立ち現れていることがわかる。時代時代によって、このどちらかが勢力を競い合ってきた。

 たとえば、パブロ・ピカソは見えているものをありのまま描き出すことについても誰よりも才能があったが、それだけでは飽き足らなかった。目に見えたままを描くのではなく、頭の中にある物体のイメージの様々な側面を同じキャンバス上に表現するというような実験的なことをしている。

 実はピカソの実験は古代エジプトの手法に似ている。古代エジプトの美術家が描いた人物というのは、よく見ると身体が奇妙な形にねじれていて、現実にはありえないような恰好をしている。目に見えたままを描くのではなく、デッサンは狂っていても人物というものはこういうふうなものだというイメージを描いていたからだ。

 古代エジプトとピカソがリンクするように、非常に古い美術手法が思いもよらないところでよみがえったり、ある時代に達成できなかったことがはるか先の時代に実現したりすることがある。美術家たちが時代を超えて同じテーマで繰り返し悩んだりするところがとても興味深い。

 絵画作品だけでなく、建築作品にも触れられている。とにかくボリュームがあって知らないことが満載の本だったので、非常に勉強になった。これから美術展に行くときにはまず本書を読んでから行くことになりそうだ。
nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ダ・ヴィンチの遺言 [伝記(外国)]


ダ・ヴィンチの遺言 (KAWADE夢新書)

ダ・ヴィンチの遺言 (KAWADE夢新書)

  • 作者: 池上 英洋
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2006/04/21
  • メディア: 新書



 レオナルド・ダ・ヴィンチというと「万能の天才」として知られているけれども、実際にはどんな人生を送った人だったのだろう?

 ダ・ヴィンチについて知りたくなって、手に取ってみたのがこの本「ダ・ヴィンチの遺言」である。巨匠の生涯についてコンパクトにまとまっている。

 何でも完ぺきにこなす天才というイメージがあるから、ダ・ヴィンチはとくに苦労もない人生を歩んでいたのかなあと思っていたが、本書を読むと実際にはそうでもなかったようだ。

 ダ・ヴィンチは画家として活躍したかったのだが、当時の画家というのは絵を描くだけで食べていけるような職業ではなかったらしい。芸術家は工房に所属していて、絵画・彫刻のほかに楽器を作ったり、家具を作ったり、衣類などを制作したり、なんでも扱わなければならなかった。

 群雄割拠の戦国時代でもあったから、武器や馬具といった軍事品も扱っていた。ダ・ヴィンチは戦地での惨劇を嘆く一方で、軍事技師として数々の考案をしている。

 天才なりの苦労もあったようだ。あまりにも完璧主義すぎたせいか、なかなか作品に満足できない。下絵のデッサンはたくさん残っているけれども、実際に完成できた作品がかなり少なかった。完成品が少ないのだから、当然世間に名を知られるのも遅かった。ダ・ヴィンチの名が広まったのは、音楽家としての活動や舞台監督としての活躍が始まりだったというから意外である。

 いざ名前が売れてからも、今度はミケランジェロやラファエロといったライバルたちが次々に現れて、パトロンたちの興味もそちらに移ってしまう。天才に対する世間の風当たりは思いのほか強かったのだ。

 下積み時代の話から、軍事技師として活躍して、ようやっと画家として大成するまでの道のりが描かれていて、ダ・ヴィンチのサクセス・ストーリーのような内容になっている。こんな天才でも苦労の連続だったのだねということがよく分かる本。ダ・ヴィンチの人間的な側面が見えてきて、面白い本だった。
タグ:池上英洋
nice!(14)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ぼくはアメリカを学んだ [国際]


ぼくはアメリカを学んだ (岩波ジュニア新書)

ぼくはアメリカを学んだ (岩波ジュニア新書)

  • 作者: 鎌田 遵
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2007/01/19
  • メディア: 新書



 アメリカのニューメキシコ州に渡った日本人の若者が、先住民たちの中で暮らしながらアメリカ社会の現実を目の当たりにする――。先住民研究者のアメリカ滞在記。

 インディアンなどというと西部劇ではおなじみだけれど、現代ではどんな生活をしているのだろう? 先住民学という言葉に興味が惹かれて読み始めたのだが、本の内容は意外にもぶっ飛んでいた。

 まず、最初のほうは筆者が17歳のころにアジアを放浪した記録が描かれる。高校の生活になじめず、将来の展望もなく、自分の人生に切羽詰まった思いを持っていた筆者。ゼロから出発しようと思い立って、わずか6万円だけ持って神戸港から上海へと向かう。

 とにかく日本から離れたい――。そんな一心で西へ西へと進んでいく。もちろんお金もないので、安宿に泊まったり、ひたすら現地の人に助けられながらの旅程である。食事をごちそうになったり、ヒッチハイクで移動したり。中国からパキスタン、イラン、トルコ、ギリシアへと移動していく。

 両親にろくに行先も告げずに、わずか3万5000円だけ使って中国からヨーロッパの最西端リスボンまでたどり着いてしまったというから無茶苦茶である。旅行慣れしたバックパッカーでももう少しいろいろ準備するものなんじゃないか……。
 
 だけれども、筆者の無茶苦茶ぶりはこれで終わらない。東京に戻ったものの、日本での生活になじめない筆者は、今度はアメリカのワシントンに留学することを決意する。

 だが、アメリカに渡ったからといって、急に学業に専念できるものでもない。ワシントンでの生活にもうんざりした筆者は「ニュー」な雰囲気がありそうだということで、ニューメキシコに渡る。しかも、最も住んではいけない場所という噂のある「エスパニョーラ」に住み着くことになるのだ。

 そこはギャングと暴走族の町。筆者はそこで何度か殺されそうになったり、犯罪被害を受けたりと危険な目に何度も遭う。日本人として不当な差別も受けながらも、どうにかたくましく生きていく。

 エスパニョーラのあるニューメキシコ州北部は、もともと先住民の暮らしていた土地だったが、16世紀にスペイン人がやってきて侵略を始めた。今でも侵略者たちの末裔が暮らしていて、スパニッシュと呼ばれ、先住民との人種間対立を生んでいる。

 筆者はこうした環境の中で暮らすうちに、先住民たちと親しい間柄となっていく。そして、彼らの置かれている状況に目を向けるようになる。

 アメリカは差別社会と呼ばれるけれども、ここまで壮絶なものなのかと驚かされた。黒人差別という話はよく聞くけれども、先住民差別というのもかなり酷いもののようだ。先住民というだけで標的にされて、なぶり殺しの目に遭ったりする。そんな厳しい現実が描かれている。

 研究といっても外部から客観的な視点で研究するのではなくて、内側の社会に溶け込んでの研究である。常人にはとうてい真似のできることではないので、心底すごいと思えてくる本だった。

 とにかく読んでいくと、筆者があえて危ないほうに危ないほうに進んでいくので、ひやひやするような緊張感のある本である。こういうメンタルの強い人がいるのかと思って驚かされた。
タグ:鎌田遵
nice!(8)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: