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あなたの人生の物語 [SF(外国)]


あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)




 テッド・チャンという作家の書いたSF短編集。

 この本は前から名前は知っていたのだけれど、難解そうなイメージがあってずっと敬遠してしまっていた。映画化されると聞いて、どんなものか気になって読んでみたのだが、意外にも読みやすくて驚いた。

 まず最初の「バビロンの塔」が非常に面白い。

 バベルの塔の伝説をモチーフにした話で、どんどん天に向かって塔を積み上げていく話。バベルの塔の話と違って、神様が怒って塔を破壊したりしない。ひたすら塔が伸びていって、とうとう天蓋にまで達してしまう。その先に待っていたものは……。

 世界観がとんでもない話なのに、非常にリアリティのある書き方がされているので、話の中にのめり込んでしまう。結末はなんとなく予想がついたのだが、壮大な雰囲気があってよかった。

 「理解」という短編も秀逸。

 ちょっと「アルジャーノンに花束を」に似ている。医学の力で知能が向上するという話。ただし、そこから先の展開はかなり異なっている。「アルジャーノン」の主人公がいろいろ苦悩したり、知能が元に戻ったりしてしまうのに対して、本作の主人公レオンはひたすら知能が向上し続ける。どんな難解な概念もたやすく理解してしまう彼は世界をわがもの顔で渡り歩くのだ。

 「顔の美醜について」という作品もユニークだった。

 顔の美醜を判別できなくなる「カリー」という措置を人々が受けるようになった世界の話。顔の美醜が関係ない世界ではどんなことが起こりうるか? もしもの世界が描かれている。

 外見で人を判断してはいけない。そんなふうに言われることがあるけれど、実際にはどうだろう。誰でも大なり小なり外見で人を判断してしまっているのではないか? そんなひやりとする現実に直面させられる作品である。

 そして、本書の中で一番よかったのは、表題作「あなたの人生の物語」であった。

 この作品はエイリアンとのファーストコンタクトもの。言語学者のルイーズは突然人類の前に現れたエイリアンの言語体系をつかもうとして悪戦苦闘する。エイリアンの言語を理解するにつれて、ルイーズはエイリアンの思考方法にまで影響されるようになる。そして、人生に対する見方までもが一変してしまうことになる。

 ルイーズの言語研究と平行して、ルイーズの子供のエピソードが挿入されているのだが、最初はなんでこんなエピソードが挿入されるのかわからなかった。だけれども、実はこの構成そのものに意味があったことが最後になってわかるのである。

 しかけとしても面白いし、こういう人生の見方があるのかということを教えてくれる作品でもある。
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ヴァルカンの鉄槌 [SF(外国)]


ヴァルカンの鉄鎚 (創元SF文庫)

ヴァルカンの鉄鎚 (創元SF文庫)




 歴史を振り返ると、人類というのは戦争ばかり繰り返してきた。今でも各地で紛争は絶えない。

 権力をめぐる争い、宗教をめぐる争い、土地をめぐる争い、資源をめぐる争い……。人間には自己防衛本能があるし、利害や嗜好が一致しないこともあるのだから、敵意や差別が生まれ、紛争が発生するのは不可避なのかもしれない。

 戦争が起こらないようにするために、いっそのこと人間が政治を行わないようにしたらどうだろう。技術の粋を集めたコンピュータに政治的な判断をゆだねてしまうのだ。機械は本能を持たないのだから、人間のような利害感情に左右されることがない。膨大なデータから客観的に公平な判断を下してくれるのではないか。

 フィリップ・K・ディックの小説ヴァルカンの鉄槌」は、まさにそうした機械に政治をゆだねた人類の行く末を描いた作品だ。 

 核戦争後の荒廃したがれきの中で、再び戦争が起きたら世界は滅亡してしまうことに人類は気づく。彼らは平和な世界を築き上げるべく、世界連邦を立ち上げる。超国家的権力にすべてをゆだね、全世界を国際的な支配機構に管理させるようにするのだ。もちろん、最高権力者が人間になったのでは、また問題が繰り返されてしまう。そこで人間たちは万能コンピュータ「ヴァルカン」にすべての権力を与えることにした。

 コンピュータには本能がないというけれど、それは本当なのか? もしコンピュータに対して反抗を企てる人間が現れたら、コンピュータはその人間をどのように対処するのだろう? 他の大多数の人間の利益に反するということで、処罰することになるのだろうか?

 もしコンピュータが1種類だけではなくて、新型のコンピュータが現れたらどうなるのだろう? コンピュータ同士で考え方が違ったら、お互いに衝突するのではないか? 万能コンピュータ同士で戦争が起きたりはしないのだろうか?

 コンピュータのもつ潜在的な危険性に警鐘を鳴らしていて、非常に読み応えがある本。コンピュータ社会ではこういう問題が起こりうるのかということを、スリリングに描き出している。

 さすがディックという感じで、二転三転するストーリーに圧倒された。コンピュータに反乱を起こす謎の教団が現れるのだが、最後まで読むと意外な仕掛けが待ち受けている。テーマ性も優れているし、これまで未訳だったというのが意外なくらい面白かった。
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仏教思想のゼロポイント [人文]


仏教思想のゼロポイント: 「悟り」とは何か

仏教思想のゼロポイント: 「悟り」とは何か




 仏教徒たちは何を目標にして厳しい修行を行っているのだろう? ブッダの言っていた「解脱・涅槃」とはどういう意味なんだろう? 

 仏教の教えについて根本的なところから分かりやすく解説したのがこの本、「仏教思想のゼロポイント」だ。

 生きるということは苦難の連続である。死や病気の苦しみというものがあるし、離別の苦しみというのもある。本来楽しいはずの快楽から来る苦しみもある。好き嫌いやこだわりのあまり、いつまでも満足できずに苦しむ。「本当ならこうだったはずなのに……」などと、あるべき理想の姿と現実とのギャップに絶望してしまう。

 このような苦しみが一生の問題なのであれば、死ぬことによって苦しみは終わるはずである。どうにかこうにか死ぬまで我慢すればいい。

 だが、仏教の基盤は輪廻転生の世界観である。死んだら終わりではなく、生と死を何度も繰り返すというのが仏教の基本的な考え方だ。だから、死んだ後も終わりのない苦しみが未来永劫繰り返されるのだ。

 ブッダはこうした苦しみ(煩悩)から解放される方法について実践し続けたのだとか。どうやったら苦しみの連鎖から逃れることができるのだろう? 本書はブッダのいう煩悩からの解放について、「悟り」「解脱」「涅槃」とは何なのかについて、詳しく説明している。

 仏教にはわりと現実的なところがあるので、現世を生き抜くための自己啓発書のようなものなのかなあと考えていたが、本書を読んでそれは仏教の本質からするとかなり違うことが分かった。

 仏教は正しく生きるための道を説いているわけではない。むしろ、出家者は労働をしてはいけないことになっているし、異性に対して興味を持ってもいけないことになっている。社会を成り立たせているものを否定するわけだから、正しく生きる道というものとは随分異なっているのである。

 出家者に求められるレベルの仏教修行のようなものは、とても厳しすぎてなかなか実践できないだろう。ただ、苦しみのプロセスを観察する、煩悩の原因を追及するというくらいのゆるい実践であれば、自分にもできそうだと思った。

 元来信心深くなかったのだが、最近なぜか宗教などに興味が出てきたので、仏教の本質についてわかりやすく解説されていて面白い本だった。
タグ:魚川祐司
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プークが丘の妖精パック [歴史小説(外国)]


プークが丘の妖精パック (光文社古典新訳文庫)

プークが丘の妖精パック (光文社古典新訳文庫)




 「ジャングル・ブック」などで知られる、ラドヤード・キプリングが書いた歴史小説。

 妖精などというタイトルだから、純然たるファンタジーかと思いきや、意外にも歴史もの。たしかに妖精が出てくるし、ファンタジックな場面もあるけれど、大部分はイギリスの歴史を再現した物語だった。

 丘の上で遊んでいた少年と少女。2人の前にパックと呼ばれる妖精が現れる。パックは不思議な力で歴史上の人物を2人の前に次々に呼び出す。現れたのは、騎士、百人隊長、図面ひき、ユダヤの老人……。彼らは自ら体験した歴史上の経験を生き生きと語って見せる。

 過去からよみがえった人物たちがひとりひとり歴史上の物語を語っていくという、連作短編集のようなスタイル。キプリングはこの本を子どもたちのために書いたのだとか。だから、この本を読んでいくと、イギリスの歴史を一通りわかりやすく俯瞰できるようになっている。

 たとえば、「荘園のふたりの若者」という話は、ノルマン征服のころの話。11世紀当時、イングランドにはサクソン人が各地に住み着いていた。しかし、ここにノルマン人のウィリアム王がやってきて、サクソン人たちと戦い、イングランドを征服してしまう。この作品では、突然荘園を経営しなければならなくなった青年騎士の苦心が描かれている。

 「ペベンシーの年寄りたち」という話では、さらに時代が下る。ウィリアム王の亡きあと、イングランドをヘンリー王が支配していたが、ヘンリーの兄であるノルマンディー公ロベールはこれが許せなかった。イングランドの命運をかけた陰謀の物語。

 「宝と法」はさらに時代が下ったジョン王のころの話。圧政を敷いたジョン王に対する貴族や庶民からの不満が高まり、反乱がおきると、ジョン王は不満を抑えるために和解をすることになる。マグナ・カルタと呼ばれる大憲章の調印である。マグナ・カルタ調印の裏側にどのような出来事があったのか、フィクションを交えて歴史上のドラマが描かれる。

 一番面白かったのは、「第三十軍団の百人隊長」という話。時代はうんとさかのぼって、ローマ帝国時代のイングランド。当時、ローマ帝国の権勢はイングランドにも及んでいた。そして、外敵の侵入を防ぐために、「ハドリアヌスの長城」と呼ばれる防壁が建っていた。物語の中では、この防壁を守ることになった百人隊長の若者の戦いが描かれる。

 よくできた歴史物語で、ひとつひとつの話が実に面白い。こんなに面白い話がまだ未訳だったというのが信じられないほどの出来栄え。本書を読むと、イギリスの歴史についていろいろ知りたくなるので、かなり勉強になる本だった。
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