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トルコのもう一つの顔 [国際]


トルコのもう一つの顔 (中公新書)

トルコのもう一つの顔 (中公新書)




 トルコといえば観光地として有名なイスタンブールがあるし、地理的にもヨーロッパとアジアをつなぐ要所にあって、数々の歴史が刻まれた国でもある。親日国としても知られ、エルトゥール号の海難事故は映画にもなった。

 そんなトルコの知られざる一面を伝えているのが「トルコのもうひとつの顔」という本だ。

 筆者はトルコの人々と言語の魅力に取りつかれて、トルコ中を旅してまわる言語学者。観光地だけではなくて、辺境の地といえるような場所にまで足を運ぶ。それも資金もろくに持たず、なけなしの金をはたいて自転車を買っての貧乏旅行。好奇心の赴くまま、地の果てまで歩いていく姿には驚嘆させられた。

 行く先々で出会う人々も魅力的だ。貧乏旅行をしている筆者を見た人々が次々に食事を恵んでくれたり、宿の世話をしてくれたり。こんなに親切な人々がいるのかという、まるで天国のような場所にも思えてくる。

 だが、筆者が旅を続けていくうちに、徐々にトルコには知られざる側面があることが浮かび上がってくる。それは、クルド人等の少数民族の置かれている状況――。

 第一次大戦に敗れたトルコは、分割占領されていたが、その後ケマル・アタテュルクの反乱によって解放され、トルコ共和国が誕生する。西欧型の近代国家を目指していたが、少数民族に対しては強制トルコ化政策をとってきたらしい。筆者はトルコ中をめぐるうちに、こうした歴史的な背景を知るようになり、少数民族たちの置かれている状況を目の当たりにする。

 言語学者として少数民族の言語を研究し、習熟するようになった筆者であったが、あまりにも研究熱心すぎたのか、やがてトルコ政権からも目をつけられてしまう。当局が触れられたくない部分を知りすぎてしまったため、警察に詰問されたり、連行されてしまう事態にまで発展するのだ。

 最初はのんきな旅行記と思って読んでいくと、話がどんどん危険な方向に進んでいくので興味深い内容である。スパイ小説を読むかのようなスリルが味わえる本だ。トルコの裏事情が分かるのも面白いけれど、筆者自身の言語学者としての才気がありすぎて、世の中にはこんなすごい人がいるのかというところが一番面白いともいえる。

 本書を読んで、これまでトルコのことなど何も知らなかったんだなあと実感させられた。こんなに奥の深い旅行記はなかなかあったものではない。結構前に書かれた本ではあるので、最近ではどういうふうな状況になっているのかも気になった。
タグ:小島剛一

人工知能は人間を超えるか [IT]





 人工知能研究のこれまでと今後の展望について解説した本。

 門外漢にもわかるようにかみ砕いて書かれていて、非常に読みやすい。人工知能がどのような仕組みになっているのか、初歩の初歩から説明してくれている。

 人工知能の研究もこれまで何度かブームがあったのだが、そのつどブームがしぼんでいったらしい。人工知能が世界を席巻するというような話が何度かあったが、結局尻すぼみに終わっていった。

 問題になったのは、人間であれば当たり前に理解できるような、例えば「猫」といった単純な概念ですら、人工知能に認識させることが難しかったこと。ある動物が犬なのか猫なのかキリンなのか、人間なら瞬時に見分けられるようなことも、機械に判別させることは難問だった。「猫」にどんな特徴があるのかを人間がいちいち機械に教えなければならなかったし、どうやって特徴を教え込むのかもやっかいだった。

 他にも難問がいくつもあって、人工知能研究は頓挫してしまっていたのだが、最近になって人工知能研究にも光明がさしてきたという。ディープラーニングという新しいアプローチが登場して、これまで問題だった点を解決してくれたのだ。

 ディープラーニングの方法では、人間がいちいち「猫」の特徴を教え込むのではなく、人工知能が数多くの画像を見ながら、「猫」の特徴を自分で抽出していく。「猫」を特徴づける要素を自分で勝手に見つけ出して、「猫」の概念を自ら抽象化して、覚え込んでいく。これは、よちよち歩きの赤ちゃんが周囲の環境を見ながら、少しずつ世界を理解していくのと同じアプローチといえるだろう。

 様々な概念を判別したり理解できるようになれば、人工知能も膨大な情報を吸収するようになって、人間社会の様々なルールも覚え込むことができる。より環境に適した行動をとることができるようになる。これまで壁にぶち当たっていた人工知能研究に突破口が生まれたのである。

 この本を読んで、ひょっとしたら人工知能に人間が追い越されてしまう、そんな未来がもう目の前に迫っているのかもしれないなあと感じるようになった。空想の世界というレベルではなくて、現実に実現してもおかしくない基盤があるのだなということに気づかされた。

 自動運転車、農業の自動化、物流の自動化、インフラの管理、通訳・翻訳の機械化、医学・法律・税務などの専門知識の機械的カウンセリング新聞記事の機械作成、家事や介護の機械化、行政事務の機械化など、社会のあらゆる分野が自動化していくのだろう。これまで人間がやってきたあらゆる活動が機械化され、人間よりもずっとうまく正確に行ってくれる未来。

 人間の仕事は当然に奪われてしまうのだろうけれど、その代わりに食料の配給、生活の保障、医療サービスに余暇のサービスなど、身の回りの世話も機械が全部してくれるようになるのだろう。

 そんな社会が来たら人間はもはや用済み。人間よりも機械にすべて任せたほうが便利という時代がやってきそうだ。人間はただただ仕事もせずに余暇をすごすばかり。映画「WALL・E」に出てくる、遊んでばかりいる人間たちの世界のように……。

 なんでも機械任せで人間は何もしなくていい。ある種のユートピアみたいだが、同時にとても悲しい世界でもある。何をやっても人間は人工知能に勝てないのだから。人間の存在意義は何かということが問題になってきそう。何のために生きていくのかという生きがい探しみたいなことが大事になってくるんだろうな。

 未来が楽しみでもある半面、便利になると人間どんどんダメになっていくんじゃないかなあという虚しさを感じさせる本でもあった。
タグ:松尾豊

マジックミラー [ミステリ(日本)]


新装版 マジックミラー (講談社文庫)

新装版 マジックミラー (講談社文庫)




 クリストファー・ノーラン監督の「プレステージ」という映画を観ていたら、主人公のマジシャンがひとつの箱から別の箱に瞬時に移動する、瞬間移動のマジックが出てきた。そっくりの替え玉を使うという安直なトリックであったが、ネタをばらされずに見たら結構驚くかもしれない。

 ひとりの人間が同時にふたつの場所に存在する。これほど不思議な現象はないし、だからこそ、マジシャンたちはこの不可思議に挑戦しようとするのだろう。

 同じように、ミステリー作家たちもマジシャンに負けじとこの不可思議に果敢に挑戦をしてきた。アリバイもののミステリーという形で。

 アリバイというのは、犯行時刻に容疑者が犯行現場以外の別の場所にいたという不在証明のことだ。犯人は犯行時刻に犯行現場にいたにもかかわらず、同時に犯行現場から離れたところにいたことを証明しなければならない。これはひとりの人間が同時にふたつの場所に存在するという、上記の不可思議を成立させるということである。

 作家たちは誰に教わるでもなく、あの手この手でアリバイをこしらえてきた。偽の銃声を使う方法、時刻表を用いる方法、遠隔操作で銃殺する方法、死んだ人間に変装する方法、監視からこっそり抜け出す方法など……。よくこんなこと考えるなあと半ば呆れてしまうくらいに。

 有栖川有栖の「マジックミラー」もまた、こうしたアリバイに挑戦した作品のひとつだ。まさにアリバイものの集大成と呼べるかもしれない。

 湖畔の邸宅で見つかった女性の死体。もっとも疑わしい容疑者は被害者の夫だったが、彼には鉄壁のアリバイがあった。刑事たちは容疑者のアリバイが崩せないか、悪戦苦闘する。

 前半は時刻表トリックを暴こうとする話で、松本清張の「点と線」のような趣がある。時刻表とにらめっこしながら、思わぬ抜け穴がないかつついていく。きわめてアクロバティックなアイデアが出てきて、正直、読んでいて頭がくらくらしてくるほどだ。

 後半、話は意外な展開を見せるのだが、こちらにも思わぬアリバイトリックが出てくる。もう本当に全編アリバイづくしという感じ。最後のほうには、アリバイ講義というものまで出てきて、アリバイものを分類していた。こちらのほうもかなり参考になる内容で面白い。

 ミステリー小説の醍醐味は、どんなトリックが仕掛けられているのかという奇術的な面白みにあるけれども、アリバイものなんかはとくにそうで、鮮やかなトリックが決まった時には拍手喝さいしたくなる。本作のトリックもとくに後半のものなどはうまく決まっていて、見事な手品を見せられたような快感があった。
タグ:有栖川有栖

ミッション・トゥ・マーズ/火星移住大作戦 [地学]


ミッション・トゥ・マーズ 火星移住大作戦

ミッション・トゥ・マーズ 火星移住大作戦




 アポロ11号で月面着陸を果たした、宇宙飛行士バズ・オルドリンによる火星移住計画書。

 火星移住などというと、まるで「火星年代記」などのSFの世界のようだけれど、この本を読むと現実的にも可能であることが見えてくる。国際宇宙ステーションで、宇宙飛行士たちが長期にわたって宇宙空間で生活してきたノウハウがあるし、火星にはインフラ整備に必要な豊富な資源もある。永続的に火星に住み続けることも可能なんだそうだ。

 一読して、宇宙飛行士が書いているだけに、計画の内容が非常に実際的という印象をもった。技術的な側面だけでなく、政治的、外交的な側面も含めて書かれてあって、随分緻密に計画されているなあと感心させられる。月、小惑星、火星の衛星フォボスとダイモスなどを足掛かりにして、徐々に火星に向かっていくという段階的なプロセスが書かれていた。

 「オデッセイ」という映画では、マット・デイモンが火星でジャガイモを栽培していたけれど、彼が居住していたようなモジュールをさらにたくさん作ったり、巨大なドームで覆った町を建設したりすることで、火星に大勢の人間が住み着くことができるだろう。火星全体を温暖化させて、地球の大気状態に近づけるテラフォーミングも行われるかもしれない。

 最初は科学者が、やがて民間人もぞくぞくと火星に移住するようになるのだろう。火星に新たなフロンティアができて、資源を掘削して産業活動を行ったり、様々な研究活動を行ったりする。火星上でこれまでにない経済圏・文化圏が生まれ、地球と交流するようになる。そんな未来の姿が目に浮かぶようだ。

 人口が増え続け、資源が枯渇してゆく地球。持続可能な未来を作り上げるための方策として、火星を開拓するというアイデア。外に外に向かって解決策を求めるというのは、実に興味深い発想だ。

 筆者はよほど火星移住を実現したいのか、非常に熱のこもった言葉で書かれている。こんなに熱量のある文章というのも珍しい。政治家の演説を聞いているみたいだった。だが、読んでいるうちに筆者の熱意にほだされて、だんだん火星移住が実現できるんじゃないかと思えてくるから面白い。

 2035年には火星に有人のロケットを着陸させ、移住を開始させる計画だとか。どんな未来がやってくるのか楽しみになる本だった。

クレアが死んでいる [ミステリ(外国)]





 87分署の刑事たちの活躍を描いたシリーズの一作。

 カルヴァー街の書店で銃の乱射事件が起こる。本屋にいた客たちが銃弾を浴びて次々に絶命する。被害者の中にクレアという女性もいたが、彼女は87分署の刑事バート・クリングの恋人だった。復讐に燃えるクリングと87分署の刑事たち。捜査の果てに彼らがたどりついた真相は意外なものだった。

 昔から87分署シリーズが好きで、ときどき読み返してしまうのだが、この話も面白かった。

 とにかくこのシリーズは、刑事たちが地道に捜査を進めていくところが見どころ。ときには平行して何本もの線を追ってコツコツと調べていく。普通ならその調べる過程がだれそうなものなのに、このシリーズを読むと、刑事と一緒に真相に迫っていくようなスリルがある。

 黒澤明が「天国と地獄」という作品でこのシリーズの一作を映像化しているけれど、他のシリーズ作品も本当にあの映画みたいな感じ。とにかく刑事たちが複数の線を追ってコツコツ調べる。

 本作でも被害者の家族たちに話を聞いていく。4人も被害者がいるので、犯人の狙いがよく分からない。単なる狂人の仕業なのか? 4人のうちの誰かひとりを狙っていて、他の3人は巻き添えを食っただけなのか?

 関係者たちがそれぞれ何らかの情報を握っていて、情報のかけらをつないでいくと、動機らしきものがだんだんと見えだしてくる。なんだか分からなかったところに、道筋らしきものが見えてくるところが面白い。

 描き方がリアルなのがこのシリーズの魅力でもある。アメリカのダウンタウンで生活する人々の息遣いが迫ってくるかのような生々しさ。本筋とほとんど関係ないような登場人物までもが丁寧に描かれていて、場面場面を読み進めるのが本当に楽しい。

 このシリーズ、ミステリーとして非常によくできていると思うし、いくつかの話は映像化もされているのだが、なぜかほとんど絶版状態にあるという不遇さ。装いを新たに復活してほしいなあと思う。