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二十四の瞳 [文学]


二十四の瞳 (新潮文庫)

二十四の瞳 (新潮文庫)

  • 作者: 壺井 栄
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/04
  • メディア: 文庫



 瀬戸内の寒村の分教場に赴任してきた大石先生と12人の子供たちとの交流を描いた作品。

 有名な作品なのに今まで読んだことがなくて、今回はじめて手に取ってみたのだが、こんな話だったのかといろいろ意外だった。

 なんとなく、ほのぼのした学園ドラマみたいなものを勝手に想像していて、たしかに前半は大石先生と子どもたちとの牧歌的なエピソードが続く。教師になりたての先生が、子供たちと触れ合いながら、悪戦苦闘していく様子はのどかである。

 だけど、話の舞台は昭和の初め。ちょうど日本が国際連盟から脱退したころの話。今みたいに豊かでも平和な世の中でもない時代。

 子供たちの家庭は貧しく、子供ながらに家の仕事を手伝うことが当たり前だし、病気で家族が死んでしまうなんていうことも今よりもずっと多かったろう。戦争に向いつつある時代にあって、自由な言動はだんだん許されなくなっていって、治安維持法によってしょっ引かれる人も出てくる。

 戦争に突入すると、大石先生の夫も戦死し、教え子たちも次々に戦争に行くことになる。

 ひとつの年月に限定した話ではなくて、子供たちが大人になるまでの長い年月が描かれている。12人のそれぞれの道筋が丁寧にたどられていて、教師になった者、戦死した者、失明した者、身売りされた者、行方知れずの者など、さまざまな人生模様があって読みごたえがあった。

 教え子たちとの別れと再会。無邪気だった子供たちが、悲惨な境遇に置かれてしまうのを見て、やるせなさを感じる大石先生。教師として自分に何ができたのだろうと苦悩する姿が印象的だ。

 こういう本を読むと、今の世の中は昔に比べていい時代だなあと思う。普通に食事ができたり、健康的な生活が送れるというだけでも、ありがたく思えてくる。
タグ:壺井栄
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リンカン/アメリカを変えた大統領 [伝記(外国)]


リンカン―アメリカを変えた大統領

リンカン―アメリカを変えた大統領

  • 作者: ラッセル・フリードマン
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 1993/07
  • メディア: 単行本



 アメリカの第16代大統領エイブラハム・リンカンの伝記。

 貧しい開拓地で生まれたリンカンは、辺境の地を渡り歩き、田舎で斧を振りまわす生活を送ってきたが、やがて弁護士になり、地方政治家になり、めきめきと頭角を現すようになる。何度か選挙には敗れながらも、人並みはずれた雄弁術と人柄が人々の心を打ち、とうとう大統領に就任する。

 まさにアメリカンドリームを地で行くような人生なんだけれど、大統領就任後からが本当の苦難の始まりだったらしい。リンカンは当時問題となっていた奴隷制度をどうするか、対処をすることが急務であった。

 当時のアメリカでは奴隷制度をめぐって国を二分するような激しい議論が沸いていた。南部の人々は奴隷を使用することは神から与えられた権利であると主張。黒人たちは足かせをはめられて船で連れてこられて、奴隷小屋に住まわせられた。物のように扱われて、綿花の栽培のためにむりやり働かされた。この奴隷制度を認めるかどうかで、北部と南部で対立が深まっていた。

 リンカンはもともと熱狂的な奴隷廃止論者だったわけでもない。いきなり全州で奴隷を廃止すると、アメリカが分裂してしまう危険があるので、すでに奴隷制を認めている南部に限って奴隷制度を維持して、これ以上奴隷制が広がらないようにするという妥協案を主張していた。

 だが、その妥協案も実を結ばなかった。南部の人々はどんな州にせよ奴隷制度を認めないのはおかしいと断固として主張を曲げず、リンカンが大統領に就任するや、アメリカから独立することを宣言。南部連合国という新しい国を作ってしまった。こうして南部と北部との戦いの火蓋が切って落とされ、就任早々戦争が始まってしまう。

 予想外に戦争が長引いて大勢の血が流される中で、苦悩するリンカン。南北の対立を永劫的に解消するためには、妥協するのではなく、むしろ思い切って全州にわたって奴隷解放を推し進めることが重要だと決断。奴隷解放に向けて、さらに苦しい戦いに挑む。

 リンカンの奴隷解放にいたるまでの苦難の道のりが描かれていて、読み応えがある内容。リンカンも最初は妥協することを考えていたが、だんだんと意識が変わっていったというのは知らなかった。リンカンの考えが変わっていく過程が描かれていて興味深い。

 当時としては奴隷がいることが当たり前という風潮だった。奴隷解放などと主張すれば、頭のおかしなやつだと思われて、槍玉に挙げられて孤立しただろう。そんな時代に、悪戦苦闘しながらも人々の意識を変え、アメリカ中を巻き込んで国の根本を変えてしまったのだから偉大である。

 現代社会もこういう昔の人々の苦難の歴史の上に成り立っているのだなあと考えさせられて、感慨深い本だった。
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武器よさらば [文学]


武器よさらば(上) (光文社古典新訳文庫 Aヘ 1-1)

武器よさらば(上) (光文社古典新訳文庫 Aヘ 1-1)

  • 作者: アーネスト ヘミングウェイ
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/08
  • メディア: 文庫



 作家のアーネスト・ヘミングウェイは第一次世界大戦の際に、赤十字の一員として従軍した。本書はそのときの自身の経験をもとに書かれた物語。

 第一次世界大戦当時、北イタリアではイタリア軍とオーストリア軍が一進一退の戦いを繰り広げていた。この北イタリア戦線において、負傷兵運搬の任務にあたっていたアメリカ人の青年フレデリック・ヘンリーは、看護婦のキャサリンと出会い、愛し合うようになる。

 だが、敵の攻勢が激しくなると、フレデリックは退却を余儀なくされ、戦線離脱者として追われる身分となってしまう。見つかれば逮捕されて銃殺される恐れもあった。フレデリックとキャサリンは、脱走してスイスに向けて逃避行を続けることに……。

 人生を全うしたいというのは、誰しもが願うところだろうけれど、戦時下においてはそれも容易なことではない。個人の自由などよりも国家や軍隊の利害がはるかに優先されてしまう。フレデリックとキャサリンは、脱走してまで幸せをつかみ取ろうとするのだけれど、さまざまな壁が立ちふさがる。

 第一次大戦時にはこんな理不尽があったんだなあというだけではなくて、どんな戦争でも起こりうるような普遍的な悲劇が描かれていると思う。集団の前では個人の力などなすすべがないのだけれど、それでも懸命に生きようとするふたりの姿には感動させられた。

 主人公のふたり以外にも、戦時下でのさまざまな人生模様が出てきて読みごたえがある。生きるということについて考えさせられる作品。

 内容も面白いが、ヘミングウェイの文体にも興味をひかれた。無駄な形容を省いた簡潔な文体。にもかかわらず、その場の状況が鮮やかに浮かび上がってくる。文章を書くときに、ついつい過剰に盛り込んだり、形容詞をくっつけたりしてしまいがちだが、むしろ抑えた文章にしたほうが文章が生きてくる不思議さ。どんな文章を書くときにも、見習うべきことなんじゃないだろうか?
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