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うなぎ/一億年の謎を追う [生物]


うなぎ 一億年の謎を追う (科学ノンフィクション)

うなぎ 一億年の謎を追う (科学ノンフィクション)

  • 作者: 塚本 勝巳
  • 出版社/メーカー: 学研教育出版
  • 発売日: 2014/10/28
  • メディア: 単行本



 土用の丑の日などで人気者のうなぎ。

 昔は川や池でよくうなぎが獲れたものだけれども、こうしたものは成長した後のうなぎ。うなぎにも海水で生活する時期と淡水で生活する時期があって、実際にうなぎが産まれるのは海の中だそうだ。卵から産まれたうなぎははるばる長い距離を泳いで、海流に乗って、日本までやってくるのだ。

 じゃあ、うなぎは広い海のどこで産まれるのだろう? 長年、うなぎの産卵場所は謎とされてきたが、筆者ら研究者たちは、海洋調査を実施。何度も探求を繰り返した結果、ついにうなぎの産卵場所を突き止め、世界初の天然うなぎの卵を発見する。

 本書は、そんなうなぎ研究に身を投じた筆者の回想録。うなぎの不思議な生態を紹介するとともに、うなぎの卵発見までに至る道のりについて解説している。

 太平洋から長い長い距離を泳いでくるとか、成長するにしたがって身体の形が変わっていくとか、川登をするとか、嗅覚が非常に鋭いとか、本書を読むとうなぎの持っている不思議な生態を知ることができる。なんでわざわざ遠くまで回遊するのか、読んでいて本当に不思議な気がしてくる。

 だが、本書の最も面白いところは、うなぎの生態を紹介するだけでなく、どのように科学的発見がなされたのかという科学解説の部分。筆者らは様々な仮説を立てて、科学的にうなぎの産卵場所に迫っていく。様々な手がかりをもとに、徐々にうなぎの秘密が明かされていく感じは、ミステリーを読んでいるようなワクワク感がある。

 これまで単に美味な食材というくらいにしか考えていなかったが、本書のようなものを読むと、その独自の生態に驚く。まだまだ解明されていない謎も残っていて、身近な生き物ながらも不思議な存在だなあと興味深かった。
タグ:塚本勝巳
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沈黙 [文学]


沈黙 (新潮文庫)

沈黙 (新潮文庫)

  • 作者: 遠藤 周作
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1981/10/19
  • メディア: 文庫



 織田信長の時代には宣教師も寛容に扱われていたが、豊臣秀吉の天下のもとでキリスト教は警戒すべき存在となり、キリスト教徒に対する弾圧が始まった。その後の徳川の江戸幕府もキリスト教を禁止し、徹底弾圧を加えつづける。

 本書は島原の乱で大勢のキリシタンが虐殺された直後の弾圧が激しい時代に、日本に密入国したポルトガルの司祭ロドリゴの物語である。

 キリシタンへの迫害があったというのは、歴史の教科書にも出てくる有名な話だ。だが、本書を読んで、その実態がこんなにも壮絶なものだったのかというのを知って衝撃的を受けた。大勢の信徒たちが踏み絵をさせられ、あらゆるたぐいの苦しい拷問を受けて棄教を迫られる。棄教しない人間は、さらし者にされた挙句に殺されてしまう。

 大勢の苦しんでいる信徒たちがいるという噂を聞いたロドリゴは、信者たちを勇気づけ、信仰の火を絶やさないようにと、日本へと渡る。だが、彼自身もまもなく捕まってしまい、棄教を迫られることに……。

 ロドリゴは司祭として強い信念を持った人物であるが、彼の前に様々な試練が待ち受けていて、彼の内に迷いが生じはじめる。彼が棄教しないことで、日本人信徒たちが見せしめに拷問を受けたり、犠牲になったりする。だんだんと苦しみに耐えきれなくなっていく。信仰に対する疑問まで生じてしまう。なぜこのように人々が苦しんでいるのに、神は沈黙するのか? 信仰に対する義務と苦しみとの間で葛藤が生まれる。

 信仰とは何か? 人間の強さとは何なのか? キリストの考えはどのようなものであったのか? ロドリゴは、拷問や人々の死という苦しみを受け続ける中で、こうした疑問に直面することになる。そして、新たな真理を得ることになるのだった。

 キリスト教徒の葛藤という読みなれないテーマの内容であったが、読み進むうちにだんだんと引き込まれて、最後には思わぬ感動がある。極限の状況下で、信仰に対する向き合い方が浮き彫りになるところが迫力があった。
タグ:遠藤周作
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スタンド・バイ・ミー [文学]


スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編 (新潮文庫)

スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編 (新潮文庫)

  • 作者: スティーヴン・キング
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1987/03/25
  • メディア: 文庫



 森の奥に列車にはねられた少年の死体がある――。そんな噂を聞いた4人の少年たちは、死体探しの旅に出る。スティーヴン・キングが描く少年時代の物語。

 死体を探しに行くなんていうのは、いっぷう変わった目的であるし、旅自体もわずか二日間ほどの短いものなのであるが、読んでいくにつれて、この旅が特別な意味を持っているように感じてくるのだから不思議である。旅の途中で出会うひとつひとつの出来事が、なにか特別な輝きを持っているかのように感じられてくる。

 キングはこの旅を「魔法の通廊」と表現しているが、キャッスル・ロックの小さな町に住む少年たちは旅を通して様々な試練に直面して、自分の人生と向き合う。そして、魔法の通廊を通って新たな人間へと生まれ変わるのだ。

 厳しい境遇に生まれた人間、人生に躓いた人間、大切なものを失ってしまった人間。キングはそんな不幸にとりつかれてしまった人々を描くのが抜群にうまい。本書に出てくる少年たちも、子供ながらに悲運を背負って生きている。死んだ兄の陰に隠れて、両親から「見えない人間」のような扱いを受けるゴードン、父親に耳を焼かれるという虐待を受けながらも父親を敬愛してやまないテディ、父親も兄たちもアル中という一家に生まれたクリス。

 それぞれに人生の不運にとりつかれた人間たちが、悩みながらもどうにかこうにか生きていこうとするから感動的であるし、キングの人生の悲哀を描く筆力にはいつもながら本当に感嘆させられる。

 旅を終えて、少年たちが成長して仲良く幸せになりましたというような、単純なハッピーエンディングの話でもないところがまたすごい。旅を終えたところで話が終わってもよさそうなものだが、結末にその後の4人の生涯が描かれている。ゴードン以外の3人の人生はけっこう悲惨で、悲劇的な死を迎えたりしている。

 人生ははかないと語っているかのよう。人生にはときどき思わぬ落とし穴があって引きずりおろされたりするし、ときには悲劇的な死を迎えたりもする。大切な友達が現われては消えていったりする。だから、4人の人生が偶然に交差して、特別な旅に出たあの瞬間というのがとても大切なものに思えてくる。誰の胸の内にも、多かれ少なかれ同じような瞬間があるから思わず共感してしまうのかもしれない。
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集団的自衛権の深層 [法律]


集団的自衛権の深層 (平凡社新書)

集団的自衛権の深層 (平凡社新書)

  • 作者: 松竹 伸幸
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2013/09/17
  • メディア: 新書



 安保法案に関連して集団的自衛権が話題になっている。だけど、そもそも世界では集団的自衛権はどのように使われてきたのだろう? 基本的なところがよくわかっていなかったので、読んでみたのがこの本「集団的自衛権の深層」である。

 本書の中で、集団的自衛権が使われた例がざっとまとめられている。ソ連によるハンガリー、チェコスロバキア、アフガニスタン介入。アメリカによるグレナダ、ニカラグア介入。イギリスによるイエメン介入。フランスのチャド介入などなど。有名なのは、アメリカによるベトナム侵攻と対テロ・アフガン戦争だろう。

 冷戦期には、大国はかなり濫用気味に使ってきたらしい。実際には侵略行為のようなものも、集団的自衛権を口実にして行われて、のちのち国連総会で世界各国から糾弾されたこともしばしばだったとか。大国のやることは怖いなあという事例がたくさん出てくる。冷戦後も、たとえば、アメリカによるアフガン戦争について、その正当性が問題となったらしい。

 各事例について、どのような経緯で自衛権が用いられ、後に国際的にどのように評価されたのかが紹介されていて分かりやすい。集団的自衛権という概念自体がどのように生まれてきたのかも解説されていて、そうだったのかと歴史の勉強になった。

 日本で集団的自衛権を容認する立場は、中国の脅威が強まっているので、日本が侵略されるようなことがないように、アメリカとの同盟関係を強化して抑止力を強める必要がある。日米関係を強化するためには、基地の提供や金銭の支出や後方支援をするというだけでは、足りないということだろう。現状のままでは、抑止力にならないというのだけれど、どうなんだろう?

 それよりも、本書のようなものを読むと、今まで大国は他国への強引な介入をくり返してきたようなので、日本も集団的自衛権を行使することで、ベトナムとかアフガン戦争みたいなアメリカの戦争に巻き込まれるリスクが高まるんじゃないだろうか。

 集団的自衛権が必要だという立場に立ったとしても、決め方にも問題があって、違憲の疑いが強いのに憲法改正しないで、解釈だけで認めてしまうことは立憲主義の否定になってしまう。これを許容したら、国家による人権侵害などなんでもできてしまうのでは? 

 まだまだ考えがまとまっていなくて、わからないことも多いのだが、本書は集団的自衛権について全般的に解説されていて、あれこれ考えるうえでの参考になる。本書を読むまで、基本がよく理解できていなかったことがわかった。
タグ:松竹伸幸
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エクソダス症候群 [SF(日本)]


エクソダス症候群 (創元日本SF叢書)

エクソダス症候群 (創元日本SF叢書)

  • 作者: 宮内 悠介
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/06/29
  • メディア: 単行本



 火星開拓地を舞台にしたSF小説。

 火星唯一の精神病院であるゾネンシュタイン病院に赴任した青年医師カズキが、そこで働くうちに昔に病院で起こった秘密を解き明かしていく――というミステリータッチの作品だ。

 未来の話だけれど、テーマは精神医療史。フロイトやらロボトミーやら抗精神病薬やらといった、現代にも通じるような話が出てきて驚いた。

 火星に住めるくらいの未来になったら、医療技術も発達して、いろいろな病気も克服されて、精神病なんかもなくなっているんじゃないの? などとつい楽観的に考えてしまう。だから、火星の精神病棟という設定は意外だったのだが、本書を読むうちにそう単純にはいかないことが分かってくる。

 人間の脳や精神といったものは、いまだに謎が多い分野だ。機械でのぞいたからといって単純に機能が分かるものでもない。精神剤があるとはいっても、個体差はあるし、その効用のほどは計り知れない。脳は人体のブラックボックスといえる。

 だから、精神医療というのは、こうすればこうなるという判断が難しい分野ともいえる。他の科学技術が発達しても、精神病というのはそう簡単に克服できるものではないのかもしれない。

 本書にも画像診断や機械による自働診断といった未来のテクノロジーが出てきて、精神病もある程度克服されているのだが、新種の症例が現れて、医師たちを悩ませ始める……。

 精神医学の世界は全くといっていいほど知らなかったので、本書に詳しく書かれた精神医療史の話は興味深かった。精神医療の歴史がひととおり書かれていて、こんな風に進歩してきたのかということが分かるようになっている。科学と迷信との間を行ったり来たりしながら歩んできたことが見えてくる。

 こうした精神医療の歴史とリンクするように、登場人物たちはエクソダス症候群という新しい症例に右往左往する。何が正しくて、何が間違っているのか、だんだん分からなくなっていく。正気と狂気との境界があいまいになっていく感じがおそろしい。

 火星と精神医療史という不思議な取り合わせであったが、うまくミックスしている。病院の謎や主人公の抱える秘密など、ミステリー部分もよく練られていて面白かった。
タグ:宮内悠介
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寒い国から帰ってきたスパイ [ミステリ(外国)]


寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)

寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)

  • 作者: ジョン・ル・カレ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1978/05
  • メディア: 文庫



 冷戦下の東ドイツを舞台にしたスパイ小説。

 第二次大戦後、連合軍に敗北したドイツは戦勝国によって分割占領されることとなった。ドイツの東側をソ連が占領し、西側をアメリカ、イギリス、フランスが占領した。

 だが、戦後、今度はアメリカとソ連との間の冷戦がはじまり、世界中で代理戦争が勃発。ドイツも東ドイツと西ドイツとで分断されてしまう。お互いに疑心暗鬼となった資本主義陣営と社会主義陣営は、激しい諜報戦を繰り広げ始めることになる。

 本書は、こうした東西冷戦下のドイツでの諜報合戦を描いた小説である。

 東ドイツ情報部副長官にムントという男がいた。西側諸国の諜報員を見つけては次々に殺害していく危険な男だった。イギリスの情報部員のリーマスは、このムントに部下を次々に殺され、ムントへの復讐を夢見ていたが、あるときそのチャンスが舞い込む。ムントを失脚させるための秘密工作の任務が与えられたのだ。リーマス自身が囮になって東側と接触し、ひそかに偽情報を流すことで、ムントを西側のスパイだと思わせ孤立させる計画だった。

 だが、任務を遂行するうちに、計画はリーマスの予想のしない方向へと突き進んでいく……。

 スパイが極秘のミッションを遂行する話で、上手く計画が運ぶだろうかと期待しながら読んでいくと、徐々に計画外の出来事が起こるようになって、先の展開が読めなくなっていく。闇の中にまっしぐらに落ち込んでいくような怖さのある話だ。

 相手を騙そうとしていたはずの立場だった主人公が、いつの間にか騙される立場へと逆転していく。最後の最後には意外な結末が待っていて、世界観が反転するようなどんでん返し。作者に見事に騙されてしまった。真面目な作風でありながら、エンターテイメントとしても一級品といえるだろう。

 テーマ性にも優れている。作者は本書の中で、多数の人間の利益のために個人が犠牲になることの危険性について問題提起している。コミュニズムというのは個人主義を犠牲にすることで成り立つが、個人を犠牲にするのはコミュニズムに限ったものではないと筆者は言う。西側の自由主義世界であっても、ときには大多数の利益のために個人の命を平気で犠牲にすることがある。大義のためであるという理由で、罪のない人間を簡単に殺したりすることがあるのだという。

 本書の中で描かれるのはまさにこうした、公の利益のために犠牲となる人々の悲劇だった。国際情勢の大義のために駒にされて、人生を滅茶苦茶にされてしまう人々。主人公のリーマス自身もやがて、自分が国家の駒にすぎないことに気づく。

 自由主義社会というのは、個人主義を尊重する世界だったのではないか? なのに、大義のためとあらば個人の尊厳をいくらでも踏みにじるというのは、自らの思想に反するのでは? やっていることがコミュニズムと変わらないのでは? 敵と戦っているはずが、いつの間にやら敵と同じようなことをしてしまっているという皮肉な内容だ。

 冷戦下の話ではあるけれども、いまだに世界情勢は揺れ動いているし、自由主義社会の中にある矛盾というのはいまだに問題となりうるテーマだと思う。本書に書かれていることは普遍性があって、古びるものではなく、今読んでも新鮮に感じ取れる作品だった。
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アマテラスの誕生 [日本史]


アマテラスの誕生―古代王権の源流を探る (岩波新書)

アマテラスの誕生―古代王権の源流を探る (岩波新書)

  • 作者: 溝口 睦子
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/01/20
  • メディア: 新書



 アマテラス(天照大神)というと、古事記にも出てくる古くからの女神。長い間、日本の国家神として考えられ、明治の時代には国家権力の淵源ともされた。伊勢神宮にも祭られていることでも有名な神様。

 だけれども、実は「日本書紀」や「古事記」などの文献を紐解いていくと、このアマテラスの他にタカミムスヒという神も出てくる。しかも、ヤマト王権の時代(5世紀〜7世紀)には、アマテラスよりも前にこのタカミムスヒが国家神として掲げられていたという。アマテラスが国家神として掲げられるようになったのは、タカミムスヒよりも後の律令国家が誕生して以降(7世紀末~8世紀)のことなのだ。

 一体、このような国家神の交代劇が起こったのはどういうことなんだろう? そもそもこのタカミムスヒという聞き慣れない神は、どのような神様なのだろう?

 本書「アマテラスの誕生」は、この不思議な国家神の交代劇についての謎を解明した本である。当時の国際情勢や政治情勢を背景に、タカミムスヒやアマテラスといった国家神が果たしてきた歴史上の役割について、分かりやすく解説している。

 4世紀から5世紀ころにかけての日本は、豪族たちが力を持っていて、ゆるやかに結びついた豪族連合の社会。思想的には多彩な神々が自由に活躍する多神教的世界だった。だが、高句麗との闘いに惨敗した倭国は、専制的な統一王権の体制へと切り替える必要性に迫られる。

 統一王権への求心力を高めるには、強力な権威づけが必要である。多神教的な思想では、権威づけには適切とは言い難い。そこで、高句麗の王が天の子を名乗って絶大な権力をほしいままにしているのを真似て、日本でもタカミムスヒという国家神を掲げるようになったのではないか? 

 筆者はこうした当時の国際的な状況を背景から、国家神が生まれた経緯を解説している。

 思想や宗教によって、国をまとめるというのは、日本に限らず世界中で共通して行われてきたことなんじゃないだろうか? 歴史の本などを読んでいると、時々目にする話だ。たとえば、ローマ帝国の時代でも、キリスト教が政治的な役割を果たしていたことがあるという話を聞いたことがある。どうも思想や宗教といったものには、大勢の人間を束ねる強力な力があるらしいのである。

 日本の古代社会でもこういう大変革の時代があって、国家神が重要な役割を果たしていたというのは、知らなかったので非常に興味深い内容だった。タカミムスヒからアマテラスへの交代劇にもやはり、政治的な意味が隠されていたらしく、こんなことがあったのかと目からうろこが落ちた。

 もちろん、時代が5世紀とか6世紀の話なので、文献も少なく、この本に書かれているのも限られた文献・伝承や遺物などから組み立てた一つの説ということではあるのだが……。様々な資料を突き合わせていって、より確からしい説をたてていくところなど、歴史研究の面白さも感じさせてくれる一冊といえるだろう。

 岩波新書のものは読みにくいものも多いけれど、本書はこのような一見難しそうなテーマにしては意外なほど読みやすくて、面白くてあっという間に読んでしまった。
タグ:溝口睦子
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昭和史 [日本史]


昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー)

昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー)

  • 作者: 半藤 一利
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2009/06/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 半藤一利が解説する昭和史。

 口語体で書かれていて、たいへんわかりやすい歴史読み物になっている。太平洋戦争に至るまでの流れがすんなり頭に入ってくる内容だ。

 太平洋戦争の原因というと、アメリカによる経済制裁だとか、軍部の暴走だとか、国民の熱狂だとかが考えられるかもしれないけれど、筆者はそもそもの発端として満州の話から解説している。日露戦争後に日本は満州の権益を得るが、この満州を巡る攻防が源流となって、やがて太平洋戦争にまでつながっていったのだ。

 満州事変によって、諸外国から非難を浴びた日本。国際連盟からも脱退し、世界から孤立するようになる。だが、軍部の強硬派はいよいよ勢いづき、マスコミは戦争をあおり、国民は熱狂。やがて日中戦争が起きると、日本はさらに孤立を深めていく……。

 満州という源流をたどっていくことで、歴史の流れがつながって見えてくる。日英同盟の破棄とか満州事変のころから、日本はどんどん様子がおかしくなっていったんだなあということが分かって興味深かった。

 この本を読むと、日本も戦争に向っていくまでの道のりの途中に分岐点がいくつかあって、当時のキーパーソンたちの選択によっては、別の歴史もあり得たのかもしれない。歴史に「もしも」はないと言われるけれど、もし軍部や政治家があれほど強硬的でなかったら? もし重要なポイントで諌める人間がいたら? もし国民が熱狂しなければ? などと戦争が回避できたシナリオもつい考えてしまう。

 資源や物資に乏しいのに、精緻な戦略もなく場当たり的に戦争に突き進んでしまった日本。熱狂だけで突き進んでいく怖さが分かると同時に、対するアメリカなども実はかなり狡猾に立ち回っていたことも見えてきて、様々な立場から昭和史を俯瞰できるところなどもよかった。
タグ:半藤一利
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寄港地のない船 [SF(外国)]


寄港地のない船 (竹書房文庫)

寄港地のない船 (竹書房文庫)

  • 作者: ブライアン・オールディス
  • 出版社/メーカー: 竹書房
  • 発売日: 2015/07/02
  • メディア: 文庫



 ブライアン・オールディスという作家が書いたSF小説。遠い未来の話。 

 地球の寿命も永遠ではない。人口爆発とか環境異変だとか、地球に住みづらい要因が発生したら、人類は宇宙を目指すことになるかもしれない。居住可能な惑星を探すために……。

 問題は、恒星間旅行には途方もない時間がかかってしまうということだろう。月みたいにすぐに別の星まで行けるものではない。光の速度でも何年もかかるくらいに離れているのだ。

 SF作家たちは恒星間旅行を実現するための様々な方法を考案した。冷凍睡眠装置を使って、人体を凍結させるというもの。高速に近い宇宙船を作ってしまうというもの。遺伝子データだけを乗せて、到着後に再生させるもの。ワームホールの中を通り抜けていくと、いつの間にか別の宇宙に到着するというもの。

 世代宇宙船というのもある。内部に地球環境を模したような巨大な宇宙船を作って、大勢の人間を詰め込んで、宇宙船内で自給自足生活を送る。到着地にたどり着くまでに、世代交代をくり返すという方法だ。

 ブライアン・オールディスの「寄港地のない船」は、まさにこの世代宇宙船をテーマにした作品である。

 人類は住みづらくなった地球を後に、宇宙へと向かう。居住可能な新天地を探すために。だが、彼らの前に思わぬ事態が起こる。世代交代を繰り広げる間に、船内の人間たちにも変化が生じ始める。当初の崇高な目的はいつの間にか忘れ去られ、文明は退化する。奇妙な植物がはびこるようになり、人間たちは原始的な部族社会を営むようになってしまう。

 そんな部族社会で生まれた主人公は、あるきっかけで部落の外の世界へと出てしまう。そして、彼の住んでいた場所が巨大な「船」の一部にすぎないことを知る。この世界はどうなっているのだろう? 自分は一体何者なのだろう? 彼は世界の真実を知るために、危険な他の部族や無限にはびこる植物を乗り越えて、冒険の旅を続ける。

 主人公と一緒に冒険するうちに、だんだんと部落の外の世界が明らかになっていって、船の途方もない大きさが分かってくる。世界観が後から分かってくるところが面白い。最後の最後には、予想もしなかったような真相が待っていて、前に疑問だった箇所が解明されて、一種の謎ときものにもなっている。

 何世代のもわたる途方もない宇宙旅行の話で、その壮大さには圧倒された。世代交代をくり返すうちに、宇宙船内部で原始的な部族が対立するようになるとか、よくこんなこと考えるなあと。未来の空想の世界が自由に広がっていて、読み応えがある作品で面白かった。
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本当の戦争の話をしよう [国際]


本当の戦争の話をしよう: 世界の「対立」を仕切る

本当の戦争の話をしよう: 世界の「対立」を仕切る

  • 作者: 伊勢崎 賢治
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 2015/01/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 世界各地の紛争現場で武装解除の任務にあたっていた伊勢崎賢治が語る国際紛争の実態。

 筆者は国際NGOの現地責任者として、シェラレオネ、東ティモール、アフガニスタンなど、各地の紛争地域に赴いたそうだ。対立するグループの武装解除の任務にあたったり、インドネシアから独立したばかりの東ティモールでは県知事となって、新たな国づくりにも参加したり。世界の戦争を間近に見てきたらしい。

 そんな「紛争屋」が高校生に、世界の紛争について語った講義が本書の元になっていて、普段めったに知ることのできない紛争のリアルに接することができる。

 国連憲章によると、紛争が起こっている地域がある場合に、国連は基本的に内政には干渉しないということが原則になっている。あくまでも当事国の自治にまかせるのが基本だ。だが、紛争がどんどんエスカレートしていって、内戦が激化したような場合には、国連も介入せざるを得なくなる。経済制裁を加えたり、さらに問題が紛糾している場合には軍事的措置を加えて鎮静化を図るのだ。

 だが、実際には第三者の介入というのはそんなに簡単に行くものでもない。お互いに憎しみ合って殺し合いをしている当事者同士をどうやって武装解除させるのか? 並々ならない努力が求められる。

 もちろん介入する方も紛争に巻き込まれるので、犠牲者も出てしまう。介入することで、かえって問題がこじれて、新たな火種が生まれてしまうことがある。ひどいときには、多国籍軍による人道的な介入と見せかけて、実は資源に関わる利権のための介入だったなどということもある。

 本書には、こうした国連による集団的安全保障についての様々な事例がふんだんに出てきて、世界の紛争がどのように国際的に対処されているのかが見えてくる内容だ。ルワンダ、東ティモール、アフガニスタン、ソマリア、リビア、シェアラレオネ、インドなど、世界各国の紛争地での経緯が具体的に書かれていて大変興味深い。

 「ブラックホーク・ダウン」という映画にもなったソマリアの内戦への介入が、実はアメリカの資源に関わる国益が動機になっていたなどということも書かれていて、本書を読むまで知らなかったので、ちょっと驚いた。こういう本を読むたびにアメリカのイメージが悪くなっていくなあ……。

 日本の安全保障の問題についても語られている。昨今話題になっている個別的自衛権や集団的自衛権、憲法の問題なども書かれていて、紛争屋からみた日本の自衛隊についての話も興味深かった。

 国際的な紛争の経緯などについて丁寧に説明しているし、紛争の現場ではどんな問題があるのかを知ることもできる。国際紛争が一筋縄ではいかないことが分かるいい本だった。
タグ:伊勢崎賢治
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