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マーケット感覚を身につけよう [ビジネス]


マーケット感覚を身につけよう---「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法

マーケット感覚を身につけよう---「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法

  • 作者: ちきりん
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2015/02/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 マーケット感覚という考え方について書かれた本。

 これからは社会の市場化が進んでいくので、市場の感覚を身につけることが大事になってくるよということが書かれている。

 市場というのは、売り手と買い手がマッチングされる場所のこと。野菜を買ったり、本を買ったり、車を買ったり、人は誰しも、日々市場で何らかの取引をしている。物やサービスの交換だけでなく、学校選びでも就職活動でも婚活でも、広い意味での買い手と売り手がマッチングされる場所は市場になるだろう。市場がなければ何でもかんでも自給自足しなければならないけれど、そんなことは不可能なので、市場のおかげで社会が成り立っているといえる。

 ところで、筆者によると、現代社会においてこの市場に変化が起きているという。それは、社会の市場化がますます進んでいるということ。今までは、市場といっても限定されたコミュニティ内で取引が行われることが多かった。同じ地域内で野菜を売ったり、就職するのにコネを使ったり。距離的な問題があったり、物理的な制限があったため、取引相手は限られていた。

 しかし、最近になってその傾向が変わってきたのだという。その主たる原因はインターネットの普及。ネット社会が登場したことによって、遠くにいる人々同士がつながった結果、市場の範囲は大幅に拡大した。地域の壁が崩れて、遠隔地との間で売り買いが行われるようになり、就職なども無数の企業にエントリーするようになった。企業であれば、全世界に仕事を外注することさえ可能になった。

 では、社会が市場化すると、人々にどんな影響を与えるのだろう? 

 従来型取引では、同じコミュニティ内で取引できれば、安定的な取引が見込まれるので、ぬくぬくと生活できるというメリットがあって、グローバル世界との過当な競争にも巻き込まれないで済むかもしれない。ルールも変化が少ないだろうから、安心感があるかもしれない。

 他方で、こうしたコミュニティに入れない人からすると取引自体ができないことになるので、不公平に感じるかもしれない。組織内で上手くやっていけなかったり、そもそも組織に入れなかったりする人にとっては、組織外の人と取引できる社会の市場化はありがたいだろう。また、市場化する社会では、取引のルールも柔軟に変化していくので、ルールに縛られたくない人にもメリットがありそうだ。

 結局、市場化する社会によるメリット、デメリットはその人の置かれている立場によって違ってくるんじゃないか? 従来型の取引が向いている人もいれば、そうでない人もいる。規制されたほうがいい分野もあれば、規制を外して自由にしたほうがいい分野もある。市場化にはメリットとデメリットが両側面あって、どちらの社会がいいとは言い切れなくて、立場によって、分野によって違ってくる話なのかなと思った。
 
 本書を読んでよかったのは、こういう社会の構造についてあれこれ考えさせられることだ。市場化する社会という今まであまり考えてこなかったテーマについて、社会の大きな動きについて気づかされる。航空業界や宿泊業界、飲食業界など、身近なところに起きた変化などの例が書かれていて、市場という視点で見ると、社会のあちこちでいろいろな変化が起きているんだなあということが分かる興味深い内容だ。

 自分はどちらかというと、同じコミュニティの中でぬくぬく暮らすのが好きなほうだし、過当競争は苦手なほうだが、コミュニティに入れない分野もあるし、市場によるメリットというのはたしかにありそう。現実に、いろいろなところで市場化による恩恵を被ってもいるだろう。本書を読んでとくに面白かったのは、市場は選べるということに気づかされたことと、市場で交換される価値というのも多様であるということが分かったこと。市場にもいろいろな種類があるので、どこで取引をするのか、自分の向いている市場を選べばいい。何を売り込むのかということについても、買い手は思わぬ希望を持っているかもしれず、誰にでも今まで気づかないだけで意外な価値を持っているのかもしれない。

 市場という観点から社会を眺めることで、社会に対する見識が深まる内容であるし、生きていく上で思わぬ選択肢があることを知ることができて、選択肢を広げることができる本でもある。仕事でも日常生活でも、日々市場で取引をしていかなければならないのに、今まで根本的なルールがよく分かっていなかったんだなあと、本書を読んで反省……。これからの社会の荒波を乗り越えていくのに、役に立ちそうな本だった。
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フューチャー・オブ・マインド [科学]


フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する

フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する

  • 作者: ミチオ・カク
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2015/02/20
  • メディア: 単行本



 理論物理学者のミチオ・カクが描き出す、「心」をめぐる未来予想図。

 人類はこれまでテクノロジーを進歩させて様々な夢をかなえてきたが、これからやってくる未来にはどんな世界が待っているのだろう? 本書は、「脳と心」をテーマに、今後やってくるであろう未来世界を提示している。

 「もしもこんな道具があったら?」「もしもこんな人間になれたら?」今までは空想の中、SF小説の中でしか実現できなかったようなことが、本当に実現してしまうかもしれない。そんな夢のようなことが書かれている興味深い本である。

 他人の夢の中に入り込んでしまう装置、嫌な記憶を消してしまえる薬、テレパシーで操作するロボット、他人の記憶を植え付ける技術、思考を画像にしてみせる機械、頭のよくなる薬、ナノロボットによるアンチエイジング、人工知能の発達などなど……。

 こうした技術は一見すると荒唐無稽に見えるかもしれないが、単なる空想ではなく、現実に実現可能性が高まっているというから驚きだ。筆者は理論物理学者なので、本書に書かれていることはいたって科学的。物理法則に従った理論的に可能なもの、すでにプロトタイプが存在しているものという条件のもとに書かれている。そのため、空想的に見えるような話も、理論的な根拠があるというのだ。

 もしかしたら、近未来の人間は頭に帽子のようなものをかぶって生活するのかもしれない。その帽子で脳のシグナルを読み取って、テレパシーを使って機械を遠隔操作するようになる。脳の信号そのものがユーザーインターフェースとなる。

 そして、こうした脳のシグナルを読み取る機械を使って、全身麻痺の患者であっても人工の腕を動かすことができたり、人工の外骨格をまとって移動手段にしたりする。宇宙のかなたのアバターを操作することもできる。小さなナノロボットを体内に注入して遠隔操作で手術することもできる。あるいは、思考をデータ化して他人と通信することもできるし、考えているイメージを送ることだってできるだろう。

 まるで魔法のように見える出来事がこれからは当たり前の世界としてやってくるのかもしれない。技術の進歩というのは、まだまだこれからのようなのだ。

 具体的な理論に基づいていながら、想像を超えるような未来像が描き出されていて、読んでいて本当にわくわくさせられる一冊。未来にどんな世界が待っているのか、ほんの少し先の未来のことを知りたい読者におすすめの一冊だ。
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アンドロイドは電気羊の夢を見るか? [SF(外国)]


アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

  • 作者: フィリップ・K・ディック
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1977/03/01
  • メディア: 文庫



 「ブレードランナー」という映画にもなったSF小説の名作。

 近未来の世界で、火星から逃亡した8人のアンドロイドたちと、それを追跡する懸賞金稼ぎの主人公リック・デッカードが対決する。スリルとサスペンスに満ちた追跡劇だ。

 主人公のリックは逃亡したアンドロイドたちを一体ずつ追いかけていって、殺害していく。アンドロイドは人間そっくりに作られているので、ぱっと見には人間と区別がつかない。だから、アンドロイドは人間になりすましてリックをうまく騙そうとする。リックとアンドロイドの虚々実々のかけひきが見もの。誰が本物で誰がニセモノなのか? 疑心暗鬼になる感じが面白い。

 だが、この本の一番の読みどころはそうしたアクション場面ではなくて、底流に流れている深遠なテーマにあるのかもしれない。

 それは、「人間とはなにか?」「人間らしさとは何か?」という疑問である。

 主人公のリックは最初、躊躇なくアンドロイドを殺害する冷酷無比な人間として描かれる。リックにとってアンドロイドは単なる無生物の、賞金稼ぎの標的にしかすぎなかった。しかし、レイチェルという女性アンドロイドに出会ってから、彼の心境に変化が生じてくる。憎むべき敵であったはずのアンドロイドに対して、徐々に感情移入するようになってしまうのだ……。

 作者のディックはリックの物語を通して、人間のあり方を問いかけてくる。人間とアンドロイドを区別するものは何か? 技術が進歩して人間そっくりのアンドロイドができたとして、人間とどうやって区別することができるだろう? 外見も知能も人間と区別がつかなかったら、アンドロイドも人間も同じなんじゃないかと。

 ディックが考える人間らしさを示す一つの解答は、感情移入する能力というものだ。人間はどんなものにも感情移入する。同じ人間だけでなく、他の動物たち、あるいは虫にさえも。こうした共感能力こそが人間とアンドロイドを区別する指標なのだという。人間には、他者と自分を同化させてしまう、奇妙な能力があるようなのだ。

 主人公のリックも、動物たちだけでなく、とうとう無生物のアンドロイドにさえ共感してしまう。それはディックの示す人間らしさの現われといえるものだった。だが、アンドロイドに感情移入するということは、リックにとっては賞金稼ぎとしての使命の終結を意味していた。標的に感情移入することは自らの死につながるのだ。

 ここで、さらにテーマが掘り下げられる。人間は感情移入する能力を持っているけれども、同時に他の動物を殺さなければならないこともある。そうしなければ生きていけないのだから。一方で動物たちに感情移入してかわいがるのに、他方で冷酷にその動物を殺して食う。人間の抱え込む矛盾である。

 リックは自らの矛盾にとらわれて、心理的な苦しみを味わう。アンドロイドに感情移入する一方で、アンドロイドを殺害しなければならない葛藤。本書に出てくるマーサーという老人がリックに助言する。人間はまちがったことをするめぐりあわせになる。おのれの本質にもとる行為をさせられるのが人生の本質だと。そうして、リックはおのれの矛盾に苦しみながらも自らに課せられた使命を全うしようとする――。

 人間らしさとは何か? 人間の本質とは何か? スリルあふれるアクションストーリーの中に、こうした哲学的なテーマが隠れていて、とても読み応えのある作品。ディックの小説は、未来を舞台にしていたり、アンドロイドのようなガジェットがたくさん出てくるけれども、現代にもつながる普遍的なテーマを描いているから魅力的なんだと思う。本書も、現実離れした世界観が広がっているにもかかわらず、人間の本質をあぶりだそうとしているところがとてもよかった。
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モサド・ファイル [国際]


モサド・ファイル――イスラエル最強スパイ列伝 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

モサド・ファイル――イスラエル最強スパイ列伝 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 作者: マイケル・バー゠ゾウハー&ニシム・ミシャル
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/10/10
  • メディア: 文庫



 イスラエルの情報機関モサド、そのメンバーたちの数々の暗躍をまとめた本。

 テロリストの暗殺、シリア原子炉の破壊、国外からイスラエルへ移住するユダヤ人の保護、スパイを捕まえる作戦など、モサドの活動を幅広く網羅した内容で興味は尽きない。

 1章ごとに語られているテーマが変わるのだが、どの章をとってみてもまるまる1本のスパイ映画が作られそうな内容の濃さ。世界の裏側ではこんなにきな臭いことが次々に起こっているのかということが分かって、思わず圧倒されてしまう。

 とくに興味深かったのをいくつか挙げてみる。

 第2章「テヘランの葬儀」は対イラン作戦について書かれた章。2004年、パキスタンの核兵器計画の長であるカーン博士が、ひそかにその技術やウラン濃縮のための遠心分離機をイランに売ったことが判明する。この情報を受けて、モサドは数々の対イラン作戦を遂行。核開発に関わる科学者たちが次々に暗殺される事件が起こったり、イランの核関連施設が爆破されたり、サイバー攻撃の対象となったりした。モサドは対外情報機関といっても、情報を集めるだけでなくて、破壊活動や暗殺の連続で、ここまでやる組織なんだなということがわかる内容だ。

 第6章「アイヒマンを連れてこい!」はアドルフ・アイヒマン誘拐計画。アイヒマンは元ナチスのSS中佐で、大勢のユダヤ人虐殺に関わっていた人物。だが、戦争が終わると名前を変えてドイツ国外に逃れて、その行方をくらましてしまっていた。モサドはアイヒマンがアルゼンチンに潜伏しているとの情報を得て、アイヒマン追跡に動く。直接アルゼンチン政府に訴えかけたのでは、アイヒマンに逃げられてしまう可能性もあるということで、隠密に拉致してイスラエルに連れていく計画だ。監視活動であったり、変装しての脱出だったり、スパイ小説を地で行くようなエピソードが満載で、現実の諜報活動の何たるかが見えてきて興味深かった。

 第17章「アンマンの大失態」はモサドの失敗談が描かれている。ヨルダン国内にいるハマスのメンバーを暗殺する計画がもちあがり、綿密な計画が練り上げられる。だが、不測の事態が持ち上がり、暗殺計画は思わぬ方向にそれていってしまい、モサドは大失態を演じることに……。

 第21章「シバの女王の国から」はエチオピアの大勢のユダヤ人たちをイスラエルに移住させる大計画。国外移住が禁じられた国からどうやって大勢の人間を移住させるのか、その脱出計画が機知に富んでいて面白い。本書に書かれているのはほとんど暗殺とか破壊活動とかであるが、この章だけは人を殺さない作戦というのも珍しかった。

 この本を読むと、中東というのは本当に戦争の火種が絶えないところなんだなあということが見えてくるし、イスラエルが周辺各国にスパイ網を隅々まで広げていることも知ることができる。複雑な国際社会の一端を、イスラエルの視点から垣間見ることのできる興味深い一冊だった。
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アンネの日記 [伝記(外国)]


アンネの日記 (文春文庫)

アンネの日記 (文春文庫)

  • 作者: アンネ フランク
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/04
  • メディア: 文庫



 ナチス占領下のオランダに隠れ住んだ少女、アンネ・フランクの日記。

 アンネ・フランクの一家は、もともとはドイツのフランクフルトに在住していたユダヤ人の家族。ナチスが台頭するようになって、ユダヤに対する弾圧がはじまったため、オランダに亡命することになった。

 だが、やがて亡命先のオランダにもドイツ軍が進駐して占領下に置くようになると、この地でもユダヤ人に対する迫害が始まってしまう。ユダヤ人の自由を制約する法令が次々に出されるようになって、娯楽などは制限され、自由な外出も禁止される。ナチスの親衛隊SSから、呼び出し状が届いて連行されることもあったらしい。その行く先は強制収容所などだった。

 アンネの姉のところにこの呼び出し状が届いたため、一家は逃亡を決意。前からひそかに準備を進めていたアンネの父親の事務所を隠れ家にして、潜伏生活を始めることになる。

 アンネの日記は、このときのアンネの隠れ家での日々の様子を詳細につづったものだ。ナチスの目を逃れて暮らす一家の、苦難の生活が伝わってくる。

 誰かに聞きつけられないかと少しでも音を立てるのが怖い。窓から外を見ることもできない、閉塞的な生活。誰かが家の中に入ってきたときなどは、隠れ場所が見つからないかとぞっとする瞬間も……。

 食料などは地下組織の援助も受けながら、闇市場から調達していたらしい。しかし、支援してくれる人もドイツ人につかまったりして、食料供給が途絶えてしまうこともあったという。必要な物資も事欠き、食料さえ乏しい状況が続き、戦時下のユダヤの人々がこんな苦労をしてきたのかというのが見えてくる。

 ただ、この日記はこうした恐怖の感情だけが描かれているわけでもない。潜伏生活の中でも、アンネは何か楽しいことを見つけては日記に記録していて、遊んだり、本を読んだり、親と喧嘩したり、少年との恋愛だったりといった日常の風景も書かれている。戦時下で恐怖の日々の合間とはいえ、生き生きとした生活を送ってもいたんだなあということがわかる。

 英米両軍も上陸してきて、ドイツは劣勢に追い込まれていったのだから、戦争が終われば彼ら一家も解放されるはずだったろう。だが、現実は厳しいもので、終戦を目前にして、アンネの日記は途中でふっつりと途絶えてしまうのだった。

 普通の人間的な暮らしをしたいだけの、どこにでもいるような少女であるのに、ユダヤ人というだけで迫害されなければならない不条理さ。戦争というのは、戦争をはじめた大人たちだけでなくて、こういう無邪気な子供たちも巻き込まれてしまうんだという、当たり前だが、冷酷な事実を突きつけられる本だった。
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ナチが愛した二重スパイ [伝記(外国)]


ナチが愛した二重スパイ

ナチが愛した二重スパイ

  • 作者: ベン マッキンタイアー
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2009/01/31
  • メディア: 単行本



 第二次大戦中に英独の二重スパイとして活動した、エドワード・チャップマンという人物を描いたノンフィクション。

 チャップマンの戦時中の活動に関しては、これまでイギリスのMI5の秘密公文書の中に封印されていて、日の目を見ることがなかった。だが、2001年に機密扱いが解かれて公文書が公開されると、その驚くべき活動の全容が明らかとなる。本書はその公文書に基づいて事実をまとめた一冊である。スパイ映画さながらのスリリングな情報戦が繰り広げられていて、こんなことがあったのかというようなことがたくさん書かれてびっくりさせられた。

 チャップマンはもともと、ロンドンを根城に、詐欺・恐喝・売春・金庫強奪などあらゆる犯罪に手を染めてきた犯罪者だったそうだ。彼は戦争が始まる前に、警察に捕まってジャージー島の刑務所に収監されていたが、戦争が始まってしばらくすると、島自体がドイツ軍に占領され、刑務所もドイツの管理下におかれてしまう。

 チャップマンの運命もドイツの手にゆだねられることになったわけだが、ドイツはチャップマンの犯罪の素養とドイツ語能力等を高く買い、ドイツのスパイとして使えるんじゃないかと考え始める。その目的は、チャップマンをイギリスに送り込んで、破壊工作を行ったり、イギリス現地の情報収集をさせること。

 チャップマンは多額の金銭的報酬と引き換えに、ドイツの要求をのみ、スパイとしてイギリスに潜入することに決まる。こうして、様々な訓練を経た上で、イギリスに戻ることになったチャップマン。飛行機に乗ってイギリスの上空でパラシュート降下する……。

 だが、実際にはチャップマンの潜入計画はイギリスには筒抜けだった。イギリスの暗号解読班が、ドイツで交信されていたチャップマンに関する無線の暗号文をすべて解読していたのだ。だから、チャップマンはイギリスに来ると、すぐにイギリス当局に捕まってしまう。

 チャップマンを捕まえたイギリスも、この機会を逃さなかった。さすがは陰謀に長けた国といえよう。チャップマンがドイツの諜報機関から絶大な信頼を得ていることを逆手にとって、二重スパイとして利用することを思いつくのだ。ドイツに偽情報を流したり、チャップマンをドイツに帰してドイツの様々な軍事情報を獲得しようという狙いである。

 こうして始まった二重スパイ作戦は、まさに007やミッション・インポッシブルを地で行くような話で面白い。

 ドイツを欺くための様々なしかけ。チャップマンが見聞きしたとされるイギリス国内の嘘の情報をでっちあげてドイツに流したり。チャップマンが破壊工作に成功したと思わせるために、イギリスの工場を爆破したようなカムフラージュ作戦を行ったり。実際には存在しない秘密兵器をイギリスが持っているというメッセージを流して混乱させたり。ここまでするかというくらい徹底した欺きの手口が続々出てきて、圧倒されてしまう。

 イギリスとドイツの諜報部門についても詳しく触れられていて、当時の諜報戦の実態が生き生きと描かれ、こういう雰囲気だったのかというのが見えてくる。

 戦争によって運命を翻弄された人々の記録。これ一冊の中に貴重なことがたくさん書かれているなあと感嘆した。
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学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史 [世界史]


学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史〈上〉1492~1901年

学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史〈上〉1492~1901年

  • 作者: ハワード ジン
  • 出版社/メーカー: あすなろ書房
  • 発売日: 2009/08
  • メディア: 単行本



 コロンブスのアメリカ大陸発見からイラク戦争まで。アメリカの一連の歴史の経緯を解説した本。

 歴史の解説書といっても、普通の歴史書とは少しおもむきが違う。教科書などには書かれることの少ない、アメリカの裏面史が描かれているのが本書の特徴なのだ。

 歴史というものは、征服者の視点から描かれることが多い。教科書などでもそうで、戦争に勝ったり天下をとったりした人物たちを中心にして、英雄伝のような形で語られることがよくある手法だろう。

 そのほうが征服者にとっては都合がいいからでもある。英雄にしてみれば、自分が頂点に上りつめた経緯を描いたサクセスストーリーとして、歴史を語りついでほしいというのはごく自然な考えだ。

 だが、実際には、英雄の陰で泣いていた人々もいたはずなのである。征服者がいるということは、無数の被征服者がいるのが道理。英雄と呼ばれる人々が世界を支配する過程で、大量の虐殺行為や数多くの人権蹂躙行為があったはずなのだ。

 本書は、こうした被征服者たちの視点からアメリカの歴史をひも解いた歴史書である。英雄たちの陰に隠れて、歴史に埋もれてしまった人々にスポットを当てて、いつもと違った角度から歴史を見ていく。そうすることで、征服者からの視点からは知ることのできなかった、新たな世界観が見えてくるというしかけ。

 新大陸発見の際にコロンブスが行った原住民への虐殺行為、西部開拓に伴いインディアンたちがこうむった悲劇、新たな市場を獲得しようとメキシコ・キューバ・フィリピンと次々に他国に戦争をしかける軍事介入の歴史、奴隷とされた人々の想像を絶する苦しみ、第一次大戦や第二次大戦のころのアメリカの背景事情、富裕層たちが行ってきた貧困層への仕打ち……。

 奴隷制にしても虐殺行為にしても、教科書に全く描かれないとは言わないけれど、ふつうはさらっと紹介するだけなので、そういうところをかなり掘り下げて書いているところが興味深い。やはり視点を変えるだけで、だいぶ違った風景が見えてくる印象。こんなことがあったのかと今まで知らなかったこともたくさん書かれていて、大いに勉強になる本だった。

 富裕層と貧困層の格差、他国への軍事介入好き、差別の歴史などなど、現代のアメリカでも問題になっているけれども、実は昔から同じようなことを繰り返してきたことが見えてくる。アメリカという国は昔からこんなだったのねというのが分かって、現代社会ともリンクするところも面白かった。
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大草原の小さな家 [児童書]


大草原の小さな家 ―インガルス一家の物語〈2〉 (福音館文庫 物語)

大草原の小さな家 ―インガルス一家の物語〈2〉 (福音館文庫 物語)

  • 作者: ローラ・インガルス・ワイルダー
  • 出版社/メーカー: 福音館書店
  • 発売日: 2002/08/15
  • メディア: 文庫



 1870年代から80年代にかけてのアメリカを舞台にした、インガルス一家の物語。

 筆者のローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的小説で、父親のチャールズ、母親のキャロライン、姉のメアリー、妹のキャリーとともに、厳しい開拓生活を送った日々が生き生きと描き出されている。

 もともとウィスコンシン州の森の中に住んでいたインガルス一家だったが、周りに人が増えて、獲物がとれなくなったことから、別の土地へ移住する決意をする。ミネソタ州から、アイオワ州、ミズーリ州、カンザス州を横切って、目指すはミシシッピ河の西側にあるインディアン・テリトリーと呼ばれる場所。その場所はまだ開拓民が少なく、野生の獲物が多く、植物もよく茂っているという。

 なにしろ交通機関が今ほど発達していない時代である。移動手段は幌馬車で、道中も危険や困難がいっぱい。氷の湖を渡ったり、橋のない川を横切ることになったり、切り立った崖を歩いたり、見渡す限り何もないカンザスの大地をひたすら移動したり。

 インディアン・テリトリーに到着してからも、苦難の連続である。まず家を自分で建てないといけないし、水を確保するのに井戸を掘らないといけない。食料となる野生のシカや鳥、ウサギなどを狩る必要もある。野菜も自分たちで栽培する必要がある。厳しい自然との闘いの日々が描かれていて、開拓民の暮らしはこんなだったのかというのが見えてきて面白かった。何でも自分で作ってしまう、たくましさが感じられる。

 シリーズの中でも特に、本書はインディアンとのかかわりが描かれているところも特徴だろう。

 当時のアメリカでは、インディアンたちはインディアン・テリトリーという土地に住んでいた。もともとは別の場所に住んでいたのだが、アメリカ政府はインディアンたちから土地を取り上げて、1830年に「インディアン強制移住法」を制定して、インディアンに移住を命じて、インディアン・テリトリーに住むよう強制していたのだ。

 それでも開拓民たちは土地が足りなくて、インディアン・テリトリーにまで進出するようになったのだとか。本書で描かれているのは、西へ西へと進出し、インディアンの土地にまで進出した開拓民の物語なのである。

 インディアンの土地に勝手に白人が入っていくのだから、軋轢も生じる。この辺のところが、赤裸々に描かれていて、ところどころローラがインディアンに対して悪感情を持つところなど差別的な部分も出てくる。当時のアメリカの人々の一般的な考えはこんなだったのだろうかというのが分かる、歴史の資料にもなっていて興味深かった。

 結局、一家は最後にこの土地も追われることになり、新たな旅に出ることになる。筆者は本当に波乱の人生を送ったんだなあと最後まで感嘆させられてしまった。

 最近西部劇にはまっていて、西部開拓時代に興味が出てきて、時代背景が分かるような本を探していたのだが、意外と見つからなくて行きついたのがこの本。読んでみたら、開拓民の日常が目の前に浮かび上がってくるようで、歴史解説書読むより生き生きとしていていいかもしれない。想像以上に過酷だが面白い生活を送っていたことが分かって、ためになる本だった。
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たんぽぽ娘 [SF(外国)]


たんぽぽ娘 (河出文庫)

たんぽぽ娘 (河出文庫)

  • 作者: ロバート・F. ヤング
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2015/01/07
  • メディア: 文庫



 ロバート・F・ヤングという作家の短編集。

 詩情あふれる作風で、ファンタジーと日常がないまぜになったような雰囲気。レイ・ブラッドベリとかジャック・フィニイを読んだときのような、爽やかな読後感がある作品群だ。

 半分くらいの作品は難解すぎたり、あまり好みのものではなかったりしたが、面白いものは抜群によくて、本書を読んでいてオールタイムベスト級の短編も見つかった。

 とくに気に入ったのは、「河を下る旅」という作品。

 筏で河を下る男が、岸辺で女性と出会い、共に河下りをする。河といっても、現実の河ではなく死の世界の河。事情があって死ぬことになった2人が、生と死のはざまの世界で出会うことに。そして、再び生きる希望を見出していく――。

 こういう人間ドラマとファンタジーが絶妙に組み合わさった作品には惹きつけられてしまう。しっとりした雰囲気がいいし、物語の展開もドラマティックで、これから何度も読み返すことになりそう。

 表題作の「たんぽぽ娘」も、名作といわれているだけあって、見事な出来ばえ。

 マークが丘の上で出会ったのは、たんぽぽの色の髪をした若い女性ジュリー。どこか不思議な雰囲気があったが、それもそのはず彼女は未来から時間を越えてやってきたのだ。

 時空を超えたラブストーリー。最後のオチにはちょっとびっくりしてしまった。こういう展開をするのかと、絶妙な話のまとめ方に舌を巻いた。

 この2作がベストだが、他に「荒寥の地より」と「主従問題」という作品もなかなかよかった。

 自分は本格SFよりもこういう日常系のSFのほうが好きなので、この短編集は読んでいてだいぶツボにはまった。この作家のものはあまり読んでいないので、他にどんなのがあるか楽しみにもなった。
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ジョン万次郎/海を渡ったサムライ魂 [児童書]


ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂

ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂

  • 作者: マーギー・プロイス
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/06/26
  • メディア: ハードカバー



 幕末の日本からアメリカに渡った日本人、ジョン万次郎。その波乱万丈の生涯を描いた小説が、この本「ジョン万次郎/海を渡ったサムライ魂」である。

 こんなことが本当にあったのかと驚くような出来事が書かれていて非常に興味深いのだが、アメリカに残された記録や資料、万次郎の手紙などから再現した実際にあった出来事らしい。実に面白い人生を歩んだ人がいたんだなと、歴史のロマンをひしひしと感じさせる内容だ。

 物語が始まるのは1841年の四国沖。漁師たちと一緒に船に乗り込んでいた14歳の万次郎は、突然やってきた激しい嵐と荒波に襲われ、南東の太平洋の只中へと流されてしまう。広い海を漂流することになった万次郎たちは、高まる不安の中で未知の海の中を進んでいくが、やがて北太平洋の岩だらけの無人島「鳥島」にたどりつくことに……。

 万次郎たちが到着したときには、島にはアホウドリがたくさんいたので、肉を食べることができたが、次第にその数もぐんぐん減ってしまう。空腹とのどの渇きに苦しめられる一行。もう一巻の終わりかと思った時に現れたのが、アメリカの捕鯨船だった。

 それから、万次郎は捕鯨船に乗せられて、アメリカまで旅をすることになる。そして、今まで見たこともないような未知の世界へ足を踏み入れることになるのだ――。

 少年が数奇な運命によって、異国へと渡る、わくわくするような冒険物語。何しろ、鎖国を行っていた日本である。目にするものがすべて信じられないようなものばかり。アメリカのことなど何一つ知らなかった万次郎にとって、毎日が新しい発見だったろう。読んでいて、未知の世界に乗り込んでいくような雰囲気がたまらなく楽しい。

 アメリカは自由の国。どんな人間にも夢や希望をかなえる機会が与えられる国。そんなアメリカのよい部分に感化された万次郎は、文化衝突や差別と戦いながらも、異文化のあらゆる事物を吸収していき、やがてアメリカでも立派に通用する人間へと成長していく。そして、日本とアメリカの懸け橋となるような、歴史的な重要な役割を果たすようにさえなる。一人の少年がどのようにして歴史に名を残す人間になっていったのか、その経緯を描いた成長物語といえよう。

 ジョン万次郎。名前は聞いたことがあったが、こんなに面白い人生を歩んでいたとはこの本を読むまで知らなかった。万次郎は旅の途中のオアフ島で日本に帰るか、それとも未知なるアメリカに渡るか選択を迫られるけれど、好奇心のほうが勝っていたようだ。そのままアメリカへ行く道を選び、危険を顧みずに未知なる世界へと突き進む。こういう一世一代の決断をしてしまうところが、常人にはまねできないところなのかもしれないなあと感嘆させられた。
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