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Sleuth [洋書]


Sleuth (Playscript, 46)

Sleuth (Playscript, 46)

  • 作者: Anthony Shaffer
  • 出版社/メーカー: Marion Boyars
  • 発売日: 1985/04
  • メディア: ペーパーバック



 推理作家のアンドリュー・ワイクは、妻の愛人であるマイロという男を自宅に招きよせる。マイロは急に何の用かと疑問だったが、アンドリューはマイロに意外な話をする。自分にも愛人がいて、浪費家の妻には用はない。妻の宝石を盗み出して、保険金を受けとる計画の片棒を担いでもらいたいという。金がほしいマイロは、アンドリューの提案に乗ることにして、犯罪を実行に移そうとするが……。

 アンソニー・シェーファーという作家が書いたミステリー劇。「探偵スルース」というタイトルで2回も映画化されているので、ご存知の方もいるだろう。

 作者のアンソニー・シェーファーは、映画の脚本を書いている人で、「ナイル殺人事件」「ウィッカーマン」「フレンジ―」といった作品で知られている。名作「アマデウス」の脚本を書いたピーター・シェーファーという双子の弟もいて、兄弟合作で推理小説を書いたりもしている。

 本作はそんな筆者の書いたミステリーで、数々のたくらみに満ちた名作だ。

 何がすごいのかというと、主だった登場人物は2人だけなのであるが、お互いに罠をしかけて、熾烈な頭脳戦を繰り広げるところ。騙しの要素があるところ。

 起きている出来事は、すべて見た目通りとは限らない。これはこういう場面だなあという先入観を持ってみていると、実は裏に全然違うたくらみが隠されていて、状況がひっくり返されてしまう。まさにどんでん返しに次ぐどんでん返しという感じで、読んでいて何が真実で何がたくらみなのか、幻惑されるような感覚になってくるのだ。

 後年こういうパターンのミステリーはたくさん書かれているけれども、この作品がはしりだったのではないだろうか。多くの作家にも影響を与えた古典的名作と言えそうだ。

 いかにもイギリスのおしゃれなミステリーという雰囲気があって、現代ミステリーではあまり見かけなくなったウィットに富んだところがあって非常にいい。アンドリューとマイロの間の会話などは、知的スリルに満ちたチェスの試合を見るような迫力がある。

 2作目の映画の方は観たが、原作の持っているおしゃれな雰囲気が伝えきれていない感じがして、残念だった。1作目のほうが名作の誉れ高いので、ぜひ観てみたいものだ。
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理系の子 [科学]


理系の子 高校生科学オリンピックの青春 (文春文庫 S 15-1)

理系の子 高校生科学オリンピックの青春 (文春文庫 S 15-1)

  • 作者: ジュディ・ダットン
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/10/10
  • メディア: 文庫



 オハイオ州クリーヴランドで、インテル国際学生科学フェアというサイエンス・フェアが毎年開かれている。それは、50か国以上の国々から高校生たちが集い、400万ドルを超える賞金と奨学金をめぐって熾烈に競う大会だ。高校生だからといってあなどることはできない。中には大学院の研究をも上回るようなものもあるし、特許を取得して企業からの注目を集めるような実用的な研究もあるのだ。

 本書は、そんなサイエンス・フェアに出場した幾人かの学生たちについて紹介した一冊。核融合炉を製作したフィロ、ガラクタの山を組み合わせて太陽光発電ヒーターを作り上げたナヴァホ族のギャレット、ハンセン病にかかってその病気の本質について研究したBB、馬によるセラピー方法を考えたキャトリンなどなど……。

 個性豊かな様々な研究が出てきて、よくこんなこと考えるなあと感心させられるし、大人顔負けの知識の豊富さと研究テーマの深さ、研究内容の完成度の高さには、読んでいて驚かされてしまう。

 科学研究の中身だけでなく、それぞれの生い立ちから科学にかける熱い思いまで、その背景が丁寧に描き出されていて、人間ドラマとして楽しめるところもよかった。少年少女が夢に向かって取り組む姿は、まさに青春群像という感じで爽やかだ。

 ひとりひとり科学フェアに参加する動機は本当に様々。ナヴァホの少年ギャレットは貧しさや寒さ、ぜんそくに苦しむ家族を救いたいという、純真な動機から装置の開発に取り組んでいる。ハンセン病の少女の目的は自分のかかっている病気の悪いイメージを一新させようという世の中へのアピールだった。少女ケリードラは、化学工場の排出している化学物質について研究し、周囲の圧力がある中でも、どうにか自分の力で環境負荷を減らせないかと信念を貫き通そうとする。

 それぞれの熱い思いに、読んでいて思わず共感して応援したくなる。小さな高校生でも、周囲を巻き込んで、世界を変えてしまうことができる。そんなわくわくした気分にさせてくれるような本。

 科学フェアの世界を背景にした青春ドラマ。もっと子どもっぽいものかと思っていたら、意外と切実な学生たちがたくさん出てきて、感動の一冊だった。
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SAVE THE CATの法則 [映画]


SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術

SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術

  • 作者: ブレイク・スナイダー
  • 出版社/メーカー: フィルムアート社
  • 発売日: 2010/10/22
  • メディア: 単行本



 ハリウッド映画の脚本家が書いた、脚本術についての本。

 映画の脚本はこんな風にして書かれているのかと、映画製作の裏側を覗くことができる内容。よい文章に構成があるように、映画にも構成がある。物語を盛り上げるための手順というものがあって、本書にはそうした構成の妙技について明かしている。

 本書の中で、とりわけ面白いのは、映画のストーリーを10種類に分類しているところだろう。

 それは、①家のなかのモンスター(「ジョーズ」「エイリアン」)、②金の羊毛(「スターウォーズ」「オズの魔法使い」)、③魔法のランプ(「フォーチュン・クッキー」)、④難題に直面した平凡な奴(「ダイ・ハード」)、⑤人生の節目(「普通の人々」「酒とバラの日々」)、⑥バディとの友情(「レインマン」)、⑦なぜやったか?(「チャイナタウン」「インサイダー」)、⑧バカの勝利(「フォレスト・ガンプ」)、⑨組織のなかで(「ゴッドファーザー」)、⑩スーパーヒーロー(「グラディエーター」)の10種類。

 筆者によると、あらゆる映画のストーリーはこのように分類されるという。最初読んだときはなんじゃこりゃと思ったが、よく考えてみると、じわじわと沁みてきて目からうろこが落ちた。実際に頭の中でいろいろな映画のストーリーを思い浮かべてみると、本当にこの10種類の中にあてはまってしまうのだ。

 ハリウッドには、似たような話が多いことはなんとなく感じていたが、これほどわかりやすく分類したものは見たことがなかったので、なるほどなあと驚いた。

 意識的にしろ無意識的にしろ、映画の製作者たちは、これら10種類のストーリーを繰り返し語ってきたのだろう。これらのフォーマットを使って、手を変え品を変え、物語を紡ぎだしてきた。映画に限らないかもしれない。これら10種類のストーリーは、太古の昔から人々の本能に訴えかけるような要素を含んでいるのだろう。

 もちろん、物語の大筋の流れが似たり寄ったりでも、登場人物や背景、会話や個々の場面は映画によってさまざま。同じフォーマットを使っていても、細部の組み合わせによって、無数のバリエーションが生まれてくる。10種類の骨組みしかなかったとしても、どういう肉付けをしていくのかは脚本家の腕次第。創造性は細部に発揮されるのかもしれない。

 映画業界の裏側を知れて、映画好きにとってはうれしい本。これから映画を観るときに、非常に参考になりそうな一冊だった。
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ホット・ゾーン [医学]


ホット・ゾーン――「エボラ出血熱」制圧に命を懸けた人々

ホット・ゾーン――「エボラ出血熱」制圧に命を懸けた人々

  • 作者: リチャード・プレストン
  • 出版社/メーカー: 飛鳥新社
  • 発売日: 2014/09/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 1989年、ヴァージニア州レストンにある霊長類検疫所で奇妙な出来事が起こる。実験用に輸入されたサルたちが次々に死に始めたのだ。脾臓が拡大し、各種の臓器からは出血が見られるという奇病。死亡したサルの肉が陸軍の研究所へ送られて、研究者たちがこれを調べると、細胞の中にウィルスが入り込んでいるのが確認できたという。それは、体内で急速に増殖する脅威のウィルス、エボラ・ウイルスだった。

 昨今話題となっているエボラ・ウィルスについて書かれたノンフィクション。1980年代以降、世界各地で突発的に起こったエボラ騒動をまとめている。

 医学系のノンフィクションだから、淡々と医学情報を追いかけていくのかと思ったら、そうではなかった。エボラに関わる様々な人々、エボラ患者、医療従事者、研究者、軍人などについてその背景や人となりまでかなり詳しく描かれていてドラマティック。小説を読むような感覚で事実経緯を知ることができるのだ。

 エボラが発見された最初のころの経緯はとくに興味深い。当初は、当然のことながらウィルスかどうかさえも分かっておらず、アフリカでは謎の奇病というふうに扱われていた。感染病ということも知られていなかったので、患者を普通に旅客機に乗せて大病院に連れて行くこともあったそうだ。医療従事者たちも何なのかよく分からず、不用意に患者の体液に触れていまい、感染が拡大することになる。

 なんだかわからず、対策の打ち方も不明のものが、どんどん広がって人間社会に侵入していく感じが、非常に怖い。
 
 先進国のアメリカでも一度サルの間で感染が広がって、人間にも染るんじゃないかとパニックになったのだそう。陸軍とCDC(疾病対策センター)は、エボラの拡大をくいとめようとバイオハザード作戦を展開する。

 アメリカの話だから、厳重に管理体制を敷いて、水も漏らさないような密閉空間を作るのかと思ったら、読んでみたら意外とそうでもなかった。エボラと分かってからも、CDCが感染の可能性のある人物を自由に移動させたりしていたり、エボラサンプルの扱いも結構隙があって、アメリカと言えども万全な体制にあったわけではなく、いろいろちぐはぐなことをしていたことが見えてくる。

 人間も我が物顔で世界を支配しているように見えるけれども、実は小さなウイルスがとんでもない攻撃を仕掛けてくるという話。人間も自然の一部であり、いざというときは自然も牙をむくという当たり前のことを再認識させられる内容。自然をなめてはいけないなあと、読んでいて思わずゾッとしてしまった。
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ギリシャ棺の謎 [ミステリ(外国)]


ギリシャ棺の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

ギリシャ棺の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: エラリー・クイーン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/07/30
  • メディア: 文庫



 この本は、名探偵でも失敗するという話である。

 推理小説というと、天才的な頭脳を持った探偵が、容疑者たちを一堂に集めて華々しい推理を披露。犯人を一刀両断するというのがお決まりのパターンだが、この本は珍しく探偵の失敗談が書かれている。名探偵エラリー・クイーンは、自信たっぷりに推理を披露した挙句、間違った容疑者を犯人扱いして、のちに推理ミスがあったことが発覚して大恥をかく。

 どんでん返しに次ぐどんでん返しという感じでミステリーの醍醐味を味わうことができる作品。名探偵でも間違えることがあるという教訓話として面白いし、推理ミスというのはどういう風にして起こるのかということを考えるのにうってつけの素材だ。

 たとえば、そもそも前提となる情報が不足していれば、推理の土台がぐらつくので、貧弱な推理しかできない。情報自体がニセモノであった場合も、推理は誤った方向に導かれる。間違った仮説を前提にさらに推理を重ねることで、とんでもない方向に進んでしまうこともある。仮説の検証を怠ってしまえば、間違った推理は修正されないままだ。

 本作にはこうした推理ミスのいくつかのパターンが出てきて面白かった。こういう風にして間違った推理をするのかというのが見えてくる内容になっている。

 犯人のミスリードにまんまとしてやられたエラリーであったが、もちろん最後の最後には正しい結論を導き出して、名誉を挽回する。事件解決のすっきり感も味わうことができる。

 推理をするのは難しい。間違った仮説というのはいくらでも生じてしまうものだ。本書を読んで、人が推理ミス・判断ミスをしたからと言って、声高に非難することはするまいと肝に銘じることにした。名探偵エラリー・クイーンでさえ間違うことがあるのだから。
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ツタンカーメン 死後の奇妙な物語 [伝記(外国)]


ツタンカーメン 死後の奇妙な物語

ツタンカーメン 死後の奇妙な物語

  • 作者: ジョー マーチャント
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/09/16
  • メディア: 単行本



 1922年、考古学者の八ワード・カーターは、エジプトの王家の谷でツタンカーメン王の墓を発見する。墓の内部はいくつかの部屋に分かれていて、彫像や家具、壺、黄金に輝く品々などがところせましと置かれていたという。奥にある埋葬室に進むと純金製の棺が据えられており、蓋を開けると見つかったのが、黄金のマスクをかぶったツタンカーメン王のミイラだった。

 ツタンカーメン王のミイラの発見のニュースは世界中を駆け巡り、センセーションを巻き起こす。ツタンカーメンブームまで起こり、観光客がエジプトに押し寄せるようにもなった。人々を魅了したのは、古代の歴史を巡るロマン、それに、ツタンカーメン王のミイラにまつわる数々の謎であったろう。

 ツタンカーメン王には、解明されていないミステリーがひそんでいた。そもそも、ツタンカーメン王は誰の子供なのか? 歴代の王たちとはどのような家系的なつながりをもっていたのか? また、いったいどのようにしてツタンカーメン王は死んだのか? ひょっとしたら権力闘争の陰謀によって殺されてしまったのだろうか?

 本書は、こうしたツタンカーメンをめぐる謎について解説した本である。墓の発見当時のエピソードから現代の科学分析にいたるまで、発見と探求のエピソードを網羅している。

 本書を読むと、これまで考古学者らは数々のそれらしい仮説を立ててきたことが分かる。ツタンカーメンは毒殺された、マラリアで死んだ、カバに殺された、戦いで命を落としたなどなど……。ツタンカーメンはキリストだったなどという珍説まで現れたそうだ。だが、どれも決め手はなく、長年にわたってツタンカーメンの謎は古代史のミステリーとして人々を惹きつけ続ける。

 時代が移り変わるにつれて、考古学の調査も技術的な革新が進むようになってきた。レントゲンによる画像解析にはじまり、CTスキャンによってミイラの内部を立体的に見ることができるようにもなった。また、DNA解析の技術も生まれ、DNAを分析することによって、家系をたどる試みもなされるようになった。

 こうした最新の科学調査によって、ツタンカーメンの謎が少しずつ明かされ始めようとしている。本書の眼目はまさに、このあたりのツタンカーメン研究の最新の知見にあるといえるだろう。DNA鑑定やCTスキャンの結果から、ツタンカーメンの家系と死因について新たな仮説が生じてきたのだ。

 興味深かったのは、現代の最新技術を使ってもなお謎が残るということだった。DNA鑑定といっても絶対的なものではない。古代のミイラのDNAを分析すること自体、相当難しいことのようなのだ。DNA自体がほとんど残っておらず、サンプルを得るのがそもそも難しい。また、作業員が素手でミイラを触っていたり、作業員の汗が付着したりして、サンプルが汚染されてしまい、誤った解析結果が生じることもありうるのだ。ミイラのDNA鑑定の可能性に懐疑的な科学者もいるという。

 ツタンカーメンを巡る考古学上の喧々諤々の議論が出てきて、なかなか読みごたえがある一冊。結局、謎は謎のまま。古代史のミステリーとして今後も研究が必要であることがよく分かる内容である。

 ツタンカーメン王以外の古代エジプトの歴史にも若干触れられていて、興味深いエピソードがちらほら。本書を読んで、ほかにもいろいろとエジプトの歴史について調べてみたくなった。
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73光年の妖怪 [SF(外国)]


73光年の妖怪 (創元SF文庫)

73光年の妖怪 (創元SF文庫)

  • 作者: フレドリック ブラウン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1993/05
  • メディア: 文庫



 アメリカ、ウィスコンシン州バートルスビルの町に、一匹の知的生命体が到来する。その知性体は、地球から73光年も離れた惑星から追放されてやってきた。亀のような恰好をしていて、地球の引力には弱く、動き回ることはできないが、奇妙な能力を備えていて、眠り込んだ動物に乗り移って自由に操ることができるのだった。知性体は、身近にいる動物たちに次々に乗り移って、おそろしい計画を達成しようとする……。

 SF小説でよく見かける「侵略テーマ」の作品。ネズミや犬や鳥や猫、人間にまで寄生してしまう知的生命体と物理学者との死闘が描かれている。

 読んでみて、まさに戦いの面白さを存分に見せてくれる作品だった。

 知的生命体の目的は、どこかにいるはずの電子科学者に寄生して、その科学技術の知識を利用して、宇宙旅行のためのマシンを作って故郷に帰還すること。そして、地球という星があることを故郷に知らせること。しまいには、故郷から大群が押し寄せ、地球は知的生命体たちに侵略されることだろう。

 知的生命体と物理学者が頭脳戦を繰り広げる様子が描かれていて、非常にサスペンスフル。次々に動物たちを乗り換えていって、どんどん人間に近づいていく知性体の様子と、周りでおかしな現象が起こっていることに気づいて、知性体の存在に気づき始める物理学者の様子が交互に描き出される。次はどんな手を繰り出すのか? 緊迫したチェスか将棋の戦いを見ているような勝負している感じが面白い。

 知性体を徐々に追い詰めていく物理学者。だが、やがて、物理学者は知性体に逆に追い詰められていっていることに気づき……。追いつ追われつの戦いで、激しい攻防戦が見もの。地球の運命をかけた一騎打ちが繰り広げられる。

 何でもありの戦いではなくて、きっちりしたルールがあるところもよかった。知的生命体とはいえ万能ではなく、本体は動き回ることができない、動物が眠っているときでないと乗り移れない、遠くにいる動物には乗り移れない、乗り移った動物が死なないと本体に戻れないなど、弱点や制約もあるのである。こういうルールを踏まえたうえで、物理学者がどうやって知性体の弱点を突いたり、裏をかいたりするのか? その創意工夫を見るのが楽しかった。

 ストーリーが抜群に面白いのみならず、語り口も鮮やかで、するすると読めてしまう内容。舞台となっているアメリカの田舎町ののどかな雰囲気もなかなか味があってよかった。
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火星の人 [SF(外国)]


火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: アンディ・ウィアー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/08/22
  • メディア: 文庫



 火星への有人探査の3回目のミッションのさなか、火星で砂嵐が発生。クルーたちは火星から地球へと帰還することとなった。しかし、火星離脱途中、砂嵐の影響で地上に設置されたパラボラアンテナが引きちぎれ、吹き飛ばされてクルーの一人であるマーク・スワニーに直撃してしまう。アンテナがスーツを貫いて、姿を消したのを見たクルーたちはマークが死亡したものと判断。そのまま地球へと向かうが、実はマークは生きていて……。

 火星にたったひとりで取り残されてしまった宇宙飛行士を描いたサバイバルSF。

 マークに残されているのは、ハブと呼ばれる施設と、移動のためのローバー、スペーススーツ、酸素供給装置、水再生器、太陽光パネル、それに1年分の食料。次のミッションでクルーがやってくるのは4年後の予定。4年もの間どうやって生き残ることができるのか? マークは数少ない所持品を利用して、どうにか生き延びようとする。

 火星を舞台にした「ロビンソン・クルーソー」といった感じの話である。

 マークが次々起こるトラブルに対して、創意工夫で乗り切っていくところが面白い。手持ちの材料だけを使って、意外なアイデアを次々出していく。植物学の知識を利用して、ジャガイモを育てようとしたり、化学知識を応用して水を作り出そうとしたり、地球との通信を試みるための冒険をしたり。知恵をしぼって思わぬ解決を見せていくところが痛快なのだ。

 科学知識を最大限に応用してのいたってリアルなサバイバル生活が描かれていて、なんとも頭のいい人がいるもんだと驚嘆させられる内容。J・P・ホーガンとかコチコチのハードSFが好きな人にも楽しめるのではなかろうか。

 主人公のマークが非常にユーモラスなキャラクターで、極限状況にあるのになぜか飄々とした感じがあるところもよかった。語り口が軽かったり、妙なギャグを披露したりして、本来ならかなり悲惨な話のはずが、おもわず吹き出してしまうような場面が多々出てくる。

 結構分厚い本だったが、次々に持ち上がる難問とそれを乗り越えていくマークの奮闘ぶりが面白く、一気に読んでしまった。リドリー・スコット監督による映画化も予定されているらしいけれど、火星のビジュアルは観てみたいし、ストーリー展開もテンポがよいので、たしかに映画にも向いている話だなあと思った。
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