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ジブリの世界を創る [映画]


ジブリの世界を創る (角川oneテーマ21)

ジブリの世界を創る (角川oneテーマ21)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日: 2014/07/31
  • メディア: Kindle版



 映画において、脚本やストーリーが重要であることはもちろんだが、それと同じくらい大事なのが背景美術。

 背景に写るものは、その映画の世界観を決定づけ、空気感を伝え、映画のトーンを決め、ときには登場人物の心象をも反映する。どんなに脚本がよくても、背景に力がないと、映画としてはB級に見えてしまうことだってある。逆に背景美術が優れた映画は、話が多少退屈でも、何か特別な世界に触れたような気がしてくる。背景美術は、観客を映画の世界に入り込ませるための、重要な要素なのだ。

 本書は、そんな背景美術の世界で活躍する筆者が、自らの仕事にかける思いを存分に語った本。とくに最新作「思い出のマーニー」では、初のアニメーションの美術にも関わっており、制作上の苦労話なども書かれている。

 「思い出のマーニー」は原作が好きな話だったので、どんなふうに映像化するのか楽しみだったのだが、実際に映画を観てみたら、北海道に舞台を移していながらも、雰囲気のある洋館などが出てきて、原作のイギリスのイメージをうまく伝えていた。いつもながらジブリの想像力の豊かさには驚かされる。

 いつもであれば、宮崎駿監督のイマジネーションによるところが大きかったようであるが、今回は筆者が美術監督として関わることで、実写映画の手法が取り込まれているとのこと。北海道に実際にロケーションに行ったり、様々な建築のパーツを組み合わせて洋館のイメージを作り上げあり、舞台の模型を作ってみたり。原作本のもつイメージをどのようにふくらませて、具体的な絵に持っていくのか? その過程が見えてきて、非常に興味深い。こんな風に映画は作られているのかと、映画の製作現場をのぞき見るような内容だ。

 実写とアニメーションに両方の世界に身を置いた筆者ならではの経験談で、アニメーションと実写映画の制作上の違いについても語られていて、同じ映画でもやはり分野によって違いがあることもわかる。

 映画背景については、これまで漠然としか見てこなかったけれど、本書を読んで、これから映画を観るときにはもっと背景美術にも注目してきたいと思うようになった。映画製作者たちが意外と背景に細かな演出を施していたりもするようなので、映画がより重層的に見えてくるかもしれない。
タグ:種田陽平
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〈中東〉の考え方 [国際]


<中東>の考え方 (講談社現代新書)

<中東>の考え方 (講談社現代新書)

  • 作者: 酒井 啓子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/05/19
  • メディア: 新書



 パレスチナ問題やイスラム国など、中東情勢がニュースになることが多いけれども、中東で紛争が絶えないのはどういうわけなんだろう?

 本書は、主に18世紀以降の時代に焦点を当てて、中東の国々が現状に至ったルーツをたどった一冊。歴史的経緯を見ていくうちに、複雑な中東情勢が明らかになっていくという寸法だ。

 大きく分けて、4つのパートに分かれていて、①大英帝国の植民地主義が与えた影響、②パレスチナ問題、③冷戦の影響、④イスラム主義の台頭とイランという形で解説されている。

 本書を読むと、中東問題が生じたきっかけには、大国間の戦いがあることが見えてくる。

 18世紀、中小の部族が抗争を繰り広げていたアラビア半島。そこに世界の覇権を争っていたイギリスとドイツが現れて、アジア進出に至る要所として中東にも触手を伸ばしてきた。大国同士が争いを繰り広げるなかで、アラビア半島の部族たちは、圧倒的な力を持つ大国と手を組むことによって、諸部族の中でも抜きんでた存在になっていく。たまたま地政学的に重要な拠点にいたことで、部族としての繁栄を約束されるようになったのだ。

 しかし、第一次世界大戦後、イギリスはアラブの独立を約束したはずが、アラブ人の住む領域をシリア、レバノン、ヨルダン、パレスチナ、イラクなどと人工的な国分けを行い、英仏の支配下に置いてしまう。こうした戦後処理が、のちの紛争の火種となっていく……。

 冷戦時代もそう。アメリカとソ連が世界を二分し争っていたが、中東の国々もその抗争に巻き込まれ、アメリカにつくのかソ連につくのかという選択を迫られる。代理戦争が各地で生じたが、冷戦が終わって大国が撤退したあとの中東の国々では、内部抗争が生じ、社会は疲弊するようになる。

 大国の思惑をしたたかに利用して繁栄を極めていくアラブの国々。と同時に、大国間の抗争に巻き込まれて壊滅的被害をこうむることも。良くも悪くも、中東情勢というのは、外国勢力の争いと密接に関わっていることがよく分かる内容だ。

 イギリスとドイツが戦い、アメリカとソ連が戦い、今度はアメリカが一国集中で覇権を握るようになった。それぞれの時代の潮流の中で、中東の国々が流れに乗ろうとする大きなうねりが見えてきて、非常に興味深い内容。アメリカも徐々に力を失い、凋落しているようなところがあるけれども、中東の国々は今後どんな動きを見せるのか? これから中東情勢を見ていく前提となることがたくさん書かれていて、大いに参考になった。
タグ:酒井啓子
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アトランティス・ミステリー [世界史]


アトランティス・ミステリー (PHP新書)

アトランティス・ミステリー (PHP新書)

  • 作者: 庄子 大亮
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2009/11/17
  • メディア: 新書



 むかしむかし、1万2000年前もむかし、大西洋にアトランティスと呼ばれる大陸があったそうな……。

 環状に水路をめぐらし、中央に王宮を据えたその大陸。豊かな自然と資源に恵まれ、人々は高度な文明を築き上げ、何不自由ない暮らしをしていたのだとか。だが、やがて栄華を極めた人々は、贅沢にかまけて堕落し、自制心を失うようになっていった。そんな人々の傲慢さが神の怒りを買ったのだろうか、大地震と大洪水がアトランティスを襲い、一夜にして大陸すべては海中へとのみこまれてしまう……。

 本書はこうした古くから伝わるアトランティスの伝説についてまとめた本。そもそもアトランティスの伝説はどこから伝播してきたのか、アトランティスは実在するのか、アトランティス大陸の場所はどこにあるのか、アトランティス伝説の意味など、アトランティスをめぐる疑問が全般的に書かれていて、これ一冊でアトランティスについて大まかに理解することができる内容だ。

 そもそもアトランティス伝説が生まれたのは、古代ギリシャの哲学者プラトンが著作の中で、その昔、アトランティスという島が存在したと言及したのがきっかけ。プラトンの言葉以外確たる証拠があるわけでもなく、その実在はようとして知れない。その謎は世界中の人々を魅了し、アトランティスは地中海にあるんじゃないか、アメリカのことを指しているんじゃないか、南極にあるんじゃないかなど、様々な説も現れた。

 アトランティスの痕跡を見つけることができないので、プラトンの創作なんじゃないかという説まで登場する。プラトンは自分の師であるソクラテスが処刑されたこともあって、当時の民主政治に絶望していた。非常に優れた哲学者による哲人政治を理想と考えていた。アトランティスというのは、当時のプラトンの政治に対する考えを物語に仮託して描いたもので、プラトンの思い描く理想国家のアンチテーゼなのではないか、そんな風にも考えられるのだ。

 結局のところ、伝説なのか実在するのか、真偽は不明なのだが、アトランティスの伝説は戒めの物語として、語り継がれてきたといえそうだ。

 アトランティスの伝説に限らないけれども、文明の崩壊や人類の終末を描いた物語というのは、人々に対して警告をしている。人類は自分たちの築き上げてきた文明がずっと進歩し続けて、これからもその繁栄が続くだろうと考えて栄華を極めようとする。だが、文明が未来永劫続くとは限らず、戦争のためか、天変地異か、疫病の蔓延か、自然破壊かは分からないが、ふとしたきっかけで文明がもろくも崩れ去ってしまうことがありうるのだという警告。終末の物語は、人間の傲りに対して戒め、文明が脆いものだということを教えてくれる。

 思えば、人類も遠いところまできたものである。火や道具を使うところから始まって、農業を始め、鉄を使い、船を操って世界中を股にかけ、産業革命を起こし、宇宙にまで進出し、情報社会になり、コンピュータ社会まで築き上げた。とうとうここまで来たか人類、やったな。だけど、そんな高度な文明を築いている現代人にすら、アトランティスの伝説が遠い過去から語りかけてくるように思えてならない。あまり傲り高ぶると、神の怒りを買って滅びてしまうぞと……。

 遠い昔の大陸の話だけれども、現代のことを語っているようなそんな普遍性があるから、今なお人々を魅了しているのだろう。アトランティス大陸について掘り下げて書かれていて、興味の尽きない本だった。
タグ:庄子大亮
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クルミわりとネズミの王さま [児童書]


クルミわりとネズミの王さま (岩波少年文庫)

クルミわりとネズミの王さま (岩波少年文庫)

  • 作者: E.T.A. ホフマン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/11/17
  • メディア: 単行本



 クリスマスの夜、少女マリーは自宅の居間で奇妙な光景を目にする。戸棚に入っていた人形たちが、いっせいに動き出したのだ。おもちゃの兵隊たちが隊列を組んで、どこからともなく現れたネズミの大群と戦いを繰り広げはじめる。部屋中を砲弾や銃弾が飛び交い、大混乱に。一体何が起こっているのだろう? マリーはくるみ割り人形をめぐる不思議な世界へと迷い込んでしまう。

 チャイコフスキーの作曲した「くるみ割り人形」の原作になった、E.T.A.ホフマンの幻想物語。

 少女が空想の世界に入り込んでしまうところは、「不思議の国のアリス」みたいな話なのだが、本作が一風変わっているのは、読んでいて何が現実で何が幻想なのかだんだん分からなくなってしまうところ。現実と幻想の間を行ったり来たりしているうちに、現実と幻覚の境界が分からなくなっていく。

 これは現実に戻ってきた場面だよなあと読んでいると、ところどころ前後の文脈と合わないようなところが出てきて違和感を感じたりして、「ちょっと変じゃないか?」と思えてくる。一見すると、メルヘンタッチの作品なのだが、よくよく考えるとどことなく不気味に思えてきて、一筋縄ではいかないのだ。

 不思議な世界に迷い込んだような気分にさせられる作品。ラストはハッピーエンドに見えるけれど、どう解釈したらよいのかよく分からず、なんか怖い……。ホフマンはこういう幻想と現実の入り混じった作品ばかり書いているようなので、他の作品も読んでみたくなった。

 魔法がかけられてクルミ割り人形になってしまった青年、7つの頭をもつネズミ、お菓子の城など、夢の世界が広がっていく世界観がすがすがしい。
タグ:ホフマン
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ナポレオン [伝記(外国)]


ナポレオン (ビジュアル選書)

ナポレオン (ビジュアル選書)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 新人物往来社
  • 発売日: 2011/08/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 ナポレオンの伝記を読みたくて、いろいろ調べてみたのだが、歴史上の英雄の割には意外とめぼしい本が少なくて残念……。そんな中で、入門書として格好の本として見つかったのがこの本だった。

 ナポレオンの生涯がコンパクトにまとまっている本なのだが、かといって物足りない感じでもなくて、無味乾燥な説明でなくて、人間味のあるエピソードがたくさん描かれている。

 ナポレオンの少年時代、雪合戦で非凡な戦略の才能を発揮する話とか、フランスの政治が混乱する中でクーデターを起こして皇帝になる話とか、エルバ島に流されたあと、島を脱出し危険を覚悟でパリに戻る道中、抵抗にあうどころかナポレオンを慕う人々からの歓迎を受けるエピソードとか、豊富なエピソードが盛り込まれていて非常に興味深かった。

 もう少し話を膨らませたら、すごいドラマになるんじゃないかという話が盛りだくさん。ナポレオンの生涯は本当に山あり谷ありという感じで、どん底に沈んだと思ったらまた返り咲いたり、波乱万丈の面白い人生を歩んだ人だというのがよく分かる。

 歴史上のナポレオンの存在の意味についても詳しく解説されている。

 ナポレオンは、田舎貴族の家の生まれで、これまでの旧態依然とした身分社会であればそんなに高い地位にはいけなかったはずである。だが、当時はフランス革命の真っ只中、生まれよりも本人の才能が重視される世の中に変わってきた。軍事的・政治的才覚を遺憾なく発揮して、めきめきと頭角を現し、皇帝の地位にまで上り詰める。だが、生まれながらの平等という革命の精神は、諸外国にとっては危険なものでもあり、フランスは全ヨーロッパを相手に戦いを繰り広げざるを得なくなる。

 ナポレオンがどんな世界を理想として考えて、どのように世界を変えようとしたのか、ナポレオンの生き様が見えてくる良書。関連する絵画などもたくさん載せられていて、イメージしやすいところもよかった。
タグ:安達正勝
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高い城の男 [SF(外国)]


高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

  • 作者: フィリップ・K・ディック
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1984/07/31
  • メディア: 文庫



 「もしクレオパトラの鼻がもう少し低かったら、世界の歴史は変わっていただろう」とは、パスカルの有名なことばである。「歴史にもしもはない」というけれど、もしもの世界をつい妄想したくなってしまうのが、人間のさがなのかもしれない。 

 フィリップ・K・ディックの小説「高い城の男」は、まさにそんな歴史のイフを描いた作品といえる。もし第二次世界大戦で日本とドイツが勝っていたら、どんな世界になっていただろう? そんな仮想の歴史をたどった世界を舞台に重厚なドラマが展開されるのだ。

 ドイツと日本に支配されるアメリカという空想世界の描写が実にリアル。終戦後の政治体制の変化、ドイツがその後も急進的な形で世界を圧倒していく様子、日本とドイツの危うい関係、ドイツ支配層の内紛、アメリカ人の卑屈な生き様など、詳細に書かれていて圧巻である。読んでいて、本当にこんな世界があり得たかもしれないと感じさせられてしまった。

 ストーリー自体ももちろん面白い。群像劇になっていて、何人かの登場人物が交互に現れて話を進めていく。取引相手がスパイではないかと疑い始める田上、アメリカを放浪する女ジュリアナ、美術工芸品商売での成功をもくろむチルダン、神秘的なアクセサリーの制作を始めるフリンク、情報部と通じてある任務を命じられた男バイネス。ばらばらに展開していたそれぞれの人生が、徐々にお互いに交錯するようになっていき、世界を揺るがすような大きな陰謀に巻き込まれていく……。

 いつものディックのように、本作もまた現実と虚構がテーマになっている。本物の美術品とニセモノの美術品、本当の身分と偽りの身分、そして真実の歴史と虚構の歴史……。ドイツと日本が勝った世界の中でベストセラーになった一冊の本「イナゴ身重く横たわる」。そこにはドイツと日本が負けて、アメリカが勝ったという歴史が描かれていた。虚構の中の真実。

 虚構と真実と間を行ったり来たりするような、めまいがしてくる感覚の内容。真実と虚構は紙一重。現実が崩壊していくような雰囲気はまさにディックの十八番のテーマといえるだろう。

 本書を読んでとくに興味深かったのは、日本とドイツが勝っていたとしても、その後今度は日本とドイツが新たな紛争に突入していったんじゃないかというところ。戦争に勝っても負けても、どの道、別種の試練が与えられていたんじゃないか? 因果の流れというものの皮肉が描かれていて、大いに考えさせられる作品だった。
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永遠のアダム [SF(外国)]


永遠のアダム

永遠のアダム

  • 作者: ジュール・ヴェルヌ
  • 出版社/メーカー: 文遊社
  • 発売日: 2013/06/03
  • メディア: 単行本



 今回紹介する本は、ジュール・ヴェルヌが書いた中編小説「永遠のアダム」という作品だ。

 ジュール・ヴェルヌというと、「海底二万里」「地底探検」「月世界へ行く」とかが有名。未知の世界に対する憧れ、科学に対する熱情といった、夢と冒険にあふれる世界を描いた作家だ。だが、実はヴェルヌは、楽観主義一辺倒ではなかった。ペシミスティックな側面も持ち合わせていて、「海底二万里」のネモ船長などは、ヴェルヌのもつ皮肉な見方を象徴しているキャラクターといえるだろう。

 本作「永遠のアダム」もまた、ヴェルヌのペシミスティックさが強く現れた珍しい作品なのである。近未来の世界を舞台にしたこの作品では、終末を迎える世界の悲劇が描かれている。

 メキシコのロザリオという町に住むフランス人の主人公は、海岸沿いの自宅で友人たちと歓談していたところ、大きな地震に見舞われる。身体が地面に吸い込まれるような感覚がおそい、邸宅はぐらつき、どうにか外に出たとたんに家は崩れ落ちてしまう。どうやら地殻変動が起きて地面が海に沈没してしまったらしい……。しかも、いまだに沈没は続いているようで、波がすぐそばまで迫っていた。主人公たちは急いで車に乗り込むと、高みを目指して発進するが、ゆるゆるとした勢いで波が後ろから追いかけてくる……。

 「日本沈没」という小説があるけれど、本作では日本どころか世界中が沈没してしまうという壮大で恐ろしい作品。メキシコ沈没のあと、主人公たちは船に助けられて世界中を旅することになるのだが、アメリカにもアジアにもヨーロッパにもどこにも陸地が見つからないという恐怖。まさに悪夢のような航海が描かれている。人類の行く末はどうなってしまうんだろうと思わず読みながらハラハラさせられる小説だ。

 枠物語になっていて、数万年先の人類が現代人の残した手記を発見して未来人がこれを読み解いていくという形式。現代人の文明というものが、すでに消え去った過去の文明として描かれる。どんなに発達した文明も一夜にして滅んでしまうことがあるのかもしれないという、人類文明の脆さのようなものがテーマになっている。

 アトランティス大陸の伝説があるように、人類はひょっとしたら何度も文明崩壊をくり返してきたんじゃないか。これからも文明が崩壊して滅び去ってしまうことをくり返していくんじゃないか。文明の崩壊のような劇的な事件が永遠に連なっていくというイメージが悲しくも壮大である。現代文明も何かのきっかけで滅んでしまうことがあるのかもと思わず考えさせられてしまう。

 世界の終末の恐怖というヴェルヌらしからぬ題材で、最晩年にこんな作品を残していたのかと読んでみて驚いた。ペシミスティックな作品ではありながら、世界中を航海したり、新天地を開拓したりする場面もあったりして、いかにもヴェルヌ的なほっとさせられるところもある。短いながらもいろいろな楽しみ方のできる傑作だった。
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はい、チーズ [文学]


はい、チーズ

はい、チーズ

  • 作者: カート ヴォネガット
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2014/07/25
  • メディア: 単行本



 カート・ヴォネガットのこれまで未訳だった短編集「はい、チーズ」が出版された。

 ヴォネガットと言えば、「タイタンの妖女」「猫のゆりかご」など壮大なSF小説の書き手として有名だが、本短編集には、SFものに限らず、文学作品、ミステリー、ユーモアものなど、バラエティに富んだ作品が収められている。

 これまで未訳だったというから、つまらないんじゃないかと不安だったけれど、読んでみたら意外にも粒ぞろい。良質な作品ばかりという印象だ。

 特に面白かったのは以下の作品。

 「セルマに捧げる歌」
 
 リンカーン高校に通うアル・シュローダーは才能あふれる天才だった。非常に高いIQの持ち主でありながら、音楽の才能もあって、どんな楽器も弾きこなしてしまうし、100曲近い行進曲まで作曲していた。だが、あるときからアルの様子がどうにもおかしくなってしまう。心配になったヘルムホルツ先生は、その原因を突き止めようと、アルの身辺を調べはじめる。

 学園ものの作品で、生徒たちの人生の機微に触れるような話。生きる上で必要な物差しは何か、ヘルムホルツ先生が教えてくれる。最後にじーんとくるような泣かせる話であった。

 「鏡の間」

 刑事と催眠術師との対決。何人もの女性を殺害したのではないかと疑われている催眠術師のところに、刑事たちが訪れる。だが、調査の一環として会話を続けるうちに、刑事たちはいつの間にか催眠術師の術中にはまっていて……。

 知らず知らずのうちに、催眠術師に操られてしまうというところが怖い作品。最後には皮肉な落ちも待っていて、秀逸なサスペンス小説であった。ヴォネガットがこういう作品を書いていたとは知らなかった。

 「化石の蟻」

 スターリン政権下のソビエトの鉱山から見つかった蟻の化石。中生代の地層から見つかった蟻だったが、拡大してみると様子がおかしい。なんと化石の中から、超ミニサイズのコントラバスが見つかったのだ。他にも続々見つかる品々。本、絵画、車輪、家……。どうやらこの蟻は、大昔に人類に比肩するような文明を築いていたらしい。

 古代の化石の中から、蟻の文明の痕跡が見つかってしまうというSF小説。センス・オブ・ワンダーとしても面白いし、蟻の文明がソビエトの共産主義への皮肉な風刺になっているところも見事。本書の中でこの作品が一番面白かった。

 「はい、チーズ」

 バーで飲んでいた男の前に現れたのは、殺人アドバイザーと称する男。会話を交わしているうちに、あれよあれよという間に話が思わぬ方向に転がっていく。

 思いもかけず奇妙な犯罪に巻き込まれてしまう主人公を描いたミステリー作品。ロアルド・ダールが書きそうな奇妙な味の短編だった。

 全体的にミステリー風味の作品が多くて、ヴォネガットの多彩さを感じさせられる短編集。こんなに面白いのにまだ未訳だったというのが本当に意外だ。
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選択の科学 [人文]


選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義 (文春文庫)

選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義 (文春文庫)

  • 作者: シーナ アイエンガー
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/07/10
  • メディア: 文庫



 人生は選択の連続である。

 次から次にさまざまな分岐点が現れて、どの道を進むか選び取っていかなければならない。どんな学校に入るのか? どんな仕事に就くのか? どんな人と結婚するのか? 無数の選択をしてたどりついた結果が現在の自分であるといえるだろう。

 でも、ときどき考えてしまうこともある。もしもあのとき他の選択をしていたらどうなっていただろう? 人生は今とは違ったものになっていただろうかと。

 選択とはたくさんの可能性の中から、ひとつの道を選び取ること。他の可能性を切り捨てることになってしまうから、選択するということはけっこう悩ましいものである。

 本書「選択の科学」は、まさにそうした選択をテーマに書かれた本。選択にまつわるさまざまな疑問に答えてくれる一冊だ。

 選択を行う方法は人によって違うのか? 出身や生い立ちが選択にどのような影響を及ぼすのか? 選択肢が多いことはいいことなのか? 選択を他人にゆだねるべきときはあるのか? 選択をより効果的に行う方法とは? 選択肢が無数にあるときにはどうするか? 選択をめぐって、興味深い話題が満載だ。

 本書を読むと、選択そのものについていろいろと誤解していたことにも気づかされる。

 たとえば、選択などというと、選択肢がたくさんあればあるほど幸せなんだと思ってきた。単純に可能性が多いほうがいいんじゃないかとつい考えてしまっていた。でも、実際には、選択肢が多すぎるとかえって不利益になるという実験報告があるそうだ。むしろ選択肢の乏しいほうが利益になることがあるという。

 また、人が選択をするとき、自由な意思で選び取っているように感じてしまうが、実際にはそうでもないらしい。極端に奇抜な選択肢は無意識のうちに排除されるし、周囲にどうみられるのかとか、流行はどうかとか、いろいろ考えあわせるうちに選択肢が絞られていって、選択の幅は小さくなっていく。自由な意思で選択したように見えて、実は強制的に選ばされているのかもしれない。

 そもそも何を選択ととらえるのかという選択に対する見方も、文化によって異なる。欧米人とアジア人を比較すると、選択についてのとらえ方が大きく違ってくるという。

 今まで当たり前のように考えてきたことが、ガラガラと崩れていく面白さ。これまで無意識のうちに選択してしまっていたことが多くて、あまり深く考えてこなかったが、本書を読んで選択ということについて意識的に考えさせられてしまった。

 どんな選択をするかが、人生の大局を左右してしまうことだってある。これからも様々な分かれ道がやってくるだろうけれど、選択肢が現れた時にはこの本に書かれていたことをふと思い出してしまいそう。それくらい示唆に富んだ、生きるヒントになるような一冊だった。
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十字軍という聖戦 [世界史]


十字軍という聖戦―キリスト教世界の解放のための戦い (NHKブックス)

十字軍という聖戦―キリスト教世界の解放のための戦い (NHKブックス)

  • 作者: 八塚 春児
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2008/02
  • メディア: 単行本



 11世紀、トルコによって支配されていた聖地エルサレムを解放するため、教皇ウルバヌス2世の呼びかけによって始まったとされる十字軍遠征。本書は、十字軍についての実像に迫った一冊。

 十字軍に参加した人々の真意、十字軍遠征の経緯、十字軍遠征の歴史的な意義など、十字軍について深く掘り下げて解説している。とっつきにくそうなテーマながらも、意外とわかりやすく解説されていて、第1回十字軍から十字軍の終焉まで、全体の流れが把握できる内容だ。

 十字軍というと、聖地奪還というイメージがあったけれども、本書を読むと、実は参加した人々の動機は様々であったことが見えてくる。経済的な動機だったり、政治的な理由で参加するような世俗的な人たちも大勢いたそうだ。純粋に宗教的な軍というわけでもなかったというところが分かって興味深い。

 キリスト教と軍事との関係について知ることができたところもよかった。

 キリスト教はもともと平和的な宗教のはずなのに、なんで戦争が正当化されるのか常々疑問だった。イエスの教えに、「だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい」という言葉がある通り、もともとキリスト教では同害報復を否定。絶対的な平和主義のはずだった。

 だが、コンスタンティヌス帝によってキリスト教が国教化され、国家と宗教との結びつきが強くなると、戦争に対して否定的な態度をとることが難しくなっていったという。外部の敵である異教徒からの脅威、キリスト教内部の異端の脅威にさらされるうちに、キリスト教世界の統一性を維持するためには、戦いもやむなしという方向に傾いていったのだ。

 もともと平和的であったはずのキリスト教のなかに、聖戦という概念が生まれ、やがて十字軍にこの概念がつながってゆく……。

 十字軍の歴史的経緯を知ることができるとともに、キリスト教と国家との関係、軍事との関係について詳細に解説されていて、なかなか読みごたえがある。現代においてもキリスト教国家の影響は大きいので、歴史的な意味合いのみならず、本書に書かれていることは現代にもつながってくる問題のような気がしている。
タグ:八塚春児
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新聞では書かない、ミャンマーに世界が押し寄せる30の理由 [国際]


新聞では書かない、ミャンマーに世界が押し寄せる30の理由 (講談社+α新書)

新聞では書かない、ミャンマーに世界が押し寄せる30の理由 (講談社+α新書)

  • 作者: 松下 英樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/07/23
  • メディア: 新書



 1974年のビルマ式社会主義と呼ばれた時代から、事実上の鎖国政策をとっていたミャンマー。長期の独裁政治が続いていたが、2011年になってテインセイン大統領が就任すると、突如、民主政治への転換を宣言。これまで軍に支配されていた資源や市場が民間に開放されるようになり、諸外国からの注目が一気に高まっている。

 本書は、そんなミャンマーに民主化前から滞在し続け、独自にビジネスを展開しようと努力をし続けてきた筆者が、ミャンマーの変化する姿を描いたもの。現地に対する愛着があるからこそ書けるような、具体的な話が満載。民主化政策の実情から、新たなビジネスの展開、アウンサンスーチー氏への人々の期待と現実、ミャンマーの人々の文化や習俗などなど、現在のミャンマーを大まかに見わたすことができる内容になっている。

 民主化によって市場が開放されるようになると、ミャンマーはビジネス上ふたつの観点から注目を集めることとなったとのこと。

 ひとつは、安価な労働力が手に入ること。ミャンマーに工場を新設して、中国に代わる豊富な労働力を活用しようという企業が増えているという。

 もうひとつは、市場としての価値。農業や鉱業、各種産業が一気に成長することが見込まれ、経済活動が活発になっていくことは目に見えている。世界中の企業がこぞって、ミャンマーに進出しようと競争しているという。

 本書を読むと、軍事独裁政権が突然民主化されると、こんなことになるのかということが見えてきて、非常に興味深い。インフラも、金融も、文化も、何もかもがこれから急激に整備されていくのだ。外から急激にいろいろなものが流れ込んでいくうねりのようなものが感じられる。

 投資家のジム・ロジャースは、今後10年で最も有望な投資対象国は、ミャンマーと北朝鮮と述べているそうだ。周囲から煙たがられているような北朝鮮なども、もし将来ミャンマーのように開放路線で進めば、案外、有望なビジネス市場に変貌するのかもしれない。

 ミャンマーの現状を俯瞰しながら、政治の仕組みの変化が世界にどのような変化をもたらすのかを知ることができて、非常に勉強になる一冊だった。
タグ:松下英樹
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