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テレビに映る中国の97%は嘘である [国際]


テレビに映る中国の97%は嘘である (講談社プラスアルファ新書)

テレビに映る中国の97%は嘘である (講談社プラスアルファ新書)

  • 作者: 小林 史憲
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/02/21
  • メディア: 新書



 テレビ東京のプロデューサーで特派員でもある筆者が描き出す中国の今――。

 筆者はテレビ東京「ガイアの夜明け」のプロデューサー。2008年からは、北京支局特派員として中国でニュースを取材し続け、その取材結果は同局の「ワールドビジネスサテライト」という番組でも用いられている。

 そんな筆者が本書の中で書いているのは、取材活動の中で見聞きした中国社会の真実。反日デモ、格差問題、ワイロ社会、毒入りギョーザ、チベットや北朝鮮との関係などを題材に、テレビでは放送しきれなかった中国社会の現状や取材の舞台裏を明かしている。

 タイトルはやや大げさかなと思ったけれど、確かに読んでいて、今まで知らなかった話がたくさん出てきたし、現地にいなければ伝わってこない中国の人々の生の声が聞こえてきて興味深い内容である。

 反日運動もお祭り騒ぎのようなところがあって、実はデモに集まっている人々の多くが野次馬であるという話や、尖閣問題には中国自身も触れたがらない面もあるという話、経済格差が激しく、生まれた地域によって収入が決まってしまうという話、人身売買が横行しているという話など、特に興味深かった。

 なにより、取材活動の裏側が垣間見えるところが一番面白い。中国では情報統制が厳しく、外国人の取材陣も監視の対象になっている。人権や格差問題、共産党の暗部、軍事施設などの繊細なテーマに触れようとすると、あっさり身柄を拘束されてしまう。電話を盗聴されたり、尾行されたりということもしょっちゅうあるんだそうだ。

 こうした厳しい監視の目をくぐり抜けて、特ダネを見つけようとする取材陣たち。まさに記者根性を見ているようで、その取材にかける熱意には脱帽した。

 中国の人々はこんなことを考えているのかというのが見えてきて、中国が身近に感じられてくる本。経済成長著しい中国とはいえ、まだまだ問題を多く抱えているんだなあと、いろいろ分かってためになった。
タグ:小林史憲
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パイレーツ/掠奪海域 [歴史小説(外国)]


パイレーツ―掠奪海域― (ハヤカワ文庫NV)

パイレーツ―掠奪海域― (ハヤカワ文庫NV)

  • 作者: マイクル クライトン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/03/05
  • メディア: 文庫



 1665年、ジャマイカのポートロイヤルの町、私掠人のチャールズ・ハンターは、財宝を積んだスペイン船がカリブ海の島マタンセロスに停泊しているという噂を耳にする。ハンターはジャマイカ総督からの後押しを受けて、このスペイン船を襲撃して、財宝を奪い取る計画を立てる。だが、マタンセロスは沿岸部を大砲が囲み、大勢の兵士が駐留している難攻不落の要塞。ハンターは様々な道の専門家たちを仲間に連れて、スペイン人を相手にした危険な計画を実行する。

 作家マイクル・クライトンは「ジュラシック・パーク」などで有名だが、2008年に喉頭がんで亡くなった。この「パイレーツ」という作品は、クライトンの死後、自宅のコンピュータから発見された遺稿である。

 クライトンらしい、冒険心とサスペンスに満ちた、スケールの大きな海賊アドベンチャー作品。

 物語の舞台となる1665年というのは、スペインが海洋国家として権勢を誇り、イギリスと熾烈な戦いを繰り広げていた時代だ。当時、スペイン人は、南アメリカの銀山などから金銀を回収してスペインに持ち運んで、国家財政を潤わせていた。その航路の途上にあるのが、カリブ海だった。

 スペイン人の財宝の運搬も安全なものではなかった。カリブ海には海賊たちが跋扈していて、スペイン船を襲うということが頻発していたからだ。とくに、イギリスはひそかにこれを公認していて、スペイン船から掠奪した財宝を国家財政の基盤にまでしていた。

 略奪を行っていたのは私掠人という人たちで、実際にやっていることは海賊行為なのだが、国家の免状を得て行っていたので、イギリス本国からは罰せられない。本作は、まさにこの私掠人のことを描いた小説で、主人公のハンターによる海賊行為の活躍が描かれている。

 実際に読んでみると、「ミッション・インポッシブル」をほうふつとさせるような、チームで困難な任務に挑戦するというサスペンスフルな作品だった。チームのメンバーもひと癖ある人物ばかり。火薬の専門家のユダヤ人、天才的な航海士、抜群の視力を誇る水先案内人、冷酷な殺し屋、怪力の持ち主のムーア人。それぞれの持ち味を生かしながら、次々に襲い掛かってくる危機的状況を乗り越えていく。

 スペインへ兵との戦い、要塞への侵入、自然の驚異との戦い、そして意外な裏切りなど、手に汗握る展開が待ち受けていて、一難去ってまた一難という感じ。サスペンスの盛り上げ方がうまいなあと思った。

 当時の社会風俗なども詳細に描かれていて、真面目なクライトンらしさが出ていて、細かい描写にまでこだわっている。歴史の一時代が生き生きと描かれ、本当にその場に居合わせたかのような臨場感。こんな時代だったのかというのが見えてきて興味深い。

 映画化企画も進んでいるようで、たしかにこれは娯楽大作として映画にしたら面白そう。原作をどのようにアレンジするのか、今から観るのが楽しみだ。
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英仏百年戦争 [世界史]


英仏百年戦争 (集英社新書)

英仏百年戦争 (集英社新書)

  • 作者: 佐藤 賢一
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2003/11
  • メディア: 新書



 中世の末、1337年から1453年まで、イギリスとフランスとの間で100年間以上も続いたとされる英仏百年戦争。黒太子エドワードやジャンヌ・ダルクといった英雄が登場したことでも有名な出来事。

 だが、歴史をひも解いていくと、その実態は、呼び名とは大きく異なるもので、英仏間の戦争でも100年の戦争でもなかったのだそうだ。本書は、そんな英仏百年戦争と呼ばれる戦争の実態に鋭く切り込んだ歴史解説書である。

 イギリスというと、世界に名だたる国であるし、いっときは世界中で植民地支配を行い、大英帝国として覇権を握ったことさえあった。だから、今の感覚からすると、昔から栄えていたんじゃないかというようなイメージを持ってしまうけれども、実際には中世の時代のイギリスというのは、まだまだ力の弱い存在だったそうだ。

 イングランドに強力な王朝が登場するのは、ノルマンディ公ウィリアムのころからだが、この王はもともとフランスのノルマンディを治めていたフランス人の豪族だった。フランスに居を構えていて、イングランドは一領土に過ぎなかった。その後に登場したプランタジネット朝のヘンリー2世も、フランスを拠点とするフランス人で、やはりイングランドよりもフランスを中心に活躍をしていた。中世のころのイギリスというのは、フランス人が治めるフランスの属国のような存在だったのである。

 だから、英仏百年戦争といっても、その本質はフランス人同士の争いだった。もともとはフランスの豪族が自分の領土を息子たちに分ける際に、その分割方法で大いにもめて、戦争にまで発展。つまりは、大規模な親子げんか、兄弟げんかのようなところからはじまった。その後、世代が移り変わっても、やはり争いの当事者になっているのは、フランスをルーツに持つ者同士で、争いの原因もフランス人同士の領土や権力をめぐる争いだった。イギリス人とフランス人の戦争というイメージとは異なっていたのだ。

 本書を読むと、こうした歴史のさまざまな誤解が解けて面白い。中世のイギリス・フランスの時代背景も丁寧に描かれていて、歴史上の出来事にはこんな意味があったのかということが見えてくる内容。

 とくに興味深いのは、読んでいくと中世の人々の世界観が現在とは異なっていたことが分かること。中世の人々にとっては、国家という意識が希薄だったらしい。封建制の時代、人々の意識の単位は領地であり、王国とはいっても無数の領地の集まりという感覚に過ぎなかった。

 英仏百年戦争の意義は、こうした無数の領地という感覚から、ひとつの国家という感覚の萌芽を生じさせたことにあると筆者は言う。戦争で疲弊するうちに、国家単位での税収と常備軍による統制が必要になってきたのだ。そうして、だんだんと国家という意識が現れはじめる。もちろん、国家観がさらに確立するには、後年の絶対王政やフランス革命の時代を経る必要があるのだろうけれど……。

 国家というものも、人々が作り出したフィクションなのかもしれない。人々の帰属意識も領地から国家へと移ったり、さらには国家が集まった地域連合や帝国になったりと移り変わっていく。時代の要請に従って、流動的に意識が変化していく。本書を読むと、そうした歴史のダイナミズムが感じ取れる。

 現代社会に生きていると、現代の制度や価値観が当たり前のものだとついつい思い込んでしまうけれど、本当はそうじゃなくて、人々の作り上げたシステムはフィクションであって、揺れ動いていくものなんだよ。そんなふうに歴史の本は教えてくれる。本書を読んで、今まで持っていた世界観が揺さぶられて、大いに勉強になった。
タグ:佐藤賢一
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マチルダは小さな大天才 [児童書]


マチルダは小さな大天才 (ロアルド・ダールコレクション 16)

マチルダは小さな大天才 (ロアルド・ダールコレクション 16)

  • 作者: ロアルド ダール
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 2005/10
  • メディア: 単行本



 マチルダはわずか5歳足らずの少女だが、天才的な頭脳を持っていた。難しい数学の問題をあっさり計算してしまうし、どんな本でも読みこなし、文学作品でもたやすく理解してしまう。だが、大人たちはマチルダをのけ者扱い。両親は彼女のことを「チビのバカ」などとののしるし、学校の校長は厳しく当たり、マチルダのことを忌み嫌っていた。マチルダはそんな大人たちの仕打ちに耐えかねて、ある計画を練り始める。それは、大人たちをぎゃふんと言わせるために、さまざまないたずらを仕掛ける復讐計画だった。

 ロアルド・ダールが書いた児童文学作品。

 ダールのストーリー・テリングの才がふんだんに発揮された傑作。子供が主人公の話だが、ブラックなユーモアに満ちていて、大人が読んでも面白い。

 とにかく天才的な頭脳を持った少女というマチルダのキャラクターが生き生きと描かれていて、天才的なエピソードを読むのも楽しいし、大人たちに仕掛ける数々のトリックが痛快。

 マチルダは5歳とは思えないような天才的な頭脳を使って大人たちに勝負を挑む。ほかの子供たちをも巻き込んで、大人たちと子供たちとの火花を散らせる頭脳戦になっている。

 大人たちは子供たちに拷問さながらのこれでもかというひどい仕打ちをするし、子供たちも結構えげつないいたずらをしかけるので、児童書とは思えないほどのブラックな展開を見せるのだが、空想的にユーモラスに描かれているので、なぜか笑えてしまう。不思議な味わいのある作風だ。

 いたずらばかりではなくて、親切な教師ミス・ハニーとの交流などのハートフルな場面も出てきて、ほのぼのとしたところもある。最後は収まるべきところに収まるような、爽やかな読後感だった。

 ひとつひとつのエピソードが、小話のようによくできていて見事。また何度も読み返してみたくなりそうな楽しい作品だった。
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死刑執行人サンソン [伝記(外国)]


死刑執行人サンソン ―国王ルイ十六世の首を刎ねた男 (集英社新書)

死刑執行人サンソン ―国王ルイ十六世の首を刎ねた男 (集英社新書)

  • 作者: 安達 正勝
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2003/12/17
  • メディア: 新書



 フランスで代々死刑執行の職務を果たしてきたサンソン一族の4代目シャルル-アンリ・サンソン。彼もまた死刑執行人の仕事に就くが、その生涯は波乱に満ちたものであった。ときは、フランス革命の前夜。サンソンは、フランスの社会が大きく変動しはじめるのを目の当たりにする。しかし、彼は自らが革命の象徴ともいうべき存在となって、歴史に名を残すことになることとは思ってもみなかっただろう。死刑執行人として、フランス国王ルイ16世の首をはねることになるとは――。

 フランス革命の時代を生きた死刑執行人シャルル-アンリ・サンソンの生涯を追った人物伝。

 国王やマリー・アントワネットの首がはねられたということは知っていたが、こういう人物が関わっていたというのは初めて知ったし、当時の死刑執行人の生活が詳しく書かれていて、興味深い。

 サンソンが職務についたころのフランスの死刑執行というのは、刀で死刑囚の首を切るという斬首刑だった。執行人には熟練した技術が要求され、人体構造にも熟知している必要があった。ちょっとした気の迷いがあると、違う場所を傷つけてしまい、死刑囚を苦しめることになるので、強靭な精神力も要求された。

 裁判所の判決に従っての執行ではあるが、サンソン一族に対する世間の風当たりは強かったようだ。公然と差別されて、不吉な存在だとして避けられ、人づきあいもかなり制限されていたそう。収入は多かったものの、その評判は社会の底辺の人間として扱われていたらしい。

 サンソン自身も、死刑執行が仕事とはいえ、心理的な葛藤はかなりあったようだ。とくに、フランス国王ルイ16世のことをサンソンは敬愛していて、国民のことを考えてくれる善良な王だと考えていた。だから、革命によって自ら王様の死刑執行をしなければならなくなったサンソンは、精神的な苦しみを味わいぬくことになる。

 フランス革命の時代の波にもまれたサンソン。彼の人生を読み進むうちに、フランス革命の流れが見えてくる。革命前夜のマリー・アントワネットの首飾り事件、ギロチンの登場、フランス革命の勃発とルイ16世の死、王政廃止と国民公会の登場、そして恐怖政治への突入……。

 ところどころ物語風に語られていて、フランス革命の出来事が目に見えるように生き生きと描かれている。数奇な運命に満ちた、異様なエピソードが満載されていて、現実にこんなことがあったのかと驚いた。

 読んでいて、なにより、サンソン自身の人間的な魅力を感じさせられる。囚人に対する優しい眼差しや、ルイ16世に対する忠義の念には思わず敬服してしまうし、革命に対してもいろいろと複雑な感情を持っていたようだ。死刑執行人でありながら、死刑制度に対して懐疑的な思いを抱いてきたサンソン。歴史に翻弄された彼の人生は、悲哀と苦しみに満ちていて、壮絶な生き様だなあとうならされた。
タグ:安達正勝
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嫌われる勇気 [人文]


嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

  • 作者: 岸見 一郎
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 人生の途上において、同じところを足踏みしているだけじゃなくて、新しい世界が開けたらいいのになあと思うことがある。新しい能力を身につけたり、悪い部分を改善したりして、自分を変えることができたらいいのにと。今とはちがう自分になりたいという変身願望である。

 だが、実際には自分を変えようと思っても、容易にはいかない。いろいろな不安が出てきて、心の中での抵抗が出てくる。自分が変わって、新しい苦労・競争にさらされたらどうしよう? 新しいことを始めて誰かに嫌われたらどうしよう? などなど……。

 本書は、こうした心の変化について書かれた本である。誰でも変化することができるということや、心理的抵抗というのは自分が作り出した幻想であるということなどが書かれている。「他人と競争することは無意味」、「嫌われる勇気を持つべき」、「過去のトラウマなんて存在しない」など、一見するとなんだこれはというような刺激的な話がたくさん出てくる。

 本書のベースになっているのは、アルフレッド・アドラーという心理学者の考え方。心理学の世界では、フロイト、ユングが日本では有名だが、欧米では彼らと並んで第三の巨頭として、アドラーの名前が広く知られているそうだ。本書はアドラーの心理学についてまとめられていて、アドラー心理学を支持する哲学者と、彼を論破しようとする青年との対話という形式で書かれている。

 アドラー心理学というのは知らなかったので、非常に興味深かった。読んでみると、いろいろな自己啓発書で言われているようなエッセンスが散見されて、人生論について先端を行っていたのだなあと驚かされた。新たな気づきもたくさん見つかった。

 心の変化の話から始まって、人生の意味にまで話が波及。数々の名言が書かれていて、大いに勉強になる。「人は怒りをねつ造する」「承認欲求は捨てるべし」「人を育てるには、ほめても叱ってもいけない」「変えられる部分を変える勇気を持ち、変えられない部分は受け入れる」「大事なのは共同体感覚」「他人の課題と自分の課題を区別する」「過去でも未来でもなく今を生きる」などなど、気になる言葉がいっぱい。

 読んだばかりでまだまだ未消化なところも多いのだが、もろに影響を受けてしまった。人生のスタンスとして使えそう。もっとじっくり読みなおしてみて、生きる糧にしようと思った。人生観が変わってしまうような、心が揺さぶられる刺激的な一冊だった。
タグ:岸見一郎
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第九軍団のワシ [児童書]


第九軍団のワシ (岩波少年文庫 579)

第九軍団のワシ (岩波少年文庫 579)

  • 作者: ローズマリ サトクリフ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2007/04/17
  • メディア: 単行本



 古代ローマの時代のイギリスを舞台にした冒険物語。

 当時、ローマ帝国はイギリスにまでその権勢を及ぼしていた。作者のサトクリフは、紀元117年ころにローマ軍の第九軍団が行方不明になった事件と、それから1800年後に翼のないローマ軍のワシが発見された事件をもとに、想像力をふくらませて、雄大な物語を紡ぎだしている。

 ローマ軍の百人隊長マーカスはブリテンに配属され、帝国の辺境の平定にあたっていた。だが、あるときブリトン人の氏族たちがローマ軍に攻撃を開始し、マーカスは戦いのさなか深手を負ってしまう。

 軍人としての将来を絶たれてしまったマーカスは、伯父の家で鬱屈した日々を送るうちに、新たな旅の計画を立てるようになる。それは、消えた第九軍団と、失われたワシの像の行方を探すというもの。マーカスは、友人の剣闘士エスカとともに、北の地へと旅立つ――。

 ある種のミステリーになっていて、主人公たちは、消えた軍団とワシの行方を探るため、手がかりをたどっていく。主人公がワシを求めてブリテン人の聖所に侵入するくだりなどは、いかにも冒険活劇といった雰囲気で、読んでいて思わず血が騒いでしまう。

 とくによかったのは、主人公の境遇が丁寧に描かれていたところ。主人公のマーカスは、ローマ軍の司令官として、軍人としての将来が約束されていたが、戦闘中に負傷してしまい、キャリアが断ち切れてしまう。絶望の淵に立たされて、悶々とした日々を送る主人公のやるせなさが伝わってきて、人物が身近に感じられる。そうした冒頭の閉塞感から一転、中盤からのワシを巡る旅は解放感に満ちていて、壮大な雰囲気が印象的だ。

 古代ローマが舞台の話なのに、当時の生活の様子が目に浮かぶように描かれていて、作者の想像力の豊かさには驚かされる。当時の世界観はこういうものだったのかというのが見えてきて、歴史を知る手がかりにもなる。ローマ人たちの悩みや夢が聞こえてくるようで、読んでいて時間を超えた世界に没入できて楽しかった。
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ルネサンス 歴史と芸術の物語 [世界史]


ルネサンス 歴史と芸術の物語 (光文社新書)

ルネサンス 歴史と芸術の物語 (光文社新書)

  • 作者: 池上 英洋
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/06/15
  • メディア: 新書



 ルネサンスなどというと、美術の運動が盛り上がった時代という、文化面でのイメージが強い。だが、詳しく社会背景をひも解いていくと、当時は波乱万丈の激動の時代だったことが見えてくる。大規模の権力構図の変化が起こった時代であり、美術や文芸作品の変化もこうした社会の変化が原動力になっていたのだ。

 本書は、ルネサンスという時代がどんな時代だったのか、どういうきっかけでルネサンスが起こったのか、どういうふうに終焉を迎えたのか、当時の世界情勢の動きについて解説した一冊だ。

 筆者によると、ルネサンス前とルネサンス以降の絵画にはあるちがいが見られるという。

 ルネサンス前の絵画は、どこか記号的で、人体構造が不自然で、人物の顔も無表情だ。これに対して、ルネサンス以降の絵画は、人体構造が自然だったり、感情表現が豊かだったり、遠近法を用いた写実的な描写が見られる。

 なぜこのような違いが生まれるようになったのだろう? 筆者は当時の社会背景に着目する。

 ルネサンス前の時代というのは、教会と君主が権力を持った時代だった。画家のパトロンも教会であることが多いので、絵画を描くにも、聖書の教えを厳格にふまえることが求められた。だが、旧約聖書に出てくる十戒では、「偶像崇拝」が禁じられていたため、その教えをなるべく忠実に守ろうと思えば、像を写実的に描いたり、神々しく描くことは難しい。そこで、画家たちは、物体そのものを描くのではなくて、聖なるイメージを記号的に描くことで、偶像崇拝禁止を回避しようとしたのだ。

 だが、時代は移り変わる。十字軍遠征などをきっかけにして、イタリアの商人のところに富が集中するようになる。商人ギルドと呼ばれる集団が権力を持ち始め、教会と君主になりかわって、画家の第3のパトロンとなっていく。すると、必然的に画家に求められる絵画の質も変容し、自由な風潮の絵画がもてはやされるようになり、写実的で情感豊かな表現が生まれるようになった。

 本書は、このようにルネサンス前後の美術作品を比較しながら、ルネサンスの時代背景について、丁寧にたどっていく。十字軍遠征にはじまり、金融業の発達、メディチ家の興隆、大航海時代の幕開けによるルネサンス時代の終焉など、当時の時代背景をわかりやすく解説している。ルネサンスの前後の時代がどのような時代だったのか、歴史の流れがひとつながりに見えてくる内容だ。

 本書を読むと、時代によって絵画の作風ががらりとちがってくること、絵画の流行の移り変わりの裏には社会情勢の変化が見え隠れしていることがわかって、非常に興味深い。美術作品を見るときにも、それが描かれた時代がどんな時代だったのかを考えることで、より深く作品を理解することができるようになるだろう。

 美術についての造詣が深まるし、ルネサンスの歴史を知ることもできるので、非常にお得な一冊。本書を読んで、ルネサンスに限らず、いろいろな時代について知りたくなってきた。
タグ:池上英洋
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振り込め犯罪結社 [犯罪]


振り込め犯罪結社 200億円詐欺市場に生きる人々

振り込め犯罪結社 200億円詐欺市場に生きる人々

  • 作者: 鈴木 大介
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2013/11/22
  • メディア: 単行本



 近年世間を騒がしている振り込め詐欺。本書はその詐欺集団の実態に迫ったドキュメント。

 筆者は実際に振り込め詐欺を行ったことのある複数の経験者たちに取材を重ね、振り込め詐欺のメンバーはどういう人たちなのか、どんな組織になっているのか、実際に行う犯罪行為の中身について、その詳細を明らかにしている。読んでいくうちに分かってくるのは、振り込め詐欺集団が想像以上に巧妙に組織化されていて、その規模も広範囲に及んでいるということだった。

 振り込め詐欺のメンバーにも役割分担があって、まず、携帯電話、振込用銀行口座、ターゲットの名簿を用意する「道具屋」がいる。実際に電話をかけるのは「プレイヤー」と呼ばれる人たちで、言葉巧みに、ときには集団の劇場型スタイルで詐欺を行う。騙された人が銀行口座にお金を支払うと、「ダシ子」と呼ばれるメンバーが口座から即座に金を引き出す。これらのメンバーを「番頭」という人たちが統括管理していて、金銭管理やメンバー間の調整などを行う。さらに上には「オーナー」と呼ばれる初期費用の出資者が君臨していて、詐欺行為によって出た収益の一部を吸い上げている。

 各メンバーがどのように集められるのかとか、各自がどんな役割を果たすのかが詳しく書かれていて、こんな組織になっているのかと驚くような内容。暴力団組織と異なり、組織が分断されていて、摘発が難しいのだそうだ。暴力団組織であれば縦構造が分かりやすいので、下っ端を捕まえれば、芋づる式に組織の上のほうまでたどっていけるけれども、振り込め詐欺組織は、メンバー同士が分断されているので、端役を捕まえても容易に上までたどることが難しくなる。報復などを恐れることもあって、トップの情報などは漏れない仕組みになっているという。

 集められている人材は必ずしも暴力団関係や不良少年ばかりではなくて、ワーキングプアや失業者、身体障害者などの社会的な弱者であることも多い。金に困った人々が、携帯電話を大量に購入して詐欺の道具として売ったり、正業で入手した顧客名簿を売ったり、あるいは「プレイヤー」や「ダシ子」になったりする。本書を読むうちに、日本の貧困問題が振り込め詐欺を生み出している構造が見えてくる。

 格差問題などは、アメリカのあとを追うようにして、これから日本でますます問題が広がっていくだろう。振り込め詐欺の人材要員の多くが社会的弱者から集められていることを考えると、こうした格差社会が振り込め詐欺の規模を大きなものにしているといえるのだ。社会の構造の問題なので、容易に解決は難しい。個々のメンバーを捕まえても、別の人材が次々投入されるだけだし、何らかの規制をかけても続々新たな手口が出てきて、するりとかわされてしまう。

 格差社会という社会構造の問題を解決しないと、根本的な解決にはならないだろうなあと思った。結局は、経済や政治の問題に行き着く。想像以上に根が深くて、難しい問題なんだということがよく分かって、興味深い一冊だった。
タグ:鈴木大介
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青の炎 [ミステリ(日本)]


青の炎 (角川文庫)

青の炎 (角川文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2002/10/25
  • メディア: 文庫



 高校生の櫛森秀一は、父親を自動車事故で亡くし、母親と妹とで暮らしていた。だが、その家庭内には、秀一にとって異物とも言える人間が入り込んでいた。母親の再婚相手の曾根隆司。曾根は、母親から金をせびっては酒やギャンブルに溺れている人物。ことあるごとに秀一や母親に暴力をふるい、妹にまで手をかけようとしていた。秀一は曾根の言動に耐えかね、家族を守るためにある計画を立てる。それは、曾根を自然死に見せかけて殺害する完全犯罪の目論見だった。

 貴志祐介のミステリー小説。犯人側の目線から描いた倒叙ミステリーという形式の作品。

 倒叙ミステリーというと、テレビドラマの「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」などでおなじみだし、小説でもパトリシア・ハイスミスの「太陽がいっぱい」やクロフツの「クロイドン発12時30分」など名作も多い。

 倒叙ミステリーの面白さは、主人公の犯人が緻密な犯罪計画を立てて実行するところにあって、警察の目をかいくぐろうとする主人公と、犯罪を暴こうとする刑事との駆け引き、知的な頭脳戦を楽しむジャンルといえる。

 本書「青の炎」は、まさにそうした倒叙ミステリーの面白さが踏襲されたような作品で、過去の名作群に決してひけを取らない質の高い内容になっている。主人公の少年は、高校生ながらも綿密な殺害計画を立てて、完全犯罪を成し遂げようとするのだ。その法医学や物理学の知識を応用したトリックは、詳しく調べ抜かれているし、作者の巧みなアイデアも混ぜ込まれていて、なかなか読み応えがある。

 うまく行ったかに見えた犯罪計画も、やがてほころびを見せ始めて、次々に生じる問題点に対処を迫られる主人公。読んでいて思わず犯人側に感情移入してしまって、ひやりとするサスペンスが感じられた。

 主人公が犯罪にいたるまでの心の動きも、非常に丁寧に描きこまれていて、少年が追い詰められて犯罪にいたってしまった経緯が伝わってくる。今までいろいろな倒叙ミステリーを読んできたけれども、本書のような動機は珍しいかもしれない。警察や弁護士などにさえ頼ることができない事情を抱えてしまった主人公。ミステリー史上まれに見る悲しい殺人者だった。

 法医学や物理学だけでなく、法的な問題や闇サイトの話など、全体的に情報量が豊富。ディテールまでかなり細かに考えられているので、リアリティが感じられる。本筋ももちろん面白いけれども、随所に出てくる薀蓄もなかなか興味深かった。
タグ:貴志祐介
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