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スーパートイズ [SF(外国)]


スーパートイズ (竹書房文庫)

スーパートイズ (竹書房文庫)

  • 作者: ブライアン オールディス
  • 出版社/メーカー: 竹書房
  • 発売日: 2001/07
  • メディア: 文庫



 ブライアン・オールディスというSF作家の短編集。

 表題作の「スーパートイズ」は、人工知能を組み込まれた少年の話。もしコンピュータが今よりももっと進歩して、人間そっくりのロボットが作られるようになったら、どんな世界が待っているだろう? 未来のロボットと人間との関わりについて考えさせられる作品。

 ロボットものといえば、アイザック・アシモフが有名で、「ロビイ」という作品では、ロボットと少女との友情の話を描いていて、将来ロボットが人間の友人として重要な役割を果たすようになるだろうということを書いている。アシモフは人間とロボットとの関係を比較的楽観的に扱っているが、これに対して、オールディスの作品はずっとシビアだ。

 「スーパートイズ」の主人公は、人工機械の少年デイヴィッド。人口過剰の未来世界、出産制限が敷かれていて子供が持てないスウィントン夫妻は、代わりにデイヴィッドを子供として育てることになる。だが、スウィントン夫人は心の底からデイヴィッドを子供として接することができない。本物の子供でないことは明らかだったから……。デイヴィッドは自分が人間であると信じ込んでいたが、やがて、自分の本当の姿について対峙を迫られることになる。

 人間は、機械的作業や肉体的作業、知的労働にいたるまで、これまで機械やロボットに代替させてきたし、これからもますます人間の代替をロボットにさせるようになると言われている。では、一体どこまでロボットに代替させることができるのだろう? 機械的作業などはともかく、芸術的な仕事もロボットに代替させることができるのだろうか? アシモフが描くように、友人関係もロボットに代替できるのだろうか? あるいは、家族関係までロボットに代替できるのだろうか? 

 「スーパートイズ」では、機械の少年の物語を通して、人間がどの範囲まで機械で代替させられるのか、読者に疑問を投げかけている。

 結局のところ、描かれている内容は残酷なものだ。スウィントン夫人はデイヴィッドを子供として扱いきれず、デイヴィッドは自分が機械であることに気づかざるを得なくなる。自分は人間なんだとずっと考えていたのに、ニセモノであることが分かってしまう絶望と孤独。デイヴィッドは現実に直面できずに、とうとう精神が崩壊してしまう。

 オールディスは、デイヴィッドは単なる機械なんだと突き放しているようでもあるが、他方で、読者はその機械であるはずのデイヴィッドに思わず感情移入してしまう。まるでデイヴィッドが人間であるかのように、デイヴィッドの悲しみに共感してしまう。本書の面白いところは、デイヴィッドの物語を通じて、人間は機械に対してまで共感してしまうことがありうることが分かることだった。

 ロボットの物語ではあるが、人間はどこまで機械化に耐えうるかという自分たちの問題でもある。デイヴィッドのような高性能のロボットが現れるのは遠い将来のことかもしれないけれど、ますます機械化が進む社会にあって、デイヴィッドの物語は人間と機械の関係について多くのことを教えてくれている。
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ツカむ!話術 [実用]


ツカむ! 話術 (角川oneテーマ21)

ツカむ! 話術 (角川oneテーマ21)

  • 作者: パトリック・ハーラン
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/04/10
  • メディア: 新書



 人気お笑いコンビ「パックンマックン」の片割れ、パックンことパトリック・ハーランが、トーク術について語った本。

 筆者はテレビでよくとぼけたコメントをしたりしているけれども、もともとは名門ハーバード大学を卒業した秀才。現在では、東京工業大学で「コミュニケーションと国際関係」という講義を担当していて、日本の学生たちにアメリカ流のコミュニケーションスキルを伝授しているという。

 アメリカ人は、気さくに誰にでも話しかけたり、プレゼンや議論も上手なイメージがあるが、筆者によると、子供の頃からコミュニケーション力を鍛えるための教育を徹底的に受けるのだそうだ。小学校の授業なども一方的に先生が話をするのではなくて、子供同士で意見を言い合ったり反論したりと、議論の練習をする。大学の講義も、以前話題になった「サンデル教授の白熱教室」のような形で、問答型で行われることが多いという。

 もともとの性格だけでなく、話術というのもトレーニングで上達をする側面があって、本書はどうしたら上手くコミュニケーションをとることができるのか、その上達のためのヒントがたくさん書かれている。

 中でも面白かったのは、説得力を持たせるには、「エトス(人格的要素)」「パトス(感情的要素)」「ロゴス(言葉や論理的要素)」が大事という話。

 説得というと理屈が大事で、筋道が立っていることが必要なんじゃないかと考えがちだが、そうしたロジカルな要素だけではダメで、むしろ人はもっと感情的な要素だったり、発言者の実績だったりに影響を受けるものだという。だから、話の内容の論理性よりも、誰が話しているか(エトス)によって左右されることがあるし、国をまとめるために昔から政治家たちは恐怖心や愛国心を煽ったりしてきた(パトス)。

 人は理性や理屈によってのみ動くものではないという大前提が踏まえられていて、たしかにそうだよなあと思わされる。なんとなく感じてきたことをうまく言語化してくれた感じ。説得力を磨くには、話の内容もさることながら、エトスを高めるために実績や評価を磨いていく必要があるので、日々の積み重ねが大事かもしれない。

 ひとくちに「話術」といっても、コミュニケーションスキルが必要とされる場面は様々。雑談、ディベート、交渉、プレゼンなど、話をする状況にもバリエーションがある。本書の一番よかったところは、こうした場面ごとの話術の注意点が書かれていたこと。場面場面に適した話し方のコツがあることが分かって、これから自分が同じ状況になったら気をつけたいことがたくさん書かれていて、目からウロコがぽろぽろ落ちた。

 ジャーナリストの池上彰と筆者との対談が載っていて、最初はその対談が読みたくて本書を手に取ったのだが、本題の方も非常に面白い。アメリカの教育やコメディアンとしての経験からのコミュニケーション術が分析的に書かれているし、大統領やジョブズの話など、豊富な例が挙げられていて、読んでいて楽しめる内容。場面場面で迷ったらまずこの本を読み返そうと思えるくらい、よく書かれた本だなあと思った。
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愛はさだめ、さだめは死 [SF(外国)]


愛はさだめ、さだめは死 (ハヤカワ文庫SF)

愛はさだめ、さだめは死 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1987/08
  • メディア: 文庫



 誰にでも心の底からほしいと願うものがあるだろう。そんな夢や願望の実現を描くのが、SFの世界。

 本書は、SF作家のジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの短編集であるが、この本の中にも願望の実現を描いた作品がある。本短編集の中でも出色の出来栄えともいえる、「接続された女」という作品がそれ。

 「接続された女」の主人公はP・バークという少女。彼女が求めた願望とは、「美しさ」だった。

 17歳の少女P・バークは、容姿に恵まれず誰からも相手にされない子。ある時、彼女は世をはかなんで自殺を図ってしまう。病院に運ばれて、どうにか命は助かったが、そんな彼女の前にある男が現れ、ちょうどうってつけの仕事があるので頼みたいと言ってくる。その仕事というのは、P・バークの身体に電極をつないで、別の場所にある人工美女の身体を遠隔操作するというもの。自らは眠ったままの状態で、精神だけは別人の肉体の中に入り込んで活動するという計画だった。

 憧れの美しい身体を手に入れた少女の物語。

 願いがかなって人生が変わってしまった喜びと、その後の顛末がドラマティックに描き出されている。

 P・バークは新たな肉体を手に入れて、人生を謳歌する。ポールという青年と知り合って恋に落ちたりもする。だが、ポールはP・バークの本当の姿を知らない。もしポールが本当のことを知ってしまったら、どうなってしまうのか? 

 夢はかなうけれども、夢の実現には代償がつきもの。P・バークは自らを偽ったことによって、計画がほころびはじめ、悲劇的な展開へと突き進んでいく。

 身体を電極につないで、別の身体と通信するという未来的なアイデアに基づいていて、アイデア自体も斬新で素晴らしいが、なにより、主人公の喜びや悲しみが丁寧に描き出されていて、人生の悲哀を感じさせるところがよかった。主人公の純粋な願いとその後の顛末は涙を誘う。

 本書に収められてる他の作品は、難解な内容の作品も多く、読んでいて完全には理解し切れなかったけれど、独自の世界観が広がっていたのは惹きつけられる。「そしてわたしは失われた道をたどり、この場所を見いだした」と「男たちの知らない女」も面白かった。
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思い出のマーニー [児童書]


思い出のマーニー〈上〉 (岩波少年文庫)

思い出のマーニー〈上〉 (岩波少年文庫)

  • 作者: ジョーン ロビンソン
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2003/07/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 他人と関わることを嫌い、すぐに自分の殻に閉じこもってしまう少女アンナ。海辺の家で新しく暮らすことになったアンナは、そこでマーニーという少女と出会う。マーニーにはどことなく不思議な雰囲気が漂っていて、やがてアンナは知ることになる。マーニーには思いもかけない秘密があることを……。

 アンナとマーニーの友情の物語。

 どんな話かと思ったら、意外とミステリータッチの作品で面白かった。アンナが出会った少女マーニーにはどこか現実離れしたようなところがあって、それがどういう意味なのか最後まで秘密になっている。こういうことかな、ああいうことかなと、あれこれ予想しながら読むのだけれど、途中からさらに謎が深まるような展開になって、話の中に引き込まれてしまう。

 おわりに謎が解けて、最後の最後に意外な事実が判明したり、いろいろと気になってた部分が結び合わさったりと、思わずうならされる内容。よくできた推理小説を読んだような読後感だった。児童書だけれど、話の骨格がしっかりとしているので、ミステリーファンとしても楽しめる作品になっている。

 アンナの成長物語として読んでも興味深い。

 話の最初のうちは、アンナの内面が丁寧に描かれていて、周囲の人間とうまく関わることができないもどかしさが伝わってくる。友達の輪に入れなかったり、活動的なことに興味が持てなかったりするが、そんなことは自分は何も気にしていないんだと自分に言い聞かせたり、逆に落ち込んだり、アンナの複雑な心理がよく書かれている。

 そんな孤独な少女だったアンナが、転地でマーニーと友達になり、一緒に遊ぶようになる。マーニーと関わるうちに、アンナは元気を取り戻していく。アンナの内面もだんだんと生き生きとしたものに変わる。やがて、アンナと周囲との関係まで変化が現れるようにもなっていくのだ。

 あまり有名な作品ではなかったと思うけれど、読んでみて名作だと思った。何が現実で何が空想かわからなくなるような感覚、人との関わりを拒む心理など、現代の読者にも通じるような要素が含まれている。自分にもアンナに共感するようなところがあったので、読んでいて思わず感情移入してしまったくらいだ。

 ジブリが本作を映画化するようだが、どんな風に映像化するのか楽しみ。静かな作品ながらもイメージ豊かだし、不思議な内容でもあるので、たしかにジブリのアニメーションにはぴったりかもしれない。
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西洋美術史入門 [美術]


西洋美術史入門 (ちくまプリマー新書)

西洋美術史入門 (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 池上 英洋
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2012/02/06
  • メディア: 新書

 

 絵画などというと、画家たちが自らのインスピレーションにしたがって自由気ままに描くようなイメージがある。画家が自由にテーマを決めて、その想像の赴くままに描き出す純粋な芸術活動なんだと。

 だが、本書を読むと、実際には、画家も商売であることがよく分かる。画家もパトロンに絵を買ってもらわなければ生活できない。だから、注文を受けた画家たちは、パトロンの好む主題に合わせていかざるを得なかった。その最たるものが肖像画だろうけれども、肖像画に限らず、あらゆる絵画にはパトロンの意向が反映されているという。

 とくに、識字率の低い時代には、絵画というのは最大のメディアでもあった。パトロンたちは、自らの宗教観や思想、メッセージを絵画の形に仮託して世界に伝えようとした。自分たちの権勢をアピールしたり、社会の矛盾を訴えようとしたり。

 教会が力を持っていた時代には、宗教画が流行。自らの宗派が正しいことをアピールするために、絵画にそのメッセージを込めるということが行われた。貴族が力を持ってパトロンになった時代には、貴族の肖像画がたくさん描かれるようになった。産業革命以降、市民が力を持ってパトロンになった時代には、より生活に密着した絵画が好まれるようになった。

 時代時代によって、パトロンが移り変わっていって、描かれる主題も変化していく。誰がパトロンになるかによって、絵画の流行もどんどん変化していったのだ。

 ミレーの「落穂拾い」に隠された格差社会の現実、フェルメールの絵画に見られる大航海時代の面影、カラヴァッジョの宗教画から読み取れる宗派間の対立などなど……。本書を読むと、名画の背後にはこんな意味が隠されていたのかという話が、続々出てきて面白い。

 今まで構図とか色彩とか美的な観点からしか絵画を見てこなかったけれども、こういう歴史的な視点は大事だと思う。歴史的な位置づけだったり、当時の世相だったり、宗教とのかかわりだったり。作品が描かれた背景まで分かれば、ぐっと深い見方ができるようになる。

 一枚の絵画からいろいろなことを読み取ることができる面白さ。有名な絵画で今まで何度も見てきた絵でも、今回初めて意味が分かったようなものも出てきて、絵画の見方が変わってしまうようなインパクトのある一冊。画家とパトロンとの関わりが、こんなにも深いということは知らなかった。
タグ:池上英洋
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スタバではグランデを買え! [経済]


スタバではグランデを買え!: 価格と生活の経済学 (ちくま文庫)

スタバではグランデを買え!: 価格と生活の経済学 (ちくま文庫)

  • 作者: 吉本 佳生
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2012/01/10
  • メディア: 文庫



 同じペットボトルのお茶でも、スーパーで買うのと、自動販売機で買うのと、新幹線の中で買うのでは値段が違う。同じDVDでも、発売当初と発売から1年たってからでは値段が変わってくる。

 このように、全く同じ商品なのに、異なる値段になるということはよくあるけれども、一体どのようなメカニズムが働いているのだろう?

 本書は、この同じ商品が異なる値段で売られる謎について、「取引コスト」という観点から解き明かした本である。身近な生活の中の経済について、専門家の立場からわかりやすく解説してくれている。

 「取引コスト」というのは、聞きなれない言葉だが、商品の価格を考えるうえでは欠かすことのできない概念だという。商品の原価には、「取引コスト」という見えないコストがかかっているんだそうだ。

 たとえば、わざわざ遠くのショッピングモールにまで足を運ぶ手間や時間、チラシをあれこれ眺めて値段を比較する手間、経済的な携帯電話の料金プランを考える手間。こういう手間や時間が、「取引コスト」として値段に反映される。

 いろいろな手間や時間をかける人には安く売って、そんな手間暇かけたくない人には高く売る。わざわざスーパーまで足を運ぶ人には安い値段で、自販機で済ませる人には高い値段で買ってもらう。DVDを販売当初に買いたい人には高い値段で、1年待ってもいいという人には安い値段で買ってもらう。誰をターゲットにするかによって手間や時間の対価を考慮して、同じ商品でも異なる価格設定をすること。これが「取引コスト」の考え方。

 コストというと、原材料費や人件費、広告費などはすぐに思い浮かぶけれども、それ以外に「取引コスト」というものがあるというのは知らなかった。企業はこの「取引コスト」をうまく価格に反映させて、人によって値段を巧妙に使い分け、全体の売り上げを伸ばそうとしているのだ。そうした例がたくさん出てきて、世の中こんな風になっているのかというのが分かって面白かった。

 100円均一の仕組み、スタバの営業戦略、競合店が一か所に集中するわけ、格差社会是正の難しさ、医療費無料の罠など、興味深いトピックが続々。

 身近な生活から国家レベルの経済まで、世の中の仕組みが分かりやすく解説されていて、非常にためになる本。日常で何気なく疑問に思っていることを非常に明快にしてくれる本で、読んでいてすっきりした。

 物の価値を考えるうえでは、目に見える商品・サービスだけでなく、見えないコストまで考えないと、適正な値段は見えてこない。そういう経済的なものの見方が分かったのもよかった。
タグ:吉本佳生
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リプレイ [SF(外国)]


リプレイ (新潮文庫)

リプレイ (新潮文庫)

  • 作者: 杉山 高之
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1990/07/27
  • メディア: 文庫



 人生にはたくさんの別れ道がある。

 様々な分岐点に立つごとに選択を迫られ、ほかの選択肢を排除して、当たり前に人生を過ごしていくのだけれど、もしもうひとつの道に進んでいたら、もっと別の世界が開けていたのかもしれない。

 もし異なる学校に入っていたら? もし異なる仕事についていたら? もし異なる人と知り合いになっていたら? もしちがう相手と結婚していたら? 現在とはまったくちがった人生が待っていたことだろう。

 別れ道の数だけちがった未来が存在していたはずなのだ。あったはずの無数の未来が……。

 もし人生をいちからやり直すことができたら、どんな未来を選ぶだろう? 今とは全く違う選択をするだろうか? 異なる道に進むことで、今よりも幸せになれるのだろうか?

 本書「リプレイ」は、まさにそうした「人生のやり直し」を描いたSF小説だ。

 主人公のジェフ・ウィンストンは、ニューヨークでラジオのニュース・ディレクターをしている人物。彼は43歳になったある日、心臓発作で倒れ、死亡する。だが、彼は次の瞬間、なぜか意識を取り戻す。そこは彼が昔使っていた部屋。20年以上前に通っていた大学の寮の部屋だった。ジェフは自分の身に起きたことが信じられなかった。さっき死んだと思ったのに、次の瞬間、なぜか昔に逆戻りしている。しかも、体も18歳当時の若い姿のまま――。

 43歳になるたびに死亡し、また何度も時間をさかのぼり、人生の再生を続けるという不思議な現象に襲われる主人公を描いた作品。

 時間をさかのぼってもなぜか記憶だけは保持したままというジェフ。彼は未来に起こることを知っているので、競馬やワールドシリーズの賭けを的中させたり、株に投資したりして、一獲千金の夢をつかむ。結婚する相手や仕事の内容もリプレイするごとに変えたりして、ありとあらゆる人生の楽しみを謳歌しようとする。

 だが、彼はそのうちに気づくことになる。未来を予測できる人生というものが、それほどいいことばかりではないということに。何度も人生をリプレイすることが、監獄にいるようなものであるということに。

 何度も時間をさかのぼる主人公の野望と苦悩。もがき苦しんだ主人公が最後に行きついた人生の真実。ファンタジックな内容ながらも、人生の本質に迫る深みのある作品だ。

 人生は予想がつかないから面白いのではないか? 人生一度きりだから貴重なんじゃないか? あったはずの未来を考えるのではなくて、瞬間瞬間を大事に生きていくことが必要なんじゃないか? 読んでいて、人生にどう向き合ったらよいのか、あれこれ考えさせられてしまう、興味深い一冊。主人公の苦悩の果てに爽快感のある結末が待っていて、さわやかな読後感もよかった。
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書くことについて [実用]


書くことについて (小学館文庫)

書くことについて (小学館文庫)

  • 作者: スティーヴン キング
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2013/07/05
  • メディア: ペーパーバック



 スティーヴン・キングによる文章作法の本。

 「言葉」をテーマに、キングがどのようにして文章を作り上げているのか、その舞台裏を語っている。

 文章作法などというと、実用的な淡々としたものを想像してしまうけれども、そこはキング。超一流の話術とオタク趣味全開で、退屈な文章作法の本とは一線を画した、娯楽性に富んだ読み物になっている。

 前半は、意表をついて、いきなりキングの自叙伝からはじまる。幼少期の話から始まって、高校時代の学生新聞を書いたときのエピソード、初めて小説が売れた時の話などが断片的に語られる。そうした数々のエピソードを通して、キングがどのようにして文章作法を学んでいったのか、どのようにして作家として身を立てていったのかが、よくできた小説のように生き生きと描かれているのだ。

 これを読むと、キングのような超一流の天才でも、身を削るような努力を重ねてきたことが分かる。学生の時に新聞記者から文章を添削してもらった時の話、様々な作家たちの文体を真似ていった話、金銭的に困窮している中でも文章をひたすら書き続けていたという話などなど……。苦労だらけの生活から一転、名作「キャリー」でスターダムに駆け上るという展開は、まるでサクセスストーリーを読むかのような爽快感すら感じた。

 もちろん、文章作法の技巧的な話もあとから出てくる。後半の小説作法の話は面白い。キングがどのようなことを考え、どのような点に注意しながら本を書いてきたのかが見えてきて、キングファンにはたまらない内容だ。

 特に興味深かったのは、ストーリーは化石を彫りおこす作業に似ているというくだり。小説家というのは、あらかじめプロットを組み立ててから書き始めるものだと思っていたが、キングの場合は違うらしい。登場人物と状況設定を決めた後は、プロットを作らずに、ひたすら状況の転がるまま書き続けるのだそうだ。

 こんな書き方をしているのはキングだけなのかもしれないが、予想のつかないサスペンスフルな物語はこうして生まれていったのかということが分かって、合点がいった。

 キングは文章技法について、「道具箱」に例えて説明している。語彙や文法、文章作法など、文章を書くための道具をそろえることが大事で、そのためのコツを伝授してくれている。

 このあたりの解説は、小説に限らず、あらゆる文章を書く上で参考になるだろう。副詞を削るべしとか、段落ごとに考える重要性とか、これから文章を書くときにはこの本に書かれていたことを肝に銘じたいと思った。

 自叙伝、道具箱の話、小説の話と、至れり尽くせりな内容。これ一冊読んだ後は、文章の書き方も、小説の読み方も一変してしまいそう。本好きにしか分からないのかもしれないが、読んでいて文章についていろいろと考えさせてくれる非常に楽しい本。文章を書く上で悩んだ時には、まずこの本を読み返したいと思った。
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夜がはじまるとき [ホラー]


夜がはじまるとき (文春文庫)

夜がはじまるとき (文春文庫)

  • 作者: スティーヴン キング
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/01/08
  • メディア: ペーパーバック



 スティーヴン・キングの短編集『Just After Sunset』を翻訳したもの。『夕暮れをすぎて』と2分冊になったもののパート2。

 『夕暮れをすぎて』と同じく、ホラー色の強いものと、心温まるファンタジー調のものが混じっている。

 「N」

 自殺した精神科医が残した診療記録。そこに書かれていたのは、「N」という強迫性障害の患者の体験。「N」は、アッカ―マンズ・フィールドという空き地で、輪になって突き出た奇妙な岩を目撃する。その岩には神秘的な力が働いていて……。

 異世界に通じる不思議な空き地の話。恐怖小説なのだが、じわじわと内側から浸食されていくような、薄気味の悪い雰囲気のある怖さ。目に見えない何かが伝染していく感じが、ぞっとしてしまう。

 「ニューヨークタイムズを特別割引料金で」

 アニーのもとにかかってきた電話。それは、911のテロの事件で亡くなったはずの夫からの電話だった。

 死後の世界からの通信という幽霊物語なのだが、パート1の「彼らが残したもの」と同じく、怖いというよりも悲しい作品。短いながらも、911の事件がキング流に描き出されていて、独自の幻想的な雰囲気に引き込まれてしまう。

 「アヤーナ」

 膵癌の診断を受けて、病院のベッドで苦しんでいる老人。彼の目の前に、どこからともなく小さい黒人の少女が現れて、老人に触れると、みるみるうちにその症状が治っていって……。

 不思議な力で病気を治してしまう奇跡の物語。『グリーン・マイル』という作品にちょっと似ている。ファンタジックな雰囲気がとても良い。

 「どんづまりの窮地」

 株式トレーダーのカーティス・ジョンスンは、タートル島に邸宅を構えているが、悩みの種は隣人のティム・グリュンフォルドという男。隣人トラブルがこじれて、長きにわたって法廷闘争にまで発展していた。ある日、カーティスはティムから和解の提案をされて隣地に向かうが、それは悪意のある罠だった。カーティスはティムの用意した仮設トイレに閉じ込められて、誰の助けも求めることができず、絶体絶命の窮地に陥ってしまう。

 仮設トイレに監禁されてしまった男の壮絶なる脱出劇。いままで読んだどのホラー小説よりも怖かった。悪い夢を見てしまうそうな作品。

 『ミザリー』もそうだけれども、キングはよくこういう作品を書いている。閉じ込められることへの恐怖というのがあるようだ。エドガー・ポーの「早まった埋葬」の現代版といえよう。いかに窮地を脱するかというサスペンスが面白かった。
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夕暮れをすぎて [ホラー]


夕暮れをすぎて (文春文庫)

夕暮れをすぎて (文春文庫)

  • 作者: スティーヴン キング
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/09/04
  • メディア: ペーパーバック



 スティーヴン・キングの短編集。

 キングはホラー作家として有名だけれども、トワイライトゾーン風のファンタジーが得意な作家でもある。日常生活の風景の中に、異次元に通じる隙間がぽっかりと空いていて、普通の生活を送っていた主人公たちはいつの間にやら異常な世界へと引きこまれてしまう。

 本作は、そうしたファンタジー寄りの作品が多く収められた短編集だ。

「ウィラ」

 列車が脱線して駅舎に置き去りにされてしまった乗客たち。主人公のデイヴィッドは、婚約者のウィラの姿がないのに気づき、あとを追いかけて夜の大地を歩き始める。やがて明らかになるウィラの秘密……。

 レイ・ブラッドベリ風の幻想味のある作品。ラストのダンスシーンがしっとりとした雰囲気があって印象的だ。人生の悲哀を感じさせる一遍で、本短編集ではこれが一番のお気に入り。

「ジンジャーブレッド・ガール」

 赤ん坊を亡くしたばかりのエミリー。ふとしたきっかけでランニングをはじめ、悲しみと絶望から逃げるかのように、がむしゃらに走リ続ける……。ヴァーミリオン島の別荘に滞在して、ビーチを走るようにもなったが、エミリーはそこで思いもよらないものを目にする。それは、メルセデスのトランクに横たわった若い女性の死体。

 サイコキラーに狙われた女性を描いたホラーの真髄。

 キングはこんなことを言っていた。ホラーとはモンスターのことではない。自分の知人や愛する人の身の上に災難が降りかかろうとするのを知ること。それがホラーなんだと。

 キングの小説に惹きつけられるのは、登場人物の背景がしっかり書き込まれているから。主人公の身の上を知ることで、読んでいて思わず感情移入してしまう。単なる面白い話というだけでなくて、人生の一部を切り取っているから、恐怖もするし感動もする。

 本作もエミリーの悲しい過去を知るところから始まる。エミリーの心情がじっくりと描かれることで、物語が深みのあるものになっている。

「エアロバイク」

 アーティストのシフキッツの最近の悩みはメタボ。彼はエアロバイクを購入して自宅の地下室に設置して、筋肉トレーニングに励みはじめる。シフキッツは同時に、地下の壁に絵を描き始める。それは、自分の体内にいて、食べ物をせっせと処分してくれる小人たちの絵。新陳代謝を擬人化した絵だった。エアロバイクの効果で、彼のメタボはみるみる改善するが、なぜか彼の描いた絵にも奇妙な変化が現れ始める……。

 絵画奇談ともいうべき作品。キングはときどきこういう作品を書いている。妄想が現実のように迫ってくる怖さ。ホラーでもあり、ユーモラスでもある作品だった。

「彼らが残したもの」

 リサーチャーのステイリーの自宅にどこからともなく現れた奇妙な品々。ハート型のサングラス、野球のバット、ブーブークッション、コンク貝の貝殻……。それらは、かつての同僚たちの所持していた品々だった。911のテロの事件で亡くなった同僚たちの……。

 911の事件がアメリカの人々に与えた苦悩を描いた作品。キングはこれをファンタジーの形にしたためている。キング独特の暖かいような人間味に満ちた作品だった。
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ドイル傑作集/ミステリー編 [ミステリ(外国)]


ドイル傑作集 1 ミステリー編 (新潮文庫 (ト-3-11))

ドイル傑作集 1 ミステリー編 (新潮文庫 (ト-3-11))

  • 作者: コナン・ドイル
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1957/08/30
  • メディア: 文庫



 シャーロック・ホームズの生みの親コナン・ドイルは、ホームズ・シリーズ以外にもミステリー作品をいくつか残している。

 本書は、そんなドイルのミステリー短編を厳選した作品集。ホームズは出てこないけれども、事件の怪奇性、推理の興味、解決の意外性など、ホームズ・シリーズにもひけを取らない粒ぞろいの作品ばかりだ。

 「消えた臨急」は、リヴァプールを出発した急行列車がマンチェスターに到着するはずが、どこへやら消え失せてしまうという驚愕のミステリー。謎の面白さもさることながら、事件の解決も納得のいくもので、完成度の高い作品といえるだろう。なんでこの話をホームズ作品にしなかったのか不思議なくらい面白かった。

 「甲虫採集家」は、医者の卵がある広告につられて不思議な体験をするという謎めいた話。その広告というのは、昆虫に詳しく、体が頑丈な医者を雇いたいという仕事の募集だった。「赤毛連盟」や「ぶな屋敷」といった作品を想起させる内容。事件性があるのかわからないような奇妙な体験から始まる話で、何が起こるんだろうとわくわくさせられる。

 「時計だらけの男」は、マンチェスター行きの列車の中で男が殺害されるが、被害者はいつ乗り込んだか全く不明で、しかも本来乗っているはずの乗客が2人も消え失せているというミステリー。不可能犯罪の興味に大いに惹きつけられる。これまた非常によくできた推理が出てくるし、解決編もドラマティックなもので、ベスト級のミステリーといえる。

 「漆器の箱」は、ある屋敷の主人が大切にする漆器の箱をめぐるミステリー。ドイルは「箱」テーマの作品をいくつか残しているが、これもそのひとつ。箱というのは不思議なもので、妙に惹きつけられるところがある。いったい中に何が入っているんだろう? いろいろなことを想像させられてしまう面白さ。結末は脱力ものだったが、最後までドキドキしながら読んでしまった。

 「五十年後」は、婚約者を残したまま外国に出稼ぎに出かけた男の行方がなぜかふっつり途絶えてしまうという話。ミステリーというよりも、O・ヘンリー風の人情話で、運命の不思議さを感じさせられてしまう。五十年の時を経たラブ・ストーリー。人生の悲哀に満ちた感動作で、ドイルはこういう作品も書いていたのかと思って興味深かった。
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