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第三の男 [ミステリ(外国)]


第三の男 (ハヤカワepi文庫)

第三の男 (ハヤカワepi文庫)




 第二次大戦後のウィーン、作家のロロ・マーティンズは、旧友のハリー・ライムに招待されてこの町にやってくるが、到着早々、ハリーが事故にあって死亡したとの話を聞く。ロロは事故の現場に居合わせた人々を訪れ、事故の状況を尋ねるが、奇妙にも話がくいちがう部分が出てくる。やがて、現場にいなかったはずの第三の男の存在が浮かび上がり……。

 文豪のグレアム・グリーンが書いたミステリーの名作。キャロル・リード監督によって映画化されて、映画史にも名を残した。

 戦後のウィーンを舞台にしていて、当時の雰囲気がまざまざと伝わってくる。ウィーンは、戦争によって破壊され、廃墟のような面影を残していた。アメリカイギリスフランス、ソ連の4カ国によって分割統治されていて、社会情勢も複雑な状況下にあった。寒々しいような、荒廃した世界が背景として見事に描き出されていて、物語全体に深みを与えている。

 社会的背景が単なる舞台背景に終わっているのではなくて、物語の根幹に大いに関わってもいる。戦後の社会情勢がある犯罪と緊密に結びついていて、ストーリーをつき動かしているのだ。かつてこんな出来事があったのかという、歴史の一時代を捉えた作品として読んでも興味深い。

 珍しいことに、この小説はもともと映画向きにかかれたそうだ。そのためか、テンポがよく、光景が目に浮かぶような描写もあって、映画を観ているような感覚がする。全体的に暗い世界に足を踏み入れていくような不気味な雰囲気があって、モノクロ映像がよく似合う。

 ミステリーとして、ひねりもあってよくできているし、戦後のウィーンのさびれた様子と、人々の悲哀が丁寧に描かれていて、古典的な傑作になっている。映画のほうはしばらく観ていないので、また観たくなってしまった。
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絹の家 [ミステリ(外国)]


絹の家  シャーロック・ホームズ

絹の家 シャーロック・ホームズ




 探偵のシャーロック・ホームズのもとを訪れた美術商。その相談は、謎のハンチング帽の男につけねらわれているので、その目的を突き止めてほしいというものだった。ホームズとワトソンは事件に関わるようになるが、やがて、当のハンチング帽の男が何者かによって殺害されてしまう。謎が深まる中で現れた、「ハウス・オブ・シルク」という言葉……。ホームズは手がかりを追って、ロンドンの街を駆け巡る。

 イギリス人の作家アンソニー・ホロヴィッツが書いた、シャーロック・ホームズ・パスティーシュ。コナン・ドイル財団が初めて公式に認定したという注目作品だ。

 財団公認というだけあって、ホームズ物語としては完成度の高い内容になっている。ホームズが卓越した観察眼と推理力によって、初対面の人物の人となりを言い当てたり、事件の謎を解きほぐす場面が数々出てきて楽しい。マイクロフトやレストレイドなど、おなじみのキャラクターももちろん登場するし、文体もワトソン博士が書いたような昔懐かしいような雰囲気が醸し出されている。

 ストーリー自体もよくできている。謎また謎という感じで、ミステリーとして惹きつけられるし、ホームズが最大の危機を迎える展開になっていて、非常にスリリングだ。たくさんの謎が出てくるので、霧の中を歩いているような不気味な雰囲気があるが、最後にはいろいろな伏線が回収されて、ひとつながりになるところがまたよかった。

 作者のホロヴィッツは、「女王陛下の少年スパイ」シリーズなどを描いている、イギリスのミステリー作家。テレビ映画の脚本家としても知られていて、テレビドラマ「名探偵ポワロ」の脚本を書いているし、最近では、スピルバーグの製作中の映画「タンタンの冒険/太陽の神殿」の脚本も彼が書いたそうだ。

 映画の世界にも関係しているせいか、本作もテンポの良い会話や物語展開で、映画を観ているような感覚があった。

 ホームズ・シリーズのファンとしては、現代風にホームズの世界観を見事に再現してくれていて、非常に面白かった。まだ続編の情報はないようだが、ぜひともホロヴィッツにはこの雰囲気でシリーズ化してくれないかなあと期待している。

ちょっとピンぼけ [写真]


ちょっとピンぼけ (文春文庫)

ちょっとピンぼけ (文春文庫)




 報道写真家ロバート・キャパは第二次大戦中、アメリカ軍とともに北アフリカヨーロッパを渡り歩いた。本書は、従軍カメラマンとしての活動と戦争の様子を描いた、キャパ自身による手記である。

 当時の報道カメラマンがどのような活動をしていたのかが目に見える内容で興味深い。

 写真家であって兵隊ではないとは言っても、戦場の様子を被写体におさめるには実際に戦地に赴かなければならない。戦争の様子を臨場感をもって伝えるためには、兵隊と一緒に戦火をくぐりぬける必要がある。命を懸けた危険な任務であることは兵隊と何らかわりはないのだ。

 実際に、キャパはアメリカ兵とともに前線に向かったり、輸送機に乗り込んで落下傘で飛び降りたりと、死と隣り合わせの行動をとっている。

 有名なノルマンディー上陸作戦では、攻撃部隊の先鋒とともにずぶぬれになりながらフランスへと上陸。砲弾や弾丸が飛びかう中を、浜辺に這いつくばって、戦場の様子を写真に撮ったそうだ。

 本書にもいくつか掲載されているが、命がけで撮影されたキャパの写真は、その時間と場所でしか撮れない瞬間を捉えている。まさに歴史の一場面を後世に伝える貴重なものといえるだろう。

 本書を読むと、その撮影の舞台裏が、ときにはユーモラスにときには悲哀をもって描き出されていて、非常に読みごたえがある。当時の戦争の様子や戦時下に生きる人々の様子が浮かび上がってくるような内容だ。

 負傷兵を写すことへの心理的抵抗や、戦地へ赴くことへの恐怖。写真家としての正直な思いもつづられていて、キャパがこんなことを考えながら写真を撮ったのかということが分かるのも興味深かった。

水深五尋 [児童書]


水深五尋

水深五尋




 第二次大戦中のイギリスの港町タインマスで、ドイツの潜水艦Uボートが突然現れ、貨物船を攻撃するという事件が起こる。一部始終を目撃していた16歳の少年チャス・マッギルは、翌日、浜辺で発信器のようなものを発見し、イギリスに潜んでいるドイツのスパイが、この発信器を使って潜水艦を誘導したのではないかとの疑念を抱く。チャスは友人たちと残されていた手がかりをたどりながら、スパイの存在を探し始めることに……。

 ロバート・ウェストールが描く、イギリスの小さな港町を舞台にしたスパイ探しの物語。

 戦争が背景にあるけれども、戦争の悲壮を全面的に描くというよりも、スパイを追跡するミステリーで、エンターテイメント性がかなりある作品。少年少女が色々と危険な目にあいながら謎を解いていくという、スリリングな冒険活劇。宮崎駿がイラストを描いているのだけれど、昔の宮崎アニメのような雰囲気もある。

 手がかりをたどっていって、だんだんとスパイの居所に近づいていくところなどは謎解きものとしてよくできている。少年たちが聞き込みをする人々もそれぞれに個性があって、きっちりと小説として見せてくれるところもよかった。

 主人公のチャスは、今回の冒険を通じて、いろいろな人々に出会い、多くの経験を積むことになる。様々な階層の人々と出会ったり、戦争が人々に与える影響を知ったりすることで、社会の矛盾を身を持って体験することになる。そうして、いろいろな側面から世界を見ることで、純情な少年から一人前の大人へと成長していく過程をたどるのだった。

 基本的にスパイ探しのミステリーだけれども、面白いだけでなく、ピリッと社会風刺も効いていて、なかなか考えさせるところもある内容。チャスと一緒に冒険をするうちに、読み終えたときには世界が多層的に見えてきて、少年の話ながらもなかなか深みのある作品だった。

ミステリの女王の冒険 [演劇]


ミステリの女王の冒険―視聴者への挑戦 (論創海外ミステリ)

ミステリの女王の冒険―視聴者への挑戦 (論創海外ミステリ)

  • 作者: エラリー クイーン
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2010/02
  • メディア: 単行本



 1970年代にアメリカで製作されたテレビドラマ「エラリー・クイーン」。名探偵エラリー・クイーンを主人公にした本格ミステリーもので、その巧妙なプロットや見事な推理は、ミステリーファンをうならせる完成度の高いものだった。

 ドラマの製作総指揮を務めたのは、リチャード・レヴィンソンとウィリアム・リンク。ミステリードラマの金字塔「刑事コロンボ」を生み出した黄金コンビである。

 「刑事コロンボ」にも出てくるような、犯人の巧妙なトリック。そして、些細な手がかりが真相へと結びついていく面白さ。エラリー・クイーンを敬愛するふたりが、本格ミステリーの奇術趣味とロジックの妙味をブラウン管の世界に再現。ミステリーの醍醐味がぎっしり詰まった秀逸なドラマだ。

 本書はその「エラリー・クイーン」の中から、選りすぐりのエピソードをまとめたシナリオ集である。エラリー・クイーンも刑事コロンボも両方好きな自分としては、もう読まずにはいられなかった。

 実際に読んでみると、結構バラエティに富んだ内容になっていて、なかなかひと筋縄に行かない。1階でエレベーターに乗り込んだ被害者が上に上がった時にはもう死んでいたという不可能犯罪を扱った、「十二階特急の冒険」。なぜか高価な中国置物を凶器として使用した犯人のおかしな行動を探る、「黄金のこま犬の冒険」。殺人容疑で起訴された被告人が、自分の無罪を証言してくれるはずの幻の女を探すという法廷もの、「慎重な証人の冒険」。船上でワイン商が殺されるというトラベルミステリー、「ミステリの女王の冒険」。

 毎回毎回、登場人物のほとんどが被害者を殺害する動機を持っている。最後には、エラリーからの「視聴者への挑戦」も出てきて、誰が犯人かを当てる趣向になっていて、犯人はあいつかこいつかと考えるのが楽しい。

 とくに「慎重な証人の冒険」は、本作の中でもぬきんでて完成度が高かった。主人公が事件を調べていくうちに次々に奇妙な事実が明らかになって、謎の渦中に入り込んでいくような雰囲気は、まるでフィルムノワールを観ているよう。随所におかれた手がかりと、ロジックの面白さ、犯人の意外性。これ一作だけでも、ミステリーの名作一冊読んだくらいの価値はあるなと思った。

 テレビドラマ化にあたっては、謎が複雑で難解すぎたという問題もあったようで、解説に失敗談もたくさん書かれていて興味深い。ミステリーも、謎が難しすぎるものよりも、むしろある程度正解に手が届くものの方が、視聴者には親しみやすいそうだ。このときの失敗がもとになって、二人の製作者はのちにロングセラーとなるシリーズ「ジェシカおばさんの事件簿」を生み出すことになる。

 読んでいて、ミステリーの世界にどっぷりと浸ることができて、非常に楽しめた。「刑事コロンボ」の原点には、エラリー・クイーンの小説があることがよく分かる。偉大な作品はまた別の作家に影響を与えて、別の偉大な作品を生み出す。創造の系譜のようなものを知ることができて、面白いなあと思った。

追憶のハルマゲドン [文学]


追憶のハルマゲドン

追憶のハルマゲドン




 カート・ヴォネガットは、「タイタンの妖女」や「猫のゆりかご」などといったSF小説で有名な作家であるが、本書は主に戦争を題材にとった作品を集めた短編集だ。

 ヴォネガットは第二次大戦中、バルジの戦いでドイツ軍の捕虜になり、ドレスデンで強制労働に服していた。ドレスデンは美しい町で、戦争と無縁の非武装地帯のようにも見えたが、やがてこの場所にも戦火が及ぶ。アメリカの爆撃機隊が高性能爆弾と焼夷弾を発射して、町を焼き払ったのだ。この爆撃で10万人以上の人間が亡くなった。

 自国による攻撃ではあるけれども、ヴォネガットにとっては非常に衝撃的で、焼け野原になった町や人々の死の光景が強烈に記憶として残る。その後、この時の経験は、彼の人生の憑りついて離れなくなったのだろう。数あるヴォネガット作品には、戦争体験の壮絶さが、そのままの形であれ形を変えてであれ、繰り返し描かれることになる。

 本書はまさに、こうしたヴォネガットの戦争体験が源流になった作品ばかりがまとめられていて、爆撃がもたらした悲劇や、戦時下に生きる人々のドラマを克明に記されている。戦争中の人々はこんな風に考えていたのかという戦争の真実に迫る内容で、非常に興味深かった。

 以下、気になったものをいくつか紹介しておこう。

 「悲しみの叫びはすべての街路に」は、ドレスデンの爆撃を描いたノンフィクション。爆撃後の町で死体捜索の任務をおこなったヴォネガット自身の体験がつづられる。戦争の大義が何であれ、もたらされる結果は想像を超える悲惨なもの。戦争の現実をまざまざと伝える貴重な作品だ。

 「バターより銃」は、ドイツ軍の捕虜となったアメリカ兵たちと捕虜監視係の老ドイツ兵とのドラマ。料理の話ばかりするアメリカ兵たちと、その会話につき合わされてうんざりするドイツ兵というユーモラスな内容なのだが、最後にちょっとした皮肉があって、戦争の悲哀を感じさせる。戦争中は敵同士であっても、こういう心の交流みたいなものもごくまれにあったんじゃないかということを想像させられた。

 「サミー、おまえとおれだけだ」は、ヴォネガットには珍しいミステリータッチの作品。戦争が終わり捕虜収容所から解放されたサムとジョージ。ふたりはともに行動することになるが、ジョージは何かを不安がっていて、おまけにサムを罠にかけようとしている様子まで感じられる……。サムとジョージの緊迫した心理戦が見もののサスペンスフルな作品。ジョージがある秘密を隠していることも明らかになって、ミステリーとして非常に楽しめた。

 「司令官のデスク」は、戦火がやんだ後のチェコスロバキアを舞台にした作品。ある家具職人の父娘のところにおとずれたアメリカ兵が、家具の製作を依頼する。最後にちょっとしたサプライズがある作品。傲慢な対応をするアメリカ人の少佐とチェコ人との間の衝突がドラマティック。町を解放してもらったからといって、必ずしも関係が円満だったわけではなかったという、当時の人々の複雑な思いが見事に描かれている。

 戦勝者であるアメリカ人から見た戦争の本であるが、全体的に戦争の悲壮さや罪悪感が主に描き出されている。決して、ヒロイックに戦争を語った内容ではない。戦争は勝利したアメリカ人さえも苦しめてしまうということが見えてきて、戦争とは何だったのかを考えさせられる秀逸な作品群だった。

総員玉砕せよ! [漫画]


総員玉砕せよ! (講談社文庫)

総員玉砕せよ! (講談社文庫)




 昭和18年、ニューブリテン島のバイエンを占領した日本兵たち。米兵の上陸に備えて陣地を構築するが、熱病や自然の脅威に苦しめられる日々……。やがて、米兵が襲来すると、激しい攻防が繰り広げられ、日本兵たちは次々に殺されていく。戦力の圧倒的な違いに、敗戦は目に見えていたが、退却は許されなかった。兵隊たちは、バイエン死守のため、玉砕を命じられてしまう。

 漫画家の水木しげるが、自らの戦争体験に基づいて描き出した軍記漫画。初年兵の丸山という登場人物に自らの姿を重ねて、一人の兵隊から見た戦争の実態を描き出している。

 戦場での兵隊たちの生活がこんなものだったのかということが、迫力をもって伝わってくる内容。上官からの日常的な暴力や、劣悪な環境下での重労働。戦いだけでなくて、デング熱にかかったり、ワニに食われたり、魚をのどに詰まらせたり。兵隊たちが死んでいく様子が淡々と描かれている。

 いくら国のためとはいっても、兵隊たちも人間である。死に対する恐怖がないはずがない。何のために戦地に送られてきたのかもよく分からないまま、死んでいかなければならない不条理さ。後退ではなく、強引にも玉砕命令が下されて、死を宣告されてしまうことへの無念さ。当時の兵隊の正直な気持ちはこんなふうだったのかということが、ひしひしと伝わってくる。

 兵隊たちを神話化された人間のように扱うのではなくて、どこにでもいるような生身の人間として活写されているところが興味深かった。

 漫画なので、デフォルメされているし、ユーモラスに描かれているところはあるけれども、それでも戦争の悲惨さが生々しく伝わってきて、米兵との攻防などはまさに地獄絵図だった。

 淡々と描かれている中にも、筆者の戦争に対する怒りの念がにじみ出ている。この陣地をそうまでして守らなければならなかったのだろうか。最後に書かれたこの言葉が、ずっしりと心に響く。

 やはり、戦争の話は、戦争体験者の話を聞くのがもっとも迫真性がある。戦争の生の現実を伝えていて、後世の歴史研究の対象にもなりうるような貴重な作品だと思った。
タグ:水木しげる

クリエイティブの授業 [美術]


クリエイティブの授業 STEAL LIKE AN ARTIST

クリエイティブの授業 STEAL LIKE AN ARTIST "君がつくるべきもの"をつくれるようになるために




 音楽でも、写真でも、絵画でも、文章でも、建築でも、何かものを創作する際に、どうすればいい作品を生み出すことができるのだろう? よい作品を作り出すコツのようなものはあるのだろうか? 本書は、あらゆる形の創作者に対して向けた、作品作りのヒントを教えてくれる一冊だ。

 原題は「Steal Like an Artist」。つまり、アーティストのように盗め。何かものを作るときには、「盗む」ということが重要であるということについて書かれている。

 「盗む」というと、悪いことのようにも聞こえるが、無から生まれるものなどない。一流のアーティストも、最初は模倣から始めるもの。画家は模写から技術を学び、音楽家は好きな音楽のフレーズを練習する。ものを作り出すときにも、完全にオリジナルなものなど存在しなくて、必ず何かの元ネタがあるはずである。現代の創作者たちは、過去の偉大な創作者たちの影響からは逃れられない。

 もちろん、一人のアーティストの作品をそのままコピーしたのでは、単なる盗作になってしまう。それは権利の侵害になる。そうではなく、複数のアーティストの作品を研究して、根本的な構造や思想を探る。アイデアの系譜をたどる。表面的な事柄ではなくて、もっと深いレベルでの技術を学んで、自分の創作に取り入れていく。それが本書の伝えたいことなのだ。

 この本を読む前から、現代の名作と呼ばれる作品でも、過去の作品の元ネタがあるよなあということは、なんとなく分かっていたことではある。世にあふれている人気作品であっても、過去のアイデアの組み合わせや模倣であることは数多い。本書を読んで、なんとなくもやもやと考えていたことをうまく言語化してくれて、読んでいて非常にすっきりする内容だった。

 盗むということは、安易に表面だけかす取っていくのではなく、もっと努力が必要なものであることも見えてくる。それは、過去の作品とじっくり向き合うこと、真摯に研究すること。自分の好きな作品になんで共感するのか、深いレベルで考察すること。盗むというのは、必ずしも簡単な行為ではなくて、考えを掘り下げていく行為でもあるのだ。

 本書に書かれている「盗む」ことの重要性は、あらゆる分野のアーティストに共通する根本原理なのかもしれない。いろいろなアーティストの言葉もたくさん引用されていて、創作者たちがどのようなことを考えて、作品を作ってきたかがわかって興味深い内容だった。