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プチクリ! [美術]





 音楽が好きな人がミュージシャンになりたいとか、漫画が好きな人が漫画家になりたいとか、映画が好きな人が俳優になりたいとか、世の中にはプロのクリエイターを夢見る人が多い。

 音楽、絵、写真、文章、料理、工作、ダンス……。人によって表現手段は違えども、何かを作り出したり表現したりすることは、誰にでも備わっている楽しみ。本能のようなもの。だから、そんな楽しい表現活動を仕事にできるのなら、こんなに素晴らしいことはない。プロのクリエイターというのは、まさにみんなの憧れの職業

 だが一方、プロの表現者への道は狭き門でもある。活躍できる場は限られているし、競争相手はごまんといる。何かを表現するということは、自分の身を削っていくようなところがあって、日々修行もしなければならないだろう。

 きらびやかに見えるけれども、同時に厳しい現実とも戦わなければならないクリエイターの世界。誰もがプロのクリエイターになることができるわけでもない。

 じゃあ、プロのクリエイターになれなかったら、表現者としては失格なのだろうか? クリエイティブな生き方はできないのだろうか? 

 そんな素朴な疑問に答えてくれる一冊が、本書「プチクリ」である。

 クリエイティブに生きるには、何もプロになる必要はない。プロ・クリエイターではなく、プチ・クリエイターを目指せばいいということが書かれている。

 誰にもできる才能の見つけ方、表現力を伸ばす方法、プチクリライフの楽しみ方などなど。気楽にクリエイターになるための方法が伝授されているのだ。

 ものを表現するにしても、誰でも最初からうまくできるわけではない。いきなりプロ級を目指して気負って憂鬱になるよりは、最初は気楽に表現を楽しんでみて、だんだんとステップアップ。徐々に表現力を伸ばしていくほうがいいのかもしれない。プロのクリエイターでさえも、最初はみんなプチクリだったのだ。

 本書を読むと、自分がいかに固定観念にとらわれていたかに気づかされる。一口に表現といっても、いろいろな種類があることが分かったり、才能についての考え方も目からウロコが落ちた。こんな柔軟な発想ができるのかと思って驚かされる。

 本書はいろいろなレベルのあらゆるクリエイターに向けた応援メッセージといえるだろう。ものを作ったり、表現したりすることを楽しむための極意が描かれていて、とても元気づけられる一冊。

 読んでいると、自分でも何かを表現したり、クリエイティブに生きることができるんじゃないかと、勇気をもらえる楽しい本だった。
タグ:岡田斗司夫

絶対帰還 [地学]


絶対帰還。

絶対帰還。




 2002年、3人の宇宙飛行士を乗せたスペースシャトルが、国際宇宙ステーションに向けて飛び立った。14週間にわたりステーションに滞在し、科学実験や補修作業を行う計画だった。無事、ステーションに到着し、宇宙空間での生活を楽しみ始める3人だったが、そんな彼らの前に予期せぬ出来事が起こる。スペースシャトル「コロンビア」が、大気圏突入時に空中分解するという大事故が起こってしまったのだ。事故の影響で、シャトル計画自体が頓挫。宇宙に残された3人は、地上に戻れなくなってしまう……。

 宇宙に取り残された3人の宇宙飛行士の救出劇を描いたノンフィクション。ステーション内を包み込む不安な心理、どうやって救出するのかという地上での議論の数々、そして緊迫の救出作戦。宇宙開発をめぐってこんな出来事があったのかと驚かされる、ドラマティックな内容だ。

 ドラマの主人公となるのは個性豊かな3人の宇宙飛行士。アメリカ人の指揮官ケネス・バウアーソックス、アメリカ人の科学実験主任ドナルド・ペティット、ロシア人フライトエンジニアのニコライ・ブダーリン。それぞれに異なる背景を持ち、宇宙へ向かう異なる動機を持った3人の人生がステーションで交差する。おのおのの宇宙へ旅立つまでの人生が詳細に描き出されていて、人間ドラマとして読んでも面白い。

 主軸となるのは3人の話なのだが、それ以外にも、これまでの宇宙開発をめぐる経緯、宇宙飛行士たちのいろいろなエピソード、アメリカとロシアの宇宙競争、国際宇宙ステーションでの日常生活なども書かれていて、宇宙開発をめぐる情報がふんだんに盛り込まれていて面白かった。

 宇宙はまだまだ謎の多い世界。宇宙旅行には様々な壁があるけれど、そんな壁を一歩一歩乗り越えていく宇宙飛行士たちの姿を見て、感動させられるし、そのフロンティア・スピリットにも勇気づけられる。

 国際宇宙ステーションの滞在と、その後の月面開発計画、そして火星への有人探査。そしてその先へ――。SF小説に出てくるような有人惑星探査や移住計画なども、やがては現実のものになるのかもしれない。本書を読んで、今後宇宙開発がどのような道のりをたどっていくのか、わくわくさせられた。

君たちはどう生きるか [人文]


君たちはどう生きるか (岩波文庫)

君たちはどう生きるか (岩波文庫)


 

 中学2年生のコペル君の日常を通して、人生をいかにして生きるべきかを問いかけた本。

 コペル君は、学校でさまざまな経験をする。勉強はもちろんのこと、友達との交流、喧嘩騒動、上級生との軋轢……。多くの経験を通して、楽しい友情であったり、苦しい悩みだったりと、いろいろな感情がわきあがってくる。

 たとえば、友人が上級生にどやされて苦しんでいるときに何もしてあげられなかったときなど、コペル君は自己嫌悪に陥って寝込んでしまうようなことさえあった。どうしたらいいのか頭の中にもやもやしたものが残って、整理がつかない状態。

 そんなときにいつもヒントを与えてくれるのは、コペル君の叔父さん。叔父さんは、コペル君が体験した出来事をもとに、それがコペル君の人生にとって、周りの人々にとって、世界にとってどんな意味があるのかを導きだしてしまう。叔父さんはコペル君に、世界はこんな風に見るといいよと、多くの新鮮な見方を教えてくれるのだった。

 真実の体験とは何か? 偉大な人物とはどういう人か? 貧しさについてどのように考えるのか? 人間はどうして悩むのか? コペル君は人生の本質を学ぶことになる。

 本書を読んで、最初は昔の中学生の日常が淡々と描かれていて、これはなんだろうと思ったが、叔父さんとの対話を通して人生について語られる部分を読んで、大いに考えさせられてしまった。まさに人生の真理を突いていて、ああこういうことだったのかと今更ながら気づかされるところも多かった。

 どうやって生きたらいいのか、どういう風に世界を見たらいいのか? そのヒントを与えてくれる本で、人生の糧になるような内容。文体は小学生でも読めるような軽いものだが、書かれている言葉は大人が読んでもずっしりと心に響くような深みがある。

 生活の中で起こる様々な出来事。ちょっとした出来事でも、じっくり観察して深く考えることで、普遍的な真理に近づくことができるのかもしれない。身の回りの出来事をもっと大事に見なければいけないなあと、本書を読んで反省させられてしまった。
タグ:吉野源三郎

13階段 [ミステリ(日本)]


13階段 (文春文庫)

13階段 (文春文庫)




 松山刑務所を出所したばかりの三上純一は、刑務官の知人からある仕事を頼まれる。それは、10年前に起こった強盗殺人事件について一緒に調査して、その事件で逮捕され死刑囚となっている男の冤罪を晴らしてほしいというものだった。死刑執行が迫る中、ふたりは数少ない手がかりをたどるが、しだいに予想外の事実へと導かれてゆく――。

 元受刑者と刑務官という異色のコンビを主人公にした冤罪もののミステリー

 記憶喪失になった死刑囚を救うという話で、最初は当然死刑囚に不利な証拠ばかりが集まっていて、絶体絶命の状況から始まる。これは救い出すのは難しいんじゃないかと思わせておいて、主人公たちが事件を調査し始めるうちに、いろいろと過去の捜査で見落とされていた点が出てきたり、死刑囚以外の容疑者が浮上してきたり。いくつかの線を追いかけるうちに、徐々に事件の真相が見えてくる。

 危機的状況から逆転することができるのかという、冤罪ものの醍醐味を存分に生かした作品。最後の最後まで意外な事実が次々に明らかになって、たたみかけるような展開に、どうなるんだろうとハラハラドキドキさせられた。

 死刑囚や受刑者の実態を描いた社会派な内容でもある。死刑囚がどんな生活を送っているのか、受刑者たちの心境、加害者家族に対する世間の風当たりの強さなど、受刑者をめぐる実情について描き出されている。ことに死刑執行がどのような手順でなされていくのか、そのプロセスが詳細に書かれているところが印象的だ。

 作者はもともと映画の脚本家というだけあって、設定も丁寧だし、話の盛り上げ方も非常にうまい。最後にはアクションも伴うクライマックスも用意されていて、本当に映画を観ているようなドラマティックな展開だった。

 作者自身が解説で、ストーリーは「どっちが勝ってるかが大事」という言い方をしているが、本書の中で主人公ふたりが事件捜査の中で何度も障害にあいながらも乗り越えていく様子は、まさに「勝ったり負けたり」の繰り返しといえるだろう。二転三転する展開に、最後まで目が離せない面白本だった。
タグ:高野和明

再生可能エネルギーの真実 [社会]


再生可能エネルギーの真実

再生可能エネルギーの真実




 震災以降、エネルギー問題について議論がわいていて、再生可能エネルギーについても言及されることも多い。だが、実際のところ、日本で再生可能エネルギーを開発しようとした場合に、どの程度の現実的な可能性があるのだろう?

 本書は、風力・太陽光・地熱・水力・バイオマスのそれぞれについて、潜在的な導入可能量、開発可能な地域、開発に必要な期間、技術内容、海外の導入事例、具体的な企業の取り組みなどについて、詳細にまとめられている。再生可能エネルギーについてのいろいろな疑問に答えてくれる興味深い一冊だ。

 環境省、資源エネルギー庁、IPCC、IEA等の公的な機関や、三菱や東芝といった企業発表の資料などに基づいていて、データがふんだんに盛り込まれた資料価値の高い内容でもある。

 とくに、エネルギーの潜在的な可能性がどのくらいあるのか、数字で把握することができるところがよい。

 たとえば、地熱発電についてみると、現在の設備能力は0.5ギガワットだが、潜在的な導入可能量は14ギガワット。水力発電は、現在の設備能力が9.5ギガワットだが、潜在的な導入可能量は14ギガワット。太陽光発電は、パネルを設置できる住宅が1200万戸あり、うち1000戸に設置した場合の発電容量は35ギガワットになる。突出しているのは、風力発電で、潜在的な導入可能量は1900ギガワットもあるという。

 もちろん、潜在可能性があるからといって、丸々使えるわけではなくて、開発するのにはいくつものハードルがある。地熱資源の8割は自然公園内にあるし、風力発電の適地も農地・林地に多く、環境規制との衝突の問題がある。また、開発するのにはコストもかかるので、経済的に見合うのかという問題もある。太陽光・風力に関しては、天候の影響を受けやすく不安定なので、割り引いて考える必要もあるだろう。

 だが、潜在的な可能性の高さを見れば、今後の開発いかんによって、今よりも格段に大きな割合でエネルギーを供給していくことも考えられるのだ。実際に、外国では再生可能エネルギーの導入事例が年々増加傾向にあり、日本はこの分野では遅れていることも分かる。

 本書を読むと、再生可能エネルギーについて、その潜在的な可能性が具体的な数値とともに見えてくる。と同時に、環境やコストといった問題点についてもきっちりと触れられていて、エネルギー問題を考えるうえで必要な材料がずらりとそろっていて、大いに読みごたえがあった。
タグ:山家公雄

新参者 [ミステリ(日本)]


新参者 (講談社文庫)

新参者 (講談社文庫)




 小伝馬町のマンションで、翻訳家の女性が絞殺される。現場の状況からみて、顔見知りによる犯行が疑われた。日本橋署に赴任したばかりの刑事・加賀恭一郎は、手がかりを追って聞き込みをはじめるが、被害者をめぐる様々な人物たちが容疑者として浮上し始める。

 人気作家東野圭吾が描く、人形町近辺を舞台にした人情味あふれるミステリー

 ミステリーの常とう手段に、容疑者を大勢登場させて、それぞれの容疑者に何らかの秘密を持たせるというものがある。

 容疑者が少ないと、ネタが割れやすいけれども、いかにもいわくありげな秘密を抱えた容疑者が出てくれば、読んでいるほうもこれはなんだろうという風にそっちに興味が向いてしまう。本当は本筋とあまり関係なくても、秘密を解き明かす過程を見せられるうちに、いつの間にか、真犯人から注意が逸らされてしまう。作者が読者をミスリードするためのシンプルなしかけ。

 「新参者」を読んでいてとくに面白いと思ったところは、そうした出てくる容疑者たちの秘密の数々である。容疑者一人一人の秘密の話が大きくふくらんで、短編小説の形にまでまとめあげられている。しかも、秘密が暴かれるミステリーというだけでなく、人生のひきこもごもを感じさせる感動の人情話になっているのだ。

 加賀刑事が探偵役として、得られた手がかりから鋭い推理を繰り広げるのは、よくあるミステリーなのだけれど、明らかにされる真実が心温まるような内容で、人間味にあふれている。全体的に、現実の裏に人々の善意が隠れていたといったエピソードが多くて、さわやかな読後感を残す。

 推理小説というと、パズルみたいで登場人物が記号的に扱われて、作り物めいた感じがしてしまうことも多いけれども、この作品はミステリーとヒューマンドラマが見事に融和されていて、人間心理に迫る秀逸なミステリーになっている。人間同士の関係性だったり、登場人物がどうしてああいう行動をとったのかという動機だったりが丁寧に描かれていて、謎解きというだけにとどまらないドラマ性があるところが面白かった。

 もちろん、推理の部分も非常によくできているけれども、同時に感動ものでもあるという珍しいミステリー。江戸情緒あふれる小道具もたくさん出てきて、色々な楽しみができる作品だった。
タグ:東野圭吾