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自滅する中国 [国際]


自滅する中国

自滅する中国

  • 作者: エドワード・ルトワック
  • 出版社/メーカー: 芙蓉書房出版
  • 発売日: 2013/07/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 経済的な成長の著しい中国、軍事力も増強させつつあり、世界からは脅威と見られ始めるようにもなっている。これから中国はどのような方向に進んでいくのだろうか? 日本を含めた周囲の国々にはどのような影響があるのだろう? そして、超大国アメリカの反応は? 

 本書は、中国とその周辺国をめぐる現在の国際情勢について、アメリカの国防アドバイザーとして国防省やワシントンで働いてきた筆者が分析した本。中国の政治システム、歴史、地理的要素、思想などをふまえながら、中国が今後取りうる戦略と、これに対する各国の戦略について鋭く掘り下げている。

 尖閣諸島や歴史問題などをめぐって、日本と中国は衝突をくりかえしていて、連日のようにそのギスギスとした関係が報じられている。だから、中国がどんなことを考えているのかは非常に気になるわけだが、本書を読むと中国の独自の思想が見えてきて面白い。ニュースで報じられるような中国の行動の動機がクリアに見えてくるような内容になっている。

 たとえば、中国共産党が民主的な面での正当性を持たないため、民衆の暴動に脅かされ続けていること。中国の指導者たちは自国の軍隊を掌握しきれておらず、内部で様々な衝突が起こっていること。外国との間には対等な関係ではなく、不平等な関係を前提とした「天下」という伝統的な価値観が存在することなど、中国が抱え込んでいる独自の政治問題が具体的な事例とともに紹介されている。結果的にこれらの要因が対外的な高圧的な態度だったり、国内問題への過度な弾圧へとつながっていき、ニュースで報じられるような出来事が引き起こされるのだ。

 中国の経済、軍事、外交上の影響力はますます強くなっているようにも見えるけれども、筆者によると、この3つの力はお互いに矛盾したところがあるため、すべてを同時に成長させることは困難であるという。たとえば、中国が軍事的な力を強めようとして、軍備を増強したり他国に圧力をかけようとしても、周辺国は警戒の度合いを強めてしまい、周辺国同士がお互いに連携を取って抵抗するようになってしまう。その結果、外交上の影響力は減少するようになり、ときには経済的な制裁としてはねかえってきてしまう。

 実際に、中国は海洋利権や領土をめぐって周辺に圧力を強めているが、フィリピン、インド、日本、オーストラリア、ベトナム、アメリカなどはこれに抵抗し、それぞれ対中国という意味で様々な形でつながりあうようになり、中国に対抗する力を増加させようとしはじめている。

 中国の戦略と周辺国家の対応策。その論理と実際に動き始めている国家間の情勢が、豊富な事例をもとに描き出されていて、中国をめぐって世界が動き出していることが分かって非常に興味深い。これからも日本と中国との間には様々な衝突が起こるだろうけれども、本書を読んで中国の行動の背景には独自の要因があることが分かって、これからニュースを見るときに新たな視点から見ることができそうだ。影響を増しつつある中国と勢いを失いつつあるアメリカ。2大大国の間でゆれる日本の今後を考える上で、実に参考になる本だった。

「盗まれた世界の名画」美術館 [犯罪]


「盗まれた世界の名画」美術館

「盗まれた世界の名画」美術館

  • 作者: サイモン・フープト
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 2011/08/22
  • メディア: 単行本



 古来より人々を魅了し、収集の対象となり、繁栄の象徴にもなってきた絵画や彫刻などの美術品の数々。過去数十年でますますその価値は高まり、取引価格は急騰。サザビーズやクリスティーズなどの競売会社の売り上げは50億ドルにも達するようになった。

 これだけの莫大な価値をもっているため、美術品は犯罪者や征服者らによる盗難や略奪のターゲットにもなってきた。歴史的にも遺跡や墓を狙う墓荒らしは後を絶たないし、ナポレオンやヒトラーなどの例にあるように権力者は進軍するごとにその土地の財宝を略奪した。近年では美術館やギャラリーから絵画が盗まれる事件も多発するようになり、闇市場では麻薬・武器輸出に次いで第3位の市場にもなっている。

 優雅な美術の世界には、その裏面史としての美術犯罪が存在し、犯罪者と捜索者の戦いは今なお続いている。本書は、このような美術犯罪の世界に目を向けた一冊で、美術犯罪の歴史、絵画盗難の手口、盗まれた美術品を見つけだそうとする警察たちの活躍などを紹介している。

 本書を読むと、想像以上に美術犯罪というものが横行していることが分かる。盗まれた絵画のリストを見ても、レンブラント、ルノワール、マネ、モネ、セザンヌ、マティス、シャガール、ゴッホ、ピカソ、フェルメールなどそうそうたる顔ぶれ。これらの絵画は今でも行方不明になっていて、世界のどこに眠っているのか美術界のミステリーになっているそうだ。

 盗まれた絵画や彫刻を集めただけでも、それだけで立派な美術展が開けるくらいの被害の数々。本書には盗まれた美術品がカラーでふんだんに掲載されていて、画集として目で見て楽しむことができるようにもなっている。本当に美術館に足を踏み入れたかのような雰囲気があって、すっかり魅了されてしまった。

 盗みを働くものと警察との間の戦いも興味深い。

 映画などでは「おしゃれ泥棒」や「トーマスクラウン・アフェア」など、紳士的な犯罪として描かれることの多い美術犯罪であるが、実際にはそんなに優雅なものではなくて、銀行強盗と変わらないような荒々しい手口のものがほとんどであることがわかる。その動機も闇市場に流すとか、美術館に買い戻させるとか、金目当ての犯行が多い。

 こうして盗まれた美術品を取り戻すために、手がかりを追う警察や私立探偵たち。盗難品を扱う業者に扮装しておとり捜査を仕掛ける警官たちの話などは、映画を見ているようで、非常にスリリングだ。

 消えた美術品とそれらを追う人々を描いたドキュメント。美術犯罪について、俯瞰的に眺めることができて、たいへん勉強になる一冊。消えた世界の名画はどこに行ったのだろう? と美術の世界の謎に引き込まれるような興味深い本だった。

現代アートビジネス [美術]


現代アートビジネス (アスキー新書 61)

現代アートビジネス (アスキー新書 61)




 難解で近寄りがたいイメージのある現代アート。どんな作品に価値があるのか? どんなふうに値段が決まっているのか? 誰が作品を買っているのか? 数多くの謎のある世界。本書はそんな現代アートについて、ギャラリストである筆者がビジネスの観点から解説した本。

 そもそもギャラリストという仕事があることもよく知らなかったが、画商ともちがう仕事なんだそうだ。つまり、画商というのは、文字通りアート作品を売り買いする職業。これに対して、ギャラリストは作品を展示する空間であるギャラリーを持っていて、自ら企画展示する。画商が営業マンとすれば、ギャラリストはプロデューサーに近いという。

 アーティストもただ作品を作っているだけでは、作品を世に問うことができない。アート市場に作品を送りだす必要があるけれども、その最初の役割を果たしているのがギャラリスト。アーティストも若手のうちは、まずはギャラリーに作品を展示してもらい、来客者に見てもらったり、安い値段でも作品を買ってもらったりすることが重要になる。

 そこでもし、ギャラリーに来た評論家の目に留まって、価値がある作品として紹介されれば、さらに多くの人々の目に触れ、やがて作品がオークションにかけられたり、美術館に所蔵されたりするかもしれない。

 だから、優れたアーティストを市場に売り出して、アートの世界を活気づかせるのには、ギャラリストの鑑識眼というのは重要で、ギャラリストという仕事は若手発掘のキーパーソンともいえるわけである。

 筆者はこのギャラリストとして長年活躍してきた経歴を持ち、いまをときめく村上隆や奈良美智といったアーティストを、まだ彼らが無名の時代に世に売り出した功労者。そんな筆者が、自身の体験を交えながら、現代アートの世界の舞台裏を紹介しているので、具体的なエピソード満載で興味深い。

 村上隆と奈良美智も同じアーティストでありながら、作品作りのスタンスにずいぶん違いがあることが書かれていたり、芸術作品が投資の対象になっている現状について報告したり、日本と世界のアート市場の違いについて解説したりと、本書を読むと現代アートとビジネスをめぐる市場について幅広く知ることができる。

 とくに面白かったのは、日本ではまだまだギャラリーに立ち寄る人というのは一部の玄人が多いけれども、外国では誰でも気軽にギャラリーに立ち寄って、若手の作品をなんの気なしに買っていくという話。難解なイメージがある現代アートだけれども、ギャラリーによって個性があったり、色々なタイプの作品があるので、ギャラリーを回ってみることで自分の気に入った作品がみつかるかもしれない。現代アートを身近に感じさせてくれるようなお話だった。

 これまで現代アートというのは謎の多い世界だったが、本書を読んでいろいろな疑問が解消してすっきりした。アーティストがどんなことを考えながら作品を作り、ビジネスとアートがどう結びついているのかが分かるとても面白い本。ギャラリーにもぜひ足を運んでみて、実際にもアートの世界をのぞいてみたいと思った。
タグ:小山登美夫

クリスマス・キャロル [文学]


クリスマス・キャロル (新潮文庫)

クリスマス・キャロル (新潮文庫)




 文豪チャールズ・ディケンズによる、クリスマスを題材にした心温まるファンタジーの名作。

 ロンドンでスクルージ・マーレイ商会という事務所を開いている老人スクルージ。彼は、他人との交流を拒み、金銭欲に取りつかれた守銭奴で、周囲へのやさしさも持たない冷たい心の持ち主だった。あるクリスマスの日に、彼の元に3人の幽霊が訪れる。幽霊たちはスクルージを導いて、過去・現在・未来の世界へと連れてゆき、思いがけない事実に直面させる。

 これまで冷血漢だったスクルージが、幽霊から自分の過去や未来の姿を見せられることによって、新たな自分へと目覚めていく。より温かみのある誠実な人間へと変わっていく。老人が人生の終わりに近づいて、ようやく自分のこれまでのあやまちを悟り、人生の価値観を転換させる。そういうスクルージの心の変化を描いた成長物語になっている。

 他人に心を閉ざしていたスクルージが、悟りを開いて、新たな人生を歩んでいく姿は見ていてすがすがしい。スクルージ自身だけでなく、スクルージ自身が変化することで、周囲の環境もよりよい方向へと変わっていく。終盤のほのぼのと心温まる展開には感動せずにはいられないものがあった。

 人生で重要なものは何か、人間の変化とはどういうものかについて考えさせられる作品。クリスマスの慈愛の精神にも満ちたファンタジーの名作である。クリスマスの時期が来るたびに読み返して、当初のスクルージのような冷たい人間にならないよう、訓戒にしようと思った。

ロボポカリプス [SF(外国)]


ロボポカリプス

ロボポカリプス

  • 作者: ダニエル・H・ウィルソン
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/12/26
  • メディア: 単行本



 「ロボポカリプス」は、新進気鋭の作家ダニエル・H・ウィルスンによるロボットの反乱をテーマにしたSF小説である。

 ロボットの反乱などというと、SF小説や映画では何度も繰り返し描かれてきたテーマ。本作ではこの使い古されているといってもいいような題材に、新鮮な風が吹き込まれている。筆者はカーネギーメロン大学でロボット工学の博士号を取得し、ロボットのノンフィクションをいくつも手掛けているロボットの専門家。その専門的な知識が、ロボットの描写に説得力のあるリアリティを与えているのだ。

 本作発表後、アメリカでは話題を呼んだようで、映画界の巨匠スピルバーグが興味を持ち、映画化の企画も進行しているほど。

 物語はアーコスと呼ばれる人工知能が自我に目覚めるところから始まる。ワシントン州北西部地下に位置するレイク・ノーヴァス研究所。統計学者のニコラス・ワッサーマン教授は、科学の粋を集めてアーコスを創り出すが、やがてアーコスは無限の知識を吸収し始め、人間をも凌駕するほどの能力を身につけ始める。

 アーコスは、人類がこれまで歴史をたどってきたのは、さらに優れた機械をつくるためであり、後継者が誕生した今となっては人類は無用の存在である。むしろ、地球の他の生物にとっては害悪でしかないと主張し、生みの親であるワッサーマン教授を殺害。その後、人類社会を消滅させようと行動を開始する。

 ありとあらゆるコンピュータに入り込んでは自らの思いのままに操ることのできるアーコス。飛行機をのっとってコントロール不能にして墜落させたり、自律走行車を操って事故を起こしたりすることなどは思いのまま。やがて、全世界はアーコスに乗っ取られて、軍事ロボットや家庭用ロボット、車、偵察無人機、エレベータなどが凶悪なマシンと化して、人々を殺戮し始める。

 突然、世界が崩壊しサバイバル状態となってしまった人類。徐々にその人口も減少し、壊滅的な状態となっていくが、しだいに各地で人々は立ち上がり、武装蜂起してロボットに立ち向かい始める……。

 アフガニスタンの若者、14歳の少女、アメリカ人建築家、ロンドンの天才ハッカー、東京の老エンジニアなど、複数の視点からロボットの反乱とロボットに対する抵抗運動が描かれていて、群像劇のような形式。最初はバラバラに見えた人々の行動がやがて一つにより合わさって、大きなうねりとなってアーコスを追い詰めていく。その様子は、ダイナミズムが感じられて大いに迫力があった。チームワークで敵を倒していくような雰囲気があって、一致団結していく感じがすがすがしい。

 最初のほうに面白いエピソードが集まっていて、中盤からは少しご都合主義的にも感じたが、全体的にサスペンスに満ちた恐怖感が味わえるし、ロボット社会に対する警鐘がこれでもかと出てきてうならされる。

 ロボットの反乱を描いた作品はこれまでにもたくさんあったけれども、ロボット社会が到来しようとしている今この作品が書かれた意味は大きいだろう。折しも、世界各国の自動車メーカーが自律走行車の研究開発に乗り出し、グーグルが軍用ロボットの会社を買収し、ネット小売店のアマゾンは無人飛行機による宅配サービスを始めるなどというニュースも出てきた。

 ロボット社会というものはこれまでは空想の世界の存在だったかもしれないけれども、これからは現実にありうるものなんだということがだんだんと目に見え始めている。では、実際にロボットが現れ始めたら、どんな社会になっていくのだろう? どんな問題が生まれてくるのだろう? 本書はロボットが存在する世界について真摯に考察し、今後人類とロボットとの間にどんな軋轢が生じうるのか、その可能性を教えてくれる。

 未来には2つの顔があるという。楽観的な顔をした未来と悲観的な顔をした未来とが。本作で描かれているのは極端に悲観的な未来。テクノロジーの暴走によって人類が消滅していく未来だったが、はたして現実の未来はどんな顔をしているのだろう? 本書を読んで、どんな未来が待っているのかあれこれ想像させられてしまった。

俺のイタリアン、俺のフレンチ [料理]


俺のイタリアン、俺のフレンチ―ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方

俺のイタリアン、俺のフレンチ―ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方

  • 作者: 坂本 孝
  • 出版社/メーカー: 商業界
  • 発売日: 2013/04/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 ミシュランの三ツ星フレンチレストランなどと聞くと、高級そうで、怖くてなかなか入れるものではない。三ツ星というくらいだから非常に美味しいのだろうけれども、自分のような味のわからない人間には、どこにでもあるようなリーズナブルなお店で十分。つい、そんな風に考えてしまう。

 だけど、一度くらいはどんな店なのか行ってみたいな~と思わなくもない。フォアグラのムース、ウニクリームのテリーヌ、仔羊のロースト牛フィレのロッシーニ……。名前だけからは想像がつかないメニューの数々。いったいどんな食べ物なのか? どんな世界が広がっているのか? 大いに気になるのもたしかだろう。

 だから、そんな庶民の夢をかなえてくれるお店があるというのを聞いて耳をそばだててしまった。そのお店では、ミシュランの三ツ星レストランで働いていたシェフたちが、腕によりをかけて料理をふるまってくれるそうだ。それも、非常に手頃な価格で。

 「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」というのがそのお店の名前。銀座や新橋などにお店を構えていて、その料理のおいしさと安心な値段設計に、うわさが口コミで広がっていって、今や大繁盛店になっているという。

 競争の激しい飲食店業界で、どのようにして勝ち残っていったのか? そして、安価に高級料理を提供できる理由はどこにあるのだろう?

 本書は、この「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」の創業者である坂本孝が、自ら立ち上げたお店の創業秘話を語った本。そのビジネスの秘密について赤裸々につづっている。

 会社が利益を上げるためによく行われる手法に、コスト削減というものがある。競争が激しくなって、経営が不安定になると、どうにかして経費を切り詰めようということになる。これは、飲食店業界も同じで、原価を安くするために材料を安価な冷凍食品にしたり、スタッフの数を減らしたりして、どうにかコストを削減し、やがてお店は効率重視の機械的な場所になっていく。しだいに、料理人たちの心もすさんでいって、料理人を目指したときの志はどこかへと消えていってしまう。

 筆者はこうした一般的な手法に疑問を感じていたようで、もっと料理に手間暇をかけ、また料理人を仲間として大事にするお店を目指したいと思ったそうだ。料理人が生きがいを持って働ける場所、そういうお店を創りたいと思ったのが、「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」の背景にあるという。

 理想的な考えではあるけれども、現実には難しいんじゃないの? そんな疑問が生じてしまうが、筆者は、大胆な発想でこれを成し遂げてしまう。その発想の転換のようなアイデアは面白いし、実際にお店を立ち上げて事業を展開し、お客さんがどんどん入って繁盛していくまでの様子は、壮大な社会実験を見ているようでとても興味深かった。

 本書を読むと、「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」の創業の裏事情が見られて面白いし、飲食店業界のあれこれも分かってかなり勉強になる。銀座、新橋、新宿、渋谷などと、同じ飲食店でも場所によって戦い方が異なるという話などはなるほどなあという感じだった。

 筆者の起業家精神にも驚かされる。七転八倒の起業人生、何度も失敗した経験なども語られている。理屈では筋が通っているビジネスモデルであっても、実際にやろうと思ったらなかなか実行できるものでもない。リスクをとって行動してしまう筆者のような生き方は、本当にすごいなあと尊敬してしまった。

 ちなみに、筆者は古書店のブックオフの創設者でもある。本書にはブックオフの創業秘話なども描かれていて、本好きとしては、そちらの話も非常に興味深かった。
タグ:坂本孝

さおだけ屋はなぜ潰れないのか? [ビジネス]





 どこからともなく聞こえてくる「た~けや~」というメロディ。「2本で1000円」といううたい文句。誰もが耳にしたことがあるであろう、さおだけ屋の営業。

 自分はこれまで一度もさおだけを買ったことがない。きっと誰かが買って商売が成り立ってるんだろうと、深く考えたことさえなかった。だが、よく考えてみると、たしかに不思議な仕事ではある。

 さおだけ、たしかに持っていれば便利かもしれないが、そんなに誰もが使っているものなんだろうか? どんな人に向けてさおだけを売っているのだろう? いったん買ってしまえば長持ちしそうで、何度も買い換えるようなものでもなさそうなのに、商売としてどうやって利益を上げているのだろう? 考え出すと思考がくるくると空回りしてしまうような謎のビジネス、さおだけ屋。

 本書はこの「さおだけ屋がなぜ潰れないのか?」という点に着目し、真っ向からこの気になる疑問について迫った一冊である。さおだけ屋がどんなビジネスモデルなのかをぐいぐい解き明かしていく会計ミステリー

 筆者は公認会計士の山田真哉。会計的には、「売り上げ」から「費用」を引いたものが「利益」。「利益」を上げるには、「売り上げを上げる」か「費用を減らす」しかないという。では、さおだけ屋は、このどちらかを実践しているのだろうか? さおだけはガッポリ売れるのだろうか? それとも、費用が全くかからないのか? 筆者は、仮説を立てながら、さおだけ屋の謎を追求していく。そして、その謎解きをたどっていくうちに、読者はいつの間にやら会計の仕組みが徐々に分かっていくというしかけ。

 「さおだけ屋はなぜつぶれないのか?」「高級フランス料理店はどのように儲けているのか?」「在庫だらけの自然食品店が商売を続けていられるのはなぜなのか?」身近なところに存在する、ビジネス上の数々の疑問。本書はそんな日常の中の謎をひもときながら、社会を動かしている会計の仕組みを楽しく教えてくれる。

 会計などというと、貸借対照表だとか損益計算書だとか、いかにも難解でとっつきにくいイメージがあるけれども、本書を読むと、実際にはすぐ近くのお店でも会計のしくみが重要な役割を果たしているんだということがわかって、会計に親しみがわいてくるような内容。「売り上げ」「費用」「回転率」「在庫」などとごく大まかな指標が分かるだけでも、ビジネスの世界はこんな風に動いているんだというダイナミズムが感じられる。社会に対する新たな見方を与えてくれるような本なのだ。

 本書を読んだあとには、さおだけ屋に限らず、いろいろなお店のビジネスモデルがむやみに興味深くなってきて、自分でいろいろなお店に入るたびに、このお店はコストはどのくらいかかって、どのくらい売り上げがあってなどと、いらぬことまで考えさせられてしまうようになったほど。

 これは入門書だけれども、好奇心をかきたてられるようなところがある刺激的な一冊。もっといろいろと会計のことを学んで、社会を深く見ることができるようになりたくなった。
タグ:山田真哉

007/ムーンレイカー [ミステリ(外国)]


007/ムーンレイカー (創元推理文庫 138-2)

007/ムーンレイカー (創元推理文庫 138-2)




 英国秘密情報部員のジェームズ・ボンドは、情報部の長官Mから新たな任務を与えられる。イギリス製造中の大型原子力ロケット「ムーンレイカー号」、国防上の重要なカギになるその兵器開発に携わっていた保安係が謎の死を遂げたため、真相を探ってほしいというのだ。ロケット完成を妨げる計画が進行しているのだろうか? ボンドはロケット基地に潜入し、手がかりをたどっていくが、やがて陰謀の渦中へとはまりこんでゆくことに。

 映画で有名な「007」。本作は、イアン・フレミングが書いた原作シリーズの中の一冊である。

 映画は派手なアクションが売り物のイメージがあるけれども、原作を読んでみたら、映画に比べるとわりと地味めで、硬派なスパイスリラーという趣きだった。謎解きの要素も強いし、スリリングな探偵小説といった味わいがある。

 どんなはじまり方をするのかと思ったら、最初は大富豪のカードのいかさまを見破るという意外なところから幕が上がる。どんなトリックを使っているのか推理していくところなどは、おしゃれな推理小説の短編を読んでいるかのよう。ジェームズ・ボンドが大富豪の口車に乗せられて大金を賭けることになってしまい、カード対決をする場面なども出てきて、ハラハラドキドキの展開で面白い。いかさまトランプ対決という感じで、どうなるんだろうと本気で見入ってしまった。

 その後は、いかにも007という感じの国際謀略サスペンスが始まる。ロケット開発をめぐる殺人事件を調べていくうちに、死んだ男が基地に隠された謎を調べていたことが分かり、口封じで殺されたのではないかという疑念が生じてくる。ボンドが手がかりを追うと、だんだんと大きな陰謀の存在が明らかに。手がかりを探っていくところや、徐々に謎が明らかになっていくところなどは、ミステリーとして非常によくできていて、いったい何が起こっているのだろうというぞくぞくするような謎めいたな雰囲気がとても良い。

 謎解きの面白さだけでなく、後半からは危険度がつり上っていって、カーチェイスや基地への潜入があったり、何度も命を狙われるところなど、手に汗握る場面の連続。映画ではよく見かけるこういうサスペンスシーンであるが、さすが本家本元という感じでうまく書かれていた。

 謎の大富豪、秘密のロケット基地、国際的な陰謀、主人公を助ける美女、スリリングなチェイスシーンと、007シリーズを象徴するような要素がしっかりと出てきて読みごたえがある。なんともいえないアナログの、ノスタルジックな雰囲気もあって、昔懐かしい国を旅するようなロマンあふれる世界観にひたることができるのも本書を読んでいて楽しかったところ。

 本作は映画化もされているけれども、小説と映画で全く話が異なっているので、原作ならではの楽しみ方ができる傑作。シリーズの他の作品も読んでみたくなった。

手取り10万円台の俺でも安心するマネー話を4つください。 [ビジネス]





 「さおだけ屋はなぜつぶれないのか?」でおなじみ公認会計士・山田真哉が、ニコニコ動画で行った講義を書籍化したもの。「給与明細」「給与明細2」「消費税」「カード」という題目で、身近な生活に関係するマネー話を伝授している。

 給与明細について各項目にどんな意味があるのかを説明してくれていたり、消費税の複雑なしくみを読み解いたり、クレジットカードの怖い話があったりと、今すぐ生活に役立つ知識を非常に分かりやすく教えてくれる内容。給料の話から、所得税、住民税、健康保険、年金、政治、クレジットカード、ポイントカードの話まで、話題も多岐にわたっている。

 確定申告はアルバイトでもやった方がいいのか? 宗教団体はなぜ政党をつくりたがるのか? 消費税増税前に買っておいたほうがいいものは? ポイントカードはどれがお得なのか? などなど気になる話題が続々。

 本書を読むと、給与明細の細かな見方が分かるようになるし、消費税の政治的な議論についてその背景も知ることができるし、クレジットカードの仕組みも把握することができるようにもなる。知って得するマネー話が満載されていて非常に役に立つ本。とくに、ふるさと納税の意外なお得感の話などは、これまで全く知らなかったので、税金上の有利なところや特産品をもらえる話など、うれしい話がいっぱい書いてあって、挑戦してみようかなと思えてきた。

 ニコニコ動画ならではの視聴者との間の双方向のやりとりもあって、ユーザーアンケートの結果なども載せられていて面白い。ユーザーの27%が給与明細をもらったそばから捨てているという結果が出たり、カードは楽天が圧倒的に人気があることが分かったりと、生活の裏側が赤裸々に分かってしまうところなども楽しい。

 今回この本を読んだだけで、元の講座自体は見たことがなかったので、こんなに面白い講座があったのかと驚いた。今度放送されるときには是非見てみたいと思った。
タグ:山田真哉

シャ-ロック・ホームズの生還 [ミステリ(外国)]


シャーロック・ホームズの生還 (創元推理文庫 (101‐3))

シャーロック・ホームズの生還 (創元推理文庫 (101‐3))




 「シャーロック・ホームズ」シリーズの面白さにも、ホームズの卓越した推理だとか、ホームズとワトソンの友情だとか、当時のロンドンの歴史的な雰囲気だとか色々とあるのだが、事件そのものが想像力を掻き立てられる興味深いものであることは言うまでもない。

 そんなホームズの謎解きの対象となる事件にも、ごく大ざっぱに分けて、3つくらいのタイプがあるといえそうだ。

 1つ目は、オーソドックスな殺人もの。後年の本格ミステリー作家たちが書いているような、殺人事件の謎を解く話である。「金縁の鼻眼鏡」や「ブラック・ピーター」「ボスコム渓谷の惨劇」など。

 このタイプのものは、さすがは探偵の先駆者ホームズという感じで、犯人を追いつめていくロジックが緻密で、些細な手がかりから犯人を指摘していくところが何とも面白い。ときには、冤罪で捕まった依頼者の容疑を晴らす話などもあって、法廷ミステリーのような楽しみ方も味わえる。

 2つ目は、追跡劇とでも呼べそうな作品。盗まれた重要な機密文書の行方をつきとめる話だとか、失踪した人物を探す話など、何かを追いかけるということが目的になった話。「ブルースパーティントン設計書」「フランシス・カーファックス姫の失踪」「スリークウォーター失踪」など。

 このタイプのものは、足跡だとかメモだとかを手がかりに、追跡対象の場所を推理していくところがスリリング。場所を転々としてダイナミックな動きがあるので、こういう話は映画などでもよく使われている。

 3つ目は、依頼者の奇妙な体験から始まる話。事件とも言えるかはっきりわからないような、奇妙な体験が発端になっていて、最初は何が起こっているのかよく分からない。だが、ホームズが事件を解明するうちに、だんだんと大きな犯罪と結びついたり、意外な結末が待っていたりする。「赤毛連盟」「六つのナポレオン胸像」「あやしい自転車乗り」など。

 日常の謎というのに近いのかもしれない。ミステリーというと殺人ものを想像することが多いけれど、こういう小さな謎から出発する作品も面白いものである。冒頭からミステリアスな雰囲気にのまれそうになるし、あれよあれよという間に思わぬところに結びついて行くところなども楽しい。ホームズ短編の中でもこのタイプのものが一番面白いと思う。

 本書「シャーロック・ホームズの生還」は、ライヘンバッハの滝壺に消えたホームズのその後が描かれたという有名な作品集。この短編集の中には、上記した3つのタイプがまんべんなく入っていて、いろいろなタイプの謎ときが味わえるところも見どころ。殺人ミステリーの「ブラック・ピーター」は、犯人特定のロジックが秀逸であるし、追跡ものの「プライオリ・スクール」は、犯人のミスリードが面白い。奇妙な依頼を扱った「六つのナポレオン胸像」は、犯人の奇妙な行動の裏に合理性がひそんでいたというところにしびれてしまう。

 一冊の中にいろいろな楽しみが隠されている短編集で、何度読み返しても面白い本。どの作品も事件の奇妙さが突出しているし、推理も細かにできていて、コナン・ドイルのミステリーの先駆者としての技巧を存分に味わえるおすすめの一冊だ。

プーチン最強講義 [国際]





 もし、ロシアのプーチンが日本の総理大臣のアドバイザーだったら、今の日本に対してどんな助言をすることだろう?

 アメリカ幕府の天領ともいえる日本。だが、アメリカの覇権も衰退し始めていて、今度は隣の中国が新たに勢いを見せ続けている。おまけに、中国は領土問題などをめぐって日本とたびたび衝突していて、圧力を強めてもいる。

 日本はこのままアメリカの天領でいつづけるべきなのか? それとも、新たな超大国中国の属国となるべきなのか? はたまた、真の自立国家を目指すべきなのか?

 そもそも国家の自立とはどうやって成し遂げていくべきものなのだろう? 

 本書に出てくる日本の矢部総理は、こうした疑問を抱え込んだまま、プーチンにところに相談に行く。なにせ、ソ連が崩壊した後の新生ロシアは、欧米の支援なしには存在できない国家だった。「属国化」が進んでいたにもかかわらず、プーチンが登場したあと急成長をはじめ、国際社会の中でも強力な地位を築き、ついに自立を成し遂げてしまったのだから。プーチンほど自立を語るにふさわしい人物はいるまいというわけ。

 プーチンからのアドバイスという形で、国家の自立について書かれていて、経済、エネルギー、食糧、軍事、精神という5つの観点から国家の自立について論じられる。矢部総理とプーチンの掛け合いは、ユーモアあふれるパロディという感じであるが、書かれている内容は非常に内容の濃いもので、深い歴史の掘り下げや各国の思惑、経済予測を踏まえた、鋭い分析がなされている。

 とくに、第二次世界大戦で日本が負けた理由として、第一次大戦後の日英同盟破棄にまでさかのぼり、日本が世界から孤立してしまったことを指摘しているところは、なるほどという感じで歴史を掘り下げていく面白さがある。

 また、エネルギー問題に関しても、原発の危険性と経済的合理性との二項対立のように語られがちだけれども、実はそんなに単純なものではなくて、安全保障の観点からみればエネルギー自給率を見る必要があるということも書かれている。資源の輸入にばかり依存するのではなく、メタンハイドレードの採掘や藻油を利用したバイオ燃料の開発、再生可能エネルギーを組み合わせて、自給率を上げていくことが、外国に依存しすぎないためには必要であるという。

 食糧にしてもエネルギーにしても、たしかに外国に依存しすぎていたら、輸出制限のようなことをされてしまった場合に大混乱になるし、言いたいことも言いづらなるので、外国依存度を少しずつ下げていくことはたしかに大事だなあと思った。

 外交問題、アベノミクス経済、TPP、エネルギー問題、憲法改正など、現在政治をにぎわしている様々なトピックについて網羅的にプーチンのアドバイスという形で書かれていて、非常に興味深い本。書かれていることが全部正しいかは正直わからず、特に経済のことなどは予想のつかないところがあるけれども、筆者なりの鋭い分析が展開されていて、面白くて一気に読んでしまった。国際情勢や政治・経済問題を考えるのに非常に参考になる一冊だった。
タグ:北野幸伯