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猫のゆりかご [SF(外国)]


猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)

猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)

  • 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1979/07
  • メディア: 文庫



 カート・ヴォネガットが描く、寓話的なSF小説。

 フリーランスの作家ジョーナは、広島に落とされた原子爆弾に関する本を執筆するために、要人たちについての調査を始める。取材を続けるうちに、爆弾製造の父である物理学者フィリークス・ハニカーがアイスナインという新たな発明を行ったということを知る。それは、あらゆる物質を凍りつかせてしまう驚異の発明。運命に引き寄せられるかのようにして、カリブ海の小島サン・ロレンゾに集まったジョーナとハニカー博士の子どもたちは、アイスナインのかけらを引き金に、世界的な大騒動をもたらすことに。

 読んでいて、なかなか一筋縄ではいかない小説だった。原子爆弾の取材という割と現実味のあるところから始まるのだけれど、最初のうちは話の方向性が見えなくて、何だろうというようなとまどう展開。アイスナインという謎の物質が出てきたり、サン・ロレンゾ共和国という島に舞台が移ってボコノン教というおかしな宗教がでてきたり。これは一体なんだろうとさらに読んでいくと、終盤話が一気に転がっていって、いろいろな出来事がひとつながりになる。

 この本で描かれているのは、人類に影響を与えるふたつの力、科学と宗教。何でも凍りつかせてしまうアイスナインは、コントロール不能になって世界を滅ぼしてしまいかねない科学の象徴のようなものだろう。ボコノン教は、嘘であることを前提にしているけれども、真実から目をそらせて人々を幸福にしようとする。科学と宗教というものを奇妙奇天烈に描いて、人間の愚かさを徹底的に皮肉にからかってしまう。

 思想やメッセージを声高に叫んだりせず、オブラートに包むようにして、寓話の形で人類の本質を描こうとしている。読んでいて、面白おかしいのだけれども、読み終わった後に面白さ以外のずしりと重いものが残る真摯さが感じられる。

 世界の終りに直面した人々のてんやわんやの大騒ぎを描いたSF作品。ユーモラスであると同時に、人類のはかなさを描いた悲しい作品でもある。

日本の地下水が危ない [社会]


日本の地下水が危ない (幻冬舎新書)

日本の地下水が危ない (幻冬舎新書)

  • 作者: 橋本 淳司
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2013/01/30
  • メディア: 新書



 世界中で水をめぐる争奪戦が起こっている。日本の水資源も例外ではなく、大企業や外国資本が地下水を利用しようと様々な動きを見せはじめている。本書は、主に日本の水資源の利用をめぐる攻防に焦点を当てて、様々な観点から水問題についてまとめた一冊。

 中国などがいい例だが、人口が増えたり経済が発展するにつれて、自国が保有している分だけでは国民の水資源利用のニーズを賄いきれなくなってくる。とくに、もともと水資源が不足していたり、環境汚染の問題のあったりする国であればなおさらだ。グローバル化の時代であるから、水不足に陥った国々は、自然と外国に目を向けるようになり、外国の水を利用してでも水不足を補おうとする。

 その結果起こるのは、国をまたいでの水をめぐる争奪戦。外国の資本が入ってきて、地下水を汲みあげるなどして、水資源を枯渇させたり、周囲の環境を悪化させたりする事例が後を絶たず、世界のあちこちで問題になっている。そして、この流れは日本にもやってきており、外国の企業が日本の森林を買収し、地下水を利用しようとしているという。

 日本の地下水を狙っているのは外国資本だけではない。震災以降、ペットボトル水や水の宅配サービスが活気づいており、水ビジネスを手がける飲料水メーカーなどの業者が地下水利用を加速させているのだ。

 本書を読むと、世界中で水をめぐってさまざまな動きが出ていることが分かり、水資源の動きを俯瞰することができて興味深い。日本の地下水が法整備の不十分なままで危機にされていることや、自治体が環境保全のためにルール作りを開始していることなどがうまくまとめられている。

 日本自体はこれからは人口は減っていくのだろうけれども、世界の人口は増え続けている。人口が増えて資源の足りなくなった世界の国々から見たら、日本の豊富な自然資源はうらやむべき宝のようなもの。どうにかこれを利用しようと、あの手この手で攻めてきてもおかしくない。グローバル化の影響というのは、自然資源の利用というところにまで及んできてしまうのだ。

 その割には、日本の法律は割とおおらかで、外国人でも土地を買うことができるし、土地所有者であれば自由に地下水を汲みあげることが可能である。とくに地下水保全のための厳密なルールがあるわけでもないというので、拍子抜けしてしまった。法整備が足りない分、自治体が条例を作って補っているようだが……。

 本書を読んでいて見えてきたのは、経済活性化と環境保護というふたつの利害が対立する図式である。水ビジネスなどは、最近伸びている分野で経済を活性化させる原動力になっているけれども、あまり行き過ぎると水資源を枯渇させてしまう危険性がある。どちらか一方だけの利益ばかりを考えるわけにも行かない、なかなか一筋縄ではいかない難しい問題なんだなあということがよく分かった。

 利害が対立する中で起こる、様々な紛争の事例や、問題を解決するための巧みな調整のアイデア。経済を活性化させつつ、環境を保全することはできるのだろうか? 日本の水資源利用の将来について考えさせられる面白い本だった。
タグ:橋本淳司

夕凪の街 桜の国 [漫画]


夕凪の街桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街桜の国 (アクションコミックス)

  • 作者: こうの 史代
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2004/10/12
  • メディア: コミック



 「夕凪の街」と「桜の国」という、原爆投下後の広島を描いた2作品を収めた漫画。皆実と七波という、それぞれ異なる時期に生きた2人の女性の視点を通して、広島の人々にとって原爆や被爆というものがどういうものなのかを描いている。

 最初の話「夕凪の街」は、原爆投下の10年後の広島が舞台。市内で働く平野皆実は戦時中も広島にいて、原爆投下後の惨状の中をどうにか生き延び、たくましく生きる女性。日常で楽しいことなどもたくさんあるのだが、何かうれしいことがあるときにふと影のようなものがよぎってしまう。

 それは、原爆投下直後に体験した悲惨な光景。焼けた街を歩いたときの恐ろしい記憶。人々を助けられず、自分だけ生き残ってしまったんじゃないかといううしろめたさがあって、幸せなことがあるたびに過去の記憶に引きずり戻される。

 戦争を生き延びたとしても、病気に苦しんだり、家族を失ったり、トラウマに傷つけられたりして、心から幸福感を感じることができないつらさ。広島の人々の苦しい思いが主人公の女性を通じて伝わってくる。たまたまその時代に生まれてしまったことで、青春を犠牲にされてしまい、思うように生きられないもどかしい感覚。戦争というものは戦時中だけでなく、戦後の人々の人生にまで暗い影を落としてしまうのだ。

 次の話「桜の国」も、時代はさらに後になるのだが、戦後の広島の話で、やはり原爆が後世にまで苦しみを与え続けることが描かれている。

 普段は明るく振舞っていたような人々が実は非常な苦しみを背負っていたり、突然亡くなったりしてしまう。人々の哀しみが伝わってくる、心揺さぶられる2作品だった。

 原爆と戦争の悲劇も、時間がたつにつれて、語る人がいなくなってしまい、記憶が薄れてしまうおそれもある。こういう形で、漫画でもドラマでも小説でも、物語の形にして語りついでいって、風化させないことは大事なんじゃないかと思った。
タグ:こうの史代

DNA [生物]


DNA (上)―二重らせんの発見からヒトゲノム計画まで (ブルーバックス)

DNA (上)―二重らせんの発見からヒトゲノム計画まで (ブルーバックス)

  • 作者: ジェームス・D.ワトソン
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/03/17
  • メディア: 新書



 DNA二重らせん構造の発見をしたジェームズ・D・ワトソンが、遺伝学の誕生から世界に与える影響までを解説した本。

 遺伝子をめぐる研究にもさまざまな紆余曲折があった。メンデルのエンドウを使った研究にはじまり、徐々に明らかになりつつある遺伝子の重要性。二重らせん構造の発見やDNAがたんぱく質を作り出すメカニズムなどが解明されるなど、その驚異の世界が徐々に開けてくる。

 反面、その発見の過程において、遺伝学は遺伝的に優れた人間を残そうという「優生学」と結びつき、人種差別やナチスの思想をおしすすめてしまう。暗い歴史を残すなど、遺伝子をめぐってはいろいろなドラマが繰り広げられて来たことが分かって、意外なドラマティックさ、人間味あふれるエピソードに満ちていることに驚かされた。

 発見のエピソードだけでなく、DNAが世界にどのような影響を与えているのかも詳しく書かれている。DNAは遺伝病の検査や治療に役立つものであるし、人類の進化をたどる手がかりにもなる。法廷の証拠として扱われることもあれば、遺伝子組み換え作物を作り出すこともできる。人々の生活のあらゆる場面で関わりを持っていて、科学上の発見が社会の仕組みを変化させていく様子が見えてきて、非常に興味深い。

 本書を読むと、遺伝のメカニズムや有益性について理解が深まって、これからどんな便利な世界がやって来るのかと楽しみになるのだけれど、同時に、起きてくるであろうさまざまな問題についても考えさせられた。たとえば、遺伝子診断が一般になってくると、妊娠している母親が遺伝子検査をして子供が重大な遺伝病にかかっていたとわかったときに、子供を産むかどうか? といった難しい判断を迫られることがありうる。

 遺伝子組み換え作物の問題もある。害虫予防に、農薬の代わりに遺伝子組み換え技術を使って、昆虫に対する毒素を出すような作物を作るようになったという。筆者はわりと楽観的な立場で書いているけれども、遺伝子組み換え作物が勝手に野生化して広まってしまったら、生態系への影響とかないのかなあと思ってしまった。

 生命の本質にかかわるものだけに、倫理的な問題が次々に生じてきて、これまで思いもしなかったようなジレンマに悩まされるのだろう。テクノロジーの進歩は、人々を新しい葛藤に直面させてしまう。有益さが大きい分、社会への影響も大きく、人生にまで影響を与えてしまうものなんだということを考えさせられる。

 DNAをめぐるそれぞれのトピックについて詳しく解説されていて、とてもためになる本。これから世界がどのように変化していくのかについてあれこれ考えるきっかけになった。神の領域に踏み込んでいくようなところもあって、未知の世界に対する畏怖の念を感じさせられた。

「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか [生物]


「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか―パーソナルゲノム時代の脳科学 (NHK出版新書)

「こころ」は遺伝子でどこまで決まるのか―パーソナルゲノム時代の脳科学 (NHK出版新書)

  • 作者: 宮川 剛
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2011/02/08
  • メディア: 新書



 遺伝子工学の発達により、人間の持つ遺伝子情報が次々に解明されつつある。その結果、外見的特徴だけでなく、性格や知能といった心の性質にも遺伝子が影響していることがだんだんとわかってきた。本書は、こうした遺伝子が脳や心に果たす役割や、遺伝子工学の未来について、基礎の基礎から分かりやすく語った本である。

 もちろん、遺伝子で性格や知能がすべて決まってしまうわけではなく、育った環境にも影響されるのではあるが、たとえば、一般的知能や外向性、言語的推論能力などといったものは遺伝性が高いとされている。

 また、遺伝子パターンのちがいによって心の病気の発症可能性が高まるという研究もある。

 こうした遺伝子の研究がさらに進めば、遺伝子診断によって、自分がどんな病気にかかりやすいのかをあらかじめ知って病気の予防に努めることができたり、自分の性格を遺伝子から診断することができるようにもなるかもしれない。さらには、結婚相手との遺伝的レベルでの相性診断といったことに遺伝子が使われる可能性もあるという。

 まさにSFを地で行くような内容の話で、科学技術の進歩のスピードには驚かされる。映画や小説で描かれてきた未来がもうそこまでやってきているのかと思ってびっくりした。

 遺伝子技術の進歩によっていいなあと思うことはたくさんあって、たとえば、遺伝子治療によって、医療の精度がますます上がっていって病気の治療がしやすくなるだろうし、今まで助かる見込みがなかった難病患者を救うことができるようになるだろう。より便利な世の中がやってくるものといえる。

 だが、反面、遺伝子診断が濫用されることによって、遺伝子による差別が横行することがあるかもしれない。特定の遺伝子を持った人間が、病気にかかりやすいという理由で保険にかかりにくくなったり、会社に入れてもらえなくなったりするかもしれない。

 技術はどんどん進歩するけれども、その結果は簡単には予想がつかず、社会は後追いで試行錯誤していく必要がある。インターネット社会になって便利で快適な社会がやってきたのと同時に、様々な不測の問題が生じてきた。同じようなことが今度は遺伝子の世界で起こるのだろう。わくわくするのと同時に、どんな恐ろしいことがあるんだろうと考えさせられる本だった。
タグ:宮川剛

文明崩壊 [世界史]


文明崩壊 上: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)

文明崩壊 上: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)

  • 作者: ジャレド ダイアモンド
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2012/12/04
  • メディア: 文庫



 マヤ文明、イースター島、北米アナサジ文明、南東ポリネシアのピトケアン島など、かつて繁栄を誇った文明の数々は、なぜ崩壊してしまったのだろう? 歴史上存在した文明の崩壊の経緯をたどるとともに、文明存続のためにはどのような道筋があるのかについて考察した本。

 筆者は、歴史学、考古学、生物学、統計学などの知見を用いて、世界中の文明を比較研究し、その崩壊の過程を緻密に分析した。その結果、文明を崩壊させる要因として、以下のようなものが浮かび上がってきたという。

 それは、森林伐採、土壌問題、水資源管理問題、鳥獣の乱獲、魚介類の乱獲、外来種による在来種への圧迫、人口増大、一人当たり環境侵害量の増加の8つの要因。これまで文明が崩壊してきた例を見ていくと、これらの要素が驚くほど似通ったパターンで影響していることが分かってくる。

 たとえば、マヤ文明でもイースター島文明でも、人口が増加したことにより栄華を極めた人々は、その人口を支えるために森林資源を伐採してきた。森林破壊により土壌が侵食されると、農作物の生産性は低下し、人々はまともに食べることもできなくなってしまう。その結果起きたのは、飢餓や人肉食、戦争などの忌まわしい出来事。こうした例は、文明が崩壊した社会で何度も出てくる共通パターンだ。

 本書を読んで、これまで文明が崩壊した例を俯瞰すると、森林破壊などの環境要因によるところが大きいということが分かって興味深い。よくSFなどで、世界の終りの話が出てきて、疫病の蔓延だったり、隕石の衝突だったり、核爆発などといった劇的な要因で世界の破滅が描かれるけれども、ひょっとしたら実際に世界の終りがあるとしたら、それは、単に環境破壊ということでじわじわと起こるのかもしれない。

 こうした文明崩壊の脅威というのは、過去の文明に限った話ではなく、現在進行形で、現代人にも大いに関係する問題だ。たとえば、本書にはオーストラリアの資源が搾取される例が出てくる。オーストラリアはもともと土地が痩せていることに加えて、外から持ち込まれたウサギたちが繁殖して牧草を食べつくしてしまったり、人々が森林を伐採したりして、自然に回復困難な被害を与えてきた。オーストラリアのような現代の先進国であっても、文明崩壊の危険性からは免れられないのだ。

 人類の文明というのは、脆い存在である自然を基盤にして成り立っていて、非常に危ういバランスを保ちながら維持されている。いくら科学が発達した現代社会だとはいっても、いったん失われた自然を元に戻すことは極めて困難。一歩間違えれば、過去の多くの文明と同じく崩壊の道をたどってしまう。

 文明に対する見方を一変させてしまうようなことが書かれてあって、非常に興味深い本。人類は放っておくと、栄華を極めようとするものだけれども、それは自然資源を搾取するということでもある。考えなしに文明を発達させようとすると、発達しすぎて自滅してしまう。そういう怖いことが起こるんだということが分かっていい教訓になった。