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The Columbo Collection [洋書]


The Columbo Collection

The Columbo Collection

  • 作者: William Link
  • 出版社/メーカー: Crippen & Landru Publishers
  • 発売日: 2010/05/10
  • メディア: ペーパーバック



 外国のテレビドラマ「刑事コロンボ」の小説版。

 「刑事コロンボ」のドラマ自体はすでに放送が終了しているし、主演のピーター・フォークも亡くなっているので、もうコロンボの新作は見られないのかと常々残念に思っていたのだが、なんと小説という形でコロンボがカムバックしてくれた! しかも、作者はコロンボの生みの親である脚本家のウィリアム・リンク。コロンボの世界観が小説の中に見事に再現されている。

 「刑事コロンボ」は、その名の通り刑事もののドラマ。犯人が最初から分かっている倒叙ものと呼ばれるスタイルをとっていて、犯人の目線で事件を描くことで、コロンボにじわじわと追いつめられていくスリルが味わえる。犯人が立てる犯行計画を、コロンボがささいな手がかりから見破っていくロジカルな面白さもあるドラマ。

 本書もドラマと同じく、コロンボの推理が冴えていて、細かな手がかりから犯人の偽装を見破ったり、犯行動機を明らかにしたり、犯人像を推測したり。まさに犯人とコロンボとの一騎打ちという感じで、非常にスリリング。読んでいて、本当にテレビドラマを見ているような感覚になった。

 12の短編が収められた短編集で、犯人の職業もバラエティに富んでいて楽しい。刑事弁護士、催眠術師、ボクサー、軍人など、様々なバックグラウンドを持った犯人たちが巧みな計画を練って、完全犯罪を目論む。

 いくつか面白かったものを以下挙げておく。

 「The Criminal Criminal Attorney」

 刑事弁護士のサンドフォード・バックマンは、レイプ疑惑で刑事裁判にかけられた依頼人の無罪を見事勝ち取る。だが、その記念すべき夜に、バックマンは依頼人をなぜか殺害してしまう。

 無罪にしたばかりの依頼人を殺害する弁護士。その動機が謎めいているところが面白い作品。例によって、コロンボが犯人の過去の秘密を暴いていく。

 「A Dish Best Served Cold」

 イラク戦争から帰還した兵士が、自宅で死亡しているのが発見される。被害者は拳銃で頭を撃ち抜かれていた。自殺との見方が有力な中で、コロンボが犯行現場に被害者以外の人間がいた形跡を発見し、殺人の線を追うことに。

 些細な手がかりから自殺説を否定したり、犯人を罠にかけて心理的に追い込んで行ったりと、コロンボがじわじわと犯人を追いこんでいくところが面白い作品。タイトルは、「復讐はよく冷ましてから食べるとよい料理」、つまり、「復讐はじっくり冷静にするのがよい」という意味だが、本書の犯人は慎重になりすぎて逆に墓穴を掘ってしまう。タイトルがアイロニカルでしゃれていると思った。

 「Trance」

 催眠術師の妻が絞殺されているのが発見される。なぜかコロンボの同僚が犯行現場にいて、催眠状態にかかったような呆然とした様子をしていた。コロンボは被害者の夫に目をつけ、催眠術で殺人を命じたのではないかとの疑惑を向けるが……。

 最後にちょっとしたひっかけがあって、ミスディレクションの面白さが味わえる作品。ミステリーとしてよくできていて、本書の中でも特に面白いと感じた。

 「Murder Allegro」

 日本風のホテルで、著名なバイオリニストの女性が絞殺されているのが見つかる。コロンボは犯行現場におもむくと、その犯行状況の不自然さに頭を悩ませ始める。被害者は空手の達人だったのに、犯人はどうやって犯行を成しえたのだろう?

 この作品は犯人が誰かわからない、本格ミステリーの形式になっている。コロンボが手がかりをたどっていく面白さだけでなく、犯人当ての興味もあって、ぐいぐい読ませる内容。日本文化が事件を解くカギになっているところもよかった。 

 「Photo Finish」

 夫の浮気に気づいた妻が、復讐のために夫を銃殺し、不倫相手の女性に殺人の濡れ衣を着せる。だが、隣人の男が犯人の偽装工作を目撃しており、犯人に恐喝しはじめる。

 コロンボのドラマのパターンのひとつに、最後にコロンボが決め手の証拠をつきつけるというのがある。犯人が犯行現場にいたことを示す物的証拠だとか、犯人がうっかり真犯人しか知らないことを言ってしまうとか、犯罪の重要な証拠が最後に明らかになる。この作品では、最後の決め手の部分が非常によくできていて、意外な盲点を突かれたようで面白かった。

オー・ヘンリー傑作選 [文学]


オー・ヘンリー傑作選 (岩波文庫 赤 330-1)

オー・ヘンリー傑作選 (岩波文庫 赤 330-1)

  • 作者: オー・ヘンリー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1979/11/16
  • メディア: 文庫



 短編小説の名手として知られる、アメリカの作家オー・ヘンリーの作品集。

 どの作品も、人物の悲喜劇が描き出され、ドラマティックな山場があり、ピリッと皮肉の利いたオチが待っている。短いながらも非常にまとまりがよいものばかりで、短編小説の見本のような話がたくさん詰まった作品集だ。

 作風はユーモアとペーソスの入り混じったヒューマンなもの。貧しい生活だったり、病気だったり、親しい者との別れだったりと、様々な困難に直面する人々。彼らはなんとか障害に立ち向かったり、苦悩したりして、それぞれのドラマを展開させてゆく。だが、意外などんでん返しが待ち受けていて、単純にはいかない人生の可笑しみを感じさせられるのだ。

 作者自身が新聞経営をしたり、横領で告発されて逃亡生活を送ったり、獄中で創作活動を行ったりと、波乱の人生を送っていたようだ。オー・ヘンリー自身の人生経験が作風にも多分に影響しているところもあるのだろう。読んでいて、人生を精一杯生きる人々に対する温かなまなざしが感じられる。

 話の舞台は、南北戦争前後のアメリカ南部や、西部の土地、ニューヨークの都市など、オー・ヘンリーが活躍をした19世紀おわりから20世紀はじめにかけてのアメリカ。当時の人々がどのような暮らしや考えを持っていたのか、その世相が反映されているところなども非常に興味深い。

 本作品集の中では、とくに以下のものが面白かった。

 「賢者の贈りもの」

 貧しい生活を送る若夫婦。妻のデラは夫に送るクリスマスプレゼントのお金も工面できずに辛い思いをする。デラは、美しい茶色の髪を切って、かつら店に売ることを考えるが……。

 夫婦の愛情物語。つましい生活のなかで、自らを犠牲にしてでも相手のことを考える、その生き方には思わず感動させられてしまった。この主人公はまさに賢者だなあと思った。

 「改心」

 金庫破りにかけては芸術的な才能を持つジミー・ヴァレンタイン。刑務所から出所した彼は、犯罪稼業から足を洗うことを決意、銀行家の娘との結婚も決まっていた。だが、彼の運命を左右するある出来事が起こり……。

 主人公が出所して新しい人生を送ろうとして、うまくいくかに見えた人生だったが、皮肉な人生の巡りあわせで、良心を試される試練が与えられる。これも自己犠牲のようなところがあって、なんともいい話だった。

 「千ドル」

 叔父の遺言で千ドルを受け取ったジリアン青年。千ドルという金額が中途半端な金額であることから、どのように使ったらいいのか、悪戦苦闘する。青年は最も有益と思われる方法を思いつく。

 意外などんでん返しが楽しい作品。道楽者と思われていた青年の本当の姿が見えてくるところが面白かった。

 「最後の一葉」

 絵描きのジョアンナは、肺炎を患い、生死の淵をさまよっていた。生きる気力をなくした彼女は、窓の外の蔦の葉を数えては、最後の一葉が落ちたときに自分の命もなくなるだろうなどと思い込み、病気を治そうともしない。蔦の葉は一枚一枚と落ちていき、最後の一枚が残るのだが……。

 病気に苦しむ中で、生きる気力を失った主人公が蔦の葉に人生を重ね合わせる。ふとしたきっかけで生きる気力を取り戻し、再び絵を描きたいと思うようになった彼女が、病気に打ち勝とうとする姿には心打たれてしまった。生きること、生きがいとは何かについて感じさせられる傑作。

世界を変えた10人の女性 [伝記(外国)]


お茶の水女子大学特別講義 世界を変えた10人の女性

お茶の水女子大学特別講義 世界を変えた10人の女性

  • 作者: 池上 彰
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/07/12
  • メディア: 単行本



 池上彰が、世界に影響を与えた10人の女性に焦点を当てて、それぞれの人生と世界を変えるに至ったいきさつについて解説した本。

 取り上げられているのは、アウンサンスーチー(政治家)、アニータ・ロディック(女性実業家)、マザー・テレサ(修道女)、ベティ・フリーダン(女性解放運動家)、マーガレット・サッチャー(元英国首相)、フローレンス・ナイチンゲール(看護教育学者)、マリー・キュリー(物理学者・化学者)、緒方貞子(元国連難民高等弁務官)、ワンガリ・マータイ(環境保護活動家)、ベアテ・シロタ・ゴードン(元GHQ職員)の10人。

 それぞれの人物の出身、どのような活動を行ってきたのか、世界にどのような影響を与えたのかについて、池上彰らしい分かりやすい説明がなされている。

 とくに時代背景や地理的な側面についても丁寧に解説されていて、10人がどうしてめざましい活動を行うようになったのか? その理由がくっきりと浮かび上がってくるところは見事。各人物の話と離れて、背景事情だけ読んでいても面白いほどだった。

 ナイチンゲールやキュリー夫人などは伝記などでも有名だが、あまり知らないような人も交じっていて、どんな影響を与えた人なのか興味しんしんで読んでしまった。

 中でも面白かったのは、イギリスの化粧品会社「ザ・ボディショップ」の経営者アニータ・ロディックの話。まさにビジネス界のサクセスストーリーという感じで爽快感があるし、利益を追求するだけでなく、社会貢献活動の面でも目覚ましい活躍を見せていることも分かって、世界にはすごい人がいるなあと驚いた。

 ベアテ・シロタ・ゴードンの話も、日本国憲法の成立の経緯が書かれていて、どのような思いで憲法が作られていったのかが伝わってくる興味深い内容だ。

 池上彰らしい分かりやすい本で、サクサクと読めるけれども、歴史や地理についての記述も豊富で学ぶところの多い本。世界の偉人についていろいろな角度から書かれていて、どんなに評価の高い人にも明暗両面があるんだよということも示されていて、偉人の意外な側面が見られたのもよかった。
タグ:池上彰

知の逆転 [科学]


知の逆転 (NHK出版新書 395)

知の逆転 (NHK出版新書 395)

  • 作者: ジャレド・ダイアモンド
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2012/12/06
  • メディア: 新書



 各界を代表する6人の知性に対して行われたインタビュー集。

 インタビューを受けたのは、DNA二重らせん構造を発見したジェームズ・ワトソン、歴史研究の第一人者ジャレド・ダイアモンド、人工知能(AI)の研究を行うマービン・ミンスキーなど。

 世界有数の頭脳の持ち主である彼らは、現在の社会、経済、科学、医学、文化、教育などについて、どのように考えているのか? そして、これからの世界についてどのようなビジョンを持っているのか? 多岐にわたる分野について、明晰な考えを知ることのできる興味深いインタビュー集になっている。

 第1章のジャレド・ダイアモンドは、精緻な科学的な技法を用いて歴史がどのように変動してきたのかを解明し、「銃・病原体・鉄」「文明崩壊」などの著書は世界的なベストセラーとなった。彼はインタビューの中で、文明が容易に崩壊しうること、漁場の開発や森林の伐採など、自然資源の枯渇の問題は深刻で、人類は「成長の限界」に達しつつあることを指摘する。

 歴史上これまで様々な文明が現れては崩壊していったのだけれど、単に歴史上の出来事として片づけるわけにはいかない。現代においても、文明崩壊の危険性は常にはらんでいるなあということを身に染みて感じさせるような内容だった。

 第2章のノーム・チョムスキーは言語学分野に革命をもたらした人物。彼は資本主義、市場原理の限界について語っている。市場原理というのは、人々が市場システムの中で利益を最大化させようとするものだけれども、それは閉じられたシステムのなかだけの計算に過ぎず、環境汚染だとか金融崩壊だとか、システム外のことは考慮に入れていない。外部性というものが存在していて、環境が悪化するコストなど、社会全体のコストにも注意を払うべきだという。

 ジャレド・ダイアモンドとも共通するような話が出てきて、市場原理主義の最先端を行くようなアメリカにこういう考えの人がいるというのが分かって面白かった。なんでもかんでも市場に任せていたらうまくいくというのは幻想で、民間にすべて任せようとして問題が噴出した例も多い。医療や環境など、規制が必要な分野もあるのではないかと思った。

 第3章のオリバー・サックスは脳科学者。映画「レナードの朝」の原作者で、他にも奇妙な症状を持った患者たちを描いた「妻を帽子とまちがえた男」などの著書がある。彼は、病気に向き合う際に、単に症状だけに着目するのではなく、それぞれ個人の持つ物語に着目することが大事だという。同じ病気でも、個人個人で反応だったり向き合い方が全く異なってくるものだからなのだ。

 オリバー・サックスの本は何冊か読んでいるが、たしかにどれも個人の物語になっているところが魅力。患者たちがどのように病気と対峙するのか、そのドラマが面白いのだが、ただ話として面白いからではなくて治療としても個人物語が重要なのだという指摘はなるほどと思った。

 第4章のマービン・ミンスキーは、コンピュータ科学者で人工知能の研究家。コンピュータはチェスには勝ててもドアも開けられないじゃないかとか、福島にロボットを送ることもできなかったじゃないかとか、ロボット開発の現状について不満を漏らしている。

 人間型のロボットにこだわる必要はないということや、膨大なデータベースを統計的に処理するようなものではなく、子供が学習して成長していくようなコンピュータを開発したほうがいいんじゃないかということなど、人工知能やロボット開発者の中にもいろいろな考えがあることが分かって興味深い。

 第5章のトム・レイトンは、数学者にしてインターネットやサイバーセキュリティの専門家。インターネット社会の将来について語っていて、たとえば教育などはネット化が避けられない分野であろうということを指摘している。

 インターネット社会は店舗というものが必要なくなっていく社会。わざわざ外出してお店やモールなどに足を運ばなくても、いろいろなサービスを受けられてしまう社会。これからどんどんその流れが加速して、教育などほかの分野にまで及んでいくのだろう。便利だけれども、個人個人がどんどん隔絶された社会になっていくのかなと思うと、少しさびしい気もした。

 第6章のジェームズ・ワトソンは、分子生物学者で、DNA二重らせん構造の発見でノーベル賞を受賞した人物。二重らせん発見の経緯や、科学者のあり方について語る。

 科学研究を進歩させるのも個人の要素が重要で、大スケールサイエンスのようなものだけではいけないという、科学研究の裏側についての話が興味深かった。

宇宙兄弟 [漫画]


宇宙兄弟(1) (モーニングKC)

宇宙兄弟(1) (モーニングKC)

  • 作者: 小山 宙哉
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/03/21
  • メディア: ペーパーバック



 南波六太、31歳。弟を馬鹿にされて上司に頭突きしたため、会社をクビになり、就職活動中の身の上だった。ある日、彼は宇宙飛行士の弟から連絡を受け、昔の夢を思い出す。それは兄弟そろって宇宙に行くという子供のころに思い描いた夢――。六太は、JAXAの選抜試験に応募し、宇宙飛行士を目指すことに。

 宇宙を目指す兄弟を描いたヒューマンドラマ。夢をかなえるために過酷な試験に挑む六太の活躍を描く。

 宇宙飛行士になることができるのは、ほんの一握りの人間。宇宙という過酷な環境で精神の安定を保てる人間でなくてはならないし、ロケット機器の故障などに臨機応変に対応できる技術力も必要だ。また、宇宙での科学実験ができる理科系の知識も必須。NASAのクルーと一緒に働くので英語力もなければならない。なにより、他の飛行士と何日も狭い場所に閉じ込められるので、チームの和を乱さない人間であることが肝要だ。

 こうした宇宙飛行士に必要な資質を持っている人材を選び出すために、JAXAはさまざまな厳格な試験を用意している。この作品では、主人公六太の目線を通して、過酷な宇宙飛行士選抜試験の様子が見えてくる。

 かなり緻密に取材がされているらしく、本書に出てくるテストの内容は、実際のJAXAの試験に近い内容になっているそうだ。ロケットを模した閉鎖ボックスに入れられて、グループで数日間すごすくだりなどは、心理的に追い込まれていく感じがとてもサスペンスフル。受験生同士の心理の読み合いのようなところがあって、独特の緊張感があって面白かった。

 こんな試験が行われているのかという試験そのものに対する興味だけでなく、それぞれの登場人物の人間ドラマとしてもとてもすぐれている。兄弟そろって宇宙を目指す主人公だけでなく、他の受験生たちについても、それぞれドラマがあって、フラッシュバックで各人物の過去だったり、宇宙を目指す動機だったりが明らかにされる。群像劇のような趣があって、どの人物も丁寧に描き出されているところがとてもよかった。

 緊迫感があるかと思えば、じーんとくるところがあったり、コミカルなところがあったりと、いろいろな面白さの要素が詰まっていて、目が離せない作品。人類はなぜ宇宙を目指すのかという究極の問いかけにも真摯に答えようとするなど、宇宙開発のあり方についても考えさせられる良質な漫画だと思った。
タグ:小山宙哉

ふたりのロッテ [児童書]


ふたりのロッテ (岩波少年文庫)

ふたりのロッテ (岩波少年文庫)

  • 作者: エーリヒ ケストナー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2006/06/16
  • メディア: 単行本



 夏休みにスイスのゼービュール村の宿泊施設にやってきた9歳の少女ルイーゼ・パルフィー。彼女はそこで、ミュンヘンからやってきたロッテ・ケルナーという少女と出会う。初対面のふたりだったが、不思議なことに、ルイーゼとロッテはうりふたつ。髪型以外はそっくりそのままの外見をしていた。やがて、ふたりは生まれてすぐに別れ別れになった双子であることが分かり……。

 エーリヒ・ケストナーの児童文学の代表的傑作。

 両親が離婚して、父親と母親が双子の一人ずつをそれぞれ引き取ることになったため、子供のころに生き別れになったルイーゼとロッテ。お互いの存在を知らないままに離れ離れに育ったふたりは、お互いの生活を打ち明け合う。そして、まだ見たことがない父母に会うため、こっそりと入れかわって帰宅する計画を立てる。

 双子の入れかわりによって生じる様々な騒動がユーモラスで面白い。双子といっても性格は正反対のふたり。生真面目でしっかり者のロッテといたずら好きで活発なルイーゼ。ふたりが入れかわったために、秘密を知らない周囲の人間はその変化に大わらわとなる。そして、ふたりの行動はやがて周囲の人々にも影響を与えて、変化をさせてしまうのだ。

 離婚した両親を仲直りさせようとする双子の活躍。話ができすぎなところもあるけれども、話が収まるべきところに収まるしっくりする感じは、心地よくもある。児童書ならではの夢のある物語で、読んでいてじんわりとさせられる作品だった。

 両親の離婚と引き離された双子という深刻な題材を扱っているにもかかわらず、コメディタッチで楽しい雰囲気の作品。どの場面を取り出してみても、非常に生き生きとしていて、良い話を読んだなあという気分にさせられる。また何度も読み返したくなりそうな名作だった。

スローターハウス5 [SF(外国)]


スローターハウス5 (ハヤカワ文庫 SF 302)

スローターハウス5 (ハヤカワ文庫 SF 302)

  • 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1978/12
  • メディア: 文庫



 第2次大戦時、ビリー・ピルグリムは、アメリカ陸軍の従軍牧師助手としてヨーロッパの戦場へと渡った。そこではバルジの戦いがくりひろげられ、彼の連隊はドイツ軍の激しい攻撃により粉砕。ビリーは敗残兵として戦地を放浪することになる。戦火の中を仲間とさまよい歩くビリーだったが、やがてその身の上に奇妙な出来事が起こる。彼は突然時間のなかに解き放たれてしまったのだ。自らの意思と関係なく、ビリーは未来や過去にランダムに飛ばされ、自分の人生の場面を行ったり来たりようになってしまう。けいれん的時間旅行者となったビリーは、人生のあらゆる場面を目撃することに……。

 自分の人生の過去・未来を往復する、奇妙な時間旅行をするビリー・ピルグリムの生涯を描いた一風変わった作品。

 筆者のヴォネガット自身が、戦時中にドレスデンで捕虜になっていたときに爆撃にあったらしく、本作はその時の体験を基に書かれている。ドレスデン爆撃と呼ばれるその出来事は、イギリス空軍とアメリカ軍による攻撃で、東欧からの難民も含めた多数の死者を出したというもの。読者はビリーの目を通して、第二次大戦時のヨーロッパの戦況、捕虜としての生活、ドレスデンの激しい爆撃を追体験することになる。

 だが、その悲壮な戦争体験をそのまま描いたのでは、陰鬱なものになりすぎてしまう。そんな考えからか、ヴォネガットは、本作にSFの要素をふんだんに盛り込んで、コミカルな雰囲気を打ち出し、戦争の悲劇を中和するかのような書き方をしている。時間旅行のみならず、空飛ぶ円盤も出てくるし、ビリーはトラルファマドール星に連れて行かれ動物園の見世物になる。

 本書を読んでいて、一番最初にとまどったのは、ストーリーの語り口の珍しさ。時系列通りに描かれず、ビリーの人生を縦横無尽に飛び飛びに行ったり来たりするところだ。戦争の場面があったかと思えば、戦争後の場面に飛んだり、急に宇宙人が出てきたり、子供のころに戻ったりする。これは一体何なのだろうと当惑させられる。

 だが、読んでいくうちに、だんだんとこの主人公の不思議な時間旅行が、中に出てくるトラファルマドール星人のモノの見方に近いことに気づかされる。トラファルマドール星人というのは、地球人とは異なる性質を持った宇宙人で、時間の枠にとらわれない生物。彼らは過去・現在・未来をすべて見通して、あらゆる時間の瞬間を一度に眺めてしまう。過去・現在・未来のあらゆる瞬間は、常に存在し続け、死んだように見えるものも、別んだように見えるだけだと考える。

 本書の読者は、奇妙な語り口にゆだねるうちに、いつのまにかこのトラファルマドール星人のものの見方を追体験することになる。まず、冒頭でビリーの人生の全体像を見せられ、その一連の流れを最初に見渡してしまう。そして、時系列という枠にとらわれることなく、人生の一瞬一瞬のきらめきを見つめていくことになる。

 人生は流れていっておしまいというものではなく、一瞬一瞬のあらゆる瞬間が不滅で、微細に眺めれば永遠の輝きを放っている。そんな人生の見方もあるんじゃないかということを考えさせられてしまうのだ。

 空飛ぶ円盤なども出てきたりして、ユーモラスで空想的なところもあるけれど、描かれている内容は非常に真摯なもので、思索に富んでいるといえるだろう。人生に対する見方にまで影響されそうなくらい深みがあるといってもよく、読み終わって本当に衝撃を受けた。謎めいたところがたくさんあるので、あらためてまた読み返してみたい作品だ。