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そして誰もいなくなった [ミステリ(外国)]


そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 作者: アガサ・クリスティー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/11/10
  • メディア: ペーパーバック



 イギリス、デヴォン州の海岸沖の孤島に招かれた10人の男女。彼らはお互い面識はなく、それぞれに異なる理由で招待を受けていた。そこは、モダンな邸宅が建つきりで他にはこれといったもののない寂しげな島。招待客たちは島に到着するも、なぜか肝心の招待主が姿を見せない。一体何のために島に呼ばれたのか? 疑問ばかりが頭をよぎるが、やがて彼らは、古い童謡のしらべにのって、一人また一人と殺されてゆく。

 ミステリーの女王アガサ・クリスティーの代表作。孤島に閉じ込められた登場人物たちが、何者かによって次々に殺されていくという恐怖の出来事が描かれている。

 犯人は何のために彼らを招待したのか? 犯人はどこに隠れているのか? 犯人は10人の中にいるのか? 見えない犯人の企みがとても怖い作品。童謡に見立てて殺されたり、邸宅に飾られていた人形が、人物が殺されるごとに一体ずつなくなったりするのが不気味だ。

 だんだんと登場人物たちが疑心暗鬼になる様子がうまく描かれている。他の人物の誰かが犯人なんじゃないかと疑って、対立したりするようになるのだ。そして、その緊張感は殺人が重なるごとに高まっていく……。

 強烈なサスペンスのある作品というだけでなく、きちんとミステリーにもなっているところも、推理もののファンとしてはうれしいところ。名探偵が出てくるわけではないが、それぞれの人物たちが被害者でもあり探偵役になっている。殺人事件の際のお互いのアリバイを確認したり、動機や殺害方法について議論したり、あれこれ頭をひねるところが面白い。

 なにより、読者の目を欺くあるトリックが仕掛けられているのは、いかにもクリスティーらしい作品といえるだろう。

 メインの犯人探し以外にも、それぞれの登場人物に秘密が隠されているというのも見所だ。読みすすめるうちに、だんだんと一人一人の登場人物たちのことが分かってきて、その過去の秘密が明かされてゆくのだ。それぞれの来歴だけ取り上げてみても、良質な短編ミステリーを読むような感覚で、たくさんの面白さが詰まった作品だなあと思った。

 あれよあれよという間に、登場人物たちが一人ずついなくなっていくスリリングな作品でもあるし、恐怖のうちにいつの間にか作者にだまされているという巧妙な作品でもある。クリスティーの騙し絵の世界の中でも飛びぬけてよくできている作品といえる。 

ブラッカムの爆撃機 [児童書]


ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

  • 作者: ロバート・アトキンソン ウェストール
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2006/10/05
  • メディア: 単行本



 1943年、英国空軍の無線士ゲアリーは、ウェリントン爆撃機に乗って敵地への出撃に向かう日々を送っていた。乗組員はゲアリーのほかに、天才的な操縦の技を見せる機長をはじめ、5人の個性豊かな面々。ドイツ軍の戦闘機の攻撃をかわしながらの死と隣りあわせの世界だった。その23回目の出撃のときのこと、彼ら乗組員はブラッカムの爆撃機と呼ばれている機体に乗ることになる。その機体は不吉な噂のあるいわくつきの機体……。言い知れぬ不安の中で、ドイツの上空を飛ぶ彼らが遭遇したものとは?

 第2次大戦中のヨーロッパを舞台にした戦争秘話。戦地に赴く飛行士たちの様子が克明に描かれていて、当時の人たちはこんな生活をしていたのかということが分かる興味深い作品。とくに爆撃機内の雰囲気は非常に臨場感があって、本当に主人公たちと一緒に機体に乗っているような感覚さえしてくる。

 空を飛ぶすがすがしさ。それと同時に、いつやってくるかわからない死に対する恐怖。乗組員たちの複雑な空気感や緊張感がひしひしと伝わってきて、戦争の現場がどのようなものかを垣間見る思いがした。

 戦争を描いているだけではなく、不思議な出来事を扱った幽霊物語でもある。主人公の乗ることになるブラッカム機は、飛行士たちを次々に異常な行動にかりたてる不気味な存在だ。機体に乗り込んだ乗員たちの前にもある恐ろしい出来事が起こる。戦争の悲惨さが怨念のように憑りついた飛行機の話で、ただ怖いというだけではなく、どこか悲しさもただよっていた。

 宮崎駿が解説とイラストを描いていて、飛行機マニアということのようで、描かれている飛行機のイラストの詳細さは尋常ではない。おかげで当時の雰囲気がヴィジュアル的にも伝わってきた。

 ウェストールは戦争ものと幽霊ものをよく書いている作家で、本作は彼の得意とするジャンルが融合されていて、その完成度は見事というほかない。戦時中の人間模様が生き生きと描かれた傑作である。

本へのとびら [児童書]


本へのとびら――岩波少年文庫を語る (岩波新書)

本へのとびら――岩波少年文庫を語る (岩波新書)

  • 作者: 宮崎 駿
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/10/21
  • メディア: 新書



 アニメーション作家の宮崎駿が、岩波少年文庫の中から50冊の本を紹介。児童文学の魅力と、本の面白さなどについて語った本。

 「星の王子さま」、「三銃士」、「ファーブル昆虫記」、「西遊記」など、誰でも聞いたことがあるような有名な作品から、「まぼろしの白馬」、「思い出のマーニー」、「ハンス・ブリンガー」といった、これは何だろうと思わせるような本まで、色とりどりの本が紹介されている。読んだことのない本は単純にこんな本もあるのかという驚きがあるし、読んだことのある本であっても宮崎駿の独自の見方で語られていて、こういうところに注目するのかというのが分かって興味深い。

 児童文学というのは、「やり直しがきく話である」というのが筆者の考えで、これから長い人生を歩んでいく子供たちには絶望を語ってはいけない。うまくいかないことがあってもやり直すことができ、生まれてきたのは無駄ではなかったというエールを送るのが児童文学であるということが書かれている。

 宮崎駿のアニメーションにも通じる話で、子供たちが次々に困難に挑戦していく様子をはつらつと描いたジブリアニメは、まさに児童文学の精神が貫かれているのだと思う。実際に、本書には宮崎駿が大人向けの小説よりも、児童文学から影響を受けてきたということも書かれてあって、ジブリファンとして読んでも楽しめた。

 話が児童文学から、読書論、挿絵論、映像論、そして、震災後の日本の社会についてまで話が及び、どんどん話がふくらんでいくところが面白い。世界が経済だったり戦争だったりで破局的な雰囲気の中にあって、どういうふうに生きていけばよいのか、そんな人生観のようなものも語られている。今のような困難な時代にあっては、児童文学の持つ希望の力が必要なんじゃないかとも。

 語られている分量は短かったけれど、児童文学のみならず世界に対する見方についてまで考えさせられる深い内容の本である。紹介された本のなかにいくつか面白そうなものがあったので、ぜひとも読んでみたくなった。
タグ:宮崎駿

脳はバカ、腸はかしこい [医学]


脳はバカ、腸はかしこい

脳はバカ、腸はかしこい

  • 作者: 藤田 紘一郎
  • 出版社/メーカー: 三五館
  • 発売日: 2012/10/20
  • メディア: 単行本



 腸が人間の身体に果たす役割について詳しく紹介するとともに、腸を健康に保つための秘訣を述べた本。

 脳ブームとかで、脳に関する本はよく見かけるけれど、腸に関して力説する本というのは珍しい。筆者は、脳を鍛えるよりも、腸を健康に保つことのほうが重要なのだと述べている。

 腸が果たしている役割というものは重要で、たとえば、脳内幸せ物質であるセロトニンやドーパミンを合成しているのが腸であるし、腸内細菌が身体の免疫力に関わってもいる。腸の健康状態が悪いと、うつ病などの心の病気にかかったり、アレルギー性疾患になったりしてしまうのだそうだ。

 さらに、腸の思考力は脳よりも上だという。腸は勘違いをせず、合理的な判断を下すけれど、脳はすぐに勘違いをしたり欺いたりする。安全でない食べ物が入ってくると、腸はすぐに拒絶反応を出して、下痢をさせたり吐き出させたりするけれど、脳はおいしそうだと感じると無理にでも食べるように仕向けてしまう。長い目で見れば損になるようなことでも、目先の快楽のために、人におかしな行動をとらせてしまうのだ。

 これまで腸のことなど微塵も考えたことがなかったので、本書を読んで、目からうろこがぽろぽろ落ちた。自分が今まで、腸の健康に悪いことばかりしてきたことが分かって、反省してしまった。脳の命令に支配されてしまっていて、腸の健康をまったく考慮していなかったのだ。

 本書の中ほどに、セロトニン不足のチェックテストがついていたので、さっそくやってみたところ、セロトニンが著しく不足していることが判明。どうりで幸せ感が足りないわけだ。

 幸いなことに、本書の中に腸を健康にするための方法がいくつか紹介されていたので、さっそく実践して腸を大事にして、幸せになりたいなあと思った。

 人間社会は文明が発達しすぎて無菌状態になってしまい、これは腸にとってはよくないということも書かれている。養老先生がよく言っている「脳化社会」という話にもつながることで、もっと日本人も自然の中に融和していくことが大事なのかも。腸の話から広がって文明論まで考えさせられる、非常に面白い本だった。
タグ:藤田紘一郎

妻を帽子とまちがえた男 [医学]


妻を帽子とまちがえた男 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

妻を帽子とまちがえた男 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 作者: オリヴァー サックス
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/07/05
  • メディア: 文庫



 脳神経科医のオリヴァー・サックスによる医学エッセイ。

 筆者がこれまでに診た24人の患者たちの不思議な症例が紹介されていて、その謎を探求するとともに、奇妙な症状で悩む患者の姿をあたたかく描き出している。

 人の顔を顔として認識できない音楽家(「妻を帽子とまちがえた男」)、新しい記憶が保持できずに、19歳のとき以降の記憶がぷっつり途絶えてしまっているジミー・G(「ただよう船乗り」)、自分の身体に対するイメージが失われてしまったコンピュータ・プログラマー(「からだのないクリスチーナ」)、頭の中からとつぜんアイルランドの歌が聞こえてくるC夫人(「追想」)、数に対する驚異的な能力と膨大な記憶量を持つ、知的障害の双子(「双子の兄弟」)など。

 奇妙な症例が次々に紹介され、まさに「事実は小説より奇なり」といった内容。読んでいて、世の中にはこんな不思議なことがあるのかと驚かされる。

 症例の謎を解きあかしていく探求の書でもあり、患者を検査するうちに、奇妙な症例の原因がだんだんと明らかになるところは、医学ミステリーとも言えるような面白さだった。

 紹介されている患者たちは、突然今まで当たり前のように持っていた能力を喪失したり、不気味な現象に悩まされたり。おのおの、思わぬ壁にぶち当たってしまう。筆者はこうした患者たちが、障害と戦いながら立ち直っていく姿を生き生きと描いていて、ただの症例解説をこえた人間味にあふれた本になっている。

 奇妙な症例にそれぞれの方法で立ち向かい、どんなにつらい状況でも精一杯生きようとする姿が感動的。奇妙な症例について知りたくて読み始めたつもりが、意外にも人生についてまで考えさせられてしまうような深みのある本だった。

ふりだしに戻る [SF(外国)]


ふりだしに戻る〈上〉 (角川文庫)

ふりだしに戻る〈上〉 (角川文庫)

  • 作者: ジャック・フィニイ
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1991/10
  • メディア: 文庫



 広告会社のイラストレーターとして働くサイモン・モーリーは、あるとき、政府の機密計画への参加を要請される。それは、現代から過去の世界へとさかのぼるという、前代未聞のタイムトラベル計画だった。サイモンは好奇心に駆られて計画に参加をし、100年前のニューヨークへと旅立つが、そこで思わぬ事態に遭遇することに。

 ジャック・フィニイが描き出す時を超えた冒険。

 フィニイは、「ゲイルズバーグの春を愛す」とか「レベル3」とか、時間が交錯するような作品をたくさん残していて、時間旅行ものというとまっさきに思い出してしまう作家なのだが、本作もタイムトラベルがテーマになっている。政府が主導する大規模な時間旅行計画に巻き込まれた主人公の活躍が描かれていて、大作とも言えるようなSFの傑作だった。

 現代から過去への世界へと旅立っていくスリル。過去へ干渉したら歴史はどうなってしまうんだろうという、タイムパラドックスの問題など、タイムトラベルものの面白さがぎっしりと詰まっている。

 ノスタルジックな作風でも知られているフィニイ。本作も例外ではなく、1882年のニューヨークの情景や人々の生活が非常に細密に描き出されていて、本当にその場に居合わせたかのような臨場感で迫ってくる。当時の写真や肖像画まで出てきて、独特な郷愁に満ちた雰囲気が醸し出されていた。

 とくに面白いのは、古い手紙に隠された謎を追うというミステリーにもなっているところ。主人公は、謎の文面が書かれた手紙を読むのだが、その答えは過去に行かなければ知ることができない。主人公はいわば探偵役となって、過去に行われたある犯罪の謎を突きとめることになるのだ。このあたりが、推理小説を読むような感覚で非常に楽しめた。

 タイムトラベルものの面白さとミステリーの面白さの融合。過去と現代を行ったり来たりしながら、冒険を繰り広げる、爽快な小説だった。

こびとの住む街 [写真]


こびとの住む街1

こびとの住む街1

  • 作者: スリンカチュ
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 2013/01/09
  • メディア: 単行本



 ロンドンを拠点に活躍するアーティスト、スリンカチュによる小人の世界をテーマにした写真集。

 ロンドンの風景の一角に小さな人形を置いて、カメラの被写体にして、地面すれすれのところから撮影。小人の目線で世界を捉えている。子供目線とか猫目線で写真を撮る人はいるけれど、小人目線というのは珍しい。借りぐらしのアリエッティやガリバー旅行記のような世界観に、思わず引き込まれてしまう。

 見開きで、左側にヒト目線の写真、右側に小人目線の写真が掲載されていて、そのギャップが面白い。日常的などこにでもあるような風景も、小人の目線から見ると、全くの異世界に見えてくる。

 たばこの吸い殻がベンチになり、マンホールの水たまりがプールになり、雨どいが住処になり、昆虫が怪物になる。スケール感が揺さぶられるような不思議な感覚だ。

 現実の見慣れた風景が、写真に撮ると全然違ったものに見えてくるというのが、写真の面白さのひとつだけれど、本書に出てくる小人写真は、まさに、そうした写真の面白さが発揮された作品になっていて、なかなか観ていて飽きさせない。

 続編もあるようで、今度はロンドンを離れて、世界に飛び出すそう。ぜひまた観てみたいと思ったし、自分でもたまに写真を撮るので、小人写真をまねしてみたくなった。

ゲイルズバーグの春を愛す [SF(外国)]


ゲイルズバーグの春を愛す (ハヤカワ文庫 FT 26)

ゲイルズバーグの春を愛す (ハヤカワ文庫 FT 26)

  • 作者: ジャック・フィニイ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1980/11
  • メディア: 文庫



 ジャック・フィニイという作家が書いた、ノスタルジックな雰囲気のあるファンタジー短編集。

 時空を超えたような奇妙な物語ばかりが集められていて、不思議な味わいのある本。収められた話は、どの話も現代社会が舞台で、話も現実的な始まり方をするのだが、平凡な生活を送る主人公たちの目の前に突然不思議な出来事が起こる。過去と現在が交錯したり、平行世界を行ったり来たりしたり、幽霊が現れたり。日常の中にぽっかりと異世界が現れるところが面白い。

 SF小説とも言えるし、SFでおなじみのタイムトラベルなども出てくるけれども、次空間を超える小道具がコインだったり、古い机だったり、郵便ポストだったりするところが、味があってよいのだ。昔の出来事が現代によみがえったりして、古き良きアメリカの情景が描き出されているところがなんともいえない。

 また、不思議なだけでなくて、不思議な出来事に翻弄される人々の悲哀や人生模様なども垣間見ることができて、人間ドラマとしてもよく書かれている。

 とくに以下に挙げた作品は面白くて、お気に入りだ。

 「ゲイルズバーグの春を愛す」

 イリノイ州ゲイルズバーグの街で、次々に起こる奇妙な出来事。存在しないはずの昔の市街電車が目撃されたり、とつぜん馬車が現れたり。過去の存在が現在に現れて騒動が巻き起こる。

 本短編集を代表するような作品で、まさに過去と現在が交錯するところが面白い作品。

 「独房ファンタジア」

 死刑囚監房で死刑の執行の日が来るのを待つ、メキシコ人の青年ペレス。彼は、死刑執行の予定日の1週間前になって、なぜか独房の壁に油絵具でドアの絵を描き始める。死刑執行の時が迫る中、ペレスの身の上に奇跡がおこる。

 死刑執行を扱った重い雰囲気の話なのだが、最後はなぜかさわやかな終わり方をするすがすがしい作品。なんとなく結末は読めてしまうけれども、描き方が絶妙で、感動してしまった。スティーヴン・キングの「グリーン・マイル」にちょっと雰囲気が似ている。

 「コイン・コレクション」

 主人公のアル・ビューレンは、町を歩いていると、とつぜん奇妙な世界に入り込んでしまう。それは、今までいた世界と似ているけれども、少しずつちがったところのある平行世界だった。

 もしあのときあの場所で、ああしていたら? 人生の分かれ道で別の道に進んでいたらどうなっていただろう? ふとそんなことを考えてしまうことがあるけれども、本作の主人公はまさにそんな別の可能性の世界、もしかしたらあったかもしれない多元宇宙の一つに入り込んでしまう。不思議なだけでなく、人生の岐路ということについて考えさせるところがよかった。

 「愛の手紙」 

 古道具屋で見つけたアンティークの机。その隠し抽斗から見つかったのは、何十年も前の女性が書いた手紙だった。主人公の青年は時間の壁をこえて、その女性と手紙のやり取りをすることに……。

 時をこえたラブストーリー。ノスタルジックで切ない話だった。ときどきこういう作品を見かけるけれども、この作品がその源流といえるかもしれない。

 不思議な話が好きで、年がら年中こんな本ばかり読んでいるのだが、本書は、中でもその代表格みたいなところがあって、どの作品も自分の読みたかったような話ばかりで、完全にツボにはまってしまった。科学的に厳密なハードSFもいいけれど、自分はむしろこういうファンタジックなSFのほうが好きだったりする。

 粒ぞろいの作品集で、どの作品にも幻想風味があってよい。いろんな作家にも影響を与えたんじゃないだろうか。これから何度も読み返したい古典的名作だった。