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評価と贈与の経済学 [経済]


評価と贈与の経済学 (徳間ポケット)

評価と贈与の経済学 (徳間ポケット)




 思想家の内田樹と社会評論家の岡田斗司夫の対談本。

 ポスト資本主義社会における新しい「共同体」と「交易」の在り方について、様々な角度から語っている。

 いろいろな業界で、先が見えない不安感みたいなものが叫ばれ、従来のビジネスモデルが崩れていく時代。貨幣経済に限界があるのではないかという話もちらほら出てきている時代にあって、今後どんな世界がやってくるのかは、これから生きていくうえで、もっとも知りたいテーマのひとつといえるだろう。

 本書はまさに、そのような疑問に答えるような内容で、近未来の社会のあるべき姿、「これからどのような共同体を作っていけばよいのか?」「どんな経済システムができあがっていくのか?」といった点について、ふたりの考えが披露されている。

 キーワードとして出てくるのが、「拡張型家族」「評価経済・贈与経済」というもの。一人で生きていく時代は終わり、他人と共生していく時代になるんじゃないか、贈与をベースにした経済が出てくるんじゃないか、これから大事なのは人柄なんじゃないか、現代人はイワシ化しているんじゃないかなどなど、これまでの社会とはちがった形の新しい生き方について考えさせられる内容。

 これからどんな時代になるのだろうということを考えると、ついつい暗く考えてしまいがちだけれども、本書を読むと、お金はないかもしれないけれどもお金に代えがたいような豊かな世界がやってくるかもしれないという、意外にも明るい内容のことが書かれていて、ほっとさせるようなところもある。

 対談本なので整理されて書かれているわけではないが、読んでいてこれまで持っていた価値観をくつがえすような考えがいろいろと見つかった。これから生きていくうえで、新たな行動指針になったり、考え方の基盤になったりするような、羅針盤になりそうな本。

 ふたりはそれぞれ別の立場にあるので、お互いに意見の合うところ、違うところがあるのだが、議論が進むうちに、だんだんとこれからの社会の全体像が見えてくるところなどは面白い。一方的な議論ではなくて複数の視点から社会があれこれ論じられていて、対談本ならではの緊張感もあってよかった。

丘の屋敷 [ホラー]


丘の屋敷 (創元推理文庫 F シ 5-1)

丘の屋敷 (創元推理文庫 F シ 5-1)




 人里はなれた小高い丘にそびえる一軒の屋敷。建てられてから80年以上たつその屋敷は、邪悪な雰囲気が漂い、人の住めない家として20年も存在し続け、いつしか「幽霊屋敷」と称されるようになっていた。心霊学研究家のモンタギュー博士は、その噂を聞きつけ、〈丘の屋敷〉に泊り込んで屋敷の謎を解明する計画を立てる。同行するメンバーは、ポルターガイスト現象の経験者エレーナ、透視能力を持つセオドラ、屋敷の所有者の甥のルーク。4人は屋敷にやってきて、調査を始めるが、やがて彼らの前で次々に奇怪な現象が起こり始める。

 恐怖小説の古典的名作。幽霊屋敷を舞台に、謎の怪奇現象と対峙する4人の人物の不思議な体験を描く。

 ホラーの分野にときどき出てくる「幽霊屋敷もの」。本書はその原点とも言うべき作品で、たとえば、スティーヴン・キングの「シャイニング」という恐怖小説にも影響を与えたらしく、キング自身も本作を絶賛している。古典と呼ばれるだけあって、シンプルながらも明快なコンセプトがあるし、ただおどろおどろしいだけではなくて人物の心理描写が繊細に描き出されている。

 読んでいて、まず屋敷の持っている異様な雰囲気がとても怖い。建物の内部は迷宮のようにいりくんでいて、あちこちに奇妙な小部屋があったり、光が隅々まで届かず、絶えず薄暗かったり、異常な冷気を感じさせるポイントがあったり。筆者が細密に屋敷の様子を描写していて、背筋がぞくぞくするような不気味な雰囲気が醸し出されていて、こんなところには絶対住みたくないなあという気分になった。

 幽霊屋敷というだけあって、いろいろな怪現象も起こるのだが、怪奇現象そのものはそれほど怖いとは感じなかった。それよりもむしろ、幽霊屋敷に住み込むことによって、だんだんと登場人物たちが狂気にさいなまれていく様子、屋敷の邪悪さがじわじわと人物たちを内側から蝕んでいく感じが恐ろしい。

 とくにエレーナという人物は、もともと不遇な境遇を送ってきた経緯もあってか、幽霊屋敷に来ることがむしろ人生の楽しみになっている側面もあって、だんだんと屋敷の雰囲気に魅了されたようになっていく。エレーナがだんだんと変貌する様子が、巧みな心理描写を織り交ぜながら描かれていて、このあたりの心理描写の見事さが本書の見所だと思った。

 最後に衝撃の場面もあって、最後まで気が抜けない作品。どちらかというと静かな雰囲気があって、仰々しさは控えめなのだが、ひたひたととり憑いてくるようなところがある。一度読んだら忘れられないような、なんとも不思議な味わいの小説だった。

「中卒」でもわかる科学入門 [科学]


「中卒」でもわかる科学入門

「中卒」でもわかる科学入門 "+-×÷"で科学のウソは見抜ける! (角川oneテーマ21)




 アルファブロガーでプログラマーでもある小飼弾が、科学リテラシーの重要性を説くとともに、社会のあるべき姿について独自の見解を述べた本。

 エネルギー問題や軍事技術などがいい例だが、科学というものは社会に多大な影響を与えていて、ときには一般人の生活を脅かすようなことさえある。そんな世界において、専門家の言うことをそのまま聞いていれば絶対安心というならいいけれど、科学者だって間違うことはあるし、必ずしも専門外のことまで知っているとは限らない。科学者も自らおかれている立ち位置によっては、自分に都合のいい主張をすることだってある。

 科学という素養は、科学者だけが身につけていればいいというものではなくて、科学とは畑違いの人間でも身につけておく必要があるんじゃないか? 民主主義の一員として科学の在り方を見守っていく必要があるのではないか? 本書は、こうした科学リテラシーを身につけることの必要性を述べ、じゃあどうしたらリテラシーを身につけることができるのか、そのコツを伝授している。

 本書を読んで、四則計算とか保存則とか、基本的な考え方を身につけているだけで、ある程度科学的説明の真偽を確かめることができるということが書かれていて、こういう考え方をするのかと面白かったが、後半に出てくる社会の在り方についての独自の見解はさらに興味深かった。エネルギー問題や宇宙開発、貧困問題にいたるまで、科学と関連する社会問題について、これまでの道筋や今後のあるべき未来像などが描かれ、広く科学と社会全体との関係についてまでも考えさせられた。

 科学は本来知的好奇心を満足させるための研究の側面に意義があるのかもしれない。だが、研究をするにも資金が必要なので、その研究が社会に役に立つことが要請される。しかし、そもそも科学研究というのは何かの役に立つとは限らないし、後になって初めて役に立つことが分かったりもする。

 科学研究と社会的な要請との間には衝突があって、そして、そういった衝突が、様々な社会問題や政治問題の原因にもなっているのではないかと感じた。実際に生じた様々な問題の実例も豊富に紹介されていて、社会勉強にもなる。こういう科学と社会の抱える矛盾した構図が見えてくるところが本書を読んでいて一番面白いところだった。

 科学の置かれている状況について幅広く書かれている、とてもためになる本。今後科学の話題が出てきたときに、本書に書かれていた枠組みや考え方が参考になりそうだ。
タグ:小飼弾

2円で刑務所、5億で執行猶予 [法律]


2円で刑務所、5億で執行猶予 (光文社新書)

2円で刑務所、5億で執行猶予 (光文社新書)




 刑事政策の専門家である筆者が、犯罪予防や司法制度に関わるおかしな常識や犯罪神話にメスを入れ、事実に即した解決策を提案した本。

 統計データや実験研究に基づいて、犯罪をめぐる様々な政策や制度について、説得的にその実態を分析している。割れ窓理論や防犯カメラの犯罪抑止効果が思ったほどではないことが書かれていたり、無期懲役が終身刑化しているという話など、これまで持ち続けてきた間違った常識を覆してくれるようなところが興味深かった。

 治安の状況の推移、財産犯の被害回復率と起訴猶予率の関係、受刑者の再犯状況などが、統計データで示されていて、犯罪をめぐる様々な状況をチャートなどで概観できて、とても頭がすっきりする内容でもある。

 犯罪者などというと、いかにも凶悪な人間をイメージしてしまうけれども、本書を読むと、実際には身寄りがなかったり、仕事がなかったり、高齢であったりと、社会的に弱い立場にいる人間が受刑者となってしまうケースが多いことが分かる。そして、一度刑務所を出所したあとに、社会に出ようとしても、やはり仕事がなかったり世間とのつながりがなかったりして、再度犯罪を犯してしまうという負の連鎖に陥ってしまうのだ。

 全く別の世界の人間などではなくて、同じような境遇に立たされたら誰でも犯罪者になりえてしまうんじゃないかなあなどと考えてしまった。弱者を切り捨てる社会が犯罪者を生みだしてしまっているとも言える。

 犯罪対策や犯罪者の更正を図っていくにしても、こうしたデータに即した解決策をとらなければ、とんちんかんで意味のない結果がもたらされるだけ。むしろ害悪にすらなりうる。本書は、どんな刑事政策に本当に意味があるのか、どんな刑事司法制度が望ましいのかについてヒントを与えてくれる有益な本だった。
タグ:浜井浩一

厭な物語 [文学]


厭な物語 (文春文庫)

厭な物語 (文春文庫)

  • 作者: アガサ クリスティー
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/02/08
  • メディア: 文庫



 外国の数ある短編小説の中から、「厭な話」というくくりで集められたアンソロジー短編集。陰惨でとても読んでいられないような話や、後味の悪い話ばかりが収められていて、読んでいてとても気が滅入ってくる本。でも、面白い。

 アガサ・クリスティーやローレンス・ブロックといったミステリー作家の横に、フランツ・カフカやオコーナーといった文豪が並んでいたりと、純文学作家、ミステリー作家、SF作家などのジャンルの垣根を越えて作品が収められている。どうしても普段は自分の好みのジャンルのものばかり読んでしまうので、こうしたアンソロジー形式で、いつもは読まないような作家のものに触れられるというのは新鮮だ。カフカやルヴェルの作品などは、今回実際に読んでみて面白かったので、他の作品も読んでみたくなった。

 全部で11作収められていて、中でもお気に入りは以下の4編。

「崖っぷち」アガサ・クリスティー 

 デイマーズ・エンドの村に住むクレア・ハリウェルは、幼馴染のジェラルドのことを愛していたが、ジェラルドはヴィヴィアンという別の女性と結婚してしまう。ある日、クレアは偶然にもヴィヴィアンが不貞を働いている事実を知ってしまい、その秘密をジェラルドに打ち明けるかどうか思い悩む。

 秘密を握ったクレアが、ヴィヴィアンに対する嫉妬や憎悪の念から、すべてを暴露してヴィヴィアンを破滅に追い込んでしまうのか? それとも、誘惑を抑えて良心に従ってそっとしておくのか? クレアの中の揺れ動く心理状態が描き出され、ぐいぐい読ませる人間ドラマだった。クリスティーは推理作家だけれども、人間心理を描くのも巧みで、こういう愛憎劇を書くのが上手な作家だったんだなあと再認識。本書の中でこれが一番面白かった。

「くじ」シャーリイ・ジャクスン

 伝統的に、とある「くじ引き」が行われる村を描いた恐怖譚。「厭な話」の代表格ともいえる話で、「くじ引き」をめぐる不条理な雰囲気がなんともいえずコワい。陰惨な話なのに、村人の様子はいたって淡々としていて、そのギャップがまた恐ろしかった。他の作家などにも影響を与えたのか、これと似たような話をときどき目にすることがある。

「言えないわけ」ローレンス・ブロック

 死刑囚とその死刑囚に殺害された女性の兄とが文通をはじめる。手紙をやり取りするうちに、思わぬ事態となり……。

 サスペンスもので、最後まで目が離せない内容。ああやっぱりというような予測のつく展開だったけれども、最後の最後の後味の悪さまでは予想できなかった。

「うしろをみるな」フレドリック・ブラウン

 偽札の原版作りを生業にする男のクライム・ノヴェル。この作品だけは、「厭な話」というよりも、普通にサスペンス小説として面白かった。ブラックな結末もしゃれていて楽しい。

 本書を通読して、ひとくちに「厭な話」といっても、様々なバリエーションがあることが分かって興味深かった。死に直面することのつらさだったり、人間の悪意の醜さを描いていたり、希望がかなわないことの哀しさだったり。話が面白いだけでなく、「人はどんなことに苦悩するんだろう?」ということについて、あれこれ考えさせられる深みのある本だった。

推定無罪 [ミステリ(外国)]


推定無罪 〈新装版〉 上 (文春文庫)

推定無罪 〈新装版〉 上 (文春文庫)




 キンドル郡地方検事局の美人検事補キャロリン・ポルヒーマスが自宅で殺害される事件が起こる。同僚の首席検事補サビッチは、事件の捜査を担当することになるが、自らキャロリンと愛人関係にあった過去から、やがて、サビッチ自身に殺人の嫌疑がかけられてしまう。次々と積み重なっていく不利な証拠……。命運をわける法廷劇の幕が上がる。

 映画化もされ、ベストセラーにもなった法廷ミステリーの傑作。

 検事補の主人公が、自ら捜査する事件の容疑者になってしまうという皮肉さ。犯行現場から主人公の指紋の付いたグラスが見つかったり、被害者の体から見つかった精液の血液型が主人公のものと一致したり、被害者の衣服についていた繊維が主人公の家のカーペットのものと一致したり、事件発生当日に主人公の家から被害者宅に電話をかけた記録が残っていたり。圧倒的に不利に見える状況で、殺人事件の裁判が始まってしまう。

 法廷ものの面白さは、こういう積みあがった不利な証拠を、ひとつひとつひっくり返していく逆転劇にあるといえるだろう。本作はそのお手本のような出来栄えで、反対尋問で、次から次に検察側の隙をついては、証拠に疑問があることを明らかにしていく。都合がよすぎると思えるようなところもあるけれど、読んでいて爽快感を感じさせる展開だった。

 「真犯人は誰なのか?」という謎解きものでもある。被害者が生前、ある収賄事件の調査に関わっていた事実が明らかになり、主人公がその謎のファイルの存在をつきとめて、被害者の行動を探っていく。だんだんと過去の秘密が明らかになっていくところが、いかにもミステリーという感じで、ハラハラドキドキで面白い。地方検事の選挙戦もからんできて、政治的な裏もありそうで、様々な線が複雑に絡んだ感じが謎めいていて魅惑的だ。

 法廷ミステリーとして緻密でリアルに書かれているうえ、謎解きものとしてもきっちり作られた傑作。続編も読んだが、こちらもさらに面白かったので、この作者のものはこれからどんどん読んでいきたいなと思った。