還らざる道 [ミステリ(日本)]
ミステリーの女王アガサ・クリスティーによると、殺人の動機には3種類あるという。
ひとつめは「金」。単純な強盗殺人のようなものもあるし、保険金目当てで夫が妻を殺すとか、自分に有利な遺言書を書き換えられる前に子が親を殺すといったものもある。利益を得るための殺人だ。
ふたつめは「復讐」。過去に婚約者を殺された女が犯人を殺すとか、密告されて刑務所に入った男が出所後に密告者を殺すとか、財産を奪われた男が略奪者を殺すといった話だ。
みっつめは「秘密」。帳簿をごまかしている人間が事態を知った者を口封じに殺すとか、政治家がスキャンダルの暴露を恐れて脅迫者を殺すとかいった話。
このうち「復讐」と「秘密」については、過去が重要なポイントになっている。過去の悪事に対する復讐、過去の秘密に対する口封じだから。
そのため、ミステリーでは被害者の過去を探っていく話が多い。殺人事件が起こって、被害者が生前にどういう行動をとっていたのかという、過去の行動を追いかけていく。その過程で、だんだんと被害者が殺された理由、過去の悪事、過去の秘密が明らかになっていく。
内田康夫の「還らざる道」はまさにそうした被害者の過去を探っていくミステリーだ。
インテリア会社会長が一人旅のさなか、首を絞められて殺される事件が起こる。被害者は人当たりのいい誰にも恨まれないような人物。なぜ殺されなければならなかったのか? 被害者は何を目的に旅をしていたのか? 被害者の孫娘とルポライターの浅見光彦が真相を追う。
浅見が被害者の足跡を追いかけていくのだが、その過程で被害者の過去がだんだんと浮かび上がっていくという話。派手なトリックを見せるわけではなく、動機を探っていくだけの話なのであるが、これが結構読ませる。浅見シリーズはこういう過去の因縁みたいな話がとてもうまい。
ページを追うごとに、少しずつ情報が明かされていくところがミソなんだろう。だんだんと秘密のヴェールの裏側が見えてきて、好奇心を掻き立てられた。
タグ:内田康夫
2017-05-11 22:38
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