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天使の耳 [ミステリ(日本)]


天使の耳 (講談社文庫)

天使の耳 (講談社文庫)




 警察がやっている事件の捜査は、歴史学者の仕事に似ている。

 歴史学者は数百年前にどんな出来事があったのかを、文献や遺物から再現する。対して、警察は数日前に起こった出来事を、取調べや物証から再現する。時間スケールは異なるが、いずれも過去に起こった出来事を、証拠から再現していくという点では共通している。

 推理小説を読んでいて面白いのも、この過去の再現である。主人公が手がかりを集めて、過去にどんな出来事が起こったのかをあれこれ推理する。闇の中に隠れていた過去が、徐々に浮かび上がっていくところがぞくぞくするのである。

 東野圭吾の「天使の耳」は、交通事故をテーマにしたミステリー短編集だ。交通事故をテーマにしたミステリーというのは、今まであまりお目にかかったことがない。世界的にも類を見ない本なのではないか。

 読む前はなんだか地味そうな話だなというイメージだったが、読んでみたらこれが実に面白い。推理小説の肝である過去の再現が、ここにも出てくるからだ。交通事故の捜査というのも、過去の再現なのである。当事者から話を聞いて、事故がどんなふうにして起こったのかを再現していく。

 交通事故の場合、当事者が事故で死んでしまったり、自分に都合のいいようなウソをついたりするものだ。だから、ブレーキ痕や自動車の破壊状況、はがれた塗料、目撃者の証言などから、推理を働かせていく。このあたりの捜査の進め方を見るのが非常に面白かった。

 ただ、本書に収められている作品は、どれも交通事故の捜査をして解決というような単純なストーリーでもない。どの作品も最後に一捻りしてあって、意外な結末を迎える話ばかり。

 こういうパターンの話かと思わせておいて、実は意外な企みが潜んでいる。しかも、そのずらし方が無理矢理なものではなくて、ずらした後もきちんと整合性があるものになっている。複雑なパズルがカチッとはまるような快感があって、すごいなと思った。

 一番気に入ったのは「分離帯」という作品。真相が分かっても正義が果たされないもどかしさ。社会の制度の隙間にはまり込んでしまった人々の悲哀。どこにでもありそうな事故の話なのに、ゾッとするような怖さを感じた。
タグ:東野圭吾
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