So-net無料ブログ作成
検索選択
前の10件 | -

24人のビリー・ミリガン [伝記(外国)]





 二重人格という話はときどき聞くけれど、なんと24人格も持ってしまった人の実話。

 1977年のオハイオ州で、複数の女性をレイプしたとしてビリー・ミリガン容疑者は逮捕された。この容疑者には、とても奇妙な雰囲気があった。面会人が話をしに行くたびに、話し方や態度ががらりと変わってしまうのだ。弁護士たちが面会を進めるうちに、ビリーの中には複数の人格が存在していることが次第に明らかとなってくる。

 それぞれの人格は、性格や話し方だけでなく、年齢、性別、国籍、得意分野にいたるまでバラバラ。3才の少女クリスティーン、リーダー的存在のアーサー、エレクトロニクスの天才トミー、弁舌さわやかなアレン、暴力と銃専門のレイゲン、レズビアンのアダラナ、絶えず周囲にいたずらを仕掛けるリー、継父の殺害計画ばかり考えているエイプリルなど。

 スポットと呼ばれる意識の舞台に、各人格が交代で現れ、時間を割り当てられるという仕組み。

 困った事態になるたびに、それぞれの得意分野を持った人格が現れて窮地を切り抜けていくというのは面白い。拘束されているときは、脱走の名人トミーが現れて、手錠でも鍵でも外してしまう。相手を説得しなければならないときは、口先のうまいアレンが現れる。暴力に巻き込まれたときにはレイゲンが現れて、相手をねじ伏せてしまう。

 それぞれの人格のキャラクターが際立っていて、チームで活躍していくドラマを見ているような感じで痛快だった。

 とはいえ、人格の交代が思わぬ時に起こったりもするので、トラブルになることが多かったようだ。大事な仕事中に幼い少年の人格が現れて台無しにしたり、犯罪性向のある人格が現れて周囲とトラブルになったり。各人格がやりたいこともてんでバラバラなので、一貫性のある行動をとることもできない。そういう苦労話も語られている。

 奇妙なエピソードが満載で、どのページをとっても実に驚くようなことばかり。人格ってそもそもなんなのかなあとか、誰でも程度の差はあれ人格のゆらぎみたいなものがあるんだろうかとか、人間の脳のメカニズムについてもいろいろ考えさせられた。
nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

世界一簡単な英語の大百科事典 [語学]





 仕事で英語を使うので、英語関係の本をたまに読むのだが、この本はなかなかよかった。

 英語をイラストで解説した本で、たいへんイメージしやすい。

 とくに最初に書かれている基本法則「英語は3つの要素でてきている」という話は有益である。英語の文章には主役(主語)と脇役(目的語)がいて、その間に動作(動詞)がある。どんなに複雑に見える文章でも、せんじ詰めればこの3つの要素でできているという。

 英語を読んでいてつらくなるポイントは、長い文章がつらつらと繋がって、途中でわけが分からなくなることだろう。だが、難解に見えるこうした文章も、枝葉を切り落としていくと、実は単純な3つの要素で成り立っているのだ。

 さっそく本書のやり方で英文を読んでみると、たしかに読みやすい。無意識で考えていたことをうまく言語化してくれた感じ。意識的に3つの要素を探すだけで、英文が非常にクリアに見えてくる。

 他にも完了形の意味とか前置詞の話とかも、とても分かりやすかった。この本は最近読んだものの中で、一番実用的だったかもしれない。

 本好きとしては、最後に載っているお勧め洋書コーナーも楽しかった。こんな本を読んで初めて知った本などもあったので、かなりお得な本だった。
タグ:向山貴彦
nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ゴールデンボーイ [ミステリ(外国)]





 「ゴールデンボーイ」は、スティーヴン・キングの恐怖の四季シリーズの一遍。

 主人公の高校生トッド・ボウデンは、第二次大戦中の古い写真を手がかりに、同じ町に住む老人がナチの戦犯であると見抜く。戦争秘話に目がないトッドは、老人に近づいて無理矢理昔話を聞き出すが、次第にトッドと老人の間に奇妙な関係が築き上げられる。そして、トッドの人生は思いもよらない方向へとねじ曲がっていく……。

 「転落の夏」という副題がついている通り、主人公が真っ逆さまに転落していくダークな話だった。主人公の転落っぷりがひどすぎて、読んでいて辛くなるような話。

 前に一度読んだことがあったのだが、どんな筋だったかすっかり忘れていて、善玉の少年が悪玉の元ナチの老人にだんだんと追い詰められていくサスペンスのようなものだったかなあと勝手に思い込んでいた。でも、実際に読み返してみたら、そんなに単純な話ではなかった。

 むしろ、主人公の少年自体がナチの老人に感化されたのか、もともと素質があったのか、どんどん怪物みたいなものに変貌していくという話なのである。ナチの老人も凶暴さを取り戻していって、お互い似たもの同士みたいになっていく。

 キングが書いているので、とにかく話が面白くて読ませる。ナチの戦犯を追い詰める調査員が登場してスリリングだし、お互いに敵視している老人と少年が、自分たちの身を守るために外部に対して奇妙な共同戦線を張らなければならなくなるというのも皮肉が効いている。

 とはいえ、こんなにおぞましい話はないし、主人公の少年にはなにひとつ共感できないのは残念だった。正直なところ、キング作品の中ではあまり好きな話ではない。

 話がダークなのはいいのだけれど、主人公に感情移入できないと面白さが半減するなあ。そういう意味では、「春は希望の泉」と銘打たれた、同時併録の「刑務所のリタ・ヘイワ―ス」のほうがすがすがしくてよかった。
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ノックの音が [ミステリ(日本)]


ノックの音が (新潮文庫)

ノックの音が (新潮文庫)




 「ノックの音がした」という一文から始まる、星新一のショートショート集。

 主人公がドアを開けると、様々な事件が巻き起こるという話。一遍一遍読んでいくと、「次はどんなことが起こるんだろう」と、楽しみになってくる作品集だ。

 本当に部屋の中だけで話が終始してしまうところがすごい。空間が限定されているのに、意外な出来事が次々に発生。主人公が窮地に追い込まれるサスペンスフルな展開で、かなり読ませる。

 短い話ながらも、毎回サプライズエンディングも出てくる。オー・ヘンリーやヘンリー・スレッサーを彷彿とさせるうまさ。登場人物の意外な正体が分かったり、思わぬ計略が隠されていたり、思わずにやりとさせられる話が多かった。

 星新一だけれど、ほとんどはミステリーだった。「金色のピン」「人形」の2作はホラー風味の作品。どちらも「魔法のランプ」ものというか願いごとを叶える話で、願いごとは叶うのに恐ろしい結末が待っているというブラックな笑いのある話だ。

 久しぶりに星新一のショートショートを読んだ。読み始めは独特の文体が読みづらく感じたのだが、ストーリー展開がひとひねりもふたひねりもしてあって、だんだん話に引き込まれていった。今度はぜひSFショートショートのほうも読んでみたい。
タグ:星新一
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

還らざる道 [ミステリ(日本)]


還らざる道 (文春文庫)

還らざる道 (文春文庫)




 ミステリーの女王アガサ・クリスティーによると、殺人の動機には3種類あるという。

 ひとつめは「金」。単純な強盗殺人のようなものもあるし、保険金目当てで夫が妻を殺すとか、自分に有利な遺言書を書き換えられる前に子が親を殺すといったものもある。利益を得るための殺人だ。

 ふたつめは「復讐」。過去に婚約者を殺された女が犯人を殺すとか、密告されて刑務所に入った男が出所後に密告者を殺すとか、財産を奪われた男が略奪者を殺すといった話だ。

 みっつめは「秘密」。帳簿をごまかしている人間が事態を知った者を口封じに殺すとか、政治家がスキャンダルの暴露を恐れて脅迫者を殺すとかいった話。

 このうち「復讐」と「秘密」については、過去が重要なポイントになっている。過去の悪事に対する復讐、過去の秘密に対する口封じだから。

 そのため、ミステリーでは被害者の過去を探っていく話が多い。殺人事件が起こって、被害者が生前にどういう行動をとっていたのかという、過去の行動を追いかけていく。その過程で、だんだんと被害者が殺された理由、過去の悪事、過去の秘密が明らかになっていく。

 内田康夫の「還らざる道」はまさにそうした被害者の過去を探っていくミステリーだ。

 インテリア会社会長が一人旅のさなか、首を絞められて殺される事件が起こる。被害者は人当たりのいい誰にも恨まれないような人物。なぜ殺されなければならなかったのか? 被害者は何を目的に旅をしていたのか? 被害者の孫娘とルポライターの浅見光彦が真相を追う。

 浅見が被害者の足跡を追いかけていくのだが、その過程で被害者の過去がだんだんと浮かび上がっていくという話。派手なトリックを見せるわけではなく、動機を探っていくだけの話なのであるが、これが結構読ませる。浅見シリーズはこういう過去の因縁みたいな話がとてもうまい。

 ページを追うごとに、少しずつ情報が明かされていくところがミソなんだろう。だんだんと秘密のヴェールの裏側が見えてきて、好奇心を掻き立てられた。
タグ:内田康夫
nice!(11)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

残酷な王と悲しみの王妃 [世界史]


残酷な王と悲しみの王妃 (集英社文庫)

残酷な王と悲しみの王妃 (集英社文庫)




 最近興味を持っているのは、アン・ブーリン。歴史上の人物で、イギリス・テューダー朝の王ヘンリー8世の王妃だ。

 興味を持ったのは、壮絶な人生を歩んだ人ということもあるし、世界の歴史を変えてしまった人でもあるから。

 ヘンリー8世がアン・ブーリンと出会ったとき、すでにヘンリー8世にはキャサリンという王妃がいた。カトリック教会では離婚が認められていなかったので、本来であればアンは王妃になることはできず、愛人という立場に甘んじざるを得なかったはず。

 にもかかわらず、アンは王妃になることを切望し、ヘンリー8世はやむなく教皇にキャサリンとの婚姻の無効を訴えることになる。

 結果は不認可。教皇は婚姻の無効を認めなかった。ヘンリー8世は激怒し、カトリック教会との訣別を決意する。そして、キャサリン王妃との離婚を認める独自の教会を作り上げてしまう。これがイギリス国教会となる。

 ひとりの女性の熱望が、イギリスの宗教を改革してしまった瞬間である。

 しかも、アンが産んだ女児はのちにエリザベス1世として世界に君臨することになるのだから、アン・ブーリンの世界史に与えた影響は相当なものだろう。ひとりの人間が歴史の流れを変えてしまうということが本当にあるのだ。

 王妃になってアン・ブーリンが幸せになったかというと、そうでもない。なにしろ、ヘンリー8世は気まぐれな暴君。ヘンリー8世はアン・ブーリンが男児を生まなかったことに怒り、姦通の罪を着せてアンの首をはねてしまう。

 「残酷な王と悲しみの王妃」という本には、こうしたアン・ブーリンに関する逸話が豊富に書かれていた。

 プリンセスなどというと、華やかなイメージがある。おとぎ話では、王子様と結婚してめでたしめでたしとなるのが普通だ。だが、アン・ブーリンの例にも見られるように、現実の王妃の地位というのはそんなに生やさしいものではなかったようだ。

 政略結婚に利用されたり、暴君の犠牲になったり、ときには暗殺の対象にまでなってしまう。おとぎ話の華やかなイメージとは真逆の、ドロドロした世界が広がっているのだ。

 本書にはアン・ブーリンのほかにも、エリザベス1世と争うことになるメアリー・ステュアートや、ヘンリー8世をも遙かにしのぐ暴君イヴァン雷帝の7人の妻についても書かれている。王妃という立場が華やかであこがれの的である反面、いかに危ういものであったかが分かる、興味深い本だった。
タグ:中野京子
nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ロシア革命史入門 [世界史]





 およそ革命家というのは、並々ならぬ理想を持った人たちなんだろう。暴虐極まる支配者を打倒したい。苦境にあえぐ人々を救いたい。そんな正義感に根ざした人たちなのではないか。

 ロシア革命のときのレーニンもそうだった。

 レーニンが登場したころ、ロシアではロマノフ王朝による帝国支配が続いていた。資産家が貧しい民衆を酷使するという格差社会である。

 当時、ロシアは第一次世界大戦に参戦していた。総力戦が行われ、物資・人員はこぞって戦争につぎこまれる。民衆は物資が不足してますます貧困にあえぐようになったうえ、戦争にまで駆り出されて疲弊していた。だんだん敵国の人間までもが同じような境遇に見えてくる。貧しい者同士が、資本家たちの戦いに巻き込まれて戦っているだけなんじゃないか。お互い犠牲者なんじゃないかと。

 こんな状況の中で、民衆の中から政府に対する不満が噴出はじめる。民衆の権利を保護すべきだ。くだらない戦争はすぐに止めるべきだ。そんな声が聞こえだす。

 レーニンは、そうした民衆の不満をくみ取った。戦争からさっさと撤退して、貧困を撲滅しよう。為政者に対する怒りという民衆のごく自然な感情を踏まえ、崇高な理想を掲げて行われた運動だった。

 レーニンの計画は、地上にユートピアを作ろうという正義が根本にあったのだと思う。

 最終的に、レーニンは革命を成功させる。戦争から撤退し、ロシア帝国は打倒され、世界初の社会主義国家ソヴィエトが誕生する。さあこれでいよいよ理想国家が生まれるのか。民衆は不幸から解放されるのか。

 結局のところ、そうはならなかったのは歴史が示すとおりだ。結局、新政権発足後も物資不足は解消されず、むしろ大飢饉になっていった。物資不足への対応として、レーニンは農民から物資を奪い取り、処刑や弾圧を行った。民衆たちの苦しみは止むことはなかった。

 レーニン亡き後のソ連も同じ。粛清に次ぐ粛清で、独裁国家の道を突き進んでいったのだ。

 なんでこんなことになってしまったのだろう? 当初の理想はどこに行ってしまったのか? ロシア革命の話を聞くと、ついこんな疑問が生じてくる。正義を掲げた人々が変貌し、これまで倒そうとしていた権力者そっくりになってしまう。正しいことをしていたはずなのに、いつの間にやらとんでもないところに行きついてしまう。理想主義が敗北してしまう悲劇がそこにはあると思う。

 広瀬隆の「ロシア革命史入門」は、まさにそうした歴史の皮肉な側面を描き出した本である。レーニンの行動を軸に、ロシア革命がどのような経緯をたどったのかを克明に記している。時代の流れは一筋縄ではいかないということが分かる興味深い本だった。
タグ:広瀬隆
nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

さまよう刃 [ミステリ(日本)]


さまよう刃 (角川文庫)

さまよう刃 (角川文庫)




 東野圭吾の「さまよう刃」は、復讐もののミステリー小説である。

 女子高校生が少年グループによって強姦され、あげくに死んでしまう。犯行時の状況を撮影したビデオをみた父親は、怒りに駆られ、犯人を見つけ出して殺害する決意を固める。

 犯罪の被害に遭ったら、まず警察に相談して犯人を捕まえてもらうというのが、ごく常識的な考えだろう。だが、この本の主人公はそうは考えなかった。警察任せにせず、自分で犯人を捕まえて、処刑してしまおうとする。

 こういう話は昔から人気がある。ニコラス・ブレイクの「野獣死すべし」も息子を殺された男が犯人への復讐を計画する話だった。

 かたき討ちの話が人気があるのは、誰にでも共感できる部分があるからだろう。やられたらやり返す。「目には目を」というやつである。

 警察や司法制度に対するもどかしさのようなものもある。犯人がたとえ警察に捕まったとしても、厳罰に処せられるとは限らない。刑務所に何年かいただけで外に出てくる。とくに少年の場合、少年法で大人よりも軽い処罰で済んでしまう。こんなことでは死んだ被害者が浮かばれない。それなら警察に任せずに自分で復讐したほうがましだという考え。

 復讐ものの小説を読んでいると、こういうもやもやした感情が解消されて、なんだかすっきりするように感じられるのではないか。

 現実にはこういうかたき討ちは認められていない。かたき討ちを認めてしまっては、復讐が復讐を呼んでという収拾のつかないことになりかねない。社会の秩序を保つために、犯罪への対応を国家にゆだね、国家が個人の代わりに処罰を行うということになっている。

 本書の主人公も復讐を誓ったはいいが、警察から追われる立場になり、逃げ回りながら犯人を探さざるを得なくなる。そういう意味で、本書は復讐劇というだけでなく、個人と社会との対立を描いた作品ともいえる。個人の感情としては復讐が正義だと感じられるのだが、社会がそれを許さないのだ。

 読んでいて、刑罰とはどうあるべきかとか、少年法の是非とか、いろいろと社会について考えさせる内容になっている。犯罪の被害者になるというのはこういう気分なのかというのを、感じさせられるようにリアルに書かれてもいて、社会性のある重厚な作品だった。

 テーマ性に優れているし、ストーリーも面白かったのだが、ミステリー部分に関しては少々物足りない。潜伏している人物が携帯電話を使っているのだから、基地局のエリアを調べればおおよその居場所が分かるのになあとか、銀行の出金場所は調べないのかとか、なんだかいろいろ疑問が残るのである。主人公が犯人の場所を知ったのも、関係者による密告だったりするし、ちょっと安直すぎる気がして残念だった。
タグ:東野圭吾
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

サム・ホーソーンの事件簿 [ミステリ(外国)]


サム・ホーソーンの事件簿〈1〉 (創元推理文庫)

サム・ホーソーンの事件簿〈1〉 (創元推理文庫)




 本屋に行くと、文芸コーナーに大量の推理小説が並んでいる。古今東西の名作がずらり。本好きには見慣れた光景であろう。

 推理小説が山ほど並んでいる光景を見て、ふと疑問が浮かぶ。これだけ長い年月をかけて、たくさんの推理小説が書かれているのだから、トリックは使い尽くされているはずである。なぜいまだにネタ切れにならないのか? 

 トリックというものが有限のものだとしたら、だんだん書くことがなくなって先細りにならなければおかしい。にもかかわらず、書かれている数はいっこうに減る様子がない。むしろ盛り上がっているようにも見える。これこそがミステリーといえる。

 実はすでにトリックは使い尽くされたと考えてはどうだろう。実際にミステリーのトリックにはそんなにたくさん原理があるわけではない。例えば密室ものを見ても、不可能犯罪の大家ジョン・ディクスン・カーの密室講義に出てくるトリックでほとんどのパターンがカバーされている。アリバイものにしても、クリスティーがあらゆるパターンを出してしまった。

 つまるところ、ミステリー作家たちは、同じ原理を使って手を変え品を変えて書いているだけなのではないか。それが悪いということを言っているのではない。むしろそこにこそミステリーの面白さの秘密があるように思えるのだ。

 ミステリーで大事なのはトリックだと長らく思い込んでいたが、そうではなくて、ミステリーというのは「トリック ✕ シチュエーション」なのだと思う。トリックの原理自体は有限だけれども、そこにいろいろなシチュエーションをかけ合わせることで無限の可能性が広がる。大事なのは、原理ではなくて見せ方のほう。

 こんなことを考えたのも、ホックの「サム・ホーソーンの事件簿」を読んだからに他ならない。密室とか人間消失とか、不可能犯罪ばかりを集めた短編小説集なのだが、読んでみるとトリックに前例のある作品ばかりなのである。にもかかわらず全く古びた感じがなく、非常に新鮮で度肝を抜かれてしまう。

 その理由は、どれもこれもシチュエーションに工夫がされているから。パラシュートで飛行機から飛び降りた男が落下途中で首を絞められていたとか、何年も昔に埋められたタイムカプセルの中から死後間もない遺体が出てくるとか、サーカスのピエロが衆人環視の下で消失してしまうとか、とびきりの謎が用意されている。

 トリックだけ取り出せばよくあるネタなのだが、シチュエーションと組み合わさることで、新鮮さが生まれる。こんなシチュエーションよく考えるなあと驚くばかりだ。

 ミステリーもマジックと同じで演出が大事なんだと思う。使い古された手でも、見せ方によっては現代性のある作品になる。ホックはそのことを教えてくれる作家だ。
nice!(10)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

新しい文章力の教室 [実用]





 文章の良し悪しはどのように決まるのだろう?

 文章を書く機会は多いのだが、いまだにどうやって書けばいいのかよく分からない。勘だけが頼りである。なんとなく、こんな風に書いたら読みやすいんじゃないかという手探り状態。

 問題なのは、自分の中に確固たる指針がないことだ。書くときのルールが決まっていないから、いちいち迷ってしまうのではないか。

 もっと自分の頭の中にルールを作っていきたいなと思って、読み始めたのがこの本「新しい文章力の教室」である。コミックナタリーの編集長が書いた文章の指南本。コミックナタリーでは、記者たちがこの本と同じ内容の研修を実際に受けてきたというから、かなり実践的といえるだろう。

 トピックごとに添削例が書かれていて、どういう風に書き直すと読みやすくなるのかが、一目瞭然で分かりやすい。

 「修飾語は長い順に」「体言止めは最小限に」「一般性のない言葉の使い方」「指示語は最小限に」「こと・ものは減らすべき」など、たくさんのルールが書かれている。こんなルールもあったのかと、知らないことも多かった。体言止めや、伝聞調(「~という」)、つなぎ文(「~が」「~で」)など、ついつい使いすぎてしまっていたので、自分の悪い癖にも気づかされた。

 早速いろいろなところで実践しはじめたところ、かなり使い勝手がいい。この本を読むと、文章の書き方が頭の中でルール化されるので、どうしたらいいのかという迷いがなくなる。こうすればいいんだよと、後ろから教えてくれるような感じ。

 こういう実用書は一生モノの道具になったりするから侮れない。もっとこういう本をたくさん読んで、自分を鍛えるべきなのかもしれない。
タグ:唐木元
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:
前の10件 | -