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最強の農起業 [ビジネス]


最強の農起業!

最強の農起業!

  • 作者: 畔柳 茂樹
  • 出版社/メーカー: かんき出版
  • 発売日: 2017/06/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 元デンソーの社員が、ハードワークの日々に疑問を持ち、農業への転身を図ったという経験談。農業の経験がないのに、農業経営を始めて、年収2000万円の大成功を収めたというから驚きだ。

 「脱サラして農業経営なんて無謀なんじゃないの?」と一見思ってしまうが、この本を読むとかなり戦略が練り込まれていて感心させられた。

 まず、どんな作物を選ぶかというスタート地点からして、よく考えられている。どの農作物を栽培するのかにも、選ぶ基準がいろいろあるらしい。病気や虫に強いか、どのような気候や土壌に合うのか、ハウス栽培が必要か、収穫や手入れにどのくらい時間がかかるのか、競争相手はどのくらいいるのかなど……。

 たとえば、イチゴは虫や病気に弱く、手入れに手間暇がかかるうえ、ハウス栽培になるので設備投資が大きくなってしまう。いろいろな候補を検討した結果、生産性、競争力、環境条件などを考えると、ブルーベリーがいいんじゃないかということになったそう。

 作物の選別に加えて、養液栽培システムを用いた無人栽培にして労働時間を抑える、観光農園にして観光客が収穫することで収穫の手間を抑える、インターネットを駆使して集客をするなど、いかに楽をして利益を上げるかということを実行しているところもすごい。あくせく死ぬほど働くべしというサラリーマン的な世界とは真逆の発想なのだ。

 こういう生き方もあるんだなあという、新しい働き方の実験を見ているようでとても興味深い内容。

 ビジネス書だの自己啓発書だのに書かれているようなことを、理想的な形で実行した、人生戦略のお手本のような話だ。こういう成功談のようなものは、読んでいて前向きな気分になるところもいい。
タグ:畔柳茂樹
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リベラルという病 [人文]


リベラルという病 (新潮新書)

リベラルという病 (新潮新書)

  • 作者: 山口 真由
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/08/09
  • メディア: 新書



 政治のニュースなどで、「リベラル」「保守」という言葉をよく耳にするけれど、これがとても分かりづらい。

 どうも「リベラル」の意味が地域によって違うらしいのである。

 ヨーロッパでは王権からの解放という歴史を反映してか、「リベラル」というのは(古典的)自由主義のことを指す。個人の自由を尊重し、国家ができるだけ介入しないほうがいいという立場だ。

 これに対して、アメリカの「リベラル」というのは社会自由主義のことを指す。国が介入して社会福祉政策をとったり、社会的マイノリティーを支援したりすることをよしとする立場だ。自由は大事だけれど、自由放任にすると問題が生じることもあるので、国が介入することも必要という考えになる。

 ちなみに、日本の「リベラル」というのは上記のいずれとも違っていて、曖昧模糊としていて、正直なところ、どういう意味で使われているのかいまだに理解できていない。だから、日本の政治の議論などで「リベラル」という言葉が出てくるとなんのこっちゃよく分からなくなる。

 「リベラルという病」という本を読んだら、上記のうちアメリカの「リベラル」について丁寧に整理されていた。

 アメリカでは「リベラル」と「保守」というのが、様々な社会問題を読み解く上でとても明確な指標になるらしい。格差社会、差別問題、銃規制、同性婚、他国への軍事介入など、重要な政治社会問題が、「リベラル」か「保守」かという価値観の違いに大きく左右されるのだ。政党としても、リベラル派の民主党と保守派の共和党という二大政党として分かれている。

 タイトルが「病」となっているのは、最近になって、マイノリティーに関しての「リベラル」の運動が過激になってきていて、行き過ぎなんじゃないかという問題が出てきているからだ。著者がアメリカで生活していたからこそ分かるような事例がたくさん書かれていて、アメリカがこんな風になっているのかと興味深かった。「リベラル」も正義を貫きたいという善意の運動なんだろうけれど、あまり極端になってくると怖いなとも思う。

 アメリカも元をだどれば、イギリスから独立して自由を勝ち取った歴史があるわけで、権力に対する不信が根本にあるとも言える。だから国家による介入を認めない「保守」の勢力が一定数あって、銃規制は実現しないし、福祉政策も弱くなるし、「リベラル」に対する反発や軋轢はこれからも出てくるのだろう。
タグ:山口真由
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お金2.0 [経済]


お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

お金2.0 新しい経済のルールと生き方 (NewsPicks Book)

  • 作者: 佐藤 航陽
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/11/30
  • メディア: 単行本



 「お金2.0」という本が話題になっていたので、読んでみた。

 最近話題になっているビットコインを始め、シェアリングエコノミー、評価経済、ベーシックインカムといった、経済の新しい流れについて書かれている本だ。

 一読して、十分に理解できたとは言いがたいのだが、おおよそこういうことなんだろうかという自分の勝手な理解を、備忘録としてメモしておこう。

 そもそも、お金というのは何で必要なんだろう? 生きていく上で必要な物やサービスを交換するのに、物々交換では具合が悪い。物々交換では物と物との価値をいちいち比較して取引しなければならず、非常に時間がかかる。そうこうするうちに、食べ物などは腐って価値が下がってしまう。

 物やサービスの価値をいったんお金というものに換算してしまえば、物やサービスを素早く市場に流すことができる。得たお金でいつでも好きなときに別の物を買えばよい。つまり、お金というものは、価値を保存したり交換したりするためにあるのだ。

 お金の有用性の高さから、資本主義社会では、とにかくお金をたくさん持つことがいいことだということになる。金持ちになることがゲームのゴールになっていった。

 ところが、最近になってこのゲームのルールが変わりつつあるらしい。ルールが変わってきた原因となっているのが、新しいテクノロジーの発展、ネット社会の発達、仮想通貨の誕生などだ。

 今までは、物やサービスの価値を交換したり、保存したりするのに、お金に換算する必要があった。でも今では、お金以外の選択肢も出てきていて、仮想通貨に換算したり、お金に換えないでも価値そのものをネット上で保存・交換できるようにまでなってきた。

 交換できる価値の幅も広がっていて、個人の評価のようなものまで世界規模で可視化され、取引されるようになった。評価の高い人は広告塔として収入を得たり、仕事の機会が増えたりする。個人のブロガーやユーチューバーが、お金を持っていなくても評価が高ければ、様々なチャンスを得られるといったことも、実際の例として見聞きする話だ。

 つまり、お金をたくさん持っていることが重要だった世界から、評価をたくさん集めていることが重要な世界にシフトしつつあるということ。お金というもののありかたが根本的に変わってしまって、資本主義の前提が覆りつつあるわけで、これって歴史的に見ても結構凄いことなんじゃないだろうか?
タグ:佐藤航陽
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イニシエーション・ラブ [ミステリ(日本)]


イニシエーション・ラブ (文春文庫)

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

  • 作者: 乾 くるみ
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/04/10
  • メディア: 文庫



 乾くるみの「イニシエーション・ラブ」という本を読んだのだが、ミステリーと分かっていたのに、騙されてしまった。

 読後、何が凄いのか分からず、インターネットの解説を見てようやく合点がいった。なるほど、そういう構造になっていたのかという驚き。

 読み返してみると、うまく騙すために工夫をしていることがよく分かる。と同時に、真相につながる手がかりもきちんと書かれていて、なかなか巧みな作品だ。

 こういう本を読むと、人間の脳の働きが見えてきて面白い。どうも人間というのは、事実の断片を与えられると、勝手に隙間部分を埋めて、ストーリーに仕立てあげてしまうものらしい。

 ミステリー作家は、こうした人間の持っている性質をうまく利用しているのだろう。読者に事実の断片を与えて、頭の中にストーリーを吹き込む。この話はこういうストーリーなんだよと、読者を誘導する。でも、実際にはそのストーリーは、読者の注意を真相からそらすために作られた偽のストーリーに過ぎない。裏面では、真相となる別のストーリーがこそっと進行しているのだ。

 ミステリーというのは二重構造になっていると言える。真相となるストーリーと、偽のストーリーとの二重構造に。偽のストーリーが魅力的で、真に迫ったものであるほど、真相を知った時の驚きは大きくなる。

 「イニシエーション・ラブ」もまた二重構造のミステリーだ。偽のストーリーの語り口がとても自然だったから、他のストーリーが隠れているとはつゆとも思わなくなってしまう。しかけのある小説として、よくできていると思う。
タグ:乾くるみ
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労働法はぼくらの味方 [法律]


労働法はぼくらの味方! (岩波ジュニア新書)

労働法はぼくらの味方! (岩波ジュニア新書)

  • 作者: 笹山 尚人
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/02/20
  • メディア: 新書



 日本の民法は、1804年に制定されたナポレオン法典が土台になっている。フランス革命の後、ナポレオンの時代に作られたナポレオン法典は、当時の時代の要求を実現するためのものだった。従来の絶対王政の下では、王様の権力が絶大で、取引を行うにも王様の許可が必要だったし、財産の所有も自由ではなかった。

 ナポレオン法典は、こうした絶対王政下での封建体制を打破し、自由な経済活動(取引の自由、財産権の自由)を認めようという法律だ。国家は市民間の取引に介入しないという「夜警国家」の考え方がとられ、近代社会の時代が始まることになった。

 自由な経済活動が始まって、絶対王政からの制約からは解放されたものの、新たな問題も生じてきた。取引の自由と言っても、契約というものは対等でないことが多い。例えば、労働契約においては、労働者は働かないと生活できないので、使用者の要求に従わざるを得ず、使用者の立場がどうしても強くなってしまう。これがエスカレートして、過酷な現場で、奴隷のように長時間働かされるなどという事態が生じてしまった。

 こうした民法の弊害、自由な経済活動の弊害を是正するために生まれたのが「労働法」である。立場の弱い労働者の権利を守るための制度が定められている。

 岩波ジュニア新書の「労働法はぼくらの味方」は、こうした労働法制定の経過を踏まえた上で、労働法がどのような形で労働者の利益を保護しようとしているのかを噛み砕いて説明している。読んでいて、こんなに分かりやすい労働法の本はないんじゃないかと思える内容だ。

 アルバイトで働く真吾君が叔父さんの弁護士に、アルバイト先で起こった法律問題を相談するというケース研究の形式で書かれているので、内容がとても身近で取っつきやすい。弁護士とのやりとりを通して、労働法の制度が分かってくるというしかけ。

 実際にどのように労働法を活用すればいいのか、どこに相談すればよいのかまで書いてあり、まさに手取り足取り教えてくれる充実した本だ。
タグ:笹山尚人
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移動都市 [SF(外国)]


移動都市 (創元SF文庫)

移動都市 (創元SF文庫)

  • 作者: フィリップ・リーヴ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2006/09/30
  • メディア: 文庫



 この前読んだロマノフ家の本とか、歴史の本を読んでいると、人類というのは権力闘争ばかりしてきたんだなあということがよく分かる。

 今だってそうだし、これからも人間は権力闘争を続けていくのだろう。未来になってテクノロジーが進歩したからって、人間の本質が変わるとは思えない。むしろ、せっかく手に入れたテクノロジーも権力闘争の道具として使ってしまうのが人間の性なのだ。

 未来の予言者ともいうべき、SF作家たちも大方同じような考えのようだ。SF小説では未来都市や宇宙を舞台にした戦争が描かれることが多い。

 最近読んだ「移動都市」という本も、未来の戦争の話だった。ただ、この本はどんな本よりもぶっとんだ世界観ではあるが……。

 ポスト・アポカリプスもので、終末戦争後の世界を描いた「マッドマックス」とか「ナウシカ」みたいな話である。

 常軌を逸しているのは、単に世界が荒廃しているだけでなく、人々が「移動都市」と呼ばれる場所に住んでいること。「移動都市」というのは、文字通り移動する都市のことで、ロンドンとかの町がまるごと機械仕掛けで動く仕掛けになっている。しかも、移動するだけではなくて、都市同士が生き物みたいに食ったり食われたりするのだ。食われた都市は、分解されて食ったほうの都市の部品にされてしまう。この世界観だけで、おつりがくるくらい読んでいて面白かった。

 やはり権力闘争がストーリーの根幹をなしている。世界を支配するには、強大な力が必要だということで、SF小説では「デス・スター」とか「巨神兵」とか、強力な兵器が物語のキーになることが多い。本作でも「メデューサ」という兵器が登場し、この兵器をめぐる追いかけっこのストーリーになっている。

 ロンドンの移動都市に住む孤児トムが、巨大な陰謀に巻き込まれて奮闘するという冒険活劇。ジブリのアニメを思わせるような物語で、読んでいてワクワクするような本であるとともに、遠い未来で争いを続ける人間の哀しさも伝わってくる作品だった。
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ロマノフ家12の物語 [世界史]


名画で読み解く ロマノフ家 12の物語 (光文社新書)

名画で読み解く ロマノフ家 12の物語 (光文社新書)

  • 作者: 中野 京子
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/07/17
  • メディア: 新書



 人間には権力欲というものが備わっているらしい。どんどん上のほうに行きたい。権力を握って、他人を支配したい。歴史の本を読むと、そういう権力欲にとらわれた人々がたくさん出てくる。

 権力を手に入れるためなら、どんな非人道的行為も辞さない。親が子を、妻が夫を、弟が姉を殺してでも、権力を勝ち取る。そんなおぞましいと思えることが、古代エジプトでも、ローマ帝国でも、中世ヨーロッパでも、日本史でも、呆れるほど似たパターンで繰り返されてきたのだ。

 ロシアでも同じパターンが現れている。「ロマノフ家12の物語」を読むと、権力欲にとりつかれた人々の血塗られた歴史が見えてくる。

 世継ぎ問題などで権力の座が揺らぐと、ライバルたちがうごめく。熾烈な競争が行われ、身内を殺してでも権力の座を奪おうとする。権力の座が手に入った者は、今度は疑心暗鬼に陥る。周囲の怪しい人間は逮捕して、拷問して、殺害する。だが、やがて新たな世継ぎ問題が勃発し、またまたライバルがうごめく……。この繰り返し。
 
 悲劇の連続で読んでいて楽しい本ではないが、興味深い人物が次々登場する。貧しい小作人の家から生まれて女帝にまで上り詰めたエカテリーナ1世、あのナポレオンのフランス軍に勝利したアレクサンドル1世、日本とも馴染みの深いニコライ2世など。名前は知っていたけれど、こんな人だったのかと、理解が深まった人もたくさんいた。

 上を向いて生きてきた人間たちが、栄光をつかむはずが、なぜか予想外の悲劇に終わってしまう。そんな運命の悲哀が描かれていて、読み応えのある本だった。
タグ:中野京子
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星新一/1001話をつくった人 [伝記(日本)]


星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

  • 作者: 最相 葉月
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/03/26
  • メディア: 文庫



 星新一というと、ショートショートで有名だが、星製薬の2代目ということでも有名だったそうだ。

 星新一の父親星一が創業した星製薬は、日本でも有数の大製薬会社だった。日本で初めてモルヒネの国産化に成功したのも星製薬だ。

 日清戦争に勝利して、台湾を領有していた日本は、台湾での阿片吸引の習慣にどのように対処するかという問題を抱えていた。後藤新平の発案で、阿片をすぐには禁止せずに、まず台湾総督府専売局の管理下に置いて、既に阿片患者となっている者のみに阿片吸引を認めるという漸禁政策がとられることになった。

 そして、星製薬はこの台湾総督府専売局からモルヒネの独占的な製造権と、インド、トルコ、ペルシアから台湾への阿片納入権を得たため、大きな利益を収める。その後、コカインやキニーネの生産にも成功し、世界的な製薬会社となる。

 ところが、星製薬が横浜で保管していた阿片をロシアに販売した行為が、台湾の法律に違反するということで、星一は起訴されてしまう。

 警察や政財界、他の製薬会社からの圧力も加わり、星製薬は苦境に立たされる。金融機関からの融資も受けられなくなり、事業の継続も困難となっていった。

 どうにか会社を整理して、事業を再開させようと奮闘する中で、星一が脳溢血で亡くなってしまう。星新一が星製薬の2代目として取締役に就任したのは、そんな苦しい状況の中でだった。

 会社のことなど何もわからないのに、いきなり重責を追わされてしまうのだから、恐ろしい話である。社内政治にも巻き込まれて、嫌な目にもたくさん遭っていたらしい。次第に何もかも嫌になって、欝々としている中で出会ったのが外国のSF小説で、次第にその魅力にとりつかれていったという。

 「星新一/1001話をつくった人」という本を読むと、星新一の知られざる姿が見えてくる。星新一というと、ユーモラスな印象があったけれども、作家になる前はこんな苦労話があったのかということが分かって興味深かった。

 もちろん、SFショートショート誕生秘話も描かれている。

 SFというのも、今では当たり前のように広まっているが、当時はほとんど見向きもされなかったのだとか。純文学が隆盛の時代で、娯楽として読むとしても推理小説くらいだった。どうやってSFを普及させるかということで、かなり苦労があったようだ。

 そんな中で、日本SF界のパイオニアとして白羽の矢が立てられたのが星新一だった。星新一を国産SFの第1号としてどう売り出していくか。江戸川乱歩などが戦略を練っていく裏話も読んでいて非常に楽しい。

 もともと星新一が好きだから読んだのだが、それ以前に評伝としての書き方が非常によい。詳細なエピソードが満載で、ずいぶん取材したんだろうなということが分かる力作。評伝かくあるべしといったような、読み応え抜群の本だった。
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ファインダーズ・キーパーズ [ミステリ(外国)]


ファインダーズ・キーパーズ 上

ファインダーズ・キーパーズ 上

  • 作者: スティーヴン・キング
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/09/29
  • メディア: 単行本



 ピート・ソウバ-ズ少年の家は破綻寸前で、両親の喧嘩が絶えない毎日だった。父親が暴走車に激突されて足に障害を負っていたので、働きに出ることができない。生活は小学校で働く母親の収入に頼らざるを得なかったが、その収入も市の政策によって減少。一家の貯金は底を突きかけていた。

 あるとき、ピートは近所の川辺の土砂崩れ跡から、埋められていたトランクを見つける。トランクの中には大量の札束とノートが詰め込まれていた。

 ピートはトランクの発見を誰にも明かさず、お金を匿名で自宅に送り始める……。

 トランクの中から大金が見つかるという話は、よく映画や小説のテーマとして出てくるけれど、キングが書いているので、ひと味違う。実はこのノートはアメリカを代表する作家ロススティーンの未発表原稿で、犯人がロススティーンを殺害して奪い取ったものだった。やがて物語はこのノートを巡る争奪戦となっていく。

 読んでいて思ったは、キングは登場人物の心理を描くのが非常にうまい。地の文の中で登場人物たちの心の動きを巧みに描いている。殺人者の歪んだ心理、徐々に追い詰められていく少年の恐怖が見事に表現されている。

 こういう人物たちの心の動きにまで入り込めるところが、映画にはできない小説の醍醐味だろう。人物たちの思いがまざまざと伝わってくるから、人物たちに思わず感情移入してしまう。この本の中では、章ごとに犯人と少年と視点が入れ替わる形で書かれている。追う者と追われる者との間の切迫した心理戦が見もの。とくに事態がエスカレートして、収拾がつかなくなっていく恐怖が絶妙だ。

 どうしてなのかよく分からないのだけれど、最近のキング作品は一時期よりも読みやすくなって、面白さも増している気がしている。この本なんか、読み始めてから本を置くのが辛くなるくらいに夢中になって読んでしまった。キングの書き方が変わったのか、翻訳がよいのか、何なのかなあ?
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グローバル・ジャーナリズム [国際]


グローバル・ジャーナリズム――国際スクープの舞台裏 (岩波新書)

グローバル・ジャーナリズム――国際スクープの舞台裏 (岩波新書)

  • 作者: 澤 康臣
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/03/23
  • メディア: 新書



 報道記者などというと、特ダネを独占しようと奮闘しているイメージがある。他社よりも早く情報をすっぱ抜く。そんな仕事だと思っていた。

 だが、最近では報道のあり方にも変化が見られるらしい。情報を独占するのではなく、むしろ他社の記者とも連携してひとつの事件を追いかける。世界中の記者たちのネットワークを活用して国際スクープをものにする。そんな「グローバル・ジャーナリズム」という手法が始まっているのだという。

 この手法を用いた報道で、世界の注目を集めたのが「パナマ文書」のニュース。タックスヘイブンの匿名法人の秘密を露呈させ、要人たちの租税回避や資産隠しを暴いた報道だ。

 もともとはドイツ、ミュンヘンの有力紙である南ドイツ新聞に、匿名の告発があったことがきっかけだ。2.6テラバイトにも及ぶ極秘データを提供したいとの申し出だった。

 南ドイツ新聞としては、このデータを自社の独占スクープとして用いることもできたはずである。だが、あえてそうしなかったのは、データがあまりにも膨大で1社だけでさばき切れなかったということもあるし、データ対象地域が全世界に及んでいたからということもある。データの裏付け取材のためには、世界各地で取材をする必要があり、現地メディアの助けが必要だったのだ。

 南ドイツ新聞からの呼びかけで、世界中の報道記者たちが結集し、「パナマ文書」の報道に向けた極秘裏の取材を開始する。ドイツ、フランス、イギリス、中南米、アジア、アフリカ、日本のメディアが国際的なネットワークを形成した。

 十分な取材が終わるまで時機を待ったうえで、彼らは一斉に「パナマ文書」報道を開始する。世界中のメディアが一斉に報じたことで、強烈なインパクトがもたらされた。南ドイツ新聞1社だけでは、このような旋風を巻き起こせなかったかもしれない。世界の注目を一手に集めることができるというのも、「グローバル・ジャーナリズム」の強みなのだ。

 岩波新書の「グローバル・ジャーナリズム」を読むと、こうした報道の新たな潮流を知ることができて興味深い。社会のグローバル化に合わせて、報道もグローバル化せざるを得ないのだろう。

 グローバル・ジャーナリズムの手法を活用した様々な事例が紹介されているが、特に面白かったのは、イタリア・マフィアがアフリカに進出して、「血塗られたダイヤモンド」による資金獲得をしていたという話。公権力からの情報提供さえ難しいアフリカで取材をする記者たちの苦労話が描かれている。

 ジャーナリズムの基本は、事実を丹念に確認していくこと。どんな人間でも記憶違いや間違いはあるのだから、言っていることを鵜呑みにしてはいけない。ひとつひとつ裏づけをとっていくことで、報道はより真実に近づくことができる。本書に出てくる記者たちは、そんなジャーナリズムの精神に乗っ取った取材活動をしていて、読んでいて輝かしく見えた。
タグ:澤康臣
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